Wednesday, September 30, 2009

自作自演の市場回復の果てはブラックホールの恐怖

☆ モルゲージローンの月々の支払い額を下げたり、現金の引き出しが可能です!
☆ 借り換えの際はLTVは95%までオッケー!
☆ 頭金はローンの3.5%あればオッケー!
☆ クレジット審査はフレキシブル!クレジットスコアが低くても安心!

上は、某住宅ローン会社の貸し出し条件の『広告文』である。

いえ、2007年ごろのカントリーワイドの広告じゃありません。

2009年9月現在、FHAが、金融機関を通じて提示している貸し出し条件である。FHAとは、米国政府の直轄住宅ローン公社【Federal Housing Administration】のこと。(画像はSeeking Alpha内のブログから。)





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FHAは30年代の恐慌最悪期に安定的な住宅購入資金を提供する目的で作られ、現在はHUD(Department of Housing and Urban Development = 米住宅都市開発省)の一部になっている。

同じく“政府系”には、前回のMHJで登場したフレディマック(FRE)やファニーメイ(FNM)がいるけど、フレディやファニーってのは、米国政府が“スポンサー”になっているため、GSE=Government Sponsored Enterpriseと呼ばれてるが、政府が救済措置で80%オーナーになる前は、れっきとした民間の株式会社であった。FREやFNMがやってた業務は、一般銀行や民間金融会社がオリジネートした住宅ローンを買い上げてプールを作り、それを証券化してMBS(Mortgage Backed Securities)にして市場の投資家に売る、そういう「証券化業務」をやる会社。

それに対し、FHAというのは、正真正銘、政府の一部であるから、米国政府という信用力をバックに一般商業銀行らがオリジネートする住宅ローンに【保証】を出すことで、オリジネーターが取った信用リスクを政府に移管する(リスクトランスファーする)、そういう「保証(保険)業務」を仕事にしている公的機関である。(フレディやファニーメイらGSEと、FHAの業務内容を混乱なさらないように。)

2006年ごろのデータでは、米国の住宅融資市場は10兆ドル市場と呼ばれてて、米国の債券市場全体の4分の1に相当する巨大な資金市場。うち5兆ドル超が、フレディやファニーメイやFHAのの息がかかっている、Agency Residential Mortgage Loans であった。ものすごく巨大な市場のため、この市場が崩壊するとグローバルで回ってる債券市場全体に影響がおよぶからね。それで政府も救済にやっきだったわけよ。

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前置きが長くなったが、そのFHAなんですが、この公社の財務が相当ヤバイことになってきてて、フレディやファニーのように近々救済措置を取らないと破裂しそうなんである。

「FHAがヤバい」という話は、実は一年以上も前からForbesとかが結構しつこく記事にして追いかけてて(この記事とかこの記事)、住宅関連資金市場に関わってる者にはよく知られた話だったが、昨年のフレディマックとファニーメイの救済措置劇(救済総額1000億ドル)があまりに強烈だったため、それより規模の小さいFHAは、すっかり陰に隠れてしまった感がある。

だが、目立たないのをいいことに、今回の記事の初頭に紹介したようなゆるい融資条件でリーマンショックの後もドンドコ気前良く保証を出し続けてきたのがFHA。

HUDが今年の5月に議会に提出した2010年予算案の詳細を読むと、2008年度中(07年10月-08年9月)にFHAが提供した保証総額は2050億ドルだったが、2009年度には、年の前半(08年10月-09年3月)だけで保証額は1580億ドルだったという。

件数でみると、ここ数年の伸び方はさらに顕著。シングル・ファミリー(一軒家)向け融資の保証件数は、2007年度63万9千件だったのが、2008年度には120万件とほとんど倍増、現在のペースを続けると、2009年度には200万件に達する見込み、と書いてある。

サブプライム融資がピークだった2005年ごろまでは住宅融資市場でのシェアは2%に満たないぐらいの弱小プレーヤーだったのだが、近年のこうした活発な保証活動を反映し、いまや、なんと、年間に米国でオリジネートされる住宅ローンの20%がFHAの保証を受けてる、というのだ。

気前いい条件で貸しまくり、わずか数年で市場シェア20%に急成長。(でも、それって、サブプライム融資の焦げ付きで破綻してバンカメに吸収合併されたカントリーワイドが取ってたビジネスモデル、そのものじゃんか。)

市場シェア急拡大の傍らで、当然のことながら、FHAに流入するサブプライム融資のリスクは膨れ上がり、したがって、リスクポートフォリオの劣化も激しさを増し、モルゲージバンカーズ協会(MBA)によれば、「FHAが保証を出している住宅ローンの実に17%が一度は月々の支払いを延滞したか、あるいは、すでにフォークロージャに入っている」という。

一般論で申し上げると、銀行業界ではですね、一般に「住宅ローン」ってのはですね、有担保で小口融資という性格上、無担保大口企業向け融資とは異なり、(1)リスク集中が起こりにくく、(2)ポート全体の内在リスク量は少なくて、(3)最終損失額は小さい、というのが【長年の通説】だったんであります。過去の貸倒れ実績の統計みても、実際、その通りだったんだよね。

その【通説】がサブプライム問題勃発でひっくりかえってしまい、MBAの推計ではモルゲージ業界全体のフォークロージャ含む不良債権比率は13%という最悪の数値になっている。今年にはいってからは、サブプライムに加わってプライムローンの不良化も進行し、数値は悪化し続けている。ポートフォリオのクオリティを同じ尺度で計ると、FHAの場合はさらにひどくて、すでに不良化率は17%ですと。(うち、90日以上延滞が5%弱。)

17%・・・銀行の財務リスクに明るい者なら17%と聞いたら誰だって、サーと顔から血の気が引く数字である。

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そうこうしてたら、今月17日、HUD住宅都市開発省は、FHAのキャッシュリザーブ(貸倒引当金に相当)が議会で要求されている2%の最低ラインをこの10月には下回る可能性があると述べたことが報道された。

Housing Agency's Cash Reserves Will Drop Below Requirement (Washington Post, 9/17/09) 

このニュースを受けて、FHAも救済措置が必要なのではというスペキュレーションが高まったが、関係者は「大丈夫、そんな必要ない」の一点張り。

だけど、リーマンショック後、現在でも、サブプライム並みの条件で保証出し続けてるわけなんだから、この公社の最終的な不良債権比率は更にひどくなること、間違いなし。失業率が改善してないことを考えると、筆者の感では、FHAの同比率が20%~25%に上昇する日もさほど遠くない、と感じられるな。

銀行アナリストにとっては、マクロ経済の改善が近日中には期待できない段階で、銀行の融資の劣化比率が20%超えちゃったら、「財務回復はもはや不可能」=「三途の川渡る」ってのと同じ意味ですからね。

FHA側は、対策として、今後は審査をより厳格化するだの、不正融資のあっ旋をもっと厳しく取り締まるだの言ってるが、こんな比率になっちまったら、そんな対処法、もはや、焼け石に水さ。

どうするつもりなんだとワーワー言ってたら、案の定、数日前(28日)のウォールストリートジャーナルは、米政府が350億ドルをかけて、近日中に、なんらかの公的支援をFHA向けに行う用意があるらしい、と伝えた。

$35 Billion Slated for Local Housing (WSJ, 9/28/09)

フレディとファニーメイに突っ込んだ公的資金はそれぞれ500億ドル。次はFHAに350億ドル・・・?

