Wednesday, July 29, 2009

米住宅市場について、ブツクサ雑感

今回は、まずは、お詫びから。昨日、何も書いてない白紙のエントリーを手が滑ってアップしてしまいました。RSSで購読くださっている皆様には、タイトルも本文もないMurray Hill Journalが配信されたかと思います。お詫び申し上げます・・・。

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前回は、カリフォルニア州の公的年金CalPERSが【高リスク/高リターン】投資で出た損失を、同じく【高リスク/高リターン】投資で回復しようとしているという話を書いた。

同じく公的年金について、昨日のボストン・グローブ紙は、マサチューセッツ州の公的年金も、ヘッジファンドを積極的に雇うなどして、(CalPERSのように)【高リスク資産】への相対的なアロケーションが高かったことがアダとなり、23.6%ダウンしたというニュース(Mass. Pension Fund Posts Big Losses)を伝えていた。

マサチューセッツ州は、公的年金ファンドの中ではこれまで常にベストパフォーマーに入っているような優良ファンドだったが、今年(会計年度6月末)は全米でワーストのひとつに加わった。

このニュースを紹介していた『Pension Pulse』というブログの著者は、ヘッジファンド業界が今年の第2四半期に入ってから、かなりの好成績を挙げており、流入する投資資金も増加していることに触れ、次のように書いている。

The real good news for hedge funds is that the markets keep grinding higher. Most hedge funds charge alpha fees for leveraged beta. Sure, they package it nicely, slap on some "risk management" and peddle it through a network of slick salespeople, but at the end of the day, it's "disguised beta".

(今年Q2について)ヘッジファンドにとってグッドニュースだったのは、市場がジリジリと上がり続けたことだ。多くのヘッジファンドが「アルファ・フィー」と称して、ファンドの成績が市場を上回った場合に手数料を徴収するが、それは、レバレッジをかけたベータに対するフィーだ。見た目をよくして、「リスク管理」を謳い、ぬかりのないセールスマンのネットワークを駆使して売り込むが、とどのつまりは、(ヘッジファンドというのは)「変装したベータ」であるに過ぎない。


うむ、なるほど、筆者も同感であるな。ベータが高ければ、相場が良い方向に動いている間はアウトパフォームし、逆の場合はアンダーパフォームする、それだけのことである。

この際だから、ヘッジファンド業界は、手数料を「Alpha Fee」と呼ぶのを今後止めて、「Beta Fee」に名称変更したらどうでしょうか。

ブログ『Pension Pulse』上には、連邦政府(Federal Government)職員の公的年金も昨年度は22%ダウンだった、というニュースも書いてあった。これって、大統領も、その補佐官達も、CIAやFBIの職員も、みな入ってるんですよね?CIA職員の給料は民間より安いので、年金含む福利厚生が命だという話は、以前MHJ記事で紹介したことがありますが、「命の年金」がアクティブ運用のツケでゴソッと減ったら困りますね。

(ちなみに、アルファ重視でアクティブ運用したりせず、ちまちまインデックス運用だけやってたら、20%ダウンだったそうだ。)


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さて、今日の本題、というか、雑感に入る。

一昨日の月曜日(27日)の朝、米商務省が発表した新築住宅(一戸建て)販売統計のリリースによると、09年6月には年換算で384000件が販売され、前年6月より20%以上低い数値だが、5月の346,000件と比べると11%上回ったそう。

ここだけ読むと、明るいな。

月次ベースだと、6月だけで全米で36000件の新築一戸建てが売れた!

しかし、6月のフォークロージャの告知件数は、カリフォルニア州だけ45,691件あったんですと・・・。

下のグラフは『EconomPicData』というサイトから。(左がカリフォルニア州のみのフォークロージャ告知、右が全米の新築住宅販売)



フォークロージャの嵐、とまらず・・・。


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そして、昨日はもうひとつ、住宅市場の話題。

ケースシラー指標が3年ぶりに上昇したというニュース。これで米住宅市場は底入れか!」とウキウキ騒いでるひと、ちまたに多し。




下はロイターの記事から。


5月ケース・シラー米住宅価格指数は約3年ぶりに上昇、前年比は低下が減速
2009年 07月 28日 23:33 JST 記事を印刷する | ブックマーク [-] 文字サイズ [+]
 [ニューヨーク 28日 ロイター] スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)/ケース・シラーが発表した5月の住宅価格指数は前月から上昇した。上昇は約3年ぶりで、価格安定化の可能性を示した。

 主要20都市圏の価格指数は前月比0.5%上昇した。4月は0.6%の低下だった。ロイターがまとめたエコノミスト予想は0.5%の低下となっていた。

 前年比では17.1%低下したが、低下幅は4カ月連続で縮小した。2007年10月から09年1月までの16カ月間は連続で、前年比で過去最大の落ち込みとなっていた。

 主要10都市圏の価格指数は前月比0.4%上昇、4月は0.7%低下。前年比では16.8%低下した。

 20都市圏中17地域で前年比の数字が改善した。

 S&Pの指数を算出する委員会のデビッド・ブリッツァー委員長は声明で「大局的に見れば、住宅価格が幅広く上昇したのは2年10カ月ぶりだ」と指摘。
「住宅価格の下落がようやく落ち着きつつある兆候の可能性がある」と述べた。


相場のチアリーダーCNBC局は、例によってキャスター総出で、「ほんのちょっと明るいニュース」を、「ものすごく明るいニュース」にしようと力(りき)んでいたが、先週までイケイケだったナスダック・ハイテク株の決算数値がいまひとつ冴えず、コモディティも足引っ張って、住宅関連の「明るい」ニュースは相場を持ち上げるには力不足だった。今週前半は先週のギャンギャンから全体的にモメンタムを失った雰囲気がただよう。

チアリーダーと言えば、NY連銀のトップ、ビル・ダドリーも、「景気回復は住宅価格の上昇と自動車販売の増加によってもたらされる」と講演したりして、チアリーダーやってるようだ。そりゃー、NY連銀のオフィシャルたるもの、ベージュブックのトーンに忠実に。

それにしても、みなさん、住宅市場に対し、ずいぶんと強気ですこと。

しかしですよ、以前も書いたような気がするが、住宅のような高い買い物をキャッシュで即金で買えるひとなど少ないし、ローンを組むにも、多くが職を失ったり、消費意欲が下がったり、貯蓄率が上がったりしている最中に、高額のローンを組もうというインセンティブがあるとも思えんし、空室率だって賃貸は過去最高、一軒家の空き家も一時より回復しているといってもまだまだ歴史的に高いレベルにいる

それでも、住宅購入へのデマンドだけは増えて、価格が底入れ(=ここから徐々に上がってゆく)する、なんてことが、実際ある得るんでしょうか・・・。

ここが本当に【底】だというのなら、筆者も、できることなら、NYにいい物件があれば買いたいところだが、なにせいま所有している自宅が売れなければ、そんなキャッシュ、ないですからね。

(余談だが、ニューヨークの不動産に直接関わる友人から聞いた話だが、マンハッタンでは最近、賃貸料が急速に激しく下がってきており、地域によっては10年前と同じレベルまで下がってきた物件もあるという。人気のあるエリアのドアマン付き新築ビルの上層階で1BR(600sf程度)月額レンタル2700ドル、とか。数年前なら月のレンタル2000ドル代というのは、マンハッタンでは、ワンルーム/ステューディオ以外、考えられなかった。レンタルの下げにつられる形で、コンドやCO-OPなどの販売価格も、下落のピッチをここ最近速めてきている、という。税考慮後のRent Equivalence(=税控除できる持ち家の住宅ローン金利分等を調整して賃貸と同ベースにひき直して比較した月額アウトフローのこと)のでみたときに購入する魅力は薄れますからね。)


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ところで、スタンダード&プアーズといえば、ケースシラーを扱ってる部署とは違う部門だけれど、同社のMBSの格付けをするグループが、サブプライムモルゲージおよびプライムのジャンボローンの【損失見込み(Loss Projection)】の数字を、つい最近引き上げていましたね。

<注:豆予備知識> MBS = Mortgage Backed Securities = 不動産担保融資の債権を裏づけとして発行された証券のことで、一般にモルゲージ債と呼ばれる証券化商品のこと。裏づけになる資産が住宅融資だった場合は、RMBS(=Residential Mortgage Backed Securities)、商業用不動産融資だった場合はCMBS(Commercial Mortgage Backed Securities)と呼ばれ、区別される。また、2005年ヴィンテージ(Vintage)と言った場合は、そのMBSが組成された年が2005年だった、という意味。

サブプライムローンが原資産の場合、2006および2007ヴィンテージ予想損失率はそれぞれ32%と40%に引き上げ、だそうである。(←2007年に組成されたサブプライムのRMBSは原資産プールの残高に対し40%の価値が回収不能になる、という意味)ちなみに、今年2月にも同社は同率を引き上げていて、あのときは、25%と31%であった。半年経たないうちに、かなり大幅な修正で、RMBS市場の悪化を見込んでいる(=もっともっと格下げ来るぞ、という意味)そうだ。

また、サブプライムのみならず、プライムのほうも、S&Pによるプライム・ジャンボ・ローンの損失見込みとしては、2006と2007のヴィンテージそれぞれ、5.08%(2月時点では3.65%の見込みだった)、6.97%(同4.5%)で悪化。

S&Pのエコノミストは、底入れまでに米住宅価格はまだ下がるという見方をしている。ケース・シラー指標担当者の「底入れかも」という強気な見方と、RMBSのアナリストやマクロ担当のエコノミストの見方とでは、担当として見ているものが違うとはいえ、同じ会社のロゴつけていながら、えらく対照的である。


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ブログ『Calculated Risk』で、こんなWSJの記事が紹介されてた。

Study Finds Underwater Borrowers Drowned Themselves With Refinancings (WSJ, 7/28/09)

カリフォルニア州立大学の研究者らが、2006年から2008年までの南カリフォルニア地域でのフォークロージャー4000件を対象に調査したところ、半分以上が一度は借り換えを実際にやっており、5件のうち4件は、持ち家を第二抵当に入れていた、という。

カリフォルニア州の2006~2008年のフォークロージャはサブプライムがらみが多いと思いこんでいた筆者だが、この調査によると、実際は必ずしもサブプライム融資を受けていたとは限らず、調査対象となったフォークロージャ物件の購入時期の平均は2002年、多くのケースが(バブル前の)1990年代に購入した家だった、というのである。

また最初にローンを借りるときは、LTV(=Loan-to-Value 鑑定価値に対する融資額の割合)は80%台であった。

だが、注目すべきポイントは、(フォークロージャに至った借り手のうち)ほぼ全員が、家を担保にエクイティを現金化するホームエクイティローンを借りており、調査分だけで、引き出したキャッシュは3億ドルに相当した、という。

その後住宅価格が下落して、LTVは150%近くまで膨れ上がった。つまり、現在起こっているフォークロージャの嵐は必ずしも価格下落とサブプライム融資が問題だったわけではなく、「借金漬け」という体質が招いた結果である、とこの調査資料は結論付ける。

ホームエクイティローンが米国で広汎に用いられ、かのオバマ大統領ですら、イリノイ州の議員時代に自宅を抵当に入れて現金を数度引き出し借金漬けであったことは、ここMurray Hill Journalの5月21日付けの記事でも紹介したことがある。(09年5月21日付けMHJ記事 『オバマ一家を救ったジャックと豆の木』参照。)

オバマ家はラッキーにも印税という予想外の収入が舞い込んで、ミシェルも大幅昇給、その後、大黒柱である夫が「大統領」という「不況下でも4年間保障付き」の【仕事】も見つけてきたのでよかったが、そうじゃなければオバマ家の台所にも火がついていたかもしれない。

仮に、住宅価格がここで底入れしたとしても、問題の本質が、単なる「価格の問題」ではなく、もっと根の深いものならば、米国の消費動向の見込みは厳しい状況が続くのではなかろうか、と感じる。上述したNY連銀のダドリーの言「住宅市場の活動と自動車販売が景気回復を牽引する」という見方は、筆者には、ものすごく楽観的で単純化された話のような気がする。



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Monday, July 27, 2009

CalPERS、いつの間にやら「べそっかき小僧」

前々から何度かMHJ記事にも書いてきた、カリフォルニア州財政問題。先週、ついに予算案が議会を通過したそうですね。下は読売新聞より。

加州の経済危機ひとまず回避、改革法案可決
7月25日21時2分配信

【ロサンゼルス支局】深刻な財政難に陥っている米カリフォルニア州の州議会は24日、巨額赤字の解消に向け、総額約240億ドル(約2兆3000億円)の財政改革法案を可決した。

法案は、教育や医療、刑務所管理の費用などを約150億ドル(1兆4000億円)削減することを柱としている。法案可決で、不況による税収悪化で財政赤字が約260億ドル(約2兆5000億円)まで拡大していた同州は、
財政破たんの危機をひとまず回避した

ただ、税収回復の見通しは立っておらず、近い将来再び財政難に陥る恐れもある。また、弱者切り捨ての歳出カットには、強い反対が上がっている。

同州のシュワルツェネッガー知事は、記者団に、「我々はまだ危機のさなかにある」と強調した。


ここで強調すべきは「ひとまず回避した」の「ひとまず」でしょうか。ひとまずI.O.U.はこれ以上発行しなくて済むようになりました。

社会的弱者にシワ寄せが行くという「削減」の部分にスポットライトをあてるニュースが多いけれど、聞くところ、それ以外にも、いろんな【苦肉の策】が盛り込まれて、ツジツマつけてるそうじゃないですか。

たとえば、歳入策のひとつとして、州の労働者保険(Worker's Comp)を手がける組織の一部を「State Compensation Insurance Fund」として売りに出し、その売り出しから$1ビリオン(10億ドル)のファンドレイジングする予定、というのがあるんだが、LAタイムズによると、方々から反対が出てるらしくて、すでにその案は頓挫しそうで、たとえうまくいっても今年中に$1ビリオンのファンドレイジングができるかは大いに怪しい、という。(予定どおり売り出しできなかったら、$1ビリオンは、どうする・・・。)

さらに、$1.7ビリオンを州内の地公体から借金させてもらうそうだが、これは来年度の歳入からお返ししなくちゃいけないし・・・。

そして、もっと悲しいのは、来年6月末日に払うことになってる公務員給料($1.2ビリオン)を翌日の7月1日に一日延ばすことで、今年度の予算から外した、ってんだから。7月1日は新会計年度の初日ですんで、$1.2ビリオンは来年度予算でよろしく、ってことで。

・・・くっ、くるしい・・・・。

来年度の税収増えなかったら、先延ばし分、どうするんだ?

