何かのテーマでマジメに書く気がどうしても出ないので、今日は「週末のブツクサ」と称して、思いつきの羅列。
前回のMHJ記事では、「週末は100番目の破綻銀行が明らかになる」と締めくくったわけだが、いっきに7行ぶっ飛んで「106番目」までリストが伸びた週末である。
どこも総資産数億ドルの小規模金融機関ばかりで、金曜日に破綻が公示され、週末に受け皿になる銀行に資産と預金の引渡しがなされ、月曜日には滞りなくオペレーションが再開される、いわゆる「金月(きんげつ)処理」をやってるわけだが、この破たん処理手法は小規模の金融機関にしか使えません。
資産規模が大きくなると、オペレーションの引継ぎが実務的に困難になるからね。
106という数字は、一年間に破綻した機関数としては、1992年以来、最高だそうである。
2009年、いったい、どこまで破たん金融機関数が増えるのであろうか・・・。
★ ★ ★
そして、筆者にとっては、この週末はやや暗い週末である。
自分のブログで「アマゾンって、いい会社だぜ~」とか(7月23日付MHJ記事参照)、「ネットフリックス株はまだまだいけそうかもな~」(9月12日付MHJ記事参照)とかブツブツ言ってたくせに、【自分では株持ってない】という、悲しみ。
良いと思ったら、買っとけよ、自分!!
AMZNも、NFLXも、どちらも「3Qトップラインの力強い増加」という、まさに「ファンダメンタルズにサポートされたピカピカのストーリー」であった。
たしかにひごろから相場が上がっててもウジウジと暗い話ばっかしている筆者であるが、自分のガッツフィーリングに対してまでコントラリアンやってて、どうする。
そんなド阿呆な己の姿に下唇をかみ締め、「ガッツフィーリングには忠実に・・・」と自分で自分を戒めた、そんな週末でもあった・・・。
チャートは金曜日に26.8%上昇のアマゾン(AMZN)の先週5日間のパフォーマンス。
そして、こちらは、同じく10.6%上昇のネットフリックス(NFLX)。
★ ★ ★
やる気でなくてぼんやりしてたら、某友人から、おもしろいYouTubeビデオが回ってきたので、ここに貼っておくことにする。
ブリティッシュロックの醍醐味か。
しかし、イギリスも大変そうであるな・・・。英国のGDP、0.4%縮小。欧州他国から遅れとる。
昨日のウォールストリートジャーナルは、グリーンシュート(Green Shoot)戦略でなんとか英国経済を盛り上げようとしていたゴードン・ブラウンも、彼の最後の望みは絶たれた、と厳しいコメント。
GDP Numbers Sink Gordon Brown’s Last Hope (WSJ、10/24/09)
ポンコツ車を新車に買い換えれば政府がおカネくれますというCash for Clunkersプログラム、アメリカでは8月で終了しちゃったが、英国では先月さらに延長して(英国版はCash for Bangersと呼ぶらしい)、新車セールス盛り上げようと頑張ったのにね。
ブラウン首相も、下唇をかみ締めてうつむいていた週末ではなかろうか・・・。
★ ★ ★
アメリカでは、9月の住宅販売実績が、年率換算で9.4%もジャンプするという「明るい」ニュースが23日に出ていたが、マーケットはそろそろ、この手のニュースには簡単に飛びつかなくなってる雰囲気あり。
持ち家を買う人たちに税金の戻りがあるプログラムが11月で終了になるため駆け込み需要があった、という説明だが、車向けCash for Clunkersしかり、この住宅向けプログラムしかり、政府が現金ばら撒く「花咲かじじい」プログラムでなんとか消費を喚起しようとがんばってるが、なかなか本格的にエンジンかからず。
(消費は全体的にけだるいながらも、筆者自身のビヘイビアがそうであるように多くがeコマースに流れて、アマゾン、ウハウハ。)
議会には、住宅向けの税金クレジットを、現行の8000ドルから15000ドルまで引き上げようと息巻いている皆様がいるんだが、この住宅向けプログラムはすでに「詐欺」で摘発される連中が出てきてて、中には、4歳の子どもが申し込んでいたケースもあったらしい。
申し込めるのは、初めて家買うファーストタイム・バイヤー・オンリーですからね。4歳なら、たしかに、「ファーストタイム・バイヤー」という条件はクリアできるか。しかし、どうしよーもねー親だな。
★ ★ ★
イギリス制作YouTubeビデオ「Bohemian Bankruptcy」をくっつけたんで、この際だから、かのバーニー・フランクによる「Banking Queen」も、ついでにくっつけておく。
さて、今週は、どんな展開になるやら・・・。
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Sunday, October 25, 2009
Thursday, October 22, 2009
モルスタ3Q09決算:商業不動産という「おもり」
昨日(21日)は、モルガンスタンレー(MS)とウェルズファーゴ(WFC)の決算が出た。
2社の結果をみると、前回のMHJ記事で述べた内容と、ほぼ同じ。投資銀行業務と債券部門のトレーディングに強みを持つMSは黒字決算、伝統的な商業銀行業務がメインで不良債権処理コストが重くのしかかったWFCは赤字決算。
同じ大手金融機関でも、証券市場でのプレゼンスが大きいか小さいかが明暗を分けた、これが今回の大手決算のパターンでありますな。前回から追記すべきもの、ほとんど、なし。
ただ、モルガンスタンレーというのは、2006年/2007年ごろにも、不動産の分野にグローバルで相当のキャピタルを配分し、不動産への直接投資や投資商品開発、アセットマネージメントなどを拡大したことで注目された会社ですんで、サブプライムの次に控える時限爆弾「商業用不動産」が、同社の業績にどんな風に影響を与えているか、筆者としては非常に興味があった。
MSの今期(3Q09)決算のリリースを読んでみると、同社の不動産部門の業績に与えた影響については、以下の短いコメント。
こっ、これだけっすか・・・?
★ ★ ★
MSの決算発表を控える21日、ウォールストリートジャーナル朝刊には、MSの不動産投資に関する記事が載った。
記事はモルガンスタンレーが2007年に65億ドルで買収したREIT、Crescent Real Estate Equities(以下クレセント)について。
米不動産市場は、MSがクレセント買収に動いた07年5月にはガタガタし始めており、不動産関連株もそうした懸念を反映して全体的に弱いパフォーマンスを続けていた。不動産投資の分野ではトッププレイヤーのMSが大型ディールに出たということで、これでREITはじめ不動産株が盛り返すきっかけになるかと当時注目された、クレセントとはそういうディールだったんだよね。
買収当時の記事を読むと、テキサス州に本拠を持つクレセントはダラス、マイアミ、ラスベガスなどにオフィスビル70件を抱え、リゾート、大型住宅プロジェクトも手がける不動産投資会社で、2007年までの過去10年のリターンは91%。
だが、このリターンは、同時期の米REIT投資平均の277%を大幅に下回り、また配当金の支払いも短期的に行われないことがあらかじめわかっていたため、買収価格につけられたプレミアムは市場の期待値の範囲に収まっていたようである。ただし、市場の先行きが見えない中での65億ドルというプライスは、一部では「高すぎる買い物」という批判もあったようだ。
同ディールのための資金は、いわずもがな、MSは多額の借金でまかなった。
クレセント買収後直後のバランスシートの構造は、資産バリュー65億ドルに対し、クレセントがもともと引きずってきた債務残高31億ドル、プラス、25億ドルの新規ローンで負債総額は56億ドル。エクイティ部分は9億ドルで、合計65億ドル、であった。
しかし、買収後も不動産市況は低迷を続け、投資バリューの償却が続き、昨日のWSJ記事によれば、クレセントは当初の65億ドルから09年06月末時点で28億ドルまで償却されて、債務残高は25億ドルまで減少している、とのことである。すなわち、MSのクレセントへのエクイティ投資額は、6億ドル償却されて、2Q09時点でその差額の3億ドルまで減っていた、ということ。
21日のWSJ記事:Morgan STanley and Its Waning Crescent
(Wall Street Journal, 10/21/09)
この21日付けのWSJ記事で、筆者の注意を引いたのは、以下の部分である。
★ ★ ★
クレセント向けの債務残高25億ドルのうち20億ドルをモルガンスタンレーはバークレイズから借りているそう。
それにしても、読みながら筆者が思わず目を見張ったのは、モルガンスタンレーともあろう会社が、2000億円の借金返済をバークレイーズにお願いして延期してもらっていた、という部分である。いったん伸ばしてもらったが、返済日は11月2日に迫る。
MSの3Q09のリリースに戻ると、同社は6~9月の間に、クレセントがらみで、さらに2.51億ドルの償却をほどこした、と書いてある。6月末のエクイティが3億ドルだったんだから、9月末時点では、当初の9億ドルのエクイティ投資分はわずか5千万ドルになっていた。「95%のエクイティ損失」――痛いですわね・・・。
これは筆者の勝手な憶測だが、MSはクレセントからウォークアウェイ(Walk Away)する気だな。エクイティ分の95%がすでにあの世にいっちゃったんだもん。借金を全額耳をそろえてお返しするより、んなもん、バークレイズに熨斗紙つけてくれてやる、ってことか。
でも、バークレイズにしてみたら、いまごろラスベガスやマイアミのオフィスビルなんぞもらったところで、オークションに失敗してREO(Real Estate Owned=清算できずに銀行保有になる担保物件)になってシコっちまう可能性高いんだから、ありがた迷惑以外の何者でもなし。
MSがバークレイズから2億ドルを借金したとき、どんな融資条件になっていたのかは知らないけれど、仮に、ここで借り換えを行っても、おそらく現在結んでいる融資条件より有利な金利で借り換えができるとは思えないし、借り換えの条件次第ではDSCRの悪化に拍車がかかりかねない。
借り換え時のリスクプレミアムを抑えようとすると、MSはこの上さらに、同投資に対しリスクキャピタルの追加配分が必要になろうし、この局面でキャピタルを追加するほど魅力的な物件なのかも、ようわからん。(だって、物件のロケーションが、奈落の底にただいま突進中のマイアミとかラスベガスとか、ってんだよ。そんなもの、誰だって警戒するでしょ。)
だから、ここらへんで見限って、Walk Awayするほうが合理的と考えるのもわかるな。
残っている物件のポートのバリューは、それらが生むキャッシュフローがずんずん低下しているわけだから、これまでのMSによる累計償却額で足りてるのかも怪しい。もし足りなかったら、誰かがその損失を吸収しなくちゃいけないわけですからね。
要するに、クレセントという投資案件は、95%のエクイティが吹っ飛んだ現段階でも先が見えない、実質的にディープな【債務超過】に陥っているってことだ。
仮に筆者がバークレイズのMS担当融資オフィサーだったら、きっといまごろ、タイムズスクエアのMS本社のまん前に立って、「MSのバッキャローーーーー!」と吼えてると思う。(でも貸したのは、あんたよ。)
★ ★ ★
ここで、【デッド・サービス・カバレッジ・レシオ】なる用語が登場したので、このレシオを使い慣れていない方のために、少々説明しておきたい。
