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前回は、カリフォルニア州の公的年金CalPERSが【高リスク/高リターン】投資で出た損失を、同じく【高リスク/高リターン】投資で回復しようとしているという話を書いた。
同じく公的年金について、昨日のボストン・グローブ紙は、マサチューセッツ州の公的年金も、ヘッジファンドを積極的に雇うなどして、(CalPERSのように)【高リスク資産】への相対的なアロケーションが高かったことがアダとなり、23.6%ダウンしたというニュース(Mass. Pension Fund Posts Big Losses)を伝えていた。
マサチューセッツ州は、公的年金ファンドの中ではこれまで常にベストパフォーマーに入っているような優良ファンドだったが、今年(会計年度6月末)は全米でワーストのひとつに加わった。
このニュースを紹介していた『Pension Pulse』というブログの著者は、ヘッジファンド業界が今年の第2四半期に入ってから、かなりの好成績を挙げており、流入する投資資金も増加していることに触れ、次のように書いている。
The real good news for hedge funds is that the markets keep grinding higher. Most hedge funds charge alpha fees for leveraged beta. Sure, they package it nicely, slap on some "risk management" and peddle it through a network of slick salespeople, but at the end of the day, it's "disguised beta".
(今年Q2について)ヘッジファンドにとってグッドニュースだったのは、市場がジリジリと上がり続けたことだ。多くのヘッジファンドが「アルファ・フィー」と称して、ファンドの成績が市場を上回った場合に手数料を徴収するが、それは、レバレッジをかけたベータに対するフィーだ。見た目をよくして、「リスク管理」を謳い、ぬかりのないセールスマンのネットワークを駆使して売り込むが、とどのつまりは、(ヘッジファンドというのは)「変装したベータ」であるに過ぎない。
うむ、なるほど、筆者も同感であるな。ベータが高ければ、相場が良い方向に動いている間はアウトパフォームし、逆の場合はアンダーパフォームする、それだけのことである。
この際だから、ヘッジファンド業界は、手数料を「Alpha Fee」と呼ぶのを今後止めて、「Beta Fee」に名称変更したらどうでしょうか。
ブログ『Pension Pulse』上には、連邦政府(Federal Government)職員の公的年金も昨年度は22%ダウンだった、というニュースも書いてあった。これって、大統領も、その補佐官達も、CIAやFBIの職員も、みな入ってるんですよね?CIA職員の給料は民間より安いので、年金含む福利厚生が命だという話は、以前MHJ記事で紹介したことがありますが、「命の年金」がアクティブ運用のツケでゴソッと減ったら困りますね。
(ちなみに、アルファ重視でアクティブ運用したりせず、ちまちまインデックス運用だけやってたら、20%ダウンだったそうだ。)
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さて、今日の本題、というか、雑感に入る。
一昨日の月曜日(27日)の朝、米商務省が発表した新築住宅(一戸建て)販売統計のリリースによると、09年6月には年換算で384000件が販売され、前年6月より20%以上低い数値だが、5月の346,000件と比べると11%上回ったそう。
ここだけ読むと、明るいな。
月次ベースだと、6月だけで全米で36000件の新築一戸建てが売れた!
