Friday, February 25, 2011

「エキゾチック」なETF、その名は「FactorShares 2X」

高レバレッジを掛けて指数や為替や商品の組み合わせでロングポジションとショートポジションを同時に取り、ブルとベアのスプレッド・トレーディングで利益を得るという、ヘッジファンド的手法を取り入れたETFプロダクト『FactorShares』が登場した。具体的には次の5種類:

a) FactorShares 2X: S&P500 Bull/TBond Bear (NYSE Arca: FSE)
b) FactorShares 2X: TBond Bull/S&P500 Bear (NYSE Arca: FSA)
c) FactorShares 2X: S&P500 Bull/USD Bear (NYSE Arca: FSU) 
d) FactorShares 2X: Oil Bull/S&P500 Bear (NYSE Arca: FOL)
e) FactorShares 2X: Gold Bull/S&P500 Bear (NYSE Arca: FSG)



プロダクトの詳細はこちらへ:FactorShares: Frequently Asked Questions

それぞれのファンドは、毎日リバランス、レバレッジ4倍、マネージメント手数料0.75%、その日限定のリターン+200%/-200%でマッチ、オーバーナイト以上保有すればこのマッチのレンジから歪むため、基本的にはデイトレーダーにしか向かない商品と言える。上記FAQにも、この商品は「for sophisticated investors」つまり「一般初心者向けではない」という断りがいちおう書かれてある。しかし、普通にETFの一種なので、買いたいなら誰でも買える

ロイターのFelix Salmonは、こんなマネーゲームの極みのような高リスク投資商品を、何故一般個人投資家の手の届くところに置くのか、儲かるのはこの商品をマネージして手数料稼ぐスポンサーだけではないか、SECやNYSEは一体何をやっているのだ、と手厳しく批判している。



(フェリックスの記事から引用) 

ETFs looked like a good idea when they started replacing index funds. But the more that this kind of thing happens, the more of a bad name they’ll have. Let’s hope regulators wake up and shut this scheme down, and lots of similar ones too. People who buy these things aren’t “sophisticated investors”; they’re really not investors at all. If they want to gamble, there’s always Vegas.

ETFはインデックスファンドの代替として登場した頃は悪くないと思えた。しかし、この手のシロモノが増えてくればくるほど、ETFには悪い評判がつきまとうようになるだろう。規制当局が眠りから覚めて、この手のスキームやその類似品を取り締まるように期待しようではないか。こういった商品を買う人達は「投資に熟練した」人々なんかではない。彼らは「投資家」とすら言えない者達だ。ギャンブルがしたければ、ラスベガスは常にどこかにあるということか。

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実は筆者も、2008年から2009年にかけての金融危機たけなわのころ、『Ultra Short』と呼ばれる高レバレッジをかけてセクターのショートポジションを取るETFを触った経験がある。信じられないリターンで舞い上がったと思ったら、瞬く間に信じられないロスを出して揺れ落ちる、というまるで石川さゆりの「天城越え」の歌詞さながらの激しいボラティリティで、私も取引時間中に何度か顔から血の気が引いて正直怖いと思った記憶がある。

これらは買ってから売るまで極めて短い期間で取引するためのETFであって、インデックスファンドのように売りのタイミングを逃しても辛抱強く長期間寝かせておけばなんとかなるような、そういうシロモノではない。UltraShortも上のFactorSharesと同様に、毎日ストラテジーがリセットされる短期売買用のETFだ。

だが、ETFであるかぎり「誰でも買える」ものなので、それぞれのETFの詳細もよく理解しないまま高リターンに引かれて買ったものの、2009年3月に底をつけた以降も、レバのかかったショートポジションをジーと持ち続け火傷を負った「熟練していない」個人投資家が相当数いたのではないかと筆者は想像する。そう思うのは、2010年に入ってから、米国の証券ブローカー会社各社は、「ウルトラショートは長期投資には向きませんのでご注意ください。」という【(なにをいまさらな)お知らせ】を個人顧客に送付し出したからだ。


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日本と米国のETF市場について、先日Twitter上で、わざわざデータを調べて教えてくださった方がおり、そのやり取りは、トゥギャッターにまとめておいたので参照されたい。(Many Thanks to @eonia_soniaさん)

eonia_soniaさんに頂戴した情報によると、

  • 日本にETFが登場した2001年の年末時点での本邦ETF純資産残高は9000億円であったが、2010年末時点では3倍の2.6兆円となっており、昨年末と比較しても14%ほど成長している。しかし、ピークとなった2006年末の4.1兆円の水準には回復していない。
  • 本邦のETFの銘柄数については、2001年末が9銘柄であったのに対し、2010年末には85銘柄と増加している。また、来月には100銘柄となるファンドが上場されることが発表された。
  • 米国の状況については、純資産残高が2001年末で830億ドル、2010年末では9920億ドル、ETF上場数が2001年末では102銘柄、2010年末では929銘柄となっている。純資産残高については、2008年末に純減となっただけであり、順調に増加している。

世界に8千銘柄ETFがあるとすると、銘柄数では10%以上は米国にある、ということですね。でも、残高ベースなら、米国ETF市場はグローバル全体の10%どころではないのではなかろうかと推測。

そしてここに来てのコモディティ高である。コモディティ取引に経験や馴染みがなくても、ETFで気軽にゴールドやシルバーや農作物の市場に参加して値上がりに便乗することが実際可能だ。

やや古いデータで恐縮だが、昨年10月のBarronsの記事によると、金取引の業界団体World Gold Councilの発表で、2010年7~9月の四半期中にETFを経由して買われたゴールドは28.3トン、また、ゴールドのETFによる期末保有残高は合計2070.1トンで、着実に数字を伸ばしているそうである。(グラフはゴールドの価格過去1年)




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米国では、いまや機関投資家/個人投資家の別を問わずETF投資は極めてポピュラーになっており、市場関係のTV番組や雑誌などを眺めていても、個別株の話題よりETFの話題の方が増えているような、そんな気もしているくらいだ。

しかしポピュラーになればなるほど、冒頭で紹介したようなワケわからんETFも増えてきて、またそれに気軽に乗っかる個人投資家も増えてくる。

無論、投資家層の裾野が広がることは悪いことではないけれど、2007年のクレジットバブルの爆発直前の最終フェーズでは、富裕層の個人投資家がこぞってCDOやCDOスクエアのような「プロ仕様のエキゾチックなビークル」に食指を伸ばしていた事実も、頭の片隅にいちおう残しておきたいと思う。

FactorSharesシリーズが、この先、個人投資家の間でUltraShort並みの人気を博するかどうか、気をつけて見ておこう。

※腐ったCDOを個人投資家に売り付けて、あげくのはてにエクイティ部分をまとめてIPOしたりして、後日SECに訴訟されたが無罪放免になった元ベアスターンズのアセットマネージャーの顛末は、2009年11月12日付けMHJ記事『ヘマな投資は「犯罪」ではない』(3回シリーズ)を参照ください。

2 comments:

株とETF said...

とても魅力的な記事でした!!
また遊びに来ます!!
ありがとうございます。。

TrinityNYC said...

>株とETFさん
コメントありがとうございます。はい、また是非寄ってください。