Thursday, January 19, 2012

欧州ソブリンは小康状態

先週13日の金曜日にS&Pがフランスの欧州ソブリンをトリプルAからダブルAに格下げし、イタリアその他の欧州国8カ国も格下げになった。

Europe Hit by Downgrades
(Wall Street Journal, 1/14/2012)

実際の格下げが公表される前に、あちこちの「当局関係者」だの「政府高官」だのが予告編よろしく次々リークしまくるものだから、13日の株式相場は、リークでヘッドラインが出てくるたびにいちいち反応。メディアも一緒になって興奮してた。

今日になると、怒り心頭に達したイタリア当局が米格付け会社を【市場操作の疑いで家宅捜査した】というニュースまで出てきた。担当アナリストの家を家宅捜査して、「何」を探そうとしてるんでしょうね・・・。記事によると、罪状は「昨年5~7月にイタリアの財政や銀行システムに関する偏った情報を流し市場を捜査した疑い」だそうです。

まぁ、イタリア政府の気持ちもわからなくはないですよ。90年代後半から2000年度前半にかけて、邦銀や日本ソブリンの格下げが続いていた頃、危機の渦中で目の周りにクマ作っていた日本の関係者らも、家宅捜査とまではいかなくても、格付け会社に対して似たりよったりの反応して騒いでましたからね。

「日の出ずる国ニッポンが、何ゆえ、アフリカのボツワナなんぞより、格付け低いんだ!!」

と、ほうぼうで関係者が喚き散らし、在日ボツワナ大使館が傍らで「何故ワシら?」と当惑してるのもお構いなし、ツバ飛ばしてボツワナをdisりまくり格付け会社を呪い倒し、その品のなさ、みっともなさたるや、海外から失笑・苦笑を買ってたのも、今となっては懐かしき思ひ出・・・。

いずれにせよ、市場が不安定なさなかにどんどん格下げのニュースが出てくるというのは、何を今更な感があるとはいえ、間違いなく「ヘッドライン・リスク」となっていろんな相場で咀嚼されるから、まるきり無視もできないよね。

格付けと債券クレジット市場の動きの関係については、過去にいくつかエントリー書きましたので、ご参考まで。

米国債格下げは最も重要性の「低い」問題 (MHJ, 8/5/2011)
- CDSのImplied Ratingと市場パーセプション (MHJ, 11/27/2010)

★   ★   ★   ★

で、その格付つけられてる肝心の債券はどうよ、というのが今日書き留めておきたい本題なんだが、実際のダウングレードにはほとんど反応せず、概して関連発行体のスプレッドは落ち着いている。

フランスが格下げされたらトリプルAを失うと懸念されてた欧州救済ファンド(EFSF)も、予定どおり格下げされてAAAからAA+に落とされてしまったわけだが、この格下げを受けた後にEFSF発行の債券の対独スプレッドがどうなったかと思っていたところ、このチャートを頂戴しました。(Thanks to @BourseBXL)


これを見ると、欧州に対する悲観度が一気に高まった11月ごろに、対独スプレッドが150bpsを突破、11月21日には205bpsまで駆け上がっていた。

この段階で、フランスの格下げはある程度シナリオとして織り込まれていて、その後、ECBがドカーンと流動性供給の動きに出たりして、市場での極端な緊迫感は抑制されている。実際の格下げニュースが来たところで、さほど動かない。

買い手側からは、このロイターの記事によると、「日本はこれまでもEFSF債を買い入れてきたし、格下げで(投資家としての)日本のスタンスが変わることはない」("Japan has bought them by certain amounts and our stance will not immediately change just because of the downgrade," Azumi told reporters after a cabinet meeting.)との、安住氏の力強いサポートのお言葉も。

ただ、格下げ公式リリース発表前でギクシャクしていた13日のWall Street Journalの記事には、こういう記述もあったんですよね。

Yields are surging across the EFSF curve on news that two EFSF guarantors, France and Austria, might suffer a downgrade. "I am seeing only sellers in France and Austria and EFSF is feeling the impact," said a trader.

EFSFのギャランター(保証を出す側)の一角でああるフランスとオーストリアが格下げされるかもしれないというニュースを受けてEFSFのイールドカーブは全体に持ち上がっている。「フランスとオーストリアの国債には売りしかいない状態で、EFSFもインパクトを受けている」とトレーダーの言葉。

19日の今朝は、スペインとフランス国債のオークションがあって、どちらも需要は底堅くあった模様。

Strong French bond auctions show investors ignoring downgrade; easily raises $12 billion
(Washington Post, 1/19/2012)

しかしですね、国債オークションがこうしてうまくいってるのは、ECBがバカスカ買い上げて新発債の需給の調節やってる、というのが背景にあるんじゃなかろうかな。上のトレーダーの言葉にもあるように、懸念が出てくるとドイツ国債以外の欧州債は売り一色になってしまう、そういう地合いにいるには違いないんである。

上述した、拙ブログ記事『米国債格下げは最も重要性の低い問題』で筆者は、米国債が格下げされようがされまいがどうでもいい、米国債ほど信用力が高くかつ流動性が高い債券は他にない、市場への影響は限定的だろうし、格下げはむしろ政治的な側面から問題になる程度と述べ、実際そのとおりになった。格下げ後は、ヘッドラインに翻弄されてボラが上がった株市場などから資金が米国債へと流れ込み、米国債のイールドは逆に下がった。

だが、スペイン国債やフランス国債は、米国債とは、違う。

中央銀行のバカスカ需給調節におんぶに抱っこでなんとか消化されている。

言ってみれば、現在の欧州の一種の小康状態は、またいつ熱がぶり返すか判らない、そういう危うい状態にまだいるのだ、と筆者は感じるのである。

2 comments:

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