(Reuters, 6/2/11)
米国債発行額上限をめぐって、米議会では相変わらず、民主と共和で対立し合ってて、完全に政治問題化している。共和側はオバマが提案した歳出カットでは納得できない、もっともっと歳出へらさなければ、上限引き上げの方だってウンと言わないぞ、と言い張って、上限リミットを「人質」にしてオバマ民主政権を追い詰めることに躍起になっているわけである。
この問題については、4月18日のMHJ記事『合衆国が取れないリスク』にも書いたので参照されたし。
しかし、昨日(6月1日)の午前に出されてきた雇用統計と製造業統計では、往復ビンタ張られた米経済である。
(ウォール・ストリート・ジャーナル日本版、6/2/11)
(以下WSJ日本版より引用)
米サプライマネジメント協会(ISM)が1日発表した5月の米製造業活動は拡大幅が大幅に縮小。一方、別に発表された同月の民間部門の新規雇用数もほとんど増えず、米国の第2四半期(4-6月)経済に対する懸念が増幅されるのは必至だ。
(引用終わり)
早朝からこのニュースで冷や水ぶっ掛けられた昨日の市場は、10年債は3%割れ、ダウは280ポイントも下落。今日2日も、明日金曜日の雇用統計を控えていて様子見モード、10年金利は冒頭のニュースで3%を戻していたものの、とてもじゃないが積極的にリスク・オン(Risk On)などというムードは、どこにもなし。
なのに、ワシントンDCの舞台に目を移すと、相変わらず「歳出カット歳出カット」と、ナントカの一つ覚えのように絶叫しているわけである。
いまここでディープな歳出カットをマジで実行したらどうなるのか、米国債発行できずに本当にデフォったらどうなっちゃうのか・・・そんな不安は下院議長のベーナーはじめ共和の側だって少なからず抱えているわけだし、「ここで限度超えてやりすぎたらブーメラン・・・」という自覚と計算も働いている。
なのに、それでもやっちゃう内向き政治パフォーマンス。
要するに、この問題はほとんど純粋に「政局化」してるわけだ。(別名:大統領予備選前のオバマいじめ)
こっちは毎日の食費やガソリン代の遣り繰りで忙しいっつーに、アホか。
ん?そういえば、極東のどこかでも、被災地のみなさんほったらかして、首相降ろしの内輪パフォーマンスを延々と繰り広げていた某国がありましたね。
(下の写真は、政局猿芝居を呆れて眺めている国民の目。場所は変われど、目つきは同じ。)
★ ★ ★ ★
ポール・クルーグマンはじめ、ケインズ派のマクロ経済界の重鎮達は、こういう政界アホ芝居が煮詰まるだけ煮詰まって、本当に引き締めモードに突入してしまうかも・・・と警戒しており、最近マクロ経済のフロントでは、あちこちで「1937」という数字が踊る。
1937、つまり、別名『Roosevelt Recession』と呼ばれる1937年~38年にかけての景気後退のことだが、当時のルーズベルト大統領と中央銀行は、大恐慌から回復したという判断のもとに歳出削減と金融引き締めを行い、その途端にまたまたリセッションに逆戻りしちゃった、という過去の失策を象徴する数字である。
クルーグマンは、経済成長が継続すると期待されだした2010年の初めにも、NYタイムズに『あの1937年の雰囲気』という題のコラムを書き、失業率はまだまだ高い、経済指標がちょっと良くなってきたからといって、ここで軽はずみなことはしないほうがよいと釘を刺した。
(NYTimes, 1/3/10)
そして、昨日もまた、自己のブログに『2011年は1937年?』という短い記事を掲載。
(NYTimes, 6/1/11)
この短いエントリーでクルーグマンはNY連銀のエコノミストGauti Eggertssonの記事を紹介し、1937年と現在とで米国のマクロ経済の状況は非常に似通っていると主張している。皮肉屋のクルーグマンらしく、「ただし、連銀は同じ間違いは犯さないと言うGautiの意見には反対だ、そりゃー、(Gautiは連銀の人間だから)連銀のリサーチは間違えないかもしれないけど、ECBはきっと間違いを犯すだろうし、連銀理事会だって政治的なプレッシャーをいまガンガン受けていて何やるかわからないもん」と辛らつな書き方をしている。
MHJ筆者が目を惹かれたのは、「1937年当時の失業率は2011年の現在よりも高かったが、現在と同じ測り方に引き直せば、10%以下になる」という一文。
ちなみに、NYタイムズの記事によると、大統領選の投票日に失業率が7.2%を超えていた政権で再選を果たした大統領は、ルーズベルト以来、ひとりもいないそうである。
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