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8月3日のワシントンポスト紙に、フレディマック会長ジョン・コスキネン(John Koskinen)のインタビューが載った。

Another Leg of Freddie Mac's Long Relay (Washington Post, 8/3/09)

同会長は、「明らかに住宅市場の最悪期は脱した。(“The worst is clearly behind us。”)」と述べて、楽観的なトーンを崩さなかったが(←役職柄、当然のことだが・・・)、中でこんなことを述べている。

“I continue to be very optimistic that what we've demonstrated for several months now is the critical role that both we and Fannie Mae play in support of the national housing market. Without the two of us and [the Federal Housing Administration], there would be no mortgage market. Over 90 percent of mortgages now are being bought by Freddie, Fannie or FHA.  It's clear we have a critical function that we perform.”

「全米の住宅市場を支えるという極めて重要な役を我々フレディとファニーメイが担っていることがこの半年あまりの間に明らかになったわけだし、わたしは引き続き(フレディの今後の事業展開については)非常に明るい見通しを抱いている。
我々とFHAがいなければ、モルゲージ市場は存在していない。今日(こんにち)出されてくる住宅融資の90%以上がフレディかファニーかFHAが買っている。我々が重要な機能を果たしているのは疑う余地はない。」


住宅融資の90%以上が、政府の手を借りなければ、回らない。それが現実。

一般の民間金融機関には、住宅ローンのリスクをとることもできなければ、その気もない。

こういう状態の、いったいどこが、「クレジット市場が安定してきている」と言えるのだろうか。


★   ★   ★

FHAの保証付き融資はジニーメイに流れていき、そこで証券化されて、エージェンシー債市場を形成する一部になる。

しかし、エージェンシーMBS(Mortgage Backed Securities)の市場は、その後も、ぜんぜん改善・回復してなくて、フレディらがエージェンシー債を発行するたび、ニューヨーク連銀がそれらMBSを買い取って、エージェンシーのキャッシュフローをまわしてやってる、というのが実態である。

その証拠に、先週9月23日には、連銀はMBSの買取期間を今年一杯から来年3月まで【延長】することを発表。買取上限1兆2500億ドル。NY連銀のサイトにこのMBS買取プログラムのQ&Aがあるが、それによると、9月24日の週から買い取り額は徐々に減らしてゆくそうである。

バーナンキ議長はことあるごとに、「クレジット市場は安定してきた」と述べるけれど、連銀のトレジャリーやクレジットの買取プログラムがあるから回ってる、ってだけの話だと、わたしなんぞは思うね。

ここから先、買取額を徐々に減らして出口に向かうには、その分を民間金融機関が受け継いでリスクテーキングしなくちゃいけないわけだが、少なくとも、住宅資金市場については、民間側のリスクアペタイト(Risk Appetite)は十分とはいえない。

NY連銀のQ&Aには、こんなくだりもある。

Q) Does the agency MBS program expose the Federal Reserve to increased risk of losses?
A) Assets purchased under this program are fully guaranteed as to principal and interest by Fannie Mae, Freddie Mac, and Ginnie Mae, so the Federal Reserve's exposure to the credit risk of the underlying mortgages is minimal. The market valuation of agency MBS can fluctuate over time based on the interest rate environment; however, the Federal Reserve's exposure to interest rate risk is mitigated by the conservative, buy and hold investment strategy of the agency MBS purchase program.

Q) エージェンシーMBS買取プログラムは、連銀にとって、損失が拡大するリスクをとることにならないのですか?
A) このプログラムで買い取られる資産(MBS)はファニーメイ、フレディマック、ジニーメイによる完全保証を受けており、参照資産(←この場合オリジネートされた住宅ローン)のクレジットリスクに連銀がエクスポーズされる可能性は最小限に抑えられています。エージェンシー債の時価はその時々の金利環境で上下しますが、しかし、保守的なバイ&ホールドの投資戦略を採用することで、連銀の金利リスクへのエクスポージャは減少されます。


MBSの発行体が完全保証する債券ならば確かに、クレジットリスクはそのまま政府(厳密には、フレディらの80%オーナーである納税者)が取ってることになるんで、連銀は取らなくてもいいよね。

でも、いま連銀が買っている分を、市場で民間資金に買い取らせるとなったら、フレディらから「100%保証」という形では出せんだろ?それやったら、モラルハザードそのものじゃんか。

要するにですね、マーケットの掟(おきて)としては、そこにリスクがあるかぎり、誰かが【最終的なリスクテーカー】にならないといけないわけですね。

FHAの状況(=オリジネーションの段階)をみても、エージェンシー債の市場(=証券化の段階)の状況をみても、どちらも、住宅資金のクレジットリスクの最終的なリスクテーカーが現在誰かというと、政府が最終的なリスクテーカーになっているんだよな。 つまり、最終損失は政府(=納税者)が取る。

それのおかげで、なんとか住宅融資市場が回っていて、統計上は住宅需要が出てきているように“見える”ということである。でも、政府がリスクとってくれてなかったら、実態はもっともっとひどいはず。

民間の金融機関が住宅ローンのオリジネーションにも、MBS投資にも、積極的に関与したがらないのは、リスクが高すぎて腰引けちゃってる(=言い方変えると、リスクに見合うリターンが期待できない)からに他ならない。

「クレジット市場が正常化する」というのは、政府じゃなくて、民間資金が、最終的なリスクテーカーとなったときにようやく言える言葉だよ。【自作自演の資金循環】を指して「正常化に向かっている」とか言われてもな。

9月15日のMHJ記事で、筆者がバーナンキのことを「ファンタジー・ベン」と呼んだ所以は、ここにある。

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政府がモルゲージのクレジットリスクのブラックホールになる話が、これで終わりかと思ったら大間違い。

住宅融資を扱う金融機関や業者らは、ここのところ議会にギャンギャン圧力かけて、エージェンシー(GSE)による買取対象になっていない民間のモルゲージローン(Non-Agency Mortgageと呼ぶ)も、ジニーメイのプールに買い取らせて証券化して政府保証つけろ、と騒いでるらしい。

