Saturday, February 28, 2009

シティグループのマルチ国有化:一縷の望みに涙を拭け

何を隠そう、筆者はシティグループの株主である。

何年も前に買った株券を全部売り逃げることができず、いまだにグズグズ持っているのである。(笑わば笑え。)

残りをいまさら売ったって、もう何の意味もないわいッ!

そして昨日2月27日、そのシティから筆者の口座に「配当金」が振り込まれておりました。

振り込まれた“数ドル”の配当金の額を見、さらに自分の投資元本額も視界に入り、一瞬、そう、ほんの一瞬だけ、涙が溢れそうになった。

昨日のシティの終値は、一株当たり$1.5。前四半期分の株配当金は一株当たり$0.01(1セント=1円以下)。

涙をこらえるのが精一杯で、配当利回りを計算する気はさすがに起きなかった・・・。(←計算してどうする。)

   ★   ★   ★

かねてから話題に上っていたとおり、米国政府がシティグループの36%相当の普通株を取得、同社の筆頭株主となることを、シティは金曜日に正式発表した。

ウォールストリートジャーナルは、昨日付の記事で『The Third Bailout(3度目の救済措置)』という見出しを掲げ、ここだけ読んで政府がシティにまたもや新規に救済資金を提供したという印象を持ったひとが少なくなかったようだが、T.A.R.P.からシティに出された救済資金の額面総額には、これの前後で変化はない。

前回までの救済活動で、250億ドル相当の「転換条項付優先株式」の形で提供していたT.A.R.P.資金を、今回政府は一株$3.25で普通株式に転換し、優先的に配当金を払ってもらう代わりに議決権がない優先株主から、配当金支払いの順位は低いが議決権を有する普通株主へと、【転身】するって話である。

これにより、既存の普通株主は74%の希薄化が決定となり、シティの株価はさらに下落。シティとならんで国有化のウワサにまみれているバンカメ株も落ちた。

(ディールの詳細は、ここ参照。http://www.citigroup.com/citi/press/2009/090227a.pdf

厳密に言えば【国有化】ではないが、4割保有ってことは、実質的に、国が管理してるようなもんである。

一部の市場関係者やクルッグマンその他のマクロエコノミスト達は口をそろえて【完全国有化】した方がいいと騒いでいたけれど、彼ら国有化賛成論者のたいがいは、銀行の資産整理とリストラが簡単にできると思い込んでる御目出度いひとたちだ。銀行が国有化になった際に資産価値が大きく毀損し市場売却時の清算価値(リクイデーションバリュー=Liquidation Value)が大幅に下がって、結果として国庫負担になる最終処理コストが肥大化するという問題を深く考えてないから、簡単に国有化国有化とわめくんだ、とは2月21日付のここのブログエントリーで指摘した。政府サイドは、その問題を抱えているがゆえに、大銀行の国有化にはずっと躊躇している。

しかし、このまま何もしないでいたら、連日激しいスペキュレーションでクタクタになってる株式市場はさらに疲弊するし、それよりさらに肝心のクレジット市場も、株式側の不安心理を共有して凍りついたままになってしまう。

ともかくは、滅茶苦茶になってしまったこれら銀行の信用力を回復させてあげて、市中での資金調達がスムーズに流れるような介助をしてやらなくちゃならない。銀行の信用力を回復させるには、その金融機関に「国家」という強い後ろ盾があるという状態が最も効果的なんであるな。

国家が4割株主であるという意味は、シティがこれ以上悪化することになると国庫(=納税者の皆様)に迷惑がかかるという政治的問題も合わせて発生してくるんで、できるだけ、これ以上の悪化を防ごうというインセンティブが政府側に生まれる、という意味になり、そこに「暗黙の保証」が示唆されて、銀行の信用力回復に一役果たす、そういうことなんである。

で、この“信用力”を売買するクレジット市場では、この動きをどう捉えていたかというと、全般に好感されて、金融機関のクレジットスプレッドはややタイトニングした(価値があがった、という意味)。某トレーダー情報によると、シティとバンカメのCDS(シニア5年)のクオートはそれぞれ25bpsと10bps縮まり、民間資金の間に流通しているシティ発行の優先株も、転換価格$3.25という決定を受けて、20でトレードされてたものが、金曜には37まで値上がりした、と聞いた。

シティの不良資産からあとどれくらいの追加損失が発生してくるのかが現段階では皆目見えず、部分国有化になっても、シティの【財務リスク】は相変わらず高いから、今回もクレジットスプレッドのタイトニングの幅としてはさほど大きくはなかったんだろうけれど、この先徐々にCDSのプライスが低下トレンドを示すようになってきたら、政府の思惑どおりの効果があったってことで、しめしめ、なんだよなぁ・・・。

   ★   ★   ★

ところで、シティの株主構成なんですが。

米政府が4割になったとして、その他大株主はどうよ、って話ね。

詳しいブレークダウンは調べていないからわからないけど、私の記憶が正しければ、たしかシティ株ってのは、

 * シンガポールのTamasek
 * クウェートのKuwait Investment Authority(KIA)
 * サウジアラビアの王子様

などなど、そうそうたるソブリンファンドのメンバーも保有しておられる株ですよね。

これら巨大ソブリンの皆様は、私みたいに配当金数ドルなんていう【蚤以下の個人投資家】とはワケちがって、巨大な投資額ですからねー。

米国政府の持分40%に加え、これらソブリンの皆様の投資持分も加わると、シティの株主構成の中に政府関係が占める割合は、どれくらいになるのであろうか。

結構あるんじゃないでしょうか。

ってことはですよ、米国最大のリテール商業銀行だったシティも、「各国政府の手中に収まった」ってことじゃないでしょうか。

それってつまり、

「マルチ国有化」
(Multi-Nationalization)


ですかい?

ふーむ、さすが、グローバルの時代ですわねぇ。銀行国有化も、いまや当事国限定ではなく複数の国家にまたがるとは。(←感心してる場合じゃないが。)

   ★   ★   ★

ここで、先週の公聴会で、バーナンキ連銀議長が発言した内容をふと思い出した。

先週24日の議会バンキング委員会による公聴会で、「(市場がスペキュレートしているように)大銀行の国有化は早急に必要か」という問いに対し、バーナンキはこう答えた。


"I don't see any reason to destroy the franchise value or to create the
huge legal uncertainties of trying to formally nationalize a bank when that just
isn't necessary,"

『正式に銀行を国有化すれば、その銀行のフランチャイズ・バリュー(Franchise Value=営業基盤の価値)は破壊され、法的にも大きな不確実性を生み出すことになる。国有化する必要性が認められない時に、あえてそれを実行するのは理にかなっていない。』


.
注目されたいのは、バーナンキの発言の中の「フランチャイズ・バリュー」という部分だ。

【フランチャイズ・バリュー】というのは、その企業体が収益を生み出すちからの源泉になっている営業基盤の価値のことを指す。

シティグループの持つフランチャイズとは、何か。

財務で大失敗して死の淵に立たされているとはいえ、シティグループのグローバルに張られた営業網は、米国の金融機関の中でも抜きん出ている。世界中に散らばる銀行支店から個人預金を集めてこれるリテール銀行なんてのは、アメリカには、シティしかない。JPモルガンだって、米国内では個人預金をバカスカ集めているけど海外では企業向けビジネスに特化しているし、バンカメも何度も海外で普通銀行の業務やろうとしてたがなかなかうまくいかなかった。

シティのグローバル展開された巨大な営業基盤は、調理さえうまくやれれば、とても使い勝手のよいフランチャイズ。その強みがまだ息の根が止まっていないうちに、それをみすみす潰してしまい、タダ同然の値段で切り売りするのはいかがなものか、もったいないじゃないか、とバーナンキは言うんである。

1月16日付けのシティのプレスリリースに、『Citi to Reorganize into Two Operating Units to Maximize Value of Core Franchise(コアになる営業基盤の価値を最大化するためにオペレーションを2分割する)」とある。

これを読むと、コアになる営業基盤とは、「グローバルに預金を集めて、グローバルに貸出をする」という、伝統的な銀行業務に回帰するための営業基盤を指している。

「グローバル」というキーワードが、シティのフランチャイズバリューの要(かなめ)になるのだとすれば、マルチ国有化で他国の政府が大株主に名を連ねる、というのは、あながち、悪いことではないかもしれない。

現在の株価は、希薄化と国有化の恐れから、フランチャイズが将来生み出す利益の現在価値を株価に反映することができなくなってしまっているが、仮にシティが、公的資金の助けを借りて、悪夢の財務と市場の大津波を乗り越えることに成功したならば、フランチャイズバリューも、きっといつの日か株価に反映されて、紙くず同然に落ちた株券も甦ってくるはず・・・。

トンネルの出口が見えない状態で、こんなことをブツクサ言っていても始まらないのは百も承知しているが、売りのタイミングを失ってシティ株をいまだに抱えている筆者としては、玉砕モードの空元気で「グローバルのマルチ国有化、ばんざーい!」と叫び、陰でそっと涙を拭くのが関の山。

「蚤以下の個人投資家」にできることは、いまは、それくらいである。


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Thursday, February 26, 2009

「米ドルは大丈夫、ワシが保証する」麻生首相大きく出る

麻生首相が外国要人として初めてワシントンにオバマ大統領を訪問していたというニュース。

こちらアメリカのメディアは、完全に無視してた。

そんな中で、かろうじてワシントン・ポスト紙だけが、オバマ訪問後の麻生さんにインタビューし、その質疑応答を24日付けで掲載していた。

記事:Japan's Taro Aso in Washington
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2009/02/24/AR2009022403109_pf.html

このインタビューで麻生氏は、ロシア首相の印象、ヒラリー訪日、ブッシュ前政権への不満、北朝鮮問題などに言及していたが、後半は経済問題について語った。

記者のひとりが昨今の米ドルの動きと今後増発される米国債の話に触れ、麻生さんが1992年以降の日本の経済状況と比較して返答する部分があるので、そこの部分を意訳して、ここに紹介したい。(拙訳失礼)

(なお、オリジナルの英文記事テキストは、このエントリーの一番下に全文掲載してあります。)

   ★   ★   ★

【記者】「前回ワシントンに12月にいらしたとき、あなたは米ドルが世界の基軸通貨でい続けることが重要だと仰っていましたね。米国は今後国内景気対策等に向け借入を増やすことになりますが、これが通貨としてのドルの位置を脅かすという懸念をあなたは抱いておられますか?中国は他の通貨を追い求めるようになると思われますか?」

【麻生氏】「米ドルの価値下落は中国にとって痛手になるから中国がそういう行動に出るとは思わない、また8000億ドル規模の景気対策は米国にとって正しい選択であると考える。」

「金利がゼロまで落ちていながら企業からの借り入れが起こらず投資が生まれないという状況に陥っているときに、国が借り入れをして財政投融資を活発にやらなければ景気は恐慌状態になってしまう。」

「日本でも1992年に不動産価値が87%も下落するという状況に直面したが、それでも年間GDPは5兆ドルレベルを維持できた。それは、日本政府が銀行に預金と言う形で寝ているお金を積極的に借り入れ、それを公共事業や財政刺激策にまわしたからこそだ。」

「そうやって国が借金した結果、金利はあがったか?日本国債の価格が上昇したか?実際、答えはノーだ。わたしが今ここに持っているチャートが示すとおりだ。」

「従って、米国の場合も、連銀のバランスシートが良好で、かつ、米ドルへの信頼を維持することができる限り、米ドルが危機的状況に陥るということはありえない。私が保証してもいい。

