明日(27日)、米東部時間午前10時より、米議会の委員会のひとつ『Committee on Oversight And Government Reform』にて、AIG問題に関する公聴会が開かれる。お題は、
”Factors Affecting Efforts To Limit Payments To AIG Counterparties”
(AIGのカウンターパーティーへの支払いを制限する試みに影響を与えた要因)
昨年からずっとグズグズと続いているAIG問題の中でもとりわけ政治問題化したポイント、「AIGのクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)のカウンターパーティー達が損失を蒙ることなく額面(Face Value)で決済を受けた背景には、一部の大手金融機関への優遇があり、また当時の財務省と連銀がそれを承知で情報隠蔽に積極的に加担したのではないか」という疑惑にフォーカスして話し合いがもたれることになっている。
この公聴会の様子は、明日、同委員会のサイトにてストリーミングされます。興味ある方は、時間になったら、こちらのページの『Connect to the Live Webcast』へ。
★ ★ ★
これまでの成り行きを少し整理しておこう。
デリバティブス子会社AIGFPから発生する巨額の損失に耐えられず崩壊寸前にAIGに、2008年の9月に$850億ドルの公的資金による緊急融資がNY連銀経由で融通された。これのおかげでAIGは目先必要なキャッシュをまかない、【流動性枯渇による倒産】を回避できたわけであるが、2009年の1月か2月ごろに、その資金の使い道の詳細を公表するしないで、政界とAIGが揉み合って大騒ぎしてたのを覚えておられる方も多いであろう。
その後、マスコミの攻撃と政界の圧力にさらされて、AIGは去年3月15日、公的資金が流れていった先のCDSカウンターパーティの名前を公表するに至った。(そのときのプレスリリースはこちら。)
ここで公表されたカウンターパーティの名前と額は、こんな感じ。
‐Goldman Sachs ($12.9 billion)
‐Merrill Lynch ($6.8 billion)
‐Bank of America ($5.2 billion)
‐Citigroup ($2.3 billion)
‐Wachovia ($1.5 billion)
GSの額がなんと言ってもダントツで大きく、AIG救済の真の目的はGS救済だったのではないかという見方が広がった。AIG救済を決定した当時の財務長官だったポールソンが元GSのCEO、ガイトナーは連銀時代からGSと仲良しこよし、さらにはNY連銀ボードメンバーのスティーヴン・フリードマンも元GSのCEOで、GSがカウンターパーティになっているCDSを額面清算するという決定が下された“後”の12月と1月にフリードマンがGS株を買い込んでいたということも判明し、きな臭さが充満した。
AIG問題は、去年の3月~4月にかけて、株急落のパニックと合わせて最高潮を迎え、「ボーナス魔女狩り騒動」に発展したり、「AIGはジャパニーズスタイルでハラキリしてお詫びしろ!」と叫ぶ政治家も出てきたりして、ほとんどワイドショー状態。
だがその後、株価上昇のウキウキ感に消されて人の口の端にあまり出なくなり、この問題も沈静化したかのように一度は見えた。
しかし、去年の11月になり、TARP資金の使途を監視する役目を担った連邦準司法長官(Assistant Attorney General)二ール・バロフスキーが、政府がAIGに融通してやった金のうち$62ビリオンはカウンターパーティとなった一握りの大手金融機関に渡り、当時CDSの市場価値は額面の半分程度だったにも関わらず額面どおり支払ったことで、公的資金が不当にこれらの銀行に流れたという趣旨の報告書を提出。
さらには、今年に入り、AIGとNY連銀とのEメールのやり取りの中に、デリバティブスの満額支払いを公表しないようにという内容でNY連銀からAIGに指示が行っていたというメール群が見つかり、下院議員のダレル・イッサ(カリフォルニア州・共和)がこれについてのインベスティゲーションを提唱し、関係者は議会の委員会に召集された。
AIG救済当時に財務長官だったポールソン、NY連銀プレジデントだったガイトナーは共に、自分らは満額での清算を決定するプロセスには直接関与しなかったし、AIGに対してカウンターパーティ情報の公開を控えるよう圧力をかけたことはない、と嫌疑を否定した。
今回の公聴会には、こうしたインベスティゲーションの一環で、果たしてAIG経由でカウンターパーティに渡った問題のカネが正当なものだったのか、何故カウンターパーティに市場価格ではなくParで支払うことにしたのか、情報公開について隠ぺい工作が行われたのか、などが問われることになる。
そして、世間の興味のあるところとしては、昨年通じて『悪の権化』のように叩かれ続けたゴールドマンサックスの正体が、やっぱり「巨大な吸血イカ」なのかどうか、この公聴会にて暴露されるのを、多くが内心期待してるというのも、事実である。
★ ★ ★
27日の公聴会には、ポールソン、ガイトナー、フリードマンのほか、NY連銀の法務責任者トマス・バクスター、AIGの元CFOエリアス・ハバイェブなどが証言者として招かれている。
26日午後になって、ニューヨークタイムズが、フリードマン/バクスター/ハバイェブが翌日の公聴会で述べる予定のスピーチの原稿(※)を入手したとして、それをネットで流した。
A Preview of the House’s A.I.G. Hearing
(New York Times, 1/26/10)
これによると、バクスター氏は、AIGが倒産することになれば、その影響はとめどもないものとなり金融システムと経済に大きなダメージを与える恐れがありAIG救済は必要だったという従来の路線で証言を進めるらしい。
また、AIGのデリバティブス・コントラクトの支払いを額面どおり行ったことについては、「ほとんど時間がなく、実行リスクも膨大で、11月10日の締切日までにディールを完結しなければ多大な被害が起こることが目に見えていた(“there was little time, and substantial execution risk and attendant harm of not getting the deal done by the deadline of Nov. 10.” )としている。
11月10日はAIGの業績発表の日で、格付け機関が格下げしようと待ち構えていた。ここで格下げになると、AIGはさらに担保の提供を迫られ、流動性逼迫の問題はさらに悪化したであろうとバクスター氏のスピーチ原稿にはある。
また、たとえベストのシナリオどおりに行ったとしても、カウンターパーティがディスカウントの条件をのむとは考えにくい状況にあり、そうした状況下では、連銀には全くと言ってよいほど交渉力が残されていなかった、と。(〝Under the circumstances, the Federal Reserve had little or no bargaining power.”)
AIGの元CFOハバイェブ氏は、バクスター氏の証言にほぼ沿った内容を述べる模様。
フリードマン氏も、自分はAIG救済資金の最終決定およびカウンターパーティへの支払いに一切関与しなかったと述べるらしい。また彼は、NY連銀のチェアマンを務めながら、GSのディレクター職も同時に持ち、その彼が(タイミングよく)GS株を購入した点についても触れることになる。(彼がGS株を買った08年12月と09年1月のGSの株価は$70前後。)
このGS株購入のディフェンスとして、フリードマンは彼がGSと関係があるということは当時から周知の事実であったし、GSがAIGのメジャーなカウンターパーティであるということも知られていた。株購入の際には、規定どおりGSとNY連銀の法務部から許可を事前にもらった、としている。
と、まあ、以上が、公聴会の「予告編」であります。(笑)
※3名それぞれが27日公聴会で予定しているスピーチ全文は、上のNYTの記事リンク中にあります。
★ ★ ★
MHJ筆者も公聴会は見ようと思っているが、見る前から容易に想像できるのは、
「この公聴会は、質問する側にあたる政治家達のほとんどが、ウォール街関係者を叩きまくることでマスにアピールする絶好のチャンスにしようと手ぐすね引いてる」
ということだ。
前々回のMurray Hill Journalにも書いたが、伝統的に民主優勢だったマサチューセッツ州で、民主党は無名に近かった共和党候補に上院の席を明け渡した。以来、オバマ民主党は、その痛手から一刻も早く立ち直るため、いっせいにポピュリスト路線を強めている。
マサチューセッツでブラウン勝利が決定した日の翌日のロイターに、
「ブラウンの逆転劇は誰も予想しなかった政界のブラックスワン、マ州で敗北をきした民主にとって、残された数少ない実弾のひとつがウォール街叩き。民主サイドのウォール街イジメは激しさを増すだろう」
という予言めいた内容の記事コラムが掲載された。
Brown win could spark Obama war on Wall Street
(Reuters, 1/20/10)
そして、実際、補選結果を境にして、この記事通りに事は進んでいる。
先週22日、オハイオ州で一般市民を前に演説するオバマをTVのライブで眺めながら、オバマ自身もポピュリスト路線にクビまで漬かる決心したと感じたというのは、そのときのツイッターでも報告した。
27日の夜には、オバマが大統領になって一年目の一般教書演説が行われる。
金融改革法案、ミドルクラス向け減税案、予算フリーズ、ヘルスケア改革ーー。
これらを引っさげて、オバマは大統領として最も重要な長時間演説に臨む。
この演説で急速に失われている求心力を取り戻し、離れかけている有権者を自分の味方につけなければならない。
失敗は許されない。
そう、27日午前から始まる公聴会、これは同日夜のオバマ一般教書演説を盛り上げるための【前座ショー】なのだ。
27日昼間は公聴会でウォール街を袋叩きにして民衆を味方に付け、夜はオバマの演説で民衆を酔わせ、28日には前日の袋叩きの余韻が冷めぬうちにバーナンキ再任投票で締めくくり、と、まぁ、こういう予定表である。
最終的にオバマにとって吉と出ようが凶と出ようが、いずれにしても、全身青痣だらけになるのは、明日の公聴会に呼ばれた者たちなのだ。
前座ショー閉幕後、ガイトナーが生きて出てこれるか、乞うご期待。
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Tuesday, January 26, 2010
科学技術への投資(中国、恐るべし・・・)
Financial Timesで、中国の科学研究分野での成長がすさまじいという記事(25日付け)を読んだ。
China Scientists Lead World in Research Growth (FT, 1/25/10)
記事によると、過去30年間にBRICsの4国から出された科学研究論文10500本を分析したところ、圧倒的に中国が論文数の増加ぶりが目立ち、その増加ペースは30年間鈍ることがなかった、という。研究論文の多さでは、現在、中国は米国の次につけているが、このペースが続くと2020年までには米国はその地位を中国に譲り渡すことになろう、とも書かれている。
中国発の研究論文のクオリティに関しては【玉石混合】の感はぬぐえないようであるが、1981年からの30年間で論文数は実に64倍、現在出される論文のうち9%が少なくとも一人の欧米の研究者が加わる共同研究で、クオリティは確実に上がってきているそうだ。分野としては、とりわけ化学と材質科学(Materials Science)の分野で強みを発揮しているらしい。
(以下FTの記事より抜粋)
FT記事によると、BRICs4カ国を比較すると、なんといっても中国がダントツだが、ブラジルの成長ぶりも目立つ。一方で、インドは成長が鈍りぎみ、そしてロシアは逆に低下しているという。
★ ★ ★
このFT記事を読みながら、MHJ筆者が思い出していたのは、「日本では科学技術関連事業の予算が削減されている」という話だ。
政府のそうした動きに対し、ノーベル賞を受賞した化学者が苦言を呈しているという記事を数ヶ月前に読んだのを思い出し、探してきた。
MHJ筆者は理系の人間ではないので、研究者の世界のことは何ひとつ知らない。
それでも、この10年ほどの間に「技術の日本」の衰退振りが目に余るほど感じれられるようになり、正直、愕然としている。「日本が衰退した」というよりか、「他国の追い上げがすさまじすぎて、日本の優位性が相対的に低下した」と言う方が正確なのかもしれない。