【Debt Service Coverage Ratio】(略してDSCR)というのは、(1)年間に創出できるキャッシュのインフロー(Inflow)と、(2)金利および元本の年間の支払総額(Outflow)を比較し、(1)が(2)の何倍カバーしてるかを示したレシオ。(1)が分子、(2)が分母。(企業財務分析では、(1)のキャッシュフローは、通常の業務収益から営業経費を控除した「ネットの営業収益」を用いることが多い。)
分母の縮小よりも分子が速いペースで低下するとき、DSCRは低下し続ける。このレシオの低下が止まらず1倍を下回ってくると、「ヤバイ」の黄信号がチカチカつく。だって、通常の儲けより、借金返済の額の方が多い、という意味でしょ。これが1倍になると自転車操業状態、1倍切ると借り手は他から返済資金を融通してこなくちゃいけない。融通できなきゃ、デフォルトへの道。
つまり、DSCRというのは、借り手のデフォルトリスクを判断する上で非常に重要な分析ツールのひとつなわけ、ですね。
クレセントの例でいうと、クレセントの物件ポートフォリオのレンタル収益(=通常の業務から生まれる収益)は、借金返済分の2.5倍もあって、余裕であった。ところが、不動産市況が悪化して、空室が目立つようになったり賃料を下げてやらなくちゃテナントに入ってもらえないなどで、レンタル収益はどんどん低下。でも借金返済額はそれに合わせて減ってくれるわけではないので、DSCRは1.3倍に落ちた。
現在の不動産市場、とくに、商業不動産の市況を見るかぎり、ドラスチックな債務のリストラでもやらんことには、クレセントのDSCRが1倍を切るのは時間の問題という気が筆者にはするな。
返済日に返済するために借り換えをしようとしても、デフォルトリスクが高いと判断されるため、リスクプレミアムが余計について借り換え金利は高くなる。
あるいは、借り換え金利を高くしたくなかったら、将来の損失のバッファーとなるエクイティを追加的に注入してやるか、あるいは貸し手の要求に従いもっと担保提供するか、なんらかの手当てが必要になる。
こうなったら、どっちに転んでも、MSには有利には働かない、ってことである。
★ ★ ★
MSはクレセント向け償却額2.5億ドルと簡単に流してたが、MSの3Q09の当期利益は優先株配当を支払う前で7.5億ドル。そのざっと3分の1相当の数字である。それがクレセント関連ひとつで消えた。
商業不動産ってのは、一つ一つが小口の住宅とは根本的に性格が異なり、手がける金額が大きいために、どーんとまとまってインパクトが発生する。そして、ダメとなったら投資額が限りなくゼロに近づくぐらいまで徹底的に悪化する、そういう高リスクの投資である。日本の金融危機のとき、邦銀が商業用不動産の担保価値低迷で長いこと苦しんだという話は前回のMHJで述べた。
CNBCのボケキャスターのひとりは、「MSも相当ガンバリましたが、やはりGSにはトレーディングでかなわなかったようですね~」と(相変わらず)完全無意味なアホコメントをしてたが、部門ごとに振り分けたリスクキャピタルの額が違うんだからリターンが違うの当たり前だろ。
かなうとか、かなわないとか、それ以前に、MSの場合は、不動産にリスクキャピタルをアグレッシブに突っ込んでた、って点がポイントでしょ。せっかくインベストメントバンキングのリーグテーブルで上位に連なったり、アセットマネージメントで粗利を増やしたりして、かなりがんばった3Qだったのに、不動産関連投資の損失で、頑張った分も一部帳消しになっちゃった(涙)・・・というのが今回のMS決算の(悲しい)特徴であった。
言っときますが、MSの不動産関連ポートフォリオは、クレセント一社じゃありませんから。
株価のほうは「MSは最悪期を脱した」という楽観論におされて上昇してウハウハだったが、Murray Hill Journalでは、今回もウジウジと暗い話をしてみました。(いまから予告しておくと、次回も暗くなりそうです。爆)
★ ★ ★
さて、MS決算発表のあった21日は、FRB連銀の10月ベージュブックがリリースされる日でもあった。
(リリース全文はこちらへ。)
ベージュブックの序文を読んでたら、こんな記述。
MSのように不動産投資の分野でアクティブに活動していた会社に融資をしていたのは、バークレイズのような大手銀行だけではない。
FDICの報告によると、商業用不動産向け貸出は、銀行の総資産規模に関わらず、銀行セクター全体で、クオリティ悪化に直面しているという。
ところで明日は金曜日。
先週の金曜日は、2009年に入ってから「99番目」の銀行が破綻処理された。
明日の金曜日、おそらく、100番目の破綻銀行の名前が明らかになる。
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2社の結果をみると、前回のMHJ記事で述べた内容と、ほぼ同じ。投資銀行業務と債券部門のトレーディングに強みを持つMSは黒字決算、伝統的な商業銀行業務がメインで不良債権処理コストが重くのしかかったWFCは赤字決算。
同じ大手金融機関でも、証券市場でのプレゼンスが大きいか小さいかが明暗を分けた、これが今回の大手決算のパターンでありますな。前回から追記すべきもの、ほとんど、なし。
ただ、モルガンスタンレーというのは、2006年/2007年ごろにも、不動産の分野にグローバルで相当のキャピタルを配分し、不動産への直接投資や投資商品開発、アセットマネージメントなどを拡大したことで注目された会社ですんで、サブプライムの次に控える時限爆弾「商業用不動産」が、同社の業績にどんな風に影響を与えているか、筆者としては非常に興味があった。
MSの今期(3Q09)決算のリリースを読んでみると、同社の不動産部門の業績に与えた影響については、以下の短いコメント。
“Firm-wide results reflected net losses on investments in real estate of $0.4 billion, amidst the ongoing industry-wide decline in this market.”
「不動産業界全体の低迷を反映し、全社連結決算数値には、不動産投資から発生した当期損失4億ドルが含まれている。」
こっ、これだけっすか・・・?
★ ★ ★
MSの決算発表を控える21日、ウォールストリートジャーナル朝刊には、MSの不動産投資に関する記事が載った。
記事はモルガンスタンレーが2007年に65億ドルで買収したREIT、Crescent Real Estate Equities(以下クレセント)について。
米不動産市場は、MSがクレセント買収に動いた07年5月にはガタガタし始めており、不動産関連株もそうした懸念を反映して全体的に弱いパフォーマンスを続けていた。不動産投資の分野ではトッププレイヤーのMSが大型ディールに出たということで、これでREITはじめ不動産株が盛り返すきっかけになるかと当時注目された、クレセントとはそういうディールだったんだよね。
買収当時の記事を読むと、テキサス州に本拠を持つクレセントはダラス、マイアミ、ラスベガスなどにオフィスビル70件を抱え、リゾート、大型住宅プロジェクトも手がける不動産投資会社で、2007年までの過去10年のリターンは91%。
だが、このリターンは、同時期の米REIT投資平均の277%を大幅に下回り、また配当金の支払いも短期的に行われないことがあらかじめわかっていたため、買収価格につけられたプレミアムは市場の期待値の範囲に収まっていたようである。ただし、市場の先行きが見えない中での65億ドルというプライスは、一部では「高すぎる買い物」という批判もあったようだ。
同ディールのための資金は、いわずもがな、MSは多額の借金でまかなった。
クレセント買収後直後のバランスシートの構造は、資産バリュー65億ドルに対し、クレセントがもともと引きずってきた債務残高31億ドル、プラス、25億ドルの新規ローンで負債総額は56億ドル。エクイティ部分は9億ドルで、合計65億ドル、であった。
しかし、買収後も不動産市況は低迷を続け、投資バリューの償却が続き、昨日のWSJ記事によれば、クレセントは当初の65億ドルから09年06月末時点で28億ドルまで償却されて、債務残高は25億ドルまで減少している、とのことである。すなわち、MSのクレセントへのエクイティ投資額は、6億ドル償却されて、2Q09時点でその差額の3億ドルまで減っていた、ということ。
21日のWSJ記事:Morgan STanley and Its Waning Crescent
(Wall Street Journal, 10/21/09)
この21日付けのWSJ記事で、筆者の注意を引いたのは、以下の部分である。
[引用はじめ]
At the time of the acquisition, the properties were generating cash flow that was 2.5 times debt service, he said. That "debt-service coverage ratio" has fallen to 1.3 this year and will likely drop to between 0.8 and 0.9 in 2010, he said.
クレセントの不動産ポートフォリオは、買収当時は、デッド・サービス・カバレッジ・レシオ(以下DSCR)で2.5倍のキャッシュフローを生み出していた。だがDSCRは今年1.3倍まで低下しており、2010年には0.8か0.9倍まで落ちる公算が高い、と(あるアナリストは)いう。
To be sure, Morgan Stanley has been selling Crescent properties to reduce debt since the deal was completed in August 2007. As a result, the kind of buildings in the Crescent portfolio have changed over time, which could have affected the cash flow.
より正確に言えば、ディールが完結した2007年8月以降、モルガンスタンレーは債務を減少させる目的でクレセントが持っていた物件を売却し続けてきており、その結果、クレセントのポートフォリオに含まれるビルの種類も変化してきており、それがキャッシュフローに影響を与えてきたという見方もできる。
(中略)
Morgan Stanley originally planned to put the properties in one of the real-estate funds it manages for institutions and wealthy individuals. But fund investors balked at buying the buildings at top-of-the-market prices, forcing Morgan Stanley to keep the properties on its own balance sheet.
モルガンスタンレーは当初、自らがマネージする機関投資家と富裕層向けの投資ファンドにそれらの不動産物件を組み込む予定でいた。しかし、ファンドの投資家たちが、当時の市場のトッププライスで購入したビルをファンドに組み込むことに異議を唱えたために、モルガンスタンレーはそれらの物件を自社のバランスシートに抱え込まざるを得なくなった。
The Barclays debt originally was due Aug. 3, but the bank agreed to a three-month extension.
