Friday, January 20, 2012

アメリカの学費ローン破産

今朝、ワンコの散歩途中にラジオを聞いてたら、全米の大学の学費上昇の話題が出てた。番組司会者のトム・キーンは、どこのパーティに行っても、親が集まれば「どうやって子どもの大学費用を払おうか」しか話題にでてこない、といっていた。(この話題のBloomberg RadioのクリップMP3はこちら。)

いま、アメリカで最も学費が高いのはニューヨーク大学(NYU)でおよそ6万ドルだそう。そしてコロンビア大。4年で24万ドル。家が一件買えるではないか。

しかし、大学に行くのに一年で6万ドルとかかかったら、よほど優秀で奨学金を相当額貰えるか、あるいは親がある程度裕福でなければ無理だな。卒業と同時に10万ドルだの20万ドルだのといった借金を抱えてしまったら、リベラルアーツ系の学部を卒業しても、卒業後のそれ系の仕事でもらえる給料を考えたら、とても払えない。

ラジオによると、全米平均になると2万~3万ドル台だそう。しかし、学費が比較的リーズナブルな州立大学でも、州の財政難で大学への補助金が減らされており、それが授業料上昇の形になって学生(とその親)にのしかかって来ているという。カリフォルニア州では州立大学の学費上昇率が前年比で10%超えている。

オキュパイ・ウォール・ストリートで叫んでいた学生達の中にも、こんなんじゃやっていけんと吠えている学生は少なくなかった。米国では学生ローン破産が社会問題となっていて、昨年の秋、オバマがこれに対し、学生ローンのリスケ案を発表してました。

Obama to Lay Out Student-Debt Plan
(Wall Street Journal, 10/26/2011)

政府が用意している学費ローンの他にも民間金融機関から借りた学費ローンもあって多重債務に陥ってる学生もアメリカには少なくない。オバマ案はそれらを一本にまとめてリファイナンスし、金利も減らしてあげよう(といっても最高0.5%だが)という内容のプログラムである。

わたしの知り合いでも、住宅バブル盛んなころ、ホームエクイティローンを引き出して子どもの学費や寮などの生活費に充てているという親が何人か実際にいましたよ。親は親で、子どもを大学に送るために借金してんだよな。

で、アメリカの学費ローン破産の問題がどれだけヤバイことになってるかというと、Huffpost のこの記事。

Obama's Student Loan Plan Guide
(AP / Huffington Post, 10/27/2011)


Q: How big a problem is student loan debt?
A: Total outstanding student debt has passed $1 trillion, more than the nation's credit card debt, and average indebtedness for students is rising. The College Board said Wednesday that the average in-state tuition and fees at four-year public colleges rose an additional $631 this fall, or about 8 percent, compared with a year ago. The cost of a full credit load has passed $8,000 – an all-time high. The board said about 56 percent of bachelor's degree recipients at public schools graduated with debt averaging about $22,000. From private nonprofit universities, 65 percent graduated with debt averaging about $28,000. Experts say those average amounts usually are still manageable, at least for those who finish a degree. But they are concerned about the rate of increase, the growing numbers with substantially more debt and the increase in those apparently in over their heads repaying them. The Education Department said in September that the national student loan default rate for the 2009 budget year had risen to 8.8 percent.
(質問)学費ローン借金問題は、どれぐらい大きい問題なのですか?
(答え)学費ローンの残高総額はすでに1兆ドルを越していて、米国のクレジットカードでの借入残高よりも大きい。学生ひとりあたりの平均借入額は上昇を続けている。大学理事会(Collage Board)によると、4年制州立大学の秋学期の授業料は、1年前と比べて$631ドル、およそ8%上昇した。フルタイムの学生が取得しなければならない単位数の必要経費は$8000を超え、これもこれまでで最高値。公立大学を学士号を得て卒業した学部生の56%が卒業時に平均22000ドルの借金を抱えている。私立大学卒業生の場合は65%の学部生が平均28000ドルの借金。専門家らは、こうした平均レベルの借金額であれば、少なくとも学位を取って卒業すれば、卒業後の支払いもなんとかなると考えている。しかし懸念となっているのはむしろ上昇率のほうで、これよりはるかに大きな借金を抱えて卒業してくる大学生の数が急増しており、払い切れないことが明らかな学生の数も増えている。教育庁によれば、2009年度の学費ローンのデフォルト率は全米で8.8%に増加したという。