「ドルと比較して高くなっている通貨は現在、日本円だけだ。他国の通貨はどれも対ドルで弱まっている。」

【記者】「手にもっておられる、そのチャートは、大統領にも見せたのですか?」

【麻生氏】「イエス。」

【記者】「大統領はそれを見て何と言ってましたか?」

【麻生氏】「その場でいきなり渡したので、そこで読んでいた。注意深く読んでるようだった。」

【記者】「よく巷では、日本の「失われた10年」は、財政出動による景気刺激策には効果がないことの証拠、と呼ばれていますが、(いまのあなたのお話をまとめると)それは、間違った解釈である、と?」

【麻生氏】「間違った解釈だ。もちろん、日本がやったことすべてがうまくいったなどと言うつもりはない。しかし、財政出動で日本が恐慌を逃れることができたのは確かだ。わが国も、金利がゼロに落ちながら経済は引き続き停滞するという状況を経験した。そういう状況下では金融政策よりも財政政策に力を入れることが必要だ。」

   ★   ★   ★

「わたしが保証してもいい」

麻生さん、ギャランティ(保証)とは、大きくでましたね。

でも、ギャランティとしては、ぜんぜん効力なし、って気もするんだが。(爆)

ま、たしかに麻生さんの言うとおり、金利がゼロまで落ちてしまったら、金融政策のコマは限定的になり財政政策しか残ってないというのはその通り。

でも、米国が発行しようとしている大量の米国債を「誰が消化するのか」という、そこが問題なんだよね。需給のファンダメンタルズが米国とは全然違っていた日本のケースはあまり参考にならないんじゃないのかな。

日本が国債を増発し続けてる最中、国債の買い手になってたのは、日本の銀行や金融機関たちだった。

当時の日本の銀行達も、現在のアメリカの銀行に似て、貸出金増やそうにも借り手のクレジットリスクが怖くて積極的に貸すことなんてできなかったし、でも円の預金(キャッシュ)は着実に増えてゆくしで、銀行がお預かりしていたニッポン人の大切な金融資産(←金利ゼロだから利子ほとんどついてないのに増え続けた)を使って、日本国債ガンガン消化してたんだ。それは麻生さんの言うとおりよ。

これでもか、これでもかと国債増発し続けたのに国債イールドめっちゃめちゃ低くなって、これ以上国債持っててもしょうないからと、大手保険会社なんかは高金利求めて米国債ワサワサ買ってキャリーしてたりもしてた。

でも、米国の場合、日本みたいに「銀行システム内に眠ってるキャッシュ」がそんなにないんだよなー。

全米の商業銀行のバランスシートに乗ってる預金総額はおよそ8兆7000億ドル。アメリカのGDPの約半分ってところでしょうか。

日本の場合は、当時、商業銀行の預金総額500兆円ぐらいだった。日本のGDPとほぼ匹敵する額で、日本人ってのは、本当にマジメに預金する国民なんですねー。(日本の場合は、これにさらに、郵便局の200兆円ってのもあったからね。)

各々の国の経済規模と比較して預金プールの大きさを考えると、米国の預金プールってのは日本ほど潤沢にない。 というより、日本の預金プールサイズが異常だったんだけど。

日本が財政出動に必要な資金として日本国債をバカスカ発行できた背景には、それを買う資金が国内にドップリあった、ってのが大きい。

一方の米国債のほうは、消化先が日本みたいに国内じゃなくて海外の割合が高い、とりわけ中国と日本の持分が大きい。

国債については、私は専門分野が違うので常識程度のことしか知らないけど、日本国民の巨大な金融資産のおかげで国債発行をクルクルまわしてた日本と、買い手側の構造が全然違う米国とを比べて通貨への影響を推し量っても、あまり意味ないんじゃないか、と・・・。

そして、以前から書いてるけど、米国債はすでにバブリまくっている

バブってバブってこれ以上バブれないときがきたら暴落する。政策金利がゼロにへばりついたままでも国債イールドは跳ね上がる、ってやつさ。これも以前ここのブログエントリーで書いたけど、日本では、りそな救済後まもなく「テクニカル要因」で国債イールドがビョーンと跳ね上がったんだもん。

中国が現時点で、喜び勇んで米国債をポートフォリオにガンガン積み増ししてゆくとは思えん。警戒するでしょ、ふつうなら。

中国の出方次第では、米国にとっての借り入れ金利はいずれ上昇し財政負担は重くなる。オバマの景気対策がどれくらいの金利水準を前提にしてシナリオ立てて組み立てたのかは知らないけれど、米国債と米ドルを取り囲んでいる状況は不安定極まりない。

   ★   ★   ★

バラ撒きがお好きそうな麻生さんは、日本では(自民党の)財政政策が功を奏して危機を救ったと言いたいようだけど、日本の国債発行のトレンドを時系列で眺めると、暗い気持ちにしかなれないよ。

今年2月5日にニューヨークタイムズに掲載された『日本の巨額の財政政策から学ぶこと』と題された記事。

Japan’s Big-Works Stimulus Is Lesson
http://www.nytimes.com/2009/02/06/world/asia/06japan.html?sq=japan,%20debt,%20&st=cse&scp=3&pagewanted=all

この記事の中に、目を引くグラフが二つ、載ってます。(小さくて見づらくて恐縮です。)




上がGDPに対する公共投資(インフラ事業)の割合、下がGDPに対する政府借り入れの割合で、赤が日本で、緑が米国。

上のグラフを見ると、たしかに90年代前半バブル崩壊後から日本の公共投資はGDP対比でグーンと増えてますですね。で、97年98年と立てづづけに拓銀・長銀・日債銀など大手銀行が破綻したあと、すこし落ち着いてきたかなーって感じで、グラフは下降ぎみに。そして、2000年過ぎて金融危機が再燃してきてからも、小泉政権のもと、公共投資の割合は減り続ける。

しかし、日本国債残高のほうはどうなったかというと、これが全然減ってないんだな。GDP対比で160%という数字は、先進国の中でダントツの借金漬けである。

これらと比べると、米国の財政状況は悪化してきてるとはいえ、日本ほど深刻になるまではまだ余裕ある。暗い中にも一条の光・・・。

オバマの景気刺激策は雇用創出のためにインフラ事業に力を入れるそうだから、上のグラフは、これから上がり気味になってゆくことでしょう。そして、米国債も、今後の大量増発で、残高も上がり気味になる。

90年代バブル崩壊直後、GDP対比で6%超もに相当する公共事業を積極的に行って経済沈没を防いだ日本。

そして2009年のいま、日本に住むみなさんは、麻生氏が言うように、公共事業による経済効果は高かった、と思われますかしら?経済効果は持続している、と思われますかしら?

上のニューヨークタイムズの記事は、アメリカの市場関係者がこんにち自国に対して抱いている共通のセンチメントをあらわしている。「これからアメリカもこうなるのか・・・」という沈鬱なセンチメント。ワシントンポスト紙の記者が「ちまたの評価は間違った解釈だというのか?」と麻生氏に切り込んでくるのは当然である。

麻生さんが「わたしが保証する!」と力強く言ってくれても、胸をなでおろすひとなんて、どこにもいやしないさ。

麻生氏とのこの会見を終えて部屋を出たワシントンポストの記者たち、ふたりでどんな会話をしながらオフィスに戻ったのだろう。

わたしの想像では、首を横に振りながら、こう言っていたと思うな。

「アメリカも日本も、どっちもヤバイな・・・。」


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(以下はワシントンポストに24日掲載された麻生首相のインタビュー記事全文)

Japan's Taro Aso in Washington

Wednesday, February 25, 2009; A19

President Obama yesterday received his first foreign leader in the White House, Japanese Prime Minister Taro Aso. Afterward, Mr. Aso spoke, mostly through an interpreter, with Post editorial page editor Fred Hiatt and diplomatic reporter Glenn Kessler.

Aso: The meeting with the president was -- his way of speaking is very straightforward, very sincere. For me, very impressive.

The Post: How did he compare with Russian President Medvedev, whom you also just met?

Aso: On President Medvedev, I would say that unlike Prime Minister Putin, in comparison, for example, he gives you the impression he is not a military man, not a KGB man, that he's a politician. If he wasn't a politician, he would be someone to work with as a lawyer, and I could imagine that very much. . . .

Do you think North Korea policy will change under the new U.S. administration?

I must say, the six-party talks in approaching North Korea are a useful framework. Previously, we always had a close relationship between the United States and Japan on this issue, but, increasingly, we see South Korea, under the Lee [Myung-bak] administration, coming toward our side, the U.S.-Japan side, on this issue. It used to be four to two, but now it is at least three to three. That has changed a lot.

Moreover, the fact that Secretary [Hillary] Clinton has explicitly talked about the importance of having verifiable inspections on the nuclear issue, that is very important. In the latter days of the Bush administration, I believe there was a tendency to engage in discussions putting the issue of verifiable inspections in a bit of vague wording. In that sense, the fact that Secretary Clinton was quite explicit about the verification inspection aspect is quite welcome.

If they don't allow verifiable inspections, should they be put back on the list of terrorism sponsors?

If you look from the North Korean perspective, I believe there's a sense on their side that the reason they're able to talk with the U.S. is that they have the nuclear issue, and that if they didn't have that, they'd only be a simple, poor nation. I think we have to keep that in mind.

Of course, I don't think North Korea will easily decide [to] abandon its nuclear capabilities, but . . . with the world economy becoming more difficult, I believe the cards on hand for North Korea are becoming more restrained and more restricted. . . . It's maybe difficult to move too urgently, and, in terms of North Korea, it's probably more difficult for all the players to move.

What should happen if they launch a long-range missile?

It would be important for the U.N. Security Council to take the issue on the agenda immediately.

The last time you visited Washington [in December] you spoke of the importance of maintaining the dollar as lead currency. Do you worry that U.S. borrowing for stimulus and other purposes could endanger the dollar? Will China seek other currencies?

I do not think such a thing would happen. First of all, the reserves of foreign currency that China holds are almost entirely in dollars. I believe they would not take action that could risk devaluation of the dollar.

I believe the U.S. government's decision to use the $800 billion stimulus package and invest into public works, I think this method is the correct one. . . . The United States is currently seeing an unprecedented phenomenon in which even if interest rates are zero, businesses will not borrow money to invest into equipment. In such a situation, unless the government goes ahead and borrows that money, then we'll see a depression.

In Japan, we faced a situation in 1992 when property prices, or assets, went down in value by 87 percent, and yet we were able to maintain our GDP of $5 trillion. I believe this was because the government went ahead to borrow the money that was stocked in banks and used it on public works and other fiscal stimuli. As a result, did the interest rates go up? Did the prices of bonds that the government was issuing, did they go up? Actually, no, as you can see on this chart that I have in front of me . . .

Therefore, in the case of the U.S., as long as the [Federal Reserve's] balance sheet is clean, as long as you are able to maintain confidence in the dollar, there's no chance of the U.S. dollar going into a critical situation; I'll guarantee that. . . . Compared to the dollar, the only foreign currency that is strengthening right now is the yen. All the other currencies have only weakened versus the dollar.

Did you show that chart to President Obama?

Yes.

What did he think of these charts?

Well, I gave them on the spot to him, so he was reading them, I believe, quite carefully.

So, though it's often said here that Japan's "lost decade" proves that fiscal stimulus doesn't work, that's the wrong interpretation?

Wrong interpretation. . . . Of course, I'm not going to say that everything we did at the time worked. But I believe the measures we took made it possible for us to avoid a depression; I think that is for sure. We were in a situation where the interest rates were zero but the economy was still not working. . . . In such a situation you have to resort to fiscal policy, rather than financial policy.

