Thursday, March 25, 2010

米国のソーシャル・セキュリティ・ベネフィット

24日付のNYタイムズに、気になる記事。

Social Security to See Payout Exceed Pay-In (New York Times, 3/24/10)

ソーシャルセキュリティの支給額が納付額を上回ることになるのは、予定より7年も早まって、今年からそうなるらしいんである!

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アメリカのシステムに詳しくない方のために、簡単に説明する。

ソーシャル・セキュリティの給付というのは、要するに、リタイア後に国から受け取る年金のこと。米国で仕事する者は全員、ソーシャル・セキュリティ番号を付与されて、その番号に対してせっせと給与から毎回タックスの形で天引きされ、積み立て続ける。

ソーシャル・セキュリティ・ナンバー(SSN)を持っている者には全員、毎年、誕生日近くなると、関係省庁からステートメントが送られてきて、これまで自分のSSNには毎年いくら積み立てられて、引退後はいくらもらえる予定なのか、ということが明記されてくるんである。

支給開始の時期は、62歳から70歳までの間にどの年齢から受け取るかを自分で決められる。

※ もらう時期を早くすれば毎月払い込まれる額は当然少なくなる。下のグラフは66歳で月額1000ドル支給される人が、支給時期を早めたり遅らせたりしたら、月々の支給額がどれぐらい変わるかを示した表↓ (Source: Social Security Online)




引退者への支給額(=Outlay)は、現役で仕事しているひとからの納付額(=Revenue)から払うようになっているため、【Pay As You Goプログラム】と呼ばれている。

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記事によると、1980年代からこれまで米国では、Revenueとして入ってくるキャッシュフローの方が、Outlayとして出てゆくキャッシュフローを上回っていたおかげで、その差額の累積約$2.5兆ドルが貯金されている状態である。

昨年度の米国政府の見積もりでは、Outlay > Revenue という状態が始まるのは、2017年から、ということになっていた。

ところが、(1)失業増大で給与からSocial Security Taxとして引かれるRevenueが縮小、さらに(2)リタイア時期を早めるひとが増えてOutlayが前倒し、という事態が起こり、連邦政府がもう一度計算してみたら、Outlay > Revenue という状態は今年にも始まってしまう、というではないか。

下の画像は、左が昨年の見積もり、右が今年の見積もり。(Source: NYT)




政府によるプロジェクションの詳細数字は、こちら

会計上の取り扱いとしては、支給額を上回った納付額は「保有米国債」という勘定に入れられ、そこからペーパーゲイン(実際のキャッシュを伴わない会計上の収益)の「金利収入」が発生する。今年のようにOutlayがRevenueを上回っても、その差額はこの金利収入が埋める格好になり、金額的にはカバーするに十分、とのこと。(あくまでも会計上は。)

政府によると、ソーシャルセキュリティ用の「貯金」が底を尽くであろう年は2037年と去年推計された。(その前は2041年とされていた。)

これらのプロジェクションに去年用いられた前提は、2009年の失業率が8.2%、今年が8.8%。

(だが現実には失業率は10%に近い数字のため、2037年がさらに近未来へと前倒しされる可能性は払拭できないですな・・・。)

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1980年代の初頭にも、ソーシャル・セキュリティ・プログラムはクライシスを迎え、当時、アラン・グリーンスパンが指揮を取り、プログラムの建て直しを図った。

70年代の経済不振が尾を引いて、同プログラムは破綻寸前になっていた。その解決策には、①増税、②支給減額、③国庫からカネを引っ張ってくる、の3つしかなかった、とグリーンスパンは振り返る。政治的にもっともやりやすかったのは③だが、それをやってしまうと同制度はただの福祉に成り下がるとの懸念が出され、③はあきらめた。

(ウィキによると、このとき、短期的にRevenueを増やすために高所得者層に支給額への課税を行い、また、彼らへの支給時期についても半年間遅らせるなどして、乗り切ったとある。まさに「綱渡りのキャッシュフロー作戦」。)


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以下、NYT記事から。

After that, demographic forces are expected to overtake the fund, as more and more baby boomers leave the work force, stop paying into the program and start collecting their benefits. At that point, outlays will exceed revenue every year, no matter how well the economy performs.

(政府見積もりで2014年と2015年に一時的にキャッシュフローがポジティブになるが)その後は、ベビーブーマー達が納付する側から支給される側にどんどん振り変わってくるために、米経済がどんなに好調になっても、支給額が納付額を上回る状態が続くようになる。

記事は、こうも書いている。

Analysts have long tried to predict the year when Social Security would pay out more than it took in because they view it as a tipping point — the first step of a long, slow march to insolvency, unless Congress strengthens the program’s finances.


アナリスト達はソーシャル・セキュリティの支給額が納付額を上回る年は転換点(a tipping point) になるとみなして、どの年にそれが始まるかを予想しようとしてきた。それが始まるということは、このプログラムの財務を強化してやらないかぎり、長期に渡り、ゆっくりと、破綻へと向かい国が歩を進める、その第一歩となるからだ。


連邦予算を扱うCongressional Budget Officeによると、その記念すべき「第一歩」は、今年なのだという。

80年代にグリーンスパンらが迫られた3つの選択。

それらを再び持ち出してきて、思案を重ねねばならぬ時が、予定外に早く到来したようだ。


Related Articles: http://www.theatlanticwire.com/opinions/view/opinion/Can-We-Save-Social-Security-2983

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