Monday, March 23, 2009

小学生のための「CDSとは何か」(1)

昨日の日曜、CNN局の昼の番組を見ていたら、AIGのボーナス問題をメディアが意図的に焚き付けているのではないかと自己反省(?)するスポットがあった。筆者はすかさず、「大統領オフィスからCNNに文句でも行ったんかな」と感じた。

メディアは一揆ネタを提供するのに余念がない、とは前回のMHJ記事で書いたが、中でもCNNは、この騒ぎの中心に陣取って、煽るにいいだけ煽っていた、その張本人だったんだよ。

そのCNNが、日曜日になったら、急に態度を改めちゃって、

「確かにAIGに問題はある。しかし、メディアが民衆の怒りに油を注ぐような真似しちゃいけないですよ、ねぇ?」

とか、まるでヒトゴトのように、やたら殊勝なこと言っちゃってんである。

CNNのこのトーンダウンぶり。絶対に、昨日か一昨日、政府側からCNN本社のトップに文句入ったな。電話での声はあくまで明るく、しかし、「オメー達のせいで、Toxic Assetsの売却に支障が出たら、どうなるかわかってんだろーな」という内容で、ヤンワリ言われたんじゃないのかな。

2月11日のMHJ記事(「政府主導による市場メカニズム」の矛盾)で、筆者は、ガイトナーのToxic Assetsの処理案てのは、



『給料高過ぎると難癖つけた相手をアドバイザーとしてこきつかい、通称「ハゲタカ」(政界関係者が好む別名「庶民の敵」、「GREEDの代表」)と呼ばれてるディストレス(不良化した資産買取り)専門のプライベート・エクイティの力を借りないと一歩も先に進まない』


そういう案だと書いた。ウォール街は、政府の不良資産買取りプログラムの成功にとって、頼みの綱。

ところが、この数週間の政界とメディアの馬鹿騒ぎ(および、それにマンマ乗せられて、ウォール街近くのAIG本社の前でプラカード掲げてピケ張って騒いでるヒマな大衆)をここまでシツコク見せつけられたら、ウォール街関係者達は、

「政府が用意するカネに関わったが最後、議会とメディアの追求にあって火あぶりにされるのがオチ、そんなアホらしいことにわざわざ付き合ってられっかよ・・・」

というのが本音のところでありましょう。政府はそれじゃ困っちゃう。

CNNは金曜日も深夜までボーナスの件でギャーギャー騒いでたくせに、週末は手のひら返したように態度改め。

バレバレなんだよ、っつの。

ということで、今週の米市場はアホなボーナス問題から離れ、政府の官民共同不良資産買取りプログラムP.P.I.P.(Public-Private Investment Program)、そして、その資金源T.A.L.F.が、具体的にどう作用するかという重要な話に主眼が移る。

しかし、その「CNN殊勝に態度改めます番組」に出演していたビジネス担当の女性キャスターは、

「でも、AIGほか金融機関たちは今後も、情報の透明性(Transparency)をもっと改善すべきじゃないのかしらッ!」

と、あくまで食い下がった。

先週金曜日、NY時間の午前、ゴールドマンのCFOがコンファレンスコールを開き、AIGが公的援助を受けた後に多額のキャッシュをAIGからGSに支払った件につき市場関係者向けに説明した。

このCNNのキャスターは、その話を持ち出して、

「金曜付けのニューヨークタイムズにゴールドマンサックスが述べた内容が記事で紹介されてるけど、いい?その部分を読むわよ。(実際に新聞の記事の一部を声に出して読む) どぉ?このゴールドマン側の説明があなたに理解できる?わたしには、さっぱり理解できないわ!こんなの英語じゃない!透明性に問題があるのよッ!

とヒステリックに叫んだ。(CNNの女性キャスターが音読したNYT記事は、ここ。)

「さっぱり理解できない」か・・・なのに取材させられて、さぞかしイライラしながら取材してるんだろうな、彼女・・・。

   ★   ★   ★


だが、あのコンファレンスコールを聞いて、理解できたひともいるわけでして。

CNNの女性キャスターが理解できなかった理由は、おそらく彼女が債券やクレジットの知識がないのが原因で、「情報開示が悪い、透明性が低い」というのとはまた別の話じゃないかと筆者は思う。

基本的な知識が欠けてる相手に、詳細な内部情報を渡したからとて、どの道、理解できるはずがない。

今週以降、いよいよ、問題のToxic Assets(不良資産)のバランスシートからの切り離しが始まろうとしているが、これは100%債券の世界の話。

対象となる資産は「AAAの格付けが付された証券化債券」で、売り手は不良資産を抱えてしまった金融機関、買い取る側は民間投資家、買い取るための資金は連銀が用意するT.A.L.F.(Term Asset-Backed Securities Loan Facility)資金。民間が資金を提供したら、FDIC預金保険機構が、民間の資金提供者に対し保証を出す。

この証券化債券を買った投資家は、セカンダリー市場でフツウに取引し、売れたら連銀に借りた資金をお返しし、儲けは投資家のフトコロに。こうした流れを作ることで、低迷している証券化市場にカツ入れようとしてるんですな。