We understand you gave the president some Shinkansen [bullet train] advice?

[Laughs and shows another chart.] My beautiful handwriting: In Tokyo, over 10 million population; they rely on railroads 76 percent; in U.S., over 90 percent [go] by auto. Railroad!

Monday, February 23, 2009

新聞買おうか、株を買おうか:NYタイムズ株4ドル割れ

週明けのNY株市場は、今朝も寄り付きから「銀行国有化」のスペキュレーション花盛り。

先週グリーンスパン前連銀議長も某インタビューで「国有化も悪くない」と発言して大手銀行国有化「容認」の発言をしたもんだから、市場は、猫も杓子も国有化ムードである。

グリーンスパンが国有化するのがいいという理由は、一時的に国有化すれば、
.


”allow the government to transfer toxic assets to a bad bank without the problem of how to price them.”

(プライシングの問題なしに不良資産をバッドバンクに移行させることができるから)

(参照記事:http://www.ft.com/cms/s/0/e310cbf6-fd4e-11dd-a103-000077b07658.html
.

このグリーンスパンの発言を読んだとき、筆者は思わず「グリーンスパンのじっちゃま、ついにモウロクきたか」と思ってしまった。

国民のツケを和らげるために、移行時のプライシングを「こじつけてごまかす」程度のことはできるかもしれないよ。でも、市場価格を完全に無視して不良資産に好き勝手なプライスつけるなんて、いくら国家といえど、それはできないっす。

「一時的に国有化する」って意味は、いったん国のものにしても、近い将来に市場売却する、って意味でしょ?切り離しの際の不良資産の洗い直しで市場価格から大幅に高い値でバッドバンクに移行させてやる、っての?含み損抱えて大幅債務超過のバッドバンクを、二次損失(=国民負担)出させずに「近い将来」どうやって政府は市場売却するのさ?バッドバンクを政府が永遠に持ち続けることなんてできるわけもないんだからね。

それに、国有化してもらえなかった金融機関が握ってるクレジットデリバティブス、そっちはどうやってプライシングすればいいのさ?カウンターパーテイは世界中に散ってるんだから、そんなことしたら「国有化になりたい!国有化になりたい!」と、アメリカ中の、いや世界中からも、銀行がワシントンDCに押し寄せてきて、連銀の前に列作るよ。あたしも銀行のフリして並びたいぐらいだ。

ったく、「プライシングの問題がないからいい」なんて、自由市場主義の信奉者として規制緩和の推進に夢中だったグリーンスパンの発言とは思えんな。

グリーンスパン、齢(よわい)83歳。

もうそろそろ、隠居してもいいんじゃない?

   ★   ★   ★

さて、話変わって、ブルームバーグにこんな記事。
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米バブル崩壊でデフレは日本より悪質、金は3500ドルにも-CLSA
2月23日(ブルームバーグ):

CLSAのストラテジスト、クリストファー・ウッド氏は、米国はバブル崩壊により1990年代の日本よりも激烈な影響に直面しているとの見解を示し、デフレ圧力のなかで投資家が資産を守る手段は金のみだと指摘した。』


(記事全文:http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=90003003&sid=a_.7kVuHBCIA&refer=jp_stocks )


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ふーむ・・・「資産を守る手段は金のみ」ですか。

で、その金ですが、やはりブルームバーグに面白い記事(英文)があった。

Shiseido, Kao Beat Recession With Creams Priced as Much as Gold
http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=20601109&sid=a_kCGlkmTw80&refer=home

資生堂が売ってるモイスチャー効果の高い美容クリームが、40グラム(1.4オンス)で12万6千円もして、金の価格と同じぐらい高価だってんである。

しかも、日本では、資産は減ってもいいけどシワだらけの顔になるのだけはイヤッ!という女性がたくさんいるらしくて、このクリーム、しっかり売れてるそう。

おそるべし、美白クリーム。おそるべし、おんなの執念・・・。

さて、あなたなら、この化粧品を顔に塗りたくりますか?それとも、金箔を塗りたくりますか?

   ★   ★   ★

株価が下がり続けて、これと似たような話が、ニューヨークの街角でも、ちらほら会話に出てくるようになってきた。

今朝も、早朝犬を散歩させていたら、やはり犬を連れたご近所さん(←デリバティブスのトレーダー)とすれ違い、道端で互いのわんこを遊ばせながら、シティグループの株が先週1ドル75セントを割り込んで銀行からキャッシュを引き出すときのATM手数料(1回2ドル、とか)より安い、と話題になった。

もうひとつ話題に出たのが、ニューヨークタイムズの株価。先週の金曜日、4ドルをさらに割り込んだ。

過去1年のNYタイムズ社の株価(52週最高21.14@4/25/08、最低3.44@2・20・08)


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NYタイムズの日曜版は世界中に配達されるほど人気が高いが、あの分厚い日曜版を、ここ地元NYで買うと、一部4ドル50セント、なんだよね。(日曜以外は一部1ドル50セント。)

新聞を買おうか、株を買おうか。

硬質で高質の記事が多く、クレディビリティ・発言力・影響力どれをとっても抜群で、新聞メディアとしては全米で常にトップクラスの地位を保ち続けているニューヨークタイムズ紙だが、一企業としては、ご他聞にもれず財務で溺れかけている。

報道によると、NYタイムズ社はおよそ11億ドル(1000億円弱)の負債借り換え時期が目前に迫っているんだが、広告料の低迷と定期購読者の減少で収益が激減で、早急に借り換え用の資金を調達しないと、借金がデフォルト起こしちゃうかもしれないと懸念が高まってる。

配当金減らしたり、野球チームのレッドソックスを売りに出したり、メキシコのテレコム王カルロス・スリム氏から一時しのぎの借金したり、本社ビルをリースしようとしてみたり、ともかく、手当たり次第に返済原資を作ろうと金集めに躍起になっているみたいだが、クレジット市場が凍結しちゃってるから、資金調達したくても動けない。

そこに泣きっ面にハチよろしく、先月23日に、ムーディーズからは「投資適格」だった格付けをいきなり3段階下げられてジャンク(「投資不適格」)に落とされ、市場での資金調達はお先真っ暗。

トリプルAやダブルA格の企業だってクレジット凍結で借り換えは楽じゃない、というこのご時勢にですよ、ジャンクに落とされたら、どうすればいいの・・・。

「広告収入と購読料収入の激しい落ち込みと同時に多額の借金返済時期が迫る」というニューヨークタイムズの悩みは、この会社に限ったことじゃなく、全米の新聞メディアはどこも全く同じ悩みをしばらく共有していたが、以前ここのブログでも紹介したことがあるシカゴ・トリビューンが昨年Chapter11で会社更生申告、ミネアポリスがこれに続き、さらに先週末はコネチカット州の新聞大手ジャーナル・レジスター社もChapter11。

さらに、数時間前に入ってきたニュースでは、フィラデルフィア地域の新聞社大手もChapter11申請ですと!

全米新聞業界、次から次へと、破産の嵐。

市場がコンフィデンスを失っているときほど、ヘッドラインリスクが上昇する、とは前回書いた。

いまの時期こそ信頼度の高い情報を流すメディアが必要なのに、米国の主要なメディアの会社群が、こうして財務の重圧に耐えられず、次々とリストラへの道を歩まされる。
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上の写真は、911のテロ翌日のニューヨークタイムズ一面。見出しに「DAY OF TERROR」とある。

2001年9月12日、この国のいったい誰が、全米の新聞各社を、マーケットという名のTERRORが襲うと考えていただろうか。




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Saturday, February 21, 2009

NYダウ2002年来の安値‐国有化パニック

NYダウ平均、ついに7300台。ネットバブル崩壊後最安値をつけた2002年のラインまで落ちた。

金融株、とりわけ、バンカメとシティの株が【国有化懸念】で急落。

見てくださいよ、この2つの会社の90年代からの、株価の落ちようを。

グラフ上段がバンカメ(BAC)、下がシティ(C)の92年からの株価の動き
(情報は某ブログから拝借しました。)





すごすぎるっしょ・・・(絶句)。


この二つの銀行に関していえば、株式市場でのコンフィデンスは完全に失われたな。国有化されることを前提に株価が動いてる。

ここのブログでも紹介したけど、先週この2社の株価が急落したとき、米議会バンキング・コミッティーのクリス・ドッド議長が「国有化は考えていない」と発言してパニックを一時的に抑えた。ところが今回は、その同じドッド議長が「大手銀行の中に国有化される銀行も出てくるかもしれない」と発言したとたん、センチメントが一気に悪化、売り浴びせ。

そういえば、2002年ごろの日本でも、政府関係者や民間要人の発言、情報源も定かでないニュースなどでいちいち不安を掻き立てられ金融市場は右往左往していた。

筆者が当時書いてたレポートを引っ張り出して読んでみたら、2002年11月14日付のフィナンシャルタイムズだかどこだかに、当時日本経団連の会長だったトヨタの奥田氏が「2002年度中にもメガ銀行の一角が強制的に国有化される可能性が高い」と〝予言〝して、このニュースに反応した株式市場ではスペキュレーション花盛りで銀行株が乱高下した、という記録があった。(のちに奥田氏はこの報道を否定。)

いわゆる【ヘッドライン・リスク】ってやつである。

新聞の見出し(=ヘッドライン)などで流れてくる情報が、その真偽のほどを精査する前に市場が過剰に反応し、証券のボラティリティを高めてしまうリスクのことである。市場コンフィデンスが失われたとき、ヘッドラインリスクは大きくなる。

現在の米国株市場も当時の日本市場とうり二つ、コンフィデンスが失われた市場の特徴を呈していますね。


   ★   ★   ★


一方のクレジット市場の連中は、この事態をどう見てるかというと、クレジット市場でも、バンカメとシティについては、ふたたび悲観論が台頭してきている模様。

21日付けの米債券市場情報によると、これら金融機関が発行する企業債の取引現場では、シティとバンカメはどちらも、金曜日1日で50bps(0.5%)も拡大し、5年シニアCDS(=Credit Default Swap)のクオートが、シティで750/700、バンカメで625/575だったという。

筆者もクレジット市場の前線に長く籍を置いてたことがありますけどね、総資産2兆ドルなどというとてつもない巨大商業銀行のクレジットにくっついてる値が、1日で50bpsも拡大したり、700bpsにも跳ね上がったり、なんつー事態は、そう頻繁にお目にかかれるわけではないんである。

債券サイドも、株サイドほどではないにしろ、相当パニくってるな。まさに異常事態。誰にも何も読めなくなってる。

シティ、バンカメ、ウェルズファーゴのCDSトレンド
(21日付ウォールストリートジャーナルから拝借)






   ★   ★   ★


混乱が続く市場では、オバマ政権の「具体性に欠ける」アプローチに、ますます批判が高まってきた。

ガイトナーが先日発表した救済策では、金融機関に【ストレステスト】を実施して、大手金融機関が市場のさらなるストレスに耐えられるか否かを計ることになっているが、そのテストは来週から開始される。

【ストレステスト】というのは、幾通りかのプライス変動のシナリオをたて、そのシナリオに従って、金融機関が保有する資産に様々なストレスをかけてやり、予想される損失額が自己資本をどの程度毀損するか、「債務超過」になる可能性がどれくらいあるかを計測するテストのことだ。

そして、【債務超過】というのは、資産から発生する予想損失が自己資本を完全に侵食してしまい、負債額が資産額を上回る財務の状態を指す。

現在の株価の水準だけみれば「バンカメとシティの2社はすでに債務超過か、それに近い状態」と株式市場が判断している証拠だけど、以前もここに書いたように、「株式市場が債務超過だと思ってるみたいだから国有化しましょう」ってわけには、いかんのである。