Mortgage Bankers Push for Federal Loan Guarantee (Bloomberg, 9/2/09)

現在、ジニーメイは、FHAとかVA(退役軍人の世話する省)とか農務省とか先住民の世話する公的機関とか、そういう政府関係の公益機関から保険や保証がつけられている住宅ローンに限って担保として受け入れMBSを組成・発行しているわけだが、住宅融資を活性化させるために、政府関係の公益機関に限定しないで、ノン・エージェンシーの融資(純粋な民間資金)にも政府保証の枠を広げろというんである。

現在、ノン・エージェンシーの住宅ローンは、1.8兆ドルほど残高があるらしいんだが、これが20%ぶっ飛んでごらんなさい。

そして、こちらは住宅じゃないけれど、FDICの預金保険ファンドが枯渇、というニュース。銀行破たんが続いてて、破綻銀行の預金者に払い戻すカネが9月30日(今日です)を持ってマイナスになる、とFDIC米預金保険機構のトップが認めた。

FDIC Discloses Deposit Insurance Fund Is Now Negative (Zerohedge, 9/29/09)

【預金の保護】はどうなる?!?!?

・・・(しばし沈黙)・・・。

・・・恐ろしいことである・・・。

ブラックホールのスケールで言ったら、2000年頃の日本どころの騒ぎじゃないな。

政府自作自演の住宅市場回復のもと、次々と出されてくる、救済資金要求-。

名づけて【救済資金ブラックホールの恐怖】



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Friday, September 25, 2009

政府系で働けば給料5百万ドル保証

ぺンシルバニア州ピッツバーグで開かれてたG20サミットで、最重要議題のひとつに、

「金融機関のエグゼクティブのボーナスにリミットつけるべきかどうか」

というのがあった。

はっきり言って、まーだボーナスのことウダウダ言ってるのか!と呆れた。

20カ国からわざわざトップが集まって、そんなことしか話題がないのかといいたくなるではないか。

ボーナスにリミットつけようが何しようが、「んじゃ、ボーナスやめて基本給あげまひょか」って話になるだけ。実際、ウェルズファーゴなんて、CEOの給与体系を最近変えて従来の「基本給90万ドル+ボーナス」を「基本給560万ドル(5.6ミリオン!)」に変更したし、モルガンスタンレーだってCEO以下トップ数名の基本給を250%上げたよ。これならボーナスゼロでも高額の年俸もらえるよ。

基本給(A)とボーナス(B)がパッケージになって長年払われてきた業界で、ボーナスだけに注目してあれこれ規制かけようが、抜け道なんていくらだってある、っつの。

アメリカとイギリスは、ウォール街とシティ(City=ロンドンの金融街)からの強烈なロビイがあったらしく、ボーナスに明示的な上限をつけるよりも、長期的な業績にあわせて損失の年はボーナスプールから差っ引かれるようなクローバック付き(※注)にしようと提案し、その案で概ね進みそうだった。

(※注)でも、クローバックを強制したところで、すでに大手証券では一部採用済みで、なにをいまさら、である。(今年1月4日付けMHJ記事『ウォール街の今年のボーナスは「CLAWBACK(別名:人質)」と「ドッグフード」)』参照。)

英米側の言い分がおおよそ通り、これでボーナス云々のくだらない議題も終わりかと思っていたら、ドイツのメルケル首相が「せっかくG20で集まったんだから、ここでボーナスの議題をウヤムヤにすべきじゃないわ!」と蒸し返して、フランスのサルコジ大統領もメルケルを支持している、とかいう記事を今日英ガーディアンで読んだ。

G20 leaders split over bank bonus curbs (Guardian、9/25/09)

記事を読むと、メルケルの思惑としては、ボーナスなんてのは表向きのはなしで、つまるところは「英米がG20およびグローバルの金融市場のあり方や方向を決める場でデカイ態度に出て牛耳るのが面白くない」ってことらしく、本音のところでは、【いつものポリティカル・パワー・ゲーム】やってるだけなんである。

ここで、日本の代表あたりが、経験に裏付けられたオピニオンをどーんと吐いたらいかがでしょう。

「各国トップのみなさん!時間の無駄だから、そろそろボーナスの話、やめませんか。日本の金融機関のボーナスなんてねー、あなた、頭取クラスでも欧米の投資銀行のジュニアバンカーより低いぐらいでしたけどねー、それでも、80年代は無茶苦茶なリスクテーキングしてバブリましたよ~。だから、ここでボーナスというインセンティブだけを連中から取り上げようが、リスク取るとなったら連中はメチャクチャやりますからね~。関係ないんですよ、それだけじゃないんです。どうせ規制強化の話するなら、市場のメカニズムとか、自己資本のクオリティとか、そういう重要なポイントを話し合ったほうがいいと思いますがね~。」とでも、ガツンと言ってやればいいのに。

(・・・と筆者なりの提案をここまで書いて、日本のいまの金融担当相の顔をフト思い出し、それがいかに無謀な提案かに気づく筆者であった。)



   ★   ★   ★

さて、フレディ・マック(FRE)が新しいCFOを迎えるというニュースを読んだ。

新CFOになるのは、ロス・カリ(Ross Kari)氏、50歳。

前職は米国中西部最大の地方銀行フィフス・サード銀行(Fifth Third)のCFOだった人物で、その前は、フレディのサンフランシスコ支部でエグゼクティブやってたひとらしい。

彼の前にフレディでCFOを務めたDavid Kellerman氏は、今年の4月に自宅で自殺(当時41歳)したのは記憶に新しいところ。

Freddy Mac chie'f 'suicide' amid enquiry (Times Online, 4/22/09)

ちょうど1年前、フレディとファニーメイが大量の公的資金注入で救済措置を受けたわけだが、そのとき公的資金注入の見返りに当時のCEOとCFOはクビ。新CEOには、USバンコープのCFOだったDavid Moffettを外部から基本給90万ドルを提示して招きいれ、新CFOには、フレディに16年間勤務していたベテランコントローラーのケラーマンが内部昇進の形で就任した。

しかし、政府のコントロール下に入ってから、92人のエグゼクティブに「いま会社を辞められたら困る」という理由で多額のリテーナーボーナス(留保奨励賞与)を『公的資金から』支払ったことが発覚。

昇進という形でCFOになったケラーマンも、その92人のひとりとして85万ドルを受け取っていたことが公になり、年が明けてから、当局や議会から執拗な追求を受けていた。

今年の3月というのは、株価急落でパニックモードが最高潮に達してたときで、そのパニックが向いた矛先のひとつが、ウォール街エグゼクティブの高額な給与/賞与だったのは周知のとおり。