債券、クレジット、CDSなどの基本的知識をほんの少し齧っておくだけで、これから起ころうとしていることが理解しやすくなると思うので、クレジットの世界に長年籍を置いたひとりとして、ごくサワリの知識だけだが、紹介したい。

   ★   ★   ★

AIGの件で死ぬほど登場した、クレジット・デフォルト・スワップ(Credit Default Swap、略してCDS)だが、そもそも、CDSとは何か。

CDSをザックリ説明したサイトは結構ある。たとえば日本語のウィキペディアのCDSの項を参考にする手もあるが、あそこまでザックリしすぎると、かえってわからなくなるもんですね(笑)。

CDSがクレジット市場の取引で実際どう使われてるかの「実務偏」基本情報は、債券運用世界最大手のピムコ社のサイトのここが、どこよりうまくまとまっているので、参考にされたい。

しかし、世の中には、ピムコのサイトを読んでもチンプンカンプンというひとの方が少なくないだろうし、CNNの女性キャスターみたいにヒステリー起こされてもかなわないんで、MHJでは“小学生向け”に説明することにする。わかってるひとは飛ばしてください。

   ★   ★   ★

本題に入る前に、「債券」という証券について押さえておきたい。いっぱんになじみの深い株式と決定的に異なる点は、債券というのは、青天井で儲かる種類の投資ではない、ということだ。

株式なら、うまくいけば、元手の投資金額を何倍、何十倍、何百倍にすることだってできる。持とうと思えば20年だって30年だって、その会社が存在する限り持ち続けることもできる。一攫千金の可能性あり、夢いっぱいの投資だ。

しかし、債券というのは、(1)いくらの金額を(=額面)、(2)いくらの金利で(=クーポン)、(3)どれくらいの期間持つか(=償還期日)、という条件があらかじめ決まっていて、期間が過ぎれば、もっと持っていたくても、償還されてしまう。しかも、償還されるときに手元に戻ってくるカネは額面以上にならないんだから、夢のない世界なんです。

しかし、そんな夢のない証券も、日々、金融街でトレードされていている。たとえば期間10年という条件がついた債券を買っても、10年間ジーと償還期日が来るのを待ってる必要はない。債券にも、中古(?)の債券を売買する巨大なセカンダリー市場が存在する。債券市場の規模は株式市場とは比べ物にならないほど巨大なマーケットで、そこは1%の100分の1(1 basis point=1ベーシスポイント)という金利の小刻みな動きに一喜一憂し、リスクが上がった下がったとわめいているプロの投資家集団のたまり場。

だが、ひとことで「債券」と言っても、国債、社債、スワップ、証券化商品、などなど、債券の種類もたくさんあって、それぞれが極めて専門性が高いために、棲み分けがハッキリしており、国債関係者が証券化商品の取引にも関わるということは、まずない。それぞれの分野で、何がリスク量を左右するかがまったく異なるからだ。

(余談だが、筆者は現役中に株式サイドも債券サイドも両方経験したが、ハッキリ言って、債券サイドってのは、四六時中ウジウジとダウンサイドのリスクのことばっか考えているせいか、懐疑的で性格暗く、重箱の隅つついて一人ニタニタしてるオタクみたいなひとが多い。その点、株式サイドは、アップサイドに夢を抱いていられるせいか、打たれ強くて能天気、実はあまり深く考えてないんだが知ったかぶりは得意、みたいなひとが多い、という印象である。)

さて、社債投資であるが、あなたの手元にいま100万円の現金があるとしよう。ある会社があなたの100万円を借りたいと思っていて、10%の金利払いますから1年間貸して欲しいと言う。あなたは、額面100万円の債券を金利10%で額面と同じ100万円で買うのに合意したとしよう。債券というのは貸す側と借りる側とで結んだ「契約」なんである。

ところがその1年後、この会社が事業に失敗し、払うと言ってた10%の金利と元本を払う余裕がなくなった。

あなたが一年前に債券と引き換えに貸した100万円がどうなるかというと、この会社は、他のひとから新たに別の100万円借りてきて、約束した金利も付けて、あなたに返そうとする。契約どおり返してもらったら、あなたはハッピー。しかし、新たに100万円貸してくれた相手は、10%じゃ足りない、15%の金利付けろ、と言う。

同じ会社が同じ100万円借りるにも、支払う金利は高くなっちゃった・・・。だって、この会社、事業に失敗したんだもん。つまり、この会社の信用力は落ちてしまった。信用力が落ちると、高い金利を支払わされる。貸す側は相手が信用できない分、高い金利を請求し、取りっぱぐれるリスクを回避しようとする。取りっぱぐれる、すなわち、デフォルト(債務不履行)起こされたら困りますんで。

つまり、これが「信用リスク」、「クレジット・リスク」という概念である。

この信用リスクという【概念】に具体的に値段を付けて取引する市場、それがクレジット市場である。

        (続く)