国有化したまではいいとして、そこからさらに巨額の損失が出続けたら、その損失は全額国民負担になるんであるよ。それでもいいのか? そんな国有化後の二次損失まで視野に入れてホイホイ国有化に取り掛かる政府なんて、世界中みまわしたって、どこにもいません、っつの。

結局のところ、問題は「最終的に損失額がいくらになりそうなのか」という点に尽きるんである。

いまみたいに異常にハイパーになってる市場では、ハイパーな価格しか形成されない。そんなハイパーな市場価格を、損失推計のための参照価格にするわけにいかん。それに、理論価値と市場価値の間にあまりにも開きがありすぎるときは、理論価格だけを参照にするわけにもいかん・・・。

困ったもんだ。

・・・と思ってたら、今日(土曜日)のウォールストリートジャーナルに、米国でまたひとつ銀行が潰れた、という小さい記事があるのを見つけた。

Regulators Shut Down Oregon's Silver Falls Bank
http://online.wsj.com/article/SB123518443389938945.html?mod=rss_whats_news_us

破綻したのはオレゴン州にあるSilver Falls銀行で、総資産・預金残高それぞれ、わずか1億ドル超程度の小さなコミュニティバンクで、銀行支店も3つあるきり、という。今年に入ってから破綻した米銀の数はここを含めて14行。

地元の中堅どころの銀行が受け皿となって優良資産と預金は全額引き継ぐので、この銀行と取引のあった会社や預金者たちには問題なし。

ここまでなら、別にどうでもいい話なんですが。

問題は、記事の中の、次の文章ね。

『The FDIC estimated that the bank's failure will cost the government's deposit-insurance fund $50 million.』

(FDIC銀行預金保険機構の試算では、この銀行破たんにより政府の預金保険基金への負担は$50ミリオンになる模様。)


よろしいか。総資産$131ミリオンしかない小さな銀行でも、破綻すると、政府への負担金は$50ミリオン。

総資産対比で実に38%。簿価で資産総額100億円以上あるはずなのに、潰してしまうと4割の資産価値が吹っ飛ぶ、って話である。

銀行破たんの怖いところは、ここ、なんだよな。金融機関というのは資産総額が膨大だからね。

最終損失額が総資産に対して3割、4割という額になってしまう。ひどいときには9割超とか。これは、このコミュニティバンクに限ったことじゃない。いつもそうなんである。日本の破綻した銀行の処理も、20年以上前の米国でも、スカンジナビアでも、欧州でも、いつも、そう。

「ダメ」と烙印押されたら最後、資産を売却処理する過程で不良資産のみならず優良資産にまで極端なディスカウントがかかり、債務超過額が増幅されちゃうから、なんだ。

ミニチュア銀行ひとつで50ミリオンダラーズの国庫負担。じゃ、巨大銀行が破綻したら、どうなる?

バンカメとシティの総資産、バランスシートに乗っかってるだけで、それぞれ1兆9000億ドル。オフバランスになってる資産(証券化された住宅ローンや消費者ローンなど)も加えたら、整理対象になる資産総額は4兆ドル(400兆円)どころでは済まないサイズである。2行だけで日本のGDPよりデカイぜ。

それを「国有化」という形で国の支配下に入れて、資産整理して、リストラして再生させる?

口で言うのは簡単だけど、そのプロセスに伴う損失(コスト)を誰が取るの?

ガイトナーはじめ政府関係者が、あくまでも国有化シナリオを否定しようとするのは、この【コストの問題】があるからである。

市場は政府にもっと明確な態度で対処してもらいたがっている。でも、政府はこれ以上、国庫負担を増やすわけにいかないから、のらりくらりと、はぐらかしている。

このジレンマ、来週はどう展開するであろうか。


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Sunday, February 15, 2009

オバマは、いつからキャタピラー社の人事部長に?

オバマ政権の最初の関門、7870億ドルという巨額の景気対策法案が議会を通過、オバマは17日(火曜日)にも法案に署名するそうだ。

以下は15日付けの日経ネットの記事
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米の72兆円景気対策、法案成立へ 需要創出へ異例の早期決着
 一度の規模としては世界でも過去最大級の財政出動が米国で動きだす。米上下両院が13日に約7870億ドル(約72兆5000億円)の景気対策修正法案を可決、オバマ米政権の最初の課題であった景気対策は政権発足から1カ月足らずという異例のスピード決着をみた。減税や給付金でさらなる景気悪化を防ぎつつ、全体の約6割を占める歳出追加で需要を刺激し、2年間で350万人の雇用創出を目指す

 景気対策修正法は近く大統領の署名を経て成立する見通しで、米政府は実質国内総生産(GDP)を3%以上押し上げると見込んでいるもよう。一方、民間の見通しを集計した最新のブルーチップ調査では、2009年の実質成長率は対策を考慮してもマイナス1.9%に沈む。(ワシントン=大隅隆、ニューヨーク=藤井一明)(15日 07:00)

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たしかに【異例の早さ】ではありますが、そりゃー早いはずだよ、民主党だけで決めたんだから。

共和党の議員からは法案支持、ゼロ。

前回の選挙で共和党側は議席数を大きく失い、現在の議会は過半数をはるかに超えて民主党が握っちゃってるもんで、「数のちから」で押し切られ、法案は金曜日にあっけなく成立した。

この結末に共和側の不満は爆発。週末のメディアでは、共和党員、みな怒る、怒る。

「民主vs共和と分裂対立するのはもう止めにして、BIPARTISAN(超党派の、党の違いを超えた、という意味)でやっていこうと言ってたのはオバマじゃないか!でも、オバマのやり方は一方的で、話合いをしようという姿勢も、こちらの言い分を聞こうという態度も、ないじゃないか!これのどこがBIPARTISANなんだ、聞いて呆れるーーっ!」と、各ニュース番組で叫びまくっていた。

たしかに、どこかの国みたいに、やれ「共和」だ、やれ「民主」だとやってたら、法案はいつまで経っても成立しませんからね。いまはシノゴノ言っている時じゃない。

とはいえ、今回の成り行きは、オバマ政権の今後にとって、決してプラスには働かないだろう。

この先、「失業率」と「住宅価格」の統計がわずかでも悪化の兆しを見せれば、その度に、オバマ政権は、議会で揚げ足取られて叩かれまくること、間違いなし。

いまのところ、オバマの支持率は7割を超えており、この高支持率に支えられて、ムチャも結構できている、と言えそう。現在はまだ新政権発足から日数が浅く、だれもが「オバマならなんとかしてくれる」という一縷の望みを捨て切っていないから我慢できてるけど、ひとの我慢は長続きしない。支持率も7割超をずっと継続させることなんて不可能だろうし、そうなってきたときに、議会が混乱しなければいいんだけどな・・・。

   ★   ★   ★

ところで、上の記事にもあるように、この法案は「2年間で350万人の雇用創出をめざす」という、意欲的な(非現実的な、とも言う)プランなんだが、その「雇用創出の方法」について、「えっ、それって、マズくないすか・・・・???」と思われても仕方ない言葉がオバマの口から飛び出した。

法案をめぐり議会で共和と民主が対立してゴチャゴチャやっている最中、オバマはイリノイ州を訪れ、一般有権者を前に、まるで選挙の遊説のあのノリで、この法案がいかに米国にとって重要かを力説していた。

そこで、オバマはキャタピラー社(Caterpillar、ティッカーCAT)を引き合いに出し、

「CAT社のCEOが、この法案が成立すればキャタピラーは最近解雇した2万2千人の従業員を再雇用する、と自分に約束した」

と発言したのだ。

参考記事:Obama: Caterpillar to rehire if stimulus passes 
http://www.msnbc.msn.com/id/29139938/

重機メーカー世界最大手のキャタピラー社(Caterpillar、通称CAT)は、先月末、経済鈍化による業績悪化を理由に、2万2千人の従業員を解雇したばかり。



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このオバマの発言に、いちばんビックラこいたのは、キャタピラーのCEO本人であるに違いない。

しかしね、考えてもごらんなさい、自動車産業を筆頭に衰退激しい米国製造業の中でいまだに世界シェアで圧倒的な強さをみせて「米国製造業の雄、アメリカの星」とも言える優良民間企業がですよ、

「オッケー、法案成立したら2万人再雇用するよ、まかしとき!」

なんてことを、常識で考えたって「約束する」わけがないではないか。

国営企業じゃないんだから。

オバマの【大衆向け法案売り込み作戦】にまんまと利用された、この哀れなキャタピラー社のCEOジム・オーウェンズ(Jim Owens)、オバマ発言の翌日12日に記者会見を持ち、「キャタピラー社が再雇用できるようになる前に、さらなる解雇が待っている」と述べて、オバマにそんな約束した覚えはないことを確認した。

しかし、ちまたで抜群の人気を誇る新大統領の発言を、こうして真っ向から否定して大統領に恥かかすのも立場上ヤバイと察したらしく、翌13日付けで、キャタピラー社はこの件についてステートメントを出している。
.

"As I indicated yesterday, the President and I fundamentally agree that
the U.S. stimulus package will be beneficial to the U.S. economy and
should spur demand for the types of products made by Caterpillar. The
passage of significant stimulus packages in the United States and abroad
would help move the global economy toward a recovery, and if these
packages are enacted quickly, they could stimulate demand for our products
that would likely, over time, provide Caterpillar the opportunity to
recall employees who have been laid off during this downturn. We know
this won't happen overnight, but I am confident that swift passage of the
stimulus will lay the important groundwork to rebuild our workforce."
.
『景気対策法案が米国に利益をもたらしキャタピラー社が製造しているような製品への需要を高める、ということについては、私と大統領とは基本的に見解を同じくしている。同法案が早急に成立することでグローバル経済は回復へと向うであろうし、製品への需要が高まってくれれば、この景気後退の余波を受け我が社から解雇された従業員を再び呼び戻す機会も、そのうち、生まれてくる可能性は高い。これが一夜にして起こることはないと我々は理解しているが、景気刺激策は我々の従業員ベースを再構築するための重要な布石になることは確かである。』(筆者による拙訳)

くーーーっ、かなり苦しいセリフだぜ、ジム・オーウェンズ!

オバマの見解に同意するといいながら、「再雇用します」とは言わない。いや、言えない。

「350万人の雇用創出をめざす」オバマを前にして、「でも、雇用の前に、我が社はもっともっとクビ切るつもりなんで」とは、口が裂けても、言えません。新政権に睨まれてもイヤだしな。

ここはナアナアで通して、ワシントンの政界とは距離置いておくほうが、民間企業の経営者としては、無難である。

しかし、オバマの「雇用350万人」の中に、まさか、「民間企業に口出して雇用増やさせる」なんて考えが入ってないでしょうね。

公的資金もらってる金融機関のエグゼクティブの給料にも口を出し、そうじゃない民間企業の雇用予定にも口を出す。

オバマよ、あなた、いつから、キャタピラー社の人事部長になったのさ?

