Sunday, February 21, 2010

公定歩合は金融政策とは無関係?それはウソ。

また、ブログの更新サボってしまった。

ツイッターというのは魔物ですな。

次々と話題が流れてゆくので、楽しくてつい時間を忘れてしまう。その分ブログに費やす時間も減ってしまってる。

人それぞれ使い方があるだろうけれど、ツイッターは、基本的に、眼前にどんなツイートが流れてくるのかをそのとき見ていないと、後々になってゆっくり読み返そう、というシロモノではない。

特に自分がフォローする人の数が増えてくるに従って、瞬間に流れてくるTLの数も結構な数になるので、“ライブチャット”的要素が強くなってくる、とでもいいましょうか。

やはり、ブログも定期的にアップして自分の考えたことを書き残してゆくようにしたほうがいいなー・・・と思うのであった。


   ★   ★   ★



先週は、連銀が公定歩合引き上げるというニュースが木曜日の夕刻に出されて、ニュースが出た直後の各市場はどこも「米国、いよいよ、出口戦略踏み出し、金利上昇局面へ!」という観測が流れ、特に日本株などは悲観論にまみれて2%も下げるという展開になっていた。

NY時間がグースカ寝てる間、他地域では大騒ぎやってたみたいだが、夜が明けた金曜日のNYでは、日本市場が『ショックの予行演習』やってくれたおかげか、シラケルほどの落ち着きぶり。

「公定歩合とFFレートは違う」という認識が取引開始時間前におおかた咀嚼されて、金曜日のダウはそんなに動かなかった。

金曜日のNY市場の動きで面白かったといえば、金曜日の11時ごろにタイガーウッズの謝罪会見が開かれ、ウッズがしゃべってる間にインデックスがジワジワ上昇を始めプラス圏に入ったのに、午後になってオバマの経済問題のスピーチが始まると逆にジワジワ下げ始め、再び前日比マイナスに戻るという展開になったことぐらいか。(ブッシュの時代も、ブッシュが演説始めると決まってダウ下がってよな。w)

タイガー会見始まったら、取引ボリュームは最低に落ち、会見終わるや、いきなりボリュームスパイクしてやんの。

グラフ1) 金曜日一日の取引時間中NY証券取引所ボリューム推移(画像はzerohedgeより)



ツイッター報告で聞いたところ、日本市場でも、アメリカ発のニュースで朝から大騒ぎやっていたが、午後に男子フィギュアスケートが始まると相場が全然動かなくなり、高橋選手のメダル獲得が決定したとたん、ドンパチ再開したとのことである。

ったく、どこの国のトレーダーもしょーがねーな。(笑) 就業時間中はテレビなんか見てないで、マジメに仕事するように。


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それにしても、この公定歩合引き上げのニュースに対するニューヨークの落ち着き方は、いくら一晩ジックリ考える時間があったとはいえ、落ち着き過ぎ、反応無さ過ぎ、である。

いくらバーナンキが前々から『出口戦略、マジメにやる気だぞー!』と宣伝しまくっていたからと言って、公定歩合がいわゆる直接の「利上げ」ではないのだということを、キチンと理解している者がニューヨーク市場にどれだけいるというのか。

だいたい、あの、WSJ日本版ですら、「米利上げ」とキャプションつけて記事をツイッター上で配信していたぐらいであるよ。(「利上げ」ではないと読者から指摘されて、すぐに修正してたけどね。)

正しく理解していても、金融調節のスタンスとして【シンボリック】な意味を持つんだから、日本市場がパニック起こしたのも無理はないんである。

そして、公定歩合の引き上げなんてのは“単に正常化に向けてのテクニカルな調整”であってマネタリーポリシーとは無関係とか言っている人たちを時々見かけるが、この方達に申し上げたい。

「ディスカウント・ウィンドウは、マネタリーポリシーを担う3つの操作方法のひとつという位置付けです。」

筆者の手元に The Federal Reserve System: Purposes & Functions という古い小冊子がある。この小冊子の発行者は連邦準備銀行である。(昔、連銀からもらった。)この中に、公定歩合(Discount Rate)とディスカウント・ウィンドウの仕組みが書かれているチャプターがある。

Chapter 4 ‐ Implementation of Monetary Policy: Other Instruments

このチャプターの出だしには、こう書かれている。

This chapter focuses on operations of the Federal Reserve discount window, including establishment of the discount rate, and on reserve requirements against deposits at banks and thrift institutions. Changes in the discount rate and in reserve requirements are the monetary instruments that the Federal Reserve can employ, along with open market operations, to implement national monetary policy.