バークレイズから借りている債務は8月3日が返済日であったが、バークレイズは3ヶ月の返済延期に同意した。
[引用以上]
★ ★ ★
クレセント向けの債務残高25億ドルのうち20億ドルをモルガンスタンレーはバークレイズから借りているそう。
それにしても、読みながら筆者が思わず目を見張ったのは、モルガンスタンレーともあろう会社が、2000億円の借金返済をバークレイーズにお願いして延期してもらっていた、という部分である。いったん伸ばしてもらったが、返済日は11月2日に迫る。
MSの3Q09のリリースに戻ると、同社は6~9月の間に、クレセントがらみで、さらに2.51億ドルの償却をほどこした、と書いてある。6月末のエクイティが3億ドルだったんだから、9月末時点では、当初の9億ドルのエクイティ投資分はわずか5千万ドルになっていた。「95%のエクイティ損失」――痛いですわね・・・。
これは筆者の勝手な憶測だが、MSはクレセントからウォークアウェイ(Walk Away)する気だな。エクイティ分の95%がすでにあの世にいっちゃったんだもん。借金を全額耳をそろえてお返しするより、んなもん、バークレイズに熨斗紙つけてくれてやる、ってことか。
でも、バークレイズにしてみたら、いまごろラスベガスやマイアミのオフィスビルなんぞもらったところで、オークションに失敗してREO(Real Estate Owned=清算できずに銀行保有になる担保物件)になってシコっちまう可能性高いんだから、ありがた迷惑以外の何者でもなし。
MSがバークレイズから2億ドルを借金したとき、どんな融資条件になっていたのかは知らないけれど、仮に、ここで借り換えを行っても、おそらく現在結んでいる融資条件より有利な金利で借り換えができるとは思えないし、借り換えの条件次第ではDSCRの悪化に拍車がかかりかねない。
借り換え時のリスクプレミアムを抑えようとすると、MSはこの上さらに、同投資に対しリスクキャピタルの追加配分が必要になろうし、この局面でキャピタルを追加するほど魅力的な物件なのかも、ようわからん。(だって、物件のロケーションが、奈落の底にただいま突進中のマイアミとかラスベガスとか、ってんだよ。そんなもの、誰だって警戒するでしょ。)
だから、ここらへんで見限って、Walk Awayするほうが合理的と考えるのもわかるな。
残っている物件のポートのバリューは、それらが生むキャッシュフローがずんずん低下しているわけだから、これまでのMSによる累計償却額で足りてるのかも怪しい。もし足りなかったら、誰かがその損失を吸収しなくちゃいけないわけですからね。
要するに、クレセントという投資案件は、95%のエクイティが吹っ飛んだ現段階でも先が見えない、実質的にディープな【債務超過】に陥っているってことだ。
仮に筆者がバークレイズのMS担当融資オフィサーだったら、きっといまごろ、タイムズスクエアのMS本社のまん前に立って、「MSのバッキャローーーーー!」と吼えてると思う。(でも貸したのは、あんたよ。)
★ ★ ★
ここで、【デッド・サービス・カバレッジ・レシオ】なる用語が登場したので、このレシオを使い慣れていない方のために、少々説明しておきたい。
【Debt Service Coverage Ratio】(略してDSCR)というのは、(1)年間に創出できるキャッシュのインフロー(Inflow)と、(2)金利および元本の年間の支払総額(Outflow)を比較し、(1)が(2)の何倍カバーしてるかを示したレシオ。(1)が分子、(2)が分母。(企業財務分析では、(1)のキャッシュフローは、通常の業務収益から営業経費を控除した「ネットの営業収益」を用いることが多い。)
分母の縮小よりも分子が速いペースで低下するとき、DSCRは低下し続ける。このレシオの低下が止まらず1倍を下回ってくると、「ヤバイ」の黄信号がチカチカつく。だって、通常の儲けより、借金返済の額の方が多い、という意味でしょ。これが1倍になると自転車操業状態、1倍切ると借り手は他から返済資金を融通してこなくちゃいけない。融通できなきゃ、デフォルトへの道。
つまり、DSCRというのは、借り手のデフォルトリスクを判断する上で非常に重要な分析ツールのひとつなわけ、ですね。
クレセントの例でいうと、クレセントの物件ポートフォリオのレンタル収益(=通常の業務から生まれる収益)は、借金返済分の2.5倍もあって、余裕であった。ところが、不動産市況が悪化して、空室が目立つようになったり賃料を下げてやらなくちゃテナントに入ってもらえないなどで、レンタル収益はどんどん低下。でも借金返済額はそれに合わせて減ってくれるわけではないので、DSCRは1.3倍に落ちた。
現在の不動産市場、とくに、商業不動産の市況を見るかぎり、ドラスチックな債務のリストラでもやらんことには、クレセントのDSCRが1倍を切るのは時間の問題という気が筆者にはするな。
返済日に返済するために借り換えをしようとしても、デフォルトリスクが高いと判断されるため、リスクプレミアムが余計について借り換え金利は高くなる。
あるいは、借り換え金利を高くしたくなかったら、将来の損失のバッファーとなるエクイティを追加的に注入してやるか、あるいは貸し手の要求に従いもっと担保提供するか、なんらかの手当てが必要になる。
こうなったら、どっちに転んでも、MSには有利には働かない、ってことである。
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MSはクレセント向け償却額2.5億ドルと簡単に流してたが、MSの3Q09の当期利益は優先株配当を支払う前で7.5億ドル。そのざっと3分の1相当の数字である。それがクレセント関連ひとつで消えた。
商業不動産ってのは、一つ一つが小口の住宅とは根本的に性格が異なり、手がける金額が大きいために、どーんとまとまってインパクトが発生する。そして、ダメとなったら投資額が限りなくゼロに近づくぐらいまで徹底的に悪化する、そういう高リスクの投資である。日本の金融危機のとき、邦銀が商業用不動産の担保価値低迷で長いこと苦しんだという話は前回のMHJで述べた。
CNBCのボケキャスターのひとりは、「MSも相当ガンバリましたが、やはりGSにはトレーディングでかなわなかったようですね~」と(相変わらず)完全無意味なアホコメントをしてたが、部門ごとに振り分けたリスクキャピタルの額が違うんだからリターンが違うの当たり前だろ。
かなうとか、かなわないとか、それ以前に、MSの場合は、不動産にリスクキャピタルをアグレッシブに突っ込んでた、って点がポイントでしょ。せっかくインベストメントバンキングのリーグテーブルで上位に連なったり、アセットマネージメントで粗利を増やしたりして、かなりがんばった3Qだったのに、不動産関連投資の損失で、頑張った分も一部帳消しになっちゃった(涙)・・・というのが今回のMS決算の(悲しい)特徴であった。
言っときますが、MSの不動産関連ポートフォリオは、クレセント一社じゃありませんから。
株価のほうは「MSは最悪期を脱した」という楽観論におされて上昇してウハウハだったが、Murray Hill Journalでは、今回もウジウジと暗い話をしてみました。(いまから予告しておくと、次回も暗くなりそうです。爆)
★ ★ ★
さて、MS決算発表のあった21日は、FRB連銀の10月ベージュブックがリリースされる日でもあった。
(リリース全文はこちらへ。)
ベージュブックの序文を読んでたら、こんな記述。
The weakest sector was commercial real estate, with conditions described as either weak or deteriorating across all Districts.
最も弱かったセクターは商業不動産で、12の地区すべてにおいて、コンディションは弱い、あるいは、悪化している、との報告だった。
MSのように不動産投資の分野でアクティブに活動していた会社に融資をしていたのは、バークレイズのような大手銀行だけではない。
FDICの報告によると、商業用不動産向け貸出は、銀行の総資産規模に関わらず、銀行セクター全体で、クオリティ悪化に直面しているという。
ところで明日は金曜日。
先週の金曜日は、2009年に入ってから「99番目」の銀行が破綻処理された。
明日の金曜日、おそらく、100番目の破綻銀行の名前が明らかになる。
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Sunday, October 18, 2009
銀行4社3Q決算の印象雑記
大手銀行4行の3Q決算が出ましたね。
実は、バンカメ決算が出る前日の15日に、前回のMHJ記事本文の後に続く【コメント欄】にて、銀行決算に対する自分なりの「第一印象」を、かなりはしょって書いたんです。(15日10:42にポストされた筆者のコメントです。)
以下、そのコメント欄に書いた内容と一部重複するが、今回の4行決算をみてて、どんな【印象】を受けたかを、自分で忘れないうちにここにメモしておきたい。
I. まずは、「投資銀行業務」について。
● JPMの好成績は、GS同様、インベストメントバンキングとFICC(債券・為替・コモディティ)部門の市場での相対的な強みが収益として現れた結果となったが、M&A増が見込まれるインベストメントバンキングの手数料収入についてはともかく、FICC部門が今後どれほど収益貢献を継続できるかは、両者ともに未知数。
● GSのFICC部門の3Q収益は、2Qから12%減となったが、主因は為替とコモディティでのトレーディング益の減少によるもので、金利およびクレジットについては3Qも比較的よかった模様。ただし、市場に流動性が戻るにつれてアービトラージ機会が減少していっているはずで、クレジットスプレッドが低下すると利鞘も縮小してくるのが常なので、FICC、とりわけクレジット部門での収益持続性はやや疑問あり。(「収益の持続性」については、4月15日付けMHJ記事『ゴールドマン1Q09決算について雑感』を参照。GSのクレジット・リスクテーキングについては、7月17日付けMHJ記事『{続}ゴールドマン強し!(商業銀行ステータス、さっさと返上しろよな)』参照。)
● ただし、GSの場合は、プレスリリースを読むだけだと、2Qで損失を出したモルゲージの仕組債の分野で、今回は結構なリターンをあげたという印象をもった。それが単なる値洗いによる収益増だったのか、実際にフローを作っての収益増だったのかは筆者は確認しようないけど、4Qの注目材料となりそう。というのも、複数の知り合いから最近、CMBS(商業不動産の仕組み債)の分野で動きがあるというウワサをチラっと聞いたから(←これも、具体的に何がどうかってのは未確認)。これまでのパターンとして、停滞ぎみだった市場が動き出すときに収益機会を誰よりも早く上手くつかむのがGSという会社の「お家芸」でもあるので、4Qのストラクチャード市場の状況次第では、4Qの数字に影響与える可能性があり、ひきつづき注目したい。