外部の執拗な介入と連日の感情的な非難に嫌気がさしたCEOモフェットは、「こんな状態で仕事できるか!」と政府に三行半叩きつけて3月初めに突然辞任(後日アドバイザーとして復帰)。そして続く4月には、CFOのケラーマンが自殺。救済後わずか半年で、フレディは、ふたたびCEOとCFOを失った。

そういう激動の経緯が今年の前半にフレディにはあったわけですね。

そのフレディに、「正式に」新しいCFOが決まったというのだ。

カリ氏がいたオハイオ州に本拠地を置くフィフス・サード銀行も、クレジットバブル崩壊前夜の2007年に住宅バブルでイケイケだったフロリダ州にM&Aで派手に業務拡大し、案の定バブル崩壊とともにずっこけて、30億ドル規模の公的資金支援を仰いだ銀行である。

ずっこけた後に同銀行のCFOになり、経営立ち直しに関与してたのが、今回フレディのCFOとして迎え入れられるカリ氏である。


   ★   ★   ★

だが、話題になってるのは、彼がCFOとしてどうよ、って話じゃなくて、またまた、この新しいCFOに支払われる給料とボーナスがどうよ、って話。

フレディがカリ氏に支払う給料とボーナスの詳細を示した9月24日付けの雇用契約書が公開されている。

その雇用契約書によりますと、彼がもらえるお金やベネフィットはこんな内容だそうで。

(1) 年俸$3.5ミリオン = 内訳は基本給67万5千ドル、追加年俸(?)160万ドル、目標ボーナス110万ドル。

(2) 契約時のボーナス$1.95ミリオン(契約した年俸とは別に、社員になりますと契約書にサインした段階で払われるボーナスのこと)

(3) カリ氏の自宅の(フレディによる)速やかな買い上げ

(4) カリ氏がオハイオ州、ワシントン州、オレゴン州に保有する住居からワシントンDCへの引越しにかかる費用の全額払い戻し


350万ドルの保証付き年俸、プラス、195万ドルの「いらっしゃいませボーナス」ですかい!

この条件を読んで、ちょっと気前良すぎじゃない?と感じないひとがいるのだろうか。

どこでどうやったら、【政府がマジョリティオーナーの実質公的機関】が、こんな給料パッケージを提示できるんだ?

しかも、わずか半年前には、85万ドルのリテイナー・ボーナス受け取ったかどで責められまくって自殺した前のCFO(←勤続16年)がいたってのに、だよ。

カリ氏がどんな凄腕の経営者なのかは知りませんけど、彼がフィフス・サードからもらってた給料は、58万ドルの基本給+10万ドルの契約時ボーナスだったそうですから、70万ドルから一気に5ミリオン超って、これって【夢の転職】どころじゃないよね。

しかも払うと言ってるのが、ほかのだれでもない、「フレディ」だよ、「フレディ」なんだよ。公的資金という生命維持装置で延命してもらってる、あのフレディマックですよ!

でも株主総会もない会社のCFOって、何するの?

基本給やボーナスの額にも驚くが、「今住んでる自宅の始末にお困りでしょうから会社が買い上げてあげましょう」って、それもすっごく気前よくね?さすが、住宅融資専門のフレディマックですこと、新CFO個人の住居の売買まで会社経費におまかせですのね。

財務長官のガイトナーですら、住宅市場軟化のあおりを受けて、財務長官となってワシントンDCに引っ越す際、NY連銀時代に住んでいたニューヨーク郊外の自宅に買い手がつかなくて(笑)、とはいえモルゲージローンの支払いもあるんで空き家にしとくわけにもいかず、仕方ないから賃貸物件にして貸してる、という哀しい話がロイターにすっぱ抜かれてたのに。ガイトナーも財務長官より準政府機関のCFOの仕事をやったほうが、よっぽど待遇よかったわね。

しかし、政府系金融機関の、こういう「破格の雇用条件」って、いったい、誰が決めてるのだろう。政府系のくせに、政府にはチェック機能は、ない?

民間の金融機関には50万ドルでも給料高すぎる、公的資金を受け取った銀行には従業員にボーナス払う資格無し、とさんざん難癖つけてたオバマ政権が、500億ドル超の公的資金を受け取って政府の直接傘下に入った準公的機関のエグゼクティブには、5ミリオン・ダラーズのお約束(しかもクローバック条項無し)ですか、へぇぇぇ・・・。

もしかして、今回のG20で英米サイドがボーナス規制でやたらトーンダウンしたのは、これ以上ボーナスの話を突っ込むと、政府系より低いぞと逆に突っ込まれて墓穴掘りそうになってきたからかな。(笑) 
 
          


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Tuesday, September 15, 2009

シンガポールの幽霊船、年末商戦を占う

1940年に制作されたディズニーのアニメ映画『ファンタジア(Fantasia)』をご存知ですか?

ミッキーマウスが魔法の杖を振るたびに、次から次へとファンタジーが飛び出して、あなたを夢の世界へといざなう、ディズニー映画の傑作中の傑作。



・・・アッ、し、失礼、ま、間違えました、ホンモノはこっちです。



「現時点でリセッションは終了した可能性が非常に高い」(the recession is very likely over at this point.)という今朝のバーナンキ議長の発言が視界に入ってきた瞬間、筆者の脳裏に、ヘリコプター・ベンが魔法の杖を振ってるイメージが湧いたもんで、つい・・・。

今年に入ってから新たにアンダーライトされた住宅ローンの8割がなんらかの政府支援付き。8月の個人消費データも政府支援(Cash for Clunkersプログラムは8月21日のMHJ記事参照)による新車販売のおかげでよく見えたが、小売全体は厳しい状況で、大手家電のBest Buyも売り上げ減で苦戦。

【政府支援】という魔法の杖で、住宅・消費データはなんとか底上げ。それが実態じゃないのか?

