ゴールドマンサックスのクレジットエクスポージャの本題に入る前に、予備知識として、銀行財務やクレジット投資に詳しくない人のために、筆者より、CDSなどのクレジットデリバティブスについて若干説明しておきたい。(わかってるひとはすっ飛ばしてください。)
書きかけのまま、4月からホッタラカシになってた『小学生のための「CDSとはなにか」』シリーズの結論である。(ほったらかしててごめんなさい。)
★ ★ ★
金融機関というのは、その事業の性格上、小額のキャピタルで多額の資産を保有するという、極めて高いレバレッジがかかったバランスシート構造をしている。
資産に対する自己資本の割合はたいてい3~10%ぐらいしかなく、負債資本比率が10倍とか20倍とかいうのは珍しくもない。
そのため、不測の当期損失が多額発生すると瞬く間に債務超過に陥る可能性が高いことから、金融機関には、特別に、厳しい自己資本規制がかけられている。
【自己資本規制】では、収益で吸収しきれない損失が保有するリスク資産から発生した場合に備え、その損失を吸収できるキャピタル(自己資本)を常時十分保有していることが義務付けられており、自己資本が規制上の最低限ラインを下回ると、その金融機関は担当規制当局から「お咎め」を受ける。
リスクというのは、ご承知のように、益を生むこともあるが損失に至ることもある。高リスク資産というのはその「損益のブレ幅」が大きいものを指す。
銀行が保有する資産には様々なリスク(マーケットリスク、クレジットリスクなど)が内在しているが、資産の「種類」によって内在するリスク量も異なり、そのリスク量は市場の環境・財務状況の変化などさまざまな理由から、常時変化する。
そうしたリスク量の変化に対応させて必要自己資本額を調節しながら、リスクとリターンの関係がオプティマルになるように目を光らせるのが、いわゆる【リスク管理】ってやつですね。
★ ★ ★
銀行が、ある会社に融資したとしよう。そうすると、その銀行は、貸出先のクレジットリスク(信用リスク)にエクスポーズされる。信用リスク、すなわち、踏み倒されるかもしれないリスクを取るのである。
内在リスク量が高い資産には表面上の金額が同じでも、より高額のキャピタルが必要になる。
信用力が高くトリプルAの会社(低クレジットリスク)に1億円の融資をすると、見込まれる損失が低リスクで少ないのだから、その融資資産には小額のキャピタルを積んでおけばいい。
だが、信用力が低くジャンク格付けの会社(高クレジットリスク)に融資すると、融資額自体が同じ1億円でも、必要キャピタル額は多くなる。額面が同じでも、その資産に内在しているクレジットリスク量が異なるからである。
高リスクのクレジットリスクテーキングを行うと、高収益を見込めると同時に、自己資本が毀損する可能性も高まるのである。
★ ★ ★
【CDS】というデリバティブス・インストルメンツを使うと、実際に融資として現金を相手に貸さなくても、クレジットリスクのリスクテーキングが可能になる。
例として、私がCITという会社に一億円の融資をして、CITのクレジットリスクを取り、そのリスクテーキングの見返りとしてCITから金利を受け取るとしよう。
わたしが融資を決定したころのCITはまだ優良企業だったんで、わたしは金利も低めで貸してあげてた。
でも、なんだか雲行き怪しくなってきて、CITの信用力が落ち始めた。
このままCITの融資をバランスシートに抱えていたら、下手すると、踏み倒されるかもしれない・・・そんな不安がよぎってきた。
この場合、わたしには対処法として以下の選択肢がある。
(1) そのままにしておいて、天の裁量を仰ぐ。
(2) CITと直接交渉して、ローンのリストラして月々の支払いが軽くなるように組み替えてあげる。
(3) ローンのセカンダリー市場に出て行って、ディスカウントかけて売っ払い、CITと関係を絶つ。
(4) そのままにしておくが、万一のために保険かけとく。
この(4)が、CDS売買である。
不安がってるわたしのところに、あなたが寄ってきて「わたしがCDSを書いて、CITの融資がデフォルトしたときにはあなたの代わりに損を取ってあげましょうか。」と言い、私が「はい、お願いします。」と言うと、そこに【CDS取引】が成立する。
つまり、わたしは【CDS】のバイヤーとなり、あなたは【CDS】のセラー(Seller=Writer)になるわけだ。
CDSは【プロテクション(Protection)】とも呼ばれ、文字通り、元々の融資がデフォルトしたときにプロテクトしてくれる、そういう契約である。
ここで何が起こるかというと、わたしがもともと融資を介して取っていたクレジットリスクは、あなたがCDSをわたしに売った途端に、わたしの手元を離れ、逆にあなたがそのクレジットリスクを取ることになるのである。
だって、もしCITがつぶれて融資が約定どおりに返済できなくなったら、あなたが、その損をカバーしてくれるわけでしょ。
あなたは、わたしの代わりにリスクテーキングするわけだから、その見返りとして、わたしにリスク見合いの金利(プレミアム)を要求する。
これがCDSのプライスになるわけだが、ただしこの場合は、CITが月々支払う金利そのものではなくて、クレジットスプレッドに相当する部分だけがCDSのプレミアムとなる。(現物債券のクーポン金利や融資の月決め金利は、(1)ベースになる市場金利と(2)クレジットスプレッドという上乗せ金利の2つに分けられるという説明は、小学生のためのCDSシリーズ(3)を参照。)
融資元本はそのまま私が持ってるわけだから、CITから支払われることになってる実際の金利のキャッシュフローは引き続きわたしが受け取るわけであるが、わたしはあなたから買ったCDSに対して金利を払わなくちゃいけない。
つまり、(CITからの)受け取り金利と(あなたへの)支払い金利が相殺されるから、わたしのネットの金利収入は減少する。(下手すると、CDSの売り手に払う金利のほうが高くなって、ネットのキャッシュフローはネガティブになるかもしれない。)
でも、わたしはその代わり、クレジットリスクをあなたに渡してしまったから、わたしが取っているリスク量は減少する。
これを【リスクヘッジ】と呼ぶのである。
わたしは、保険を買うように「CDSを買う」ことでリスクヘッジしたんである。逆にあなたは「CDSを売る」ことでリスクテーキングしたんである。
クレジットデリバティブスというのは、こうやって、もともとの金融資産(【レファレンス資産】という)はそのままの状態にしておいて、そこに内在しているクレジットリスク「のみ」を取り出して、リスクそのものを売ったり買ったりすることができる、そういうインストルメンツなわけ。
対象になる金融資産は、「融資」に限らず、「社債」でもいいし、「地方債」でもいいし、「仕組み債(Structured Bond)」でもいい。
ようするに、そこにクレジットリスクが内在している資産がありさえすれば、そのリスクをCDSを用いて売買し、オリジナルのキャッシュフローはそのままの状態でクレジットリスクだけを他者に移転する【リスク・トランスファー】が可能になるのである。
★ ★ ★
CDSのもともとの使用目的は上記のように、信用リスクのリスクヘッジであったが、今日のクレジット投資の前線では、現物を保有していなくても、デリバティブスだけを活発にトレードしているのが実態である。
機関投資家や証券会社はCDSだけを独立した証券として売買し、他の債券投資と同じ理屈で、金利のタイトニングやワイドニングに沿って、投資利益が生まれたり損失が発生したりする。
CDSにはCDSとしてのプライスがつけられるため、レファレンスになっている現物債券(キャッシュボンド)とCDSとの間に金利差が生まれることはしょっちゅうで(っつーか、金利差がないことのほうがめずらしい)、アービトラージ取引を活発に行うことができる。
また、投資家がある会社のクレジットリスクを取りたいと考えていても、その会社の現物債券の流動性が低くて市場に出回っていなかったらどうだろう。これが現物(キャッシュ)しか存在していない世界なら、投資を諦めるしかないが、デリバティブス(CDS)を売ることによって、その会社のクレジットリスクを自分のポートフォリオに取り込むこともできる。
AIG問題ですっかりお茶の間用語になってしまったCDSだが、CDSと聞いただけで「邪悪なもの」と考えてる素人は多いけれど、CDSというインストルメントが登場してくれたおかげでリスクの売買が可能になったというのは非常に画期的なことで、リスクの拡散と投資機会創出という意味で、ポジティブな側面のほうが実際には強い。