しかし、6月のフォークロージャの告知件数は、カリフォルニア州だけで45,691件あったんですと・・・。
下のグラフは『EconomPicData』というサイトから。(左がカリフォルニア州のみのフォークロージャ告知、右が全米の新築住宅販売)
フォークロージャの嵐、とまらず・・・。
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そして、昨日はもうひとつ、住宅市場の話題。
ケースシラー指標が3年ぶりに上昇したというニュース。これで米住宅市場は底入れか!」とウキウキ騒いでるひと、ちまたに多し。
下はロイターの記事から。
5月ケース・シラー米住宅価格指数は約3年ぶりに上昇、前年比は低下が減速
2009年 07月 28日 23:33 JST 記事を印刷する | ブックマーク [-] 文字サイズ [+]
[ニューヨーク 28日 ロイター] スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)/ケース・シラーが発表した5月の住宅価格指数は前月から上昇した。上昇は約3年ぶりで、価格安定化の可能性を示した。
主要20都市圏の価格指数は前月比0.5%上昇した。4月は0.6%の低下だった。ロイターがまとめたエコノミスト予想は0.5%の低下となっていた。
前年比では17.1%低下したが、低下幅は4カ月連続で縮小した。2007年10月から09年1月までの16カ月間は連続で、前年比で過去最大の落ち込みとなっていた。
主要10都市圏の価格指数は前月比0.4%上昇、4月は0.7%低下。前年比では16.8%低下した。
20都市圏中17地域で前年比の数字が改善した。
S&Pの指数を算出する委員会のデビッド・ブリッツァー委員長は声明で「大局的に見れば、住宅価格が幅広く上昇したのは2年10カ月ぶりだ」と指摘。「住宅価格の下落がようやく落ち着きつつある兆候の可能性がある」と述べた。
相場のチアリーダーCNBC局は、例によってキャスター総出で、「ほんのちょっと明るいニュース」を、「ものすごく明るいニュース」にしようと力(りき)んでいたが、先週までイケイケだったナスダック・ハイテク株の決算数値がいまひとつ冴えず、コモディティも足引っ張って、住宅関連の「明るい」ニュースは相場を持ち上げるには力不足だった。今週前半は先週のギャンギャンから全体的にモメンタムを失った雰囲気がただよう。
チアリーダーと言えば、NY連銀のトップ、ビル・ダドリーも、「景気回復は住宅価格の上昇と自動車販売の増加によってもたらされる」と講演したりして、チアリーダーやってるようだ。そりゃー、NY連銀のオフィシャルたるもの、ベージュブックのトーンに忠実に。
それにしても、みなさん、住宅市場に対し、ずいぶんと強気ですこと。
しかしですよ、以前も書いたような気がするが、住宅のような高い買い物をキャッシュで即金で買えるひとなど少ないし、ローンを組むにも、多くが職を失ったり、消費意欲が下がったり、貯蓄率が上がったりしている最中に、高額のローンを組もうというインセンティブがあるとも思えんし、空室率だって賃貸は過去最高、一軒家の空き家も一時より回復しているといってもまだまだ歴史的に高いレベルにいる。
それでも、住宅購入へのデマンドだけは増えて、価格が底入れ(=ここから徐々に上がってゆく)する、なんてことが、実際ある得るんでしょうか・・・。
ここが本当に【底】だというのなら、筆者も、できることなら、NYにいい物件があれば買いたいところだが、なにせいま所有している自宅が売れなければ、そんなキャッシュ、ないですからね。
(余談だが、ニューヨークの不動産に直接関わる友人から聞いた話だが、マンハッタンでは最近、賃貸料が急速に激しく下がってきており、地域によっては10年前と同じレベルまで下がってきた物件もあるという。人気のあるエリアのドアマン付き新築ビルの上層階で1BR(600sf程度)月額レンタル2700ドル、とか。数年前なら月のレンタル2000ドル代というのは、マンハッタンでは、ワンルーム/ステューディオ以外、考えられなかった。レンタルの下げにつられる形で、コンドやCO-OPなどの販売価格も、下落のピッチをここ最近速めてきている、という。税考慮後のRent Equivalence(=税控除できる持ち家の住宅ローン金利分等を調整して賃貸と同ベースにひき直して比較した月額アウトフローのこと)のでみたときに購入する魅力は薄れますからね。)
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ところで、スタンダード&プアーズといえば、ケースシラーを扱ってる部署とは違う部門だけれど、同社のMBSの格付けをするグループが、サブプライムモルゲージおよびプライムのジャンボローンの【損失見込み(Loss Projection)】の数字を、つい最近引き上げていましたね。