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Saturday, March 21, 2009

墓穴を掘り続ける米国、火の粉はCDS履行にも

怒涛の一週間が終わった。

アメリカのメディアで今週、一体何度「ボーナス」という言葉が出てきたのだろう。

テレビはどのチャンネルつけても「ボーナス!」「ボーナス!」、新聞も連日紙面トップで「ボーナス!」「ボーナス!」、道歩いててすれ違いざまに聞こえてくる市民の会話も「ボーナス!」「ボーナス!」・・・

・・・いいかげんにしてほしい。

3月17日付けのMHJエントリー『AIGは死んでお詫びを:政治筋「ハラキリのススメ」』で書いたように、(1)AIGが払ったボーナス額=1億6千500万ドル、(2)米国がAIGに用いた公的資金総額=1730億ドル、(1)÷(2)=全体の0.1%以下。

「納税者のためズラ!」と御旗を掲げ、米議会総出で百姓一揆さながらの騒ぎを繰り広げているが、完全に優先順位を間違っておる。

昨夜の某局の討論番組でもAIG問題が議論されていたが、そこで、あるジャーナリストが、「政界はボーナスのことばかりに気を取られているが、それは問題全体からみれば氷山の一角、それよりもっと大きな問題に目を向けるべきではないのか」と発言し、筆者はその新鮮さに雷に打たれたようになり、一瞬、噛んでたパスタを飲み込むのも忘れたね。(←またもや「パスタの夕食」か・・・)

口の端からスパゲティ垂らしてTV画面を食い入るように見つめ、その先を息を殺して待っていたら、そのジャーナリストは、こう続けた。

「AIGにこれまでに使われた公的資金総額のおよそ3分の2が、他の大手金融機関に流れたことが判明した。しかし、AIG経由で金を受け取ったとされる金融機関たちは、すでに多額の公的支援を受けとっているではないか。公的支援を受けながら、なおもAIGを食い物にしようとしている、これらインベストメントバンク達の責任は追及しなくてもいいのか。」

この発言を聞いて、筆者はパスタ吐きそうになったよ。

期待に胸膨らませていたのに、こいつも、やっぱり全然わかってなかったんである。

このジャーナリストは、3月15日付けでAIGがリリースした「昨年秋にAIGに向けられた国からの緊急融資の使い道」のことを言ってるんだよね。

NYタイムズがまとめてくれたリストによりますと、AIGからお金受け取った金融機関とそれぞれの額は、

 ‐Goldman Sachs ($12.9 billion、129億ドル)
 ‐Merrill Lynch ($6.8 billion)
 -Bank of America ($5.2 billion)
 -Citigroup ($2.3 billion)
 -Wachovia ($1.5 billion)

たしかに、全員、公的資金のお世話になってる会社ばかりですわね。

リストには、米国のみならず、欧州の主要金融機関も入っていた。

 -Société Générale of France ($12 billion)
 -Deutsche Bank of Germany ($12 billion)
 -Barclays of Britain ($8.5 billion)
 -UBS of Switzerland ($5 billion)

ボーナスの百姓一揆にそろそろ飽きてきたのか、次に何を言い出すかと思えば、これだ。

AIGのリリースに書かれてあるとおり、これらのお金は、CDSという契約書に従って、債務を履行しただけのこと。ビジネスはビジネス、契約は契約、払うことになってたんだから払うまで。

しかし、ボーナス一揆の興奮ひきずる政界で、一揆ネタをフィードするのに余念のないメディアで、そして、ネタをフィードされるままにヒステリアに一緒に参加する一般大衆の間で、いま、ボコボコと噴出し始めているのが、

「納税者のカネで緊急支援してやったのに、それをエサにしてまだ金儲けしようとしているウォール街」

というトーンである。

海外勢については「ガイジンのくせに、米国納税者のカネにたかりやがって」というトーンも混じる。

これは危険な動きであるな・・・。

世間は、ボーナスの話題にはいいかげん飽きてきてるけど、ウォール街バッシング(=魔女狩り、火あぶりのアトラクション付き)そのものには、まだ、ぜんぜん飽きていない。

あらたに「追求すべきネタ」を探し、目をギラギラさせている。昨日のNYタイムズの記事(AIGが3億ドル相当の税金リファンドを求め国家を相手に訴訟を起こしている、という記事)などは、その最たる例である。

だが、いまになって、「AIGが、国から融資をしてやったカネを、他の金融機関に横流しした」といいがかりをつけるのは間違っている。

なぜなら、去年の秋、当時の財務長官ポールソンと連銀のバーナンキ議長がAIGに緊急融資を施す決定をした時点で、あの緊急融資は「それが目的だった」のだから。

ボーナス問題が火付けになって、そこから火の手はどんどん拡大し、いまや、問題の核心部分にいる「クレジット・デフォルト・スワップ(Credit Default Swap=CDS)の履行」にまで、【糾弾】の火の粉が飛びそうだ。

CDS、CDO といったクレジット市場での金融取引は、ウォール街で働くプロフェッショナル達ですら、それを専門に扱う部門で働いていなければ、ちゃんと理解はしていない。