また、銀行がCDSでヘッジした融資にふりむけられていた自己資本は、リスク量が減るんだから必要自己資本も減り、フリーアップされた自己資本をもっと割りのいい投資に振り向けることもできるわけだから、効率の高いポートフォリオを組むのに役に立つという解釈もできて、CDSの使用がいちがいに悪いとは言えない。
CDSの問題は、CDSというインストルメンツ自体にあったのではなく、その「使い方」にあったのである。
★ ★ ★
やたら前置きが長くなってしまったが、ゴールドマンのクレジットエクスポージャの話に戻ろう。
★ ランキングに参加してます。よろしければ投票クリックお願いします。★
↓↓↓↓↓
にほんブログ村 アメリカ経済
人気ブログランキングへ
Showing posts with label 小学生のための「CDSとは何か」. Show all posts
Showing posts with label 小学生のための「CDSとは何か」. Show all posts
Friday, July 17, 2009
Tuesday, April 21, 2009
小学生のための「CDSとは何か」 (3)
前回のMHJ記事で、JPモルガンが政府保証を受けずに自力で30億ドルの債券を市場で発行し、それにつけられたスプレッドが350bps(=ベーシスポイント、1bpsは1%の百分の一)だった、と書いた。
それを書きながら、「小学生のためのシリーズ」を書きかけのままひと月近くもほったらかしにしていることを思い出した。
忘れてました・・・すみません・・・。
で、予告(?)どおり、今回は「スプレッド」の話をしたいと思う。
JPモルガンが発行するといってる社債の発行条件は、「期限10年、表面利率6.32%、スプレッド350bps」。
この6.32%という利率は、次の二つに分解される。
(1) 発行時に参照となる10年米国債の金利、2.82%
(2) 上乗せされる金利、350bps(=3.5%)
表面利率6.32%というのは、(1)と(2)の和、すなわち、2つの【別々の金利】で構成されているのである。
これは、「金利」が付いている金融商品には、すべてにあてはまる。
企業が発行する社債しかり、銀行が個人に貸し出す住宅ローンしかり、クレジットカードやサラ金のローンにつく金利しかり。
上の(2)の上乗せ金利こそが、信用プレミアム、とか、クレジット・スプレッドとか呼ばれるものである。単に「スプレッド」と呼ぶことも多い。
★ ★ ★
例をあげましょう。あなた自信が「金貸し業」を営んでおり、いま2億円の現金を持っている、と仮定しよう。
いま、X社とY社のふたつ別々の会社があなたの会社の門を叩き、それぞれが、1億円を10年間貸してくれないか、と頼んだとする。
X社は創業100年の老舗でその業界では常にトップの実力者、創業以来一度も財務で問題を起こしたことがなく、会社組織もしっかりしており、会社の規模からいって1億円の借金は年商規模からいってさほどの額ではない、そういう会社であるとしよう。
Y社は将来性ある分野で急成長し注目されている会社だが、会社組織になってから日が浅く、オペレーションも小規模で、やる気マンマンのオーナーは30歳の若者、会社実績という意味ではまだ立ち上げの段階、そういう会社であるとしよう。
おそらく、あなたは、1億円づつ10年間という同じ条件でカネを貸すにも、X社とY社の両方にまったく同じ金利で貸すのは、【直感的に】躊躇しますね?
おそらく、あなたの頭の中では、X社には年率5%で貸してもいいけど、Y社には年率15%はつけないと・・・みたいな、動物的な勘が働くはず。
あなたの、その【直感】は、まったくもって、正しい。
なぜなら、一見して、X社は信用力が高く、Y社は信用力が低いからである。
信用力が高い、ということは、すなわち、信用リスクが低くデフォルトする確率が低い、という意味である。逆に信用力が低い、というのは、信用リスクが高い、つまり、デフォルトする確率が高い、という意味だ。
あなたの動物的な勘は、すでに、相手の信用力を見抜き、それぞれが持ってる「デフォルト・リスク」に従って、クレジットスプレッドの厚みを変えているのである。
★ ★ ★
さて、あなたの手元の2億円のキャッシュの使い道であるが、あなたはそれをx社とy社に貸してあげる代わりに、「国家」に貸してやってもいい。つまり、「国債」に投資してもよい。
米国や日本や英国やドイツなどの経済大国と呼ばれる国家たちが、皆様からお借りした借金を、ある日とつぜん返済するのやーめたと言い出すとは、少なくとも当面は考えにくい。ジーと満期まで持ち続ければ、日本政府や米国政府は、きっと約束どおりの金利を、滞りなくあなたに支払ってくれることでしょう。
20世紀に入ってからの金融理論のほとんどが、米国債のデフォルトリスクは限りなくゼロに近いと考えて理論構築されており、それゆえ、米国債の金利は「リスクフリー金利」と呼ばれる。(日本国債や米国債もそのうちデフォルトするんじゃないのかと心配してるひとは結構いるけど、今回のトピックからズレるんで、パスね。)
だが、個人もそうだが、企業というものは、現在どんなに信用おける会社でも、将来なにが起こるかわからない。
戦後のアメリカのゴールデンエージのを支えた米自動車産業が、50年後に倒産するかもしれないと考えていたひとが、当時どれだけいただろうか。
だから、企業や個人にカネ貸すときは、「何が起こるかわからないというリスク」を敢えて取ることになる。その「敢えてリスクを取る」という勇敢な行為に対する対価として、プレミアムを要求するのは、金貸しとして当然の行為である。このリスクのことを「クレジット(信用)リスク」と呼び、そのリスクに対する対価を「クレジット・スプレッド」と呼ぶ。
一方、国債金利については、その企業がどうなろうが、まったく別の要因で上がったり下がったりする。国債金利の上げ下げのほうは「レート(金利)リスク」とよばれ、これは「クレジット(信用)リスク」とは異なるリスクとして区別される。
したがって、社債についている表面利率(クーポン)は、「金利リスク」と「信用リスク」の合わさったものであり、表面利率だけみても、その利率が相手の「信用力」に見合った水準なのかは、それらを分解して表示しないとわからないのである。
いま10年国債の金利が2.5%だと仮定すると、あなたがx社から取ろうとしている利率5%は、国債2.5%+クレジットスプレッド2.5%、に分解される。
同様にY社に対する利子15%は、国債2.5%+クレジットスプレッド12.5%である。
クレジット市場では、表面利率の5%と15%を比較するのじゃなくて、クレジットスプレッドの2.5%(250 bps)と12.5%(1250 bps)を比較して、それがグッドディールかバッドディールかの判断をするのである。
★ ★ ★
ということで、「クレジットスプレッド」とはどんなもんかぐらいは、何となく、わかってもらえたと思う。
このシリーズの2回目で、お天気次第で遠足が延期になるかもしれない・・・というボンヤリした不安が、ある情報を得ることで強い不安になったり、安心感に変わったりするという話を出したが、信用リスクに対する評価や判断は、まさにそれと同じ。
X社には250bpsという信用プレミアム(スプレッド)をリスクフリーの国債金利に上乗せして貸してあげたけれど、その後、新たな情報が入ってきて、当初考えてたよりヤバい会社なんじゃないのかと思うようになってきたら、あなたはどうするでしょう。10年後X社が耳をそろえて返してくれるか不安になってきますね。一対一の個人的な契約書の場合、やべぇと感じても、貸してしまったら最後、一方的に破棄するわけにいかないですね。
でも、社債の場合、これもカネの貸し借りにまつわる「契約書」でありながら、自分はもう持ちたくないなと思ったら、株券みたいに、社債市場に出て行って他の誰かに売りさばくことができるんであるよ。
ただし、あなたが手放したくなったのと同じ理由で、買おうとしてる相手は、あなたが当初x社に払わせることにしたプレミアム(2.5%)では、x社の信用リスクに対して割りにあわない、と考えている。つまり、もっと高いプレミアムを払ってもらわない限り買いたくない、と思っている。
でも、社債の発行条件というのは売買のたびに変えることができない。その社債を手にしても、クーポン5%という最初に取り決めた条件どおりにしか金利の支払いは行われない。