カリフォルニア州在住のみなさん、荒波は続きそうですが、がんばってください。(←例によって、空しいエール。)

しかし、カリフォルニア州の行方に全世界が注目してるうちにも、他の州や市レベルの財政難は全米で拡大しつづけている様子。

これも聞くところ、ペンシルバニア州フィラデルフィアがどうやらヤバイらしい。カリフォルニア州政府とまったく同じ、予算案をめぐり市議会が対立・凍結、キャッシュフローがまわらなくなって業者向け支払いがストップされている、という。

また、米自動車産業のお膝元ミシガン州デトロイトでは、5月に売れた一軒家のセールス価格のメディアンが6000ドルだった、と聞いた。6万ドル、じゃないですよ。6千ドル、だよ。キッチンなど家の改装費にかけるお金の全米平均が6万ドルだってのに、家そのものが、6千ドル。

デトロイト市では住宅不動産のセールスの相当部分がフォークロージャ物件だそうで、いまだにフォークロージャが止まらず、たとえ買い手が現れても価格はどんどん下がっているという。デトロイト市の予算で「固定資産税」というくくりの収入、どれくらい見込まれてるんであろうか・・・。

全米の地方政府、大丈夫か・・・。


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さて、本日のタイトル、CalPERS である。

CalPERS = California Public Employees Retirement System (カリフォルニア州職員退職年金基金)

そう、公的年金としては全米最大、投資資産1800億ドル(09年6月末現在)。【物言う株主】【アクティビスト】のお手本とされ、つい最近も、バンカメのCEOケン・ルイスを引きずり下ろせとアピールして話題になった、あの泣く子も黙る、CalPERSである。

24日付けのニューヨークタイムズに、CalPERSの新CIOと今後の投資戦略についての記事が掲載された。

California Pension Fund Hopes Riskier Bets Will Restore Its Health (7/24/09, NYT)

この記事によると、CalPERSは昨年だけで600億ドル目減り、投資リターンも、09年に入ってから、-23.4%にダウン。(下のグラフはNYタイムズより)




このグラフを見ると、最近まで、長期にわたりかなりの好成績を挙げ続けていたことに驚かされるが、CalPERSが公的年金でありながら【高リスク/高リターン】のヘッジファンド的投資スタイルだったことを考えれば納得もいく。

このNYタイムズの記事によると、同社の不動産ポートフォリオは35%の下落、プライベート・エクイティのポートフォリオも31%の下落、しかも昨年は、CalPERSとパートナーシップを組んでいたプライベート・エクイティや不動産投資会社にキャッシュを捻出する目的で株価下落の最中に株式を売却し、損失確定しちゃったという。

今年に入ってからCalPERSはJohn Dear氏を新しいCIOとして迎えたのだが、この新CIOの戦略としては、やはり、プライベートエクイティや不動産などの高リスク投資に資産を多めにアロケートし続ける、そういうスタンスなんだそうである。

グラフでも示されているように、同社の過去20年のリターンは7.75%、過去10年は最近の株市場暴落と高リスク投資の失敗がたたり2.41%。新CIOは、同ファンドの投資リターン目標を7.75%に据え、引き続き【高リスク/高リターン】のスタンスを崩さずに、大幅に失われた価値の回復を目指すそうです。

実際、今日のフィナンシャル・タイムズにも、CalPERSが4年前に売却したショッピングセンター86物件を買い戻すという記事が出てましたね。(前回のMHJ記事で触れたように、UPSが先週「小売業に明るさは全然見えない」と言ってたんだけどね・・・)

Calpers agrees to buy back 86 US shopping centres (FT、7/27/09)

(FT記事から引用)

・・・Mr Dear said in spite of the market downturn and the impact on asset values, he remained convinced that assets such as real estate, private equity and infrastructure assets would deliver higher returns to pension funds than public equities over the long term.

市場下落と資産価値へのインパクトは大きかったが、不動産、プライベート・エクイティ、インフラ資産などの投資資産は長期的に公開株式への投資よりも高いリターンをもたらすと、ディア氏は引き続き確信している。


勇敢だな、CalPERS。

現段階で、これら高リスクの分野に長期投資で入るというのは、並みのリスクテーキングじゃありませんよ。いちかばちかの大勝負だな。しかも、この組織、ファンドの規模がハンパじゃないんだもん。

でも、彼ら、仮にも公的年金でしょ。

CalPERSのパフォーマンスを米国債と比較すると、10年米国債の過去10年のリターンが4.25%、その前の10年が6.5%だそうなので、米国債を20年ひたすらジーと持ってたら、リターンはCalPERSの7.75%と良い勝負だったかもしれない、という見方もある。

州職員の給料を会計年度の末日から新会計年度の初日に一日ずらしてもらうという姑息な方法で、なんとか今年度予算としての「見てくれ」を「ひとまず」整えたというのに、その州職員の皆様(含シュワちゃん)が給料から長年コツコツ貯めてる年金の運用を、プライベートエクイティだの、不動産ファンドだので回して高リターン狙うって、それってどうよ。

(わたしには、ちょっぴり、ギャンブルなかおりがするんですけれど・・・)


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投資のプロなんだから、【高リスク/高リターン】で勝負したいなら、するがよい。

でも、前々回のMHJ記事でも書きましたが、高リスク投資には、高リターンを得られる可能性と同じだけ、高損失が出る可能性もある、ってことを片時もお忘れなく。投資は自己責任で。

今月のなかば、CalPERSは、多額の「仕組み債(Structured Bond)」投資から発生した損失の責任取れといって、格付け会社3社を相手取り訴訟を起こした。

Calpers sues rating agencies over losses (Reuters, 7/15/09)

CalPERSの訴えによると、同社は【SIV】という種類の仕組み債に投資したが、そこから10億ドル以上の投資損失が発生した。これだけの損失が発生した直接の原因は、格付け会社によるレーティングが「極端に不正確だった(wildly inaccurate)」せいだと怒りをぶちまけ、法廷で戦う覚悟だそうである。


(注)【SIV】という言葉を聴きなれない方のために少々説明すると、SIV=Structured Investment Vehicles というのは、資金のほとんどを短期・超短期のコマーシャルペーパー(CP)市場で調達して極端なレバレッジをかけ、それを、CDOやCLOその他債券のトリプルA部分に投資し鞘を抜く投資手法。米国のCP市場が正常に回っている間は極めて安価で資金調達することが可能だったが、CP市場が2007年あたりから異常な動きを見せるようになり、調達側(バランスシートの負債側)が不安定になる一方で、投資側(B/Sの資産側)のバリューは信用不安で急落するという格好になり、CP市場の閉塞と並行する形で、SIV市場は瞬く間に瓦解した。SIV市場で最も活発だったのはシティグループで、シティの仕組み債関連の損失は、このSIVから多額発生した。


CalPERSがカリフォルニア地裁に提出した訴状の実物は、こちら

このドキュメントの4ページ目に、「IV.事実背景」という部分があって、そこに、こう書いてある。

Other than the Rating Agencies' evaluation and subsequent credit rating of a SIV, an investor had no access to any information on which to base a judgement of a SIV's creditworthiness.

格付け会社によるSIVの評価と格付け以外には、投資家はSIVの信用度を判断するに必要な情報には
まったくアクセスできなかった


ほぉ、なるほど、「自分達が何に投資してるのか全然わかってなかったんだけど、格付け信じて買っちゃった」ってことですね。

でも、「それでも買う」って決めたのは、自分たちなんでしょ?

しかも、カリフォルニア州の不動産の上がり方、ちょっと異常なんじゃないのかと、誰もが口に出していた2006年に、集中的にサブプライム関連のSIVに投資してた、というじゃありませんか。

SIVってのは、すごっくレバレッジ効かせて、流動性の低い長期資産を、超短期の資金で回す、そういうビークルですよ。

筆者から言わせてもらうと、詳細な情報へのアクセスがどうした以前に、長短のミスマッチがここまで極端な投資方法って、そのストラクチャーを聞いただけで、プロならすぐにリスク感じるでしょ?いちおう警戒しませんか?格付け高いから大丈夫だと思って何千億円も投資した、その責任取れ、ってさぁ・・・。

別に格付け会社をかばう気はありませんが、そんな言い分、うちのお母さんが証券会社のセールスマンに薦められるまま投資して、失敗して泣きべそかいてるのと大差ないじゃん。

投資界の雄CalPERS、いつの間にか「べそっかき小僧」か。


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米議会は、AIGやウォール街関係者やバーナンキを血祭りに挙げたように、次は格付け会社各社を呼び出して同じように公聴会で責めまくる準備を着々と進めている。

このCalPERSの訴訟の件は、きっと、公聴会でも議員から質問が出されて話題になるな。

議会のことだから、CDSのときのように、信用格付けに関しても、またまたミョウチクリンでズレた質問が次から次へと飛び出すこと、間違いなし。

AIGの一件では「CDS」に関して議員連中によるヘンテコな質問の嵐だったけど、次回は「CDO」「CLO」「SIV」の番かもな・・・。さ~、またまたアルファベット3文字の登場ですよ~、みなさん!(笑)

ところで、以下はどうでも良い話だが、おもしろいから書いておく。

上にくっつけたCalPERSがカリフォルニア地裁に提出した実際の訴状の14ページ目、項目番号74番で、格付けスタッフをちゃんと訓練してなかったのも悪い、と言うくだりがある。その「証拠」として、当時の格付け会社のスタッフによるEメールが紹介されてて、

“WARR - don't ask [絵文字ニコちゃんマーク]”(Weighted Average Recovery Rate=加重平均リカバリー率が何のことかなんて、聞かないでネ!)

と書いてあった、というんである。

格付会社の担当スタッフが、こういう(不真面目な)やり取りをしているのは、格付けにあたるスタッフがSIVの仕組みをちゃんと理解しておらず、対象債券をモニターするのに必要なスタッフを確保していなかった格付け会社の怠慢であるとわめいてるんである。(しかも、さすが法的文書なだけあって、「このコンピューターによるスマイルの顔はオリジナル文書にあるとおりです。」とわざわざ但し書きあり。爆)

実際のページはここ(↓)。拡大して笑ってください。



もし近く公聴会で、この【ニコちゃんマーク】付きのEメールについて議員から真面目に質問が出てきたら、筆者はきっとその場に倒れてそのまま動けなくなるであろう。

そして、【ニコちゃんマーク】がどうしたよりも、CalPERSに預けてる公的年金のほうを心配しろ、と言いたくなるであろう。

引退後の年金まで、I.O.U.でもらっても、みんな困るんだからな。




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Thursday, July 23, 2009

ギャンギャンな盛り上がりの陰で、UPSの顔は真っ暗

決算シーズン。パターンとしては、

「(引き続き悪いけど)予想してたほどひどくないみたいだと株価高騰。

一方で予想トントンなら、株価暴落。

今日のアマゾン・ドット・コム(AMZN)はすごかったな。

前の日にeBay(EBAY)が「EPSは29%下がったけど、予想よりマシだった」ってことでギャンギャン上がり、それならアマゾンも、ってことで一緒になってギャンギャン上がった。AMZN、今日一日でで$5.08(5.72%)上昇して$93.87に!

ところが、市場がひけてから実際のQ2決算数字が出てきて、それが「市場の予想とトントン」だったため、「期待裏切りやがって」ってことで、今度はゴーンと$7近く下がって、今日一日のギャンギャン分は帳消しに・・・。

しかし、何に「期待」してたのか。

ったく、この連日の「ギャンギャン」の雰囲気についてゆくだけで、筆者はヘトヘトである。

マイクロソフト(MSFT)も、日中は「期待してギャンギャン」したけど、その後に「実際の数字見たらガッカリ」の失望売りで、後場が引けてから叩き落ちてるようだ。

MSFT、ここ一、二週間のナスダックのギャンギャンに【冷や水ぶっかけた】格好である。明日もギャンギャンは続くだろうか・・・。


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今日のアマゾン株のギャンギャン振りをモニターで見ていたら、フェデラル・エクスプレス(Fedex)の配達トラックが玄関前に止まり、一昨日アマゾンで買った商品が届いた。

筆者はNYのマンハッタンに自宅があるが、北東部メイン州のド僻地に小さいセカンドハウスを持っていて、夏場は避暑もかねて田舎で過ごす。(いま、この記事も僻地で書いてます。)

ここの田舎がどれほど僻地かというと、まず徒歩では、いちばん近くの隣家に行くにも10分以上は歩かなくちゃいけない。一番近いゼネラルストアで車で片道20分、いちばん近い映画館(上映は日に一回、一本限り)は車で片道1時間、いわゆるアメリカの「モール」という大規模お買い物センターに行くには、いちばん近いモールまで車で片道2時間半ハイウェイでぶっ飛ばす必要有り、というぐらいの僻地である。アメリカは広いですからね。日本の知床級の僻地なら、履いて捨てるほどあるんである。

こんな僻地にいながら、買い物に関しては、正直あまり不都合は感じない。

というのも、必要なものはたいがいネットショッピングで間に合ってしまうからだ。

今すぐ必要なものは別としても、何か欲しいものがあれば、洋服だろうが、エレクトロニクスだろうが、洗剤だろうが、冷蔵庫だろうが、書籍やDVDであろうが、ドッグフードであろうが、インターネットで9割以上ことが済む。

ネットショッピングの便利さに気づいてしまうと、お店にわざわざ出かけていく気など起きない。若かったころとちがって、最近は買い物に出かけると疲れるだけ。毎回、愛想の悪い店員に腹立てて帰ってくる。

生鮮食料品だって、マンハッタンでは、Fresh Direct というネットの食料品同日宅配サービスがあり、小額の配達料で、玉ねぎ・ニンジンから肉、魚、アイスクリームまで、一般スーパーで買うようなものなら何でも自宅アパートまで運んでくれる。品揃えも結構豊富なので、これが多忙なニューヨーカーに大人気となった。マンハッタンの街中では、Fresh Directと書かれたトラックが至るところに停まってるし、ダンボール箱に詰められた食料品をアパートビルに運んでいる配達のオニイチャンたちもあちこちで見かける。マンハッタンなんて、5ブロックも歩けばどこにだってスーパーがあるんですぜ。それでも、ネットで食糧買い。我が家も、ビルの玄関出ると目の前がスーパーだが、このサービスを利用するようになってから、自分でスーパーに出かける頻度が減った。

いまや、ネットで買えないものはない。

マンハッタンの大都会にいようが、超僻地にいようが、同じものを、同じ値段で、好きな時間に買えて、配達日も同じ。配達の信頼度も高い。

わたしのようにお店に出かけるのが億劫な人間には、ネットショッピング時代の到来はPCや携帯電話の出現ぐらい画期的な出来事であったな。ありがたい。

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で、アマゾン、である。

筆者は、いまや、アマゾン無しでは生活できなくなっている。書籍だけじゃなくて、なんでもかんでも、アマゾンで買う。

つい先日は、小型のチェーンソーを買った。その前は飼い犬のオヤツを買い、その前は小型のノートブックPCを、その前は大型の液晶テレビをアマゾンで買った。食器もアマゾンで買ったし、マットレスも毛布もシーツも、インスタントラーメンも、庭に置くベンチまで、みーんなアマゾンで買った。

なぜアマゾンかというと、送料込みで比較して、値段が他所より安いことが多いからである。小売店の店頭で買うより確実に安い。うちは、何か買うときは、必ず、アマゾンに同じ商品が出ていないか確認して価格を比較してから買う。