筆者のような一般素人の目からみて、それがハッキリ感じられるぐらいなのだから、科学研究に実際に携わっている者達は、どんなに強い苛立ちを感じているだろうか。
これについては、本ブログではなくて、ミクシィ日記の方で何度か苦言を述べさせてもらったのであるが(こことか、こことか、こことか、古いところではこことか)、そこでも書いたように、筆者がMBA取得のために大学院に通ってた頃(90年代初め)すでに、アメリカの大学院の理学部は、中国・韓国・台湾・インドからの留学生で埋まっていた。
あれから15年以上が経った。
一般消費者向けの電子機器やホワイトグッズなどの消費者グッズに関して言うと、ひとりの消費者としての筆者の感想は、「日本勢は韓国に完全に負けた」。
米国の消費者市場においては、自動車やカメラなど一部を除いて、正直なところ、日本メーカーは存在感すらもうあまり残っていない。今後、筆者がどんな消費者グッズを買うにしても、日本メーカーにこだわることは、もはやないだろうと思う。
産業用技術の分野は筆者はまったく知らないが、仕分けがどうしたとか言ってる国と、方や30年間ぶっ続けで科学分野に多額投資し続けた国と、科学ド素人の筆者ですら、なんとなく将来の想像がつく。
BRICsの中で中国が突出することになった「3つの要因」のうち、日本が勝ち目があるものが、果たしてあるのか。
インドは遅れを取っていることを自覚し、国家戦略として、科学分野での国際協調を押し進めようとしているとのこと。
筆者は数年前、投資機会を求めてブラジルに数度視察に行った事があるが、そこで実際に目にしたブラジルのアッパーミドルクラス以上の生活水準の高さは、筆者が想像していたレベルをはるかに超えるものだった。現地で出会ったブラジル人の多くが放つ上昇志向の強烈さは、日本の高度成長期時代の迫力を彷彿とさせるものだった。
中国もブラジルも、ものすごい勢いで上昇してきている。インドも遅ればせながら追いつこうとしている。
冷戦時代に米国と争って宇宙工学に燃えたあの国が、研究費がないために頭脳流出が起こり、いまでは、ブラジルよりも研究論文が少なくなっているという記述にも驚いた。
今朝、このFTの記事を読み、10年後、日本の科学技術の世界の中における位置はどうなっているのだろう・・・とまじめに心配になった。
「科学技術は日本が国際競争を生きるすべ」という野依氏の言葉に深く同調する。
日本政府が率先して、明確な国家戦略を立てて科学技術の分野で競争する構えを見せなければ、資源を持たない国に、この先何が残るというのか。
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China Scientists Lead World in Research Growth (FT, 1/25/10)
記事によると、過去30年間にBRICsの4国から出された科学研究論文10500本を分析したところ、圧倒的に中国が論文数の増加ぶりが目立ち、その増加ペースは30年間鈍ることがなかった、という。研究論文の多さでは、現在、中国は米国の次につけているが、このペースが続くと2020年までには米国はその地位を中国に譲り渡すことになろう、とも書かれている。
中国発の研究論文のクオリティに関しては【玉石混合】の感はぬぐえないようであるが、1981年からの30年間で論文数は実に64倍、現在出される論文のうち9%が少なくとも一人の欧米の研究者が加わる共同研究で、クオリティは確実に上がってきているそうだ。分野としては、とりわけ化学と材質科学(Materials Science)の分野で強みを発揮しているらしい。
(以下FTの記事より抜粋)
(前略) three main factors are driving Chinese research. First is the government's enormous investment, with funding increases far above the rate of inflation, at all levels of the system from schools to postgraduate research.
Second is the organised flow of knowledge from basic science to commercial applications.
Third is the efficient and flexible way in which China is tapping the expertise of its extensive scientific diaspora in north America and Europe, tempting back mid-career scientists with deals that allow them to spend part of the year working in the west and part in China.
中国の科学研究を推進するファクターは次の3つ。第一に、中国政府による巨額投資。科学分野への国家による投資は、小中学校から大学院のすべてのレベルで、インフレ率をはるかに上回るペースで増加している。
第二に、基礎科学から商業分野へのアプリケーションまで科学知識のフローが組織的に体系付けられていること。
そして第三に、中国人研究者は北米と欧州に広く散らばっているが、中堅どころの研究者達に年の一部は欧米で働き残りは中国で働くのを許可するなどして、彼らの専門知識に効率よく柔軟にタップしていること。
FT記事によると、BRICs4カ国を比較すると、なんといっても中国がダントツだが、ブラジルの成長ぶりも目立つ。一方で、インドは成長が鈍りぎみ、そしてロシアは逆に低下しているという。
- ロシアについて。20年前は、ロシア発の科学研究は他の3カ国が発表した論文総数より多く、科学分野のスーパーパワーだった。しかし、2008年になると、ブラジル、インドよりもロシアの論文数は少ない。ソビエト連邦崩壊後に研究開発費の大きな削減が起こり、それが原因だという。そのためロシアの研究者の海外流出が続いた。だが、才能ある研究者はまだ多く残っており、海外との共同出資などの方策を模索すべきだという声がある。
- ブラジルについて。他の3国と比べ、農業、生命科学、環境科学などの分野でとりわけ研究が進んでいる。1981年にはインドの7分の1しか論文生産がなかったが、2008年にはインドと同水準に並んだ。バイオ燃料や航空宇宙エンジンでも世界を牽引している。
- インドについて。中国同様インドも、NRIs(Non-Resident Indians)と呼ばれる海外在住の研究者が大勢いるが、彼らは帰国するとリサーチよりもビジネスに従事することが多い。インドでは、ハイテク産業と地元研究基盤とのつながりが脆弱で、最高学府とされる大学でもトップクラスの教授陣を確保するのが困難。これがインドの大学が国際比較で上位に食い込めない理由になっている。インドの大学が抱えるもうひとつの問題は、インド国内で志願してくる学生や教授に対応するばかりで、国際的な展望のもとに研究所を育て上げてゆくという姿勢に欠けている点。この問題に対し、インド政府は米英の大学とリンクを強める体制に入る予定という。
★ ★ ★
このFT記事を読みながら、MHJ筆者が思い出していたのは、「日本では科学技術関連事業の予算が削減されている」という話だ。
政府のそうした動きに対し、ノーベル賞を受賞した化学者が苦言を呈しているという記事を数ヶ月前に読んだのを思い出し、探してきた。
ノーベル賞野依氏 仕分け批判
(毎日新聞 - 11月25日)
文部科学省の政策会議が勉強会として設置した「先端科学調査会」に25日、ノーベル化学賞受賞者の野依良治・理化学研究所理事長が出席した。野依理事長は政府の事業仕分けで科学技術関連事業の予算削減が相次いでいることに「科学技術は日本が国際競争を生きるすべであり、国際協調の柱だ。これを削減するのは不見識だ」と強く批判した。
野依理事長は、先進国と比べて格段に少ない科学技術関連予算や、米国で博士号を取る人が中国の20分の1、韓国の6分の1しかいない現状などを説明し、「10年後、各国に巨大な科学国際人脈ができ、そこからリーダーが生まれる。日本は取り残される可能性がある」と指摘。「(事業仕分けは)誇りを持って未来の国際社会で日本が生きていくという観点を持っているのか。将来、歴史の法廷に立つ覚悟でやっているのかと問いたい」と疑問を呈した。
MHJ筆者は理系の人間ではないので、研究者の世界のことは何ひとつ知らない。
それでも、この10年ほどの間に「技術の日本」の衰退振りが目に余るほど感じれられるようになり、正直、愕然としている。「日本が衰退した」というよりか、「他国の追い上げがすさまじすぎて、日本の優位性が相対的に低下した」と言う方が正確なのかもしれない。
筆者のような一般素人の目からみて、それがハッキリ感じられるぐらいなのだから、科学研究に実際に携わっている者達は、どんなに強い苛立ちを感じているだろうか。
これについては、本ブログではなくて、ミクシィ日記の方で何度か苦言を述べさせてもらったのであるが(こことか、こことか、こことか、古いところではこことか)、そこでも書いたように、筆者がMBA取得のために大学院に通ってた頃(90年代初め)すでに、アメリカの大学院の理学部は、中国・韓国・台湾・インドからの留学生で埋まっていた。
あれから15年以上が経った。
一般消費者向けの電子機器やホワイトグッズなどの消費者グッズに関して言うと、ひとりの消費者としての筆者の感想は、「日本勢は韓国に完全に負けた」。
米国の消費者市場においては、自動車やカメラなど一部を除いて、正直なところ、日本メーカーは存在感すらもうあまり残っていない。今後、筆者がどんな消費者グッズを買うにしても、日本メーカーにこだわることは、もはやないだろうと思う。
産業用技術の分野は筆者はまったく知らないが、仕分けがどうしたとか言ってる国と、方や30年間ぶっ続けで科学分野に多額投資し続けた国と、科学ド素人の筆者ですら、なんとなく将来の想像がつく。
BRICsの中で中国が突出することになった「3つの要因」のうち、日本が勝ち目があるものが、果たしてあるのか。
インドは遅れを取っていることを自覚し、国家戦略として、科学分野での国際協調を押し進めようとしているとのこと。
筆者は数年前、投資機会を求めてブラジルに数度視察に行った事があるが、そこで実際に目にしたブラジルのアッパーミドルクラス以上の生活水準の高さは、筆者が想像していたレベルをはるかに超えるものだった。現地で出会ったブラジル人の多くが放つ上昇志向の強烈さは、日本の高度成長期時代の迫力を彷彿とさせるものだった。
中国もブラジルも、ものすごい勢いで上昇してきている。インドも遅ればせながら追いつこうとしている。
冷戦時代に米国と争って宇宙工学に燃えたあの国が、研究費がないために頭脳流出が起こり、いまでは、ブラジルよりも研究論文が少なくなっているという記述にも驚いた。
今朝、このFTの記事を読み、10年後、日本の科学技術の世界の中における位置はどうなっているのだろう・・・とまじめに心配になった。
「科学技術は日本が国際競争を生きるすべ」という野依氏の言葉に深く同調する。
日本政府が率先して、明確な国家戦略を立てて科学技術の分野で競争する構えを見せなければ、資源を持たない国に、この先何が残るというのか。
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Tuesday, January 19, 2010
「シティ4Q09決算」ツイッターまとめなど
今日は、マサチューセッツ州の上院議員特別選挙の投票日ということで、投票結果が注目されていた。
マサチューセッツ州というのは、政治家といえばケネディ・ファミリーといった土地柄で、長いこと民主リベラル一色の「真っ青な州」の筆頭であった。わずかひと月前は、30%の大差のマージンつけて民主優勢と言われていたんである。
それゆえに、民主党側も油断してたな。
民主側が故エドワード・ケネディ(←47年間も同州の上院議員を務めた)の後釜として持ってきたのは、有権者とろくに握手もしないような「冷たい能面女」。同州のAttorney Generalとしてはなかなかのやり手らしいんだが、故ケネディが得意としていた「宴会に呼びたくなる」「人好きする」「空気が読める」そういうパーソナリティをまったく持ち合わせていない、政治家としては致命的な人物であった。
片や、共和側がぶつけてきた候補者は、ポピュリストの極地、昔セミヌードフォト撮らせたぐらいのハンサム男で、「あまり頭はよくなさそうだが、耳あたりのよい言葉と明るい笑顔で有権者を魅了する」、いわばサラ・ペイリンの男性版のようなひとであった。