オバマ政権の発足が「米国の金融社会主義への第一歩」にならないことを、切に願う筆者である。

Friday, February 13, 2009

M・ムーアの次の映画の「標的」は金融街

映画監督マイケル・ムーアが数日前に配信したEメールが話題になっている。


















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『WILL YOU HELP ME WITH MY NEXT FILM? ...A REQUEST FROM MICHAEL MOORE』
「私の次の映画に手を貸してもらえますか?・・・マイケル・ムーアからのリクエスト」

と題したEメールが、彼のブログにメール登録している人たちに配信され、またムーア自身のブログサイト(MichaelMoore.com)にも掲載された。

実際のブログ記事原文は、こちらをどうぞ

2月11日付けで掲載された内容をざっと意訳すると、こんな感じ。(以下の訳と赤い太字は筆者によるもの)


皆さん、わたしは現在新作映画の撮影中ですが、ウォール街か金融業界で実際に働いていて、業界内でどんなひどいことが行われていたか「ホントのところ」を教えてくれる「勇敢なヒーロー」を探しています。

米国史に前例をみない「最大の犯罪ストーリー」を私に話してくれたひとは、わたしとのコンタクトの内容はコンフィデンシャルとして扱いますし、あなたの素性も守られます。

重要なのは、これが、あなたが一人の米国民として一歩踏み出し実態を他の米国民の仲間に知らせる機会である、ということです。すでに幾人かの「善良なる人々」は私のところに進んで出てきてくれた。

もしあなたが役立つ情報を持っているなら、bailout@michaelmoore.com までメールをください。

もし金融業界で働いていないのにこのメールを受け取った方は、「ムーアのやつ、次作はロマンティック・コメディだって言ってたくせに、これは一体何だ?」とお思いでしょう。残念ながら今は詳しくは語れないのだけれど、完成したら、きっと気に入ってもらえる作品になること、請け合いです。

ということで、もし銀行・証券会社・保険会社などに勤めていて、「アメリカ国民にはこれを知る権利がある」と思える話を見たり聞いたりしたひとは、ぜひ、私のメールまでご一報ください。

敬具
マイケル・ムーア


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なるほど、ムーア監督の次の作品は「悪行の限りを尽くしたウォール街を斬る!」といった内容になるのね。

しかしなぁ・・・筆者は、このマイケル・ムーアという監督が、正直言って、嫌いなんである。

過激な内容が大衆受けしてるだけで、彼の作品は、映画としては「OVER‐RATED」(過大評価)されてると思うんです。

だって、彼の映画って、どれもこれも「見え透いた勧善懲悪もの」ばっかで、内容は浅いし、視点は一方的で、実際つまんねー映画ばっかなんだもん。

米国の健康保険の実態を扱った前作『Sicko』にしろ、世界同時多発テロを扱った『華氏911』にしろ、米国内の銃器取り扱いを扱った『ボウリング・フォー・コロンバイン』にしろ、トピックが違うだけで、アプローチの仕方もプロットの流れも進め方も、みな同じ。

必ず「社会の悪」が出てきて、「善良な市民」がその犠牲となり、そこに、「正義の味方」ムーアが殴りこみかけて内情をあばいてゆく、ってパターンだけど、そういうプロットなら、子供のころにドラマ『水戸黄門』で、わたくし、毎週見てました。

ま、わかりやすいからいいんですけど、今回もあれと同じパターンか。

きっと同じ、だろうなー。上の手紙の文面読んだだけで、ムーアがやろうとしてることが、透けて見えるもん。

このムーアの呼びかけに正義を貫くために自ら進んで悪の実態を世に暴く金融機関勤務の方々、すなわち、ムーアの定義によると【勇敢なヒーロー】って、どんなひとたちなんだろう。

筆者には、映画より、そっちのほうが、ずっと興味がありますわ。

だって、この手の大衆受け・メディア受けする話に喜んで取材されたがる人達の多くが、実際にはそれが行われている「現場に直接関わってないひと」が多いんだもん。

先日のニューヨークタイムズなんかも、「かつてはJPモルガンで働いてるというと友達から羨ましがられたけど、今はそこで働いていたと胸を張っていえない」と告白するJPモルガンの元従業員を取材して、「ウォール街で働くことの意味が変わってきた」という結論で記事まとめてたけどさ。

その「元従業員」ってのが、JPMを奈落の底に突き落としかけた証券化商品のチーフトレーダーのアシスタントだった、とかってんならともかく、NYタイムズが取材した相手はJPMでシステム関係やってたとかなんとか、ともかく「バックオフィス業務」に携わってたひとなんだ。

そういう「フロント(現場)にいないひと」の取材ばっかで、わかったような結論つけられても、一方的でリアリティないだろっての。(それに、ウォール街ってところは、バックオフィス業務の方々に対する日頃の仕打ちは目に余るものがあって、彼らは日頃からウップン溜まりに溜まってるから、悲惨な体験談なら、そりゃーいくらでも出てくるでしょ。)

でも、そういうネタが、マイケル・ムーアが言うような「米国民として知る権利がある」、つまり「事の本質に迫るような重要ネタ」なのかは、定かではない。

前作『Sicko』でも取材不足が丸見えで、自分の意見に同意してくれるひとの声“だけ”拾って「これが実態だ!」とクオリティの低いドキュメンタリー(っつーか、純粋エンターテインメント)見せてたムーアが、次作ではどこまで「核心に迫る真実」を暴露してくれるかな。期待しないで待ってよう。

問題は、

「事の本質と核心に迫る真実」



「大衆を煽るだけの水戸黄門的周辺ネタ」

との違いが、ムーアに果たしてわかるのか、ということだ。

その問いに対するわたしの予想としては、映画『A Few Good Men』で、ジャック・ニコルソンとトム・クルーズが対決する超有名なシーンのセリフを使わせてもらいたい。
(その有名シーンは、こちらをどうぞ。)

緊迫する法廷で、「真実を知りたい、自分には真実を知る権利がある」と迫る検事役トム・クルーズに、悪の被告役ジャック・ニコルソンは、こう叫び返した。

YOU CAN'T HANDLE THE TRUTH!



問題デカ過ぎて、誰にもハンドルできん・・・。

Wednesday, February 11, 2009

「政府主導による市場メカニズム」の矛盾

筆者は毎朝ラジオニュースを聞きながら犬と散歩するのを日課としているのだが、昨日(10日)のラジオでは朝から、ガイトナー財務長官が金融市場救済に向けての具体案を午前11時に発表する、という話で持ちきりだった。

ブルームバーグラジオなどは、「さぁ~、発表まであと1時間に迫りましたよ~!」「20分を切りましたッ!」と、カウントダウンしてたぐらい。

タイムズスクエアの年末のカウントダウンじゃあるまいし。

それくらい、誰もが期待に胸膨らませてティム・ガイトナーの登場を待っていた。トレーダーも発表を聞くまではトレードを控えてた、ってぐらいで。

ところが、ガイトナーのスピーチはかなり大雑把な枠組みの話に終始し、ウォール街が期待していたような「具体的に、誰から、何を、いくらで買って、それをどうする」という詳細に欠けたものだったために、午前11時を境にしてダウは急落。後場もセンチメントは戻らず、前日比5%近く下げて引けた。

昨日(2月10日)のNYダウ、イントラデイの動き 
(11日付けウォールストリートジャーナルから拝借)




オバマ政権の経済顧問サマーズが、ガイトナーの案は「政府が呼び水となることで市場からプライベート資金を集めてきて、それで金融機関のバランスシートにしこっちゃってる不良資産を買い取るビークルを作る」という、ぼんやりした概要を、週末のTVインタビューですでにリークしてたんで、市場は「買取りプロセスの詳細」を期待していたんであるな。

しかし、ガイトナーのスピーチは、サマーズがリークした「概要」から大差はなく、クビを長くして「詳細」を待っていたアナリストやトレーダー達は「あんなに勿体付けてたくせに、開いてみたら、手の内には何も持ってねぇじゃねーか」と怒りまくった。

たしかにもっと突っ込んだ詳細がなければ、分析できないっすよね。

でも、筆者が思うに、「詳細がない、詳細がない」と騒いでる連中も、実際のところ、その「詳細」とやらを使って調理の仕方知ってんの?

昨日の夜のTVニュース番組に、某社の銀行株担当のアナリストが出演して「詳細が出てこないのは納得がいかない!」と怒っていたが、「もし詳細があったら、あなたなら、どうするか」と逆に番組キャスターに突っ込まれ、一瞬詰まって即答できなかったのには、笑った。

市場のアナリストなんてのは、日頃エラソーなこと言ってるが、その実、議論のための議論、分析のための分析をやって自己満足にふけってるヤツ多いですからね。(筆者自身がアナリストだったんで、よくわかるんです。笑)

別のニュースでもやっぱり詳細が無いと批判してたニューズウィーク誌の経済記事担当とかいうジャーナリストなんて、「リーマンブラザーズは破綻するまでトリプルAの会社だった」とマジメな顔で全米版の番組で抜かしてた。証券化債券の“トランシェのひとつ”に付与されているトリプルA格付けを、「発行体そのもの」についてると思いこんでいるようなド素人が、CDO買取りに関わる「詳細」を知ったからとて、何ができるというのか。

この手の「気分だけ知ったつもり」の市場参加者がオーバーリアクトした結果が昨日の株式市場の大幅下落の一因だとしたら、株価の動きそのものに、こっちまで一緒になってオーバーリアクトしたって、だからどうした。(今朝のフィナンシャル・タイムズの論説は、つられてオーバーリアクトしてましたけどネ。)

CNBC局のキャスター、スティーブ・リースマン(Steve Liesman)だけが、かろうじて、(ガイトナー案はクレジット市場正常化をめざした案なのだから)株式市場がどう反応したかより、金利市場とクレジット市場がどう反応したかのほうが今は重要じゃないのか」と述べて、ひとり光ってた。

そう、その通りだよ、スティーブ!いいこと言うじゃないか!詳細はこれから追々出てくるでしょう。


   ★   ★   ★


昨日は市場関係者から大ブーイングをくらったガイトナーの発表会であったが、昨日の彼の話を簡単にまとめると、要するに、こういうことみたい。

ガイトナー案の骨子 
(2月11日ニューヨークタイムズから拝借)


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 1. 大手銀行は、市場がさらに強いストレスに見舞われたときに存続できるかどうかの「ストレステスト」をこれから行う。テストの結果、存続できると認められたら、T.A.R.P.からの資本注入対象銀行になることができて、資本強化する。(でも、テスト結果の詳細は非公開。)

 2. 政府が資金立ての支援をしてやって、不良資産のみならず、クレジットカードや学生ローン、自動車ローンなどのコンシューマー向け融資の流動化に拍車をかけてやる。住宅ローンの流動化がスムーズにいくように、政府はさらに努力する。

 3. 政府1、民間10の割合で、プライベート資金を募って、不良資産(Toxic Assets)買取りビークルを作る。政府主導で、民間資金による取引を活性化させることで、市場メカニズムが再びプライシングを行えるように促す


とまぁ、こういうことらしい。

つい先日のここのブログ記事で「大銀行を国有化するにはつじつま合わせる必要ある」と書きましたが、ストレステストの結果は、まさに、この「つじつま」に相当することになるでしょう。

また、昨日の公聴会でバーナンキも力説してたが、米国のクレジットの流れは、半分が銀行からの融資だが、もう半分は銀行システムを通らずにセキュリタイゼーション(証券化、流動化とも言う)市場でまかなわれている。だから、連銀も一丸となって資産流動化をテコ入れするのが急務、ってのも、これまた政府として当然でありますね。

だが、3番目の「政府が民間資金集めて市場メカニズムでプライシングする」ってところに、筆者は、ややひっかかるものを感じている。

ガイトナーはスピーチに続くインタビューで、この不良資産買取りに参加する民間の機関には、

「将来の損失に備えたプットオプションは政府から出さない」

と言い切ったんだ。

また、サマーズは別のインタビューで、この案に参加する可能性のある民間機関(プライベートエクイティなどのファンド)とここ数週間すでにコンタクトを取って、彼ら民間資金が不良資産の買取りに興味を示しているのを確認している、とも洩らした。