さらにアマゾンのいいところは、売られている商品の多くが【送料無料】になっていて、手元に届くまで数日我慢すればいい。もっと迅速に配達してもらいたかったら、筆者のように年間70ドル程払ってプレミアム会員になると、2日目配達でも送料無料、翌日配達の速達便にしても、重量に関わらず送料5ドル程度である。

もちろん、送料は、あらかじめ商品の価格にうまくプライシングされているのであろうが、消費者の心理としては【送料無料】と聞くと、なんだか得した気にもなる。(笑)

たとえば、先日買った小型のノートブックPCだが、午後4時までに買ったので、送料数ドル払っただけで、翌日の昼までに届いた。車で片道3時間走らないとPC売ってる店が周囲にないというこのド田舎の片隅でですよ、買ってから24時間以内に、新品のPCが手元に届いたんである。価格もNYの小売店より10%近くも安かった。

筆者は、もう2度と、小売の電気店にわざわざ行ってPCを買うことはないであろう。

筆者のビヘイビアが特別なわけではなく、米国の消費者はどんどんネットショップへと流れていっている。

その証拠に、同社の09Q2の業績は、当期利益は今季限りの調整項目がいろいろ入って前年同期比で$158(Million)から$142(Million)に10%下がったが、トップラインの収益は14%増の$4.65(Billion)で、そこそこの業績だった。個人消費が落ち込む中でトップラインの利益は確保。Q2の特徴としては、ゲームソフトとゲーム関連機器のセールスが北米で弱まり、Q2の足を引っ張った模様。(ゲームソフトと機器、今年はダメみたいですね。関係ないが、SONYのブルーレイも、ウォルマートの後押し空しく、米国ではすでに死に掛けておるぞ・・・。)

(ちなみに、MHJ筆者は、断じて、アマゾンの回し者ではありません。)


   ★   ★   ★


アマゾンなどのネットショップの普及を支えているのが、Fedex(FDX) や UPS(UPS)などの「配達屋」である。

ショッパーが自分でお店に足を運ばなくなった分、彼らがこちらにモノを運んでくれる。

今日(23日)はテク関連の株が一日中ギャンギャンの騒ぎだったので無視されていたが、今朝は、その「配達屋」の大御所UPSの業績発表もあった。

このUPSの業績発表とCEOのコメントについて、今日のウォールストリートジャーナルが手短だけど重要なことを書いてたので、忘れないように自分のブログに記録しておく。

Meanwhile, in the Real Economy... (WSJ、7/23/09)

UPSの決算発表については、この記事

UPSのQ2当期利益は前年同期比で49%ダウン。トップラインの売り上げも17%ダウンした。米国内・国際部門ともにリテールセールスの落ち込みが目立ち、需要は引き続き脆弱。

Q3業績についても、市場コンセンサスEPSが59セントに対し、会社予想EPSは45~55セントと弱気。電話会議の席で、パッケージのボリューム(数量)がQ2に続いて5%近くの落ち込みを見込む、と同社のCFOは述べた。

(WSJ記事より)
"We don't see any convincing signs of firming," Kuehn said in an interview. But "it appears that things are flattening out."

「(経済が)底堅くなって来ているという兆候はまだ出ていない」が「悪化の度合いが勢いを失ってきたように見える。」とクーンCFOはインタビューで述べた。



UPSの業績を左右する2大ファクターは、(1)小売の売り上げと(2)工業生産なのだが、UPSが見る限りでは、どちらも極めてネガティブな状態にまだいると言う。

また、全米の学校は9月から新学年が始まるが、普段なら今頃から、新学期用(Back-to-School)需要がチラホラ出始めてもいい時期なのだが、今年は、その新学期シーズンに向けた配達が動き出している様子がみられない、という。

“Our trends so far in July show no material uptick in growth, We don’t have any confidence that either demand or activity is going to pick up substantially.”

「今のところ、わが社の7月中のトレンドは、成長を示唆するような上方への動きはまったく見えていない。我々は、需要についても経済活動についても、目に見えて改善するといったコンフィデンスは全く持ち合わせていない。」(CFOの発言)



UPSの今日の株価は、市場全体の「ギャンギャン」モードにつられて2.3%の上昇であったが、当の会社自体は、朝一からすこぶるネガティブなトーンで業績発表を行ったのだ。

   ★   ★   ★

上で紹介したWSJ記事中に、The Pragmatic Capitalist というブログが紹介されていて、ダウ9000突破で盛り上がってる市場をよそ目に、「今日注目すべき唯一のニュース」として、このブログが、こんなことを書いている。

“UPS and FedEx are, in my opinion, the two best barometers of economic growth in the world. While the market rips higher on “better than expected” earnings and the strong housing numbers they are completely overlooking the fact that UPS sees no signs of recovery. As a middle man in almost every transaction it is nearly impossible to see a sharp recovery that UPS is not involved in.”

「UPS と Fedex こそが世界の経済成長を測る最良のバロメーターであるとわたしは考える。市場は”予想よりもよかった”企業利益と、強含みの住宅統計で盛り上がっているが、UPSが経済回復の兆候がまったく見えていないと述べた事実を市場は完全に見過ごしている。(これら配達サービスの会社は)あらゆるトランスアクションのミドルマンであり、UPSが参加しない状態で力強い回復が起こるなどというのは、ほとんど不可能だ。」


いつもウジウジと暗い話ばっか書いてるMurray Hill Journalであるが、今回もやはり筆者は、この『The Pragmatic Capitalist』というブログの意見に賛同するね。

アマゾンのトップラインの売り上げは伸びてるんであるよ。筆者もどんどん配達してもらってます。でも、UPSの業績は落ちている。小売は全体的に回復からは程遠い。

そんな暗い話ばっか注目してたら、儲からないぞって?

ご心配なく。今年3月に仕込んだFedex株、持ってますんで。(先週売らないで、よかったー!笑)

ゴールドマンが、S&P500の目標レベルを上方修正し、このラリーは継続すると言っているが、ゴールドマンとここ数ヶ月敵対関係になってる人気ブログ『Zero Hedge』は、GSが上方修正するときは、彼らがポジションを吐き出すときだ、これ以上ポジション取れなくなって身軽にならなくちゃいけなくなったから、ラリーは続くなんて言って、自分達はここで売りに転じ、高値で売り抜けようとしてるんだ、と書いていた。

Q3のGSのポジショントークに注意せよ!?(笑)

やっぱ、Fedex株、売ろうかな。(爆))



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Friday, July 17, 2009

【続】ゴールドマン強し!(商業銀行ステータス、さっさと返上しろよな)

ゴールドマンサックスの話の続きを書く。

投資の世界の常として、ハイ・リターン得るにはハイ・リスクは付き物。

GSが「クレジットで儲かった」ということは、それなりに「クレジットリスクを取っていた」から儲かったんである。

リスクを取らずして儲けようなどと考えるなかれ。(だが、過度のリスクテーキングは多額損失に至る【可能性】を孕んでいるという常識を片時も忘れるなかれ。)

GSの2Q09決算リリースを見ると、【債券・為替・コモディティ(FICC)部門】の業務粗利(Net Revenue)の推移は以下のとおりであった。

    2Q08   2379 ($M)
    1Q09   6557
    2Q09   6795


1Q09も、GSのFICC部門が稼いだ収益は2Q09並みにすごかったわけであるが、GSがどんだけクレジットリスクを取っているかを知りたいではないか。

メレディスみたいなコロコロ意見変える株アナリストのレポートを読んだところで、どうせ、急変させた適正株価についての説明(別名「イイワケ」)と分析(別名「コジツケ」)みたいな無意味な話しか書いていないんだから、こういうことは「餅は餅屋」で、クレジットエクスポージャならクレジット分析に詳しいアナリストが書いたレポートを読みたいなぁ、誰か持ってないかなぁ・・・

・・・と思っていたら、The Big Picture というブログ上で、まさに筆者が知りたいと思っていた内容のレポートが紹介されていた!いや~、ネットというのは、ほんとありがたいですね~。

とても優れた内容の分析レポートだと思ったので、ちょっと専門的だけど、Murray Hill Journalの読者の方々とシェアしたい。

『What Is Goldman Sachs』というタイトルがつけられたこのレポートは、債券・為替・コモディティ・クレジット市場にフォーカスを置くシカゴの独立系リサーチ会社Bianco Researchが発行したレポート。Biancoのコメンタリーは米国ではヘッジファンドなどプロの債券投資家層に定評がある。

以下に、Biancoのレポートに出てきたグラフを使わせてもらい、筆者の注釈も少々交えながら、ゴールドマンのクレジット投資の状況をみてみよう。

   ★   ★   ★

まずは、全体像から。

米国の預金取り扱い金融機関(いわゆる商業銀行)規制当局のひとつ、OCC(Office of the Comptroller of the Currency)は、銀行からコールレポートで報告されるデリバティブの売買活動とトレーディング収益の状況を四半期ごとにまとめて公表している。

OCCレポートによると、米国金融市場のデリバティブス取引は一握りの大手金融機関が占めており、上位5行の商業銀行が業界全体の取引額に占める割合は想定元本(Notional Amount)の96%、ネットのクレジットエクスポージャで83%である。

昨年暮れ、リーマンショックで市場流動性が極端に低下した頃、ゴールドマンやモルガンスタンレーなど大手証券会社やCITやGMACなどのノンバンクなどが(銀行窓口で一般預金を取り扱うような金融機関ではないにも関わらず、連銀が提供する流動性資金にタップする目的で)商業銀行持ち株会社に転身したのを覚えてますね。

あのステータス変更により、ゴールドマンは突如ワコビアを押しのけて「(デリバティブス保有額による)米国の商業銀行トップ5」の一角になった。

ステータスが「投資銀行」や「ノンバンク」から「商業銀行」になったのだから、銀行規制当局への報告義務が生まれ、その結果、これら“新”商業銀行たちも、JPモルガンやバンカメのような本格的(?)商業銀行と肩をならべて昨年度4QからOCC発表の四半期報告書に名を連ねることになったのである。

    ★   ★   ★

クレジットエクスポージャとは、金融機関がCDSのようなクレジットデリバティブスを用いて取り込んでいるクレジットリスクの総額である。(CDSを用いたリスクテーキングについては、前回のMHJ記事『小学生のための「CDSとは何か」(4)』を参照。)

以下のグラフ群はBianco Research のリサーチレポートから。(グラフをクリックすると拡大します。)

【グラフ1】 リスクキャピタルに対するクレジットエクスポージャの割合(%) 



クレジット・エクスポージャをリスクキャピタルで割ったこのグラフは、1ドル当たりのキャピタル(自己資本)に対してどれだけ多くのクレジットデリバティブスを保有しているかを示したグラフで、この比率が高くなればなるほど、その金融機関はエクスポージャが高い、すなわち、高レベルのリスクを取っているという意味になる。

09Q1 の数字に注目されたい。

   GS     1048%
   JPM    323%
   BAC    169%


GSの場合、キャピタルに対するクレジットエクスポージャは1000%強、つまり、$1の自己資本に対してその10倍のクレジットデリバティブスに投資してるんである。この比率は、JPモルガンの3.2倍、バンカメの6.2倍。

(これは、バリバリの「投資銀行」としてやってきたGSと、一般個人や企業から預金を受け入れて貸し出しをするという「商業銀行」としてやってきたJPMやBACとでは、「根本的にビジネスモデルが異なる」ということの表れである。)

   ★   ★   ★

【グラフ2】 クレジットエクスポージャの内訳



このグラフによると、OCCが管理する金融機関全体のクレジットデリバティブス使用の実態としては、98%以上がCDSで、圧倒的に多い。また、期限別にみると6割以上が1年から5年の長期、信用力別にみると6割以上が投資適格、となっている。(CDSの場合、いろいろカスタマイズは効くが、最も一般的なのは期間5年で、一般にCDSのプライスクォートでは特段断りがなければ「5年長期シニア」のCDSを指していることが多い。)

   ★   ★   ★

【グラフ3】米国商業銀行トップ5の粗利益に占めるトレーディング収益の割合(キャッシュによるトレーディングとデリバティブストレーディングの合計)



09Q1の比較では、GSは粗利の7割がトレーディング収入。(JPモルガンの同比率は13%。割合でみたら、債券トレーディングの世界では全米で最も存在感の高いJPモルガンですらGSの足元にも及ばないですね。)

 ★   ★   ★

【グラフ4】クレジットエクスポージャの詳細、総資産とデリバティブス保有額総額一覧



デリバティブスというのは、バランスシートに載らない(オフ・バランスシート)簿外資産である。

だから、バランスシートに載ってる資産の大きさが、必ずしもその金融機関のリスクテーキングの大きさを示すとは限らない。

グラフ4のJPMとGSとBACを比べてほしい。

2009年3月末時点でのバランスシート上の「総資産」(A)は

1. JPM  1688 (単位ビリオン$)
2. GS   161
3. BAC  1434

ゴールドマンのバランスシートは、JPMの10分の1のサイズしかない。

ところが、簿外資産である「デリバティブス保有額」(B)になると、

1. JPM  81161
2. GS   39927
3. BAC  38864

ちなみに、(B)を(A)で割って、簿外資産がバランスシートの何倍かを計算してみた。

1. JPM   48 x
2. GS   248 x
3. BAC   27 x


GS、総資産の250倍の簿外資産を持つ!

ただし、この表の注意書きによると、デリバティブスの種類によって詳細が分けられていないため、「デリバティブス」には株式・金利・コモディティなども含まれ、クレジットデリバティブスのみの数字ではない。

だが、【グラフ1】で示されたように、自己資本に対するクレジット・エクスポージャがダントツで高いことから、GSのクレジット・デリバティブスの保有額は極めて高いと推測される。

   ★   ★   ★

【グラフ5】銀行セクターのトレーディング益の部門別ブレークダウン:08Q4と09Q1の比較 



左側は09Q1のセクター全体の数字、右側が08Q4。表のバーは左から、金利、為替、エクイティ、コモディティ、そしてクレジット、それぞれの部門が稼いできたトレーディング益で、一番右のバーがその合計、である。

左側のグラフをみると、銀行セクターは全体として、09Q1はクレジット・トレーディングを除く他のトレーディング活動でそれぞれが収益をあげたことが奏して全体としてトレーディング利益は大きく改善した。

しかし、09Q1(左グラフ)および08Q4(右グラフ)というリーマンショック後の2四半期は、クレジット市場が機能麻痺を起こしてスプレッドが急激に拡大し、CDSがキャッシュのスプレッドから大幅に乖離してヘッジができなかったこともあり、業界全体としてはクレジットトレーディングは不調だった。だが、ゴールドマンだけはそうじゃなかったとBiancoは指摘する。

   ★   ★   ★

以上から、デリバティブスを駆使したリスクテーキングの度合いは、GSの場合、他の大手金融機関とは比べ物にならないレベルにあることが推測される。取り込んだクレジットリスクを利益に変える「トレーディング技術」に関しても、GSはずば抜けて秀でている、と言えますね。

Biancoのリサーチペーパーは、ゴールドマンサックスという会社は、会社そのものが巨大なクレジットポートフォリオであり、金融危機が起こってからは、GSの株価はクレジット・スプレッドの動きと強い相関を示すいう。つまり、GSに株投資するということは、クレジット市場に投資しているのに等しい、と。

下のグラフ6は、2005年から最近までのGSの株価の動き(青線)を、同期間のクレジットスプレッド※の動き(赤線)に対比させたものである。

(※ ここで対比用に使用されているクレジットスプレッドは、インベストメントグレード(投資適格)の債券インデックスのOAS(Option Adjusted Spread)。OASは何かとか言い始めるとキリがなくなるんで、このOASは要するに、CDSで投資適格のクレジットリスクを取る際にどれくらいのスプレッドが投資リターンとして得られるかの、一種のプロキシーだと思ってください。)

ちょっと複雑なグラフなので少々説明を要する。

まず、このグラフでは、赤線のスプレッド推移は上下さかさま逆転して(Inversed)プロットされていることに注意。CDSも含め債券というのはスプレッドが下がると証券の価値は上がるという関係にあるため、スプレッドの推移を上下逆さまにグラフにプロットすることで、スプレッドから示唆されるプライスの上下と株価価値の上下との相関が、あたかも正の相関になっているように見え、ビジュアル的にわかりやすくなるのです。(実際には両者は負の相関である。)

【グラフ6】IG社債のOASレベルとGSの株価との関係




同じように、GSだけを排除した銀行株インデックスを、OASレベルに対比させたのが、グラフ7.