投票日が近づくにつれ、ジワジワと両氏のマージンは縮まり、世論調査で共和側がリードするという、民主側には「想定外」の展開となり、オバマら大御所が現地に応援に駆けつけたりしたが、結局共和党ブラウンが民主党コークリーを下して、「真っ青の州」に共和党上院議員誕生。
この特別選挙が注目された理由は、ひとつには上院の60議席確保が崩れ、これで、オバマ悲願のヘルスケア改革法案通過がゴール目前で頓挫するだろうということ、そして、この選挙結果はマサチューセッツ州だけの問題ではなく、誕生丸一年目を迎えるオバマ政権に対する「通知表」にも相当すると考えられていたからだ。
「真っ青な州」で民主が負けたことは、オバマ政権の経済政策そのものにNOが出されという意味にもなり、彼の政治的な求心力が本格的に下がっていることを示唆するわけだし、これでさらに勢いを増すであろう保守共和勢力が、ますますオバマの政策に対して、いちいち難癖付けてくることは容易に想像つく。
さらには、ここのところ、やたらとゴソゴソ動きまわっている「Tea Party」(ローカル保守の草の根運動)がメインストリームに躍り出てくる段取りも揃ってきたような気もする。Tea Party軍団のアイドルといえば、サラ・ペイリン。これに、マ州のスコット・ブラウンも加わって、来月4日にテネシー州ナッシュビルで行われる予定の「全国Tea Party集会」ではさぞかし鼻息荒くなることであろう。
投票日の今日(20日)の米株市場では、共和勝利というシナリオにベットして結果を先取り、オバマケア頓挫⇒保険会社の勝利⇒ヘルスケア関連銘柄上昇という流れに押されてダウは100ポイント以上上昇。
CNNはじめマスコミはヘルスケア改革への影響ばっかに気をとられているが、今回の選挙結果で忘れてならないのは、今年度以降の米国債発行の見通しに不透明さが増した、ということである。
2009年12月21日付けのMurray Hill Journal記事『米国債発行上限問題は来年も蒸し返し確実』で述べたように、昨年暮れに、米国債の発行残高が法的上限ビチビチに迫り、議会により上限引き上げがなされたが、当初2兆円増加の予定だったのが、反オバマ勢力に押し戻される格好で、わずか2900億ドル引き上げるにとどまった。しかも、たった2900億ドルなのに、下院では賛成218・反対214の僅差。
民主側はそれでも、2010年中間選挙前にガツンと一気にやってしまおうと踏んで、「目先引き上げが必要な額」でひとまず妥協したんである。共和側もクリスマス休暇に行きたいのに2900億ドルで年末吹っ飛ぶの嫌だし戦いは来年の楽しみにして、とりあえずここは賛成しとこ、みたいな感じ。
しかし、これも、まさか1月のマサチューセッツ州特別選挙でこんなどんでん返しが起ころうなどとは双方ともに誰も想定していなかった。
オバマの経済政策と米国債発行は切っても切れない関係ですからね。
「とりあえず必要な額として2900億ドル」だったので、上限見直しは、どのみち、まもなく議会で再開しなくちゃいけない議題。どうなることやら。
ここで政治的な思惑が先行して米国債発行スケジュールになんらかの影響が及ぶ事態になると、米国債市場での需給期待に加え、失業対策などの政策実行や、住宅ローン金利の行方など、ありとあらゆる物事に影響出ざるをえないから、いろんな意味で要注意ですな・・・。
★ ★ ★
さて、20日の朝は、シティグループの4Q09決算の発表があった。前回のJPM同様、プレスリリースをざっと読んで連続ツイッターで印象を書きなぐったので、前回のMHJ記事で取り上げたJPM同様、ここに記録しておくことにする。
つぶやき#1: 【シティ】ざっと見た印象としては、収益は全体的に縮小気味、融資ボリューム自体が縮小してるのと、沈静化してきてるとはいえまだ資産マークの額が大きく、特にリテール部門でクレジットカード関連の落ち込みが思いっきり足引っ張ってる感じ。預金は結構増えてて、ここはフランチャイズの強みか。
つぶやき#2: 【シティ2】信用コストは減少トレンドだけど、四半期期中の信用コスト額の増減は、B/S縮小の効果もあるから、いちがいに良い悪いはいえない。こういうときは、P/L上の償却コストの額(コスト)増減よりも、B/S上の引当金ストックが貸出金残全体に対しどれ程期待損失見込んでるかを見るべき。
つぶやき#3:【シティ3】で、その引当金ストックだが、シティの場合、全融資残高の6.1%で、3Qの5.9%から上昇。覚えてますか?JPMは、この同比率は5.5%だったのを。でも、シティの場合はJPMより、リテール融資の割合がドバッとでかいんで、JPMよりこの数値が大きくなるのはあたりまえ。
つぶやき#4:【シティ4】あくまで個人的な勝手な「感触」でありますが、6.1%でもまだ足りんな、多分。証券業務のほうではFICCがどーんと落ち込み。予想通りでサプライズなし。アドバイザリーの手数料収入でFICCの落ち込み補ったが、JPMのような強さは感じられず。
つぶやき#5: 【シティ5】09年度決算は特別項目(TARP返済関連、ドイツのリテール銀行売却益)がやたら多くて、表向きの数字だけ拾っても、ようわからん。全体的な印象はトップラインがどの部門でも目だって落ちてきてるのが気になるし、引当金を過小評価してないかが今後の焦点かもね。
つぶやき#6: 【シティ6】海外部門の売却は今年度も続くような気がするし、売却益でレガシー資産から発生する損失を今後も吸収させていかんことには、トップラインが回復してゆくというシナリオはまだ見えない感触。この銀行の場合、縮小均衡の道を辿り国内業務の比重が徐々に高まってゆくんではなかろうか。
★ ★ ★
「海外部門の売却は続くのではなかろうか」とMHJ筆者は書いたのだったが、プレス発表から数時間後の電話コンファレンスで、シティのCEOパンディットは「シティの強みは海外業務、今後も海外に力入れてゆく!」と力説していた。
あれ~、そうなんですかい。私の見方と違うじゃん。
前回の3Q決算でMHJに3Q09決算についての印象雑記を書いた時、バンカメ(BAC)とシティ(C)では同じ赤字決算でもトーンの異なる決算だ、とMHJ筆者は述べた。
そこで筆者はこう書いたんである。
これが3Q09の感想だったのだが、今回(4Q09)のシティ決算を見てどうかというと、前回述べた内容と基本的にはあまり変わらなかった、というのが正直な感想である。
たしかに不良資産から発生する償却コストやフェアバリューへのマークダウンなどは、最悪期からみれば落ち着いてきている。しかし、相変わらず償却コストは高いし、この会社の場合クレジットカード部門の損失が非常に重たく、12月のクレジットカードのデータによるとカードローンの資産はまだプレッシャー受けているという図も否定できず、重しはなかなか取れない。
(参考)December Data Show US Credit-Card Cos Still Under Pressure (WSJ, 1/15/10)
また、ホールセール向けの貸出金が、CDS(ヘッジコスト)の重みで逆ザヤになっており、この分野の収支がいまだにマイナスになってるみたいなんである。これも、結構痛いなぁと感じた。
前回JPMのプレスリリースを読んだときは、15ページもあるリリースだったにもかかわらず、斜め読みでも結構すす~と大まかなイメージが浮かんだ。ところが、シティのリリースはJPMのそれよりずっと短いのに、カッと目を見開いて読まなくてはならなかった。
というのも、やたらと修正項目がありすぎて、まっすぐサクサク読めなくて、読んでるうちになんだか目がまわってきたんである。ツイッターでも書いたが、こういう、読んでるうちに目が真ん中に寄ってくるような財務数値を並べるということ自体、いかにアクロバティック会計やってるか、ってことである。
筆者も長年銀行アナリストやりましたけどね、こんがらかった説明する会社ほど、たいがい、ろくな話がなかったもんである。
(余談だが、証券アナリストのレポートも同様で、こんがらかった分析をするヤツほど、たいがい、分析の結論自体は底が浅く、薄っぺらな内容をゴテゴテと飾って小難しい話に仕立てていることが多い、そんなもんである。)
ま、それはどうでもいいんだが、JPMとCの2社を見て、大手金融機関の4Q09決算の共通項として出てくる話は、
(1)FICCのトレーディング部門はスプレッド縮小、トレーディングのボリューム減、ボラティリティ低下により、3Qまで収益に寄与したトレーディング益は低下。アドバイザリーなどの手数料収入で一部相殺。
(2)信用コストや不良資産のマークダウンは前年同期比でみるとやや落ち着いてきてはいるが、資産額そのものも減少していて、期中償却コスト増加率が低下トレンドを描くのには、その資産減少効果も含まれている。だが、資産内容そのものはまだ悪化が続いている。
これからまだ、MS, BAC, WFC, GS などの発表が控えているが、ストーリーとしては、程度の差こそあれ、上の2点から極端に乖離したものにはならないような気がする。
あとは、誰も注目してないけど、BACがメリル買収で手に入れたビジネスラインが一年を経過してどう貢献してきてるのか、というのが筆者には興味あるところ。
そして、もうひとつ、モルガンスタンレーのCEOがジョン・マックからジェームズ・ゴーマンにバトンタッチされ、新CEOがここからどんなストラテジーで新生MSを引っ張ってゆくのか、それも興味ある。
今年1月16日に、ニューヨークタイムズがMSの新CEOについて記事を掲載した。
Morgan Stanley Tries on a New Psyche (NYT, 1/16/10)
この記事でゴーマンは、「MSは自分でコントロールできないようなリスクを取ったり、サイクルの終わりかけで不動産投資にロングになったり、いろいろ失敗したが、その教訓を踏まえ、新しいMSとして生まれ変わったのだ」みたいなことを述べた。
だが、不動産のリスクには相当慎重になり、稼ぎ頭だった債券部門は縮小し、メリルほど大きくないプライベートバンキングを引きずり、ゴールドマンほど派手なプロップ・トレーディングはせず・・・筆者からみると、結局、どんな会社になろうとしてるのか、いまだに、輪郭がよくつかめないのである。
このNYTの記事の中に、筆者の注意を引く数字があった。
GSやJPMの半分のキャピタルで、MSが果たしてどこまで張り合えるのか。
MSの新CEOがどんな手腕をみせてくれるか、お手並み拝見というところか。
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マサチューセッツ州というのは、政治家といえばケネディ・ファミリーといった土地柄で、長いこと民主リベラル一色の「真っ青な州」の筆頭であった。わずかひと月前は、30%の大差のマージンつけて民主優勢と言われていたんである。
それゆえに、民主党側も油断してたな。
民主側が故エドワード・ケネディ(←47年間も同州の上院議員を務めた)の後釜として持ってきたのは、有権者とろくに握手もしないような「冷たい能面女」。同州のAttorney Generalとしてはなかなかのやり手らしいんだが、故ケネディが得意としていた「宴会に呼びたくなる」「人好きする」「空気が読める」そういうパーソナリティをまったく持ち合わせていない、政治家としては致命的な人物であった。
片や、共和側がぶつけてきた候補者は、ポピュリストの極地、昔セミヌードフォト撮らせたぐらいのハンサム男で、「あまり頭はよくなさそうだが、耳あたりのよい言葉と明るい笑顔で有権者を魅了する」、いわばサラ・ペイリンの男性版のようなひとであった。
投票日が近づくにつれ、ジワジワと両氏のマージンは縮まり、世論調査で共和側がリードするという、民主側には「想定外」の展開となり、オバマら大御所が現地に応援に駆けつけたりしたが、結局共和党ブラウンが民主党コークリーを下して、「真っ青の州」に共和党上院議員誕生。
この特別選挙が注目された理由は、ひとつには上院の60議席確保が崩れ、これで、オバマ悲願のヘルスケア改革法案通過がゴール目前で頓挫するだろうということ、そして、この選挙結果はマサチューセッツ州だけの問題ではなく、誕生丸一年目を迎えるオバマ政権に対する「通知表」にも相当すると考えられていたからだ。
「真っ青な州」で民主が負けたことは、オバマ政権の経済政策そのものにNOが出されという意味にもなり、彼の政治的な求心力が本格的に下がっていることを示唆するわけだし、これでさらに勢いを増すであろう保守共和勢力が、ますますオバマの政策に対して、いちいち難癖付けてくることは容易に想像つく。