II. 次に「商業銀行業務」について。(←GSの出る幕なし。GSよ、さっさと商業銀行ステータス返上しろ!)
● 一方の商業銀行業務の分野では、JPMもBACもCも、(1)住宅、(2)住宅以外のコンスーマー、(3)ビジネス、すべての融資分野で不良債権がどっちゃーと増えた。毎期どんなに引当金を積んでも、翌四半期にはそれがみな吹っ飛んで新たに積み直しという状態に置かれているのが透けて見える。融資プールの「質」は劣化が続いているし、これからも当面続く、という印象強し。
● 融資の「質」の劣化が続いているという点については、JPMの3Qプレゼンテーション資料の17ページに、いいグラフがあります。個人向け融資4部門 - ①ホームエクイティ、②プライム、③サブプライム、④カード ― の延滞トレンドのグラフが4つ並んで載っており、いまだに劣化トレンドが止まる様子がないことが見て取れる。これはJPMに限ったことじゃなくて、銀行業界全体がこう。
● どの大手銀行も、オペレーションコストのカットに努めているようだが、いかんせん、不良資産から発生する償却費用がでかすぎて、償却前利益では吸収しきれないというのが現実。JPMはクレジットカードの劣化度がBACよりやや激しく(といっても、どちらもひでー数字だが)、またBACはカントリーワイドから引き継いだ住宅ローン(ホームエクイティローン含む)の劣化がひどくて大量の引き当て積み増しを余儀なくされている様子。BACの場合は、JPMと比べると投資銀行業務やFICCのトレーディング業務での米国内でのフランチャイズが弱く、そこからあがる収益バッファーが少ないがために、商業銀行部門の償却費用の重みが、もろに会社全体のボトムラインに乗っかった。
● ただし、個人向け融資に関していえば、引当率(=不良債権残高に対する引当金残高の割合)はかなり高くなっており(特にJPM)、住宅関連融資のポートがオプションARMのリセットなどで今後さらに不良化が進んでも、引き当てバッファーの厚みが寄与して、最終利益への負担は幾分軽減されそうと言えるところまで実際に近づいてきている、と感じた。(「処理が完了した」という意味ではない。)
● しかし、商業用不動産含むビジネスローンのポートフォリオについては、引当率が住宅融資と比較してずっと低いため、4Q以降は、各行とも、償却負担の中心は、住宅モルゲージローン向けから、商業用不動産向けに移行してくることが容易に予想され、償却前利益の多くが信用コストに消えてゆく状況はまだ続くと見込まれる。
III. 次に、商業銀行部門の(1)住宅、(2)コンスーマー、(3)ビジネス、各セグメントの融資状況について。
● すべてのセグメントにおいて、デレベレージング(Deleveraging=家計や企業がバランスシート上の負債残高を減少させること)が進行している。
● クレジットカード等コンスーマー向けは、金融機関が積極的に高リスクの借り手を外していっているのと、家計の貯蓄率が上昇していて家計みずからもデレベレージしようというモチベーションが高いため、その両方のダイナミクスから引き続き貸し出しボリュームは減少トレンドを続けることが予想される。(これはJPMのCEOダイモンも同じことを言っていた。JPMはクレジットカードで今期痛い目にあった。)
● 住宅融資に関しては、ファニー&フレディといった政府系と連銀のモルゲージ債購入プログラムが調達サイドをサポートしているという理由オンリーでなんとか利鞘確保ができているが、こうして政府支援があっても、償却前利益を超える額の償却コストが発生しているのが現実で、基本的に住宅融資のプライシングモデルは機能していない。貸せば貸すほど損失が膨らむリスクがあるあいだは、銀行側には、積極的に住宅融資を拡大しようというインセンティブは働かない。
● 企業融資に関しては、現在のようなマクロ環境では、借り手も積極的な事業投資を控えるため資金需要自体が乏しく、また、貸す側も、とりわけ中小企業のような中・高リスクの借り手に課したいリスクプレミアムは「政治的圧力」があるために実現しづらく、最も合理的な手段として貸し出しそのものを渋る傾向がある。(日本では亀井さんがモラトリアムだなんだとバカ騒ぎの果てに、政府による支援提供拡大という方向で落着するとか聞いたけど、米国もそれと同様で、政府支援付の融資であれば拡大してもよいが、そんなの低リスク低リターンの融資が増えるだけで、銀行側のリスク回避の姿勢は根本的に変わらない。)
● 商業用不動産の貸し出しは、CMBS市場がいまだ凍結状態にいることもあり、この分野でいま、新規貸し出しを積極的にしようなどという狂った金融機関はいない。(しかし、借り換え需要が来年以降まとまって押し寄せてくるそうなので、デフォルトか条件緩和かの選択に迫られることになるであろう貸し手側は、みな今から緊張してるはず。)
● 以上から、融資拡大というボリューム効果による収益貢献は近い将来は期待できず、今期以降ももっぱら、利鞘改善をめざすことになろうが、史上最大の財政赤字をつけてしまった政府が政治的な立場を優先させて「(救済措置からの)出口対策」の実行に移ると、金融機関の調達コストは上昇し利鞘圧迫につながる。
★ ★ ★
ということで、以上が、今回の決算をながめて得られた、ざっくばらんな【印象】である。印象ですから、あまり具体的な数値がなくて、すみません。数字あげての話は、また別の機会に。
3Q決算、ひとことで筆者の結論を言うと、米金融セクターの財務内容は「まだまだ、ダメ」である。安定化トレンドの「あ」の字もまだ見えてきてない。バランスシートの劣化が止まらないうちに収益だけがホイホイ改善してゆくなんてことが、ありえるわけないんである。とくに商業用不動産はヤバそうだ。
日本の銀行がバブル崩壊後に苦しんだときのことを思い出してみてほしい。邦銀の不良債権問題の中心は、個人向け融資よりも、商業用不動産にからむ企業向け融資がほとんどだったんである。商業用不動産の担保価値の下落が止まらなくて融資の質が劣化し続けたんだよな。当時の日本では、償却費用が償却前利益を上回る状況がしばらく続き自己資本が弱体化してボロボロになった。大手銀行だろうが小規模銀行だろうが、全員やられちまった。現在の米銀は、まさにその「償却費用 > 償却前利益」という状況が実際に起こっている最中なんだよ。
また、米国の場合は、まず、CDOなど複雑な証券化商品投資の含み損が大量に発生して時価会計による損失が自己資本を毀損し(2007~2008年)、ここでいったん政府救済措置による資本注入が必要になった。だが、ここからさらにB/Sの劣化が続き、住宅・カードなど個人向け融資の大量劣化が償却コストを押し上げて、自己資本を圧迫し続け(2008~2009年)、いま、なんとかそのフェーズを乗り越えられるかという段階に来ているものの、かつて邦銀を苦しめ続けた商業用不動産がらみの問題については、これから始まろうとしている。現時点で、償却前利益で償却コストをまかなえる自信がある米銀なんて、いるのか?
世の中には、米大手金融機関は修羅場を脱したという見方をして強気になってるアナリストもいるらしいが、甘いと思うね、わたしは。
★ ★ ★
ま、他にもゴチャゴチャ言いたいことは山程あるが、リーマンショックから丸一年、スペキュラティブな要素がだんだん影をひそめ、ようやくトラディショナルなファンダメンタルズ分析っぽい真似ができるぐらいに落ち着いてきた、という感触も同時に得た筆者である。
これまでは、大地震の後にしばらく余震が続くのと同様に、ショック後の不確定要素と各市場でのボラティリティが高すぎて、いったい次は丁と出るのか半と出るのか誰にもわからんという「ほとんど博打状態」に置かれて、お尻に火を感じながら、4Q08、1Q09、2Q09を突っ走ってきた米金融セクターですからね。前四半期までは突っ走るだけで精一杯だったわけよ。
ところで、3Q09では、GSとJPMがなんといっても勝者であるという、ちまたの理解どおりの図式が確認されたが、バンカメ(BAC)とシティ(C)の二者は、同じ赤字決算といえども、トーンがかなり異なる決算だったように感じる。
Cは、投資銀行部門、商業銀行部門ともにフランチャイズの衰退が激しく、財務指標も全体的に見劣りし、かつての強みだった海外部門からも損失発生がとまらず、現行のビジネスモデルのままでは、遅かれ早かれ、不良資産の増加に押しつぶされるんじゃなかろうかという印象を持った。Cは、資産のリスクに対し資本基盤が弱すぎる。この銀行は今後、海外オペレーションの切り売りと米国内の事業縮小が従来以上に加速して、いずれ Too Big To Fail のカテゴリーから外れるかもしれない、とすら感じた。
一方で、BACには底力がまだ残ってるという気がした。JPMがベアスターンズを二足三文で傘下に入れ、サブプライムでぶっ飛んだWashington Mutualの受け皿にもなり、メリルとカントリーワイドを買収したBACと同様、両者は死に体の証券会社と銀行をそれぞれ引き取ったわけではありますが、ベアスターンズとメリルとじゃ規模もフランチャイズも比較にならず、カントリーワイドとWaMuとじゃ、これまた比較にならず、である。 BACはデカくて高い買い物したな。でも、その分、合併で追加された事業基盤が将来の収益源に化ける可能性は、BACの方が、JPMより大きい。
そうした事業基盤を生かすも殺すもストラテジー次第。BACの運命は、経営陣次第といっても過言ではない。
今年一杯で引退するCEOケン・ルイスの後釜問題でしくじると、その望みも薄くなる。しくじらなければいいんだが・・・。
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実は、バンカメ決算が出る前日の15日に、前回のMHJ記事本文の後に続く【コメント欄】にて、銀行決算に対する自分なりの「第一印象」を、かなりはしょって書いたんです。(15日10:42にポストされた筆者のコメントです。)
以下、そのコメント欄に書いた内容と一部重複するが、今回の4行決算をみてて、どんな【印象】を受けたかを、自分で忘れないうちにここにメモしておきたい。
I. まずは、「投資銀行業務」について。
● JPMの好成績は、GS同様、インベストメントバンキングとFICC(債券・為替・コモディティ)部門の市場での相対的な強みが収益として現れた結果となったが、M&A増が見込まれるインベストメントバンキングの手数料収入についてはともかく、FICC部門が今後どれほど収益貢献を継続できるかは、両者ともに未知数。
● GSのFICC部門の3Q収益は、2Qから12%減となったが、主因は為替とコモディティでのトレーディング益の減少によるもので、金利およびクレジットについては3Qも比較的よかった模様。ただし、市場に流動性が戻るにつれてアービトラージ機会が減少していっているはずで、クレジットスプレッドが低下すると利鞘も縮小してくるのが常なので、FICC、とりわけクレジット部門での収益持続性はやや疑問あり。(「収益の持続性」については、4月15日付けMHJ記事『ゴールドマン1Q09決算について雑感』を参照。GSのクレジット・リスクテーキングについては、7月17日付けMHJ記事『{続}ゴールドマン強し!(商業銀行ステータス、さっさと返上しろよな)』参照。)
● ただし、GSの場合は、プレスリリースを読むだけだと、2Qで損失を出したモルゲージの仕組債の分野で、今回は結構なリターンをあげたという印象をもった。それが単なる値洗いによる収益増だったのか、実際にフローを作っての収益増だったのかは筆者は確認しようないけど、4Qの注目材料となりそう。というのも、複数の知り合いから最近、CMBS(商業不動産の仕組み債)の分野で動きがあるというウワサをチラっと聞いたから(←これも、具体的に何がどうかってのは未確認)。これまでのパターンとして、停滞ぎみだった市場が動き出すときに収益機会を誰よりも早く上手くつかむのがGSという会社の「お家芸」でもあるので、4Qのストラクチャード市場の状況次第では、4Qの数字に影響与える可能性があり、ひきつづき注目したい。