学費ローンを借りた学生の9%近くがデフォっていて(デフォるの定義=9か月延滞しちゃってる)、この数値、現在も更新中。
上述したWSJの記事によれば、大学の授業料は年間5.6%上昇しており、2009年度の学費ローンのデフォルト率は8.8%、その前年度は7%、一年で大きく上がったようだ。2005年度のデフォルト率は4.6%だったそうなので、5年待たずして倍増したことになる。


しかし、FinAid.orgの調べだと、学生の実に4分の1から3分の1が卒業後の最初の支払いをミスってるという話で(おそらく、不況で卒業後すぐに職が見つからない学生もいるのも理由のひとつかと思われ)、「潜在的」な延滞者は、すでにデフォっている9%(3千600万人のうち400万人)よりずっと多く潜んでいる。

学生の中には、シランプリしてればそのうち貸した方も忘れてくれるだろうと甘いことを考えてる輩もいるようだが、自己破産しても、学費ローンはその対象にならないので、払い続ける義務は消すことができない。


下の図は、全米学生ローンのデフォルト率推移。(Federal Student Aidのサイトから)




フルタイムの学部生のうち、学生ローンを借りた学生の割合はこちら。(大学のタイプ別)


これを見ると、学費ローンへの依存は大学のタイプに関わらず全体的に上昇しており、NYUのようなFor Profitの私立大学の場合、90%以上の学生が学費ローンに頼っている、ということになる。

また、ローンを借りる先も、政府がバックになっているローンプログラムの他、民間からの学生ローンを借り入れる学生の数が急増しており、10年前は5%かそこらだったのが、2008年には3倍の15%に迫ろうとしていた。




Educationsector.orgという団体のサイトに、他にもたくさんのグラフが掲載されており、ことの深刻さが垣間みえます。下は2009年の古い記事ですが、背景を知るのに非常に参考になります。

Drowning in Debt: The Emerging Student Loan Crisis
(Education Sector, 7/8/2009)


4 comments:

Anonymous said...

しょうもない質問だったらすみません、National Students Loan Default Ratesのグラフで1989~1990年のあたりの20%代ってすごい高いですけど一体何があったんでしょうか?見当がつかなかったもので、、

Anonymous said...

いつも楽しく拝読させて頂いております。
この記事を拝見するに、親御さんが大学の授業料、生活費などを丸々看てくれる日本の子供達の甘さと教育ローンを組んでまで大学に進学しようとするアメリカの大学生達の真剣さを比べてしまいました。きっとアメリカでは借金を返すのに必死になるのでしょうね。

ドメと外資系金融機関との間にある収益に関する貪欲さの違いはこの辺が原因かもしれないですね。

TrinityNYC said...

Anonymous(#1)さん、わたしも同じ事考えておりました。昨日の段階で、そこまで調べられなかったので、また機会を見て、20%のデフォルトの背景をみてみますね。ちなみに1989年~1990年というのは、1987年秋にNY株市場が暴落したブラックマンデーがあり、88年以降は就職難の年が続き、また金利水準も現在よりかなり高かったと記憶しています。

TrinityNYC said...

>Anonymous(#2)さん、アメリカではずっと以前から大学進学で学生ローンを借りるというのは、ほぼデフォで、私の夫も私自身も、そうやってアメリカの大学を卒業しました。結婚後も数年間は毎月、ふたりとも、少ない給料からせっせと学生ローンを返していましたよ。(学生ローンを返し終わったとたん、次は持ち家を買ったため、また借金漬けに、というアメリカンなライフスタイルをなぞってましたw)でも、わたしらの時代のように、学費が低いうちはまだ返済可能なローン額でしたが、今は親の年収より子の大学進学の経費のほうが大きいという家もあったりで、働けど働けどジッと手を観る親も少なくないと思います。これは大きな社会問題。