さらには、ここのところ、やたらとゴソゴソ動きまわっている「Tea Party」(ローカル保守の草の根運動)がメインストリームに躍り出てくる段取りも揃ってきたような気もする。Tea Party軍団のアイドルといえば、サラ・ペイリン。これに、マ州のスコット・ブラウンも加わって、来月4日にテネシー州ナッシュビルで行われる予定の「全国Tea Party集会」ではさぞかし鼻息荒くなることであろう。
投票日の今日(20日)の米株市場では、共和勝利というシナリオにベットして結果を先取り、オバマケア頓挫⇒保険会社の勝利⇒ヘルスケア関連銘柄上昇という流れに押されてダウは100ポイント以上上昇。
CNNはじめマスコミはヘルスケア改革への影響ばっかに気をとられているが、今回の選挙結果で忘れてならないのは、今年度以降の米国債発行の見通しに不透明さが増した、ということである。
2009年12月21日付けのMurray Hill Journal記事『米国債発行上限問題は来年も蒸し返し確実』で述べたように、昨年暮れに、米国債の発行残高が法的上限ビチビチに迫り、議会により上限引き上げがなされたが、当初2兆円増加の予定だったのが、反オバマ勢力に押し戻される格好で、わずか2900億ドル引き上げるにとどまった。しかも、たった2900億ドルなのに、下院では賛成218・反対214の僅差。
民主側はそれでも、2010年中間選挙前にガツンと一気にやってしまおうと踏んで、「目先引き上げが必要な額」でひとまず妥協したんである。共和側もクリスマス休暇に行きたいのに2900億ドルで年末吹っ飛ぶの嫌だし戦いは来年の楽しみにして、とりあえずここは賛成しとこ、みたいな感じ。
しかし、これも、まさか1月のマサチューセッツ州特別選挙でこんなどんでん返しが起ころうなどとは双方ともに誰も想定していなかった。
オバマの経済政策と米国債発行は切っても切れない関係ですからね。
「とりあえず必要な額として2900億ドル」だったので、上限見直しは、どのみち、まもなく議会で再開しなくちゃいけない議題。どうなることやら。
ここで政治的な思惑が先行して米国債発行スケジュールになんらかの影響が及ぶ事態になると、米国債市場での需給期待に加え、失業対策などの政策実行や、住宅ローン金利の行方など、ありとあらゆる物事に影響出ざるをえないから、いろんな意味で要注意ですな・・・。
★ ★ ★
さて、20日の朝は、シティグループの4Q09決算の発表があった。前回のJPM同様、プレスリリースをざっと読んで連続ツイッターで印象を書きなぐったので、前回のMHJ記事で取り上げたJPM同様、ここに記録しておくことにする。
つぶやき#1: 【シティ】ざっと見た印象としては、収益は全体的に縮小気味、融資ボリューム自体が縮小してるのと、沈静化してきてるとはいえまだ資産マークの額が大きく、特にリテール部門でクレジットカード関連の落ち込みが思いっきり足引っ張ってる感じ。預金は結構増えてて、ここはフランチャイズの強みか。
つぶやき#2: 【シティ2】信用コストは減少トレンドだけど、四半期期中の信用コスト額の増減は、B/S縮小の効果もあるから、いちがいに良い悪いはいえない。こういうときは、P/L上の償却コストの額(コスト)増減よりも、B/S上の引当金ストックが貸出金残全体に対しどれ程期待損失見込んでるかを見るべき。
つぶやき#3:【シティ3】で、その引当金ストックだが、シティの場合、全融資残高の6.1%で、3Qの5.9%から上昇。覚えてますか?JPMは、この同比率は5.5%だったのを。でも、シティの場合はJPMより、リテール融資の割合がドバッとでかいんで、JPMよりこの数値が大きくなるのはあたりまえ。
つぶやき#4:【シティ4】あくまで個人的な勝手な「感触」でありますが、6.1%でもまだ足りんな、多分。証券業務のほうではFICCがどーんと落ち込み。予想通りでサプライズなし。アドバイザリーの手数料収入でFICCの落ち込み補ったが、JPMのような強さは感じられず。
つぶやき#5: 【シティ5】09年度決算は特別項目(TARP返済関連、ドイツのリテール銀行売却益)がやたら多くて、表向きの数字だけ拾っても、ようわからん。全体的な印象はトップラインがどの部門でも目だって落ちてきてるのが気になるし、引当金を過小評価してないかが今後の焦点かもね。
つぶやき#6: 【シティ6】海外部門の売却は今年度も続くような気がするし、売却益でレガシー資産から発生する損失を今後も吸収させていかんことには、トップラインが回復してゆくというシナリオはまだ見えない感触。この銀行の場合、縮小均衡の道を辿り国内業務の比重が徐々に高まってゆくんではなかろうか。
★ ★ ★
「海外部門の売却は続くのではなかろうか」とMHJ筆者は書いたのだったが、プレス発表から数時間後の電話コンファレンスで、シティのCEOパンディットは「シティの強みは海外業務、今後も海外に力入れてゆく!」と力説していた。
あれ~、そうなんですかい。私の見方と違うじゃん。
前回の3Q決算でMHJに3Q09決算についての印象雑記を書いた時、バンカメ(BAC)とシティ(C)では同じ赤字決算でもトーンの異なる決算だ、とMHJ筆者は述べた。
そこで筆者はこう書いたんである。
Cは、投資銀行部門、商業銀行部門ともにフランチャイズの衰退が激しく、財務指標も全体的に見劣りし、かつての強みだった海外部門からも損失発生がとまらず、現行のビジネスモデルのままでは、遅かれ早かれ、不良資産の増加に押しつぶされるんじゃなかろうかという印象を持った。Cは、資産のリスクに対し資本基盤が弱すぎる。この銀行は今後、海外オペレーションの切り売りと米国内の事業縮小が従来以上に加速して、いずれ Too Big To Fail のカテゴリーから外れるかもしれない、とすら感じた。
これが3Q09の感想だったのだが、今回(4Q09)のシティ決算を見てどうかというと、前回述べた内容と基本的にはあまり変わらなかった、というのが正直な感想である。
たしかに不良資産から発生する償却コストやフェアバリューへのマークダウンなどは、最悪期からみれば落ち着いてきている。しかし、相変わらず償却コストは高いし、この会社の場合クレジットカード部門の損失が非常に重たく、12月のクレジットカードのデータによるとカードローンの資産はまだプレッシャー受けているという図も否定できず、重しはなかなか取れない。
(参考)December Data Show US Credit-Card Cos Still Under Pressure (WSJ, 1/15/10)
また、ホールセール向けの貸出金が、CDS(ヘッジコスト)の重みで逆ザヤになっており、この分野の収支がいまだにマイナスになってるみたいなんである。これも、結構痛いなぁと感じた。
前回JPMのプレスリリースを読んだときは、15ページもあるリリースだったにもかかわらず、斜め読みでも結構すす~と大まかなイメージが浮かんだ。ところが、シティのリリースはJPMのそれよりずっと短いのに、カッと目を見開いて読まなくてはならなかった。
というのも、やたらと修正項目がありすぎて、まっすぐサクサク読めなくて、読んでるうちになんだか目がまわってきたんである。ツイッターでも書いたが、こういう、読んでるうちに目が真ん中に寄ってくるような財務数値を並べるということ自体、いかにアクロバティック会計やってるか、ってことである。
筆者も長年銀行アナリストやりましたけどね、こんがらかった説明する会社ほど、たいがい、ろくな話がなかったもんである。
(余談だが、証券アナリストのレポートも同様で、こんがらかった分析をするヤツほど、たいがい、分析の結論自体は底が浅く、薄っぺらな内容をゴテゴテと飾って小難しい話に仕立てていることが多い、そんなもんである。)
ま、それはどうでもいいんだが、JPMとCの2社を見て、大手金融機関の4Q09決算の共通項として出てくる話は、
(1)FICCのトレーディング部門はスプレッド縮小、トレーディングのボリューム減、ボラティリティ低下により、3Qまで収益に寄与したトレーディング益は低下。アドバイザリーなどの手数料収入で一部相殺。
(2)信用コストや不良資産のマークダウンは前年同期比でみるとやや落ち着いてきてはいるが、資産額そのものも減少していて、期中償却コスト増加率が低下トレンドを描くのには、その資産減少効果も含まれている。だが、資産内容そのものはまだ悪化が続いている。
これからまだ、MS, BAC, WFC, GS などの発表が控えているが、ストーリーとしては、程度の差こそあれ、上の2点から極端に乖離したものにはならないような気がする。
あとは、誰も注目してないけど、BACがメリル買収で手に入れたビジネスラインが一年を経過してどう貢献してきてるのか、というのが筆者には興味あるところ。
そして、もうひとつ、モルガンスタンレーのCEOがジョン・マックからジェームズ・ゴーマンにバトンタッチされ、新CEOがここからどんなストラテジーで新生MSを引っ張ってゆくのか、それも興味ある。
今年1月16日に、ニューヨークタイムズがMSの新CEOについて記事を掲載した。
Morgan Stanley Tries on a New Psyche (NYT, 1/16/10)
この記事でゴーマンは、「MSは自分でコントロールできないようなリスクを取ったり、サイクルの終わりかけで不動産投資にロングになったり、いろいろ失敗したが、その教訓を踏まえ、新しいMSとして生まれ変わったのだ」みたいなことを述べた。
だが、不動産のリスクには相当慎重になり、稼ぎ頭だった債券部門は縮小し、メリルほど大きくないプライベートバンキングを引きずり、ゴールドマンほど派手なプロップ・トレーディングはせず・・・筆者からみると、結局、どんな会社になろうとしてるのか、いまだに、輪郭がよくつかめないのである。
このNYTの記事の中に、筆者の注意を引く数字があった。
Guy Moszkowski, an analyst at Bank of America Merrill Lynch, notes that Morgan Stanley has about $17 billion in capital committed to its institutional securities business, compared with his estimate of around $40 billion at Goldman and $33 billion at JPMorgan.”Institutional Securities Business”というと、要は、機関投資家相手の投資銀行部門である。投資銀行業務の成功には、フランチャイズとキャピタル、そのどちらも必要。
バンカメ・メリルリンチのアナリストによると、モルガンスタンレーは機関投資家向けの証券ビジネスに$170億のキャピタルを振り向けたが、この数字は、ゴールドマンの$400億やJPMの$330億と比べ少ない。
GSやJPMの半分のキャピタルで、MSが果たしてどこまで張り合えるのか。
MSの新CEOがどんな手腕をみせてくれるか、お手並み拝見というところか。
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Friday, January 15, 2010
今朝の「JPM4Q09決算」ツイッターまとめなど
今朝は早朝からJPモルガンの4Q09四半期決算発表だった。
同社の4Q09決算のプレスリリース全文は、こちら。
来週は大手金融機関の決算が固まってる週で、他社に先駆けて通常より1週間早めて発表するJPMの決算には、MHJ筆者も非常に注目していた。
前回3Q09大手金融機関決算については、以下のMHJ記事に書いたので参照ください。
前期3Qの決算は、証券部門、とりわけ、FICCの債券トレーディング益およびインベストメントバンキングの引受け手数料がトップラインの牽引役となっており、
「証券市場でのプレゼンスが大きいか小さいかが明暗を分けた」
そういう決算だったと書いた。
ただし、融資やクレジット投資のポートフォリオから発生する償却コストが償却前利益(PPP=Pre-Provision Profit)を圧迫している状況は否定しようがなく、
「バランスシートの劣化が止まらないうちに収益だけがホイホイ改善してゆくなんてことが、ありえるわけないんである。」
とも書いた。
さて、これらのポイントが、今期4Q決算では、各社どう見えてくるのだろうか。
3Qを踏まえ、今回4Q09の大手金融機関決算については、筆者は以下の点に注目していた。
1.3Q09まで好決算を維持できた最大の理由は、FICC(債券・為替・コモディティ)部門の好調なトレーディング益だったが、クレジットスプレッドのタイトニングが進む中、4Qもこのトレンドを維持できるか。
2.資産内容に進捗はあったか?信用コストのトレンドは?