II. 次に「商業銀行業務」について。(←GSの出る幕なし。GSよ、さっさと商業銀行ステータス返上しろ!)
● 一方の商業銀行業務の分野では、JPMもBACもCも、(1)住宅、(2)住宅以外のコンスーマー、(3)ビジネス、すべての融資分野で不良債権がどっちゃーと増えた。毎期どんなに引当金を積んでも、翌四半期にはそれがみな吹っ飛んで新たに積み直しという状態に置かれているのが透けて見える。融資プールの「質」は劣化が続いているし、これからも当面続く、という印象強し。
● 融資の「質」の劣化が続いているという点については、JPMの3Qプレゼンテーション資料の17ページに、いいグラフがあります。個人向け融資4部門 - ①ホームエクイティ、②プライム、③サブプライム、④カード ― の延滞トレンドのグラフが4つ並んで載っており、いまだに劣化トレンドが止まる様子がないことが見て取れる。これはJPMに限ったことじゃなくて、銀行業界全体がこう。
● どの大手銀行も、オペレーションコストのカットに努めているようだが、いかんせん、不良資産から発生する償却費用がでかすぎて、償却前利益では吸収しきれないというのが現実。JPMはクレジットカードの劣化度がBACよりやや激しく(といっても、どちらもひでー数字だが)、またBACはカントリーワイドから引き継いだ住宅ローン(ホームエクイティローン含む)の劣化がひどくて大量の引き当て積み増しを余儀なくされている様子。BACの場合は、JPMと比べると投資銀行業務やFICCのトレーディング業務での米国内でのフランチャイズが弱く、そこからあがる収益バッファーが少ないがために、商業銀行部門の償却費用の重みが、もろに会社全体のボトムラインに乗っかった。
● ただし、個人向け融資に関していえば、引当率(=不良債権残高に対する引当金残高の割合)はかなり高くなっており(特にJPM)、住宅関連融資のポートがオプションARMのリセットなどで今後さらに不良化が進んでも、引き当てバッファーの厚みが寄与して、最終利益への負担は幾分軽減されそうと言えるところまで実際に近づいてきている、と感じた。(「処理が完了した」という意味ではない。)
● しかし、商業用不動産含むビジネスローンのポートフォリオについては、引当率が住宅融資と比較してずっと低いため、4Q以降は、各行とも、償却負担の中心は、住宅モルゲージローン向けから、商業用不動産向けに移行してくることが容易に予想され、償却前利益の多くが信用コストに消えてゆく状況はまだ続くと見込まれる。
III. 次に、商業銀行部門の(1)住宅、(2)コンスーマー、(3)ビジネス、各セグメントの融資状況について。
● すべてのセグメントにおいて、デレベレージング(Deleveraging=家計や企業がバランスシート上の負債残高を減少させること)が進行している。
● クレジットカード等コンスーマー向けは、金融機関が積極的に高リスクの借り手を外していっているのと、家計の貯蓄率が上昇していて家計みずからもデレベレージしようというモチベーションが高いため、その両方のダイナミクスから引き続き貸し出しボリュームは減少トレンドを続けることが予想される。(これはJPMのCEOダイモンも同じことを言っていた。JPMはクレジットカードで今期痛い目にあった。)
● 住宅融資に関しては、ファニー&フレディといった政府系と連銀のモルゲージ債購入プログラムが調達サイドをサポートしているという理由オンリーでなんとか利鞘確保ができているが、こうして政府支援があっても、償却前利益を超える額の償却コストが発生しているのが現実で、基本的に住宅融資のプライシングモデルは機能していない。貸せば貸すほど損失が膨らむリスクがあるあいだは、銀行側には、積極的に住宅融資を拡大しようというインセンティブは働かない。
● 企業融資に関しては、現在のようなマクロ環境では、借り手も積極的な事業投資を控えるため資金需要自体が乏しく、また、貸す側も、とりわけ中小企業のような中・高リスクの借り手に課したいリスクプレミアムは「政治的圧力」があるために実現しづらく、最も合理的な手段として貸し出しそのものを渋る傾向がある。(日本では亀井さんがモラトリアムだなんだとバカ騒ぎの果てに、政府による支援提供拡大という方向で落着するとか聞いたけど、米国もそれと同様で、政府支援付の融資であれば拡大してもよいが、そんなの低リスク低リターンの融資が増えるだけで、銀行側のリスク回避の姿勢は根本的に変わらない。)
● 商業用不動産の貸し出しは、CMBS市場がいまだ凍結状態にいることもあり、この分野でいま、新規貸し出しを積極的にしようなどという狂った金融機関はいない。(しかし、借り換え需要が来年以降まとまって押し寄せてくるそうなので、デフォルトか条件緩和かの選択に迫られることになるであろう貸し手側は、みな今から緊張してるはず。)
● 以上から、融資拡大というボリューム効果による収益貢献は近い将来は期待できず、今期以降ももっぱら、利鞘改善をめざすことになろうが、史上最大の財政赤字をつけてしまった政府が政治的な立場を優先させて「(救済措置からの)出口対策」の実行に移ると、金融機関の調達コストは上昇し利鞘圧迫につながる。
★ ★ ★
ということで、以上が、今回の決算をながめて得られた、ざっくばらんな【印象】である。印象ですから、あまり具体的な数値がなくて、すみません。数字あげての話は、また別の機会に。
3Q決算、ひとことで筆者の結論を言うと、米金融セクターの財務内容は「まだまだ、ダメ」である。安定化トレンドの「あ」の字もまだ見えてきてない。バランスシートの劣化が止まらないうちに収益だけがホイホイ改善してゆくなんてことが、ありえるわけないんである。とくに商業用不動産はヤバそうだ。
日本の銀行がバブル崩壊後に苦しんだときのことを思い出してみてほしい。邦銀の不良債権問題の中心は、個人向け融資よりも、商業用不動産にからむ企業向け融資がほとんどだったんである。商業用不動産の担保価値の下落が止まらなくて融資の質が劣化し続けたんだよな。当時の日本では、償却費用が償却前利益を上回る状況がしばらく続き自己資本が弱体化してボロボロになった。大手銀行だろうが小規模銀行だろうが、全員やられちまった。現在の米銀は、まさにその「償却費用 > 償却前利益」という状況が実際に起こっている最中なんだよ。
また、米国の場合は、まず、CDOなど複雑な証券化商品投資の含み損が大量に発生して時価会計による損失が自己資本を毀損し(2007~2008年)、ここでいったん政府救済措置による資本注入が必要になった。だが、ここからさらにB/Sの劣化が続き、住宅・カードなど個人向け融資の大量劣化が償却コストを押し上げて、自己資本を圧迫し続け(2008~2009年)、いま、なんとかそのフェーズを乗り越えられるかという段階に来ているものの、かつて邦銀を苦しめ続けた商業用不動産がらみの問題については、これから始まろうとしている。現時点で、償却前利益で償却コストをまかなえる自信がある米銀なんて、いるのか?
世の中には、米大手金融機関は修羅場を脱したという見方をして強気になってるアナリストもいるらしいが、甘いと思うね、わたしは。
★ ★ ★
ま、他にもゴチャゴチャ言いたいことは山程あるが、リーマンショックから丸一年、スペキュラティブな要素がだんだん影をひそめ、ようやくトラディショナルなファンダメンタルズ分析っぽい真似ができるぐらいに落ち着いてきた、という感触も同時に得た筆者である。
これまでは、大地震の後にしばらく余震が続くのと同様に、ショック後の不確定要素と各市場でのボラティリティが高すぎて、いったい次は丁と出るのか半と出るのか誰にもわからんという「ほとんど博打状態」に置かれて、お尻に火を感じながら、4Q08、1Q09、2Q09を突っ走ってきた米金融セクターですからね。前四半期までは突っ走るだけで精一杯だったわけよ。
ところで、3Q09では、GSとJPMがなんといっても勝者であるという、ちまたの理解どおりの図式が確認されたが、バンカメ(BAC)とシティ(C)の二者は、同じ赤字決算といえども、トーンがかなり異なる決算だったように感じる。
Cは、投資銀行部門、商業銀行部門ともにフランチャイズの衰退が激しく、財務指標も全体的に見劣りし、かつての強みだった海外部門からも損失発生がとまらず、現行のビジネスモデルのままでは、遅かれ早かれ、不良資産の増加に押しつぶされるんじゃなかろうかという印象を持った。Cは、資産のリスクに対し資本基盤が弱すぎる。この銀行は今後、海外オペレーションの切り売りと米国内の事業縮小が従来以上に加速して、いずれ Too Big To Fail のカテゴリーから外れるかもしれない、とすら感じた。
一方で、BACには底力がまだ残ってるという気がした。JPMがベアスターンズを二足三文で傘下に入れ、サブプライムでぶっ飛んだWashington Mutualの受け皿にもなり、メリルとカントリーワイドを買収したBACと同様、両者は死に体の証券会社と銀行をそれぞれ引き取ったわけではありますが、ベアスターンズとメリルとじゃ規模もフランチャイズも比較にならず、カントリーワイドとWaMuとじゃ、これまた比較にならず、である。 BACはデカくて高い買い物したな。でも、その分、合併で追加された事業基盤が将来の収益源に化ける可能性は、BACの方が、JPMより大きい。
そうした事業基盤を生かすも殺すもストラテジー次第。BACの運命は、経営陣次第といっても過言ではない。
今年一杯で引退するCEOケン・ルイスの後釜問題でしくじると、その望みも薄くなる。しくじらなければいいんだが・・・。
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Wednesday, October 7, 2009
政治的に正しい行為は市場規律と相容れない
日本では亀井金融担当大臣が、モラトリアム法案を通すとか息巻いているそうで。
で、モラトリアムのせいで中小金融機関のほうに悪影響が及んだら、それも国がなんとかしてあげる、とか言ってるそうで。
さらには、日本で家族間の殺人が増えてるのは大企業のせいだとか、アメリカ型経営が悪いとか、吼えてるそうで。
いやはや・・・(呆れて言葉続かず)。
★ ★ ★
この日本発のニュースを読みながら、筆者は頭の中で、「国は違えど、似たようなアホンダラ政治家はいるものよのぉ・・・」と思っていた。
というのも、アメリカにも、バーニー・フランク(Barney Frank、マサチューセッツ選出、民主)という名の下院議員がいて、彼の提案している『クラムダウン法案(Cramdown Proposal)』が波紋を呼んでいるんである。
クラムダウンとは、要は、リスケすること。現在アメリカの裁判所には、個人破産を申請したひとの財産の一部にあたる持ち家にローンが残っている場合、そのローンをリスケジュール(=Rescheduling、融資条件を変更・緩和すること、以下リスケ)する権限はない。
現行の法律では自己破産すると持ち家は没収されてフォークロージャとして整理清算の対象となるわけだが、実際に本人が住んでいる持ち家(Primary Residence)の場合は、フォークロージャに追い込むのじゃなくて、その家に残っているローンをリスケしてやって返済負担を軽減してやれるような法改正をしようという声が、サブプライム危機が社会問題化してきた一昨年あたりから一部の政治筋を中心に盛りあがってきていた。
このアイディアの旗振り役になってきたのが下院のフランク議員。彼は、裁判所に権限を与えて(つまり、金融機関側から融資条件決定や変更の権利を剥奪して)、貸出金利低減や期間延長などの条件変更および元本ヘアカットなどを決めさせよう、と言ってるんである。
『クラムダウン法案』は、これまで2回、議会の審議に持ち込まれているが、2度とも上院で否決されている。