本章は主として、公定歩合の決定を含む連銀ディスカウント・ウィンドウのオペレーションについて、及び、銀行とスリフトが保有する預金に対し課せられる預金準備制度について述べる。公定歩合および預金準備率の変更は、公開市場操作と並んで、連邦準備制度が国家のマネタリーポリシー(金融政策)を発動するのに用いることのできるマネタリーインストルメントである。

また、連銀サイトのFOMCの項目には、こうも書かれてある。

The Federal Reserve controls the three tools of monetary policy--open market operations, the discount rate, and reserve requirements. The Board of Governors of the Federal Reserve System is responsible for the discount rate and reserve requirements, and the Federal Open Market Committee is responsible for open market operations. Using the three tools, the Federal Reserve influences the demand for, and supply of, balances that depository institutions hold at Federal Reserve Banks and in this way alters the federal funds rate. The federal funds rate is the interest rate at which depository institutions lend balances at the Federal Reserve to other depository institutions overnight.

連邦準備制度はマネタリーポリシーのためのツールとして、公開市場オペ、公定歩合、預金準備の3つをコントロールする。このうち公定歩合と預金準備率については連銀理事会が、公開市場オペについては連邦公開市場委員会(FOMC)が責任を持つ。これら3つのツールを用いることで、連銀は預金取扱金融機関が各地連銀に預け入れる資金の需要と供給に影響を与え、そうした経路を通じてFFレートの変更を行う。FFレートとは、預金取扱金融機関が連銀を通じて余剰資金を他の預金取扱金融機関へオーバーナイトで貸し出す際の金利である。

ということで、

マネタリーポリシーの変更はFOMC(Federal Open Market Committee=連邦公開市場委員会)が決定するFFレートのみで語られる話だ、

とか、

公定歩合はマネタリーポリシーとは無関係で実際には何の影響力もない、

などと言った「新定義」を勝手に作るのは控えていただきたい。


   ★   ★   ★

ということで、今回の公定歩合の引き上げは、すぐすぐにFF金利の引き上げに至るかどうかは別として、連銀がFF金利を上昇させる【地ならし】【下敷き】と先読みするのは、金融関係者であれば、きわめて当然の思考回路である。

実際、これまでも、マネタリーポリシーのための3つのツールのいずれかが変更になっても、米国市場はいちいち大騒ぎを繰り返してきたんである。

ところが今回ばかりは、「ま、公定歩合はそんなに深い意味ありませんからねー :)」とか言っちゃって、発表翌朝はやたら落ち着き払っちゃってたんである。

これについて、フィナンシャル・タイムズのブログAlphavilleが、今回の公定歩合引き上げ発表は事前にリークされてたのじゃないか、という記事を載せていたので書き留めておく。

Did the discount rate hike leak? (FT Alphaville, 2/18/10)

同記事に掲載された下の二つのグラフは、上が18日の米国債10年のイールド、下が2年である。



グラフ横軸はロンドン時間だが、16時頃(NY時間で午前11時頃)米国債イールドは急上昇した。この日の昼前、筆者もCNBC局を見てたんだが、UST10yrが一気に5bp上昇し、UST2yrも上昇したが3bpで、結果として2年と10年のイールド差がさらに拡大、過去最大になってイールドカーブが立っている!とテレビではワーワー騒いでいた。

Alphavilleも書いているように、米国経済が回復基調にあることを示す別の指標も出されたりして、イールドが上昇する理由はあったと言うのも、結構。

でも、公定歩合引き上げという重要ニュースには、長期債のほうは全く反応ナシ。一方、2年債のほうは、ニュースとともに、ビョ~~~ンとジャンプ。

10年債が反応しなかったのは何故?と考えてても筆者に答えが見つかるわけないんで、そこは想像たくましくするっきゃない。だけど、10年債が反応しなかったのを見ても、翌日の米株市場の異様な落ち着きぶりを見ても、なんかなー・・・とついついよからぬことを考えてしまう、MHJ筆者である。(笑)

それに、連銀だって、長年同じことやってきてるんだから、このタイミングで公定歩合引き上げますと宣言したら市場がどんな憶測飛ばして反応示すかなんてことは百も承知のはず。(例:日本市場の反応を見よ。)来週また1260億ドル(!)の米国債オークションがあるそうですので、ここで過剰反応されても困るしな。