だから、新たな社債の買い手は「この値段なら買ってもよい」という額まで社債の金銭価値を割り引いて(ディスカウントして)購入しようとするのである。
その「ディスカウント分」というのは、売り手であるあなたの「損」になる。
逆に、新興会社で信用力がないと思っていたY社が、逆にメキメキと市場シェアを拡大して、あっという間に業界一、二を争う会社に成長したとしよう。そうすると、Y社が発行した社債を買いたいと思うひとが出てくる。あなたは売ってもよいと考えているが、こんな優良企業が1250bpsものプレミアムを10年間払うと約束した債券を、みすみす手放すのは惜しいとも思う。相手はプレミアムが750bpsでもいいから買いたい、と言うとしよう。
すると、当初の1250bpsというクレジットスプレッドは、750bpsという低いスプレッドで取引され、その差500bps(=1250-750)のスプレッドの縮小分に見合う金銭価値は、あなたの「儲け」になるのである。
まとめると、x社の場合、(1)x社の信用力が下がる、(2)x社の信用リスクは上昇する、(3)x社に求められる信用スプレッドは拡大(ワイドニング)する、(4)x社が発行していた社債の金銭価値(【現在価値】という)はよりディスカウントがかかり低下する、(5)売り手のあなたは損をする。
逆にy社の場合は、(1)y社の信用力が上がる、(2)y社の信用リスクが低下する、(3)y社が借金するときに求められるクレジットスプレッドは縮小(タイトニング)する、(4)y社が発行していた社債の現在価値は上がる、(5)あなたは儲かる。
以前も申し上げたが、債券というのは、金利が高くなるとその証券の価値は低くなり、金利が下がるとその証券の価値は高くなる。
そして、クレジット投資というのは、信用リスクを反映したクレジットスプレッドが拡大、あるいは、縮小するのに従って上下する債券の【現在価値(Present Value)】を追い求める投資形態なのである。
ディスカウントがかかる、というのは、そういうこと。だから、「クレジットスプレッド」のことを「ディスカウント」と呼ぶこともある。
小口の個人投資家を相手にするときは、信用スプレッドだの何だの言ってもよくわかんないだろうし、個人は自分が一年間でいくらの金利をもらえるかだけわかれば十分ハッピーだから、大概の場合、個人向けに発行される債券は表面利率しか提示されない。
★ ランキングに参加してます。よろしければ投票クリックお願いします。★
↓↓↓↓↓
にほんブログ村 アメリカ経済
人気ブログランキングへ
それを書きながら、「小学生のためのシリーズ」を書きかけのままひと月近くもほったらかしにしていることを思い出した。
忘れてました・・・すみません・・・。
で、予告(?)どおり、今回は「スプレッド」の話をしたいと思う。
JPモルガンが発行するといってる社債の発行条件は、「期限10年、表面利率6.32%、スプレッド350bps」。
この6.32%という利率は、次の二つに分解される。
(1) 発行時に参照となる10年米国債の金利、2.82%
(2) 上乗せされる金利、350bps(=3.5%)
表面利率6.32%というのは、(1)と(2)の和、すなわち、2つの【別々の金利】で構成されているのである。
これは、「金利」が付いている金融商品には、すべてにあてはまる。
企業が発行する社債しかり、銀行が個人に貸し出す住宅ローンしかり、クレジットカードやサラ金のローンにつく金利しかり。
上の(2)の上乗せ金利こそが、信用プレミアム、とか、クレジット・スプレッドとか呼ばれるものである。単に「スプレッド」と呼ぶことも多い。
★ ★ ★
例をあげましょう。あなた自信が「金貸し業」を営んでおり、いま2億円の現金を持っている、と仮定しよう。
いま、X社とY社のふたつ別々の会社があなたの会社の門を叩き、それぞれが、1億円を10年間貸してくれないか、と頼んだとする。
X社は創業100年の老舗でその業界では常にトップの実力者、創業以来一度も財務で問題を起こしたことがなく、会社組織もしっかりしており、会社の規模からいって1億円の借金は年商規模からいってさほどの額ではない、そういう会社であるとしよう。
Y社は将来性ある分野で急成長し注目されている会社だが、会社組織になってから日が浅く、オペレーションも小規模で、やる気マンマンのオーナーは30歳の若者、会社実績という意味ではまだ立ち上げの段階、そういう会社であるとしよう。
おそらく、あなたは、1億円づつ10年間という同じ条件でカネを貸すにも、X社とY社の両方にまったく同じ金利で貸すのは、【直感的に】躊躇しますね?
おそらく、あなたの頭の中では、X社には年率5%で貸してもいいけど、Y社には年率15%はつけないと・・・みたいな、動物的な勘が働くはず。
あなたの、その【直感】は、まったくもって、正しい。
なぜなら、一見して、X社は信用力が高く、Y社は信用力が低いからである。
信用力が高い、ということは、すなわち、信用リスクが低くデフォルトする確率が低い、という意味である。逆に信用力が低い、というのは、信用リスクが高い、つまり、デフォルトする確率が高い、という意味だ。
あなたの動物的な勘は、すでに、相手の信用力を見抜き、それぞれが持ってる「デフォルト・リスク」に従って、クレジットスプレッドの厚みを変えているのである。
★ ★ ★
さて、あなたの手元の2億円のキャッシュの使い道であるが、あなたはそれをx社とy社に貸してあげる代わりに、「国家」に貸してやってもいい。つまり、「国債」に投資してもよい。
米国や日本や英国やドイツなどの経済大国と呼ばれる国家たちが、皆様からお借りした借金を、ある日とつぜん返済するのやーめたと言い出すとは、少なくとも当面は考えにくい。ジーと満期まで持ち続ければ、日本政府や米国政府は、きっと約束どおりの金利を、滞りなくあなたに支払ってくれることでしょう。
20世紀に入ってからの金融理論のほとんどが、米国債のデフォルトリスクは限りなくゼロに近いと考えて理論構築されており、それゆえ、米国債の金利は「リスクフリー金利」と呼ばれる。(日本国債や米国債もそのうちデフォルトするんじゃないのかと心配してるひとは結構いるけど、今回のトピックからズレるんで、パスね。)
だが、個人もそうだが、企業というものは、現在どんなに信用おける会社でも、将来なにが起こるかわからない。
戦後のアメリカのゴールデンエージのを支えた米自動車産業が、50年後に倒産するかもしれないと考えていたひとが、当時どれだけいただろうか。
だから、企業や個人にカネ貸すときは、「何が起こるかわからないというリスク」を敢えて取ることになる。その「敢えてリスクを取る」という勇敢な行為に対する対価として、プレミアムを要求するのは、金貸しとして当然の行為である。このリスクのことを「クレジット(信用)リスク」と呼び、そのリスクに対する対価を「クレジット・スプレッド」と呼ぶ。
一方、国債金利については、その企業がどうなろうが、まったく別の要因で上がったり下がったりする。国債金利の上げ下げのほうは「レート(金利)リスク」とよばれ、これは「クレジット(信用)リスク」とは異なるリスクとして区別される。
したがって、社債についている表面利率(クーポン)は、「金利リスク」と「信用リスク」の合わさったものであり、表面利率だけみても、その利率が相手の「信用力」に見合った水準なのかは、それらを分解して表示しないとわからないのである。
ここでふたたび、X社とY社の具体例にもどるとしよう。
いま10年国債の金利が2.5%だと仮定すると、あなたがx社から取ろうとしている利率5%は、国債2.5%+クレジットスプレッド2.5%、に分解される。
同様にY社に対する利子15%は、国債2.5%+クレジットスプレッド12.5%である。
クレジット市場では、表面利率の5%と15%を比較するのじゃなくて、クレジットスプレッドの2.5%(250 bps)と12.5%(1250 bps)を比較して、それがグッドディールかバッドディールかの判断をするのである。
★ ★ ★
ということで、「クレジットスプレッド」とはどんなもんかぐらいは、何となく、わかってもらえたと思う。
このシリーズの2回目で、お天気次第で遠足が延期になるかもしれない・・・というボンヤリした不安が、ある情報を得ることで強い不安になったり、安心感に変わったりするという話を出したが、信用リスクに対する評価や判断は、まさにそれと同じ。
