Tuesday, September 8, 2009

オバマノミクスの行方にも「季節の変わり目」

夏が終わった。

アメリカでは、5月の末のメモリアル・デイ・ウィークエンド(Memorial Day Weekend)の連休から【正式】にサマーシーズンが始まり、9月初めのレーバー・デイ・ウィークエンド(Labor Day Weekend)の連休をもち【正式】に夏が終わる。

8月といえばバケーションの季節。

・・・のはずだが、なにせ先立つものがないんだから、できるだけ遠出は避けて、近場でこじんまりした休暇を取った家庭が多かったのではなかろうか。

8月の失業率は9.7%に上昇した。

1948年から現在まで、『27週以上失業しているひとの数』がどう推移したか、8月だけを取り出して時系列に並べたグラフが、これ(↓)。(グラフはThe Big Pictureより。)





2009年の8月は、「バケーション取った」というより、「半年以上バケーション状態」のひとがいっぱいいたようですね。これじゃ、バケーションどころじゃないでしょ。

さらに、今日(8日)に連銀から出されてきた、消費者金融(Consumer Credit)データの落ち込みようときたら!!

前年同期比で4.2%の減少。減少率としては、戦後最大だそう。(グラフはCalculated Riskより。)




米国消費者はクレジットカードの残高をどんどん減らしてるんである。消費してない、ってことである。

筆者も、ひと月あまり米国に遊びに来ていた両親が数日前に日本に戻り、ニューヨークのJFK空港まで見送りに行ったのだが、空港がどこもガラーーーンとしてて、おどろいた。

日本はお盆休みも終わって学校も職場もすでに本格始動初めてるから、9月初旬の国際線空港カウンターが空いてても当たり前かもしれないが、それにしても、「ガラガラ」の印象強し。

さらに、両親が帰ったあと、今度は自分が田舎のセカンドハウスに向かうため、ラガーディア空港の国内線のターミナルに行ったのだが、これまた、ガラーーーーンとしてて、夏とは思えぬ異様な静けさ。乗った飛行機もガラガラ。「本当に連休なんですかい・・・?」とつぶやいてしまった。

航空会社各社の第3四半期の業績がどうなるか、いまから見えたような気がした。

   ★   ★   ★

オバマ大統領一家もバケーションから戻ってきた。

休暇から戻ったオバマを待ち受けていたのは、支持率の低下、そして、「オバマ=社会主義者」という保守層からの攻撃であった。

オバマが大統領に任命されてから8ヶ月が経つわけだが、先週4日にPew Research Instituteから発表された世論調査結果によると、就任後100日の4月に62%あった支持率は、直近の8月には52%に10ポイント下がった。とりわけ白人層の支持率低下が目立ち、保守層のみならずリベラル層からの支持率も低下した。(Pew Researchの調査結果詳細はこちら。)

季節の変わり目じゃないが、ここに来て、オバマ政権に対する評価も「変わり目」を迎えているように筆者には強く感じられる。

52%という支持率が低いとは言わないが、オバマ政権に対するバッシングがあちこちで目につくようになってきている。

オバマが政権を取ってから、株価だけはファンダメンタルズそっちのけでグングン上昇したものの、失業率は悪化の一途を辿り、生活が楽になってきたという実感は正直どこにもなくて、国民の間にフラストレーションが高まってきているとでもいいましょうか。

そうしたフラストレーションを利用して、「オバマは個人の自由を剥奪しアメリカを社会主義国(Socialism)に変えようとしている」というプロパガンダを一部の共和保守層が流してて、それに飛びつく馬鹿がふたたび増え出している、そういう印象である。

オバマのイメージが、就任直後から8月までに、どう変わったかをビジュアルに示すと、こんな感じ(↓)。

就任直後はこうで・・・



・・・それが、いまでは、こう。




議会で春中やってたウォール街叩きにも飽きちゃって、夏からの政界トピックの目玉は、アメリカの国民健康保険をどうするかという、「ヘルスケア問題」に移ってきている。

だが、これも、政府案のどこがいったいそんなに問題なのか具体的にはよくわからないまま、抵抗保守層を中心に、やたらと「反対!反対!」と叫ぶ声だけが拡大し、オバマ政権の当初案は実質頓挫した。ヘルスケア問題は今週からまた、仕切り直しで議論再開である。

個人的に、アメリカに住んでいて何が不安かといえば、医療費が膨大な一方で、健康保険のシステムが実にお粗末だってことである。この国で病気になったら最後、カネなかったら死ねと言われてるようなものだもん。医療技術自体はアメリカはレベルは高いんです。でも、その医療技術にアクセスするには、ある程度カネ持ってないとダメ、医療サービスにも強者と弱者で極端な差がつく、そこが問題なんである。

