Tuesday, August 3, 2010

米国でも「お財布ケータイ」

2日のBloombergに、こんな記事が。

AT&T, Verizon to Target Visa, MasterCard With Smartphones
(Bloomberg 8/2/10)

記事によると、米国二大携帯キャリアのAT&TとVerizonの2社がベンチャーを組んでスマートフォンを用いた決済事業に参入予定、クレジットカード最大手のVISA(以下V)とMASTERCARD(以下MA)にとっては新たな脅威になるかも、とのこと。内情に詳しい関係者3人が明かした。

以下は筆者による記事の要約。

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AT&T(以下T)とVerizon(以下VZ)が組もうとしているパートナーシップには、ドイチェテレコム(Deutsche Telekom)のユニットであるT-Mobileも参加する予定で、ディスカバーカードと英バークレイズが共同でアトランタほか米国の3つの都市にある店舗でシステムの試験を行うことになっている。顧客ユーザーはスマートフォンの「コンタクトを必要としない周波(contactless wave)」を用いて支払いを行う。TとVZは現在そのベンチャーのCEOに就く人物を探している最中。

この試みは、米国内のモバイルによる決済を促す最大のもので、米国人の財布に入っている10億枚のプラスチック・カードに取って代わる決済手段になるかもしれない。

「市場優位性」

業界に詳しいコンサルタント、リチャード・クローンは「モバイルのキャリア達は支払いプロセシングのエキスパート。これは確実にカード業界の流れを変える動きだ」と指摘する。氏が営むクローン・コンサルタントはカードネットワーク、カード発行会社、電話会社などにアドバイスを行っている。

ニルセン社のニューズレターによると、VとMAの2社は昨年2兆4500万ドルの支払いを手がけ、これは米消費者による一般使用目的のカードによる支払いの82%を占めた。この支配優位性が功を奏し、両社の収益増加をもたらした。Vの年間営業収益は2005年会計年度から6倍の$3.54bilに増え、MAも同様に$2.27bilと5倍以上に増えている。

コンタクトを必要としないテクノロジーで店舗での買い物を携帯で済ます決済サービスはすでに、日本、トルコ、イギリスなどで実用化されている。このJVでは、V、MA、AMEXについで全米4位のディスカバーカードの支払いネットワークを経由してプロセスされる。バークレイズは口座マネージを担当することになろうと、関係者は述べた。

「必然的な次なるステップ」

ベンチャーの参加比率は、TとVZは同率、T-Mobileが小さなシェアで参画するという。

バークレイズ社とディスカバー社の関係者はともにコメントを控えた。

「消費者にとって、モバイルによる支払いが次のステップになるのは当然の流れ。」Tのスポークスマン、マーク・シーゲルはそう述べた。VとT-Mobileの広報担当者は「現時点で話すことはない」としている。

ディスカバー社の広報レスリー・サットンは、「わが社は、より早く、より安全で、より利便性の高いテクノロジー・ソリューションを常に評価判断している」と述べ、バークレイズの広報ケヴィン・サリバンは「モバイルによる支払いの促進は、バークレイズのグローバル戦略において非常に重要な位置付け」と述べた。

金融機関を専門に投資するヘッジファンドHill-Townsent Capital社のCEO、ギャリー・タウンゼントは、米国のクレジットやデビットカードの最大の発行者であるJPモルガンやウェルズファーゴを電話会社が取って代わることはおそらくないであろう、という見方を示した。

「カード手数料」

「消費者が自分達の生活スタイルに合わせて好きなように利用できるメカニズムだという以外に、携帯電話が何だというのだ?」タウンゼントは電話インタビューで述べた。「AT&Tの口座が携帯を使って効果的にできるサービスがあったとして、JPモルガンやウェルズファーゴではそれができないという理由などない。実際、それをやるにも、独禁法がきっと立ちはだかってくる。」

長年VとMAがトランスアクションごとにチャージする手数料をめぐって戦い続けてきたリテール側は他のネットワークが参入してくることに賛成の意を示すかもしれない。リテール会社達は先月、デビットカードに課せられるインターチェンジ手数料(interchange fees)に上限をつけるというルールをついに議会に承認させ、2005年にファイルされた連邦独占禁止法違反の疑いはいまだ審理中になっている。Vによると、商店の側がクレジットカードを使用する顧客に追加手数料を課すことを禁止したVに対し、米法務省は民事法に基づく訴訟を持ち込むか考慮している最中、という。