X社には250bpsという信用プレミアム(スプレッド)をリスクフリーの国債金利に上乗せして貸してあげたけれど、その後、新たな情報が入ってきて、当初考えてたよりヤバい会社なんじゃないのかと思うようになってきたら、あなたはどうするでしょう。10年後X社が耳をそろえて返してくれるか不安になってきますね。一対一の個人的な契約書の場合、やべぇと感じても、貸してしまったら最後、一方的に破棄するわけにいかないですね。
でも、社債の場合、これもカネの貸し借りにまつわる「契約書」でありながら、自分はもう持ちたくないなと思ったら、株券みたいに、社債市場に出て行って他の誰かに売りさばくことができるんであるよ。
ただし、あなたが手放したくなったのと同じ理由で、買おうとしてる相手は、あなたが当初x社に払わせることにしたプレミアム(2.5%)では、x社の信用リスクに対して割りにあわない、と考えている。つまり、もっと高いプレミアムを払ってもらわない限り買いたくない、と思っている。
でも、社債の発行条件というのは売買のたびに変えることができない。その社債を手にしても、クーポン5%という最初に取り決めた条件どおりにしか金利の支払いは行われない。
だから、新たな社債の買い手は「この値段なら買ってもよい」という額まで社債の金銭価値を割り引いて(ディスカウントして)購入しようとするのである。
その「ディスカウント分」というのは、売り手であるあなたの「損」になる。
逆に、新興会社で信用力がないと思っていたY社が、逆にメキメキと市場シェアを拡大して、あっという間に業界一、二を争う会社に成長したとしよう。そうすると、Y社が発行した社債を買いたいと思うひとが出てくる。あなたは売ってもよいと考えているが、こんな優良企業が1250bpsものプレミアムを10年間払うと約束した債券を、みすみす手放すのは惜しいとも思う。相手はプレミアムが750bpsでもいいから買いたい、と言うとしよう。
すると、当初の1250bpsというクレジットスプレッドは、750bpsという低いスプレッドで取引され、その差500bps(=1250-750)のスプレッドの縮小分に見合う金銭価値は、あなたの「儲け」になるのである。
まとめると、x社の場合、(1)x社の信用力が下がる、(2)x社の信用リスクは上昇する、(3)x社に求められる信用スプレッドは拡大(ワイドニング)する、(4)x社が発行していた社債の金銭価値(【現在価値】という)はよりディスカウントがかかり低下する、(5)売り手のあなたは損をする。
逆にy社の場合は、(1)y社の信用力が上がる、(2)y社の信用リスクが低下する、(3)y社が借金するときに求められるクレジットスプレッドは縮小(タイトニング)する、(4)y社が発行していた社債の現在価値は上がる、(5)あなたは儲かる。
以前も申し上げたが、債券というのは、金利が高くなるとその証券の価値は低くなり、金利が下がるとその証券の価値は高くなる。
そして、クレジット投資というのは、信用リスクを反映したクレジットスプレッドが拡大、あるいは、縮小するのに従って上下する債券の【現在価値(Present Value)】を追い求める投資形態なのである。
ディスカウントがかかる、というのは、そういうこと。だから、「クレジットスプレッド」のことを「ディスカウント」と呼ぶこともある。
★ ★ ★
小口の個人投資家を相手にするときは、信用スプレッドだの何だの言ってもよくわかんないだろうし、個人は自分が一年間でいくらの金利をもらえるかだけわかれば十分ハッピーだから、大概の場合、個人向けに発行される債券は表面利率しか提示されない。
しかし、相手がプロの債券機関投資家の場合は、彼らは、「いくら利子もらえるのかな~~」と楽しみにしてるわけじゃなくて、スプレッドの動きを注視しながら、きわめて短時間に巨額のトレードを繰り返し、ボラティリティを利用して現在価値の上がり下がりでキャピタルゲインを狙う投資家群であるために、彼らには、キッチリと、クレジットスプレッドを提示してやらないと、取引できない。
ベーシスポイントなんつー、1%の100分の1の単位が上がった下がったと何を騒いでるのかしら、と思うだろうが、彼ら機関投資家は、一度の取引で動かす額が大きいために、スプレッドが数ベーシスポイント動いただけでも、損益は大きくなる。
金融機関の場合、バランスシートの資産側も債務側も、ともに「金利」に影響される構造をしているため、クレジットスプレッドの拡大は投資資産価値の下落と償却費用の急増のみならず、日常業務に必要な資金調達にも支障をもたらす。
実際の数値の一例として、みずほコーポレート銀行がサイトで公表している「国内普通社債発行実績」の一覧表をみてみてほしい。
この表の左から6番目に、「発行時国債スプレッド」という項目がある。これが、今回のMHJ記事で述べてきた、「クレジットスプレッド」である。みずほコーポレート銀行が何度かに渡り期間5年の社債を発行して市場で資金調達を行った(←みずほがお金を貸してもらう側にいた、という意味)わけだが、その度の発行条件として、日本国債の金利を基準として、それに何ベーシスポイントの【上乗せ金利】を支払うことに同意したかが明記されている。
第13回はリーマンショック前の2008年7月発行、第14回はその後の同年12月発行だが、リーマンショックの前後で、みずほコーポレート銀行が支払わされるプレミアムが、日本国内でもワイドニングして跳ね上がったことが見て取れる。
これは、みずほコーポレート銀行にとっては、資金調達のために支払う金利、すなわち調達コストが高くなり、その分金利収支が圧迫された、という意味になる。
みずほの例が特殊なわけではなく、リーマンショック直後は、世界中の銀行という銀行がクレジットスプレッドの急拡大に見舞われて、調達コストの急激な上昇で通常の資金調達が事実上困難になり、資金の流れがグローバルで停滞した。
金融機関同士の資金の流れが止まると、実体経済にも資金が流れなくなり、大量の企業倒産を誘発する。
世界中の政府や当局が、現在も、あの手この手でクレジット市場を安定化させクレジットスプレッドを縮小させて調達金利を下げようとやっきになるのは、そのせいなのである。
おそるべし、クレジットスプレッド・・・。
(次回に続く)
★ ランキングに参加してます。よろしければ投票クリックお願いします。★
↓↓↓↓↓
にほんブログ村 アメリカ経済
人気ブログランキングへ
Thursday, March 26, 2009
小学生のための「CDSとは何か」(2)
今朝(26日)は、エレクトロニクス小売全米最大手のベストバイ(Best Buy)(←日本で言えばビッグカメラみたいな)が、4Q業績が「予想されてたほど落ち込まなかった」というニュースで、取引開始直後に一気に11%上げ。
落ち続けてるときはドーンと暗くなって、「S&P500、このまま、200まで落ちるかも・・・」なーんて言ってた弱気のアナリストがいたのに、今朝のブルームバーグ記事読んでたら、こんどは「S&P500、このまま、1000まで突っ走っても不思議はない」なーんて言ってる強気のマネージャーがいた。
どちらも「ありえない」とは言い切れないよね。
「可能性はゼロ」と言い切れないし、言い切らない。
それが投資の基本である。
「AIGの悲劇」の原因を突き詰めれば、この投資の基本を忘れ、「可能性はゼロだと決め込んでた(だって、トリプルAなんだもん)」というところにあるんであるな。リスクのない投資など、ない。従って『必勝法』などというものは絶対に存在しない。
とはいえ、1ヶ月の間に200から1000という極端な幅でセンチメントが揺れ動くというのは、市場に確固たるファンダメンタルズのサポートがない、という証拠である。
ベストバイ社の業績が「予想より良かった」と言ったところで、伸び率はマイナスいう事実には変わりないわけでして。ここのところ、住宅関連でも、「明るいニュース」が出てきたと言ってるが、こちらも、前月比では「よかった」かもしれないが、前年同期比ではやっぱりマイナスで、落ち込むスピードが落ちてるってだけで、やっぱり落ち込み続けているんである。
今日もNYの株式市場は上げた。でも、今日は、金融株は全般に弱く、その代わり、金融以外の株がけん引役になって上がった。
ここのところ、ずっと金融セクターに振り回されてきたマーケットも、そろそろ同じ話に飽きて、新しいストーリーを欲しているな。でも、金融セクターが弱いまま、実体経済だけ持ち上がることはありませんので。また相場の方向が見えずらくなってきた・・・。
★ ★ ★
さて今日は、3月23日のMHJ記事で書きかけになっていた「CDSとは何か」の続きを書こうと思う。
