ミッキーマウスが魔法の杖を振るたびに、次から次へとファンタジーが飛び出して、あなたを夢の世界へといざなう、ディズニー映画の傑作中の傑作。
・・・アッ、し、失礼、ま、間違えました、ホンモノはこっちです。
「現時点でリセッションは終了した可能性が非常に高い」(the recession is very likely over at this point.)という今朝のバーナンキ議長の発言が視界に入ってきた瞬間、筆者の脳裏に、ヘリコプター・ベンが魔法の杖を振ってるイメージが湧いたもんで、つい・・・。
今年に入ってから新たにアンダーライトされた住宅ローンの8割がなんらかの政府支援付き。8月の個人消費データも政府支援(Cash for Clunkersプログラムは8月21日のMHJ記事参照)による新車販売のおかげでよく見えたが、小売全体は厳しい状況で、大手家電のBest Buyも売り上げ減で苦戦。
【政府支援】という魔法の杖で、住宅・消費データはなんとか底上げ。それが実態じゃないのか?
魔法使いのファンタジー・ベンが、本日、ワシントンDCのブルッキングス・インスティチューションで行った講演の全文はこちら。
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しかしね。「テクニカル的にみるとリセッションは終了」したということらしいが、現実問題として、どうよ。
前回もその前も書いた「夏なのに空港がガラガラだった」という筆者の体験談だが、あの印象どおり、グローバルの航空業界の2009年の赤字幅は110億ドル(1兆円)規模に膨らみそう、という記事が今日のウォールストリートジャーナルに載っていた。
Airlines Face $11 Billion in Losses (WSJ, 9/16/09)
IATA(国際空輸協会)がまとめたもので、乗客数減少と原油価格上昇のインパクトで来年も逆風は続き38億ドルの損失を見込むという。同協会によると、2009年の乗客数は2割減とのことで、前回のMHJで紹介したウォルマートのCEOが言っていた「アメリカ人が今年バケーションに使ったお金は25%減」という数字と近い。
協会の予想では、業界内の倒産は続き、統合がさらに進むとみられる。(JALも数千人単位で解雇するようですね。)
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「全米の学校は9月から新学年が始まるが、普段なら今頃から、新学期用(Back-to-School)需要がチラホラ出始めてもいい時期なのだが、今年は、その新学期シーズンに向けた配達が動き出している様子がみられない。」
7月21日のMHJ記事で書いたUPS社のCFOによる、このセリフを覚えておられるだろうか。
9月初旬に8月の小売統計が出されてきたが、実際、このBack-to-School関連のセールスは、散々という結果だった。
Not Looking Good So Far for Back-to-School Sales (NYT、9/4/09)
UPSの予言、ドンピシャ。
Back-to-Schoolセールスは小売業にとってはクリスマス商戦の次に重要な売り出しなのだが、今年はダメだった模様。
クリスマス商戦で盛り返すことができるのか、それを占うにはどこを見ればよいのだろうと思ってたら、「海上運輸」の業界から、なにやら不気味な話題が・・・。
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シンガポール沖に【幽霊船】が多数停泊している、という話題である。
9月13日にイギリスのニュースサイト『Daily Mail』に掲載された記事だが、一昨日から昨日にかけて、アメリカの金融経済ブロガー達の目にとまり、方々で取り上げられていた。
Revealed: The ghost fleet of the recession (MailOnline, 9/13/09)
人のあまり寄り付かないシンガポール沖に、隠れるようにして、積荷も乗組員もいない海上輸送用船舶が停泊しているというのである。タンカーや物資輸送船など、その数5百艘。この記事の書き手は、イギリスとアメリカの海軍を合わせたぐらいの数の船で、積荷総量でいえばそれよりもっと多いぐらいじゃないか、という。記事中に掲載されてる写真をみると、まるで、無敵艦隊風。
地元漁民の言葉:
'We don't understand why they are here. There are so many ships but no one seems to be on board. When we sail past them in our fishing boats we never see anyone. They are like real ghost ships and some people are scared of them. They believe they may bring a curse with them and that there may be bad spirits on the ships.'
「これらの船舶がどうしてここにいるのかわからない。ずいぶん数が多いが、誰も乗っていないようだ。漁船にのって脇を通っても、ひとっこ一人見かけない。本当に幽霊船のようで、怖がってる仲間もいる。呪いが降りかかるとか、悪霊が住み着いてる船だと信じてる者もいるんだ。」
記事は続く。
As Briton Tim Huxley, one of Asia's leading ship brokers, says, if the world is really pulling itself out of recession, then all these idle ships should be back on the move.
アジアの船舶ブローカーの先駆ブライトン・ティム・ハクスレイはこう述べる。もし世界が本当にリセッションから抜け出しているのなら、これらの船舶はみな動き出しているはずだ。
'This is the time of year when everyone is doing all the Christmas stuff,' he points out.
この時期は誰もがクリスマスに向けて活動している時期のはずだ、と彼は指摘する。
'A couple of years ago those ships would have been steaming back and forth, going at full speed. But now you've got something like 12 per cent of the world's container ships doing nothing.'