さらにさかのぼれば、前政権時にT.A.R.P.立ち上げたポールソンらも、ゴールドマンなど有力投資銀行をアドバイザーにして、民間資金を呼び込んで買取りプラン立てる、って言ってたんだし。

つまり、ガイトナー案てのは、給料高過ぎると難癖つけた相手をアドバイザーとしてこきつかい、通称「ハゲタカ」(政界関係者が好む別名「庶民の敵」、「GREEDの代表」)と呼ばれてるディストレス(不良化した資産買取り)専門のプライベート・エクイティの力を借りないと一歩も先に進まない、そういう案なんであるな。

でも、ハゲタカファンドは、すでに理論価値より安くなってる資産をさらに買い叩くからハゲタカなんであって、これからまだまだ買い叩ける資産はいくらでも出てくるかもしれないのに、いませっかちに動かなくちゃいけない理由が彼らにあるだろうか。

ましてや、政府はプットオプションつけてくれない、ってんだから、リスクヘッジは全部自前でやらなくちゃいけないし、それならよほどの好条件(=叩き売り状態)にしてくれなければ、そんな高リスクのディールに参加する意味、あまりない。

でも、叩き売り価格で市場売却した際に発生する損失を吸収できるほど自己資本に厚みがあるなら、売る側の金融機関だって、とっくに売ってるんじゃないのか、とも思う。

ガイトナーが言うように、買おうにも資金市場が麻痺してるから買うための資金がまわらない、という「買い手側の事情」ももちろんある。

だけど、「売り手側の事情」すなわち、売ったら最後、損失が確定してしまうから債務超過がバレちまう、というもうひとつの問題もあり、それでプライシングがつけられないというのが実態じゃなかろうか。

いまマーケットプライスでCDOを処分したら債務超過がバレてしまう巨大銀行が仮に(仮に、ですよ)あったとしても、既に兆円単位の公的資金を入れてしまった後なんだし、破綻に伴うシステミックリスクの大きさを考慮したら、

「ストレステストの結果、債務超過でした、えへへ・・・」

なーんて、政府当局が言えるわけないんだから、そういう銀行からの売り値にはある程度の手加減加えてやらないと、「システミックリスクの回避」という政府サイドの大義名分自体がひっくり返ってしまう。

おそらく、ディストレスの分野の大御所カーライルやブラックストーン、債券運用大手のピムコやブラックロックなどは、とっくにサマーズやガイトナーらと直接会合持って投資機会を探っているのだろうけれど、彼らが「お国のために」と自腹切って、プライシングに手加減してくれるとは、筆者にはちょっと想像できないね。そんな甘いこと言ってたら、あちらさんも、商売にならんよ。

「市場メカニズムによるプライシング」というのは、売り手はリターンを最大にしようとし、買い手はリスクを最小にしようとする、その【せめぎ合い】から生まれてくるわけだから、できるだけ銀行破たんを回避したい政府の思惑と、リターンの最大化を前提に走る市場メカニズムには、おのずと矛盾が生じてしまうんである。

今後の政府と民間機関との話し合いが進むにつれ、ガイトナー案は、なんらかの妥協策】を組み込まざるを得なくなる、そんな気がする。

妥協案なら、プットオプションも、そのひとつ。

日本政府が旧日債銀と旧長銀を米系プライベートエクイティファンドに売却したときに瑕疵担保条項という名のプットオプションをくっつけてやったのを思い出すな。

政府側がなんらかの形でリスクヘッジに一役買ってやる姿勢を見せないと、このプランはなかなか先に進まず、「モタモタして日本みたいになる」可能性も出てきてしまうんじゃないの、ティム?

Monday, February 9, 2009

タイミング悪い米国債のイールドトレンド

今夜、米国東部時間夜8時より、オバマ大統領による初の記者会見が行われた。

先週から予定されていたガイトナー財務長官の金融市場救済策会見は明日火曜まで延期。

共和・民主と分かれて政治ゲームやってるときじゃない、8190億ドルの経済政策案を議会はさっさと通して実行に移そう、とアピールしたオバマ。

答えに詰まると記者相手にジョーク飛ばして笑いを誘ってごまかしてた前大統領と比べると、オバマ大統領のよどみない会見は、なかなかのできばえだったのではないでしょうか。ハナマル。

オバマ曰く「現在の米国経済は尋常ならぬ状況なのだから、尋常なやり方じゃダメ、カネを大量に使って対抗しないとダメ!」

オバマ政権の経済政策は、オバマが言うとおり、かなりの出費を要する案。

景気失速で国家の税収が減るが、国家の出費は増える。

となると、あたりまえのことだが、国の借金は増える。

2009年だけで米国債は2兆ドル発行される予定らしい。今週だけで670億ドルの新規発行額で、この額も、一週間の発行額としては過去最高という。

これから米国政府がガンガンに債券発行しようとしている(というか、せざるを得ない)局面で、なんとなーく〝微妙に不快で不安〝なトレンドが始まっている。

ここにきて、米国債のイールドのトレンドが逆方向に動き始めており、リーマン破綻前のレベルに戻りそうな勢い、なんだよな。


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ここのブログの去年12月12日付けの記事『合衆国の世紀は実際に終わっていたのか』で、株式市場の暴落とクレジット市場の実質的な閉鎖で行き場を失った投資資金が、「質への逃避」「流動性への逃避」の追い風受けて、どんどん米国債市場に流れ込みイールドを押し下げていることを書いた。

これからサプライが増えること間違いなしだというのに、それでもイールド下がってるぞ、と。

そう、長期米国債は、去年の冬は、ひとりでバブりまくっていたんである。(PIMCOのビル・グロスまでが地団駄踏んで悔しがるぐらいのバブリ様。)

あの記事を書いた12月12日から数日後の15日、米国債は最高値更新、10年トレジャリーのイールドは2.03%というレベルまで低下したのであった。

しかし。

その後、このトレンドが、急激に、逆向きに動き出している。


米国長期債(30年債)イールドインデックス(TYX)の動向












米国長期債(10年債)イールドインデックス(TNX)の動向










オバマ案が具体的になるにつれ、米国債市場で「サプライ懸念」に拍車がかかってきたんだ。


デマンド(需要)の方も不安定。中国・日本などの米国債の最大の買い手には、もはや購入意欲もないしな。

これが、(A)行き過ぎたトレジャリーの一時的な修正局面と捉えるか、(B)需給バランスの乱れが原因で当面継続する中長期トレンドになりそうなのか。

筆者自身はトレジャリーのトレーダーではないんで、(A)か(B)か、ようわからん。このトレンドが、インフレ懸念を反映してるのかも、いまの段階では、ようわからん。

でも、もしも後者(B)なら、米国の財政にとっては悪いニュース。

ガイトナーが先日の公聴会で、【日本が通った道】を引き合いに出し「モタモタしてたら日本みたいになるぞ」と米議員にクギ刺したことは先日のここの記事でも紹介したが、今夜のオバマの記者会見でも、オバマ自身が「日本の失われた10年」を引き合いに出し、(日本のようにならないためにも)米政府はどんなにカネがかかろうとも即座に経済刺激策を実行してこの場を乗り切るっきゃない、と力説した。

米国債大量発行をすみやかに消化できるだけ、果たして需要があるのか。

筆者は、なんとなくイヤーな予感がしてるんだが・・・。


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そして、(ガイトナーもオバマもまだ気づいてないようだけど)日本が通ったもうひとつの道がある。

それは、銀行による日本国債大量買入れと、それに伴う高レベルの金利リスクのバランスシートへの取り込み、であった。金融危機のさなか、邦銀のバランスシートの保有国債残高はうなぎのぼりに上昇したんだ。

クレジットリスクと市場リスクが増大しているさなかに、金利リスクも膨れてゆくとなると、どんなに公的支援で資本を強化してやっても、金融機関の体力は、短期で回復するのが難しいよ。

そして、現在みたいに、トレジャリーのイールドが上昇続けたらVaR(ヴァリュー・アト・リスク)で計算される自己資本の必要額も増えてしまうから、トレーダーはキャピタル不足で動けなくなるし、それでなくてもリスクテイキングに臆病になってる金融機関達はますます、クレジット市場への積極的な参加を控えようとする。

オバマ自身が認めているように、彼の経済刺激策の大半は、金融市場の正常化なしには効果を発揮しない。

そして、「金融市場の正常化」とは、マネーフローのポンプの役目を果たす金融機関の自己資本レベルが「リスク見合いで正常値に復帰する」という意味にほぼ等しい。

金融機関の自己資本にかかるプレッシャーを和らげて正常化を促してやるためには、リスク移転(Risk Transfer)によって、資産サイドのリスク量を全体に低減させてやることが必要だ。

明日のガイトナーの金融市場救済案が、どれほど効果的に、どれほど大量に、民間から政府へとリスク移転を行うことができるか、そこがポイントだ。

それ次第では、オバマの経済政策全体の実効性も影響を受けるのではないかと思う。

Friday, February 6, 2009

米国最大の銀行が国有化?(でも自己資本比率10%超もあるんですけど)

ここ数日の米株式市場はバンカメに始まり、バンカメに終わる、といった雰囲気であった。

Bank of America(BAC)、略してバンカメ。昨年末の連結総資産1兆9500億ドル、米国最大規模の銀行だ。

このバンカメ株、この一年間の株価パフォーマンスで言えば、米国株の中でもおそらく最悪のひとつじゃなかろうか。

一年ほど前につけた最高42.60(08年02月18日)から、昨日は4ドル台まで落ち、1年間で実に90%以上も値を下げた。

断っておきますが、これ、小型株やハイテク株じゃなくて、資産規模およそ2兆ドルという米国最大の金融ブルーチップ、だからね。

バンク・オブ・アメリカの過去一年間の株価推移

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その大銀行が、昨日(5日)は国有化されるのではというウワサが飛び交い、今週は株価がグワングワン動いた。

いや~、昨日と今日のバンカメ株のイントラデイの動きを見てるだけで、こっちは疲れたな。

バンク・オブ・アメリカの今週のイントラデイ株価推移


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バンカメのCEOケン・ルイス(Ken Lewis)が「国有化なんて話は一度も出ていない」と繰り返し訴えたり、バンカメのトップマネージメントの面々がみんなで手を繋ぎ「せーの!」の掛け声で30万株も自社株を市場で買い向かい、国有化の可能性はないことをアピールしたが、パニック売りと空売りに押されて、焼け石に水。

結局、昨日の午後になって、Toxic Assetsの時価会計凍結の可能性の話に加え、米議会のバンキング・コミッティー委員長であるクリス・ドッド(Christopher Dodd、コネチカット州選出、民主)が、国有化シナリオは現在テーブルに乗ってないと発言したことで買いが戻り、パニックモードからやや落ち着きを取り戻した。

そして今日、新財務長官ガイトナーが金融機関の救済策を来週月曜日にも具体的に発表するとのニュースに、金融株全般に期待買いが入り、今日は金融株は軒並み上げた。

昨日は一時3ドル台をつけて20年来の安値になったバンカメ株、今日の引け値は$6.13で前日比27%も上昇。

はぁ・・・疲れた・・・。

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バンカメといえば、つい最近までは、リテール商業銀行としては米国内最大規模を誇る銀行だったが、ラテンアメリカ以外の国際営業基盤はシティグループとは比べ物にならず、事業内容も、投資銀行業務や証券業務ではJPモルガンに完全に引けを取り、米国内ではあまりパッとしない(と言ったら失礼か)、でも、「伝統的な商業銀行業務に強くて実直安全」という評判を持つ、そういう銀行だった。