前回は、「クレジット(信用)リスク」について簡単に説明し、クレジット市場というのは、この「クレジットリスク」に値段をつけて売買する市場だ、というところまで述べた。
カネを貸した相手の会社が実際に「破綻」したり「デフォルト」起こしたりしなくても、「リスク」そのものは、日々、ビミョーに高くなったり、低くなったりする。
明日は遠足の予定だけど、お月様がボンヤリしてみえるし、遠足は延期になるかもしれないなぁと、なんとなく不安になる。空模様をながめ「遠足延期」という「リスク」を感じ取っているんである。翌朝になって遠足は予定どおり決行されるかもしれない。でも、その決定が下されるまでは、ボンヤリ不安を抱えている。
これと同じである。
この「ボンヤリとした不安」こそが「リスク」であり、それに従って、社債(企業が発行した債券)の値段というのは、セカンダリー市場で、上がったり下がったりするんである。
★ ★ ★
ここで、ちょっと寄り道して、プライマリー市場とセカンダリー市場について、少々説明しておこう。
ある会社Xが株式や社債を発行しようとする。ピカピカの新品の証券である。新証券発行にあたり、その会社は、現在の市場の動向や、ターゲットになってる投資家がどんな風に自分達のことをみているか、いくら位の値段を付ければ売りさばくことができるか、などを事前に調査する。事前調査は自分でやってもいいけれど、いちどきに何百億円何千億円という額の発行になると、売り出しに参加する投資家の数はすごく多くなるから、潜在的なバイヤーである機関投資家を顧客に多く抱えている証券会社に「どんなもんでしょ」と相談するのがフツウである。
で、証券会社のインベストメントバンカー達は、いろんなチャネル駆使して、その証券の発行条件を考えてあげて、「投資家はこんなこと言ってるし、いまの相場はこれこれこんな風だから、こんな風にして市場に持っていったら最適かと思いますけどねー」とかアドバイスして新規発行のお手伝いする。そのアドバイスに手数料取るんだ。
そして、会社Xと死ぬほど折衝を繰り返して(←“死ぬほど”というのは、あながち冗談ではない。インベストメントバンカーのみなさん、マジでときどき死にそうになってますから。)、いよいよ、新証券お披露目、となる。このときは、お披露目の席にお呼ばれした投資家しか、この証券を手に入れることはできない。
この「新証券お披露目」で登場する証券を扱う市場を、プライマリー市場(Primary Market)と呼ぶ。
いよいよお披露目式が終わりその証券がローンチされると、その証券はオープン市場で売買が可能になる。ここでは、お披露目式に呼ばれなかったその他投資家もワイワイ参加して売買できるマーケット、それが、セカンダリー市場(Secondary Market)である。一般の個人投資家が参加してどこかの会社の株を売ったり買ったりしてるのも、セカンダリー市場である。
証券のプライスというのは基本的にセカンダリー市場でのその証券への需要と供給で決定される。
★ ★ ★
プライマリー市場で5%という利率が付いてきた債券は、100万円の額面に対して、毎年5%の利子を生みますね。これを5年間ジーと辛抱強く持ち続けてると、毎年5%づつ利子が払われ、5年目の満期で最初の100万円の元本も戻ってくる。これだけなら、フツウの定期預金と同じですね。
もちろん、そうやってジーと持ち続けていてもいいんです。
でも、満期までジーと持っているのが嫌なら、セカンダリー市場に持って行って、「中古の債券ですけど、買いたい人いませんかー?」と売りに出すと、買ってもいいよー、という誰かが現れる。
★ ★ ★
では、社債のセカンダリー市場で売りに出された債券は、どう取引されるのでしょうか。利率5%のクーポンがついてるからといって、買ってくれるひとが、そのまま5%の利率で満足するとは限りませんね。デフォルトのリスクが高くなってるとしたら、これからそれを保有しようという相手は10%の利子を欲しがるかもしれませんね。
つまり、ぼんやりした不安が確固たる不安になったとき、同じ会社に対しても、金利はボーンと跳ね上がるんである。社債セカンダリー市場では、プライマリー市場で発行条件として決められた当初の利率を無視して、「いま、この瞬間に抱えてる不安」の度合いを金利に反映させて取引が進められる。
社債マーケットというのは、個人投資家で賑わう株式市場とはずいぶん様相が異なり、ここは基本的にはプロの機関投資家限定の世界。取引するときも、一本何ドルとかの具体的な通貨価値で取引するのじゃなくて、【クレジットスプレッド】と呼ばれる金利の一種を提示することで、売買します。
たとえば、ゼネラルモーターズが発行した社債を持っている投資家がいるとします。この投資家は、ゼネラルモーターズに対して不安を抱いていて、デフォルトするリスクが高まっていると考え、いまのうちに売ってしまおうと思っている。
買い手はできるだけ安く買いたい、別の言い方をすると、それを保有している間は、できるだけ多く利子を受け取っておきたいから、高い金利になるように、できるだけ大きなクレジットスプレッドの数字を提示します。一方の売り手は、できるだけ高い値段で売りたいから、逆に、できるだけ低いスプレッドの水準を提示します。そうやって売り手と買い手は互いに「具体的な値段」じゃなくて「スプレッド」を提示し合い、そのせめぎ合いから最終的にプライスが決まるのです。
【クレジットスプレッド】とは、取引の対象になっている証券に内在している信用リスクに対して、市場がどう判断してるかを示す数字なのでありますね。スプレッドがどの水準なら「正常」とかいった“絶対値”は存在しない。そのときそのときの状況で、他のなにかと比べて“相対的”に高いか低いかが判断され、ゆるゆると(時には激しく)移動してゆく。
雨が降りそうだから遠足延期のリスクが高まっていると思うひとが多ければ、クレジットスプレッドは拡大する。逆に、心配ご無用きっと遠足は行われるさ、と思うひとが増えてくれば、クレジットスプレッドは縮小する。
【クレジットスプレッド】、次回はこれを説明します。
(続く)
★ ランキングに参加してます。よろしければ投票クリックお願いします。★
↓↓↓↓↓
にほんブログ村 アメリカ経済
人気ブログランキングへ
落ち続けてるときはドーンと暗くなって、「S&P500、このまま、200まで落ちるかも・・・」なーんて言ってた弱気のアナリストがいたのに、今朝のブルームバーグ記事読んでたら、こんどは「S&P500、このまま、1000まで突っ走っても不思議はない」なーんて言ってる強気のマネージャーがいた。
どちらも「ありえない」とは言い切れないよね。
「可能性はゼロ」と言い切れないし、言い切らない。
それが投資の基本である。
「AIGの悲劇」の原因を突き詰めれば、この投資の基本を忘れ、「可能性はゼロだと決め込んでた(だって、トリプルAなんだもん)」というところにあるんであるな。リスクのない投資など、ない。従って『必勝法』などというものは絶対に存在しない。
とはいえ、1ヶ月の間に200から1000という極端な幅でセンチメントが揺れ動くというのは、市場に確固たるファンダメンタルズのサポートがない、という証拠である。
ベストバイ社の業績が「予想より良かった」と言ったところで、伸び率はマイナスいう事実には変わりないわけでして。ここのところ、住宅関連でも、「明るいニュース」が出てきたと言ってるが、こちらも、前月比では「よかった」かもしれないが、前年同期比ではやっぱりマイナスで、落ち込むスピードが落ちてるってだけで、やっぱり落ち込み続けているんである。
今日もNYの株式市場は上げた。でも、今日は、金融株は全般に弱く、その代わり、金融以外の株がけん引役になって上がった。
ここのところ、ずっと金融セクターに振り回されてきたマーケットも、そろそろ同じ話に飽きて、新しいストーリーを欲しているな。でも、金融セクターが弱いまま、実体経済だけ持ち上がることはありませんので。また相場の方向が見えずらくなってきた・・・。
★ ★ ★
さて今日は、3月23日のMHJ記事で書きかけになっていた「CDSとは何か」の続きを書こうと思う。
前回は、「クレジット(信用)リスク」について簡単に説明し、クレジット市場というのは、この「クレジットリスク」に値段をつけて売買する市場だ、というところまで述べた。
カネを貸した相手の会社が実際に「破綻」したり「デフォルト」起こしたりしなくても、「リスク」そのものは、日々、ビミョーに高くなったり、低くなったりする。