筆者の父親は何年も前に心筋梗塞を起こして緊急バイパス手術で一命を取り留めたことがあるのだが、数週間も入院したにも関わらず、かかった費用はリーズナブルで、あのときほど日本の医療と保険システムに感謝したことはない。あれが、もしアメリカだったら、たとえ一命を取り留めても、後日、医療費の請求額を見たら、父の心臓は、きっと再び止まったと思うな。いや、それ以前に、もし個人的に健康保険を持っていなかったら、救急車も来てくれないかもしれん、そういう、どーしよーもないシステムなんである。

アメリカに住むものなら誰もが、このどーしよーもない医療保険システムをなんとかしなければまずいと思っているし、だからこそ、米国民全員が医療保険に入れるようにするというオバマの選挙時の公約に期待してたひとは大勢いる。

なのに、いつしか、「ヘルスケア」は保守vsリベラルというポリティカルゲームの標的となり、医師が直接政府のために働くのは社会主義的だとかいうワケわからん論旨に発展し、保守層を中心に「社会主義反対」の大合唱である。

大統領選挙のとき、あの低脳サラ・ペイリンが音頭取りとなって「オバマは社会主義者」とレッテル貼って保守層は自滅したという経緯があるのだが、あのとき自滅した連中が、ここにきて息を吹き返してきている。

この「反社会主義」の大合唱は、ヘルスケア問題にとどまらず、教育問題にまで飛び火した。

バケーションから戻ったオバマは、新学期初日にあたる今日の昼、全国の幼稚園から高校生に向かって「高校卒業まで、みんな一生懸命勉強しようね、しっかりがんばろうね。」という内容のスピーチを全国的に放送する予定だった。

しかし、「オバマは社会主義的思想を子供の頭に植え付ける気だ!」と言い出す保守系政治家や、それをそのまま信じて不安がる親連中がワラワラと出てきて、新学期を控えたこの連休は、全米のどの学校も、それで大騒ぎになっていた。

思いもかけない騒ぎに発展したために、ホワイトハウスは急遽、オバマが予定しているスピーチの全文を事前に開示、それを読んだ上で、オバマの演説を子供たちに見せるかどうかは各学校の各クラスの担任の判断に任せる、ということになった。演説は予定通り行われたが、全米の一部の学校では親や学校関係者が最後まで子供に見せるのを大反対してボイコットした。

   ★   ★   ★

実際にオバマの子供向けスピーチのトランスクリプト全文を読んでみたが、これのどこが「偏重思想」なのか示してみろといいたくなるような超平凡な内容の演説で、筆者はこのニュースをTVで見ながら、「アホか・・・」と思ってしまった。

だが、それと同時に、こういう異様ともいえるヒステリア反応が全米各地ではびこり出しているというのは、オバマ政権のリーダーシップが弱まっている証拠であり、圧倒的な支持率に支えられて多少の無理が効いたオバマ政権のこの半年間のやり方も限界を迎えており、この秋以降はことあるごとに抵抗勢力が反旗を翻して政策実現になにかと困難が付きまとうことになりそう、とも強く感じた。

2010年から2019年の10年間で米国の財政赤字は9兆ドルになるという予想を米政府が確認したのが先月8月20日過ぎ。

この数字が出てきてからというもの、反オバマの保守系抵抗勢力は俄然活気付いてきたな。文句言いたくなったら、すぐに「財政赤字が!」と叫ぶようになってきたし。(今頃気づいたわけでもあるまいし、と思ったりもするのだが。)

ところで、9月5日付けのウォールストリートジャーナルに、こんな記述を見つけた。

"Our off-balance sheet obligations associated with Social Security and Medicare put us in a $56 trillion financial hole -- and that's before the recession was officially declared last year. America now owes more than Americans are worth -- and the gap is growing."

「社会保障およびメディケア向けのオフバランスシートの借金だけで、米国の財政には56兆ドルの穴が開いている。しかも、この数字は、去年正式にリセッションが宣言される前の数字だ。米国はいまやアメリカ人全体が持つ純資産の価値よりも多く借金を抱えている。そして、そのギャップは拡大する一方だ。」

<OPINION> Warning: The Deficits Are Coming!(WSJ、9/5/09)


で、その「社会保障(Social Security)」だが、この米国の年金制度が、8月に60億ドルの歳入不足を記録、というブログ記事を読んだ。

このブログの書き手ブルース・クラスティング(Bruce Krasting)によると、ペイロールの減少にともない給与から天引きされる社会保障税が減少した一方で、退職年齢層は増えてるため支払いは増えて、それで赤字。60億ドルのマイナスというのは19年ぶりで、今年に入ってから社会保障トラストファンドの収入と支出のバランスは悪化し続けている、という。

60億ドルのキャッシュが不足した分はどうするか?もちろん、財務省が国債増発でまかなうんである。

クラスティングの記事より抜粋:

”Based on the past twelve months performance I now estimate that the Net Present Value of future committed liabilities is in deficit by $7 trillion. To plug this sized hole would require a significant increase in payroll taxes. That isn’t going to happen. Raising payroll taxes by 4% would kill the economy.”