ましてや、政界関係者や一般大衆が、CDSだのなんだの言われたって、何のことか理解できないのは当然である。

しかし、「CDSの履行」ばかりは、無知な集団が感情にまかせて「糾弾の対象」にして大騒ぎを始めると、これは、相当やっかいで重大な問題に発展する。

なぜならば、CDSというのは、現在政府当局が手を尽くして解凍させようとしているクレジット市場では要(かなめ)というか背骨に相当するプロダクトであり、政治的思惑がCDSの履行にまで口を挟み影響を及ぼすようなことになれば、クレジット市場のコンフィデンスはさらに失われ、グローバルで流れている資金市場そのものが崩壊してしまう、そういうリスクをはらんでいるから、である。

資金市場の完全崩壊・・・そのリスクこそが、いま最も恐れられているリスクなんである。

ボーナス問題で90%課税になるまで徹底的に叩かれまくり、こんなことが続くようでは、金融機関は誰も公的資金をもらいに来なくなるし、公的資金早期返済のために銀行の自己資本が減ることになれば、金融機関のリスクテーキング能力は限定され、クレジット市場の資金還流の回復が遅れ、結果として景気回復を遅らせるだろう、とは前回のMHJエントリー(『議会は魔女狩りモード』)で述べた。

しかし、CDS履行への米政界の介入は、自己資本早期返済の悪影響どころじゃないインパクトを世界中に産むよ。

どの国にいようとも、米国で繰り広げられてる集団ヒステリアの魔女狩りショーを、海の向こうからヒトゴトのように眺めていることはできなくなる。

CDSは、真の意味で「国境のない金融プロダクト」だからだ。

次回からクレジットとCDSについて、少し説明したいと思っている。

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Thursday, March 19, 2009

議会は魔女狩りモード

今日も前回に続き、AIG問題。

【空気の読めないズレ会社AIG】のせいで、ボーナス支払い問題は、議会でその後もどんどん火の手をひろげ、T.A.R.P.から公的資金を注入してもらった他の大手金融機関の従業員も巻き添え食うことになってしまった。

今日の米議会ではついに、AIGのみならず50億ドル以上T.A.R.P資金を受け取った会社の従業員について、「一家の収入が25万ドルを超える従業員にボーナス支払ったら、ボーナスに90%課税する」という前代未聞のアホルールが、328-93という大差で下院を通過してしまったんである。

つくづく、政治家ってのはアホばかりだな!



下院議長のナンシー・ペロシなどは、

「納税者のお金を一刻も早く回収するのが我々の使命」

とか、えらそーなこと言ってたが、この法案にYESの票を入れた奴らは全員、今後は名刺に「低脳なポピュリスト」というタイトルを、名前の横に刷り込むべきである。

もっともらしいことを議論してるフリしてるけど、議会で話合われているボーナス問題の実態は、単なる【魔女狩り】に過ぎない。

自分達が政治家としてずっと見逃していた問題にはほっかむりして、責任のすべてをウォール街になすりつけ、火あぶりの刑に処せと騒いでいるだけ。

サブプライムローンの問題も、一から十までこれら金融機関のグリードのせいであるようなことを言ってるが、サブプライム融資、とりわけ、所得が低い層に対して最初から返済不可能と見えるようなローンを借りさせてローン市場で売りさばき鞘を抜く悪徳業者については、2002年ごろから、いろんなところで問題視されていたんだ。

こういう悪徳業者を、こちらでは、プレデター・レンダー(=Predatory Lender、借り手を食い物にする貸し手)と呼ぶのだが、Predatory Lendingの問題は、AIGがCDO向けCDS市場で暗躍しはじめるはるか前から、あちこちで表面化していた。もっと厳しい取締りを全国的にやったほうがいいのではないか、という意見も、方々で上がっていた。にもかかわらず、

「それは、州ごとに勝手にやっててね~~、中央の政府と議会はイラクで忙しいからね~~」

と暢気に構え、州レベルに丸投げし、連邦レベルで取り締まりを強化して高リスクの住宅融資が拡大するのを抑えようという気なんて、当時の議会には、小指の先ほどもなかったんである。(うそだと思う方は、2002年から2006年ごろまでの、業界紙『American Banker』をお読みください。)

低所得者層を食い物にしてたPredatory Lendersをバブル破裂まで野放しにしてたのは他でもない、いま議会で連日「ウォール街焼き討ち」の陣頭指揮をとっている政治家たち、彼ら本人である。

毎日、ニュースで流れてくるのは、米議会で繰り広げられている、「誰のせいか」の指の指し合い。

ったく、見苦しいったら、ありゃしない。

   ★   ★   ★

25万ドル以上稼いだら90%課税されるとなったら、誰が、そんな仕事をしたいでしょうか?