<注:豆予備知識> MBS = Mortgage Backed Securities = 不動産担保融資の債権を裏づけとして発行された証券のことで、一般にモルゲージ債と呼ばれる証券化商品のこと。裏づけになる資産が住宅融資だった場合は、RMBS(=Residential Mortgage Backed Securities)、商業用不動産融資だった場合はCMBS(Commercial Mortgage Backed Securities)と呼ばれ、区別される。また、2005年ヴィンテージ(Vintage)と言った場合は、そのMBSが組成された年が2005年だった、という意味。
サブプライムローンが原資産の場合、2006および2007ヴィンテージ予想損失率はそれぞれ32%と40%に引き上げ、だそうである。(←2007年に組成されたサブプライムのRMBSは原資産プールの残高に対し40%の価値が回収不能になる、という意味)ちなみに、今年2月にも同社は同率を引き上げていて、あのときは、25%と31%であった。半年経たないうちに、かなり大幅な修正で、RMBS市場の悪化を見込んでいる(=もっともっと格下げ来るぞ、という意味)そうだ。
また、サブプライムのみならず、プライムのほうも、S&Pによるプライム・ジャンボ・ローンの損失見込みとしては、2006と2007のヴィンテージそれぞれ、5.08%(2月時点では3.65%の見込みだった)、6.97%(同4.5%)で悪化。
S&Pのエコノミストは、底入れまでに米住宅価格はまだ下がるという見方をしている。ケース・シラー指標担当者の「底入れかも」という強気な見方と、RMBSのアナリストやマクロ担当のエコノミストの見方とでは、担当として見ているものが違うとはいえ、同じ会社のロゴつけていながら、えらく対照的である。
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ブログ『Calculated Risk』で、こんなWSJの記事が紹介されてた。
Study Finds Underwater Borrowers Drowned Themselves With Refinancings (WSJ, 7/28/09)
カリフォルニア州立大学の研究者らが、2006年から2008年までの南カリフォルニア地域でのフォークロージャー4000件を対象に調査したところ、半分以上が一度は借り換えを実際にやっており、5件のうち4件は、持ち家を第二抵当に入れていた、という。
カリフォルニア州の2006~2008年のフォークロージャはサブプライムがらみが多いと思いこんでいた筆者だが、この調査によると、実際は必ずしもサブプライム融資を受けていたとは限らず、調査対象となったフォークロージャ物件の購入時期の平均は2002年、多くのケースが(バブル前の)1990年代に購入した家だった、というのである。
また最初にローンを借りるときは、LTV(=Loan-to-Value 鑑定価値に対する融資額の割合)は80%台であった。
だが、注目すべきポイントは、(フォークロージャに至った借り手のうち)ほぼ全員が、家を担保にエクイティを現金化するホームエクイティローンを借りており、調査分だけで、引き出したキャッシュは3億ドルに相当した、という。
その後住宅価格が下落して、LTVは150%近くまで膨れ上がった。つまり、現在起こっているフォークロージャの嵐は必ずしも価格下落とサブプライム融資が問題だったわけではなく、「借金漬け」という体質が招いた結果である、とこの調査資料は結論付ける。
ホームエクイティローンが米国で広汎に用いられ、かのオバマ大統領ですら、イリノイ州の議員時代に自宅を抵当に入れて現金を数度引き出し借金漬けであったことは、ここMurray Hill Journalの5月21日付けの記事でも紹介したことがある。(09年5月21日付けMHJ記事 『オバマ一家を救ったジャックと豆の木』参照。)
オバマ家はラッキーにも印税という予想外の収入が舞い込んで、ミシェルも大幅昇給、その後、大黒柱である夫が「大統領」という「不況下でも4年間保障付き」の【仕事】も見つけてきたのでよかったが、そうじゃなければオバマ家の台所にも火がついていたかもしれない。
仮に、住宅価格がここで底入れしたとしても、問題の本質が、単なる「価格の問題」ではなく、もっと根の深いものならば、米国の消費動向の見込みは厳しい状況が続くのではなかろうか、と感じる。上述したNY連銀のダドリーの言「住宅市場の活動と自動車販売が景気回復を牽引する」という見方は、筆者には、ものすごく楽観的で単純化された話のような気がする。
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