【グラフ7】 IG社債のOASレベルと銀行株価インデックス(除GS)との関係




このグラフは、3つの期間に区切られ、それぞれの期間で、株価とクレジットスプレッドの「相関係数」がいかほどであったかも示されている。

期間1: 2005年初めから2007年2月8日(←HSBCがサブプライム関連損失の増幅で2006年収益の大幅修正を行った日で金融危機の幕開け)まで。
期間2: 2007年2月8日以降、現在まで。
期間3: 2008年9月5日(←フレディとファニーメイが政府の庇護下に入りリーマン破綻の一週間前)以降、現在まで。


上記3つの期間それぞれにみられたクレジットスプレッド(OAS)との「相関係数」を比較してまとめると、

          GS株       銀行株インデックス(除GS)
期間1       -61.38%     -58.73%
期間2       -95.53%     -90.83%
期間3       -87.17%     -41.58%


これによると、金融危機が始まる前(期間1)は両者とも相関は弱いが、始まってから現在まで(期間2)、クレジットスプレッドがワイドニングする局面では株価が低下し、タイトニングする局面では株価が上昇するという強い相関がGS株にも株インデックスにも双方にみられる。しかし、リーマンショック以降の期間に限定(期間3)すると、GS株とスプレッドの相関は引き続き強いが、銀行株インデックスは相関がみられなくなる。

Biancoリサーチは、この相関係数から読めることとして、以下を指摘する。ひとつには、エクイティトレーダー達はGS株投資はクレジット投資しているに等しいというのを理解しているらしいということ。

そして、もう一点は、(クレジット市場の市況悪化はGS株の収益性にモロに響いてくるという関係にあることから)AIGの巨大なCDSポートフォリオの救済は「商業銀行」の中で誰よりもGSにとって意味ある救済であった、ということ。

   ★   ★   ★

「ゴールドマンは、それ自体が巨大なクレジット市場である。」なかなか面白いではないか。

自身がクレジット市場なんだから、クレジットスプレッドがタイトニングしてきたら、ゴールドマンの収益は、そりゃー上がるはずであるな。

しかしね、筆者は、Biancoのレポートのグラフで、デリバティブスによるクレジットエクスポージャがリスクキャピタルの1000%以上、という数字を見たとき、開いた口がふさがりませんでしたよ。

だって、GSの好成績は、政府の救済措置の恩恵が最大限に凝縮されてるんだもん。

ポールソンもバーナンキもガイトナーも、GSはToo Big To Failの金融機関の一角だと繰り返し述べて、その安心感から、GSが発行体になっている債券のスプレッドもタイトニングした。(←GSの市中調達コストが下がった、という意味。)さらに、「商業銀行」にステータス変更したおかげで、連銀から超低コストの資金も使わせてもらって、資金流動性が枯渇せずに済んだ。調達コストの上昇を抑えることができたのは、ひとえに、政府が用意した救済策のおかげである。

だけど、GSが公的資金を正式に返済したのは今年の6月、それまでは、TARPによる公的資金が自己資本に混ざってたんであるよ。その自己資本一ドル当たりに10倍のクレジット・エクスポージャかけてトレーディングしてた、って、公的資金の目的じゃねーだろ、それ。

公的資金入れてもらった金融機関が、納税者のカネにレバレッジかけて、ここまで突出したクレジットリスクテーキングしてるってことを、当局がわかっていないはずがないのに、規制当局(この場合は連銀)は、この9ヶ月間、一体何やってたのさ。寝てたのか?

(注:日本でも、政府当局がボケてたから、公的資金が混ざってる自己資本をGMACなんぞにエクイティ投資して納税者のカネを高リスクにエクスポーズするのを当局が許し、結局あのカネはパーになった、そういう銀行がありましたけどさ・・・。2008年12月25日付MHJ記事『GMAC、悲願の銀行持ち株会社に(それでも日本政府はいいツラの皮)』参照)

これ、普通の一般商業銀行だったら、リスクキャピタルの10倍もクレジットエクスポージャ取ってるなんてことが当局の検査官に見つかったら、リスク量減らせ!と怒鳴られて、ガンガンいじめられて、大変ですよ。

どうしてGSだけ特別扱いなのさ?米国の政府当局はGSの手下か?(あ、旧従業員だった人はやたら多いですね、そういえば。笑)

クレジットコストだって、政府の裁量のおかげでAIG損失は一切取らずに済んだ。

そういう状態で、「史上最高益!」だとか、「今年はボーナスでかいぞ!」とか言われてもな。あんたの実力だけで最高益出せたわけじゃないでしょ。

預金も受け入れず、住宅融資も行わず、リスクキャピタルの1000%もデリバティブスでクレジットエクスポージャ取って、粗利の7割をトレーディングで儲ける会社が、果たして「商業銀行」と呼べるの?

そんな会社が、何ゆえに、中央銀行が金融危機対策として用意した市場性資金にタップできるのさ?

都合いいときだけ「商業銀行」づらをするのはやめてほしいね。GSが政府のバックアップを受けて安く資金調達できて収益確保した、その裏を返せば、その分、納税者に負担かけてる、という意味なんだから。

わたしの税金利用して、あんたの会社のトレーダーのボーナス増やすの、やめて欲しい。ボーナス計算するときは、公的支援が一切なかった状態を仮定して調達コストを計算しなおし、クレジットエクスポージャも、他の「商業銀行」並みだったと仮定して投資益を計算しなおし、それらをベースに、ボーナス決めろ。

それができないなら、GSよ、さっさと「商業銀行」ステータスを返上しろよな。



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小学生のための「CDSとは何か」(4)

ゴールドマンサックスのクレジットエクスポージャの本題に入る前に、予備知識として、銀行財務やクレジット投資に詳しくない人のために、筆者より、CDSなどのクレジットデリバティブスについて若干説明しておきたい。(わかってるひとはすっ飛ばしてください。)

書きかけのまま、4月からホッタラカシになってた『小学生のための「CDSとはなにか」』シリーズの結論である。(ほったらかしててごめんなさい。)

   ★   ★   ★

金融機関というのは、その事業の性格上、小額のキャピタルで多額の資産を保有するという、極めて高いレバレッジがかかったバランスシート構造をしている。

資産に対する自己資本の割合はたいてい3~10%ぐらいしかなく、負債資本比率が10倍とか20倍とかいうのは珍しくもない。

そのため、不測の当期損失が多額発生すると瞬く間に債務超過に陥る可能性が高いことから、金融機関には、特別に、厳しい自己資本規制がかけられている。

【自己資本規制】では、収益で吸収しきれない損失が保有するリスク資産から発生した場合に備え、その損失を吸収できるキャピタル(自己資本)を常時十分保有していることが義務付けられており、自己資本が規制上の最低限ラインを下回ると、その金融機関は担当規制当局から「お咎め」を受ける。

リスクというのは、ご承知のように、益を生むこともあるが損失に至ることもある。高リスク資産というのはその「損益のブレ幅」が大きいものを指す。

銀行が保有する資産には様々なリスク(マーケットリスク、クレジットリスクなど)が内在しているが、資産の「種類」によって内在するリスク量も異なり、そのリスク量は市場の環境・財務状況の変化などさまざまな理由から、常時変化する。

そうしたリスク量の変化に対応させて必要自己資本額を調節しながら、リスクとリターンの関係がオプティマルになるように目を光らせるのが、いわゆる【リスク管理】ってやつですね。
   
   ★   ★   ★

銀行が、ある会社に融資したとしよう。そうすると、その銀行は、貸出先のクレジットリスク(信用リスク)にエクスポーズされる。信用リスク、すなわち、踏み倒されるかもしれないリスクを取るのである。

内在リスク量が高い資産には表面上の金額が同じでも、より高額のキャピタルが必要になる。

信用力が高くトリプルAの会社(低クレジットリスク)に1億円の融資をすると、見込まれる損失が低リスクで少ないのだから、その融資資産には小額のキャピタルを積んでおけばいい。

だが、信用力が低くジャンク格付けの会社(高クレジットリスク)に融資すると、融資額自体が同じ1億円でも、必要キャピタル額は多くなる。額面が同じでも、その資産に内在しているクレジットリスク量が異なるからである。

高リスクのクレジットリスクテーキングを行うと、高収益を見込めると同時に、自己資本が毀損する可能性も高まるのである。

   ★   ★   ★

【CDS】というデリバティブス・インストルメンツを使うと、実際に融資として現金を相手に貸さなくても、クレジットリスクのリスクテーキングが可能になる。

例として、私がCITという会社に一億円の融資をして、CITのクレジットリスクを取り、そのリスクテーキングの見返りとしてCITから金利を受け取るとしよう。

わたしが融資を決定したころのCITはまだ優良企業だったんで、わたしは金利も低めで貸してあげてた。

でも、なんだか雲行き怪しくなってきて、CITの信用力が落ち始めた。

このままCITの融資をバランスシートに抱えていたら、下手すると、踏み倒されるかもしれない・・・そんな不安がよぎってきた。

この場合、わたしには対処法として以下の選択肢がある。

(1) そのままにしておいて、天の裁量を仰ぐ。
(2) CITと直接交渉して、ローンのリストラして月々の支払いが軽くなるように組み替えてあげる。
(3) ローンのセカンダリー市場に出て行って、ディスカウントかけて売っ払い、CITと関係を絶つ。
(4) そのままにしておくが、万一のために保険かけとく。

この(4)が、CDS売買である。

不安がってるわたしのところに、あなたが寄ってきて「わたしがCDSを書いて、CITの融資がデフォルトしたときにはあなたの代わりに損を取ってあげましょうか。」と言い、私が「はい、お願いします。」と言うと、そこに【CDS取引】が成立する。

つまり、わたしは【CDS】のバイヤーとなり、あなたは【CDS】のセラー(Seller=Writer)になるわけだ。

CDSは【プロテクション(Protection)】とも呼ばれ、文字通り、元々の融資がデフォルトしたときにプロテクトしてくれる、そういう契約である。

ここで何が起こるかというと、わたしがもともと融資を介して取っていたクレジットリスクは、あなたがCDSをわたしに売った途端に、わたしの手元を離れ、逆にあなたがそのクレジットリスクを取ることになるのである。

だって、もしCITがつぶれて融資が約定どおりに返済できなくなったら、あなたが、その損をカバーしてくれるわけでしょ。

あなたは、わたしの代わりにリスクテーキングするわけだから、その見返りとして、わたしにリスク見合いの金利(プレミアム)を要求する。

これがCDSのプライスになるわけだが、ただしこの場合は、CITが月々支払う金利そのものではなくて、クレジットスプレッドに相当する部分だけがCDSのプレミアムとなる。(現物債券のクーポン金利や融資の月決め金利は、(1)ベースになる市場金利と(2)クレジットスプレッドという上乗せ金利の2つに分けられるという説明は、小学生のためのCDSシリーズ(3)を参照。)

融資元本はそのまま私が持ってるわけだから、CITから支払われることになってる実際の金利のキャッシュフローは引き続きわたしが受け取るわけであるが、わたしはあなたから買ったCDSに対して金利を払わなくちゃいけない。

つまり、(CITからの)受け取り金利と(あなたへの)支払い金利が相殺されるから、わたしのネットの金利収入は減少する。(下手すると、CDSの売り手に払う金利のほうが高くなって、ネットのキャッシュフローはネガティブになるかもしれない。)

でも、わたしはその代わり、クレジットリスクをあなたに渡してしまったから、わたしが取っているリスク量は減少する。

これを【リスクヘッジ】と呼ぶのである。

わたしは、保険を買うように「CDSを買う」ことでリスクヘッジしたんである。逆にあなたは「CDSを売る」ことでリスクテーキングしたんである。

クレジットデリバティブスというのは、こうやって、もともとの金融資産(【レファレンス資産】という)はそのままの状態にしておいて、そこに内在しているクレジットリスク「のみ」を取り出して、リスクそのものを売ったり買ったりすることができる、そういうインストルメンツなわけ。

対象になる金融資産は、「融資」に限らず、「社債」でもいいし、「地方債」でもいいし、「仕組み債(Structured Bond)」でもいい。

ようするに、そこにクレジットリスクが内在している資産がありさえすれば、そのリスクをCDSを用いて売買し、オリジナルのキャッシュフローはそのままの状態でクレジットリスクだけを他者に移転する【リスク・トランスファー】が可能になるのである。

   ★   ★   ★

CDSのもともとの使用目的は上記のように、信用リスクのリスクヘッジであったが、今日のクレジット投資の前線では、現物を保有していなくても、デリバティブスだけを活発にトレードしているのが実態である。

機関投資家や証券会社はCDSだけを独立した証券として売買し、他の債券投資と同じ理屈で、金利のタイトニングやワイドニングに沿って、投資利益が生まれたり損失が発生したりする。

CDSにはCDSとしてのプライスがつけられるため、レファレンスになっている現物債券(キャッシュボンド)とCDSとの間に金利差が生まれることはしょっちゅうで(っつーか、金利差がないことのほうがめずらしい)、アービトラージ取引を活発に行うことができる。

また、投資家がある会社のクレジットリスクを取りたいと考えていても、その会社の現物債券の流動性が低くて市場に出回っていなかったらどうだろう。これが現物(キャッシュ)しか存在していない世界なら、投資を諦めるしかないが、デリバティブス(CDS)を売ることによって、その会社のクレジットリスクを自分のポートフォリオに取り込むこともできる。

AIG問題ですっかりお茶の間用語になってしまったCDSだが、CDSと聞いただけで「邪悪なもの」と考えてる素人は多いけれど、CDSというインストルメントが登場してくれたおかげでリスクの売買が可能になったというのは非常に画期的なことで、リスクの拡散と投資機会創出という意味で、ポジティブな側面のほうが実際には強い。

また、銀行がCDSでヘッジした融資にふりむけられていた自己資本は、リスク量が減るんだから必要自己資本も減り、フリーアップされた自己資本をもっと割りのいい投資に振り向けることもできるわけだから、効率の高いポートフォリオを組むのに役に立つという解釈もできて、CDSの使用がいちがいに悪いとは言えない。

CDSの問題は、CDSというインストルメンツ自体にあったのではなく、その「使い方」にあったのである。

   ★   ★   ★

やたら前置きが長くなってしまったが、ゴールドマンのクレジットエクスポージャの話に戻ろう。



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Wednesday, July 15, 2009

ゴールドマン強し!(商業銀行ステータス、さっさと返上しろよな)

今週は決算発表花盛り。

昨日(14日)の朝はゴールドマンサックスの2Q決算結果が発表され、市場予想を大きく上回る結果であった。

株価の方は実際の発表を待つまでもなく、先週からアナリストによるGSの買い推奨がどんどん出ていて、株価はすでに上がってた。先週は、Guy Moszkowski(メリルの銀行アナリストで、アナリストランキングでは常に上位)がGSのトレーディング収益が絶好調になるといって強気「買い」推奨でいったん上がり、また、今週に入ってからは、別の有名銀行株アナリストのMeredith Whitney(シティの崩落を予言して一気に無名から有名になり、今年オッペンハイマーを辞めて独立し調査会社を立ち上げた)がGS決算発表の前日にCNBC局に出演して、やはりGSに対して超強気コメント。

「ベア派」で知られるメレディスが強気だ、ってんで、GS株、さらに勢いに乗りました。

しかしね、このメレディスですけれどさ、この【変身振り】は、いったいなに?