以前から、ここで指摘してきていることだが、ウォール街に責任を押し付けるのは、何もわかっていない一般大衆には「受け」がいいかもしれないが、以下の3つで、米国には、結果としてネガティブに働く。

(1)政府がこれから大掛かりにやろうとしているToxic Assetsの買取りは、対称が複雑な仕組み債であるだけに、この特殊債券の分野で専門知識を持たない者には、セカンダリー市場で取引できない。つまり、オバマ政権は、特殊な専門知識と経験をウォール街で積んだ人間たちを絶対に必要としており、実際、アメリカ財務省は現在、T.A.R.P.のプログラムのためにこの分野での市場経験者を多数採用している最中である。しかし、どんなに働いても報われないとわかっていて、死ぬ気で働く馬鹿はいない。

(2)何十年も「ボーナス命」でやってきたアメリカ金融街の給与体系を、いま、ドラスティックに変えることは、タレントビジネスの側面を持つフィナンスのビジネスからの才能流出が起こり、結果としては、米国の金融機関の競争力を失わせることになる。(2月9日付けのMHJ記事『オバマの英雄物語につき合わされるのはごめん』参照)

しかし、これら2点よりも、今回の動きには、もっと深刻な【副作用】がある。

(3)上記(2)の才能流出を抑えるために、GS、MS、JPM、BACなど大手が何をしようとするだろうか。

この動きは、T.A.R.P.プログラムから注入してもらった公的資金をできるだけ早期に返済しようというインセンティブをこれら大手金融機関に産むんである。

それのどこが問題なの?とお思いでしょう。

それはですね、「金融機関のリスクテーキングというのは自己資本の厚みに直結している」からであります。

もう少し説明しよう。

現在、金融市場が直面している最大の問題は、株安でもなく、住宅価格が低迷してるという話でもなく、「クレジット市場が凍結してる」ということなんである。

昨日、バーナンキ率いる連銀が米国債を3000億ドル買い取るというニュースが出て、米国債長期金利がガタンと低下し、モルゲージローンの30年金利もつられて低下、一月以来ふたたび5%以下に落ちた。

しかし、金利がどんなに低くなっても住宅着工はパッとしない。その理由は、市場にコンフィデンスが欠如していて、たとえ借り手がいたとしても、貸し手が必要以上にリスクを回避しようとし、積極的に貸し出そうとしないから、である。

米クレジット市場がいまだにどれぐらい氷河期にいるかというのは、次のグラフをみてもらいたい。


このチャートは、CDR Counterparty Risk Index と呼ばれるデータの過去一年で、グローバルで取引を行う世界主要金融機関15社のCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)の取引水準をベーシスポイントで示したもの。

債券の取引、とりわけクレジット・デリバティブスというのはそれを専門にやってるプロ限定の市場のため、債券売買に関わったことのない人たちには、わかりずらいのであるが、一般に「金利というのはリスクが高まると上がり、債券というのは金利が上がると価値が下がる」と覚えていてもらいたい。

上のチャートはCDSの金利の水準ですから、取引のカウンターパーティ(相手)になっている銀行の信用力が下がっていて、銀行群のリスクは高まっていると市場でみなされている、という意味になる。

このチャートを見ると、一年前100のあたりをウロウロしていたCDSインデックスが、リーマンショックで乱高下、政府や連銀の対応などで年末にかけていったん落ち着いて見えたものの、今年に入ってから、金融機関発行のCDSは、ふたたび上昇トレンドを描いている。

世界中の政府当局が、銀行に公的資金を入れたり、中央銀行が貸し出し枠を広げたり、と、一生懸命金融機関のバランスシートが干上がってしまわないよう八方手をつくしているのに、金融機関の信用力は、株安によるセンチメント悪化も手伝って、回復しないどころか全体として悪化しているのである。

このチャートから読み取れるのは、いまのクレジット市場は、ものすごくリスクに対して萎縮しており、リスクを回避するのに頭が一杯になっている。誰もがリスクを積極的に取りたがらない。

つまり、たとえ手元に貸せるお金があっても、銀行は必要以上に慎重になっちゃってるから、スムーズに資金を提供しようとしない、すなわち、クレジット市場が凍りついている、ということなんである。

では、金融機関がリスクを取りやすくするには、どうしたらいいのであろうか。それは、自己資本に厚みをつける、のが最も効果的なんである。

金融機関のリスクテーキング許容量は、自己資本の厚みに比例するから。

国家がT.A.R.P.資金(公的資金)を用いて銀行に資本注入したのは、多額の損失が出続けて銀行の自己資本が厚みを失ってしまったため、それをふたたび厚くしてやって、金融機関のリスク許容量を増やしてやろうとしたんであるな。

なのに、低脳議会は、ナントカの一つ覚えみたいにボーナスボーナスとわめき続ける。政治筋がウォール街に敵意を向ければ向けるほど、銀行は、公的資金をできるだけ早期に返済しようという動きに出るよ。

しかし、公的資金の返済は、すなわち、自己資本が低下するという意味になり、その分銀行のリスクテーキング許容量は低下し、公的資金注入の大義名分だった「クレジット市場の流動化を促す」という本来の目的には、結果として【ネガティブ】に作用する

そういう一連の流れが、米議会の低脳どもには、ぜんぜんわかっていない。

銀行自己資本規制に明るいバーナンキとガイトナーには、わかっている。

数日前からカリフォルニアに行ってるオバマ大統領には、おそらく、いまごろ、バーナンキとガイトナーが電話口にぴったりくっついて、これはマズイことになってきた、議会の動きを阻止したほうがいい、と助言しているはず。