魔法使いのファンタジー・ベンが、本日、ワシントンDCのブルッキングス・インスティチューションで行った講演の全文はこちら

   ★   ★   ★

しかしね。「テクニカル的にみるとリセッションは終了」したということらしいが、現実問題として、どうよ。

前回もその前も書いた「夏なのに空港がガラガラだった」という筆者の体験談だが、あの印象どおり、グローバルの航空業界の2009年の赤字幅は110億ドル(1兆円)規模に膨らみそう、という記事が今日のウォールストリートジャーナルに載っていた。

Airlines Face $11 Billion in Losses (WSJ, 9/16/09)

IATA(国際空輸協会)がまとめたもので、乗客数減少と原油価格上昇のインパクトで来年も逆風は続き38億ドルの損失を見込むという。同協会によると、2009年の乗客数は2割減とのことで、前回のMHJで紹介したウォルマートのCEOが言っていた「アメリカ人が今年バケーションに使ったお金は25%減」という数字と近い。

協会の予想では、業界内の倒産は続き、統合がさらに進むとみられる。(JALも数千人単位で解雇するようですね。)

   ★   ★   ★

「全米の学校は9月から新学年が始まるが、普段なら今頃から、新学期用(Back-to-School)需要がチラホラ出始めてもいい時期なのだが、今年は、その新学期シーズンに向けた配達が動き出している様子がみられない。」

7月21日のMHJ記事で書いたUPS社のCFOによる、このセリフを覚えておられるだろうか。

9月初旬に8月の小売統計が出されてきたが、実際、このBack-to-School関連のセールスは、散々という結果だった。

Not Looking Good So Far for Back-to-School Sales (NYT、9/4/09)

UPSの予言、ドンピシャ

Back-to-Schoolセールスは小売業にとってはクリスマス商戦の次に重要な売り出しなのだが、今年はダメだった模様。

クリスマス商戦で盛り返すことができるのか、それを占うにはどこを見ればよいのだろうと思ってたら、「海上運輸」の業界から、なにやら不気味な話題が・・・。

   ★   ★   ★

シンガポール沖に【幽霊船】が多数停泊している、という話題である。

9月13日にイギリスのニュースサイト『Daily Mail』に掲載された記事だが、一昨日から昨日にかけて、アメリカの金融経済ブロガー達の目にとまり、方々で取り上げられていた。

Revealed: The ghost fleet of the recession (MailOnline, 9/13/09)

人のあまり寄り付かないシンガポール沖に、隠れるようにして、積荷も乗組員もいない海上輸送用船舶が停泊しているというのである。タンカーや物資輸送船など、その数5百艘。この記事の書き手は、イギリスとアメリカの海軍を合わせたぐらいの数の船で、積荷総量でいえばそれよりもっと多いぐらいじゃないか、という。記事中に掲載されてる写真をみると、まるで、無敵艦隊風。




地元漁民の言葉:

'We don't understand why they are here. There are so many ships but no one seems to be on board. When we sail past them in our fishing boats we never see anyone. They are like real ghost ships and some people are scared of them. They believe they may bring a curse with them and that there may be bad spirits on the ships.'

「これらの船舶がどうしてここにいるのかわからない。ずいぶん数が多いが、誰も乗っていないようだ。漁船にのって脇を通っても、ひとっこ一人見かけない。本当に幽霊船のようで、怖がってる仲間もいる。呪いが降りかかるとか、悪霊が住み着いてる船だと信じてる者もいるんだ。」


記事は続く。

As Briton Tim Huxley, one of Asia's leading ship brokers, says, if the world is really pulling itself out of recession, then all these idle ships should be back on the move.

アジアの船舶ブローカーの先駆ブライトン・ティム・ハクスレイはこう述べる。もし世界が本当にリセッションから抜け出しているのなら、これらの船舶はみな動き出しているはずだ。

'This is the time of year when everyone is doing all the Christmas stuff,' he points out.

この時期は誰もがクリスマスに向けて活動している時期のはずだ、と彼は指摘する。

'A couple of years ago those ships would have been steaming back and forth, going at full speed. But now you've got something like 12 per cent of the world's container ships doing nothing.'

2~3年前だったら、これら輸送船はフルスピードで航路を往復していたものだ。だが、現在、世界のコンテナ船の12%が何もせずに海に停泊している。

(中略)・・・The cost of sending a 40ft steel container of merchandise from China to the UK has fallen from £850 plus fuel charges last year to £180 this year. The cost of chartering an entire bulk freighter suitable for carrying raw materials has plunged even further, from close to £185,000 ($300,000) last summer to an incredible £6,100 ($10,000) earlier this year.

40フィートのスティール製コンテナを中国から英国に送るコストは去年のレートは£850プラス燃料費だったのが、今年は£180に下がっている。原料を運ぶのに適したバルク輸送船を一艘丸々チャーターするのにかかるコストになるとさらに下がり方が激しく、去年の夏は £185,000 (30万ドル)だったのが、今年の初めは £6,100(1万ドル)という信じがたいレベルまで落ちている。

Business for bulk carriers has picked up slightly in recent months, largely because of China's rediscovered appetite for raw materials such as iron ore, says Huxley. But this is a small part of international trade, and the prospects for the container ships remain bleak.

中国が鉄鉱石などの原料に再び食指を動かしているおかげで、バルク輸送船はここ数ヶ月ですこし持ち直してきている、とハクスレイは言う。だが、これは国際トレード全体でみるとわずかの部分にしか過ぎず、コンテナ輸送の見通しは非常に厳しいものがある。


(記事引用終わり)

ロンドンで最大の船舶ブローカーは、「積荷を輸送するのに£7000かかるとわかっていて、もらえるのが£6000にしかならないのなら、何もしないほうがマシ」と言う。

イギリスで売買される商品の92%が海上輸送によるものだそうで、英国の小売店はクリスマスのためにもう何ヶ月も前から商品の仕入れを考えてオーダーを入れているはずだが、今年は、お店の棚に豊富に商品を並べることができない店も出てくるかもしれない。コンテナ輸送の需要が落ち込んでいる理由のひとつは、もちろん、消費見通しが明るくないというのがあるが、もうひとつの理由は、商人が商品を仕入れようにもクレジットが絞られているケースもあるから、と記事は指摘する。

   ★   ★   ★

海上輸送のことなんて、筆者にはこれまで無縁の世界の話、何も知らない。

でも、素人頭で考えてみても、そうですよね。グローバルの物資の流れを支えている立役者は海上輸送だよね。筆者もかつて仕事でシンガポールを頻繁に訪れたが、アジア最大の商業港シンガポールに積み上げられてたコンテナの数量には、いつ行っても圧倒されたものだったよ。

又聞きの受け売りで恐縮だが、ロンドンには海運専門のBaltic Exchangeというのがあって、ドライバルクの海上輸送にかかる国際取引価格をBaltic Dry Index (BDI)というインデックスにして公表しているんだそうである。



BDIというインデックスのチャートって、筆者は初めて見ましたけど、いや~すごい乱高下ですね。2006年後半あたりから急激に高まったコモディティブーム(とりわけ、中国からの需要が火付けになった鉄・非鉄ブーム)とピッタリあってるな。

こちら(↓)は、S&P500とBDIを合わせてプロットしたもの。2009年7月から株価はBDIから大きく乖離する。ここ2ヶ月の株価の動きは、BDIが示唆する将来の消費動向を無視しているように見えるな。



興味ついでに、世界最大の造船会社である韓国の現代グループのHHI(Hyundai Heavy Industry)のサイトに行って最近の業績(8月26日発表分)を見てみたんだが、おぉ・・・ひどい・・・。今年7月の造船オーダーは前年同期比で98%減。