「重要な悪影響」

「このルールが変更されると、我々のビジネスにとっては重要な悪影響になる」とVは当局に提出した書類上で述べている。

クレジットカードとデビットカードのトランスアクションごとに、カード会社から商人に1%から2%課されるインターチェンジ手数料は、年間$40bilを越す。

TとVZのベンチャーに通じた関係者は、この企画でトランスアクションごとにどれだけチャージが発生するか、またいつ試験がスタートするかの時期については、明確には言わなかった。

ウォルマート、Home Depot、ターゲットなどの大手リテール会社が作る業界団体 Retail Industry Leaders Associationのスポークスマン、ブライアン・ドッジは次のように述べた。「我々が長年主張してきたことは、今日(こんにち)の支払い市場では真の意味で競争が働いていない、ということだ。安全で信頼性の高いネットワークが競争に参加して、モバイルによる支払いオプションへの消費者の需要を満たし、リテール会社にとってのコストが低減されるのであれば、それは願ってもないニュースだ。」

「転換点」

米消費者は現金やチェックでの支払いをカードや電子支払いに切り替えてきており、現在、全体の半分以上がカードや電子支払いになっている。ニルセンによると、2003年には同比率は36%だった。

コンサル会社マーカタス社の調査によると、銀行業務や支払い業務におけるモバイル・テクノロジーは、若い消費者が先陣を切る格好で「転換点」を迎えている、という。18歳から34歳までの米消費者は、消費者全体の半分以上を構成するが、その80%近くが5年以内にモバイルによる金融サービスを使うだろうとのこと。

同社パートナーで元フリート銀行のリテール・バンキング部長だったボブ・ヘッジズは、「人々は日々の生活のあらゆる側面で携帯電話に依存しており、モバイルによる金融サービスを人々が素早く広範囲に受け入れる日は、すぐそこに迫っている。消費者がそれを望んでいるのだ。」と述べた。

MAとVも、独自のモバイルプロジェクトにすでに投資を始めている。Vはテキサスに本拠を置くDevice Fidelityという会社と組んで、iPhoneを含む各種携帯電話を支払いデバイスに変えるテクノロジーを開発済みで、これを使えば複数のカード口座を携帯内に取り込むことができると、Vのモバイル事業担当トップ、ビル・ガジャは述べている。

「Zong、Bling、Boku」

7月28日のインタビューでガジャは、「我が社は世界各地の多くのモバイルオペレーターと(この件について)協議を進めている最中だ。安全、かつ、大きなスケールを持つモバイル支払いサービスを構築するための最良の機会は、(どこかが単独でやるのではなく)他業種他企業と共同で本企画を進め、モバイルと金融のそれぞれのネットワークを収束させ、電子支払いの価値をモバイルチャネルに拡充させることで得られると信じている。」と述べた。

今年6月には、全米23万箇所に散らばるMAを扱う店舗で携帯支払いができるようにするため、シティグループが携帯電話の裏に貼り付ける「MasterCard PayPass」のスティッカーを導入したことを、MAのスポークスウーマン、ジョアン・トラウトはEメールで明らかにしている。

一方、カリフォルニア州シリコンバレーでは、Zong、Bling Nation、Boku Inc. といったスタートアップ企業達が、支払手段の代替ソリューションを提供しだしている。Zongのユーザーは、インターネットでの買い物に際し、モバイル電話番号を打ち込むことで支払いが出来る。Bling Nationは、顧客が彼らのデバイスにかざすだけで買い物ができるというサービスをコミュニティバンクとローカルビジネスに提供している。Bokuは、オンラインのゲーマー達にターゲットを絞り、ディジタル商品やソーシャル体験を購入するための支払いサービスを手がけている。