それでも、オバマが議会の決定を支持するようなことになったら、「オバマもしょせんは只のポピュリスト」であるということなので、筆者のオバマ大統領への信頼は瓦解する。

ダウも下がる。

市場が引けた後、AIGのボーナス問題の責任を取らされて、ガイトナー財務長官が辞任するのではという観測が流れていた。

問題の本質とはかけ離れたところで、【ヒステリア】だけが膨らんでゆく・・・。


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Tuesday, March 17, 2009

AIGは死んでお詫びを:政治筋「ハラキリのススメ」

昨日のエントリーで、【空気の読めない会社AIG】についてチラリ言及したが、一夜明けた今日、米議会と米メディアによるAIG叩きは、本気でものすごいことになってきた。

アメリカの今日のテレビは、CNN局を筆頭に、朝から晩まで「AIGのボーナス」の話題で持ちきり。

たしかに、AIG、どうしようもない会社である。失業率が10%目指して突進してる最中だってのに、一億円以上のボーナス受け取ったエグゼクティブが80人近くいたというニュース聞いて、世間が許してくれるわけがないではないか。

ニュースの詳細を聞いていると、問題の$165ミリオンの半分近くが80人程度のシニアエグゼクティブに渡り、残り半分をあとの320人で分け合った、ってことですね。

今日見たNHKのニュースでは、「一人当たり平均すると4000万円!」とか言ってたが、もう少し詳しい計算すると、トップ80人は別として、残り320人は平均25万ドル程度のボーナスだった、ってことですよね。

25万ドルのボーナスを多いと感じるか少ないと感じるかは、それぞれだろうけれど、前から言ってるように、ウォール街という業界は「ボーナス命」の業界で、ボーナス除いた「基本給」だけ見ると、実際少ないんであるよ。

そして、ニューヨーク・シティという街自体、テキサス州ヒューストンで5万ドル稼いでる人と同じ生活水準を保つにはニューヨークでは12万ドル必要、という統計もあるくらい生活費が高い街でもありまして、ニューヨークの住民がもらう25万ドルのボーナスが「法外」と言うのは、どうかとも思う。

筆者は別にAIGを擁護しようと思ってるわけでもないし、お金の“額”の問題じゃないことも、わかってる。この一件をどういう角度からながめようと、「AIGは空気の読めないボケ会社」という事実自体は変えようがないわけでありまして、このボーナス問題は政治的に尾を引きそうだ。


   ★   ★   ★

ワシントンDCの政治筋からは、怒りの声が次々とAIGに対しあがっており、今日は早速、

「公的資金を受け取った金融機関が従業員にボーナスを支払ったら、そのボーナスに高率の消費税(Excise Tax)を掛ける」

という方向で、議会で議論が進んでいる。

議員の中には、どうやっても怒りを抑えることができず、プルプル震えながら、

『AIGはジャパニーズスタイルでお詫びしろ!』

とテレビの画面いっぱいに叫ぶ議員までいた。

「ジャパニーズ・スタイルのお詫び」って何のことだよ、と思ったら、「自殺しろ」ですと。

アイオワ州選出の上院議員チャック・グラスリー(Chuck Grassley、共和)の言葉である。

"I would suggest that the first thing that would make me feel a little bit
better towards them [is] if they would follow the Japanese example and come
before the American people and take that deep bow and say I'm sorry and then
either do one of two things: resign or go commit suicide."

『AIGの幹部に勧めたいことがある。日本の慣例に従って、アメリカ国民の前に出てきて深々と首を垂れ、申し訳なかったと謝罪して、それから、次の二つのどちらかを選べ、と。二つの選択とは、辞任するか、自殺するか、だ。もしAIGがそうしてくれたら、わたしも少しは気分が晴れるというものだ。』

.
グラスリーはさらに、「たいていの日本人は謝罪する前に死を選ぶ」とまで続けた。

おい、いつから、「自殺する」が「ジャパニーズスタイル」になったんだよ。勝手に日本の慣例を作らないでほしいよな、ったく。

これだから、政治家ってのはダメなんだ。

こういうパフォーマンスで、有権者から点数稼ごうという、それしか能がないんだから。

AIG側は、このショッキングな(?)自殺のススメに対し「こういう感情的な発言が出てくることを遺憾に思う」とわざわざコメントまで出していた。

AIG問題、日に日に、「お茶の間コメディ」に姿を変えつつある・・・。

   ★   ★   ★

しかし、ここで冷静になり、考えて欲しい。

(a)米国政府がAIGに突っ込んだ公的資金の額は1730億ドル。

(b)議会総出で連日大騒ぎを繰り広げている問題のボーナスの額、1億6千500万ドル。

(b)÷(a)= 0.095%

このボーナスを全額返上させたところで、政府のフトコロに戻るのは、全体の0.1%以下。

0.1%にも満たない額に対し、ポリティカル・エネルギーのすべてを注ぎ込んでる暇が、一体どこにあるんだ、と筆者は言いたい。

チャック・グラスリー議員みたいのには、クレジット・デフォルト・スワップとか言ったって、何のことか全然わからないんだろうし、その他政界筋の多くが、AIG問題において【唯一理解できる】のはボーナスの話しかないんだろうから、ボーナスボーナスと騒ぐのは、それなりに理解できますけどさ・・・。