だが、つい数週間前の9月半ば、フランク議員は「住宅ローンの条件緩和プログラムを政府が作ったのに、金融機関はあまり利用していない。公的資金で資本援助もしてやったのに、積極的に貸出しを増やそうという姿勢も見せない。フォークロージャの増加に歯止めがかからないのは、金融機関がやる気ないからだ。金融機関が重い腰を上げるのを待ってるよりも、裁判所に権限与えて緩和条件を決めさせて、金融機関は裁判所の決定に従ってもらう、そういうやり方のほうが効果がある!」と述べて、昨年春にくじかれた『クラムダウン法案』の復活をにおわせた。
こうした動きに対して、モルゲージバンカーズ協会や金融機関らは「冗談じゃない!」と血相変えてワンワン反対している。
そりゃー、反対しますよね。裁判所でどんな条件になって出てくるかわからないんだから。それでなくてもリスク高いと考えられている住宅ローンのポートフォリオ全体の不確実性がさらに高まって、ポートに内在するリスク量の計測がいま以上に困難になるんだもん。
フォークロージャでポートフォリオから腐った部分を外してしまうことは、最終的な損失額は大きいかもしれないが、ダラダラと腐り続けるのを先延ばししてポートに持ち続けているより、経済的にはいいことがある。
それに、とどのつまりは、雇用市場が悪化してて、モルゲージローンの【支払い原資】、すなわち【給料】が不安定だってときに、月々の支払いを多少軽くしてやったって、そういう借り手は、再びすぐに延滞するに決まってんだから。そうなると、またまた「不良」に逆戻り。
銀行からしてみたら、裁判所の命令で不良債権をバランスシート上に持ち続けていなくちゃいけないという意味になりますからね。反対するのは、あたりまえ。
★ ★ ★
このフランク議員、一介の弱小議員なら無視してればいいんだろうけど、彼は80年代初頭からずっと現職を勤めてるベテランで、(ちょっとハチャメチャな強烈キャラが受けて)一般有権者からは結構人気があり、下院の金融機関に関する問題を話し合う諮問機関 Financial Service Committee の委員長でもある、という米政界の重鎮である。彼が委員長を務める委員会では、現在、金融規制をテーマに議論を進めてる。
亀井さんもそうだけど、なまじ影響力のあるベテラン政治家だってところが、始末悪い。
そして、往々にして、この手の政治筋による金融市場介入は、【ロジック】よりも【政治的思惑】や【ポピュリズム】が優先されるから、「有権者保護」という御旗のもとに、さんざん市場規律に横やり入れて、挙句の果てが、財政負担という重しになって(保護されるはずだった)納税者にコストが戻ってくる、そういう例が多いよな。
前回のMHJ記事で紹介したFederal Housing Administration(FHA)も、そのいい例である。
前回の内容だけだと、FHAってずいぶんズサンなことやってたのねー、と思われるかもしれないが、FHAの財務内容というのは、実は2005~2006年ごろまでは、持ち家の一軒家のみ対象で投資用物件は対象外という絞込みと政府機関ゆえのスクリーニングや手続きの煩雑さも手伝って、けして良くはなかったが、そんなにひどくもなかった。最初から低所得者などのリスク高めの借り手を相手にする公的機関なので、民間銀行のプライム融資全体の延滞率よりも悪かったが、民間が出してるサブプライム融資全体の延滞率よりはマシ、という“まあまあ”な状態であった。
実際2007年7月のFHAのフォークロージャ率は、民間金融機関が出すサブプライム融資のフォークロージャの半分にとどまっていた。FHAのトップは、政府機関といえども市場規律を経営に持ち込んで徴収するプレミアムに借り手のリスクに見合わせて差をつけることを検討したい、とまで言っていた。
それが、急に財務内容が目立って悪化を始め、もう手遅れと思わせるまでドツボにはまりだしたのは、2007年の後半からサブプライム問題が社会問題として表面化し、政治筋が何とか手を打とうと動き出し、延滞している債務者の救済のために「政府機関であるFHAを利用しよう」という動きが活発化して以降、である。
2007年8月、当時のブッシュ共和政権は、急速に広まりつつあるサブプライム延滞と予想されるフォークロージャの増加に対処するため(だが、本音のところでは、翌年の大統領選を意識して、共和政権を継続できるかどうかという政治的にもっとも重要なタイミングでホームレス増やすわけにいかん、という政治的思惑が働いて)、「FHA改革」と称して、FHAの保険対象拡大策を打ち出した。
このとき、フランク議員を筆頭に民主側は、ブッシュのやり方は手ぬるい、ファニー、フレディやFHAなど準政府機関が設定している「貸出上限」を引き上げろ、と要求した。いちおう表向きは「市場寄り」を自負してたブッシュ政権は、さすがに、それやると民間による貸出のクラウディングアウトに繋がるからと反対。さらにフランクは、FHAの手続きをもっと簡素化して申請しやすくしろとプレッシャーかけたが、FHAのデフォルトリスク上昇を懸念する共和党サイドが難色を示し、このときは彼の主張は通らなかった。
しかし、2008年に入ってからも住宅価格の下落が続いて問題は大きくなるばかり。ブッシュ政権は、サブプライムの借り手救済策をさらに拡大すべく、一年後の2008年の夏には、フレディら政府系の貸し出し上限を大幅に引き上げ、さらに、金融機関が担保価値を現在の市場価格まで償却し元本を低減させてリファイナンスするならばフォークロージャになりかけてる借り手でもFHAが保証を出してあげるという条項が含まれた The American Housing Rescue and Foreclosure Prevention Act という法案が議会を通過。
このときも、政界の一部では、FHAが高レベルのリスクテーキングをすることに懸念を示し、こんなことを続けていたらFHAを閉鎖する結果につながりかねないと心配する声もあったが、フランク議員は、そうした懸念に対して、こんな言葉を吐いて一笑に付した。
50万人の借り手が“全員”ローン返済しない状況?全員デフォルト?延滞率100%?ありえねーだろ、そういう数字。フランクのおっさん、実にメチャクチャなこと言って、強気振り回していたんである。
そして、オバマ政権に移行してからも、住宅市場の状況はご承知のとおり。
オバマ就任直後の2月、現政権は Making Home Affordable (MHA)というプログラムに着手して、実質的にはブッシュ時代に始まっていた援助内容をレベルアップし、政府のリスクテーキング姿勢をさらに一歩進めた。
現在、フレディ、ファニー、FHAら政府系の支援付の住宅ローンの借り入れ可能額は、最高72万9750ドルである。
でもね、73万ドルっていったら8千万円相当ですよ。仮にこれがLTV=80%だとすると、一億円の家買うのに政府の援助付けてもらえる、という意味ではないか。
73万ドルの借り入れ元本を、期間30年で、年利5%で計算すると、月々のローン返済額約4000ドル。これに車のローンだの、クレジットカードの返済だの、学生ローンだの、借金ぜんぶあわせた額が税前収入の55%を超えてると政府プログラムは使わせてもらえないそうである。
だけどさ、仮に毎月1万ドルの税前収入がある家族(年間12万ドル)がいたと想定して、そこから所得税を払い、月々5500ドルの借金(うち4000ドル住宅ローン)もキチンと返すとなると、住宅ローンの金利から生まれる税効果を考慮したとしたって、生活費(光熱費込み)として手元に残るのは、一週間650ドルあるかどうかってぐらいだよ。失業保険が週400ドルかそこらなんだから、年収1千万円以上あっても、実際の生活は失業保険の手当てより少々マシってぐらいでしょ?でも、妻と子供が二人いたら、そんなもんじゃこの国で生活できんだろが??ということは、そういうひとたちは、ふたたび借金地獄に戻ってゆくのである・・・。
(怖いのは、Economy.comによると、全米のホームオーナー5100万世帯のうち、約3分の1にあたる1600万世帯が、月々の借金返済が税前キャッシュフローの55%のライン超えちゃってる、という話。情報はここ。)
もっと現実的なケースを想定して、仮に住宅ローン分が税引き後の収入の3分の1にあたるとして逆算すると、これだけの住宅ローンを払い続けることができるひとは、年間25万ドルの「安定収入」を期待できるようなひとじゃないでしょうか。でも、年収25万ドルのひとは政府支援を受ける対象にならんでしょ。
政府支援の対象者で、かつ、月々4000ドルもの住宅ローンを今後もずっと払い続けることができるひとって、どこの誰? そういうのを、Irrational Behavior(非合理的行為)というんじゃないでしょうか。Irratiobal Behaviorを支えてあげるために、我々の税金使う。
だから、政府のやることは、ズレてる、ってんである。
★ ★ ★
政府プログラムが刺激となって住宅市場の下支えになるハズだったが、雇用がこのザマでは、どうしようもない。
刺激どころか、前回のMHJ記事で書いたように、9割の住宅資金が政府支援がなければ回らないのが現状である。
結局、そうやって政府の支援枠を拡大し続け、デフォルトリスクを取り込むにいいだけ取り込んで、挙句の果てには、政府系金融機関の救済措置になるんだから。それに使われるカネも、わたしの税金だ。しかも今後さらに、Option ARMのリセットがドバーと乗っかってくるんだから、フォークロージャは止まらない。で、もっと支援枠を拡大するはめになり、リカバリーできない最終損失がいくらになるのか、想像するのも怖い。
フランク議員みたいのに言わせると、住宅市場がなかなか活性化しないのは、金融機関が貸し渋りしてるからだそうでして。だから『クラムダウン』が必要だ、と。
金融機関が言うこときかないなら、腕をひねり上げて、無理やりリスクとらせてやるぞ、ということか。
フランク議員の発想は、亀井大臣の発想と、まったく同じね。
こういうひとたちって、金融機関がなぜ、いま、融資を積極拡大して信用リスクを自己のバランスシート上に取りたがらないのか、取りたくても取れないのか、そこのポイントは、まったく考えたことがないんだろうな。(答えは、リスクキャピタルが足りないから。)
★ ★ ★
結局、こうした政治サイドの市場介入が何やってるかというと、金融市場の社会主義化を進めているんである。
だが、完全なソーシャリズムは実行できないから、表向きは市場主義を尊重するフリして、実際は市場規律を歪める手伝いに精を出し、大衆を黙らせるためには金融機関を悪代官にみたてた水戸黄門劇で本質論をごまかして、将来の財政悪化(=我々の税負担増加)の種まきを、いまからせっせとやっているんである。
Eric Englund というエコノミストが、GSE救済の8ヶ月前にあたる2008年1月に、『カントリーワイドとモルゲージ社会主義の失敗』と題する長文のコメンタリーを書いている。
Countrywide Financial Corporation and the Failure of Mortgage Socialism
(LewRockwell.com,1/28/08)
このコメンタリーで、エングルンドは、当時のブッシュ政権が推進していた住宅政策はアメリカンドリームという言葉を借りた「モルゲージ・ソーシャリズム」であり、全米最大手の住宅ローン会社カントリーワイドのCEOアンジェロ・マジロは、政治的に正しい(Politically Correct)行いをすることで、市場規律に背を向けて巨額の富を得たのだと書いている。
このコメンタリーには、2007年10月にブッシュ大統領が言った言葉が引用されている。