彼女はシティが潰れるかもと予言して的中し有名になったんだが、株アナリストのくせに、あの銀行がつぶれそうだとか、この銀行は収益半減するとか、そういうネガティブな話ばっかする「超弱気アナリスト」だった。

4月7日付MHJ記事『決算間際、どうしてもウジウジしちゃう』では、「株アナリストのくせにいつもウジウジ弱気」の代表格として、マイケル・メイヨというアナリストのことを紹介したが、メレディスが登場するとマイケル・メイヨが強気に見える、それぐらいメレディスってのは、「金融株はダメ!」というオピニオン一本槍で名を成したアナリストなんである。

独立して会社立ち上げたばかりのころも、クレジットカード貸出の与信費用(クレジットコスト)が膨大になるという論説をウォールストリートジャーナルに発表したりして、「ダメ、ダメ、ダメ」ばっか言ってたんである。

だから彼女の豹変ぶりに皮肉な目を向けてるものは市場には少なからずいて、彼女の今年5月のビデオクリップ(↓)をわざわざ探して掲載するブログもあったりで、冷笑してる向きは少なくない。















ついでだから便乗させてもらうが、5月には、彼女ったら

"The underlying core earnings power of these banks is negligible."
(金融セクターに、コア収益を生む力なんて、ほとんどない。)


と発言してたよ。このクリップから、まだ2ヶ月ですぜ。

ゴールドマン株がまだ100ドル行くかって頃も、「GSが100ドル超えるなんて、ありえない!わたしならGS株は絶対に触らない!!」とギャーギャー叫んでたくせに。失業や住宅価格や延滞債権などのファンダメンタルズは悪化してるのに「100ドルでも高い株」が急に「150ドルでも安い株」になるとは、あなたの適正株価分析モデル、ちょっとあたいにみせてごらん、と言いたくもなるではないか。

とはいえ、そもそも上値を狙う株の世界で、証券買わせるのが商売のセルサイドにいるものが、下向きの話ばっかしてたってラチあかんからな。そこがセルサイドの株アナリストのつらいところ。

証券会社に雇われの身の時は給料は確実にもらえるけど会社が売ろうとしてるものを悪く書くなという(暗黙の)圧力にさいなまれ、独立したらしたで好き勝手なこと言えるけどオピニオンそのものが売れなきゃ生活できないし。

メレディスも、独立当初はちょうど金融不安真っ最中だったのを幸いに、「トレードマーク」のネガティブな話ばっかで売ろうとしたけど、その後、メレディスの推奨とは裏腹に、肝心の金融株はどんどん上がっちゃって(←理由は不明だが、笑)、新会社のフトコロも寒くなってきたのであろうか・・・可愛そうにな・・・。

   ★   ★   ★

ということで、元アナリストの自分が言うのもなんだが、マーケットでえらそうにオピニオン述べてる「有名」アナリストの意見なんつーものは、絶対に額面どおり信じてはいけない。半分以上ディスカウントかけて聞いておいたほうがよろしい。

とりわけ、セルサイドの銀行株アナリストは、こういっちゃなんだが、クレジットや債券の世界のことはほとんど知識はない。あちこちで金融機関のクレジット投資について知った風なこと言ってるけれど、彼らのほとんどは自分が何言ってるのか実はわかっていない。

証券会社というのは、同じ会社の中にいながらにして、債券部門(為替・コモディティ含む)と株式部門とでは水と油ほども異なる間柄で、トレーディングフロアも異なれば、部署同士の交流だって年末クリスマスパーティ以外はほとんどない。

だから、株式アナリストになると、本人が債券側で実績積んだことがあるという場合は別として、株サイドのみで生え抜きでやってきたものになると、債券のトレーディングフロアなんて立ち寄ったこともないというのが多いし、CDSの取引の現場を実際にみたこともなければ、クレジットデリバティブスに関わってるのがどんな投資家で、彼らがどんな分析をしていて、どんな風にキャッシュボンドやCDSの値決めしてるのか、みたいなことも、おそらくほとんど知らない。

それは、アメリカに限らず、日本でも事情は同じである。

実際、CDOの問題が表面化してきた2007年、MHJ筆者は当時バイサイドにいて、そのファンドでは日本の某銀行の株を買うかどうか考えていた。で、筆者は、日本の某著名銀行株アナリストに電話して某邦銀のCDOへのエクスポージャの現状について質問したんだが、さすが「著名」なだけあって態度だけはやたらデカかったが、流れるように説明してくれるのはいいんだけど、彼がCDOのリスクヘッジについて完全無知であることは3分も話さないうちに明らかになった。だって、CDOとCDSと、アルファベットが似てるせいもあるけど、話しながらしょっちゅう取り違えたりするんだもんなー。著名な方に恥じかかすのも悪いと思って黙って聞いてたけど、バレバレでしたよ、XXXさん・・・。(爆)

ということで、しつこいようだが、アナリストの意見はあくまで「参考程度」に聞いておくにとどめましょう。投資は自己責任で。

   ★   ★   ★

で、メレディスのレポート読んでヒマ潰す気もなかったんで、実際にGSから発表されたQ2リリースを自分で読んでみた。

前回(Q1)のGSの決算のときは、筆者は(『ゴールドマン1Q09決算について雑感』という4月15日付け記事で、「債券トレーディング収益がQ1好成績の元」ということを書いたが、今回も、同トレーディング部門はブイブイで、引き続き絶好調。

主要3部門の部門別に業務収益(Net Revenue)をみると(同社のリリースから翻訳)

【インベストメントバンキング部門】:14億4千万ドル、特に株式引受手数料は2Q00に達成した最高記録を上回った。昨年度Q2より15%下ぶれたけど今年度Q1より75%増。メリルやリーマンなどの競争相手が消えて、生き残り組みの中でも、業界内に勝ち組・負け組のメリハリがついたから、明らかに勝ち組のGSが、インベストメントバンキングで好成績あげるのは別に不思議じゃないですね。GSのフランチャイズ、やっぱし強いもんな。

【債券/為替/コモディティ部門(FICC)】クレジット商品の取引がとりわけ好調で68億ドルの収益、四半期としては過去最高。絶好調だった今年度Q1からはほぼ横ばいだけれど、昨年度Q2(3月~5月の3ヶ月)と比較すると、186%増、つまり、およそ3倍の儲け。

【株式部門】:31.8億ドルの収益、こちらも四半期としては過去最高。株市場がドツボにはまってた今年度Q1と比較すると盛り上がりを見せたQ2は60%増。株市場が衰えをまだ見せてなかった昨年度Q2と比べても、28%増

   ★   ★   ★

【株式部門】の数字見てて気がついたこととして、トレーディング収入がジャンプしたこと。株式部門はコミッション(セールス通じて売買するときの手数料)、とトレーディング(自己勘定含む)のふたつのチャネルから収益があがるようになっている。

エクイティコミッション(単位ミリオン$)は、$1234M(2Q08)→$974M(1Q09)→$1021M(2Q09) と推移して、株式市場の盛衰どおりに動いているんだが、注目は、もう一方のエクイティトレーディングのほうである。

トレーディング収入のほうは、$1253M(2Q08)→$1027(1Q09)→$2157(2Q09)と推移して、今四半期は、株暴落前の前年度同期の倍近い数字なんであるよ。

NYSEで取引されるてるボリューム自体はどんどん下がってきているというのは6月30日付けMHJ記事『介入のかおりプンプンの2009年前半が終了』で紹介したとおり。

それでも、トレーディングで前四半期の倍も稼げるとは、これいかに。

答えは「プログラムトレーディング」にありそうであるな。MHJでは前にも、取引のフローがいびつなのはプログラムトレーディングが活発な証拠だと書いてきたが、一回一回の取引を100株とかの小口に分割してチマチマと電光石火のスピードでコンピューターにトレードさせるHFT(High Frequency Trading)というトレーディング手法が、ここのところ、やたら幅を利かせているんである。

このHFTだが、マーケットメーカーが市場にリクイディティを供給する目的でプログラムトレーディングは実際行われているわけだが、これに携わると大手証券会社は一株あたり「4分の1セント」というキックバックを証券取引所から「お礼」としてもらえるそう。実際にトレードをやってくれるのは高速のコンピューターで、人の手はかからんし、HFTでトレードすればするほど儲かるワホワホの仕組みである。

NY証券取引所が発表するプログラムトレーディングのボリュームランキングによると、GSはその分野では常時2位を大きく引き離しトップ独走。

でも、あんまりド派手に動いてたから注目集めちゃって、こちらの金融ブログではあちこちで「GSがHFTで相場を操作してる」という批判が相次いで出てきていた。ブロガーによるGS批判の高まりは、FTやブルームバーグなどのメジャーメディアもこれに飛びついて紹介するぐらいの盛況ぶり。

GSの広報部は「ブロガー連中め、ったく、ハエみたいにうるさいやつらだ・・・」とシランプリ決め込もうとしてたみたいだが、NYSEがデータ公表の際にGSをデータに含めるのを(意図的かどうか知らんが)忘れて、またまたブログ界でそれを指摘され「NYSEも一緒にグルになって、何かを隠している!」と叩かれまくり、挙句の果てには、つい先週、そのHFTプログラムに直接関わっていた元GSのプログラマーがプログラムのコード窃盗の容疑でFBIに逮捕され、一般メディアにまで注目されるようになり、さらには、逮捕の際のコメントで司法当局の担当者が

「このプログラムコードを使うと、市場操作が可能だから」

と(ウッカリ)口滑らせてしまったもんだから、またまたブログ界はその発言に鬼の首取ったように沸き立って「やっぱり、GSはプログラムトレーディングで株価操作してやがったんだな!!」と書かれまくる、というオマケつき。他にもロックミュージック雑誌だの、ニュースウィークだの、GS周辺をブンブン飛んで嗅ぎまわる虫の数は増える一方。

ま、そこらへんの話は下世話な意味で面白いから、別の機会にもっと詳しく書くとして、いずれにせよ、決算結果をみても、4月~6月まで相場全体のボリューム低下著しかった株市場でもGSはトレーディングでこれだけ稼いだ。やっぱ、これは、世のヒンシュク買うほど派手にプログラムトレーディングやったおかげ、といっても過言ではないのではないでしょうか。

   ★   ★   ★

しかし、MHJ筆者がやっぱり注目してしまうのは、FICC部門の好成績の背景が「とりわけクレジット商品が好調で」というくだりである。

確かに、4月~6月はクレジットスプレッドが全体的にタイトニング傾向にあったので、クレジット・エクスポージャが高いほど、そこからの儲けは大きくなる。FASBの会計基準変更で資産側に流動性の低いクレジット投資(いわゆるToxic Assets)を抱えてても結構好き勝手なバリュエーションできるようになったし、そういう会計上の恩恵も間違いなく、受けましたね。

GSの場合、あきらかにクレジットトレーディングに相当チカラを入れてたわけで、ここでいちばん重要なのは、一体、これだけのトレーディング益挙げるのに、どれだけのクレジットエクスポージャ取ってたんだよ、ってことである。

                (続く)



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Sunday, July 12, 2009

1930年7月12日

Conservative observers still cautious, although many now believe market has established resistance level likely to hold.

「市場参加者の多くがレジスタンス・レベルは確立されたと考えているが、保守的な見方をする者はなお警戒している。」

   ★   ★   ★


MHJ筆者が毎日楽しみにしているサイトのひとつに、『News From 1930』というブログサイトがある。

今年の6月からスタートした新ブログで、1930年の同日に書かれたウォールストリートジャーナルの主要記事を要約して毎日掲載してくれるサイトなのだ。

NYダウは1929年386ポイントまで上昇した後、同年10月に195ポイントまで下落。実に49%の大暴落であった。その歴史的な大暴落の【翌年】に、米市場ではどんな話が話題になっていたのかを知ることができて非常に面白い。

興味深いのは、当時流れていたニュースの行間に連日垣間見られる「マーケットの根強いオプティミズム」だ。

冒頭に紹介した文は、1930年7月12日分として、今日の同サイトに掲載されていた内容の一部だ。

約80年前の今頃「レジスタンス・レベルは確立されたと多くの市場参加者が考えていた」という。これで底を打ったと思ってるひとが少なくなかったわけですね。

だが実際はどうだったかというと、周知のとおり。7月12日には200台だった株価は、1932年に40ポイントをマークするまで底値を更新し続けた。(グラフをクリックすると拡大します。)



   ★   ★   ★


現在発行されてるWSJと『News From 1930』を毎日併せて読んでいると、人間というのは、つくづくオプティミスティックな生き物なのだというのを感じる。(無論、それが人類の強みでもあるのだから、オプティミズムを否定しているわけではない。)

そして、人々の思考パターンや、あるニュースへの反応の仕方というのも、80年前と今日(こんにち)とでは、さほど違いがない、ということも。

当時書かれていた内容が、今日現在市場で流れている分析や情報に酷似していることもある。

たとえば、1930年6月2日のWSJに掲載された、こんなコメンタリー。

National City Bank of New York anticipates an early recovery. Admits that so far recovery hasn't been marked, but “business has been on the down-grade for nearly a year and in the past 30 years depressions have rarely lasted for a longer period”. Says the danger now is excessive pessimism as opposed to a year ago when it was optimism. Admits serious problems including the worldwide business downturn and fall in commodity prices, but the country has repeatedly demonstrated ability to recover in the past. For the last 30 years, with the possible exception of 1914 (WWI), when business has begun a depression in one year it's always at least started the recovery before end of next year. True that if we look back further there have been some more prolonged depressions (panics of 1873, 1884, 1893). But U.S. business was much less diversified then, and “lacked the recuperative power demonstrated in more recent years”. Also, money markets were uncertain then, as opposed to current easy money conditions. With credit conditions this favorable and the past record of recoveries, predicts a recovery starting slowly in the summer and apparent by fall.

