前回の記事では、「ギリシャが本当にデフォルトすると市場が考えていたら、CDSのスプレッドは400程度ではすまない。現在のCDSスプレッドのレベルは、必ずサポートが提供されてデフォルトは回避されるという期待を市場がいまだに持っているという証拠。だがギリシャの流動性は相当逼迫しており、EUの貸し出し条件をどうするかなどとウダウダしてられない局面を迎えるのは時間の問題」だと締めくくった。
そしたら、案の定、同じ11日の午後になって、ユーロ圏の代表らが緊急融資の条件に合意、IMFも巻き込んでギリシャへ融資する用意があるという報道が出た。
その日出されたIMF/EU融資の「タームシート」はこちら。
FACTBOX-Terms of euro zone emergency loans to Greece (Reuters, 4/11/10)
この報道を受けた翌月曜(12日)の株市場は「事態の進展を受けて安心感が広がった」ようであるが、カネを実際に貸してあげる肝心の債券サイドでは、スプレッドは一時ショートカバーで350程度までタイトニングしたものの、再びワイドニング。(当日の関連Tweet)
債券市場参加者は、まだまだ甘い、と受け取ったわけ。
それもそのはず、この記事にも書かれているように、この救済案が実行されるには、いくつものハードルがあると誰の目にも一目瞭然だったからだ。
(記事より引用)
Greece has to request the money, because it is unable to finance itself on the market. The ECB and the European Commission then assess if this is really the case. A unanimous decision of euro zone finance ministers is the final go-ahead. The ECB pays out the money while the Commission acts as a coordinator of the bilateral loans.
1)市場調達が無理なことを理由にギリシャが自分で融資のリクエストを出すこと、
2)要請受理後、ECBとECはその必要性を吟味、
3)ユーロ圏の満場一致にて融資実行、
4)(EC加盟各国のギリシャ支援融資の負担額はECBへのキャピタル提供額の割合に基づいて決定されるが)実際のローンはECBからの貸し出しの形を取り、ECはそれのコーディネーターとして機能する。
二転三転口からでまかせ風の発言で周囲を煙に巻いてきたギリシャが、果たして自分のほうから白旗を振るのか。
また、各国事情を抱えているユーロ圏加盟国がどれだけスンナリ満場一致を迎えられるものなのか。
これまでもそれがネックになって話が進展しなかったのに、「タームシート出てきたんだから、これで安心だね!」と考える能天気など、根暗の債券サイドの中にいるはずがないんである。
翌週からは例によって、各国による「あーでもねー、こーでもねー」が開始され、CDSのスプレッドは再び拡大基調に戻る。
さらにその翌週になると、ギリシャスプレッド拡大は他国にも飛び火して、みそっかす#2とされるポルトガルもずんずん拡大。アイルランド・スペインはもちろん、PIIGSの一味ではないフランスまで拡大基調。
ユーロ全体の調達コストに影響が出るのは必至という状態が明白になり、ストレスだけが高まっていった。
そして、期限の比較的短いギリシャ国債の対独スプレッドが900にリーチ!
ついに絶えられなくなったギリシャは23日の金曜日、みずから「どうか貸してください・・・」と進み出て【白旗を揚げた】のであった・・・。
Greece asks for EU-IMF aid (FT Alphaville, 4/23/10)
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4月23日のBloomberg記事によると、ギリシャ国内では白旗を揚げた首相に対し国民の怒りが爆発しており、国内50万人の公務員を抱える職員組合ADEDYは27日にも大規模な反政府デモを予定しているそう。
IMF/EU融資を借りれば、いま尋常ならぬレベルに達してしまっている市場レート(期間10年で600超の対独スプレッド)よりも優遇されたレートで目先の支払いを回していけるわけではあるが、それはギリシャ国の財政の完全指揮権を失うことであり、厳しい緊縮財政の国民への強制による現政権の弱体化を意味する。
事実、数年前にIMFに救済資金提供を仰いだハンガリーの社会党政権は今月、同国の有権者に拒否されて倒れた、と記事は書いている。ギリシャのパパンドレウ首相の支持率も5割を切ったという。
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ついに白旗は揚がった。