2~3年前だったら、これら輸送船はフルスピードで航路を往復していたものだ。だが、現在、世界のコンテナ船の12%が何もせずに海に停泊している。
(中略)・・・The cost of sending a 40ft steel container of merchandise from China to the UK has fallen from £850 plus fuel charges last year to £180 this year. The cost of chartering an entire bulk freighter suitable for carrying raw materials has plunged even further, from close to £185,000 ($300,000) last summer to an incredible £6,100 ($10,000) earlier this year.
40フィートのスティール製コンテナを中国から英国に送るコストは去年のレートは£850プラス燃料費だったのが、今年は£180に下がっている。原料を運ぶのに適したバルク輸送船を一艘丸々チャーターするのにかかるコストになるとさらに下がり方が激しく、去年の夏は £185,000 (30万ドル)だったのが、今年の初めは £6,100(1万ドル)という信じがたいレベルまで落ちている。
Business for bulk carriers has picked up slightly in recent months, largely because of China's rediscovered appetite for raw materials such as iron ore, says Huxley. But this is a small part of international trade, and the prospects for the container ships remain bleak.
中国が鉄鉱石などの原料に再び食指を動かしているおかげで、バルク輸送船はここ数ヶ月ですこし持ち直してきている、とハクスレイは言う。だが、これは国際トレード全体でみるとわずかの部分にしか過ぎず、コンテナ輸送の見通しは非常に厳しいものがある。
(記事引用終わり)
ロンドンで最大の船舶ブローカーは、「積荷を輸送するのに£7000かかるとわかっていて、もらえるのが£6000にしかならないのなら、何もしないほうがマシ」と言う。
イギリスで売買される商品の92%が海上輸送によるものだそうで、英国の小売店はクリスマスのためにもう何ヶ月も前から商品の仕入れを考えてオーダーを入れているはずだが、今年は、お店の棚に豊富に商品を並べることができない店も出てくるかもしれない。コンテナ輸送の需要が落ち込んでいる理由のひとつは、もちろん、消費見通しが明るくないというのがあるが、もうひとつの理由は、商人が商品を仕入れようにもクレジットが絞られているケースもあるから、と記事は指摘する。
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海上輸送のことなんて、筆者にはこれまで無縁の世界の話、何も知らない。
でも、素人頭で考えてみても、そうですよね。グローバルの物資の流れを支えている立役者は海上輸送だよね。筆者もかつて仕事でシンガポールを頻繁に訪れたが、アジア最大の商業港シンガポールに積み上げられてたコンテナの数量には、いつ行っても圧倒されたものだったよ。
又聞きの受け売りで恐縮だが、ロンドンには海運専門のBaltic Exchangeというのがあって、ドライバルクの海上輸送にかかる国際取引価格をBaltic Dry Index (BDI)というインデックスにして公表しているんだそうである。
BDIというインデックスのチャートって、筆者は初めて見ましたけど、いや~すごい乱高下ですね。2006年後半あたりから急激に高まったコモディティブーム(とりわけ、中国からの需要が火付けになった鉄・非鉄ブーム)とピッタリあってるな。
こちら(↓)は、S&P500とBDIを合わせてプロットしたもの。2009年7月から株価はBDIから大きく乖離する。ここ2ヶ月の株価の動きは、BDIが示唆する将来の消費動向を無視しているように見えるな。
興味ついでに、世界最大の造船会社である韓国の現代グループのHHI(Hyundai Heavy Industry)のサイトに行って最近の業績(8月26日発表分)を見てみたんだが、おぉ・・・ひどい・・・。今年7月の造船オーダーは前年同期比で98%減。
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巷のエコノミストやストラテジストの間には、米国の在庫が低水準になってきていることで、年後半は在庫調整の進捗とリストッキング(Re-stocking=在庫の再積み上げ)が牽引となって、経済が拡大する可能性を指摘するものが少なくない。
だが、物流の最前線から聞こえてくる話は、FedExやUPSの見通しにしろ、このシンガポールの幽霊船の話にしろ、必ずしも、力強い在庫回復というインプリケーションは、まだよく見えてこないよ。
むしろ、積極的なリストッキングは雇用市場の回復が現実のものとして見えてくるまでは本格始動せず、ギリギリ低いまま在庫水準を抑える形で当面推移してゆくんじゃないのか、という気になってくる。
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3 comments:
Trinity様、
こんにちは。
シナモンコーヒーを飲みながらブログを開けたのが失敗でした。
ファンタジー・ベン、吹いちゃいました。
彼の言動、
心理面の影響は大きいでしょうから、市場の“盛り上げ”は必要なのでしょうが、計算された感じから、マジで行っちゃってる感が漂ってきているのですが.....
関西で在住のものです。
先日より、ブログ読ましていただいております。
景気の悪さを、実感したのは、この夏、エルメスに低価格帯のアイテム≪キーホルダーとか≫が増えたこと、ワンピースに今までに無い定価帯があったことです(品質はもちろん宜しいのですが)。
あと、百貨店の質流れ高級品のビラが当日になっても、配っていました(バーキンとかロレックスが目玉)。いままで考えられなかったです。
中古高級品ですら裁け切れていない様子でした。少し前の鉄道忘れ物は盛況だったようですが。
景気の回復は???ですね。
こんにちは
去年のハローウィンの時期にはバーナンキとポールソンの二人が悪魔に扮した画像で何かと楽しませてくれたものですが。
ベンはキャラ色豊かなので面白いですが、学者らしく時々投資家心理に冷水浴びせてくれるところが何とも・・・ですが。
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