ナショナル・シティ・バンク・オブ・ニューヨークは早期の経済回復が期待できると述べた。現状、リカバリーはまだ起こってはいないものの、「企業の格下げはすでに1年も続いているし、過去30年間に起こった景気後退が回復するのに長期を要することはなかった」というのがその理由。一年前のオプティミズムと対照的に、現在は過剰なペシミズムを抱くことが、むしろ危険であると言う。グローバルに起こっているビジネス鈍化とコモディティ価格の下落は深刻な問題であるものの、過去、米国は繰り返し景気回復する能力があることを示してきた。過去30年の例でみると、1914年(第一次世界大戦のあった年)を除き、景気後退が始まった一年後からみて、その翌年の終わりまでには必ず景気回復が始まっている。さらに過去までさかのぼれば、景気後退の期間がもっと長期に渡ったケースも確かにあった。(1873年、1884年、1893年のパニック。)しかし、当時の米国のビジネスは現在ほど多岐に渡ってはおらず、「近年みられたような回復力に当時は欠けていた。」さらに、当時はマネーマーケットが不安定で、現在のように安易に資金が手にはいらなかった。現在はクレジット市場のコンディションが良好であり過去の回復の歴史を持ってすれば、景気はこの夏に徐々に回復、秋までにはそれが明らかになるであろう。


少し前に、MHJ筆者は上とまったく同じ内容の業者レポートを読んだばかりのような気がするのだが・・・(アナリストは当時からぜんぜん進化していないという証拠か?笑)

ちなみに、上のコメントを出した National City Bank of New York というのは、現在のシティバンクの前身である。

1930年の6月から7月にかけて株価はずるずると下がるのだが、こうしたオプティミズムに満ちたマーケットコメントは連日紙面に登場し、逆を言えば、マーケット参加者はそうやって日々不安と戦っていたのであろう様子が伺える。

★   ★   ★

1930年7月9日のWSJには、ワシントン・アーヴィング(Washington Irving)による『The Great Mississippi Bubble』という著書の書評が掲載された。著者のアーヴィングは、それよりさらに一世紀も前の1837年の市場クラッシュの頃に生きていたひとで、この本が題材にしてるのは、アーヴィングの時代からさらに一世紀以上前にさかのぼった1719年に実際にフランスで起こったバブル経済崩壊の過程だ。

18世紀の始めごろ、アメリカのミシシッピ川周辺はフランスの植民地だった。ミシシッピ川周辺の土地価格の上昇を見込んだバブルが本国フランスで発生、それに続くバブル破裂でフランス経済は大打撃を受けた。The Great Mississippi Bubble と呼ばれるこのフランスの経済バブルと崩壊の顛末は、19世紀のバブル崩壊を経験したアメリカ人たちの興味をそそり、その100年後、1929年の大暴落直後、ウォールストリートジャーナルがその本を再び取り上げた。

アーヴィングの本には、こんなくだりがあった。
The boom - "Every now and then the world is visited by one of those delusive seasons when the 'credit system,' as it is called, expands to full luxuriance; the broad way to certain and sudden wealth lies plain and open ... "

The bust - "a panic succeeds, and the whole superstructure built upon credit and reared by speculation crumbles to the ground, leaving scarce a wreck behind."

【ブームの訪れ】 「時折、この世は、欺瞞に満ちた季節の訪れを迎えることがある。それは、俗に言う“クレジット・システム”が最高潮まで拡張するときだ。そういうとき、確実に突然に富を手に入れる道が目の前に開けてくるかのように見えるのだ。」

【ブームの破裂】 「だが、その後はパニックが襲う。クレジットの上に作り上げられスペキュレーションに支えられた壮大な建物がガラガラと地上に崩れ落ち、後にはほとんど何も残らない。」


18世紀の出来事を記した19世紀の本が、20世紀の新聞に紹介され、その古い記事を21世紀に読んでるあなたは、いったい何を感じるだろうか。

   ★   ★   ★

1930年の6月というと、グラス・スティーガル法のプロポーザルが、グラス上院議員により、議会に提出されたときでもある(6月18日)。それまでは財務長官は連銀のボードメンバーに名を連ねていたが、このプロポーザルでは、財務省は連銀から完全に離されるべきとされ、「連銀の独立性」を主張する内容となった。

連銀の独立性などは、とうの昔になくなっているではないか、と6月20日付けMHJ記事『金融規制改革案の目玉は改革よりもポリティクス』に書いた筆者だが、バーナンキ議長の行く末について政界でノイズが高まっており、金融機関を取り巻く規制環境も、当時のように、この先、かなり厳しくなりそうだ。また、共和党ロン・ポール議員を筆頭に「バンカメとメリルの合併に連銀がどう関与したのかを明らかにするために連銀の監査を行え」という追求の手も忍び寄ってきており、この夏は「連銀の独立性」というテーマがふたたび注目をあびそうだ。


   ★   ★   ★

昔の記事を読みながら筆者が強い興味を引かれた話は、1930年前後の「マンハッタン高層ビル建設ラッシュ」である。

1930年6月15日の記事によると、「スカイスクレーパー・インデックス(The Skyscraper Index)」なるインデックスまであったようで、当時、ニューヨークシティの中心地とウォール街周辺は、現在のマンハッタンの摩天楼でも代表的とよばれる重要な高層オフィスビルの建設ブームの最中であった。

そのひとつ、1930年5月に完成したのが、クライスラー・ビルディング(写真)。

当時の米国の自動車産業は世界的景気後退で国内販売低迷に加えて輸出も伸び悩み、相当の痛手を受けていた。

1930年7月12日のWSJには、自動車産業に対する悲観論が当時の市場にはびこっていたことを匂わせる記事がある。

Auto industry pessimists should realize that with 27M cars on the road, “replacements alone guarantee a fair rate of activity for the industry.”

「自動車産業に悲観的見方を抱くものは、路上には2700万台の車が走っていて、これらの車の買い替え需要だけでも、自動車産業の活動をそこそこに維持できると保証されているのだということを認識すべきである。」



たしかに、恐慌で一時的に需要が急激に落ち込んだ米自動車産業ではあったが、世界王者としての米国の圧倒的な地位は揺るごうはずもなく、クライスラー・ビルは、その象徴でもあった。

ジェラルミンのボディにアールデコのデザインがほどこされ陽を浴びて銀色に輝く同ビルは、いまだにニューヨークの摩天楼の中でも異彩を放つ美しいビルだ。マンハッタンからクライスラービルを取ったら、風景の印象が変わってしまう、それほど印象の強いビル。クライスラービルの誕生が、株価低迷で沈んでいた当時のニューヨークに、どれだけ希望を与えただろうというのは、想像するに難くない。

その11ヵ月後にはエンパイア・ステート・ビルも完成。

当時の記事を読むと、そのほかにも、 40 Wall Street(現在は内部改装されてトランプ・ビル) や AIG本社ビルがやはりこの頃に完成している。

これらのビルは、今日でも、その風格といいセンスといい、ニューヨークを代表するビルばかりだ。エンパイアステートビルがこの頃立てられたというのは知っていたが、それ以外でも、ウォール街近辺の代表的な高層オフィスビル群が大暴落の直後に次々とできあがったのだと、いまさら知って、驚いた。

当時のNY不動産開発は「失業対策」という側面もあり事業が継続されたのであろうが、これだけの建築物を大不況のさなかに休むことなく建て続けることができたという、当時のアメリカが持っていた若さとエネルギーに圧倒される。

とりわけ、つい先日、ワールド・トレード・センターの跡地建設が州財政の悪化で頓挫しそうだという話題をここに書いたばかりでもあり、当時のニューヨークダウンタウンのオフィスビル建設ラッシュと、現在の商業用不動産市場のていたらくを比較して、ちょっとばかり、へこんだ。

   ★   ★   ★

1930年6月のWSJの記事には、日本についての記事もいくつか出てくる。

1930年6月11日の記事。

Japan is suffering a severe economic slump. “Early in May leading shares of the Tokyo Stock exchange ... hit the lowest level since May 1908.” Five small banks were forced to close in April, which may have worsened the panic. Exports in the first 4 months of 1930 dropped 24% from 1929. The government is being asked to help the unemployed with a program of public works.

日本は非常に厳しい経済スランプに陥っている。東京証券取引所では5月初旬に1908年5月以来の安値をマーク。4月には小規模銀行が5行閉鎖に追い込まれ、パニックに油を注いだ。1930年の最初の4ヶ月の輸出高は前年同期比で24%減。日本政府はインフラ事業のプログラムで失業者吸収を迫られている。



そして、1930年7月11日の記事。

Japan discussing ways to build a domestic auto industry - may help lighten impact of London Naval Treaty on shipyards. Current Japanese auto market is almost insignificant; domestic production is about 400 cars/year.

日本では国内に自動車産業を作ろうという計画が持ち上がっている。
ロンドン海軍軍縮会議によって受けた痛手を和らげようというのが目的だ。現在、日本の自動車市場は極めて小さい。年間の国内自動車生産台数は400台。


クライスラービルが完成した年に、日本では自動車産業立ち上げの動きが始まろうとしていた。なんという逆転。

AIGのヘッドクォータービルは、つい最近、韓国のデベロッパーの手に渡った

クライスラーとAIG・・・。

当時と今とでは、米国のパワーも立場も、ずいぶん変わったものだと思い知らされる。

米株市場は3月から、4ヶ月間連続でラリーが続き、市場も一時的にオプティミズムがはびこったが、7月に入ってからはパワーが続かずショートラリーに終わった。

ここから先の市場が1931年や1932年ような状況に向かっているとは思わないけれども、今回の世界的な景気後退から這い出すためには、米国はもう若くない、ひとり牽引役としてはパワーが残っていないのだと強く感じる。



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Saturday, July 11, 2009

トータルリターン狙うならIOU?

前回のMurray Hill Journalでは、カリフォルニア州が7月2日に発行したIOUの「証券」としての位置づけがハッキリしていないことは問題で、(収集趣味の一環でeBayで買ってるコレクターは別として)一般の証券と同じように売買なんかできるか、と書いた。

投資に関わるものなら、誰だってそう思いますよね。法的な裏づけが明確じゃないというのは、それ自体が「リスク」だもん。

極端な話、MHJ筆者が紙ナプキンの裏に万年筆で「借用書」とサラサラ書いて支払い待ってもらうのと基本的には同じなんだから、そんなもんにフツーの値段つけて売買できますか。

この問題に対し、SECは9日付けでリリースを発行し、市場のこうした懸念にいちおう答えた。リリースによると、

(1) IOUは連邦証券法のもとで「証券」であるとSECは考える。
(2) 従って、IOUをの売買に関しては、詐欺行為などを禁止する証券法が適用される。
(3) 証券法が適用されるということはつまり、売買を仲介する者(あるいはシステム)も、ブローカーとしてSECに登録しなければいけない。
(4) ということはつまり、IOUの仲介者とセカンダリー市場を提供するものはSECの監督下に入る。

ということで、Craiglist や eBay がわざわざ自ら進んでSECの厳しい監視に入ってまでIOUを売りたいかというと、疑問である。でも、証券法の目の届かないところで売買しても、それは正規の売買とは認められない、という意味でもあるのだから、eBayで買っても後日換金できないかもな。個人で売買しようとしてる方は、あらためて、お気をつけくださいネ。

   ★   ★   ★

SECが正式に「IOUは地方債の一種である」とお墨つけてくれたんで、高リターンを狙うヘッジファンドが興味示すかもしれない、という記事が今朝のウォールストリートジャーナルにのっていた。(記事はこちら。)

もし大手銀行がIOUの引き受けを拒否し続けるのであれば、IOUのセカンダリー市場を立ち上げようと考えている会社があって、需要サイド(機関投資家)の興味もすでに結構出てきているという。

このカリフォルニアのIOUは、7月2日に発行されて、償還は3ヵ月後の10月2日。年率にして3.75%の利子がつくことになっている。それのどこがそんなに魅力的なのか、って?

表面利率だけみたら、一般銀行発行のCD(一年もの)のレートよりいいってぐらいで、「高利率」という感じはしないけれど、【トータルリターン】でみたら、ディスカウント次第では、これが結構魅力的になるんですよね。

【トータルリターン】(Total Return)というのは、表面上ついている利率に従って支払われる利子収入(株式の場合は配当収入)とキャピタルゲインで得られる利益の総額が、投資額(コスト)に対して生んだリターンのことである。

上のWSJに、こんなくだりがある。

・・・even if they bought the IOUs just a month before the payment date at 99 cents on the dollar, they would collect the full interest of 3.75% and earn 1% for the month. On an annualized basis, that is 15.75%.

・・・仮にIOUを償還日のひと月前に額面1ドルに対して99セントで買ったとすると、年率3.75%の利子に加え、その月だけで1%のキャピタルゲインも得る。年率換算すると、これは15.75%に相当する。


コストとして99支払ったものがひと月後に100になって償還されるというキャッシュフローは1%のキャピタルゲインを生む。ひと月で1%ということは、1%x12ヶ月=年率12%、それにクーポン3.75%で、合計15.75%、という意味だ。

今すぐキャッシュがないと困っちゃう売り手にしてみたら、額面100に対し99にディスカウントして売り払うのは、さほど悪くないかもしれない。一方、それに投資する側にしたら、年率15.75%の投資リターンなんだから、結構オイシイ話ですよね。

実際問題として、全米最大の州政府がデフォルト起こすというのはやや非現実的なシナリオなんだから。

前回のMHJでは95とか90とかにディスカウントしてくれないと買う気ないと書きましたけどね。

仮に、筆者がこれを、いますぐ95のディスカウントで買ったとすると、償還までほぼ3ヶ月あるから、5%÷3ヶ月=ひと月あたり1.67%のキャピタルゲイン。年率換算すると、1.67%x12ヶ月=20%。それにクーポン3.75%が加わって、年率23.75%である!

リスクフリーに近い発行体が出す「証券」のトータルリターンが23.75%!!!

