日本では亀井金融担当大臣が、モラトリアム法案を通すとか息巻いているそうで。
で、モラトリアムのせいで中小金融機関のほうに悪影響が及んだら、それも国がなんとかしてあげる、とか言ってるそうで。
さらには、日本で家族間の殺人が増えてるのは大企業のせいだとか、アメリカ型経営が悪いとか、吼えてるそうで。
いやはや・・・(呆れて言葉続かず)。
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この日本発のニュースを読みながら、筆者は頭の中で、「国は違えど、似たようなアホンダラ政治家はいるものよのぉ・・・」と思っていた。
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というのも、アメリカにも、バーニー・フランク(Barney Frank、マサチューセッツ選出、民主)という名の下院議員がいて、彼の提案している『クラムダウン法案(Cramdown Proposal)』が波紋を呼んでいるんである。
クラムダウンとは、要は、リスケすること。現在アメリカの裁判所には、個人破産を申請したひとの財産の一部にあたる持ち家にローンが残っている場合、そのローンをリスケジュール(=Rescheduling、融資条件を変更・緩和すること、以下リスケ)する権限はない。
現行の法律では自己破産すると持ち家は没収されてフォークロージャとして整理清算の対象となるわけだが、実際に本人が住んでいる持ち家(Primary Residence)の場合は、フォークロージャに追い込むのじゃなくて、その家に残っているローンをリスケしてやって返済負担を軽減してやれるような法改正をしようという声が、サブプライム危機が社会問題化してきた一昨年あたりから一部の政治筋を中心に盛りあがってきていた。
このアイディアの旗振り役になってきたのが下院のフランク議員。彼は、裁判所に権限を与えて(つまり、金融機関側から融資条件決定や変更の権利を剥奪して)、貸出金利低減や期間延長などの条件変更および元本ヘアカットなどを決めさせよう、と言ってるんである。
『クラムダウン法案』は、これまで2回、議会の審議に持ち込まれているが、2度とも上院で否決されている。
だが、つい数週間前の9月半ば、フランク議員は「住宅ローンの条件緩和プログラムを政府が作ったのに、金融機関はあまり利用していない。公的資金で資本援助もしてやったのに、積極的に貸出しを増やそうという姿勢も見せない。
フォークロージャの増加に歯止めがかからないのは、金融機関がやる気ないからだ。金融機関が重い腰を上げるのを待ってるよりも、裁判所に権限与えて緩和条件を決めさせて、金融機関は裁判所の決定に従ってもらう、そういうやり方のほうが効果がある!」と述べて、昨年春にくじかれた『クラムダウン法案』の復活をにおわせた。
こうした動きに対して、モルゲージバンカーズ協会や金融機関らは「冗談じゃない!」と血相変えてワンワン反対している。
そりゃー、反対しますよね。裁判所でどんな条件になって出てくるかわからないんだから。それでなくてもリスク高いと考えられている住宅ローンのポートフォリオ全体の不確実性がさらに高まって、ポートに内在するリスク量の計測がいま以上に困難になるんだもん。
フォークロージャでポートフォリオから腐った部分を外してしまうことは、最終的な損失額は大きいかもしれないが、ダラダラと腐り続けるのを先延ばししてポートに持ち続けているより、経済的にはいいことがある。
それに、とどのつまりは、雇用市場が悪化してて、モルゲージローンの【支払い原資】、すなわち【給料】が不安定だってときに、月々の支払いを多少軽くしてやったって、そういう借り手は、再びすぐに延滞するに決まってんだから。そうなると、またまた「不良」に逆戻り。
銀行からしてみたら、裁判所の命令で不良債権をバランスシート上に持ち続けていなくちゃいけないという意味になりますからね。反対するのは、あたりまえ。
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このフランク議員、一介の弱小議員なら無視してればいいんだろうけど、彼は80年代初頭からずっと現職を勤めてるベテランで、(ちょっとハチャメチャな強烈キャラが受けて)一般有権者からは結構人気があり、
