Tuesday, August 31, 2010

各国のETFの今年リターン実績

30日の朝にBEA(Bureau of Economic Analysis)から出されてきた米個人所得(Personal Income)の統計は、実質可処分所得(Real Disposable Income=DPI)の減少、という暗い内容であった。

BEAによる統計リリース全文はこちら

明るい経済統計がでてくるわきゃーない、というのはわかっている。

わかっちゃーいるが、数字をみせつけられると、やはり、暗い。(泣笑)

先週金曜日(27日)のダウ上昇分のほとんどを吐き出すに十分なほどの暗さであった。

中間選挙が本格化するまであと2ヶ月程度。共和党は、経済失速はなにもかもオバマが悪いと叩きまくり、民主党は、種まいたのは共和政権じゃないかと叩き返す。

時期が時期ですので、そうやって政争に気を取られてるのも仕方ないとは思いますが、確実に米経済失速してますんで、政治家の皆様には、票集めも大事かもしれないが、本質論の部分にもうすこし焦点合わせて議論戦わせてもらえないものかと、一般納税者の筆者としては思うわけである。

ムーディーズ・アナリティクスによると、米国の過剰住宅在庫は増えてきており、現在、米国内で空き家になっている住宅戸数は、カナダ国全部の住宅戸数の2倍、ということである。

下のグラフは、縦軸は単位千戸、緑の線が空き家になっている住宅戸数の実際数値、ゴールドの線が長期トレンド。

緑の線が長期トレンドから乖離して上昇している、の図。


一方で、住宅ローンの借り入れ金利は30年固定で4.36%まで低下しており、米国の住宅融資市場では、近年ありえなかった低金利。

金利がそこまで下がっても「借り換え需要」だけが増えていて、新規ローンについては、期待されるほど伸びていない。

米国はいま、個人も、企業も、デレバレッジングの最中。可処分所得が減少、失業率は上昇、将来の不安が払拭されていない中で、どれほど多くのひとが、多額の借金組んで、いま住宅を購入したいと考えるであろうか。

米国は将来的に人口が増加することが期待されている国なので、過剰住宅は、【長期的には】吸収されてゆくことだろうが、目先、【短期的な需要】喚起ということになると、かなり厳しいと判断せざるをえない。


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と、いろいろ暗くグチャグチャ言ってみたが、要するに、

「現状、この経済環境下で、米国株に対してどれほど期待できるというんだよ」

という話である。

バリュエーションで見たときに安いとか言ってるひとはもちろんいるわけだが、センチメントが暗すぎて、バリュエーションだけでは説得力はない。

さらには、夏季最後の週ということもあり、取引高は最悪・最低の薄商いで、米株市場にはまったく覇気はない。

米国株に対する慎重な態度・見方は、どうがんばっても崩すことができないので、そこでとりあえず、他国にも目を向けてみる。

各国のETFとティッカー、今年に入ってからのリターン実績を良いほうから順に並べると、下の表のようになる。(クリックすると拡大します。数値は30日付。表は、Seeking Alpha より。)

これをみると、南米やアジアでは、今年に入ってからのETFのリターンがハンパじゃない伸びを見せてる国もあるな。

逆に下位には軒並み欧州の国名が並ぶ。(別に驚かないが。)

すこし、じっくりと、他国の市場についても、勉強せなあかんな・・・と思っている。


Tuesday, August 24, 2010

ガイトナーに味方はいるか

8月2日のNYタイムズに、ティム・ガイトナー財務長官の論文『Welcome to the Recovery』が掲載されたのを覚えておられる方もいるだろう。

Welcome to the Recovery
(New York Times, 8/2/10)

『景気回復へようこそ』という明るくアップビートなタイトルとは裏腹に、読む側の気持ちを何故か暗くした、あの論文・・・。

あれ以降、8月に入ってからの米株市場は、こんな有様である。




8月6日に出されてきた雇用統計は市場コンセンサスを大きく下回り、リカバリーどころか、オバマ政権の経済政策が勢いを失ってきているのは明らか。オバマの経済アドバイザーのクリスティン・ローマーもバークレイに送り返されることだし、あの『Welcome to the Recovery』というタイトルは、もしかするとガイトナー長官のエピタフ(墓碑銘)になるのでは・・・、などと野次馬の自分などは無責任なジョーク言ってたんである。