3.イールドカーブがスティープ化して長短金利差が大きくなっているが、これが収益性に及ぼす影響はどの程度?
まだJPM一社しか出てきていないため、詳しい話はまた別途しようと思うが、JPMについてのみ、今朝、プレスリリースが出された直後にツイッターにて筆者なりの【第一印象】をつぶやき続けたので、以下にまとめて残しておく。
15ページのプレスリリースを10分程度でザーと斜め読みして書いた内容なので、後日シッカリ見たら、まちがってるところもあるかもしれんけど。(間違いあれば、後日訂正します。)
(Twitterでフォローしてくださってる方は、今朝の自分のつぶやきのまとめですので、以下飛ばしてください。)
★ ★ ★
つぶやき#1:JPM Chase 4Q、当期利益$3.3Bn、前年同期比の4倍強。でも、この決算結果は、かなり【曲者】ですな。プレスリリースの数字を今ざーと拾い読みしてみたが、今回の増益に寄与した最大の要因はインベストメントバンキングの粗利が前年4Qのマイナスから今年4Qはプラスに転じたため。
つぶやき#2:JPM続き:ただし、4Q08のインベストメントバンキングの落ち込みが激しかったために大きく転じたようにみえるが、3Q09の粗利と比較すると、3Q=7.5bn から 4Q=4.9bn とトップラインは35%も落ち込んでて、ボトムの数字だけで見えるほど、ハッピーな数字ではない。
つぶやき#3:JP続き2:注目のFICCの債券トレーディング益については(1)トレーディングボリュームの全体的な落ち込み、および(2)トレーディングのスプレッドがプロダクト全般おしなべて縮小したために、大きく減少。FICCのトレーディングでの落ち込みを、IBの手数料収入増で相殺した格好。
つぶやき#4:JPM続き3:JPMのFICC債券トレーディングの4Qの状況はJPMに特異な話じゃないから、同様の減益効果やIBによる相殺効果は、GSやMSにも起こるはず。となると、インベストメントバンキングのランキングでダントツの成績だったGSは、今期決算もかなり好調かもしれないな・・・。
つぶやき#5:JPM続き4:一方の商業銀行部門は、リテール、ホールセール、カード、どのラインも、パッとしない数字が並ぶ。3部門すべてで期中の償却コストが前年同期比で増加しており、信用ポートフォリオの劣化は全然止まってないことが、ありあり。
つぶやき#6:JPM続き5:ジェイミー・ダイモンは先日、最悪期は脱したと言ってたが、たしかに3Q09と比較すると、期中の償却額は【鈍化】してるように見えるけど、飛び上がって喜ぶほど良好な数字が出てきてるわけでもない。特に稼ぎ頭のリテール部門は3Q09と比べ、粗利下がって償却上がる。だめじゃん。
つぶやき#7:JPM続き6:JPMで意外と健闘したのがアセットマネージメント部門だな。インベストメントバンキングの弱さとFICCの減益で証券業務の成績が散々になることが今から予想されるバンカメにとっては、旧メリルのアセットマネージメント部門がどれほど貢献してくれたかキーポイントになりそう。
★ ★ ★
ということで、「JPMの4Q09当期利益、前年同期比で4倍強」というニュース見出しだけ見ると、ポジティブだったと思われるだろうが、実際のところ、かなり厳しい決算結果だった、というほうが妥当である。
CEOダイモンも、「まだまだ予断を許さぬ」と慎重姿勢を崩さず、『ボトムが4倍』という部分だけ見てぬか喜びしそうな投資家を抑えつけた。
だいたいですね、去年の4Qといったら、リーマンショック直後でしょ。それと比較してボトムが悪かったら、「あんたら一体、何やってたのさ!」と顔面往復ビンタですよ。アウトライアー(Outlier)の極みだった去年の4Qと比較して、収益がよかっただの悪かっただの、そういう議論自体が完全に無意味である。
そのうち、別のポストでも説明したいと思うが、「Provision for Loan Losses(貸倒引当金)」について、最後に述べておきたい。
貸倒引当金、というのは、Expected Loss、すなわち、銀行がオペレーションやっていく上で、将来発生するであろう、とあらかじめ【予想できる額】を計量的にはじき出して引き当てておく、そういう性格のアイテムなんであります。
JPMは、今期も引当金をかなり積み増して、累積されたProvisionは融資全体の5.5%、と言った。
これは結構重要な数字ですな。5.5%って、過去の実績からみるとすごく高い数値だもん。
JPMが積み増した、ということは、「JPMは将来それだけの損失が発生すると見込んでいる」という意味である。
バランスシート上の融資残高自体は減少傾向にある。だが、今期も引当金の積み増しが必要となった。
これは、融資のポートフォリオの劣化は安定と呼ぶにはまだ遠く、現在も劣化進行中、という意味に他ならない。
マクロ要因から劣化が継続していることがわかっているのに、ドンドコ新規の貸し出しやローンの書き換えに励むようなアホな銀行などいやしない。損失膨らむのを承知で進んでやるバカがどこにいる。JPMですら、引当残高が全融資残高の5.5%もあっても、まだ慎重姿勢を崩すことができない、それが現実。
バーニー・フランクみたいなポピュリストの政治家は、「銀行が積極的に貸し出さないのはヤル気がないからだ」とかわめいてるけれど、政府が進めようとしているLoan Modificationプログラムに、どの銀行も及び腰なのは、当たり前。
(インプリケーション)
ファニーとフレディとFHAのみなさん、まだまだ出番は増えますよ~!!
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同社の4Q09決算のプレスリリース全文は、こちら。
- 銀行4社3Q決算の印象雑記(10/18/09) - GS, JPM, BAC, Cの4社
- モルスタ3Q09決算:商業不動産という「おもり」(10/22/09) - MS, WFCの2社
「証券市場でのプレゼンスが大きいか小さいかが明暗を分けた」
そういう決算だったと書いた。
ただし、融資やクレジット投資のポートフォリオから発生する償却コストが償却前利益(PPP=Pre-Provision Profit)を圧迫している状況は否定しようがなく、
「バランスシートの劣化が止まらないうちに収益だけがホイホイ改善してゆくなんてことが、ありえるわけないんである。」
とも書いた。
さて、これらのポイントが、今期4Q決算では、各社どう見えてくるのだろうか。
3Qを踏まえ、今回4Q09の大手金融機関決算については、筆者は以下の点に注目していた。
まだJPM一社しか出てきていないため、詳しい話はまた別途しようと思うが、JPMについてのみ、今朝、プレスリリースが出された直後にツイッターにて筆者なりの【第一印象】をつぶやき続けたので、以下にまとめて残しておく。
15ページのプレスリリースを10分程度でザーと斜め読みして書いた内容なので、後日シッカリ見たら、まちがってるところもあるかもしれんけど。(間違いあれば、後日訂正します。)
★ ★ ★
つぶやき#1:JPM Chase 4Q、当期利益$3.3Bn、前年同期比の4倍強。でも、この決算結果は、かなり【曲者】ですな。プレスリリースの数字を今ざーと拾い読みしてみたが、今回の増益に寄与した最大の要因はインベストメントバンキングの粗利が前年4Qのマイナスから今年4Qはプラスに転じたため。
つぶやき#2:JPM続き:ただし、4Q08のインベストメントバンキングの落ち込みが激しかったために大きく転じたようにみえるが、3Q09の粗利と比較すると、3Q=7.5bn から 4Q=4.9bn とトップラインは35%も落ち込んでて、ボトムの数字だけで見えるほど、ハッピーな数字ではない。
つぶやき#3:JP続き2:注目のFICCの債券トレーディング益については(1)トレーディングボリュームの全体的な落ち込み、および(2)トレーディングのスプレッドがプロダクト全般おしなべて縮小したために、大きく減少。FICCのトレーディングでの落ち込みを、IBの手数料収入増で相殺した格好。
つぶやき#4:JPM続き3:JPMのFICC債券トレーディングの4Qの状況はJPMに特異な話じゃないから、同様の減益効果やIBによる相殺効果は、GSやMSにも起こるはず。となると、インベストメントバンキングのランキングでダントツの成績だったGSは、今期決算もかなり好調かもしれないな・・・。
つぶやき#5:JPM続き4:一方の商業銀行部門は、リテール、ホールセール、カード、どのラインも、パッとしない数字が並ぶ。3部門すべてで期中の償却コストが前年同期比で増加しており、信用ポートフォリオの劣化は全然止まってないことが、ありあり。
つぶやき#6:JPM続き5:ジェイミー・ダイモンは先日、最悪期は脱したと言ってたが、たしかに3Q09と比較すると、期中の償却額は【鈍化】してるように見えるけど、飛び上がって喜ぶほど良好な数字が出てきてるわけでもない。特に稼ぎ頭のリテール部門は3Q09と比べ、粗利下がって償却上がる。だめじゃん。
つぶやき#7:JPM続き6:JPMで意外と健闘したのがアセットマネージメント部門だな。インベストメントバンキングの弱さとFICCの減益で証券業務の成績が散々になることが今から予想されるバンカメにとっては、旧メリルのアセットマネージメント部門がどれほど貢献してくれたかキーポイントになりそう。
★ ★ ★
ということで、「JPMの4Q09当期利益、前年同期比で4倍強」というニュース見出しだけ見ると、ポジティブだったと思われるだろうが、実際のところ、かなり厳しい決算結果だった、というほうが妥当である。
CEOダイモンも、「まだまだ予断を許さぬ」と慎重姿勢を崩さず、『ボトムが4倍』という部分だけ見てぬか喜びしそうな投資家を抑えつけた。
だいたいですね、去年の4Qといったら、リーマンショック直後でしょ。それと比較してボトムが悪かったら、「あんたら一体、何やってたのさ!」と顔面往復ビンタですよ。アウトライアー(Outlier)の極みだった去年の4Qと比較して、収益がよかっただの悪かっただの、そういう議論自体が完全に無意味である。
そのうち、別のポストでも説明したいと思うが、「Provision for Loan Losses(貸倒引当金)」について、最後に述べておきたい。
貸倒引当金、というのは、Expected Loss、すなわち、銀行がオペレーションやっていく上で、将来発生するであろう、とあらかじめ【予想できる額】を計量的にはじき出して引き当てておく、そういう性格のアイテムなんであります。
JPMは、今期も引当金をかなり積み増して、累積されたProvisionは融資全体の5.5%、と言った。
これは結構重要な数字ですな。5.5%って、過去の実績からみるとすごく高い数値だもん。
JPMが積み増した、ということは、「JPMは将来それだけの損失が発生すると見込んでいる」という意味である。
バランスシート上の融資残高自体は減少傾向にある。だが、今期も引当金の積み増しが必要となった。
これは、融資のポートフォリオの劣化は安定と呼ぶにはまだ遠く、現在も劣化進行中、という意味に他ならない。
マクロ要因から劣化が継続していることがわかっているのに、ドンドコ新規の貸し出しやローンの書き換えに励むようなアホな銀行などいやしない。損失膨らむのを承知で進んでやるバカがどこにいる。JPMですら、引当残高が全融資残高の5.5%もあっても、まだ慎重姿勢を崩すことができない、それが現実。
バーニー・フランクみたいなポピュリストの政治家は、「銀行が積極的に貸し出さないのはヤル気がないからだ」とかわめいてるけれど、政府が進めようとしているLoan Modificationプログラムに、どの銀行も及び腰なのは、当たり前。
(インプリケーション)
ファニーとフレディとFHAのみなさん、まだまだ出番は増えますよ~!!