下院の金融機関に関する問題を話し合う諮問機関 Financial Service Committee の委員長でもある、という米政界の重鎮である。彼が委員長を務める委員会では、現在、金融規制をテーマに議論を進めてる。
亀井さんもそうだけど、なまじ影響力のあるベテラン政治家だってところが、始末悪い。
そして、
往々にして、この手の政治筋による金融市場介入は、【ロジック】よりも【政治的思惑】や【ポピュリズム】が優先されるから、「有権者保護」という御旗のもとに、さんざん市場規律に横やり入れて、挙句の果てが、財政負担という重しになって(保護されるはずだった)納税者にコストが戻ってくる、そういう例が多いよな。
前回のMHJ記事で紹介したFederal Housing Administration(FHA)も、そのいい例である。
前回の内容だけだと、FHAってずいぶんズサンなことやってたのねー、と思われるかもしれないが、FHAの財務内容というのは、実は2005~2006年ごろまでは、持ち家の一軒家のみ対象で投資用物件は対象外という絞込みと政府機関ゆえのスクリーニングや手続きの煩雑さも手伝って、けして良くはなかったが、そんなにひどくもなかった。最初から低所得者などのリスク高めの借り手を相手にする公的機関なので、民間銀行のプライム融資全体の延滞率よりも悪かったが、民間が出してるサブプライム融資全体の延滞率よりはマシ、という“まあまあ”な状態であった。
実際2007年7月のFHAのフォークロージャ率は、民間金融機関が出すサブプライム融資のフォークロージャの半分にとどまっていた。FHAのトップは、政府機関といえども市場規律を経営に持ち込んで徴収するプレミアムに借り手のリスクに見合わせて差をつけることを検討したい、とまで言っていた。
それが、急に財務内容が目立って悪化を始め、もう手遅れと思わせるまでドツボにはまりだしたのは、2007年の後半からサブプライム問題が社会問題として表面化し、政治筋が何とか手を打とうと動き出し、延滞している債務者の救済のために「政府機関であるFHAを利用しよう」という動きが活発化して以降、である。
2007年8月、当時のブッシュ共和政権は、急速に広まりつつあるサブプライム延滞と予想されるフォークロージャの増加に対処するため(だが、本音のところでは、翌年の大統領選を意識して、共和政権を継続できるかどうかという政治的にもっとも重要なタイミングでホームレス増やすわけにいかん、という政治的思惑が働いて)、「FHA改革」と称して、FHAの保険対象拡大策を打ち出した。
このとき、フランク議員を筆頭に民主側は、ブッシュのやり方は手ぬるい、ファニー、フレディやFHAなど準政府機関が設定している「貸出上限」を引き上げろ、と要求した。いちおう表向きは「市場寄り」を自負してたブッシュ政権は、さすがに、それやると民間による貸出のクラウディングアウトに繋がるからと反対。さらにフランクは、FHAの手続きをもっと簡素化して申請しやすくしろとプレッシャーかけたが、FHAのデフォルトリスク上昇を懸念する共和党サイドが難色を示し、このときは彼の主張は通らなかった。
しかし、2008年に入ってからも住宅価格の下落が続いて問題は大きくなるばかり。ブッシュ政権は、サブプライムの借り手救済策をさらに拡大すべく、一年後の2008年の夏には、フレディら政府系の貸し出し上限を大幅に引き上げ、さらに、金融機関が担保価値を現在の市場価格まで償却し元本を低減させてリファイナンスするならばフォークロージャになりかけてる借り手でもFHAが保証を出してあげるという条項が含まれた
The American Housing Rescue and Foreclosure Prevention Act という法案が議会を通過。
このときも、政界の一部では、FHAが高レベルのリスクテーキングをすることに懸念を示し、こんなことを続けていたらFHAを閉鎖する結果につながりかねないと心配する声もあったが、フランク議員は、そうした懸念に対して、
こんな言葉を吐いて一笑に付した。
”The only way the program could jeopardize the agency is if none of the 500,000 borrowers expected to be helped by the program repaid their loans.”