ところが、去年7月にサブプライム融資の米国最大手カントリーワイドを買収、さらには、CDOで亀のようにこけてひっくり返ったメリルリンチの買収、と立て続けに拡大して、ヤバイ雰囲気が充満。

今年1月中旬に出された昨年度の決算結果は、メリルが正式に連結対象になっていないにもかかわらず、通期当期利益が150億ドルから40億ドルに7割減というメタメタの結果であった。

メリルの4Qの当期損失は150億ドル超えてたというのだから、これ、メリルの分も入ったらバンカメの当期利益は・・・ぐえッ。

Bank of Americaの4Q決算リリースはここ:
http://investor.bankofamerica.com/phoenix.zhtml?c=71595&p=irol-newsArticle&ID=1245457&highlight=


一株当たりの価値がこんなに毀損されちゃうような買収しやがって!と、バンカメの株主は、CEOケン・ルイスの決断にカンカンだけど、いまさら、メリル買うの止めましたとはバンカメも言えないからね。

メリルの底なし沼のようなCDO関連損失にビビッてしまって、バンカメ国有化の憶測が流れ、アナリスト達もみんなでヤバイヤバイと騒ぎ立てるものだから、バンカメ株急落。

でもですよ、アナリストで注目してるひとが誰もいないみたいなんだが、バンカメの4Qリリース読むと、この銀行の【自己資本比率】って、やたら高いんだよね。

昨年度末時点で、バンカメのTier 1自己資本比率は9.14%。これにさらに、メリル買収用として政府向けに発行した普通株・優先株なども入れると、プロフォーマ・ベースで10.70%、だそうである。

金融機関というのは、規制によって自己資本比率を達成することが義務付けられていて、最低でもTier 1比率は4%以上、Tier 1とTier 2合計したトータル比率で8%以上ないと業務停止になっちまうんである。

Tier 1比率が10%を超えた銀行は「Well-Capitalized」(充分な自己資本を有した)と、規制当局からお墨を付けてもらえるんであるな。

世間では、国有化国有化と騒いでいるけど、国有化の定義を知らないから、そうやって騒いでいるのではなかろうか?

銀行の国有化というのは、金融機関の自己資本が不十分あるいはマイナスになり、自力で事業継続が困難になった場合に行われるんであるよ。

株式市場や、クルッグマンや、訳知り顔のメディアのコメンテーターらが「国有化したほうがいい」と言うから国有化する、なんて、そういう風には、ならんのである。

国有化を決定するのは政府と規制当局だけど、自分達が銀行に規制の形で押し付けているルールでは「Well-Capitalized」のカテゴリーにしっかり入っている(つまり充分すぎるほどの自己資本を持っている)銀行をつかまえて、ある日突然国有化する?

それやるには、まず、【つじつま合わせ】が必要である。

12月31日に10%の自己資本があった米国最大の銀行が、その6週間後には自己資本ゼロになっちゃったのはどうしてか、それをきちんと説明できなければ、国有化なんて、おいそれとできるはずがないではないか。「資本主義の国で国家が民間企業のオーナーになる」、それって、大変な話なんだから。

カントリーワイドとメリルの損失でゼロになっちゃったと言えばいいじゃないか、というひともいるでしょう。

でもですね、金融危機が深まってゆくさなかに、腐りきった金融機関を2つも立て続けに買ったのは、CEOルイスが勝手にバカな決定をしたからだ、などと考えるひとは、よほどの「世間知らず」だけでしょう?

バンカメによる2社買収の背後に、政府当局が絡んでないわけ、ないではないか。

リーマン潰れたとたんにシステミックリスクが顕現化し、この上メリルも潰れたなんてことになったら、金融市場は取り返しのつかないことになるのは自明の理。それを回避するためには、米政府当局は何がなんでもメリルを誰かに引き取ってもらわなくてはならなかったわけで、バンカメはその「受け皿」であった。

昨日付けのウォール・ストリート・ジャーナルに、In Merrill Deal, U.S. Played Hardballという記事が掲載され、当時の財務長官ポールセンと連銀のバーナンキが、「やっぱしメリル買うの、やめよっかなぁ・・・」と及び腰のバンカメに、「ケンちゃん、そんなこと言わないでッ、おねがいッ!」と泣いてすがり、あげくには政府側が圧力かけて受け皿にさせた話が紹介されている。
http://online.wsj.com/article/SB123379687205650255.html

バンカメによるメリル買収には、まず政府がバンカメ発行の優先株を引き受ける形で200億ドルの資本注入、さらには、メリル関連の損失が発生した場合は最初の100億ドルまではバンカメが自己のコストとして償却するが、100億ドルを超えた場合は追加損失額の90%を政府が引き受ける、という「ロスシェアリング」の条件付きでバンカメに渡された。

最初のディール締結後もメリルの損失が膨らんで、バンカメはさらに政府のT.A.R.P.から100億ドルの支援を仰ぐことになった。

こうした経緯がありながら、さらに、規制自己資本比率が規制上の最低水準をクリアしている状態でありながら、国が「事業継続が不可能」と決めつけることが、果たして可能かを考えずして、国有化と騒ぎ立てても意味はない。

BIS規制に代表される規制上の自己資本比率が形骸化している事実は、いまに始まったことじゃない。

とはいえ、規制する側(政府当局)が、規制自己資本が示す銀行の健全度をまるごと否定することは、自己否定以外のなにものでもない

バンカメのメリル買収にドップリ裏で当事者として関わってた政府当局が、さて、どうやって「つじつま」合わせるか。

クリス・ドッド委員長が「国有化シナリオはない」と言うのも当たり前といえば当たり前かも。

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とりあえず、当面注目したいのは、ガイトナーが、来週早々どんな具体策を持ち出してくるか、であるな。

そして、来週は、水曜日に大手金融機関のCEO達が委員会に呼び出されている。

羽振りの良いときはどこに行くにもプライベートジェット使ってた、これらCEO達。

でも、GMらビッグ3のCEO達が公的資金オネダリするのに各自プライベートジェットで来て大ヒンシュクを買ったことを踏まえ、金融機関のCEO達、今回ワシントン入りするのに、なんと、アムトラック(AMTRAK)使って電車に揺られて出かけるらしいよ
http://www.marketwatch.com/news/story/bank-ceos-taking-commercial-flights/story.aspx?guid=%7B0E4293DD%2DBD91%2D4B28%2D85EF%2DED3C63101CF6%7D

だから、極端なんですってば、この人たち・・・。

Thursday, February 5, 2009

オバマの英雄物語に付き合わされるのはごめん

オバマ大統領が、公的援助を受けているウォール街の会社のエグゼクティブの給与に最大50万ドルという上限をつけると言い出した。

政府が民間企業の給料の額にまでイチャモンつけるというのは、オバマもかなり踏み込んだな。

NY Times 関係記事:
In Curbing Pay, Obama Seeks to Alter Corporate Culture
http://www.nytimes.com/2009/02/05/us/politics/05pay.html?pagewanted=1&th&emc=th

以下がオバマ案の骨子:(NYタイムズから拝借)
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これを読む限りでは、50万ドルというキャップはあくまで「基本給」にかかる上限で、ボーナスについては基本給の額を超えてはいけないという条件があるとかないとか情報が交錯しているが、いずれにせよ、Restricted Stock という制限付き自社株式で支払われるボーナスについては、このキャップはかからないようだ。

以前ウォール街のボーナスについてここに記事を書いたが(09年1月4日『ウォール街の今年のボーナスはClawbackとドッグフード』)、そこでも述べたように、ウォール街の給与体系というのは、「基本給の部分は割合としては小さくて、年収のかなりの部分がボーナス、しかもボーナスも、かなりの部分がRestricted Stock」なんです。

基本給だけで50万ドル超えるひとって、そんなにいないはず。

基本給最高50万ドルという条件をつけたからといって、これで実際に手にする報酬に大きく影響を受けるひとって、ウォール街にどれほどいるんだろう。金融業みたいにシクリカルで浮き沈みの激しい業界は、ボーナスそのものも、どっちみち、今年も来年も、いつもよりドドーンと低いんだし、上限をわざわざつけなくたって、今年は誰もが暗い顔してる。

だから、このニュースを聞いたとき、「これはオバマのポピュリスト戦略」とわたしには思えた。「オレの税金入れてやったのに高い給料もらいやがってー!」と怒りの握りコブシ振り上げてる業界外の皆様をなだめて、おもねる。

でも、この案は、業界の従業員各人がいくらもらえるかという下世話な話よりずっと根の深い話だ。

この案が実行されるようになったら、米国には結果として悪影響が出る、とわたしは思うな。

なぜなら、オバマ案は、米国の金融市場の国際競争力を失わせる作用しか生まないから。

対象になる金融機関が完全国有化された場合は、そこのエグゼクティブの給料をいくらにするというところまで具体的に政府が口出すのはかまわないと思いますよ。だって、オーナーは国家、なんだから。

でも、オバマ政権がやろうとしているのは、「破綻回避の延命救済策」であって、国家がオーナーになって直接経営に携わり建て直しをやろうとしてるわけじゃない。

事実、ガイトナー財務長官も、経済アドバイザーのサマーズも、国家が民間会社を直接マネージすることには強い難色を示している。

ポール・クルッグマンが先日のNY Timesのコラムで、オバマ政権のやり方を「国有化よりも延命救済を選ぶのは、株主を保護し、代わりにツケを全部納税者にまわして、納税者が損こくだけ」と激しく批判していたが、そう、そうなんです、オバマ政権は、民間会社はできるだけ民間会社のままで延命させ、市場の競争原理をテコにして金融経済を活性化させ健全な状態に戻したいそうなんです。

でも、ですよ。

給料に国から上限がつけられているような、民間会社なんだか、政府機関なんだか、どっちかよくわからんようなアヤフヤな組織に働きたいエリートって、アメリカにいるの?

そんな会社に50万ドルぽっちの報酬で最高経営者として再建に向けて全力投球して、何かいいこと、あるのか?