やっぱり、欲しいな、IOU。(笑)

   ★   ★   ★

SECというオーソリティが「プライスの交渉可能な(negotiable)証券」である、と、お墨つけてくれたのは、(eBayとかじゃなくて)正規のセカンダリーマーケットが生まれる、というのと同じ意味。

このセカンダリーマーケットの市場規模がどれくらいになるかという話だけど、これ、供給増えてくれば、結構繁盛するのではなかろうか。

(ま、見方によっては、「売り手側がキャッシュがないと困るのに、議会がだらしないからIOUなんて発行しちゃって、もらったほうは、それにディスカウントかけてでも現金化するっきゃない」という、いわば、【州政の失敗に付け込んだ、あこぎな取引】ではありますけれども・・・。)

カリフォルニア州の議会はいまも相変わらずウダウダとポリティクスやっていて問題解決には近づいていないらしく、今月だけで30億ドル(3千億円)のIOU発行予定だが、このままウダウダが続けば、もっともっとIOUを発行するかもしれない。

さらに、最近読んだNYタイムズの記事によると、我がニューヨーク州もカリフォルニア州に負けないくらい州議会がグチャグチャになっていて、やれ民主だ、やれ共和だと分かれて、本質論から離れたところで政治議論を繰り返しているらしい。ということはですよ、下手すると、NY州からもIOUが発行される運びになるかもしれないし、そうなると、セカンダリー市場に流れ込んでくる供給も、もっと増えるかも。

IOUのセカンダリー市場、さて、どこまで繁盛するのか。


   ★   ★   ★

ところで、まったく話は変わるが、去年共和党のマケインの副大統領候補として出たサラ・ペイリンが、連休寸前に突然、アラスカ州知事の役職を辞任。

なぜ今辞めたのか、ということで、方々でスペキュレーションが続いている。

2012年の大統領選に出る準備を開始する気なんじゃないかとか(←冗談じゃない!)、トークショーホストになってTV番組に出演するんじゃないかとか(←目立ちたがりの彼女なら、やりかねない)、いろいろ言われてるが、実際のところは、彼女が知事を勤めている間にさまざまな「権力の乱用」が目立ち州財政に190万ドルの損害を負わせたというクレームに対する調査が入っており、それのディフェンス/リーガル費用がすでに50万ドルを超えていて、現職を退かない限り、リーガル費用がどんどん膨れ上がって個人破産するかもしれないから、という有力説が浮上している。

今回の突然の辞任にあたり、

I quit this job because I'm not a quitter!
(わたしは途中で物事を投げ出すような人間じゃない、だから、この仕事を辞めるわ!)

と言ったとか、言わないとか。(相変わらず、彼女の言ってることは意味不明だが。)

MHJ筆者は、去年の選挙中にサラ・ペイリンがTVに登場するたびに虫唾が走っていたひとりなので、彼女が破産しようとどうなろうと知ったことではないのだが、さっきこんな写真をみつけてしまったので、今日のMHJエントリーは内容も薄いことだし、薄いついでにお詫びもかねて、最後にくっつけておきたい。



アイダホ大学時代のサラが来ているTシャツの胸には、なにやら予言めいた内容が・・・。

I may be broke but,
I'm not flat busted.

(スッカラカンでも、へこたれない。)

恐るべし、サラ・・・とことん、がんばるつもりか・・・。

トークショーの番組持つのはかまわないけど、次期大統領選に出てくるのだけは、どうかかんべんしてね。



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Wednesday, July 8, 2009

カリフォルニア州、IOU発行

7月4日の独立記念日の連休でボケてたら、あっというまに8日になってしまった。

さて、6月27日付けのMHJ記事『金欠のカリフォルニア、IOUは回避できるか』のアップデートを少々しておきたい。

結局、あの記事を書いた後も州議会では何も進展せず、同州はIOUを発行する運びとなったのはすでにご承知ですね。

カリフォルニア州が発行したI.O.U.、見たことありますか?こんなのだそうです。




ウソです。

しかし、カリフォルニア州のI.O.U.、発行早々、問題が山積みである。

<問題1> EBAYやCraiglistなどのネットサイトでIOUの売買が始まっちまった。7月だけで30億ドル以上(3000億円以上)のIOUを発行する予定だというのだから、このまま放置してたらIOUのブラックマーケットができてしまう。偽造も横行する。そのため、関係当局は急遽、

州からIOUを直接受け取った本人以外の者(=すなわち、ネットでIOUを買った不特定多数のひと)が換金目的で金融機関にIOUを持ちこんでも、売った本人がその人に売ったと証言する内容の“公的文書”をIOUと一緒に提示しなければ換金できない

ということにして当座しのぎ。これを既存の証券取引所で売買できるようにするかどうかはSEC次第。

で、添付せよという、その“公的文書”なるものは、IOUを州から受け取った本人および公証人(Notary Public)の双方のサインがなければ文書としての法的拘束力はないそうですので、ネットでお買い上げの方は、後日現金化するつもりなら、お気をつけあそばせ。

<問題2> さらに、IOU発行を契機に、格付け会社のフィッチがカリフォルニア州発行の地方債(GO=General Obligation Bond)の格付けを格下げ。フィッチは、ついこの間(6月25日)、同GOをシングルAからA-に一段階格下げしたばかりで、7月6日にさらに2段階のBBBまで下げた。同州はおよそ6兆円近いGOを発行済みだそう。

他の格付け機関(Moody'sとS&P)もフィッチに追随することがほぼ確実。これでカリフォルニア州の信用格付けは全米で最低、「地方債なのに格付け機関各社トリプルBでそろいぶみ」などという、かなり嘆かわしいステータスになりそうな気配である。

ちなみに、日本の地方債でいうと、財政パンクしかけた大阪府ですら、たしか、AA格とかじゃないですか?国家の格付けがトリプルAだってのに、その国で最大の経済圏が発行する地方債がトリプルBって、そんな話、聞いたことないっつーの。

<問題3> IOUを現金化するには銀行に持っていくわけだが、バンカメ、シティ、JPモルガン、ウェルズファーゴなど大手金融機関はどこも、「IOUの持込による現金化は今週の金曜日まで」と宣言。(昨日のウォールストリートジャーナルの記事はこちら。)

銀行の言い分としては、IOUを引き受けても、今度は銀行自身がそれを現金化するためのプロセスが整備されていないし、偽造券が混じる可能性も高いから、そんなもの、たくさん引き受けるのはリスク高くて嫌だ、というんである。

銀行が現金化してくれないと、IOUを受け取った債権者は州が小切手を送ってきてくれる10月まで、その現物をジー・・・と持ち続けて待っていなくちゃいけない。カリフォルニアの小規模コミュニティバンクなどでは引き続きIOUを窓口で換金してくれるそうだが、金額が大きくなったら、自分が口座を持っている銀行で換金するのが最も安全で当たり前。

だから、大手銀行がどこも今週一杯で引き受けてくれないとなると、IOU受け取った債権者の中には、資金繰りで冷や汗かくひともいるかもしれない。

(そうやって、州民の州政府への怒りは、さらに膨れてゆく・・・)

   ★   ★   ★

しかし、それもこれも、I.O.U.などというシロモノの金融市場での位置づけがアヤフヤなために生じる問題、である。

いちおう、発行体はカリフォルニア州という全米最大の州政府、年利3.75%という金利付き、米国通貨と換金性があるわけだから、表向きは立派な「債券」である。

だが、証券としての位置づけはこころもとなく、いわゆる「SECの規制対象」になっている証券じゃないし、一般証券のように証券取引所で取引されてるわけでもなく、換金ルートがあらかじめ確保されているわけでもなく、偽造だってお手の物、となったら、誰がそんなもんをまともな証券として取り扱ったりトレードしたりしたいだろうか。

でも、年利3.75%と聞いたとき、MHJ筆者は、買えるものなら買いたい、と思った。

だって、このIOUには年利換算で3.75%の利子がつくんだよ。いまどき、3.75%の年利がつく一年ものCDなんて、アメリカにありますか?CD感覚で保有するなら、この利率、悪くないんじゃない?

bankrate.comでいまアメリカで買える銀行発行CDを見てみたら、年利は平均で1.856%。銀行発行のCDは小額ならFDICの預金保険がついているから基本的にリスクフリー。

3.75%と1.85%の差、1.9%(190bps=ベーシスポイント)は、【リスクプレミアム】、つまり、FDIC(米国政府)の信用力とカリフォルニア州政府の【信用力の差】である。

カリフォルニア州政府がデフォルト起こす確率のほうが、米国政府が米国債でデフォルトする確率より高いと考えるひとが多い、すなわち、カリフォルニア州の【クレジットリスク】は米国のそれよりも高いと思われてるわけである。

さらには、一般の地方債(GO)とちがって、IOUは換金したいときにスンナリ換金できるかわからんという【リクイディティ(流動性)リスク】も、偽造かもしれんという【オペレーションリスク】まで高レベルで一緒にくっついてくるわけだし、(これは筆者には定かではないが)IOUは弁済順位から言っても一般債券(GO)よりも順位が低いんではなかろうかと思われるため、全体のリスクプレミアムとして190ベーシスポイントが妥当かどうか、意見は分かれるところでありましょう。

で、債券市場参加者の意見として、(もしIOUを一般債券としてトレードできるとしたら)どうかというと、「んなもん、額面どおりに買えますか。トレードしたけりゃディープ・ディスカウントかけてね。」というのが大勢のようである。

つまり、額面100ドルだったとしたら、90ドルとか95ドルぐらいにしてトータルリターン上げてくれないと、表面利率(クーポン)の3.75%だけじゃ割りにあわない、証券としては買いたくない。

これからさらなる格下げが待ってる州なんですもん、クレジット投資としては、ディスカウント要求するのがあたりまえ。

怖いのは、IOUをどう取り扱うかというルールや法的整備が整う前に、カリフォルニア州のIOU発行が呼び水となって、全米にいろんな州発行のIOUや準紙幣が出回り始めることである。

そして、連邦政府も、大型景気刺激パッケージを再度用意する必要があるとあちこちで言われてて、そのうち、こんなのまで、ちまたに出回るのでは、と不安である・・・。



これを持参すれば(正規の)米国通貨に換金してくれる銀行窓口は日銀だけ、とか・・・。


   ★   ★   ★


だが、I.O.U.はともかくとして、一般地方債(GO Bond)のほうはどうだろう。

筆者は個人的には、カリフォルニア州政府がGO(一般地方債)でデフォルトを起こす確率は極めて低いと実は考えていて、前回同件について書いたときに紹介したカリフォルニア州地方債のCDSのグラフを見たとき「安い!買いだ!」(←「CDSを売る」というのと同義)と直感的に思った。もっと安くなりそうだ。いまだに現役でアナリストやってたら「カリフォルニア買う準備しろー!」とわめいてることであろう。(笑)

しかし、残念ながら、CDSの売買ってのは一本10万ドルからですので、筆者みたいな「蚤以下の個人投資家」の出る幕などどこにもない。債券ってのは、個人が積極的に参加できる株式とちがって、プロ限定の世界ですかんね・・・。

デフォルト、すなわち、債務不履行ってのは、「予定通りにお支払いいたします」という契約を破る行為であるが、ひとつには、(1)クーポンで払うといっていた利子を払わずに踏み倒す、ってのと、(2)支払いを延期してもらう、ってのと、ふたとおりある。(1)の場合は投資家に実損が生じるが、(2)の場合は定義上はデフォルトだけど経済的な損失は限定的なものになる。

筆者は地方債市場は本業としてやったことないんで、ややいいかげんな知識しかないが、カリフォルニア州の場合、GO債券のホルダーである債権者は、州法で決められている教育関係の支払いが済んだら、すぐその後に、同州から支払いを受ける「権利」を持っており、シュワちゃんの部下達の給料よりも優先的にGO債権者は利子をキャッシュで受け取れることになってるんである。

だから、州の金庫にキャッシュが足りなくなってきたら、シュワちゃんの部下達は給料をIOUで受け取る羽目になるかもしれないけれど、GO債券の保有者は優先的にキャッシュを受け取る。

利払いに必要なキャッシュもなくなっちゃったら・・・その場合は、もう仕方ない、債権者に頭下げて待ってもらうしかない。

だが、「GO保有者がカリフォルニア州政府から利子踏み倒されて経済的損失蒙る」という(1)のシナリオは、「州職員全員が雇用主の州政府から給料踏み倒される」というシナリオより先に実現する可能性は低い。

逆を言えば、州職員の給料払うためには、まず債権者への利子を優先して払うっきゃない。つまり、(1)で定義されるデフォルト可能性は極めて低い、という解釈である。

ただし、カリフォルニア州の問題は、遠くから眺めるかぎり、どうやら州議会の面々が、DCの中央議会の政治家に負けないへっぽこぶりで、そういう市場ルールをぜんぜん理解できずにポピュリズムを振り回す議員がそろってる様子なので、完全にポイントはずした議論を持ち出してきて政治問題化させる、そういうリスクがなきにしもあらずである。

いまどきの米国の地方債市場でいちばん大きいリスクは、この手の政治リスクかもしれない。


   ★   ★   ★


さて、同件について書いた6月27日のMHJ記事に登場した同州の財政担当コントローラーのJohn Chiang氏であるが、7月5日のニューヨークタイムズ日曜版マガジンに掲載された超長文記事『Who Can Possibly Govern California?』を読んでたら、

The state faces a $24 billion deficit, and Schwarzenegger recently joked that his finance director has been placed “on suicide watch.”

同州は240億ドル(2兆4千億円)の財政赤字に陥る可能性を控えており、シュワルツネガーは最近、彼の財政担当ディレクター(=Chiang氏)に
自殺しないように見張りをつけてる、と冗談を飛ばした。

という一文があった。

シュワちゃん、ジョーク言ってる場合か・・・。

Chiang氏よ、どうか気を確かに持ち続けてください・・・。


   ★   ★   ★


ところで、以前も述べたが、地方政府の財政難はカリフォルニアのみならず全米に広がっている。全米州政府の困窮振りを書いた英エコノミスト誌の記事の翻訳版がJBPressに掲載されているそう。(元ネタはPorco Rosso Financial Blogより。)

我がニューヨーク州も、ご多分にもれず、かなりヤバそうである。

それの一種“象徴的”な話を、ウォールストリートジャーナルで読んだ。

911テロで崩壊したワールドトレードセンターの跡地であるが、あそこに新たに追悼ビルも含めた5本の超高層ビルを建築中だが、その跡地新開発プロジェクトが、どうやら、クレジット市場の緊縮と州の財政難のダブルパンチで、頓挫しかかっているらしい。

WTC Talks Approach Stalemate (WSJ 07/08/09)

記事から引用。

A 2006 development agreement that divided responsibility for building on the site has unraveled as Mr. Silverstein has failed to secure financing for his buildings there, and the Port Authority has failed to meet its own scheduling and budget targets.
(中略)New York City Mayor Michael Bloomberg, who is running for re-election this year, said the project is "closer to stalemate" Monday, and urged the Port Authority to meet Mr. Silverstein's financing demands. Mr. Bloomberg serves as chairman of the effort to build the memorial at the site, but the fate of the overall project lies with New York and New Jersey's governors, who control the Port Authority.(中略)The Port Authority, primarily a transit agency, refuses to finance more than one of Mr. Silverstein's office towers, fearing that doing so would prevent it from fulfilling its core mission of operating bridges, tunnels, ports and airports.