「このプログラムがFHAの経営地盤を揺るがすような事態が起こるとしたら、それは唯一、このプログラムから援助を受けるであろう50万人の借り手が誰ひとりとしてローンを払わなくなるときだ。」
50万人の借り手が“全員”ローン返済しない状況?全員デフォルト?延滞率100%?ありえねーだろ、そういう数字。フランクのおっさん、実にメチャクチャなこと言って、強気振り回していたんである。
そして、オバマ政権に移行してからも、住宅市場の状況はご承知のとおり。
オバマ就任直後の2月、現政権は
Making Home Affordable (MHA)というプログラムに着手して、実質的にはブッシュ時代に始まっていた援助内容をレベルアップし、政府のリスクテーキング姿勢をさらに一歩進めた。
現在、フレディ、ファニー、FHAら政府系の支援付の住宅ローンの借り入れ可能額は、最高72万9750ドルである。
でもね、73万ドルっていったら8千万円相当ですよ。仮にこれがLTV=80%だとすると、一億円の家買うのに政府の援助付けてもらえる、という意味ではないか。
73万ドルの借り入れ元本を、期間30年で、年利5%で計算すると、月々のローン返済額約4000ドル。これに車のローンだの、クレジットカードの返済だの、学生ローンだの、借金ぜんぶあわせた額が税前収入の55%を超えてると政府プログラムは使わせてもらえないそうである。
だけどさ、仮に毎月1万ドルの税前収入がある家族(年間12万ドル)がいたと想定して、そこから所得税を払い、月々5500ドルの借金(うち4000ドル住宅ローン)もキチンと返すとなると、住宅ローンの金利から生まれる税効果を考慮したとしたって、生活費(光熱費込み)として手元に残るのは、一週間650ドルあるかどうかってぐらいだよ。失業保険が週400ドルかそこらなんだから、年収1千万円以上あっても、実際の生活は失業保険の手当てより少々マシってぐらいでしょ?でも、妻と子供が二人いたら、そんなもんじゃこの国で生活できんだろが??ということは、そういうひとたちは、ふたたび借金地獄に戻ってゆくのである・・・。
(怖いのは、Economy.comによると、全米のホームオーナー5100万世帯のうち、約3分の1にあたる1600万世帯が、月々の借金返済が税前キャッシュフローの55%のライン超えちゃってる、という話。情報は
ここ。)
もっと現実的なケースを想定して、仮に住宅ローン分が税引き後の収入の3分の1にあたるとして逆算すると、これだけの住宅ローンを払い続けることができるひとは、年間25万ドルの「安定収入」を期待できるようなひとじゃないでしょうか。でも、年収25万ドルのひとは政府支援を受ける対象にならんでしょ。
政府支援の対象者で、かつ、月々4000ドルもの住宅ローンを今後もずっと払い続けることができるひとって、どこの誰? そういうのを、Irrational Behavior(非合理的行為)というんじゃないでしょうか。Irratiobal Behaviorを支えてあげるために、我々の税金使う。
だから、政府のやることは、ズレてる、ってんである。
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政府プログラムが刺激となって住宅市場の下支えになるハズだったが、雇用がこのザマでは、どうしようもない。
刺激どころか、前回のMHJ記事で書いたように、9割の住宅資金が政府支援がなければ回らないのが現状である。
結局、そうやって政府の支援枠を拡大し続け、デフォルトリスクを取り込むにいいだけ取り込んで、挙句の果てには、政府系金融機関の救済措置になるんだから。それに使われるカネも、わたしの税金だ。しかも今後さらに、Option ARMのリセットがドバーと乗っかってくるんだから、フォークロージャは止まらない。で、もっと支援枠を拡大するはめになり、リカバリーできない最終損失がいくらになるのか、想像するのも怖い。
フランク議員みたいのに言わせると、
住宅市場がなかなか活性化しないのは、金融機関が貸し渋りしてるからだそうでして。だから『クラムダウン』が必要だ、と。
金融機関が言うこときかないなら、腕をひねり上げて、無理やりリスクとらせてやるぞ、ということか。
フランク議員の発想は、亀井大臣の発想と、まったく同じね。
こういうひとたちって、
金融機関がなぜ、いま、融資を積極拡大して信用リスクを自己のバランスシート上に取りたがらないのか、取りたくても取れないのか、そこのポイントは、まったく考えたことがないんだろうな。(答えは、リスクキャピタルが足りないから。)
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結局、こうした政治サイドの市場介入が何やってるかというと、金融市場の社会主義化を進めているんである。
だが、完全なソーシャリズムは実行できないから、表向きは市場主義を尊重するフリして、実際は市場規律を歪める手伝いに精を出し、大衆を黙らせるためには金融機関を悪代官にみたてた水戸黄門劇で本質論をごまかして、将来の財政悪化(=我々の税負担増加)の種まきを、いまからせっせとやっているんである。
Eric Englund というエコノミストが、GSE救済の8ヶ月前にあたる2008年1月に、『カントリーワイドとモルゲージ社会主義の失敗』と題する長文のコメンタリーを書いている。
Countrywide Financial Corporation and the Failure of Mortgage Socialism
(LewRockwell.com,1/28/08)
このコメンタリーで、エングルンドは、当時のブッシュ政権が推進していた住宅政策はアメリカンドリームという言葉を借りた「モルゲージ・ソーシャリズム」であり、全米最大手の住宅ローン会社カントリーワイドのCEOアンジェロ・マジロは、政治的に正しい(Politically Correct)行いをすることで、市場規律に背を向けて巨額の富を得たのだと書いている。
このコメンタリーには、2007年10月にブッシュ大統領が言った言葉が引用されている。
"Two thirds of all Americans own their homes, yet we have a problem here in America because fewer than half of the Hispanics and half of the African Americans own their home. That's a homeownership gap. It's a gap that we've got to work together to close for the good of our Country, for the sake of a more hopeful future. We've got to work to knock down the barriers..."