低所得者層にサブプライムローンを提供することは、「ホームオーナーシップをすべてのアメリカ人に!」という政治的意図に沿った行為(Political Correctness)であったが、一方ではリスク管理の基本ともいえる信用力判断と市場規律にのっとったプライシングを反故(ほご)にして、政治的正義を優先させた、その結果こそが、カントリーワイドの興亡と住宅ローン市場の混乱であった、とエングルンドはいうのだ。
カントリーワイドは、従来の銀行の信用審査ではとうてい通らないような高リスクの顧客にも積極的に融資し、それらを次から次へとフレディやファニーに売却し、サービシングフィー(注※)を受け取っていた。
(注※)融資をオリジネートした金融機関が証券化のために外部のビークルに融資を売却してオフバラ化しても、実際の融資の回収などの実務は引き続き手がけることが多い。サービシング・フィーとは、その回収実務などに支払ってもらう手数料のことで、2007年ごろの手数料のレートは、固定金利の場合25bps、ARMの場合は37.5bps、FHA保証付融資の場合は44bps、サブプライムの場合はそれによって異なる、とある。(詳しくはこちら。)つまり、融資額が大きくなればなるほどサービシングの手数料収入も増えるわけで、カントリーワイドの場合、ピーク時には1.5兆ドルの融資サービシングを手がけ、ここから発生する手数料が最大安定収益源であった。
「持ち家=アメリカンドリーム」という政治的等式が成り立っているからこそ、フレディやファニーも、政府がスポンサーになってるわけである。
で、そのフレディにとっても、カントリーワイドのような大手の住宅ローン会社は、どんどん融資を持ってきてくれるパートナー的存在になっていた。
2008年の3月、ちょうどベアスターンズがJPモルガンに救済合併されたとき、ニューヨークでは、リーマンブラザーズが主催する機関投資家向けの金融コンファレンスが開かれていて、全米の主要金融機関および海外の大手金融機関のトップなども集まって、注目されていた。 (いま振り返ってみると、リーマン主催の金融コンファレンスって・・・すごいコンファレンスであったな・・・。)
筆者もそのコンファレスには出席してて、ちょうどフレディのプレゼンがあったので聞きに行ったのだが、プレゼン後のQ&Aの席で、当時のフレディのCFOが、「カントリーワイドはフレディにとって最大かつ最重要顧客。政府もそれは承知していて、モルゲージ市場が安定度を早急に取り戻せるよう、常に互いに連絡を密に取り合い、きっちり協調体制を敷いて一緒にがんばっている。」みたいな言葉を述べたのを、筆者はいまでも覚えている。
カントリーワイドとフレディと米政府は、一蓮托生の間柄を長年続けていたんであるよ。
だからこそ、リーマンショック後、フランク議員ほか政界関係者が「寝耳に水」みたいな顔してウォール街に責任なすりつけてバッシングするのを見ると、「あんたらこそ、ずっと何やってたのさ。」とつい言い返したくなるんである。
ソーシャリズムと市場規律は相容れない。
ブッシュの時代は、【Politically Correct】のために規制緩和をやったが、ソーシャリズムとキャピタリズムを混合し規制監視をおろそかにして市場の暴走を許した。
オバマに替わると、やっぱり、【Politically Correct】のために規制強化を推進しようとし、市場が持つ健全な機能まで狭めようとしている。
いずれにせよ、政治筋が介入して市場に圧力かけたり市場規律を歪めたりすると、たいがい、ろくな結果にはならん。
バーニー・フランク、少し黙っててほしい。(でも、黙らんのよ、このひと・・・)
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で、モラトリアムのせいで中小金融機関のほうに悪影響が及んだら、それも国がなんとかしてあげる、とか言ってるそうで。
さらには、日本で家族間の殺人が増えてるのは大企業のせいだとか、アメリカ型経営が悪いとか、吼えてるそうで。
いやはや・・・(呆れて言葉続かず)。
★ ★ ★
この日本発のニュースを読みながら、筆者は頭の中で、「国は違えど、似たようなアホンダラ政治家はいるものよのぉ・・・」と思っていた。
というのも、アメリカにも、バーニー・フランク(Barney Frank、マサチューセッツ選出、民主)という名の下院議員がいて、彼の提案している『クラムダウン法案(Cramdown Proposal)』が波紋を呼んでいるんである。
クラムダウンとは、要は、リスケすること。現在アメリカの裁判所には、個人破産を申請したひとの財産の一部にあたる持ち家にローンが残っている場合、そのローンをリスケジュール(=Rescheduling、融資条件を変更・緩和すること、以下リスケ)する権限はない。
現行の法律では自己破産すると持ち家は没収されてフォークロージャとして整理清算の対象となるわけだが、実際に本人が住んでいる持ち家(Primary Residence)の場合は、フォークロージャに追い込むのじゃなくて、その家に残っているローンをリスケしてやって返済負担を軽減してやれるような法改正をしようという声が、サブプライム危機が社会問題化してきた一昨年あたりから一部の政治筋を中心に盛りあがってきていた。
このアイディアの旗振り役になってきたのが下院のフランク議員。彼は、裁判所に権限を与えて(つまり、金融機関側から融資条件決定や変更の権利を剥奪して)、貸出金利低減や期間延長などの条件変更および元本ヘアカットなどを決めさせよう、と言ってるんである。
『クラムダウン法案』は、これまで2回、議会の審議に持ち込まれているが、2度とも上院で否決されている。
だが、つい数週間前の9月半ば、フランク議員は「住宅ローンの条件緩和プログラムを政府が作ったのに、金融機関はあまり利用していない。公的資金で資本援助もしてやったのに、積極的に貸出しを増やそうという姿勢も見せない。フォークロージャの増加に歯止めがかからないのは、金融機関がやる気ないからだ。金融機関が重い腰を上げるのを待ってるよりも、裁判所に権限与えて緩和条件を決めさせて、金融機関は裁判所の決定に従ってもらう、そういうやり方のほうが効果がある!」と述べて、昨年春にくじかれた『クラムダウン法案』の復活をにおわせた。
こうした動きに対して、モルゲージバンカーズ協会や金融機関らは「冗談じゃない!」と血相変えてワンワン反対している。
そりゃー、反対しますよね。裁判所でどんな条件になって出てくるかわからないんだから。それでなくてもリスク高いと考えられている住宅ローンのポートフォリオ全体の不確実性がさらに高まって、ポートに内在するリスク量の計測がいま以上に困難になるんだもん。
フォークロージャでポートフォリオから腐った部分を外してしまうことは、最終的な損失額は大きいかもしれないが、ダラダラと腐り続けるのを先延ばししてポートに持ち続けているより、経済的にはいいことがある。
それに、とどのつまりは、雇用市場が悪化してて、モルゲージローンの【支払い原資】、すなわち【給料】が不安定だってときに、月々の支払いを多少軽くしてやったって、そういう借り手は、再びすぐに延滞するに決まってんだから。そうなると、またまた「不良」に逆戻り。
銀行からしてみたら、裁判所の命令で不良債権をバランスシート上に持ち続けていなくちゃいけないという意味になりますからね。反対するのは、あたりまえ。
★ ★ ★
このフランク議員、一介の弱小議員なら無視してればいいんだろうけど、彼は80年代初頭からずっと現職を勤めてるベテランで、(ちょっとハチャメチャな強烈キャラが受けて)一般有権者からは結構人気があり、下院の金融機関に関する問題を話し合う諮問機関 Financial Service Committee の委員長でもある、という米政界の重鎮である。彼が委員長を務める委員会では、現在、金融規制をテーマに議論を進めてる。
亀井さんもそうだけど、なまじ影響力のあるベテラン政治家だってところが、始末悪い。
そして、往々にして、この手の政治筋による金融市場介入は、【ロジック】よりも【政治的思惑】や【ポピュリズム】が優先されるから、「有権者保護」という御旗のもとに、さんざん市場規律に横やり入れて、挙句の果てが、財政負担という重しになって(保護されるはずだった)納税者にコストが戻ってくる、そういう例が多いよな。
前回のMHJ記事で紹介したFederal Housing Administration(FHA)も、そのいい例である。
前回の内容だけだと、FHAってずいぶんズサンなことやってたのねー、と思われるかもしれないが、FHAの財務内容というのは、実は2005~2006年ごろまでは、持ち家の一軒家のみ対象で投資用物件は対象外という絞込みと政府機関ゆえのスクリーニングや手続きの煩雑さも手伝って、けして良くはなかったが、そんなにひどくもなかった。最初から低所得者などのリスク高めの借り手を相手にする公的機関なので、民間銀行のプライム融資全体の延滞率よりも悪かったが、民間が出してるサブプライム融資全体の延滞率よりはマシ、という“まあまあ”な状態であった。
実際2007年7月のFHAのフォークロージャ率は、民間金融機関が出すサブプライム融資のフォークロージャの半分にとどまっていた。FHAのトップは、政府機関といえども市場規律を経営に持ち込んで徴収するプレミアムに借り手のリスクに見合わせて差をつけることを検討したい、とまで言っていた。
それが、急に財務内容が目立って悪化を始め、もう手遅れと思わせるまでドツボにはまりだしたのは、2007年の後半からサブプライム問題が社会問題として表面化し、政治筋が何とか手を打とうと動き出し、延滞している債務者の救済のために「政府機関であるFHAを利用しよう」という動きが活発化して以降、である。
2007年8月、当時のブッシュ共和政権は、急速に広まりつつあるサブプライム延滞と予想されるフォークロージャの増加に対処するため(だが、本音のところでは、翌年の大統領選を意識して、共和政権を継続できるかどうかという政治的にもっとも重要なタイミングでホームレス増やすわけにいかん、という政治的思惑が働いて)、「FHA改革」と称して、FHAの保険対象拡大策を打ち出した。
このとき、フランク議員を筆頭に民主側は、ブッシュのやり方は手ぬるい、ファニー、フレディやFHAなど準政府機関が設定している「貸出上限」を引き上げろ、と要求した。いちおう表向きは「市場寄り」を自負してたブッシュ政権は、さすがに、それやると民間による貸出のクラウディングアウトに繋がるからと反対。さらにフランクは、FHAの手続きをもっと簡素化して申請しやすくしろとプレッシャーかけたが、FHAのデフォルトリスク上昇を懸念する共和党サイドが難色を示し、このときは彼の主張は通らなかった。
しかし、2008年に入ってからも住宅価格の下落が続いて問題は大きくなるばかり。ブッシュ政権は、サブプライムの借り手救済策をさらに拡大すべく、一年後の2008年の夏には、フレディら政府系の貸し出し上限を大幅に引き上げ、さらに、金融機関が担保価値を現在の市場価格まで償却し元本を低減させてリファイナンスするならばフォークロージャになりかけてる借り手でもFHAが保証を出してあげるという条項が含まれた The American Housing Rescue and Foreclosure Prevention Act という法案が議会を通過。
このときも、政界の一部では、FHAが高レベルのリスクテーキングをすることに懸念を示し、こんなことを続けていたらFHAを閉鎖する結果につながりかねないと心配する声もあったが、フランク議員は、そうした懸念に対して、こんな言葉を吐いて一笑に付した。
”The only way the program could jeopardize the agency is if none of the 500,000 borrowers expected to be helped by the program repaid their loans.”