ないよな。

コンサルティングの会社にでも再就職して、積み上げた経験と人脈と知識を切り売りしたほうが、よっぽどマシ。

もともと業界には50万ドル以上の「基本給」もらってる従業員がそんなにいないんだから各社の人件費削減にさほど寄与するわけでもない。

その一方で、どんなに働いても上は知れてるというメッセージが従業員のヤル気だけは思いっきり削いでくれるわけだから、オバマ案が何を意味するかといえば「米国の金融街からの才能の流出」である。

つまり、オバマ案というのは、芸能界やスポーツ界とある意味酷似した「タレント・ビジネス」としてのウォール街の性格を完全に無視して、「憂国の士よ、この指とまれ!」と声かけるという、ナイーブでヒロイックな案だ。

競争原理を奨励しながら、強いプレイヤーには英雄物語の脇役(主役は勿論、オバマ)で我慢しろ、という。

ヤル気失ったバンカー達は、米国のトップ企業を離れて、他国の会社に散らばるよ。金融市場はグローバルだもん、米系の会社にしがみつかなくちゃいけない理由なんて、どこにもない。

あるいは、彼らは大手会社を離れて、自分達の専門知識を生かして金融ブティークを自ら立ち上げるかもしれない。(90年代初頭の米金融危機後にブティークがたくさん立ち上がったように。)

そうやってプレーヤーを失った米国の大手インベストメントバンク達は、「延命させて競争力を回復させる」という当初のオバマ案の思惑とは裏腹に、営業基盤が弱体化して、競争力を失ってゆくことでしょう。

競争の世界において、強い選手が不在のチームが勝てるわけないんだから。

公的援助を受けたばかりに、営業基盤(フランチャイズ)は守られるどころか弱体化するのであれば、一体何のための延命か。

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上に添付したNYタイムズの記事の見出しにあるように、オバマは企業カルチャーを変えようとしている、という。

エグゼクティブ報酬にキャップをつける案について、オバマはこんなこと言った。

"You've got responsibilities not to live high on the hog."
(公的支援を受けてる身なら、贅沢はしないよう心がけるべきだ。)

でも、オバマも含めて世間一般に考えられてる「金融界のカルチャー」って、現実とはちょっと違うイメージなんじゃないか、という気もする。

それは、ヤクザの世界に足を踏み入れたことのない一般市民が、映画『極道の妻たち』を観て、あの世界の女はみんな岩下志麻やかたせ梨乃みたいと思い込んでる、みたいな。

(でも、ほんとうに、みな岩下志麻さんみたいなんでしょうか? わたしもヤクザの世界は踏み込んだことないので、誰か教えて。)

昨日、ちょっと話題になったのが、ニューヨークの出版社Doubledown Mediaが閉社に追い込まれた。

この出版社が手がけていた雑誌『Trader Monthly』も廃刊になった。

この『Trader Monthly』ですけど、20代の経験の浅い若いトレーダーをターゲット読者層とした月刊誌で、特集記事のタイトルが臭いったらない。

「今年最も稼いだトレーダーランキング」だの、「ラスベガスだぜ、ベイビー」だの、そんな記事ばっかで、表紙も、安っぽいキンパツのネーちゃんはべらせたツラ構えの悪い若い男、という、すっごく下品な作り。

(なぜ、表紙で男に寄り添ってるネーちゃんが、どいつもこいつも頭悪そうなのかは、また別の機会にでも考察したい。)

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相場が上向いてくれたおかげで稼ぎも増えて、なんだか自分が世界の中心のMasters of the Universeであるかのような気持ちになって、成金趣味に浸ってたチンピラトレーダーを相手に発行してたみたいだが、チンピラ消えたら、雑誌も消えたか。

トレーダーのこういうイメージって、わたし的にはリアリティないし、ほとんどOBSCENE(卑猥な)感じすらするんですけれど。

オバマがインタビューで発した言葉「live high on the hog」というフレーズには、湯水のようにカネを使う、というニュアンスがあって、彼の頭の中には、ウォール街というと、どうもこの雑誌に代表される下賎なイメージが染み付いているのではなかろうか、と感じた。

少なくとも筆者の周囲にはこの雑誌を定期購読してましたと公言するようなバカはひとりもいないし、「ラスベガスだぜ、ベイビー」のイメージと重なるトレーダーも、わたしは知らない。

筆者が20数年の業界生活で知り合った人たちには、むしろ子煩悩なパパとかママのほうが圧倒的に多い。

知り合いの元リーマンブラザーズのエグゼクティブは、日曜日がちょうど娘の誕生日で、娘の幼稚園のお友達とおそろいの小さい王冠をかぶってハッピーバースデーを歌ってる最中に電話がきて、自分の会社が潰れたニュースを聞かされた、と言っていた。

想像するとかなりマヌケな図ではあるが、こういう人が大半である。

「ラスベガスだぜ、ベイビー」もいるかも知れないが少数派。そういうチンピラと一緒にされたらたまらないし、されたくない。

あっ、でも、業界内でもその引き際に眉ひそめた人が多かったメリルリンチの元会長兼CEOスタンレー・オニールには、「ゴールデンパラシュートが有効なうちに161ミリオンダラーズ相当の手切れ金もらって解雇されてよかったですね」とメッセージを送り、『Trader Monthly』の在庫をすべて引き取ってもらうのも、いいかもしれない。

Tuesday, February 3, 2009

保有株買取りのデジャヴ

今朝、日経ネットで、日銀が銀行から保有株式買取りを正式に決定、という記事を読んだ。

去年の秋頃だったか、政治サイドが日銀に対して「銀行から保有株を買い取れ」と圧力かけてるというのをどこかで読んだ記憶があるから、内容自体は別に新しい話でもないけれど。 

4年ぶりの買取りプログラム再開だそうであるが、前回日銀が銀行から株を買い始めたのは、2002年11月。日本の金融危機が深みにはまり金融株はメタメタ、株式市場全体のコンフィデンスが完全欠落してたころである。

株価インデックスをみてみたら、2002年11月のTOPIX(月初)は865ポイントだった。で、去年の暮れが870ポイント。おぉ、日本の株価は前回の金融危機のレベルまで落ちているのね。

そして、ここにきて、再び日銀の株買取りが始まるなんて、まさに「デジャヴ」でありますね。

この日経ネットの記事によると、日経平均が8000円を割り込み、大手8行だけで1兆8千億円超の保有株式含み損が発生している、とのこと。

2年ぐらい前に大手銀行に話を聞いたとき、たしか、どこの銀行も「保有株の売却を積極的に進めた結果、日経平均が8000円ぐらいまで落ちても、なんとかなる」みたいなことを胸張って言ってたような気がするんだけど、実際には、こんなに含み損が出ちゃってるのね。

日本の銀行というのは、今も昔も、預金はタンマリあるんだが、それを貸し出す先がなかなか見つからず、慢性的に預金超過の状態にある。

余ってる預金の行き先として、株式だの債券だのと有価証券を買うしかない、というのが現状。

さらには大昔からずーっと引きずってきてる「メインバンクと企業の株式持合い」という構図もなかなか解消できなくて、2000年初頭の金融危機で日経平均がズルズル落ち込んだときも、そうやって持ち合ってる株式の価値が下がり、大騒ぎだった。

当時の日本の株式市場において、金融機関と企業が持ち合い目的で保有していた株式の総額はハンパじゃなく大きかったから、「マーケット(市場)リスク高すぎるんで、持ち合い解消進めて、株どんどん売りましょか~」なんてことになったら、市場全体の売り圧力が加速して、日経平均をもっと下げかねないという懸念も生じてた。

しかも、当時の日本の銀行群は、不良債権が膨張しすぎて自己資本を毀損、すでに実質的には債務超過に近い状態にいたのに、そこにさらに株安の追い討ちがかかったもんだから、【酸欠の金魚】みたいに水面に口だけ出してパクパクしていた。

このまま放置してたら、明日にも、日本の金融界という“水槽”にはひっくり返ってお腹を浮かせた金魚だらけになる!と危機感が募り、2002年の初頭から銀行等保有株式取得機構、預金保険機構、そして日銀、と3つの政府系機関が手をつなぎ、銀行のバランスシートから株式を買取った。

で、聞くところ、2009年の今回もやっぱり、日銀だけじゃなくて、政府機関も一緒になって株式を銀行から買い上げる方向で動いているというではないか。

やっぱり「デジャヴ」!

当時、買取られた株式の価値は全体で5兆円を超えたと記憶しているが、ともかく、それくらいやらないと、金融機関の自己資本が名目でも枯渇しちゃいかねないくらいヤバイ状態であった。

銀行も含め、企業の自己資本ってのは、(実質はどうであれ)名目でゼロになったら、事業継続はできませんので。

4年ぶりに保有株買取り再開する件につき、日銀のサイトには、2月3日付でプレスリリースが出ており、そこにこんなことが書かれていた。

「・・・とくに株価の影響についてみると、わが国金融機関の株式保有額は2000年代初頭に比べ減少をみましたが、現在発表されつつある今年度第3四半期決算では多額の減損や評価損が計上されるなど、わが国金融機関にとって、株式保有リスクへの対応が引き続き極めて重要な経営課題となっています。・・・」


ふ~ん・・・株式保有額は減ったのか・・・。

で、実際どれくらい減ったんだろうと気になり、日銀統計で銀行が保有する株式の簿価を調べてみた。

2000年9月(2000年度上半期)、2002年11月(日銀が実際に買取りを始めた月)、そして、2008年12月(データ採取できる最も直近データ)の3つのデータポイントを、大手銀行、地方銀行、第2地方銀行と種類別で分けてみてみた。

日銀データによると、日本の銀行がバランスシートに抱えてる株式は以下のとおり。(単位:十億円)

(a)00年9月/ (b)02年11月/ (c)08年12月/(a)ベースの減少率/同(b)ベース
*銀行業界全体=(a)45,996 / (b)32,002 / (c)20,210/-56%/-37%
*大手銀行だけ=(a)28,019 / (b)22,043 / (c)11,915 /-57%/-46%
*地方銀行だけ=(a)6,748 / (b)4,079 / (c)4,215 /-38%/+3%
*第2地銀だけ=(a)1,229 / (b)1,003 / (c)945 /-23%/-6%

たしかに2000年度上期からみたら、日銀が言うとおり、全体的に額は減ってはいますけどさ・・・。

日銀が実際に買取りを始めた2002年11月をベースに減少率を計算したら、目だって減ったのは大手銀行だけ、というトホホな点は、注目したいな。

都銀が2002年11月の水準からさらに4割近くも株式エクスポージャを減らした一方で、地方銀行になると、保有株の簿価は逆に3%以上増えてるし、第2地銀も6%しか減ってない。

株価インデックスでみると株価水準は、前回日銀が買取りしたときと、さほど違いはない。つまり保有株の内訳がマーケットポートフォリオに近ければ、ベータのインパクトはかなりニュートラルってことだ。

でも、中小企業株を多く持つ小規模金融機関の場合、ベータは一般に高めだと想定されないのであろうか。

保有額を実際に大幅減少させた大手行ですら、現在含み損がそこまで大きく出ているとなると、中小株比率が大きい(と想像される)ポートの場合、内在リスク量(ボラティリティ)が如何ほどか、考えるのも怖いが。

小さい銀行さんになると、日銀が買ってあげましょうと言ってる「投資適格以上(優良企業)」の株式が株式ポート全体の割合として少ないし、ここまで株相場が崩れてしまったら、日銀に市場リスクを移転しようにも、現実問題として難しいのでは・・・?という気もする。

2002年から03年にかけて日本を覆っていた金融危機。あのとき、当事者だった銀行も、規制当局も、政府関係者も、株式保有のリスクが銀行にとってどれほど大きな市場リスクになるか、よーく学習したと筆者は思っていた。

だが、実際には、関係者一同、全然学んでいなかったってことかな。

今回の措置で、日銀は、Tier 1キャピタルの50%以上の株式を保有している銀行を対象とするそうだけど、Tier 1の50%も株を保有していること自体、2002年から今まで、邦銀の経営者も監督当局も、いったい何をやってたのであろうか。

昨日付け日銀のリリースの「わが国金融機関にとって、株式保有リスクへの対応が引き続き極めて重要な経営課題となっています。」という文章、確か、2002年にも、これとまったく同じ文章を日銀の書類で読んだような気がするんだが・・・。

そういえば、2005年ごろ、某地方銀行の役員さんと東京で飲み会があったんだが、その役員さんが「市場も戻ってきてることだし、銀行の収益性を高めるために高リターンの株投資をもっと積極的にしてもいいのでは、と金融庁の検査官に勧められた」と言ってたことを、いま急に思い出した。

裏を取れるわけでもないから真偽のほどはわからないが、もしその話が本当だとしたら、その金融庁の担当官も、実に呆れたもんである。

これは日本に限ったことじゃないけど、今回のグローバルの金融危機は、ウォール街のGREED(強欲)が火種になったことは確かだが、世界中の金融機関規制監督当局(特にバーゼル)が【ポンポコリン】だったのが危機勃発に寄与した事実は、忘れちゃならない。