   ★   ★   ★

巷のエコノミストやストラテジストの間には、米国の在庫が低水準になってきていることで、年後半は在庫調整の進捗とリストッキング(Re-stocking=在庫の再積み上げ)が牽引となって、経済が拡大する可能性を指摘するものが少なくない。

だが、物流の最前線から聞こえてくる話は、FedExやUPSの見通しにしろ、このシンガポールの幽霊船の話にしろ、必ずしも、力強い在庫回復というインプリケーションは、まだよく見えてこないよ。

むしろ、積極的なリストッキングは雇用市場の回復が現実のものとして見えてくるまでは本格始動せず、ギリギリ低いまま在庫水準を抑える形で当面推移してゆくんじゃないのか、という気になってくる。


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Saturday, September 12, 2009

Fedexが気になる

前回の Murray Hill Journal で、「オバマが米国を社会主義国に変えようとしている」という保守対抗勢力のプロパガンダにまんま乗っかって、何でも反対すりゃいいと思ってる連中が増えてきている、ということを書いた。

あの後、オバマは自己が押し進めるヘルスケア法案に議会の賛同を得るため先週水曜日に大演説をぶった。常に沈着冷静が売り物のオバマにしては熱のこもった演説で、メディアの一部は、このスピーチは大成功、保守側を黙らせて医療保険制度の改革に向けてオバマ政権は一歩踏み出した、と伝えたところもあった。

だが、この国に広く深く散らばるハードコアの保守層および極右団体が、そう簡単に引き下がるわけがないんである。

今日(12日)、社会主義反対を叫ぶ皆様が全国から何千人もワシントンDCに集結し、今以上の政府支出に反対の声を上げ、反政府デモを繰り広げたというではないか。デモの中には「ブッシュを呼び戻せ」と書いたプラカードまであった、ってんだから。

Protesters March on Washington (WSJ, 09/12/09)

保守層の抵抗がこうも強いと、オバマのヘルスケア改革、前途多難であるな・・・。

そこにさらに追い討ちをかけるように、12日のウォールストリートジャーナルによると、米国債発行の法的上限は現在12兆1千億ドル($12.1 trillion)になっているのだが、早ければ来月半ばにも、発行総額がこの上限に届いてしまいそうで、この上限を早急に引き上げなければ、米財務省キャッシュフローの危機、というんである。

Treasury Girds for Debt-Ceiling Fight (WSJ, 09/12/09)

現在、米国は週300億ドルのペースで米国債を新規発行していて、国家の借金総額はどんどん膨れていってる。

それでも、目先のインフレ懸念が表面化していないこと、および、低金利を続けていて市中の流動性がガバガバ過剰になっていることで、株高・コモディティ高にあわせて米国債市場も一緒になってバブリぎみ。

先週行われた10年米国債売り出しも大盛況で、Bid-to-coverレシオが2.7倍超えたってんだから。(過去7回の売り出しの平均は2.5倍。)(筆者つぶやき:中国も日本もようやる・・・。)

新規発行は順調にさばけているようであるが、この局面で、「米議会がヘッポコでトリプルAの米国債をデフォルトさせる」なんつーわけには絶対にいきませんから、一時的にでも法的上限の引き上げはなされるであろうけれど、最近やたら勢い付いている抵抗保守サイドは、この上限引き上げに関わる審議を、この機会を待ってましたとばかり最大限利用して、財政赤字+過剰債務の問題をクローズアップし、オバマ叩きに走ることであろう。

そして、CNNを筆頭にメジャーなメディアは、連日連夜、総力挙げて『財政赤字特集』を組むことでありましょう。

この秋の流行言葉は【DEFICIT】-いまから見えてるな。

政権交代以来トントン拍子で(というか有無を言わせず)カネを使い続けたオバマ政権だが、この先は、そう簡単にはいかなくなりそうである。

   ★   ★   ★

さて、昨日(11日)は、911テロの8周年だった。

2001年9月11日から8年後の昨日まで、株価は結局【同じ場所】に戻って来たそうである。(グラフはBespoke Investmentより。)



その11日、いくつか目に付くニュースがあったので、記録しておきたい。

(1)ウォルマートのCEO、米国人のバケーション向け消費は25%減だったと述べる。

前回のMHJで、筆者は、ニューヨークの空港の国内線も国際線も連休なのにガラーンとしてたというアネクドータルなエピソードを書いたのだが、ウォルマートのCEOマイク・デューク(Mike Duke)が同じポイントに言及していた。

9月10日にゴールドマンサックスがニューヨークで主催した小売業コンファレンスの席で、マイク・デュークが述べた台詞。

”And if I were working for bellwethers of the future, the unemployment data would be one that and I think would be an important overall bellwether about what the future holds for us. It is interesting talking to customers this summer in the stores that I visited how many customers cut back on vacations this year and many decided not to take a vacation but I think our data, our research says that as much as a 25% reduction in the average spend per vacation that customers took this summer.”

「将来を占おうとするならば、それをいちばんよくあらわす重要な指標は失業データだと思う。この夏、ウォルマートの店舗に実際に足を運び、買い物客と実際話をしてみて興味深かったのは、ずいぶん多くの顧客が今年はバケーションに使うお金を削っていたことだ。バケーションを取らないことにしたと言っていたひとは少なくなかったし、我々が集めている調査データを見ても、今年の夏のバケーションに使ったお金は平均して例年の25%減だったという結果が出ている。」


デューク氏は、米国人家庭はなるべく外食を控えて家族で自宅で夕食を取り、TVを見たり、(ウォルマートで買った)DVDを見たりして、この夏をすごしていたようだ、と続けた。

みんな自宅でソファに座ってTVを見てた・・・ということはですよ、DVD配信のNetflix(ティッカー:NFLX) なんて、まだまだイケるだろうか・・・などとフト考えてしまう筆者であった。(爆)

10月9日のGSによるGlobal Retailing ConferenceでのウォルマートCEOの発言トランスクリプト全文はこちらでアクセスできます。


(2)FedEx、Q1,Q2の業績見通しを上方修正。

7月23日付けのMHJ記事『ギャンギャンな盛り上がりの陰で、UPSの顔は真っ暗』で、FedEx株を売ろうかどうか思案していた筆者であるが、結局あのままジーと持っている。

で、11日はFedexから業績上方修正のニュースが出され、同社株価は一気に77ドルに+6.4%増!! あー、売らなくてよかったー。(爆)

UPSもつられて4.4%上昇。

7月にUPSが暗~い業績発表やってたときは市場はみな聞こえない振りしてたくせに、FEDEXが明るい材料持ってきたら「FedexやUPSは、将来を占う(=Bellweather)銘柄だ!」だと言ってはしゃいでるんですから、ゲンキンなもんよ。

で、将来を占ってくれるFedexのプレスリリースを読んでみた。(プレスリリースはこちら。)

メディアからは「上方修正」という部分しか聞こえてこないんだが、リリースをよく読むと、予想以上によかった理由は「インターナショナル部門が好調だった」すなわち、お膝元の米国のオペレーションがよかったわけじゃないんである。

同社のリリースには、こうも書かれている。

"Despite some encouraging signs in the global economy, it is difficult to predict the timing and pace of any economic
recovery
. Revenue per shipment declined year over year in each of our
transportation segments, as fuel surcharges declined significantly and we
continue to face a very competitive pricing environment combined with
significant overcapacity in the LTL freight market."