「過去12ヶ月のパフォーマンスに基いて試算したところ、社会保障トラストファンドの将来の支払い額のネット現在価値は7兆ドルの赤字と推計される。このサイズの財政上の穴を埋めるためには大幅な給与税の引き上げが必要になるが、それは無理だろう。給与税を4%引き上げたら、マクロ経済がボロボロになってしまう。」


クラスティングは、政府の財政負担として、社会保障だけでさらに7兆ドルの赤字が乗っかった、というのである。

これにさらに、ヘルスケア関連の財政支出が増えるということになると、いったいどうなるんでしょうか・・・。

オバマが急進的な社会主義的思想を米国にまき散らかそうとしているという保守層のクレームには同意しかねる筆者だが、オバマ流のポリシーをいまのペースで続けてゆくと、この国の財政状態がどうなってしまうのか、そっちのほうは、実際、かなり不安が走るな。

クラスティングが言うとおり、ドルに投資する者にとっては心配事は増えるばかり、である。

(しかし、社会保障の年金はもらえそうもなく、健康保険制度はどーしよーもないままで、さらに個人資産のほとんどがドル建てとあっては国外脱出もままならず。そんな筆者の未来はどうなるのか・・・。)

オバマ叩きが勢い付くのに合わせ、この秋以降の市場と政界の懸念の中心は「財政赤字」が今まで以上にキーワードになりそうな気配。

政界発のノイズが高まり、金利市場と為替市場はボラティリティが増すかもしれんな。




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4 comments:

haustin said...

医療保険制度・・・保険があれば、かなり支出は減りますが(何十万円の請求が何千円になった)、保険なくて、病院から入院一泊につき何百万も請求がくれば、心臓発作おきますよねぇ(笑)。まあ、ネゴレば減らしてくれるとか言いますが、どうしてそんなに労力を病人とその家族に使わせるようにできているのか・・・保険会社も、一度支払っといて、後からやっぱりやめたといえるのも怖いところです・・・

保険のために働いているといっても過言ではないかもしれませんよね(苦笑)。


またドルが急落してますね。
これがまた限度を超えると、今はコモディティやエナジー系があがってマーケットが盛り上がっても、そのうち、インフレ懸念とかいいだして、マーケットは下がるんでしょうか・・・?そうすると消費が減る一方ですね。飛行機もまたフィーがあがるし、ガソリンも上がれば外出も減りますねぇ。。。

Trinity @ NYC said...

>haustinさん

医療保険があってよかったと思うこともありますが、こんなに自己負担が多いなら保険に入っている意味ないじゃん、と思うことのほうが多し。(笑)

haustinさんのおっしゃるとおり、この国の医療保険システムは、病人側の自己負担が重過ぎるし、保険のために働いてる感じがしてきますよね。なにせ、請求額自体が滅茶苦茶で法外なんですもの。入院すると院内で履く「スリッパ」に一回100ドル請求されますよ。そう、あの、スポンジでできたペラペラ使い捨てのスリッパが、100ドル。(自分の目で確かめたので本当です。)

我が家はいま、月々の保険料を減らすために、Deductibleを一万ドルに上げようかどうしようか、真面目に迷ってます。一万ドルまで自己負担になるけれど、毎月のプレミアムで年間それ以上払っているし、結局、保険でカバーされる分が小額ならば、自己負担分を極端にあげて月々のプレミアムをセーブしたほうがお得じゃないかと思ってしまって。

市場は全体的に息切れしている感触があります。リーマンショックから一年。要注意ですね。

haustin said...

>一万ドルまで自己負担になるけれど、毎月のプレミアムで年間それ以上払っているし

それは、プレミアム高いですね!!!
うちは会社が負担してくれてるので、ダブルでPPOに加入して、年間5000ドル行ってないくらいでしょうか。旦那の手術があるので、夫婦でダブルで加入してそれなので、来年はひとつにすればもっと減る予定です。FSAはMaxで入って出費を最大限に免税適用させてますが。。出費がすごい。。。

>スリッパが、100ドル

ひゃー。もうすぐ請求来ますよ。そうしたらブログに書きます。楽しみです。要らないって言ったのに出されたスプライト、きっと何十ドルも請求されるんだろうな。とおもってもって帰りました。市販薬もくれたけど、たっかいんだろうなぁ・・・

日本の健康保険になれていると、アメリカの仕組みは理解するだけで労力を使います。それで病気になりそうな。。(苦笑)

vespa said...

Trinity様

こんにちは。

迂闊にも、医療制度や年金制度をこれまで勉強してこなかったせいで、イメージは持てませんが、米国も大変そうですよネ。
知人に若い医者が何人かいますが、日本の医療制度も問題山積であることは間違いなく、
彼らの生活の苦悩さは、とても維持可能な制度とは思えません。

日本のアナリストや新聞では、“年金など将来が不安なため日本の家計の貯蓄率が高い”
と根拠なく書かれていますが、“米国の過剰消費は将来の年金などが安心なため”では
ないですよね。