「アメリカ家庭の3分の2が自分の家を持っている。だが、米国にはまだ問題が残っている。なぜなら、持ち家比率は、ヒスパニック層では半分以下、黒人層では半分しか到達できていない。これは、ホームオーナーシップの格差だ。より希望に満ちた未来のためにも、我々はともに力を合わせて、この格差を縮めてゆくよう努力しなければならない。この格差を生むバリアは壊してゆかねばならない。」(引用終)
低所得者層にサブプライムローンを提供することは、「ホームオーナーシップをすべてのアメリカ人に!」という政治的意図に沿った行為(Political Correctness)であったが、一方ではリスク管理の基本ともいえる信用力判断と市場規律にのっとったプライシングを反故(ほご)にして、政治的正義を優先させた、その結果こそが、カントリーワイドの興亡と住宅ローン市場の混乱であった、とエングルンドはいうのだ。
カントリーワイドは、従来の銀行の信用審査ではとうてい通らないような高リスクの顧客にも積極的に融資し、それらを次から次へとフレディやファニーに売却し、サービシングフィー(注※)を受け取っていた。
(注※)融資をオリジネートした金融機関が証券化のために外部のビークルに融資を売却してオフバラ化しても、実際の融資の回収などの実務は引き続き手がけることが多い。サービシング・フィーとは、その回収実務などに支払ってもらう手数料のことで、2007年ごろの手数料のレートは、固定金利の場合25bps、ARMの場合は37.5bps、FHA保証付融資の場合は44bps、サブプライムの場合はそれによって異なる、とある。(詳しくは
こちら。)つまり、融資額が大きくなればなるほどサービシングの手数料収入も増えるわけで、カントリーワイドの場合、ピーク時には1.5兆ドルの融資サービシングを手がけ、ここから発生する手数料が最大安定収益源であった。
「持ち家=アメリカンドリーム」という政治的等式が成り立っているからこそ、フレディやファニーも、政府がスポンサーになってるわけである。
で、そのフレディにとっても、カントリーワイドのような大手の住宅ローン会社は、どんどん融資を持ってきてくれるパートナー的存在になっていた。
2008年の3月、ちょうどベアスターンズがJPモルガンに救済合併されたとき、ニューヨークでは、リーマンブラザーズが主催する機関投資家向けの金融コンファレンスが開かれていて、全米の主要金融機関および海外の大手金融機関のトップなども集まって、注目されていた。 (いま振り返ってみると、リーマン主催の金融コンファレンスって・・・すごいコンファレンスであったな・・・。)
筆者もそのコンファレスには出席してて、ちょうどフレディのプレゼンがあったので聞きに行ったのだが、プレゼン後のQ&Aの席で、当時のフレディのCFOが、「カントリーワイドはフレディにとって最大かつ最重要顧客。政府もそれは承知していて、モルゲージ市場が安定度を早急に取り戻せるよう、常に互いに連絡を密に取り合い、きっちり協調体制を敷いて一緒にがんばっている。」みたいな言葉を述べたのを、筆者はいまでも覚えている。
カントリーワイドとフレディと米政府は、一蓮托生の間柄を長年続けていたんであるよ。
だからこそ、リーマンショック後、フランク議員ほか政界関係者が「寝耳に水」みたいな顔してウォール街に責任なすりつけてバッシングするのを見ると、「あんたらこそ、ずっと何やってたのさ。」とつい言い返したくなるんである。
ソーシャリズムと市場規律は相容れない。
ブッシュの時代は、【Politically Correct】のために規制緩和をやったが、ソーシャリズムとキャピタリズムを混合し規制監視をおろそかにして市場の暴走を許した。
オバマに替わると、やっぱり、【Politically Correct】のために規制強化を推進しようとし、市場が持つ健全な機能まで狭めようとしている。
いずれにせよ、政治筋が介入して市場に圧力かけたり市場規律を歪めたりすると、たいがい、ろくな結果にはならん。
バーニー・フランク、少し黙っててほしい。(でも、黙らんのよ、このひと・・・)
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