「グローバル経済には幾分ポジティブな兆候は出てきてはいるものの、経済回復のタイミングとペースを予知することは困難である。燃料サーチャージが顕著に低下したことと、LTL運送市場はきわめてオーバーキャパシティの状態にあることに加え非常に価格競争圧力の高い環境に直面していることもあり、配達あたりの収益はすべてのセグメントで年々低下している。」

市場ははしゃいでるが、UBSとおなじく、FedExも、先行きに対する慎重姿勢を崩してはいないようですな。

やはり、ここらへんで、FedEx株、売ったほうがいいだろうか・・・(いいかげん決めろーーーッ!笑)。

また、FedExの場合、燃料コストが業績を左右するので、9月17日にQ1の詳細が正式に出されてくるとき、燃料価格の見通しを同社がどう立てているのか、興味の沸くところである。


(3)8月の輸入品価格、原油価格のあおりで2%に跳ね上がる。

US Import Prices Rebound 2% In August On Energy Prices (Dow Jones, 09/11/09)

7月の0.7%の低下から8月の2%上昇へ。原油製品を控除すると、0.4%の上昇だったという。(グラフはEconomPicより。)



とはいえ、インフレ圧力はまだ目に見えていないというエコノミスト多し。(そうじゃなきゃ米国債あんなに買えんだろ。)この8月の動き、(2)のFedExの見通しとあわせて、注意したい。


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Tuesday, September 8, 2009

オバマノミクスの行方にも「季節の変わり目」

夏が終わった。

アメリカでは、5月の末のメモリアル・デイ・ウィークエンド(Memorial Day Weekend)の連休から【正式】にサマーシーズンが始まり、9月初めのレーバー・デイ・ウィークエンド(Labor Day Weekend)の連休をもち【正式】に夏が終わる。

8月といえばバケーションの季節。

・・・のはずだが、なにせ先立つものがないんだから、できるだけ遠出は避けて、近場でこじんまりした休暇を取った家庭が多かったのではなかろうか。

8月の失業率は9.7%に上昇した。

1948年から現在まで、『27週以上失業しているひとの数』がどう推移したか、8月だけを取り出して時系列に並べたグラフが、これ(↓)。(グラフはThe Big Pictureより。)





2009年の8月は、「バケーション取った」というより、「半年以上バケーション状態」のひとがいっぱいいたようですね。これじゃ、バケーションどころじゃないでしょ。

さらに、今日(8日)に連銀から出されてきた、消費者金融(Consumer Credit)データの落ち込みようときたら!!

前年同期比で4.2%の減少。減少率としては、戦後最大だそう。(グラフはCalculated Riskより。)




米国消費者はクレジットカードの残高をどんどん減らしてるんである。消費してない、ってことである。

筆者も、ひと月あまり米国に遊びに来ていた両親が数日前に日本に戻り、ニューヨークのJFK空港まで見送りに行ったのだが、空港がどこもガラーーーンとしてて、おどろいた。

日本はお盆休みも終わって学校も職場もすでに本格始動初めてるから、9月初旬の国際線空港カウンターが空いてても当たり前かもしれないが、それにしても、「ガラガラ」の印象強し。

さらに、両親が帰ったあと、今度は自分が田舎のセカンドハウスに向かうため、ラガーディア空港の国内線のターミナルに行ったのだが、これまた、ガラーーーーンとしてて、夏とは思えぬ異様な静けさ。乗った飛行機もガラガラ。「本当に連休なんですかい・・・?」とつぶやいてしまった。

航空会社各社の第3四半期の業績がどうなるか、いまから見えたような気がした。

   ★   ★   ★

オバマ大統領一家もバケーションから戻ってきた。

休暇から戻ったオバマを待ち受けていたのは、支持率の低下、そして、「オバマ=社会主義者」という保守層からの攻撃であった。

オバマが大統領に任命されてから8ヶ月が経つわけだが、先週4日にPew Research Instituteから発表された世論調査結果によると、就任後100日の4月に62%あった支持率は、直近の8月には52%に10ポイント下がった。とりわけ白人層の支持率低下が目立ち、保守層のみならずリベラル層からの支持率も低下した。(Pew Researchの調査結果詳細はこちら。)

季節の変わり目じゃないが、ここに来て、オバマ政権に対する評価も「変わり目」を迎えているように筆者には強く感じられる。

52%という支持率が低いとは言わないが、オバマ政権に対するバッシングがあちこちで目につくようになってきている。

オバマが政権を取ってから、株価だけはファンダメンタルズそっちのけでグングン上昇したものの、失業率は悪化の一途を辿り、生活が楽になってきたという実感は正直どこにもなくて、国民の間にフラストレーションが高まってきているとでもいいましょうか。

そうしたフラストレーションを利用して、「オバマは個人の自由を剥奪しアメリカを社会主義国(Socialism)に変えようとしている」というプロパガンダを一部の共和保守層が流してて、それに飛びつく馬鹿がふたたび増え出している、そういう印象である。

オバマのイメージが、就任直後から8月までに、どう変わったかをビジュアルに示すと、こんな感じ(↓)。

就任直後はこうで・・・



・・・それが、いまでは、こう。




議会で春中やってたウォール街叩きにも飽きちゃって、夏からの政界トピックの目玉は、アメリカの国民健康保険をどうするかという、「ヘルスケア問題」に移ってきている。

だが、これも、政府案のどこがいったいそんなに問題なのか具体的にはよくわからないまま、抵抗保守層を中心に、やたらと「反対!反対!」と叫ぶ声だけが拡大し、オバマ政権の当初案は実質頓挫した。ヘルスケア問題は今週からまた、仕切り直しで議論再開である。

個人的に、アメリカに住んでいて何が不安かといえば、医療費が膨大な一方で、健康保険のシステムが実にお粗末だってことである。この国で病気になったら最後、カネなかったら死ねと言われてるようなものだもん。医療技術自体はアメリカはレベルは高いんです。でも、その医療技術にアクセスするには、ある程度カネ持ってないとダメ、医療サービスにも強者と弱者で極端な差がつく、そこが問題なんである。