まぁ、いずれにせよ、将来の金利正常化に向けて、まずは、ここから第一歩を踏み出したわけだ。

とはいえ、現在の米国の状況は、金融政策を引き締めの方向に旋回させる地合いには、ぜんぜん、いない。

実態経済がこのザマで、ここで「金利上げモード」に入ったりしたら、米国経済は全面血まみれ。そんなこと、マクロに疎い筆者にだって、わかるわい。

Fedがやりたいことの優先順位No.1は、「いつまでもこんなことばっかしていられない」などという大義名分に沿って出口を模索することでもなく、海外政府を助けてあげることでもなく、カネを海外に流して海外にバブルを形成することでもなく、

【金利をゼロにへばりつかせようが、何しようが、米国内にクレジットがスムーズに回らず、供給された過剰流動性が銀行システム内にキャッシュの形で積みあがってしまっている】

という国内の現状を是正することにある

要するに、連銀はせっせと流動性を供給して資金ジャブジャブなんだけど、それを仲介するはずの金融機関が便秘起こしちまってて、金融仲介機能がうまくいってないという話である。

国内の金融仲介機能が麻痺したままで利上げするなど、自殺行為であるよ。

「公定歩合を変更することで、預金取扱金融機関の資金の需給に影響を与える」←上で紹介したサイトで、連銀がそう言っていましたね。

銀行システム内には現在、キャッシュが根雪のように積まさって、企業融資残高とキャッシュ残高が同じぐらいある、という話を聞いた。

このキャッシュが、今回の動きに刺激を受けて、どう流れてゆくのか、筆者は非常に興味がある。

筆者がまず直感として思ったのは、これまで連銀が一気に引き受け手に回っていたMBS市場に流れるのではないか、ということだ。(連銀によるMBS買取は3月末で予定通り終了。)

銀行システム内にキャッシュが溜まってる、という話は、また別途書こうと思う。



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4 comments:

phi said...

いつも楽しみにしています。
私は素人なのですが、ツイッターのTL上で「新定義」が支配していたことに
違和感を覚えていましたから、今回の記事ですっきりできました。
とはいえ、マーケットの動きを軽視するわけには行きませんので、アジアでの
ショック的な動き、欧米時間でのそれを打ち消す動きのいずれか正しいほうが
今後色濃く出てくるでしょうから動向を見守りたいと思います。
ありがとうございました。

Anonymous said...

キャッシュが銀行システム内に滞留して目詰まりする問題、日本もずっと解決できないでいるし、ヨーロッパもおそらく直面する(ないししている)はずですから、アメリカがうまく対処できれば世界的なインプリケーションがあるはずで、大変興味深いところです。

vespa said...

こんばんは。

現在米銀が保有しているキャッシュの大部分は、FEDに預けた準備預金でしょう。
FEDは、必要準備預金金額を超える部分につては0.25%の付利をしています。
(ご存知の通り、必要準備預金金額を超える部分は、日本の専門用語では“ブタ積み”といいます)
米国のブタは、今1.2兆ドル程度で、民間銀行のBS上はキャッシュ、FEDは負債の資金調達となっています。

ブタも含めて、民間銀行の準備預金残高の総額はFEDが決定しています。
民間取引のみではドルはFEDの準備預金の口座間で相互に決済されるだけで総額は変化させることはできません。例えば、A銀行がB銀行からMBSを購入すると、Aのブタが減ってBのブタが増えますが、ブタの総額は変わりません。

FEDと民間銀行の資金取引でのみ総額を変更することが出来、それは全てFEDが決定しています。

1.2兆ドルの膨大なブタが0.25%である限り、FFレートは完全に死後硬直状態で、ブタの金利調整で政策金利を変更するか、ブタを正常な水準に戻して、ブタ金利を廃止してからでないとFFレートは機能しないでしょう。
また、現状では民間の資金需要とブタの総額とは直接的には無関係です(これがBS調整の恐ろしいところ)。

参考となるロイターの記事を貼っておきます。
http://jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPnTK036548420100112
ひょっとして理解が違っていたら教えてください。

Anonymous said...

欧州委、ユーロ圏によるギリシャ救済計画報道を否定
2010年 02月 23日 01:19 JST
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-14007020100222

もうギリシャ問題は何が何だか分からなくなってきた