明日は遠足の予定だけど、お月様がボンヤリしてみえるし、遠足は延期になるかもしれないなぁと、なんとなく不安になる。空模様をながめ「遠足延期」という「リスク」を感じ取っているんである。翌朝になって遠足は予定どおり決行されるかもしれない。でも、その決定が下されるまでは、ボンヤリ不安を抱えている。
これと同じである。
この「ボンヤリとした不安」こそが「リスク」であり、それに従って、社債(企業が発行した債券)の値段というのは、セカンダリー市場で、上がったり下がったりするんである。
★ ★ ★
ここで、ちょっと寄り道して、プライマリー市場とセカンダリー市場について、少々説明しておこう。
ある会社Xが株式や社債を発行しようとする。ピカピカの新品の証券である。新証券発行にあたり、その会社は、現在の市場の動向や、ターゲットになってる投資家がどんな風に自分達のことをみているか、いくら位の値段を付ければ売りさばくことができるか、などを事前に調査する。事前調査は自分でやってもいいけれど、いちどきに何百億円何千億円という額の発行になると、売り出しに参加する投資家の数はすごく多くなるから、潜在的なバイヤーである機関投資家を顧客に多く抱えている証券会社に「どんなもんでしょ」と相談するのがフツウである。
で、証券会社のインベストメントバンカー達は、いろんなチャネル駆使して、その証券の発行条件を考えてあげて、「投資家はこんなこと言ってるし、いまの相場はこれこれこんな風だから、こんな風にして市場に持っていったら最適かと思いますけどねー」とかアドバイスして新規発行のお手伝いする。そのアドバイスに手数料取るんだ。
そして、会社Xと死ぬほど折衝を繰り返して(←“死ぬほど”というのは、あながち冗談ではない。インベストメントバンカーのみなさん、マジでときどき死にそうになってますから。)、いよいよ、新証券お披露目、となる。このときは、お披露目の席にお呼ばれした投資家しか、この証券を手に入れることはできない。
この「新証券お披露目」で登場する証券を扱う市場を、プライマリー市場(Primary Market)と呼ぶ。
いよいよお披露目式が終わりその証券がローンチされると、その証券はオープン市場で売買が可能になる。ここでは、お披露目式に呼ばれなかったその他投資家もワイワイ参加して売買できるマーケット、それが、セカンダリー市場(Secondary Market)である。一般の個人投資家が参加してどこかの会社の株を売ったり買ったりしてるのも、セカンダリー市場である。
証券のプライスというのは基本的にセカンダリー市場でのその証券への需要と供給で決定される。
★ ★ ★
プライマリー市場で5%という利率が付いてきた債券は、100万円の額面に対して、毎年5%の利子を生みますね。これを5年間ジーと辛抱強く持ち続けてると、毎年5%づつ利子が払われ、5年目の満期で最初の100万円の元本も戻ってくる。これだけなら、フツウの定期預金と同じですね。
もちろん、そうやってジーと持ち続けていてもいいんです。
でも、満期までジーと持っているのが嫌なら、セカンダリー市場に持って行って、「中古の債券ですけど、買いたい人いませんかー?」と売りに出すと、買ってもいいよー、という誰かが現れる。
★ ★ ★
では、社債のセカンダリー市場で売りに出された債券は、どう取引されるのでしょうか。利率5%のクーポンがついてるからといって、買ってくれるひとが、そのまま5%の利率で満足するとは限りませんね。デフォルトのリスクが高くなってるとしたら、これからそれを保有しようという相手は10%の利子を欲しがるかもしれませんね。
つまり、ぼんやりした不安が確固たる不安になったとき、同じ会社に対しても、金利はボーンと跳ね上がるんである。社債セカンダリー市場では、プライマリー市場で発行条件として決められた当初の利率を無視して、「いま、この瞬間に抱えてる不安」の度合いを金利に反映させて取引が進められる。
社債マーケットというのは、個人投資家で賑わう株式市場とはずいぶん様相が異なり、ここは基本的にはプロの機関投資家限定の世界。取引するときも、一本何ドルとかの具体的な通貨価値で取引するのじゃなくて、【クレジットスプレッド】と呼ばれる金利の一種を提示することで、売買します。
たとえば、ゼネラルモーターズが発行した社債を持っている投資家がいるとします。この投資家は、ゼネラルモーターズに対して不安を抱いていて、デフォルトするリスクが高まっていると考え、いまのうちに売ってしまおうと思っている。
買い手はできるだけ安く買いたい、別の言い方をすると、それを保有している間は、できるだけ多く利子を受け取っておきたいから、高い金利になるように、できるだけ大きなクレジットスプレッドの数字を提示します。一方の売り手は、できるだけ高い値段で売りたいから、逆に、できるだけ低いスプレッドの水準を提示します。そうやって売り手と買い手は互いに「具体的な値段」じゃなくて「スプレッド」を提示し合い、そのせめぎ合いから最終的にプライスが決まるのです。
【クレジットスプレッド】とは、取引の対象になっている証券に内在している信用リスクに対して、市場がどう判断してるかを示す数字なのでありますね。スプレッドがどの水準なら「正常」とかいった“絶対値”は存在しない。そのときそのときの状況で、他のなにかと比べて“相対的”に高いか低いかが判断され、ゆるゆると(時には激しく)移動してゆく。
雨が降りそうだから遠足延期のリスクが高まっていると思うひとが多ければ、クレジットスプレッドは拡大する。逆に、心配ご無用きっと遠足は行われるさ、と思うひとが増えてくれば、クレジットスプレッドは縮小する。
【クレジットスプレッド】、次回はこれを説明します。
(続く)
★ ランキングに参加してます。よろしければ投票クリックお願いします。★
↓↓↓↓↓
にほんブログ村 アメリカ経済
人気ブログランキングへ
Monday, March 23, 2009
小学生のための「CDSとは何か」(1)
昨日の日曜、CNN局の昼の番組を見ていたら、AIGのボーナス問題をメディアが意図的に焚き付けているのではないかと自己反省(?)するスポットがあった。筆者はすかさず、「大統領オフィスからCNNに文句でも行ったんかな」と感じた。
メディアは一揆ネタを提供するのに余念がない、とは前回のMHJ記事で書いたが、中でもCNNは、この騒ぎの中心に陣取って、煽るにいいだけ煽っていた、その張本人だったんだよ。
そのCNNが、日曜日になったら、急に態度を改めちゃって、
「確かにAIGに問題はある。しかし、メディアが民衆の怒りに油を注ぐような真似しちゃいけないですよ、ねぇ?」
とか、まるでヒトゴトのように、やたら殊勝なこと言っちゃってんである。
CNNのこのトーンダウンぶり。絶対に、昨日か一昨日、政府側からCNN本社のトップに文句入ったな。電話での声はあくまで明るく、しかし、「オメー達のせいで、Toxic Assetsの売却に支障が出たら、どうなるかわかってんだろーな」という内容で、ヤンワリ言われたんじゃないのかな。
2月11日のMHJ記事(「政府主導による市場メカニズム」の矛盾)で、筆者は、ガイトナーのToxic Assetsの処理案てのは、
そういう案だと書いた。ウォール街は、政府の不良資産買取りプログラムの成功にとって、頼みの綱。
ところが、この数週間の政界とメディアの馬鹿騒ぎ(および、それにマンマ乗せられて、ウォール街近くのAIG本社の前でプラカード掲げてピケ張って騒いでるヒマな大衆)をここまでシツコク見せつけられたら、ウォール街関係者達は、
「政府が用意するカネに関わったが最後、議会とメディアの追求にあって火あぶりにされるのがオチ、そんなアホらしいことにわざわざ付き合ってられっかよ・・・」
というのが本音のところでありましょう。政府はそれじゃ困っちゃう。
CNNは金曜日も深夜までボーナスの件でギャーギャー騒いでたくせに、週末は手のひら返したように態度改め。
バレバレなんだよ、っつの。
ということで、今週の米市場はアホなボーナス問題から離れ、政府の官民共同不良資産買取りプログラムP.P.I.P.(Public-Private Investment Program)、そして、その資金源T.A.L.F.が、具体的にどう作用するかという重要な話に主眼が移る。
しかし、その「CNN殊勝に態度改めます番組」に出演していたビジネス担当の女性キャスターは、
「でも、AIGほか金融機関たちは今後も、情報の透明性(Transparency)をもっと改善すべきじゃないのかしらッ!」
と、あくまで食い下がった。