「このプログラムがFHAの経営地盤を揺るがすような事態が起こるとしたら、それは唯一、このプログラムから援助を受けるであろう50万人の借り手が誰ひとりとしてローンを払わなくなるときだ。」
50万人の借り手が“全員”ローン返済しない状況?全員デフォルト?延滞率100%?ありえねーだろ、そういう数字。フランクのおっさん、実にメチャクチャなこと言って、強気振り回していたんである。
そして、オバマ政権に移行してからも、住宅市場の状況はご承知のとおり。
オバマ就任直後の2月、現政権は Making Home Affordable (MHA)というプログラムに着手して、実質的にはブッシュ時代に始まっていた援助内容をレベルアップし、政府のリスクテーキング姿勢をさらに一歩進めた。
現在、フレディ、ファニー、FHAら政府系の支援付の住宅ローンの借り入れ可能額は、最高72万9750ドルである。
でもね、73万ドルっていったら8千万円相当ですよ。仮にこれがLTV=80%だとすると、一億円の家買うのに政府の援助付けてもらえる、という意味ではないか。
73万ドルの借り入れ元本を、期間30年で、年利5%で計算すると、月々のローン返済額約4000ドル。これに車のローンだの、クレジットカードの返済だの、学生ローンだの、借金ぜんぶあわせた額が税前収入の55%を超えてると政府プログラムは使わせてもらえないそうである。
だけどさ、仮に毎月1万ドルの税前収入がある家族(年間12万ドル)がいたと想定して、そこから所得税を払い、月々5500ドルの借金(うち4000ドル住宅ローン)もキチンと返すとなると、住宅ローンの金利から生まれる税効果を考慮したとしたって、生活費(光熱費込み)として手元に残るのは、一週間650ドルあるかどうかってぐらいだよ。失業保険が週400ドルかそこらなんだから、年収1千万円以上あっても、実際の生活は失業保険の手当てより少々マシってぐらいでしょ?でも、妻と子供が二人いたら、そんなもんじゃこの国で生活できんだろが??ということは、そういうひとたちは、ふたたび借金地獄に戻ってゆくのである・・・。
(怖いのは、Economy.comによると、全米のホームオーナー5100万世帯のうち、約3分の1にあたる1600万世帯が、月々の借金返済が税前キャッシュフローの55%のライン超えちゃってる、という話。情報はここ。)
もっと現実的なケースを想定して、仮に住宅ローン分が税引き後の収入の3分の1にあたるとして逆算すると、これだけの住宅ローンを払い続けることができるひとは、年間25万ドルの「安定収入」を期待できるようなひとじゃないでしょうか。でも、年収25万ドルのひとは政府支援を受ける対象にならんでしょ。
政府支援の対象者で、かつ、月々4000ドルもの住宅ローンを今後もずっと払い続けることができるひとって、どこの誰? そういうのを、Irrational Behavior(非合理的行為)というんじゃないでしょうか。Irratiobal Behaviorを支えてあげるために、我々の税金使う。
だから、政府のやることは、ズレてる、ってんである。
★ ★ ★
政府プログラムが刺激となって住宅市場の下支えになるハズだったが、雇用がこのザマでは、どうしようもない。
刺激どころか、前回のMHJ記事で書いたように、9割の住宅資金が政府支援がなければ回らないのが現状である。
結局、そうやって政府の支援枠を拡大し続け、デフォルトリスクを取り込むにいいだけ取り込んで、挙句の果てには、政府系金融機関の救済措置になるんだから。それに使われるカネも、わたしの税金だ。しかも今後さらに、Option ARMのリセットがドバーと乗っかってくるんだから、フォークロージャは止まらない。で、もっと支援枠を拡大するはめになり、リカバリーできない最終損失がいくらになるのか、想像するのも怖い。
フランク議員みたいのに言わせると、住宅市場がなかなか活性化しないのは、金融機関が貸し渋りしてるからだそうでして。だから『クラムダウン』が必要だ、と。
金融機関が言うこときかないなら、腕をひねり上げて、無理やりリスクとらせてやるぞ、ということか。
フランク議員の発想は、亀井大臣の発想と、まったく同じね。
こういうひとたちって、金融機関がなぜ、いま、融資を積極拡大して信用リスクを自己のバランスシート上に取りたがらないのか、取りたくても取れないのか、そこのポイントは、まったく考えたことがないんだろうな。(答えは、リスクキャピタルが足りないから。)
★ ★ ★
結局、こうした政治サイドの市場介入が何やってるかというと、金融市場の社会主義化を進めているんである。
だが、完全なソーシャリズムは実行できないから、表向きは市場主義を尊重するフリして、実際は市場規律を歪める手伝いに精を出し、大衆を黙らせるためには金融機関を悪代官にみたてた水戸黄門劇で本質論をごまかして、将来の財政悪化(=我々の税負担増加)の種まきを、いまからせっせとやっているんである。
Eric Englund というエコノミストが、GSE救済の8ヶ月前にあたる2008年1月に、『カントリーワイドとモルゲージ社会主義の失敗』と題する長文のコメンタリーを書いている。
Countrywide Financial Corporation and the Failure of Mortgage Socialism
(LewRockwell.com,1/28/08)
このコメンタリーで、エングルンドは、当時のブッシュ政権が推進していた住宅政策はアメリカンドリームという言葉を借りた「モルゲージ・ソーシャリズム」であり、全米最大手の住宅ローン会社カントリーワイドのCEOアンジェロ・マジロは、政治的に正しい(Politically Correct)行いをすることで、市場規律に背を向けて巨額の富を得たのだと書いている。
このコメンタリーには、2007年10月にブッシュ大統領が言った言葉が引用されている。
"Two thirds of all Americans own their homes, yet we have a problem here in America because fewer than half of the Hispanics and half of the African Americans own their home. That's a homeownership gap. It's a gap that we've got to work together to close for the good of our Country, for the sake of a more hopeful future. We've got to work to knock down the barriers..."
「アメリカ家庭の3分の2が自分の家を持っている。だが、米国にはまだ問題が残っている。なぜなら、持ち家比率は、ヒスパニック層では半分以下、黒人層では半分しか到達できていない。これは、ホームオーナーシップの格差だ。より希望に満ちた未来のためにも、我々はともに力を合わせて、この格差を縮めてゆくよう努力しなければならない。この格差を生むバリアは壊してゆかねばならない。」(引用終)
低所得者層にサブプライムローンを提供することは、「ホームオーナーシップをすべてのアメリカ人に!」という政治的意図に沿った行為(Political Correctness)であったが、一方ではリスク管理の基本ともいえる信用力判断と市場規律にのっとったプライシングを反故(ほご)にして、政治的正義を優先させた、その結果こそが、カントリーワイドの興亡と住宅ローン市場の混乱であった、とエングルンドはいうのだ。
カントリーワイドは、従来の銀行の信用審査ではとうてい通らないような高リスクの顧客にも積極的に融資し、それらを次から次へとフレディやファニーに売却し、サービシングフィー(注※)を受け取っていた。
(注※)融資をオリジネートした金融機関が証券化のために外部のビークルに融資を売却してオフバラ化しても、実際の融資の回収などの実務は引き続き手がけることが多い。サービシング・フィーとは、その回収実務などに支払ってもらう手数料のことで、2007年ごろの手数料のレートは、固定金利の場合25bps、ARMの場合は37.5bps、FHA保証付融資の場合は44bps、サブプライムの場合はそれによって異なる、とある。(詳しくはこちら。)つまり、融資額が大きくなればなるほどサービシングの手数料収入も増えるわけで、カントリーワイドの場合、ピーク時には1.5兆ドルの融資サービシングを手がけ、ここから発生する手数料が最大安定収益源であった。
「持ち家=アメリカンドリーム」という政治的等式が成り立っているからこそ、フレディやファニーも、政府がスポンサーになってるわけである。
で、そのフレディにとっても、カントリーワイドのような大手の住宅ローン会社は、どんどん融資を持ってきてくれるパートナー的存在になっていた。
2008年の3月、ちょうどベアスターンズがJPモルガンに救済合併されたとき、ニューヨークでは、リーマンブラザーズが主催する機関投資家向けの金融コンファレンスが開かれていて、全米の主要金融機関および海外の大手金融機関のトップなども集まって、注目されていた。 (いま振り返ってみると、リーマン主催の金融コンファレンスって・・・すごいコンファレンスであったな・・・。)
筆者もそのコンファレスには出席してて、ちょうどフレディのプレゼンがあったので聞きに行ったのだが、プレゼン後のQ&Aの席で、当時のフレディのCFOが、「カントリーワイドはフレディにとって最大かつ最重要顧客。政府もそれは承知していて、モルゲージ市場が安定度を早急に取り戻せるよう、常に互いに連絡を密に取り合い、きっちり協調体制を敷いて一緒にがんばっている。」みたいな言葉を述べたのを、筆者はいまでも覚えている。
カントリーワイドとフレディと米政府は、一蓮托生の間柄を長年続けていたんであるよ。
だからこそ、リーマンショック後、フランク議員ほか政界関係者が「寝耳に水」みたいな顔してウォール街に責任なすりつけてバッシングするのを見ると、「あんたらこそ、ずっと何やってたのさ。」とつい言い返したくなるんである。
ソーシャリズムと市場規律は相容れない。
ブッシュの時代は、【Politically Correct】のために規制緩和をやったが、ソーシャリズムとキャピタリズムを混合し規制監視をおろそかにして市場の暴走を許した。
オバマに替わると、やっぱり、【Politically Correct】のために規制強化を推進しようとし、市場が持つ健全な機能まで狭めようとしている。
いずれにせよ、政治筋が介入して市場に圧力かけたり市場規律を歪めたりすると、たいがい、ろくな結果にはならん。
バーニー・フランク、少し黙っててほしい。(でも、黙らんのよ、このひと・・・)
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