「カードは時代遅れ」

これから新しい支払いシステムが出来てくるにせよ、そのテクノロジーが米国内で定着するにはさまざまなバリアに直面するだろうとするボストン連銀のような見方もある。

「消費者は多くの店舗がモバイル払いを受け付けるとわかるまではそのサービスを求めようとしないだろうし、商店は商店で、そのテクノロジーを導入するのに必要なコストを払って余りあるクリティカルマスができるまでは積極的にならないだろう」とボストン連銀の論文は指摘する。

各商店がモバイル払いのリーダー(デバイス)を設置するのに$200かかり、携帯電話に内臓されるマイクロチップをそのサービス用にアップデートするには製造側にハンドセット一台につき$10から$15のコストが発生する、と同連銀は試算している。プロモーションとして、モバイル払いをする顧客に、チェックアウトの際に顧客の携帯に、お店が何らかのご褒美(ポイントやクーポンなど)を与えたり情報を流したりするのは、試す価値はあるかもしれない。

コンタクトレス(Contactless)テクノロジー(NFC=Near-Field Communications=近距離コミュニケーション、ともいう)は、今使用されているプラスチック・カードとくらべ、セキュリティ上は別に劣っているわけではないと同連銀は言う。消費者は携帯電話をコンピューターとシンクロさせて、モバイルのシグナルが届かない場所だったりバテリーが切れてしまっても買い物ができるようになるのも可能だろう。

「人々が財布を持ち歩く替わりとして、モバイル払いのテクノロジーを信頼してもよいと考えるようになったら、いくつかの重要なイシューが持ち上がるだろう」と連銀ペーパーは言う。

前出の業界コンサルタント、クローンは、モバイル番号と銀行口座番号の両方の情報にアクセスができるワイヤレス・キャリア達のほうがVやMAよりも競争優位に立てると見ている。

「モバイルはオンライン、リアルタイムで顧客と相互に交信するデバイスで、顧客とのリレーションシップそのものを変えるものだ。」とクローンは言う。「カードは時代遅れなんだよ。」


(以上、翻訳に間違いがあれば筆者の責任です。あれば、指摘ください。)


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実は、この記事を読みながら、MHJ筆者は、『お財布ケータイ』ではどこよりも進んでいた(はず)の日本が、たとえ本件のJVに直接参加しないにしても、着目すべきプレーヤーとしてどこにも登場しない、つーか、完全無視されているのに、イラッとした。

本記事を書いたブルームバーグ記者が日本を無視したということに対してイラッとしたのではない。

もう何年も前からお財布ケータイで先駆者的なポジションにいたにもかかわらず、その技術がついに日本から一歩も出てくることはなかったということにイラッとしたんである。

昨夜、ついったーでも、ブツクサ述べたことなのであるが、もう3年以上前のこと、ダボス会議に出席した知り合いが戻ってきたので、どんな様子だったのかを聞かせてもらう会合があった。その席で、中国の企業家達がケータイによる金融決済のインフラに尋常ならぬ興味を抱いていて、「これからはケータイだ!」と言ってディナーのテーブルで会話が弾んだという話を聞かされた。

新興国も、これからどんどん進めてゆくインフラ整備の一環として、電子決済の拡充は当然視野に入ってるわけである。

その土産話を聞きながら、筆者は「へー、いまごろ?日本なんてとっくにケータイひとつあれば何でもできるよ。自販でジュースも買えちゃうしね~♪」とか言って、日本が他国よりも進んでいることに、何故か、ちょっと得意げな気持ちになったのを思い出す。(遠い目)

で、あれから3年、その技術は日本から一歩も出てこねーじゃねーか!

今思えば、あのときの得意げだった筆者の姿こそが、まさに日本の姿そのもの・・・。

たった3年のうちにトルコでも実用化され、いまや【腕力】では最強のアメリカが既存のグローバルネットワーク引っさげて登場してきた。

スマートフォン市場で遅れ取った日本が出る幕なんて、もうねーよ。

そこに、イラッと来たわけである。

上の記事の、VISAカードのモバイル事業担当者の言葉を、再度ここにコピペしよう。

“Visa is in discussions with a number of mobile operators around the world. We continue to believe that the best opportunity to create a secure, scalable, mobile-payment service is by working together, converging mobile and financial networks, and extending the value of electronic payments to the mobile channel.”