先週金曜日、NY時間の午前、ゴールドマンのCFOがコンファレンスコールを開き、AIGが公的援助を受けた後に多額のキャッシュをAIGからGSに支払った件につき市場関係者向けに説明した。
このCNNのキャスターは、その話を持ち出して、
「金曜付けのニューヨークタイムズにゴールドマンサックスが述べた内容が記事で紹介されてるけど、いい?その部分を読むわよ。(実際に新聞の記事の一部を声に出して読む) どぉ?このゴールドマン側の説明があなたに理解できる?わたしには、さっぱり理解できないわ!こんなの英語じゃない!透明性に問題があるのよッ!」
とヒステリックに叫んだ。(CNNの女性キャスターが音読したNYT記事は、ここ。)
「さっぱり理解できない」か・・・なのに取材させられて、さぞかしイライラしながら取材してるんだろうな、彼女・・・。
★ ★ ★
だが、あのコンファレンスコールを聞いて、理解できたひともいるわけでして。
CNNの女性キャスターが理解できなかった理由は、おそらく彼女が債券やクレジットの知識がないのが原因で、「情報開示が悪い、透明性が低い」というのとはまた別の話じゃないかと筆者は思う。
基本的な知識が欠けてる相手に、詳細な内部情報を渡したからとて、どの道、理解できるはずがない。
今週以降、いよいよ、問題のToxic Assets(不良資産)のバランスシートからの切り離しが始まろうとしているが、これは100%債券の世界の話。
対象となる資産は「AAAの格付けが付された証券化債券」で、売り手は不良資産を抱えてしまった金融機関、買い取る側は民間投資家、買い取るための資金は連銀が用意するT.A.L.F.(Term Asset-Backed Securities Loan Facility)資金。民間が資金を提供したら、FDIC預金保険機構が、民間の資金提供者に対し保証を出す。
この証券化債券を買った投資家は、セカンダリー市場でフツウに取引し、売れたら連銀に借りた資金をお返しし、儲けは投資家のフトコロに。こうした流れを作ることで、低迷している証券化市場にカツ入れようとしてるんですな。
債券、クレジット、CDSなどの基本的知識をほんの少し齧っておくだけで、これから起ころうとしていることが理解しやすくなると思うので、クレジットの世界に長年籍を置いたひとりとして、ごくサワリの知識だけだが、紹介したい。
★ ★ ★
AIGの件で死ぬほど登場した、クレジット・デフォルト・スワップ(Credit Default Swap、略してCDS)だが、そもそも、CDSとは何か。
CDSをザックリ説明したサイトは結構ある。たとえば日本語のウィキペディアのCDSの項を参考にする手もあるが、あそこまでザックリしすぎると、かえってわからなくなるもんですね(笑)。
CDSがクレジット市場の取引で実際どう使われてるかの「実務偏」基本情報は、債券運用世界最大手のピムコ社のサイトのここが、どこよりうまくまとまっているので、参考にされたい。
しかし、世の中には、ピムコのサイトを読んでもチンプンカンプンというひとの方が少なくないだろうし、CNNの女性キャスターみたいにヒステリー起こされてもかなわないんで、MHJでは“小学生向け”に説明することにする。わかってるひとは飛ばしてください。
★ ★ ★
本題に入る前に、「債券」という証券について押さえておきたい。いっぱんになじみの深い株式と決定的に異なる点は、債券というのは、青天井で儲かる種類の投資ではない、ということだ。
株式なら、うまくいけば、元手の投資金額を何倍、何十倍、何百倍にすることだってできる。持とうと思えば20年だって30年だって、その会社が存在する限り持ち続けることもできる。一攫千金の可能性あり、夢いっぱいの投資だ。
しかし、債券というのは、(1)いくらの金額を(=額面)、(2)いくらの金利で(=クーポン)、(3)どれくらいの期間持つか(=償還期日)、という条件があらかじめ決まっていて、期間が過ぎれば、もっと持っていたくても、償還されてしまう。しかも、償還されるときに手元に戻ってくるカネは額面以上にならないんだから、夢のない世界なんです。
しかし、そんな夢のない証券も、日々、金融街でトレードされていている。たとえば期間10年という条件がついた債券を買っても、10年間ジーと償還期日が来るのを待ってる必要はない。債券にも、中古(?)の債券を売買する巨大なセカンダリー市場が存在する。債券市場の規模は株式市場とは比べ物にならないほど巨大なマーケットで、そこは1%の100分の1(1 basis point=1ベーシスポイント)という金利の小刻みな動きに一喜一憂し、リスクが上がった下がったとわめいているプロの投資家集団のたまり場。
だが、ひとことで「債券」と言っても、国債、社債、スワップ、証券化商品、などなど、債券の種類もたくさんあって、それぞれが極めて専門性が高いために、棲み分けがハッキリしており、国債関係者が証券化商品の取引にも関わるということは、まずない。それぞれの分野で、何がリスク量を左右するかがまったく異なるからだ。
(余談だが、筆者は現役中に株式サイドも債券サイドも両方経験したが、ハッキリ言って、債券サイドってのは、四六時中ウジウジとダウンサイドのリスクのことばっか考えているせいか、懐疑的で性格暗く、重箱の隅つついて一人ニタニタしてるオタクみたいなひとが多い。その点、株式サイドは、アップサイドに夢を抱いていられるせいか、打たれ強くて能天気、実はあまり深く考えてないんだが知ったかぶりは得意、みたいなひとが多い、という印象である。)
さて、社債投資であるが、あなたの手元にいま100万円の現金があるとしよう。ある会社があなたの100万円を借りたいと思っていて、10%の金利払いますから1年間貸して欲しいと言う。あなたは、額面100万円の債券を金利10%で額面と同じ100万円で買うのに合意したとしよう。債券というのは貸す側と借りる側とで結んだ「契約」なんである。
ところがその1年後、この会社が事業に失敗し、払うと言ってた10%の金利と元本を払う余裕がなくなった。
あなたが一年前に債券と引き換えに貸した100万円がどうなるかというと、この会社は、他のひとから新たに別の100万円借りてきて、約束した金利も付けて、あなたに返そうとする。契約どおり返してもらったら、あなたはハッピー。しかし、新たに100万円貸してくれた相手は、10%じゃ足りない、15%の金利付けろ、と言う。
同じ会社が同じ100万円借りるにも、支払う金利は高くなっちゃった・・・。だって、この会社、事業に失敗したんだもん。つまり、この会社の信用力は落ちてしまった。信用力が落ちると、高い金利を支払わされる。貸す側は相手が信用できない分、高い金利を請求し、取りっぱぐれるリスクを回避しようとする。取りっぱぐれる、すなわち、デフォルト(債務不履行)起こされたら困りますんで。
つまり、これが「信用リスク」、「クレジット・リスク」という概念である。
この信用リスクという【概念】に具体的に値段を付けて取引する市場、それがクレジット市場である。
(続く)
★ ランキングに参加してます。よろしければ投票クリックお願いします。★
↓↓↓↓↓
にほんブログ村 アメリカ経済
人気ブログランキングへ
メディアは一揆ネタを提供するのに余念がない、とは前回のMHJ記事で書いたが、中でもCNNは、この騒ぎの中心に陣取って、煽るにいいだけ煽っていた、その張本人だったんだよ。
そのCNNが、日曜日になったら、急に態度を改めちゃって、
「確かにAIGに問題はある。しかし、メディアが民衆の怒りに油を注ぐような真似しちゃいけないですよ、ねぇ?」
とか、まるでヒトゴトのように、やたら殊勝なこと言っちゃってんである。
CNNのこのトーンダウンぶり。絶対に、昨日か一昨日、政府側からCNN本社のトップに文句入ったな。電話での声はあくまで明るく、しかし、「オメー達のせいで、Toxic Assetsの売却に支障が出たら、どうなるかわかってんだろーな」という内容で、ヤンワリ言われたんじゃないのかな。
2月11日のMHJ記事(「政府主導による市場メカニズム」の矛盾)で、筆者は、ガイトナーのToxic Assetsの処理案てのは、
『給料高過ぎると難癖つけた相手をアドバイザーとしてこきつかい、通称「ハゲタカ」(政界関係者が好む別名「庶民の敵」、「GREEDの代表」)と呼ばれてるディストレス(不良化した資産買取り)専門のプライベート・エクイティの力を借りないと一歩も先に進まない』
そういう案だと書いた。ウォール街は、政府の不良資産買取りプログラムの成功にとって、頼みの綱。