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Tuesday, January 12, 2010
消費世界一まであと10年「中国消費者サーヴェイ」
今年成人になられた皆さん、おめでとうございます。気持ちも新たに誓いを立て、未来に羽ばたいてゆかれたことでしょう。
で、MHJ筆者のほうだが、2010年はもっとサクサクとブログ更新しようと年初に誓ったはずなのに、生の情報がどんどん流れてくるツイッターが楽しくて、そっちのほうで遊んでばかりいたら、前回のブログポストからすでに10日経ってしまった。
ファニーとフレディの財務内容についても、すぐに続きを書かないでいたら、何書きたいと思ってたか、すっかり忘れちまった。ウンウン唸って思い出そうとしているうちに、新しい四半期報告が出てきそうな。。。(汗)
鉄は熱いうちに打て。
頭に浮かんだらすぐに書け。(それでなくても年のせいで忘れっぽくなってるんだから。)
ツイッターの140文字に入らないようなやつは、ツイッターでダラダラいくつも書き繋げるより、ブログに書いたりまとめたりしてゆこうかな、と思ってます。
★ ★ ★
さて、前回のMHJで、オーストラリアの昨年のサクセスストーリーは、政府の家計への借金奨励策が牽引した結果だ、という現地のエコノミストの分析を紹介したが、そのオーストラリアの住宅ローン市場、すでに失速の雰囲気。
Australian Dollar Weakens After Home Loans Fall More Than Seen
(Bloomberg, 1-12-2010)
いま、豪州に強気でいる人は、そのココロは4ヶ月連続で求人が増えた、そして、なによりも「中国頼み」だそうでして。
★ ★ ★
で、その中国である。
中国では、不動産投機の動きが目立ってきているようで、政府は引き締めモードに突入。
China Raises Banks’ Reserve Ratio to Cool Economy (Bloomberg, 1-12-10)
筆者も、ツイッターで「賃貸相場はここ数ヶ月で15%+の感覚。元旦早々からマンションを買う気・借りる気・転がす気満々の人の波にびっくり。春節は凄そう」という現地からのアネクドータル報告を頂戴した。
2010年の住宅ローンのオリジネーションは前年比で40%減になりそう(MBA予測)という米国の状況と、えっらい違いである。
中国すげーな・・・と唸ってるところに、クレディ・スイス香港から今日(12日)付けで出された、ちょっと気になるプレスリリース。
Credit Suisse survey shows Chinese consumer spending jumps
このリリースは、クレディスイスが中国で行っている独自調査『China Consumer Survey』の結果をまとめたものだ。
中国人の旺盛な消費は加速しており、このままでゆくと、2020年には中国の個人消費は15.94兆米ドル、全世界の消費の23.1%を占めて米国を抜く、と同社は見込んでいるという。(2009年の段階では1.72兆米ドルで、グローバルシェア5.2%。)
クレディスイスから日本語訳がすでに出てるかもしれないけど、見つからなかったので、Murray Hill Journalに拙訳で箇条書きしてまとめておく。
サーヴェイから浮かび上がった、6つのポイント:
★ ★ ★
1.リッチはよりリッチに
★ ★ ★
中国のコンスーマー・マーケットはすごいことになる、というのは、自分もボンヤリ感じていましたが、「2020年に米国を抜く」という予想に目をみはり、2020年までたった10年しかない、という事実に気づき改めて感じ入る。
あの911のテロが2001年だもんなぁ。つい昨日のことのように思うんだけど。
ところで、ぜんぜん余談だけど、昨日、日本語ニュースを読んでいたら、こんな記事を見た。
シャープ:タイ工場増強、東芝は中国の販売店1.5倍、白物家電-日経
アジアでの白物家電事業・・・ね・・・。
MHJ筆者は日本のメーカーについてはほとんど調べたことがないのでよくは知らんけど、「米国の典型的な一消費者」として観察してきたことを述べると、日本の家電メーカーの多くは北米市場で明確な経営戦略をほとんど持たず、2000年代に入ってからの住宅ブームと持ち家のリフォームブームがアメリカで起こりハイエンドの白物へのニーズが高まっていたにも関わらず、その機会を全くつかむことができなかった、と筆者は思う。
一方、サムソンやLGなど韓国勢はHome DepotやLowesなどのミドルクラス御用達量販店と販売契約を結んで、住宅ブームの最中に流通販路でいきなりフロントランナーとして飛び出してきたという感がある。
最初、サムソンやLGなどは、白物のブランドイメージとしては欧州勢にかなわなかったし、価格帯も欧州勢よりずっと低い層でプレゼンスを拡大していたが、住宅需要にかげりが出て、消費者の価格に対するセンシティビティも強まったこともあり、ハイエンドの価格帯の分野から消費者が降りてきてて、そこでもサムソンの準ハイエンド商品をチラホラ見かけ始めるようになっている。
ま、現在は、米国の消費全般が落ちてるし、一台2000ドルも3000ドルもするガスレンジや冷蔵庫がガンガン売れるような地合いではないですがね。
だとしても、この10年で、韓国勢は米国の消費者のニーズに合う商品を揃えて、ホワイトグッズ市場で【信頼できるブランド】として、シッカリ足場を固めたという印象が、(少なくとも筆者には)非常に強いな。
シクリカルな波がまた来たときには、韓国勢は「主力メンバー」の一角として、きっとアメリカの消費市場にいること間違いなし。
日本勢はそういう韓国勢の動きとは対照的に、その間、商品投入もなかったし(多分、北米は将来なしと見込んで経営資源を切っていたせいだとは思うが)、白物の分野では、ブランド認識もプレゼンスも衰退の一途。テレビやカメラなどは別として、日本メーカーの家電というと、ここではハッキリ言って『ローエンド』『高級住宅にはステータス低くてちょっと置けない』の扱いに成り下がった。ってか、商品自体、どこにも見かけない、といったほうが正確。
日本メーカーの家電は、世界最大の消費マーケットで、韓国勢に完全なる負け戦を演じた。
上の記事では、成長たくましいアジアの消費市場でハイエンドでの食い込みを狙う、ということらしいが、韓国勢は北米でシッカリ練習積んだからね。上のサーヴェイでは、中国人の国内メーカーへのブランド認識も高まっている、というではないか。
向こう10年のアジア市場での競争絵図は、かなりキビシそうな予感・・・。
健闘を祈る。
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で、MHJ筆者のほうだが、2010年はもっとサクサクとブログ更新しようと年初に誓ったはずなのに、生の情報がどんどん流れてくるツイッターが楽しくて、そっちのほうで遊んでばかりいたら、前回のブログポストからすでに10日経ってしまった。
ファニーとフレディの財務内容についても、すぐに続きを書かないでいたら、何書きたいと思ってたか、すっかり忘れちまった。ウンウン唸って思い出そうとしているうちに、新しい四半期報告が出てきそうな。。。(汗)
鉄は熱いうちに打て。
頭に浮かんだらすぐに書け。(それでなくても年のせいで忘れっぽくなってるんだから。)
ツイッターの140文字に入らないようなやつは、ツイッターでダラダラいくつも書き繋げるより、ブログに書いたりまとめたりしてゆこうかな、と思ってます。
★ ★ ★
さて、前回のMHJで、オーストラリアの昨年のサクセスストーリーは、政府の家計への借金奨励策が牽引した結果だ、という現地のエコノミストの分析を紹介したが、そのオーストラリアの住宅ローン市場、すでに失速の雰囲気。
Australian Dollar Weakens After Home Loans Fall More Than Seen
(Bloomberg, 1-12-2010)
(以下記事より抜粋)
The number of loans granted to build or buy houses and apartments in Australia dropped 5.6 percent from October, when they declined a revised 1.9 percent, the statistics bureau said. The median estimate of 19 economists surveyed by Bloomberg was for a 0.5 percent decline.
豪州統計局によると、新築の家やアパート向けに認可されたローン数は、1.9%減だった10月からさらに5.6%減。19人のエコノミスト予想のメディアン値は0.5%減だった。
いま、豪州に強気でいる人は、そのココロは4ヶ月連続で求人が増えた、そして、なによりも「中国頼み」だそうでして。
★ ★ ★
で、その中国である。
中国では、不動産投機の動きが目立ってきているようで、政府は引き締めモードに突入。
China Raises Banks’ Reserve Ratio to Cool Economy (Bloomberg, 1-12-10)
筆者も、ツイッターで「賃貸相場はここ数ヶ月で15%+の感覚。元旦早々からマンションを買う気・借りる気・転がす気満々の人の波にびっくり。春節は凄そう」という現地からのアネクドータル報告を頂戴した。
2010年の住宅ローンのオリジネーションは前年比で40%減になりそう(MBA予測)という米国の状況と、えっらい違いである。
中国すげーな・・・と唸ってるところに、クレディ・スイス香港から今日(12日)付けで出された、ちょっと気になるプレスリリース。
Credit Suisse survey shows Chinese consumer spending jumps
このリリースは、クレディスイスが中国で行っている独自調査『China Consumer Survey』の結果をまとめたものだ。
中国人の旺盛な消費は加速しており、このままでゆくと、2020年には中国の個人消費は15.94兆米ドル、全世界の消費の23.1%を占めて米国を抜く、と同社は見込んでいるという。(2009年の段階では1.72兆米ドルで、グローバルシェア5.2%。)
クレディスイスから日本語訳がすでに出てるかもしれないけど、見つからなかったので、Murray Hill Journalに拙訳で箇条書きしてまとめておく。
サーヴェイから浮かび上がった、6つのポイント:
- リッチはよりリッチに
- 貧困層とミドルクラスも生活は豊かに
- 中国人は以前ほど貯金しなくなっている
- 不動産市場の急激な変化
- 高額商品購入がブレイク?