「我が社は世界各地の多くのモバイルオペレーターと協議を進めている最中だ。安全、かつ、大きなスケールを持つモバイル支払いサービスを構築するための最良の機会は、(どこかが単独でやるのではなく)他業種他企業と共同で本企画を進め、モバイルと金融のそれぞれのネットワークを収束させ、電子支払いの価値をモバイルチャネルに拡充させることで得られると信じている。」

日本企業に足りてないのは、技術じゃない。技術が遅れとってるわけじゃない。

足りてないのは、このビザのモバイル担当者の視点を実行に移し、技術を企業収益に変えるマネージメントの力だと筆者は強く思う。

国内ニーズに気をとられ、プレーヤー過多で飽和状態になっている国内での競争にうつつを抜かし、日本国内でどこが主導権とるかみたいな内輪の話でいつまでも足踏みしている。

そうこうしてるうちに、海外勢に技術で追いつかれ、グローバルでの事業拡大の機会は狭まる、あるいは、消滅する。

ところで、携帯分野でこの失態を招いたのとまったく同じ議論を、最近、違う分野で目にした。電子書籍だ。

アマゾンの書籍販売において、ハードカバーのみならずペーパーバックでも電子書籍の販売数が上回るぞとかなんとか言ってる時代に、日本では、縦書きだの、横書きだの、ルビふるだの、出版文化を守るだの、いったいいつまでウダウダとくだらない議論してるのだろうかと、筆者のようなただの外野素人は思わざるを得ない。

日本語の電子書籍化について書き出すと、またイラついて、感情的に書き殴ってしまい、エントリーが終わらなくなりそうなので、これについては、また別の機会を設けて書きたいと思う。

ここらへんのイラつく話は、ブログで文句たれてても仕方ない。筆者が日ごろ思っている無責任なつぶやきを、他の方々から頂戴した反応と一緒にディスカッション形式にまとめた【ブータレついったーコメント集】があるので、筆者のブーたれ読みたい方は、こちらへ。

当ブログでは、電子決済に関連して、もっと重要で意味ある情報を書き留めておきたい。

3 comments:

hasutin said...

久々にコメントします。

実は私は仕事上数年前に、Felicaがこっちに進出するとかなんとかいう話に少しかかわってました。

なぜか立ち消えたんですけどね・・・あの時は学生向けからはじめるとかなんとか、そういう計画だったような。

なので、海外進出しようとしている(していた)日本企業もあったと思いますよ!早すぎたり遅すぎたりで、タイミングを逃しているような気がします・・・

shitron said...

米国市場で日本企業が目立ってしまうとトヨタのように無実の罪で叩かれたりするので、個人的には目立たない部品供給や特許のようなところで稼ぐのもアリじゃないかと思います

華があるところは韓国や台湾に任せてしまって、日本はその部品を供給し、実を取っていくのも戦略の一つなのかもしれません

セラミックコンデンサ等、日本でしか作れないキーデバイスはまだまだあります
政治力が弱い日本は目立たずひっそりと活躍する方が性に合っているのではないかと思います

Anonymous said...

部外者ですが、いつも興味深く拝見しております。

日本の携帯電話市場では、端末の仕様はキャリアが決定しています。
ご存知のとおり、通信方式から言って日本独自の規格であり、端末をそのまま海外に展開することは出来ません。
(一部キャリアは海外に近い規格を採っていますが、ここでは最大のシェアを持つキャリアを念頭に話をしています。)

もし海外へ進出するとなると、日本の規格の端末を頻繁に開発しつつ、さらに海外規格に合わせた端末を開発することになります。
端末の開発は今や巨額の費用が掛かるわけで、そこまでのリスクテークが出来なかったというのが海外に出て行かなかった理由でしょうね。

これまでは国内の市場も高成長が続き、それなりに旨みがあったということや、各メーカーは携帯電話専業ではないので他事業との資源配分といった事情が重なっていることも
あると思います。
映像機器類やコンピュータ、重電といった分野が事業の中心になっているメーカーが多いので、そこまでして携帯に集中する訳にもいかなかったというのは理解できる理由と思います。

さらには失われた10年以降、各メーカーはコスト構造の改革に苦心していたということもありましょう。

いずれにしても、いつも国内に閉じこもってという訳でもなく、それなりの戦略あってのことと思います。