ところが、この数週間の政界とメディアの馬鹿騒ぎ(および、それにマンマ乗せられて、ウォール街近くのAIG本社の前でプラカード掲げてピケ張って騒いでるヒマな大衆)をここまでシツコク見せつけられたら、ウォール街関係者達は、
「政府が用意するカネに関わったが最後、議会とメディアの追求にあって火あぶりにされるのがオチ、そんなアホらしいことにわざわざ付き合ってられっかよ・・・」
というのが本音のところでありましょう。政府はそれじゃ困っちゃう。
CNNは金曜日も深夜までボーナスの件でギャーギャー騒いでたくせに、週末は手のひら返したように態度改め。
バレバレなんだよ、っつの。
ということで、今週の米市場はアホなボーナス問題から離れ、政府の官民共同不良資産買取りプログラムP.P.I.P.(Public-Private Investment Program)、そして、その資金源T.A.L.F.が、具体的にどう作用するかという重要な話に主眼が移る。
しかし、その「CNN殊勝に態度改めます番組」に出演していたビジネス担当の女性キャスターは、
「でも、AIGほか金融機関たちは今後も、情報の透明性(Transparency)をもっと改善すべきじゃないのかしらッ!」
と、あくまで食い下がった。
先週金曜日、NY時間の午前、ゴールドマンのCFOがコンファレンスコールを開き、AIGが公的援助を受けた後に多額のキャッシュをAIGからGSに支払った件につき市場関係者向けに説明した。
このCNNのキャスターは、その話を持ち出して、
「金曜付けのニューヨークタイムズにゴールドマンサックスが述べた内容が記事で紹介されてるけど、いい?その部分を読むわよ。(実際に新聞の記事の一部を声に出して読む) どぉ?このゴールドマン側の説明があなたに理解できる?わたしには、さっぱり理解できないわ!こんなの英語じゃない!透明性に問題があるのよッ!」
とヒステリックに叫んだ。(CNNの女性キャスターが音読したNYT記事は、ここ。)
「さっぱり理解できない」か・・・なのに取材させられて、さぞかしイライラしながら取材してるんだろうな、彼女・・・。
★ ★ ★
だが、あのコンファレンスコールを聞いて、理解できたひともいるわけでして。
CNNの女性キャスターが理解できなかった理由は、おそらく彼女が債券やクレジットの知識がないのが原因で、「情報開示が悪い、透明性が低い」というのとはまた別の話じゃないかと筆者は思う。
基本的な知識が欠けてる相手に、詳細な内部情報を渡したからとて、どの道、理解できるはずがない。
今週以降、いよいよ、問題のToxic Assets(不良資産)のバランスシートからの切り離しが始まろうとしているが、これは100%債券の世界の話。
対象となる資産は「AAAの格付けが付された証券化債券」で、売り手は不良資産を抱えてしまった金融機関、買い取る側は民間投資家、買い取るための資金は連銀が用意するT.A.L.F.(Term Asset-Backed Securities Loan Facility)資金。民間が資金を提供したら、FDIC預金保険機構が、民間の資金提供者に対し保証を出す。
この証券化債券を買った投資家は、セカンダリー市場でフツウに取引し、売れたら連銀に借りた資金をお返しし、儲けは投資家のフトコロに。こうした流れを作ることで、低迷している証券化市場にカツ入れようとしてるんですな。
債券、クレジット、CDSなどの基本的知識をほんの少し齧っておくだけで、これから起ころうとしていることが理解しやすくなると思うので、クレジットの世界に長年籍を置いたひとりとして、ごくサワリの知識だけだが、紹介したい。
★ ★ ★
AIGの件で死ぬほど登場した、クレジット・デフォルト・スワップ(Credit Default Swap、略してCDS)だが、そもそも、CDSとは何か。
CDSをザックリ説明したサイトは結構ある。たとえば日本語のウィキペディアのCDSの項を参考にする手もあるが、あそこまでザックリしすぎると、かえってわからなくなるもんですね(笑)。
CDSがクレジット市場の取引で実際どう使われてるかの「実務偏」基本情報は、債券運用世界最大手のピムコ社のサイトのここが、どこよりうまくまとまっているので、参考にされたい。
しかし、世の中には、ピムコのサイトを読んでもチンプンカンプンというひとの方が少なくないだろうし、CNNの女性キャスターみたいにヒステリー起こされてもかなわないんで、MHJでは“小学生向け”に説明することにする。わかってるひとは飛ばしてください。
★ ★ ★
本題に入る前に、「債券」という証券について押さえておきたい。いっぱんになじみの深い株式と決定的に異なる点は、債券というのは、青天井で儲かる種類の投資ではない、ということだ。
株式なら、うまくいけば、元手の投資金額を何倍、何十倍、何百倍にすることだってできる。持とうと思えば20年だって30年だって、その会社が存在する限り持ち続けることもできる。一攫千金の可能性あり、夢いっぱいの投資だ。
しかし、債券というのは、(1)いくらの金額を(=額面)、(2)いくらの金利で(=クーポン)、(3)どれくらいの期間持つか(=償還期日)、という条件があらかじめ決まっていて、期間が過ぎれば、もっと持っていたくても、償還されてしまう。しかも、償還されるときに手元に戻ってくるカネは額面以上にならないんだから、夢のない世界なんです。
しかし、そんな夢のない証券も、日々、金融街でトレードされていている。たとえば期間10年という条件がついた債券を買っても、10年間ジーと償還期日が来るのを待ってる必要はない。債券にも、中古(?)の債券を売買する巨大なセカンダリー市場が存在する。債券市場の規模は株式市場とは比べ物にならないほど巨大なマーケットで、そこは1%の100分の1(1 basis point=1ベーシスポイント)という金利の小刻みな動きに一喜一憂し、リスクが上がった下がったとわめいているプロの投資家集団のたまり場。
だが、ひとことで「債券」と言っても、国債、社債、スワップ、証券化商品、などなど、債券の種類もたくさんあって、それぞれが極めて専門性が高いために、棲み分けがハッキリしており、国債関係者が証券化商品の取引にも関わるということは、まずない。それぞれの分野で、何がリスク量を左右するかがまったく異なるからだ。
(余談だが、筆者は現役中に株式サイドも債券サイドも両方経験したが、ハッキリ言って、債券サイドってのは、四六時中ウジウジとダウンサイドのリスクのことばっか考えているせいか、懐疑的で性格暗く、重箱の隅つついて一人ニタニタしてるオタクみたいなひとが多い。その点、株式サイドは、アップサイドに夢を抱いていられるせいか、打たれ強くて能天気、実はあまり深く考えてないんだが知ったかぶりは得意、みたいなひとが多い、という印象である。)
さて、社債投資であるが、あなたの手元にいま100万円の現金があるとしよう。ある会社があなたの100万円を借りたいと思っていて、10%の金利払いますから1年間貸して欲しいと言う。あなたは、額面100万円の債券を金利10%で額面と同じ100万円で買うのに合意したとしよう。債券というのは貸す側と借りる側とで結んだ「契約」なんである。
ところがその1年後、この会社が事業に失敗し、払うと言ってた10%の金利と元本を払う余裕がなくなった。
あなたが一年前に債券と引き換えに貸した100万円がどうなるかというと、この会社は、他のひとから新たに別の100万円借りてきて、約束した金利も付けて、あなたに返そうとする。契約どおり返してもらったら、あなたはハッピー。しかし、新たに100万円貸してくれた相手は、10%じゃ足りない、15%の金利付けろ、と言う。
同じ会社が同じ100万円借りるにも、支払う金利は高くなっちゃった・・・。だって、この会社、事業に失敗したんだもん。つまり、この会社の信用力は落ちてしまった。信用力が落ちると、高い金利を支払わされる。貸す側は相手が信用できない分、高い金利を請求し、取りっぱぐれるリスクを回避しようとする。取りっぱぐれる、すなわち、デフォルト(債務不履行)起こされたら困りますんで。
つまり、これが「信用リスク」、「クレジット・リスク」という概念である。
この信用リスクという【概念】に具体的に値段を付けて取引する市場、それがクレジット市場である。
(続く)
★ ランキングに参加してます。よろしければ投票クリックお願いします。★
↓↓↓↓↓
にほんブログ村 アメリカ経済
人気ブログランキングへ
Subscribe to:
Posts (Atom)