でも、朝から晩まで、ボーナスの話ばかりで、筆者はいささかウンザリである。

住宅関連の延滞問題が全然解決してないってのにですよ、次はクレジットカード支払い延滞の大問題がすぐ目の前まで迫ってる、そんな緊急時に直面してるってのに、ですよ。

サブプライム住宅ローンだけじゃなく、クレジットカードのローンをベースにして作った【仕組み債】(Structured Bonds)だって、ゴチャマンと世の中には流通しているんである。

このクレジットカードの仕組み債のデリバティブスに対しても、AIGはCDSを発行してるんだぜ。

仕組み債のデリバティブスというのは、レバレッジがものすごくかかってるので、延滞率がほんの少しでも「証券化された時点での“予想”延滞率」を上回ると、突如として、債券に内在するリスク量(=デフォルト可能性)がガーンと増え、債券価値はゴーンと下がる、そういう代物なんだよね。

AIGがサブプライムのCDOという複雑な仕組み債デリバティブスに対してCDSを発行し、そこから多額の損失が発生して公的資金を仰ぐ結果になったのも、経営者がアホだったから、とか、ボーナス払いすぎてたから、とか、そういう単純な話じゃなくて、サブプライムローンの延滞率が当初予想を上回ってしまったから、なんだから。

で、2008年4Qのクレジットカード延滞率ですけどね・・・これが、ビョ~ンと跳ね上がったんである。そして、前回の日記でも書いたように、今年2月の延滞は増加しているというアメリカンエクスプレス社の証言もあり。

AIGのCDS問題が、ここで出尽くしたと思うなよ、米議会。

クレジット市場の回復がさらに遅れたら、AIGの資本基盤はさらに毀損が生じ、またまた公的資金を入れてやらなくなるかもしれない。

0.1%の問題に延々と関わってるヒマなんて、いまのアメリカの政界には、どこにもないんだっつの!

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Monday, March 16, 2009

Political Will(政治的意思)の欠如が最大のリスク

アメリカでは毎週日曜日の夜7時からCBS局でインタビュー番組『60ミニッツ』が放映されるが、昨夜(15日)は、連銀議長バーナンキが登場した。

民間テレビのこういう場に連銀議長が独占インタビューで出てくるのは極めて珍しい。

この話題のインタビューは、全編ここで見ることができます。
http://bubblemeter.blogspot.com/2009/03/ben-bernanke-on-60-minutes.html

このインタビューで、バーナンキ議長は「金融システムの正常化が進めば、2010年には米国はリセッションから抜け出ることができる」と、以前から述べている内容を繰り返した。

また、世間では政府による銀行救済への批判が高まっていることについて問われると、議長は、「隣家が火事のときに、消防車を呼ばずに、そのまま燃やしておけばいいと放っておくと、いつしか火の手は隣家に及び、被害はさらに大きくなる」というアナロジーを用い、大手金融機関救済はシステミックリスク顕現化を防ぐためには不可欠であることを強く主張。

3月11日のここのブログ記事で紹介したように、議長はあらためて、しかし今度は万人が観ているマスメディア上で、【Too Big To Fail(大きすぎて潰せない)】を認めた。

バーナンキの発言を日々追いかけている者たちには既に聞いた話ばかりかもしれないが、『60ミニッツ』のように米国人のお茶の間でも高い人気を誇る一般向けのテレビ番組に出演して、ここまでハッキリと【Too Big To Fail】を正当化する連銀議長は、過去にいなかったのではなかろうか。

【Too Big To Fail】というコンセプト自体モラルハザードという裏側の顔を持っているものだし、なにより、アメリカの自由市場主義とは最初から相容れない考え方ですからね。

バーナンキは「隣家の火事はまだ続いている。政府当局は今、火消しにやっきになっている。火を起こした犯人の処罰は火を消してから考えればよい。いまは火消しが最優先だ。」と述べた。

そうだ!そのとおりだ、議長!!(拍手)

WSJによるエコノミスト調査では、議長の成績は71点だったが、筆者は85点ぐらいあげてもいいと思うな。

   ★   ★   ★

こうやって、連銀議長みずから、わざわざマスメディアにまで登場して、【世間の理解】を仰ごうと頑張ってるっつーのにだな、

AIGのアホンダラ

いまだに、そこのところが、ぜんぜん飲み込めていないようである。

政府から1780億ドルも公的資金入れてもらって、いまや80%政府保有になっているAIG、納税者の皆様のお金を受け取った「後」に、エグゼクティブクラスの従業員400名にボーナスとして$480ミリオン支払ったというのがバレて、またまた大騒ぎである。