- 国内ブランドへの信頼高まる
★ ★ ★
1.リッチはよりリッチに
- 2004年からのトップ10%の高所得家庭の収入増加率(255%)は、低所得家庭の増加率(50%)を大きく上回る。
- 高所得家庭の家計収入全体に占める割合は、2004年の24.3%から35.7%に上昇。
- 高所得者層の増加率には及ばないものの、貧困層(ボトム20%)とミドルクラス(40~60%をプロキシーにみなす)の収入増加率も伸びは大きく、2007年以降は特に顕著。
- 2004年から2009年のミドル層の平均収入は98%増。低所得層は、おそらく農地の利益増の間接的な恩恵を受けて、50%増。
- 長期的な消費者市場の発展の妨げになるとすれば、労働力が供給過多のために給与の上昇が困難になること。
- 預貯金と投資に振り向けられる額が収入に占める割合は2004年の26%から2009年には12%まで減少。2008年以降にその傾向が加速。
- 現時点では、減少分はモルゲージ支払いや賃貸に振り向けられている。
- 賃貸住宅や持ち家に住む人の数が増加し、親から譲り受けたり社宅住まいをしている人の数は減少。
- 初めて家を買う人の需要が、買い替え需要を上回る日は近い。
- 自動車保有比率は2004年の12%から5年後の2009年には28%に倍増。
- 自動車の価格は年々下がっているにも関わらず、自動車購入に充てる予算は増えている。
- 1970年代の日本の例に習えば、経済急成長下にある中国の都市部での自動車保有率は2015年ごろ50%を越す可能性。
- 大型LCD-TVやノートブックといったビッグチケットアイテムへの興味が高まっていることもサーヴェイから裏付けられた。
- 海外ブランドは、とりわけ高額商品・ラグジャリー商品・ハイテク商品の分野において以前強いが、国内ブランドへの消費者の信頼も全般に高まっている。
- 動きの速いコンスーマー商品(例えば食料や飲料)では、海外ブランドと国内ブランドに対する消費者の意識はほぼ同等。
- 通信・インターネット・旅行などの消費者サービス分野では、国内の会社が圧倒的に強い。
★ ★ ★
中国のコンスーマー・マーケットはすごいことになる、というのは、自分もボンヤリ感じていましたが、「2020年に米国を抜く」という予想に目をみはり、2020年までたった10年しかない、という事実に気づき改めて感じ入る。
あの911のテロが2001年だもんなぁ。つい昨日のことのように思うんだけど。
ところで、ぜんぜん余談だけど、昨日、日本語ニュースを読んでいたら、こんな記事を見た。
シャープ:タイ工場増強、東芝は中国の販売店1.5倍、白物家電-日経
1月12日(ブルームバーグ):12日付の日本経済新聞朝刊は、国内電機大手が相次いでアジアでの白物家電事業を強化すると報じた。シャープは70億円を投じてタイ工場を増強し、東芝は中国の販売店網を2010年度中に1.5倍に拡大するという。三菱電機や三洋電機も東南アジアの富裕層向けに主力製品を投入し、成長するアジア市場を取り込む。
アジアでの白物家電事業・・・ね・・・。
MHJ筆者は日本のメーカーについてはほとんど調べたことがないのでよくは知らんけど、「米国の典型的な一消費者」として観察してきたことを述べると、日本の家電メーカーの多くは北米市場で明確な経営戦略をほとんど持たず、2000年代に入ってからの住宅ブームと持ち家のリフォームブームがアメリカで起こりハイエンドの白物へのニーズが高まっていたにも関わらず、その機会を全くつかむことができなかった、と筆者は思う。
一方、サムソンやLGなど韓国勢はHome DepotやLowesなどのミドルクラス御用達量販店と販売契約を結んで、住宅ブームの最中に流通販路でいきなりフロントランナーとして飛び出してきたという感がある。
最初、サムソンやLGなどは、白物のブランドイメージとしては欧州勢にかなわなかったし、価格帯も欧州勢よりずっと低い層でプレゼンスを拡大していたが、住宅需要にかげりが出て、消費者の価格に対するセンシティビティも強まったこともあり、ハイエンドの価格帯の分野から消費者が降りてきてて、そこでもサムソンの準ハイエンド商品をチラホラ見かけ始めるようになっている。
ま、現在は、米国の消費全般が落ちてるし、一台2000ドルも3000ドルもするガスレンジや冷蔵庫がガンガン売れるような地合いではないですがね。
だとしても、この10年で、韓国勢は米国の消費者のニーズに合う商品を揃えて、ホワイトグッズ市場で【信頼できるブランド】として、シッカリ足場を固めたという印象が、(少なくとも筆者には)非常に強いな。
シクリカルな波がまた来たときには、韓国勢は「主力メンバー」の一角として、きっとアメリカの消費市場にいること間違いなし。
日本勢はそういう韓国勢の動きとは対照的に、その間、商品投入もなかったし(多分、北米は将来なしと見込んで経営資源を切っていたせいだとは思うが)、白物の分野では、ブランド認識もプレゼンスも衰退の一途。テレビやカメラなどは別として、日本メーカーの家電というと、ここではハッキリ言って『ローエンド』『高級住宅にはステータス低くてちょっと置けない』の扱いに成り下がった。ってか、商品自体、どこにも見かけない、といったほうが正確。
日本メーカーの家電は、世界最大の消費マーケットで、韓国勢に完全なる負け戦を演じた。
上の記事では、成長たくましいアジアの消費市場でハイエンドでの食い込みを狙う、ということらしいが、韓国勢は北米でシッカリ練習積んだからね。上のサーヴェイでは、中国人の国内メーカーへのブランド認識も高まっている、というではないか。
向こう10年のアジア市場での競争絵図は、かなりキビシそうな予感・・・。
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Friday, January 1, 2010
豪州の住宅バブル:スフレは2度膨らむか
まずは新年明けましておめでとうございます。
昨年は、Murray Hill Journalを応援してくださり、本当にありがとうございました。
今年も書き続けていく所存ですので、引き続き、よろしくお願い申し上げます。
★ ★ ★
さて、今年最初のエントリー、前回の「GSE支援拡大」の続きを書く予定でしたが、ちょっと寄り道させてください。
ノーベル経済学者でコロンビア大教授のジョセフ・スティグリッツ氏(Joseph Stiglitz)が、
『Harsh Lessons We May Need To Learn Again』
と題して大晦日のChina Daily紙に寄稿していた。
2009年を振り返り、我々が得た「教訓」は何だったのかを整理した【きわめて無難】な内容だった。以下簡単にまとめると、
2009年を通じてアチコチで語りつくされたポイントばかりなので、特筆するほどのものではないが、筆者は「教訓3」で、「大型の景気刺激策を用意して早期の段階で大量に財政投与した国ほど回復が早く、財政赤字の縮小を急ぐ国は、総需要(Aggregate Demand)が縮小し、より深いスランプに落ち込む」と主張する同氏が、成功例にオーストラリアをあげたことに、注意を引かれた。
というのは、ここにきて、優等生オーストラリアが抱える負債の問題についても、ちょくちょくメディア上で見かけるようになってきているからだ。
筆者は、オーストラリアの回復を負債の側に着目して分析し、豪米比較のグラフを用いてオーストラリア経済の現状を説明しているブログ記事を先日読んだばかり。ブログの筆者は、オーストラリア在住の経済学教授スティーブ・キーン(Steve Keen)氏。
オーストラリアについてほとんど何も見識を持たないMHJ筆者でも非常にわかりやすい内容だったのと、キーン氏の見方というのは他国にもあてはまる内容だと感じたので、紹介したい。
(以下に使用するグラフはすべて彼のブログサイトから拝借しました。)
It's Debt, Debt, Debt for Australia
(Steve Keen's Debtwatch, 12-29-2009)
★ ★ ★
グラフ1:家計部門の負債GDP対比-豪米比較
グラフ2: モルゲージ債務のGDP対比-豪米比較
グラフ3: オーストラリア家計部門の実質可処分所得の増加率
グラフ4: 住宅価格と所得の推移(CPI調整済み)、および過去のモルゲージ支援策のタイミング
グラフ5: 家計部門とビジネス部門の対GDP債務
グラフ6: 借り入れにより誘発された需要と失業率-米国(右軸が失業率、上下逆転に注意)
グラフ7:借り入れにより喚起された需要と失業率-オーストラリア
★ ★ ★
大型の財政出動が景気拡大に効果を発揮したと言い、オーストラリア政府の政策を称えるスティグリッツ氏。
いやちがう、オーストラリアでは景気が拡大しているのではなく、政策が債務を膨らませた結果として景気後退が他国より遅れているだけ、と主張するキーン氏。
以下は、キーン氏の言葉:
筆者はマクロ経済学が専門ではないけれど、
「今回の問題は家計部門のレバレッジのかけすぎが原因なのに、それを、ふたたび家計部門にレバレッジを推奨することで問題解決しようとしている」
というキーン氏の指摘には、うなづけるものがあるな。
年始早々、遠くオーストラリアまで寄り道してしまったが、米国のファニーとフレディの問題を見る際も、これとまったく同じ分析をあてはめることができると思うんである。
米国とオーストラリアとでは、経済規模も経済の構成要素もずいぶん違う。
だが、住宅市場の活性化を政策の中心に据え、住宅価格上昇とレバレッジで消費拡大に期待しているという意味では、どちらも同じ。家計部門の債務がGDP対比100%に近いという点も、そっくり。
キーン氏によると、最近オーストラリアでは「保証人ローン」というのを銀行がやたら薦めてて、どっかから保証人を引っ張ってくれば、物件の市場価格の110%を借りられるという。米国は民間銀行が腰ひけちゃってるんで、FHAがガンガン保険を出してやって、条件緩めの住宅ローンのオリジネーションを援助している。
GSEの不良債権問題については、現存のポートフォリオから発生するであろう将来損失をキャピタルに吸収させるだけならば、従来枠の4000億ドルの資本注入額で十分と多くのアナリストが試算していた。
ところが、上限をまるごと撤廃しちゃったわけだから、誰もが直感として思うのは、GSEの資産サイズについては、実質的には制限がなくなった、ということだ。
GSEが取り込む信用リスクをさらに肥大化させることに繋がったとしても、米政府は、米国民に、もっともっと借金してもらい、家を買ってもらい、消費してもらいたがっている。
2009年12月21日付けのMHJ記事『米国債発行上限問題は来年度も蒸し返し確実』で出てきたモルスタ作成のグラフで見たように、2008年から09年の米国では、個人と企業がともにデレバレッジのフェーズに入り、替わりに政府がせっせと借金こしらえて国家全体の債務は増えている、という図であった。
2010年、米国民が【自力】で再びレバレッジモードに復活するとはいささかも想定できないので、政府は引き続きなんらかの形で国民の「借金」を応援してデレバレッジングのトレンドに歯止めかけてやらなくちゃいけない。
連銀は今年3月にてエージェンシー債の買取りを終了する予定。9月に連銀はエージェンシー債の保有残高を少しづつ減らしてゆくとか言ってたくせに、全然減ってないみたい。減らそうにも、市場に買い手がいないんだから、無理な話。
連銀という大口の買い手が消滅し、エージェンシー債市場が回らなくなったら、「国民にもっと借金させよう計画」は根底から崩れてしまう。だから、前回記事の最後に述べたように、ファニーとフレディを利用したさらなる大規模支援策を政府はもくろんでいるのでは・・・と筆者は考えてしまう。
だが、米国の一般家庭の多くが借金返済に追われているのが現状なのに、さらに借金上乗せを奨励する施策をどんなに政府が講じたところで、それが持続性のある(Sustainable)強腰の景気拡大をもたらすものかどうかは、筆者は個人的に疑わしいと感じている。
キーン氏のブログに紹介されてた豪州のポール・キーティング首相(1991~96)の印象的な一文。
A souffle is unlikely to rise twice.