(デベロッパーとポートオーソリティ=NY/NJ州交通局=との間で)2006年に結ばれた同意書ではWTC跡地の建設の責任所在は分割されることになっているが、シルバースタイン氏(デベロッパー)はビル建設に必要な資金を市中で確保するのに失敗し、ポートオーソリティ州側はスケジュールとバジェット調整に失敗した。(中略)次期再選をもくろむブルームバーグNY市長は月曜日、「プロジェクトはステールメイト(前にも後ろにも進まない)の状態に近づきつつある」と述べ、ポートオーソリティ側に、シルバースタイン氏が要求している資金確保に早急に手をつけるよう促した。ブルームバーグNY市長は追悼碑建設に関わるプロジェクトの会長だが、このプロジェクトそのものが成功するか否かは、ポートオーソリティを管轄下に納めるNY州とNJ州の知事たちの決断にかかっている。(中略)ポートオーソリティは主として交通機関を司るエージェンシーだが、シルバースタイン氏が経てようとしている5本のビルのうち一本しか資金支援はしたくない模様で、それ以上このプロジェクトに資金を都合すれば、橋やトンネル、港湾や空港、といった彼ら本来のコアミッションを遂行することができなくなることを懸念している。


WTCの跡地は、あの事件からすでに8年近くが経っているが、いまそこに足を運んでも、生々しい記憶が蘇る。

びっしり隙間なく高層ビルが立ち並ぶマンハッタン島の中に、あんなに巨大な空間が、いまだに「空地同然」で残っていることで、あの事件を忘れたくても忘れられないひとのほうがニューヨークには多い。

州の財政難が続き、あの場所も、当分は放置されてしまうのだろうか・・・。

それでなくても気の滅入る話が多いのに、WTC跡地のプロジェクトも頓挫しそうと聞いて、また暗くなった。




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Thursday, July 2, 2009

実在するのか?PPT(米国版PKO)

前回のMHJ記事で紹介した、CNBC局のビデオクリップで、先物トレーダーのLarry Livinが「連休前でマーケットがガラガラのときに、あえて雇用統計を発表するなんて、市場予測よりも悪い数字が出されてくるというサインじゃないのか」とジョークを飛ばしていたが、彼の“予言”通りであった。

6月の雇用状況は再びズブズブ、市場予測36万3千人に対し、それより10万人も多い46万7千人が新たに失業者グループに加わった、という。(実際にはいまだに失業してるが、失業保険をもらえる期間が過ぎてしまったがために失業統計から脱落した人数がこの数字には含まれていない、ということも覚えておいてください。)

今回の雇用統計で、さらに筆者の目を引いたのは、政府関係の雇用まで5万7千件も減った、というんである。6月22日付MHJ記事『求む!(ジェームズ)ボンド・アナリスト』で、民間の失業者は減ってるけど、政府関係はどうなんだろうと疑問を持っていた筆者であるが、政府関係機関ですら、就職は難しくなっている様子である。ま、ジェームス・ボンドばかり、何万人も増えても仕方ないからな。 

ダウはこのニュースを受けて、当然、219ポイントもゴーンと下落。

今日もいつものように朝からCNBCをつけっぱなしにしていたのだが、いつもなら、どんな悪いニュースが出てきても経済は回復に向かっているとプロパガンダを流し続けているCNBC局で、キャスターのひとりが、「悪いニュースにはネガティブに反応する、今日は、そういうノーマルな市場に戻っただけ」と言ったのを、筆者は聞き逃さなかった。

ノーマルな市場」・・・・?

じゃ、「いつもはアブノーマル」なんですかい?うっかり本音を出したな!あとで局の上司にしかられるぞ!(笑)

悪いニュース続きなのに株価はあがる【オカルト相場】に4月から6月まで3ヶ月間も付き合わされて、筆者もいよいよ狂ってきてるのだろうか、最近はこうやって、悪いニュースをあえて良いニュースに変えようと努力している輩(やから)の【揚げ足とり】に喜びを感じるくらいしか、やることがなくなってきた。

話はぜんぜん変わるが、これを書きながら、いまもCNBC局をつけっぱなしにして見てるのだが、さっき(7月2日米東部時間午後4時半ごろ)、ペプシコーラ社のCEOが出て「日本経済は景気回復の兆し(Green Shoots)が出てきている、日本市場は明るい!」とこぶし固めてわめいてましたぜ。ふーん・・・日本もいよいよGreen Shoots、力強い景気回復を迎えるときがきたんですねぇ・・・輸出依存の日本経済がねぇ・・・でもつい先日、グローバル・トレード・フローの統計みたら背筋が寒くなるぐらい急降下してましたけどねぇ・・・ペプシの本社ヘッドクオーターはデフレと円高の日本で高い輸入ワインはやめて安いソフトドリンクを今以上にバカスカ飲むようになるのを期待してる、ってことなんでござんしょうかねぇ・・・へぇぇ・・・。

で、日本在住のみなさんは、ペプシコ社のCEOによる「ジャパン・グリーン・シュート説」に賛同しますか?

   ★   ★   ★

さて、今日の本題に入ろう。

【PKO】というアルファベットを見て、あなたはすぐに何を考えるだろうか。

国連による平和維持活動(Peacekeeping Operations)を思い起こすあなたは、『素直ないいひと』です。

【PKO】=Price Keeping Operations と考えるひとは、『スパイ小説やフィクションだらけのノンフィクションの読みすぎか、007映画の見すぎで何を見ても【国家の陰謀】と結び付けてしまうのが癖になっちゃった、そういうどうしようもないひと』か、あるいは、『証券市場に長くいすぎたために性格が歪んでしまったひと』のどちらかです。

MHJ筆者は、もちろん、最後のケースである。(爆)

Price Keeping Operations、名づけて【PKO】とは、政府が介入することで日本株式市場が値崩れを起こさないようにするという意味で、日本の市場関係者の間では、しょっちゅう「今日はPKOが入ったんじゃないのか?」みたいな会話が仲間内で交わされ続けてきた。

いちおう資本主義で自由経済のもとに自由市場を謳歌する日本国であるからして、もちろん政府は、「はい、今日はいっぱいPKOやりましたよ~!」などと言うわけがない。

だから、【PKO】というと、なんとなく、一般大衆の知らないところで秘密裏に行われている「コンスピラシー(陰謀)」の匂いがする、とでもいいましょうか。(笑)

為替の世界での日銀介入や、債券の世界での国債買取、みたいのは、むかしから世界中どこでも行われているし、政府が介入するのは別に珍しくもないのでは?と考えるひともいるかもしれない。

しかし、国有化は別として、政府が「株式のオープンマーケット」で民間会社の株式を買うという行為は、自分達が発行元の国債や為替の需給調節とはワケがちがう。政府がエクイティを買うってことは、キャピタリズムの哲学自体にかかわってくる話であって、株価形成と透明性という側面でも物議をかもし出すのは必至だから、表立って正々堂々と政府が市場から株式買いあげても許されると公言するような政府は、まずいないんである。

日本には、“公的”に認められているPKOの形態として、政府が銀行のバランスシートから直接株を買い上げる「株式買取機構」や日銀による株買取りってのがありますね。日銀が2002年に株買うってことになったときだって、当時の日本では相当の物議があがった。(政府の銀行からの株買取については、2月3日付MHJ記事『保有株買取のデジャブ』参照。)

しかし背に腹は変えられない、ってんで、結局、日銀はものすごいマーケットリスクを日銀自身のバランスシートに抱えることになるのを承知で銀行から株式を買い取り、民間銀行から中央銀行へとリスクトランスファー(Risk Transfer=リスクの移転)したのであった。もしも日銀もBIS規制の対象銀行だったら、あの当時、日銀がBIS規制で求められる自己資本比率をクリアできたのか、わかったもんではない。

しかし、強烈な金融危機がふりかかって市場がパニックしている最中は、んなこと言ってられない、ってのもありますからね・・・。

<注> BIS自己資本規制というのは、銀行が抱えるさまざまなリスク(クレジットリスク/ソブリンリスク/マーケットリスク/金利リスクなどなど)に対して自己資本を保持することが求められる。株市場のボラティリティが上昇すると、保有株式という資産に内在するリスク量が上昇し往々にして含み損が発生するため、コストベース会計で表記された名目残高(簿価)が変化しなくても、必要となる自己資本額は上昇し、自己資本比率の低下を招く。この問題に対処するには、規制対象の資産そのものを減少させてリスク量を減少させる必要があるが、それは株市場に大量の「売り」が発生するというのと同義になるため、すでに株式市場が極端に低迷していた2002年当時の日本では、銀行から日銀へのリスクトランスファーによって各民間銀行のリスクアセットを低減させて、銀行自己資本の温存に努めたのであった。


   ★   ★   ★


米国でも株価急落の場面は何度も起こっているが、そのたびに、市場関係者の間でささやかれるのが

Plunge Protection Team(略してPPT) 

の存在である。

日本の市場関係者たちが「今日もPKOが入ったな」と囁き合うのとまったく同じ様にして、アメリカでは「PPTが動いているのかな」といった会話が起こるのである。

【Plunge Protection Team】という言葉が広く市場で用いられるようになったのは、1997年2月23日にワシントンポストに掲載された同名の記事が最初といわれている。

ブラックマンデーが起こった1987年10月19日の半年後、88年3月に、当時大統領だったロナルド・レーガンの直礼(Executive Order No. 12631)で急激な市場環境悪化にどう対処するかを話し合うワーキンググループが作られた。メンバーは、財務長官、連銀議長、SEC議長、コモディティ扱うCFTC議長の4人と、そしてもちろん、大統領自身であった。

【PPT】の意味は、Plunge (株価急落)、Protection(防衛)、名づけて『株価急落防衛チーム』!とぉーっ!

当初は、Plunge Protection Teamという名称はこのワーキンググループのニックネームのように使われていたが、次第に「株価操作」というネガティブな意味が前面に出てくるようになった。【政府介入というコンスピラシーの疑惑】が市場内に持たれるようになったのは、2005年、カナダのヘッジファンドSprott Asset Managementのアナリスト2人がまとめた某レポートが巷で話題を呼んだのが発端であった。

Sprottが顧客に配ったこのスペシャルレポートは、

『Move Over Adam Smith: The Visible Hand of Uncle Sam』
(アダム・スミスよ、そこ除けろ:アンクル・サムの見えてる手)

というタイトルがつけられ、延々40ページ以上にわたり、合衆国政府が株式市場にひそかに介入し株価操作を行っているという“アネクドータルな証拠”を集めた内容である。(アンクル・サム=Uncle Sam=合衆国政府のニックネーム)

2005年にこのレポートが話題を呼んだ当時、このレポートを紹介したユタ大学のサイトに、こんなパラグラフがある。

The Plunge Protection Team was institutionalized in 1989 as a follow-up from this working group, and originally included the top public-sector financial authorities. Its role was apparently tested with the Friday, October 13 1989 stock crash. In this case, too, a sudden rush of aggressive buying of index futures contracts via the MMI saved the day. There appear to have been a considerable number of interventions in the wake of that, with the group expanding to include the heads of major banks. Thus, for example, the markets after September 11, 2001, received a heavy dose of intervention. The need for this intervention was so great that its outlines emerged quite clearly in the press.

PPTは1989年にこのワーキンググループのフォローアップとして結成され、当初は他の規制当局も含まれていた。PPTの役割は1989年10月13日に株価が急落したときに明らかにテストされていた。
このときも、MMIインデックス(Major Market Index)のフューチャー・コントラクトのアグレッシブな買いが突然膨大に流れ込み、その日の急落を救った。そのときから、メジャーな金融機関のトップ達が関与してオペは拡大し、そうした市場介入は何度にもわたり行われているようだ。たとえば、911後のマーケットでは非常にヘビーな市場介入が散見された。(911直後の)介入の必要性はあまりにも明らかで、そのためマスコミの目にも留まるようになった。


「インデックス・フューチャーのアグレッシブな買いオーダーが突然膨大に流れ込んだ」ですと。

あれっ?それって、つい最近どこかで聞いた、取引終了間際にインデックス・フューチャー20万本とかいう話に似てませんこと・・・?(笑)

だが、実際に【PPT】が市場の現場で暗躍しているのかどうかは、無論、誰にもわからない。

【PPT】を信じる人もいる。

陰謀ストーリーが好きなブログ連中の空想物語、という人もいる。

従って、公の場で【PPT】の話を真面目にとりあげるものはいないし、それを真面目に取り上げようとすると、みんなで寄ってたかって、「んもー、そんな陰謀説、作り話だよ~、フィクションの読みすぎだってばー」ってな感じで、周囲から苦笑を招くのがオチである。

去年のリーマンショックの熱が覚めやらない頃も【PPT】の話題はあちこちで耳にした。去年11月、CNBC局でまさに「その」話題が取り上げられたときのクリップをYouTubeで見つけた。



上のクリップでは、去年11月18日のCNBC局の番組中に、FortressのトレーダーのScott Nationsが【PPT】による介入と株価操作が行われている可能性があるとコメントしたのだが、同局のキャスター達は全員がスコットの発言を一笑に付し、「そんなこと真面目に信じてるなんて馬鹿みたい、ぷぷぷ」という目を向けていたのがよーくわかる。

だが、スコットがこのときしゃべった内容は、前回のMHJ記事でとりあげた同じCNBC局の番組クリップに登場したLarry Livinがしゃべった内容とは、基本的に同じなのだ。

去年11月にはニヤニヤして真面目に取り上げなかったCNBC局のキャスターふたりは、数日前の番組でもLarry Livinと一緒に登場している。だが彼らは今回は、Larryに対してはScott Nationsに対して見せたような「馬鹿にしくさった態度」は見せていない。それどころか、「Larryの言うことに同意する」とまで言っている。

断っておくがMHJ筆者は陰謀説にはほとんど興味ない。ロスチャイルドがどうした、とか、フリーメーソンがどうした、みたいな話を聞くと「かんべんしてくれ」ってな感じ。このブログも政府陰謀説を広めるために立ち上げたわけではない。

しかし、こと市場の動きに関してだけは、何度にもわたりここMHJで書き続けたように、3ヶ月ぶっつづけで、自分自身が「なんだか変」と感じ続けたのは事実だ。

自分のガッツフィーリングが正しいなんて述べる気も、毛頭ない。だが、長いこと市場の近くにいて「市場の動き」と「(分析以前に)感覚的なものとして得られる実体経済の強弱」とが、ここまで長期にわたって整合しなかったことはこれまで一度もなかった、と正直思っている。

そして、市場でそれなりにリスペクトを得ているプロ達が主要メディアのあちこちに登場して同じことを述べてるのがいい例で、「何か変だ」と感じている者は、半年前と比べ、明らかにその数を増している――。

   ★   ★   ★

この2005年に出されたSprott Asset Managementによるスペシャルレポートだが、オリジナルはここで読める。全41ページの長いレポートだが、興味のあるかたはどうぞ。

このレポートの中には、日本政府も米国政府に加担している、というくだりがあっておもしろい。今日は長くなってしまったので、次回のMurray Hill Journalで、その部分をちょっと紹介したい。(今すぐそこの部分を読みたいひとは、オリジナルレポートの34ページ目からです。)




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