今日はオバマ大統領までカンカンになって出てきて、絶対にボーナスは払わせるなとガイトナーに指示した、と表明。

ところが、AIG幹部は「でもぉ・・・先週の金曜日に、もう、みんなに支払っちゃった・・・・」とボケたこと言ってるんである。

筆者も、かつての古巣ウォール街には知り合いも多いことだし、ボーナスがないと生活できないファミリーを沢山知ってるんで、「ウォール街のボーナス体系については、巷では誤解されてるところある云々」と、それなりに擁護するようなことをここに書いたりもしたが、今回のAIGのボーナス騒ぎには、さすがに呆れ、AIGよ、調子こくのもええかげんにせぇ!と大声で叫びたくなったね。

かつてウォール街で「当たり前」とされてたロジックは、もはや通用しないんだってことが、どうしてこの期に及んでもわからんかな。AIG、つくづく、空気が読めない会社・・・。

   ★   ★   ★

おっと、おもわず、AIGの件で脱線してしまった。

また、話題をバーナンキに戻す。

バーナンキは、現在金融システムの安定と景気回復への道を阻む最大のリスクは

Political Will 

であると述べた。


“The biggest risk is that, you know, we don’t have the political will.(中略)Recovery is not going to happen until the financial markets and the banks are stabilized.”

『最大のリスクは、ご承知のように、今の政界にポリティカルウィル(政治的意思)がないことだ。フィナンシャル市場と金融機関が安定するまでは景気回復は起こらない。」


経済音痴マケインを筆頭に、問題の本質論なんぞはそっちのけで、マスコミに踊らされやすい世論のいちいちにポピュリスト的立場をとることで見せかけの正義を振りかざし、しかしその実、つまるところは「共和vs民主」といったポリティカルゲームに明け暮れるしか能がない政治家連中に、またもや牽制を送ったのだ。

しかし、筆者は、昨夜のバーナンキのこの発言を聞いたとたん、急に10年前にタイムスリップした。

これとまったく同じ言葉を、10年以上前に、どこかで確かに耳にした。

どこで誰が言ったのだろうと、手持ちの古い資料をひっくり返してみたら、あった。

1998年4月、ワシントンDCで開かれた某シンポジウムの席で、バブル崩壊後の泥沼から抜け出せなくなっていた当時の日本を、このフレーズを使って批判した米国の当局関係者がいたのだ。

1980年代のS&L危機当時、FDIC米預金保険機構のチェアマンとして、破綻銀行の処理を実際に手がけたウィリアム・サイドマン(William Seidman)である。

サイドマン氏の言葉は、こうだった。


There is no political will to do any of the tough things that we were required to do.(中略) Eventually they will have to do something if they want their economy to recover."

『(日本では何故いつまで経っても金融システムが安定せず景気回復が起こらないか、その理由は)米国が危機当時やらざるを得なかった厳しい取り組みのどれでもいいから行おうという政治的意思が、日本には欠如しているからだ。経済復興をめざしたいというのなら、日本も、どこかの時点で何かをやるねばならないだろう。』

1998年4月の段階で、日本政府が何もしてなかったかというと、実はそんなことはなくて、当時の日本政府は、住専問題以来の政治的タブーを押し切り、1兆8千億円もの公的資金を銀行に資本注入してやったばかり、だったんである。

当時の日本では、どうして国民の血税をそんなことに使わなくちゃいけないんだという不満や、銀行なんて潰してしまえという世論の大合唱だったんだけど、97年に北海道拓殖銀行をちょっと試しに潰してみたら、システミックリスクが噴出してとんでもないことになっちまい、政府も世論に迎合するのはあきらめ、あわてて銀行救済に乗り出した。日本の1998年の春というのは、そういう頃だったんである。そして同年秋には長銀・日債銀のふたつが「国有化」。

それでも日本は「政治的意思がない」と批判された。第一ラウンドの資本注入だけじゃ足りないと言われ、そして、実際、後日足りなくなった。

これまでの米国の金融危機で起こっていることを見ると、当時の日本の流れと、いちいち、そっくりだな。歴史は繰り返す。アメリカも、きっと、公的資金はもっともっと、必要になるな。

   ★   ★   ★

今日のニューヨーク市場は、「英国の大手銀行バークレイズ、2009年の業績は滑り出し好調」というニュースが入って、朝から米金融株は盛り上がっていた。

2009年の業績は滑り出し好調―。

先週シティが同じことをいい、それに続いて、JPモルガンも、バンカメもみーんな同じことを言い、金融株は上げ続けた。

ところが、午後になって、アメリカンエクスプレス社が、2月のクレジットカード延滞が増加傾向と述べたことで、午前の浮かれムードから、一気に現実に引き戻されて、金融株に引きずられる形でダウは後場に急降下。

「政治的意思が欠如してる」と言われた日本も、上記の1兆8千億円の公的資金注入直後は、株式市場は浮かれ気分になっちゃって、銀行株が牽引になって日経平均は上がったんだよね。でも、まもなく、銀行の不良資産から出てくる損失が止まらないという【現実に引き戻されて】、またもや、株価は落ち続け・・・。

バーナンキは昨夜のインタビューで「火はまだ燃えている」と言ったんだ。

金融機関が抱えているToxic Assetsの処理は、まだ始まってもいない。

浮かれるのは、まだ、ちと、早いよ。

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