筆者の父親は何年も前に心筋梗塞を起こして緊急バイパス手術で一命を取り留めたことがあるのだが、数週間も入院したにも関わらず、かかった費用はリーズナブルで、あのときほど日本の医療と保険システムに感謝したことはない。あれが、もしアメリカだったら、たとえ一命を取り留めても、後日、医療費の請求額を見たら、父の心臓は、きっと再び止まったと思うな。いや、それ以前に、もし個人的に健康保険を持っていなかったら、救急車も来てくれないかもしれん、そういう、どーしよーもないシステムなんである。

アメリカに住むものなら誰もが、このどーしよーもない医療保険システムをなんとかしなければまずいと思っているし、だからこそ、米国民全員が医療保険に入れるようにするというオバマの選挙時の公約に期待してたひとは大勢いる。

なのに、いつしか、「ヘルスケア」は保守vsリベラルというポリティカルゲームの標的となり、医師が直接政府のために働くのは社会主義的だとかいうワケわからん論旨に発展し、保守層を中心に「社会主義反対」の大合唱である。

大統領選挙のとき、あの低脳サラ・ペイリンが音頭取りとなって「オバマは社会主義者」とレッテル貼って保守層は自滅したという経緯があるのだが、あのとき自滅した連中が、ここにきて息を吹き返してきている。

この「反社会主義」の大合唱は、ヘルスケア問題にとどまらず、教育問題にまで飛び火した。

バケーションから戻ったオバマは、新学期初日にあたる今日の昼、全国の幼稚園から高校生に向かって「高校卒業まで、みんな一生懸命勉強しようね、しっかりがんばろうね。」という内容のスピーチを全国的に放送する予定だった。

しかし、「オバマは社会主義的思想を子供の頭に植え付ける気だ!」と言い出す保守系政治家や、それをそのまま信じて不安がる親連中がワラワラと出てきて、新学期を控えたこの連休は、全米のどの学校も、それで大騒ぎになっていた。

思いもかけない騒ぎに発展したために、ホワイトハウスは急遽、オバマが予定しているスピーチの全文を事前に開示、それを読んだ上で、オバマの演説を子供たちに見せるかどうかは各学校の各クラスの担任の判断に任せる、ということになった。演説は予定通り行われたが、全米の一部の学校では親や学校関係者が最後まで子供に見せるのを大反対してボイコットした。

   ★   ★   ★

実際にオバマの子供向けスピーチのトランスクリプト全文を読んでみたが、これのどこが「偏重思想」なのか示してみろといいたくなるような超平凡な内容の演説で、筆者はこのニュースをTVで見ながら、「アホか・・・」と思ってしまった。

だが、それと同時に、こういう異様ともいえるヒステリア反応が全米各地ではびこり出しているというのは、オバマ政権のリーダーシップが弱まっている証拠であり、圧倒的な支持率に支えられて多少の無理が効いたオバマ政権のこの半年間のやり方も限界を迎えており、この秋以降はことあるごとに抵抗勢力が反旗を翻して政策実現になにかと困難が付きまとうことになりそう、とも強く感じた。

2010年から2019年の10年間で米国の財政赤字は9兆ドルになるという予想を米政府が確認したのが先月8月20日過ぎ。

この数字が出てきてからというもの、反オバマの保守系抵抗勢力は俄然活気付いてきたな。文句言いたくなったら、すぐに「財政赤字が!」と叫ぶようになってきたし。(今頃気づいたわけでもあるまいし、と思ったりもするのだが。)

ところで、9月5日付けのウォールストリートジャーナルに、こんな記述を見つけた。

"Our off-balance sheet obligations associated with Social Security and Medicare put us in a $56 trillion financial hole -- and that's before the recession was officially declared last year. America now owes more than Americans are worth -- and the gap is growing."

「社会保障およびメディケア向けのオフバランスシートの借金だけで、米国の財政には56兆ドルの穴が開いている。しかも、この数字は、去年正式にリセッションが宣言される前の数字だ。米国はいまやアメリカ人全体が持つ純資産の価値よりも多く借金を抱えている。そして、そのギャップは拡大する一方だ。」

<OPINION> Warning: The Deficits Are Coming!(WSJ、9/5/09)


で、その「社会保障(Social Security)」だが、この米国の年金制度が、8月に60億ドルの歳入不足を記録、というブログ記事を読んだ。

このブログの書き手ブルース・クラスティング(Bruce Krasting)によると、ペイロールの減少にともない給与から天引きされる社会保障税が減少した一方で、退職年齢層は増えてるため支払いは増えて、それで赤字。60億ドルのマイナスというのは19年ぶりで、今年に入ってから社会保障トラストファンドの収入と支出のバランスは悪化し続けている、という。

60億ドルのキャッシュが不足した分はどうするか?もちろん、財務省が国債増発でまかなうんである。

クラスティングの記事より抜粋:

”Based on the past twelve months performance I now estimate that the Net Present Value of future committed liabilities is in deficit by $7 trillion. To plug this sized hole would require a significant increase in payroll taxes. That isn’t going to happen. Raising payroll taxes by 4% would kill the economy.”

「過去12ヶ月のパフォーマンスに基いて試算したところ、社会保障トラストファンドの将来の支払い額のネット現在価値は7兆ドルの赤字と推計される。このサイズの財政上の穴を埋めるためには大幅な給与税の引き上げが必要になるが、それは無理だろう。給与税を4%引き上げたら、マクロ経済がボロボロになってしまう。」


クラスティングは、政府の財政負担として、社会保障だけでさらに7兆ドルの赤字が乗っかった、というのである。

これにさらに、ヘルスケア関連の財政支出が増えるということになると、いったいどうなるんでしょうか・・・。

オバマが急進的な社会主義的思想を米国にまき散らかそうとしているという保守層のクレームには同意しかねる筆者だが、オバマ流のポリシーをいまのペースで続けてゆくと、この国の財政状態がどうなってしまうのか、そっちのほうは、実際、かなり不安が走るな。

クラスティングが言うとおり、ドルに投資する者にとっては心配事は増えるばかり、である。

(しかし、社会保障の年金はもらえそうもなく、健康保険制度はどーしよーもないままで、さらに個人資産のほとんどがドル建てとあっては国外脱出もままならず。そんな筆者の未来はどうなるのか・・・。)

オバマ叩きが勢い付くのに合わせ、この秋以降の市場と政界の懸念の中心は「財政赤字」が今まで以上にキーワードになりそうな気配。

政界発のノイズが高まり、金利市場と為替市場はボラティリティが増すかもしれんな。




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