(スフレは2度膨らまない。)
ケインズを信奉する学者達にとって、2009年のオーストラリアは【サクセスストーリー】だった。
2010年のオーストラリアで、スフレは再び膨れるか。
米国経済の先行きを占う羅針盤のひとつとして、注意を払ってゆこうと思う。
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昨年は、Murray Hill Journalを応援してくださり、本当にありがとうございました。
今年も書き続けていく所存ですので、引き続き、よろしくお願い申し上げます。
★ ★ ★
さて、今年最初のエントリー、前回の「GSE支援拡大」の続きを書く予定でしたが、ちょっと寄り道させてください。
ノーベル経済学者でコロンビア大教授のジョセフ・スティグリッツ氏(Joseph Stiglitz)が、
『Harsh Lessons We May Need To Learn Again』
と題して大晦日のChina Daily紙に寄稿していた。
2009年を振り返り、我々が得た「教訓」は何だったのかを整理した【きわめて無難】な内容だった。以下簡単にまとめると、
- 適切な規制を欠いた市場は過剰に走る。
- TBTFは大規模金融機関に過剰なリスクを取ろうとするインセンティブを生む。
- ケインズの経済政策は効果的。(例:オーストラリア)
- 金融政策がインフレばかりに着目してるとアセットバブルを許してしまう。
- 金融イノベーションが必ずしも効率と生産性の高い経済に繋がるとは限らない。
2009年を通じてアチコチで語りつくされたポイントばかりなので、特筆するほどのものではないが、筆者は「教訓3」で、「大型の景気刺激策を用意して早期の段階で大量に財政投与した国ほど回復が早く、財政赤字の縮小を急ぐ国は、総需要(Aggregate Demand)が縮小し、より深いスランプに落ち込む」と主張する同氏が、成功例にオーストラリアをあげたことに、注意を引かれた。
というのは、ここにきて、優等生オーストラリアが抱える負債の問題についても、ちょくちょくメディア上で見かけるようになってきているからだ。
筆者は、オーストラリアの回復を負債の側に着目して分析し、豪米比較のグラフを用いてオーストラリア経済の現状を説明しているブログ記事を先日読んだばかり。ブログの筆者は、オーストラリア在住の経済学教授スティーブ・キーン(Steve Keen)氏。
オーストラリアについてほとんど何も見識を持たないMHJ筆者でも非常にわかりやすい内容だったのと、キーン氏の見方というのは他国にもあてはまる内容だと感じたので、紹介したい。
(以下に使用するグラフはすべて彼のブログサイトから拝借しました。)
It's Debt, Debt, Debt for Australia
(Steve Keen's Debtwatch, 12-29-2009)
★ ★ ★
グラフ1:家計部門の負債GDP対比-豪米比較
- 豪州は世界金融危機から誰よりも先駆けて脱出できたと言って内輪で祝杯を挙げているが、見過ごされている不都合な真実がある。それは、オーストラリアの家計部門の債務はGDP対比で100%、米国よりも3%多いという事実だ。
- オーストラリアの家計は近年、米国より速いペースで債務を拡大させてきている。米国の家計部門では負債の削減が進行しているのに対し、オーストラリアでは負債は増えている。
- 家計の負債増加は、オーストラリア政府のポリシーによって意図的にもたらされた。
- 1990年には、米国とオーストラリアの家計部門の債務はそれぞれGDP対比で60%と30%程度であったが、15年後の2005年には86%で並び、その後も増え続けた。
グラフ2: モルゲージ債務のGDP対比-豪米比較
- オーストラリアでも「ホームバイヤーに政府が補助金を出す」という米国と同様のプログラムが開始され09年はオーストラリア人口の1%以上がこの恩恵を受けた。
- モルゲージを除く他の債務では家計部門は減少しているが、モルゲージの増加がそれを打ち消し、家計部門全体の債務はむしろ増加。
グラフ3: オーストラリア家計部門の実質可処分所得の増加率
- オーストラリアがテクニカルな景気後退を回避するのに寄与した要因は次の4つ、(1)ルッド政権による景気刺激策$30bn、(2)追加的モルゲージ対策$40bn、(3)金利引下げ効果$40bn、(4)中国の国内景気刺激策の余波。
グラフ4: 住宅価格と所得の推移(CPI調整済み)、および過去のモルゲージ支援策のタイミング
- しかし、1986年をベースにすると、2001年ごろに行われた対住宅政策が招いたプロパティ価格のバブルにより、住宅価格が可処分所得を乖離して大きく上回り、ここから先は、政府がなんらかの需要操作でもしない限り、前回同様の効果を出すのは困難。
- また家計の債務がすでに極めて高水準にいるために、これ以上の借り入れを増やそうとするバイヤーが少ない。
- そのため、2010年には、上記4つの要因のうち(2)は効果を失う。
- さらに、(3)の金利引下げ効果も2010年には消費者物価への対抗する必要性で期待薄。
グラフ5: 家計部門とビジネス部門の対GDP債務
- オーストラリアでは、デレベレッジはビジネス部門で2009年中に始まっているが、家計部門では、政府のモルゲージ振興策のおかげ(?)で、家計の債務はむしろ上昇。
グラフ6: 借り入れにより誘発された需要と失業率-米国(右軸が失業率、上下逆転に注意)
- 家計の債務が50年代や60年代のように低水準であれば債務縮小による需要減少は軽微ですむ。しかし、債務のレベルが高いほど、そのインパクトは大きくなる。他のOECD諸国ではこれが景気低迷を深める力になっている。
グラフ7:借り入れにより喚起された需要と失業率-オーストラリア
- オーストラリアの場合は、ビジネス部門のデレバレッジは進捗しており、米国と同様に、借り入れにより喚起される需要は実際下降している。
- 結論として、家計部門に債務を追加させる政策は、単に他国が経験している状況を遅らせているだけで、景気後退を阻んだわけではない。
★ ★ ★
大型の財政出動が景気拡大に効果を発揮したと言い、オーストラリア政府の政策を称えるスティグリッツ氏。
いやちがう、オーストラリアでは景気が拡大しているのではなく、政策が債務を膨らませた結果として景気後退が他国より遅れているだけ、と主張するキーン氏。
以下は、キーン氏の言葉:
This is the real folly of boosting the economy by enticing households to take our more debt. Since spending is the sum of income plus the change in debt, increasing debt levels provide a strong boost to the economy. But that same process can work in reverse if households decide that they’re carrying too much debt: then their attempts to reduce their debt—”deleveraging”—necessarily reduces their spending.
家計部門にさらに債務を取らせることで経済拡大を試みるのは笑止千万だ。消費とは所得と債務の変化分の合計なのだから、債務水準を高めれば、経済は力強く拡大する。だが、消費者が借金しすぎていると自ら決断したときには、それと逆のプロセスが起こる。家計が債務を減らす(デレバレッジする)動きに出れば、消費は縮小するのだ。
筆者はマクロ経済学が専門ではないけれど、
「今回の問題は家計部門のレバレッジのかけすぎが原因なのに、それを、ふたたび家計部門にレバレッジを推奨することで問題解決しようとしている」
というキーン氏の指摘には、うなづけるものがあるな。
年始早々、遠くオーストラリアまで寄り道してしまったが、米国のファニーとフレディの問題を見る際も、これとまったく同じ分析をあてはめることができると思うんである。
米国とオーストラリアとでは、経済規模も経済の構成要素もずいぶん違う。
だが、住宅市場の活性化を政策の中心に据え、住宅価格上昇とレバレッジで消費拡大に期待しているという意味では、どちらも同じ。家計部門の債務がGDP対比100%に近いという点も、そっくり。
キーン氏によると、最近オーストラリアでは「保証人ローン」というのを銀行がやたら薦めてて、どっかから保証人を引っ張ってくれば、物件の市場価格の110%を借りられるという。米国は民間銀行が腰ひけちゃってるんで、FHAがガンガン保険を出してやって、条件緩めの住宅ローンのオリジネーションを援助している。
GSEの不良債権問題については、現存のポートフォリオから発生するであろう将来損失をキャピタルに吸収させるだけならば、従来枠の4000億ドルの資本注入額で十分と多くのアナリストが試算していた。
ところが、上限をまるごと撤廃しちゃったわけだから、誰もが直感として思うのは、GSEの資産サイズについては、実質的には制限がなくなった、ということだ。
GSEが取り込む信用リスクをさらに肥大化させることに繋がったとしても、米政府は、米国民に、もっともっと借金してもらい、家を買ってもらい、消費してもらいたがっている。
2009年12月21日付けのMHJ記事『米国債発行上限問題は来年度も蒸し返し確実』で出てきたモルスタ作成のグラフで見たように、2008年から09年の米国では、個人と企業がともにデレバレッジのフェーズに入り、替わりに政府がせっせと借金こしらえて国家全体の債務は増えている、という図であった。
2010年、米国民が【自力】で再びレバレッジモードに復活するとはいささかも想定できないので、政府は引き続きなんらかの形で国民の「借金」を応援してデレバレッジングのトレンドに歯止めかけてやらなくちゃいけない。
連銀は今年3月にてエージェンシー債の買取りを終了する予定。9月に連銀はエージェンシー債の保有残高を少しづつ減らしてゆくとか言ってたくせに、全然減ってないみたい。減らそうにも、市場に買い手がいないんだから、無理な話。
連銀という大口の買い手が消滅し、エージェンシー債市場が回らなくなったら、「国民にもっと借金させよう計画」は根底から崩れてしまう。だから、前回記事の最後に述べたように、ファニーとフレディを利用したさらなる大規模支援策を政府はもくろんでいるのでは・・・と筆者は考えてしまう。
だが、米国の一般家庭の多くが借金返済に追われているのが現状なのに、さらに借金上乗せを奨励する施策をどんなに政府が講じたところで、それが持続性のある(Sustainable)強腰の景気拡大をもたらすものかどうかは、筆者は個人的に疑わしいと感じている。
キーン氏のブログに紹介されてた豪州のポール・キーティング首相(1991~96)の印象的な一文。
A souffle is unlikely to rise twice.
(スフレは2度膨らまない。)
ケインズを信奉する学者達にとって、2009年のオーストラリアは【サクセスストーリー】だった。
2010年のオーストラリアで、スフレは再び膨れるか。
米国経済の先行きを占う羅針盤のひとつとして、注意を払ってゆこうと思う。
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