あがったんだから、あとはEU/IMF緊急融資のターム(条件)に合意したユーロ圏のみなさんが、粛々と貸してくれる手はずを整えてくれればよいものだが、ここでも、ハードルは高い。
IMF/EU融資は、提供される融資のうち3分の2をユーロ圏の国が、3分の1をIMFが、という割り振りになっているが、EU分はさらにユーロ圏の国々のECB資本金保有額割合に従って割り当てられる。(ユーロ圏加盟国の資本金割合は、このサイトページへ。)
ユーロ圏最大は当然ドイツで、割合は19%、続いてフランス、約14%。ギリシャへの融資額の2割近くをドイツ一国が貸してあげることになる。
そのドイツだが、EU担当者が「支援融資の実行を妨げるものはない」と延べ、初年度に最大450億ユーロの3年ローンパッケージ(金利5%超の優遇レート)は「速やかに実行に移されるだろう」と述べた【直後】に、近く選挙を控えるドイツのメルケル首相は、別の記者会見で、これとは異なる発言をした。
Merkel says Greek aid depends on 'credible' savings plan (Deutshe Welle, 4/24/10)
メルケル首相は、EU/IMF融資が実行に移されるには、次の2条件が同時に満たされていなければ発動されないと述べたのだ。
① ユーロ通貨の安定が脅かされたとき
② ギリシャが厳しい緊縮財政策を実際に実行に移すとき
「融資の実行(Execution)を妨げるものはなにもない」(by EU関係者)のはずが、ユーロ圏最重要のキーパーソンにかかると「口先だけ緊縮やるといってもカネは簡単には出しませんからねッ」という冷たい言葉・・・。
このギクシャクが、わずか2日前の24日。
"おい、俺が空港でピックアップして料金ダブルでとって、いとこのレストランに連れてってサラダにステーキの値段とってビールにシャンパンの値段ふっかけた、あのドイツの観光客、覚えてるか?あの女(Bxxxx)・・・!”
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というわけで、ギリシャの悲劇、進展があったようで、なかったようで、相変わらず、グチャグチャ。
案の定「あーでもねー、こーでもねー」は継続されているが、問題は待っていてはくれない。
来る5月19日、85億ユーロのギリシャ国債が償還を向かえる、ということである。
予定していた米国での資金調達は、求められる市場金利がこのざまでは無理。
償還資金をIMF/EUに求めることになるにしても、その際、債務リストラを求められるのではという憶測が先週末は広がって、それが信用自由に相当するのではという懸念からCDSスプレッドが爆発。
そして、「仮にギリシャを救済したところで、他のヤバそうな国はどうするつもりだ」という肝心なポイントについては、ユーロ圏の皆様は見てみないフリ決め込んでいるが、市場はすでにそれを先読みして、他国のスプレッドが上昇中・・・。
スプレッド地獄に囲まれて、四面楚歌の様相を呈してきている欧州である。
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最後に、MHJ筆者のコメントを添えて、グラフをいくつか紹介しておこう。
≪グラフ1≫ ギリシャ国債対独スプレッド2年(青)と10年(オレンジ)
- 2年スプレッドが急激に上昇、イールドカーブは完全にインバートした状態。市場が長期よりも目先のリスク(債務リストラなど)をプライスに織り込んでいるため。
(Graph Source: Clusterstock)
≪グラフ2≫ 5年マイナス2年スプレッドの差-ギリシャ と ポルトガル
- スプレッド差がマイナスになるとインバートしている状態。グラフ1で示唆されたように、ギリシャ(青)のスプレッド差は急降下しているが、ポルトガル(ピンク)も、期間の短い金利が上昇、インバートの状態に陥った。
- 市場のスペキュレーター達が、ギリシャの次にポルトガルに目をつける流れに入ってきているのが見て取れ、スプレッドの上下幅がボラを増しながら動くことが予想される。
≪グラフ3≫ ベルギー(ユーロ圏)と英国(非ユーロ圏)のスプレッドの推移
- 過去一年ほどは英国よりもタイトな水準で推移したベルギーだが、先週あたりからスプレッドが急速にワイドニング、イギリスよりもワイドなレベルに。
- 債務の状況でいうと、英国のほうが財務赤字幅は大きいが、ベルギーは対GDPでの債務残高が英国より大きく、財務的には強いほうではない。
- ギリシャのスプレッド拡大の動きがPIIGSに含まれないユーロ圏参加国にもスピルオーバーしてきている点に注目。(救済がギリシャ一国で済まなくなれば、ユーロ圏全体に重い負担がのしかかることが予想されるため、救済を必要としない国でも、ユーロ圏内のソブリンにはスプレッドに影響が出ている。)
今週も、欧州ソブリンは忙しくなりそうですな・・・。
≪過去のMHJ関連ポスト≫
- 『ギリシャの悲劇(いや、コメディか?)』April 10, 2010
- 『付け焼刃ノート「ギリシャ」』February 7, 2010