そしたら、今日、共和党のマイノリティ・リーダー、ジョン・ベーナー議員(John Boehner、オハイオ州)が、ガイトナー長官とラリー・サマーズをクビにしろ!とわめきだし、話題になった。

"President Obama should ask for - and accept - the resignations of the remaining members of his economic team, starting with Secretary Geithner and Larry Summers, the head of the National Economic Council
Minority leader Boehner: Fire Obama's economic team (Washington Post, 8/23/10)


オバマが政権をとってから1年半以上過ぎたわけだが、失業率は改善せず、住宅市場と消費の回復という頼みのシナリオも、いまや、ほとんど絶望的になってきている。

今朝(23日)出されてきた米中古住宅販売統計も、市場コンセンサスより【13%も】下ブレした。


上のWaPoの記事から――

Boehner said President Obama's team lacks "real-world, hands-on experience" in creating jobs that are needed for a full economic recovery. The Republican lawmaker cited reports that some senior aides complained of "exhaustion," including the recently departed budget chief Peter Orszag.

ベーナー議員は、完全経済回復に不可欠である職の創出のためには、(オバマ大統領の経済担当チームは)現実世界での実務経験を持ち合わせていないと批判し、最近も予算担当チーフが辞職するなど、シニアクラスの実務担当者たちが「政策に疲弊度がめだつ」と不満をいうようになっていると述べた。


オバマは休暇中のため、バイデン副大統領が代わりに、この政敵の発言について「共和側は自分たちの政策政策というが、彼らが政策と呼んでいるのは、われわれがやろうとしていることにともかくなんでも反対するだけ、そういう政策だ」と反撃。

"Mr. Boehner is nostalgic for those good old days, but Americans are not...We've seen this movie before Mr. Boehner," Biden said. "We've seen it before. And we know how it ends."

バイデン「ベーナー議員は古きよき時代を懐かしがっているだけ。だが米国民はそうじゃない。ベーナー議員が出てくる前にも、それとまったく同じ筋書きの映画を見たよ。そして、その映画がどういう結末を迎えるかも、われわれは知っているんだ。」

民主側はことあるごとにオバマの経済政策にケチつけてるベーナー議員に打撃与えようと、彼を攻撃するCM作って、ネガティブキャンペーン展開中。はっきり言って、共和も民主も、どっちも、どっち。








今年は中間選挙の年ということもあり、景気がなかなか上向かないことへの一般国民のフラストレーションに便乗して、共和・民主のポリティカルバトルが激化するのは予想されていたこと。

とはいえ、共和サイドがそうしてギャーギャー騒ぎだしても、大声あげてガイトナー長官をかばってあげようという声が「民主党の内輪から」も多く聞こえてこないというのが、少々痛い。

さて、ティム・ガイトナーの運命やいかに・・・!

ますます政争盛り上がる中、成り行きを見守ろうではないか。


”What is it, Lassie...is Timmy in trouble?
「どうしたの、ラッシー・・・ティミーが何か災難に遭ってるの?」


そうでした!ティミーには、ラッシーという強い味方がいましたね!!(違

ラッシーはいつだってティミーのともだち

Monday, August 23, 2010

アメリカの「ものづくり」の落ち込みよう

先々週の8月11日、The Manufacturing Enhancement Act of 2010 (2010年製造業促進法)にオバマ大統領が署名し、法案は正式に法制化された。

米国製造業者が必要とする輸入材料の一部にかかる関税を引き下げることにより、製造コストを下げて、製造業の落ち込みを抑え、米国から海外への米国製品の輸出促進につなげようというのが新法の狙いである。

以下はそのときの大統領演説より。

Now, some suggest this decline is inevitable, that the only way for America to get ahead is to leave manufacturing communities and their workers behind. I do not see it that way. The answer isn't to stop building things, to stop making things; the answer is to build things better, make things better, right here in the United States. We will rebuild this economy stronger than before and at its heart will be three powerful words: Made in America.

今起こっている米国の製造業の落ち込みは避けられないものだとか、米国はもう製造業とその労働者のことは忘れて前に進むしかないのだ、などと言う者もいる。だが私はそうは思わない。答えはものづくりをやめることではない。答えは、ここ合衆国で、よりよいものを建て、よりよいものをつくることにあるのだ。我々はこの経済を従来以上に強いものに立て直してみせよう。そして、それの核となるものは、次のパワフルな3つの単語になる。それは、メイド・イン・アメリカ。

演説全文はこちら

オバマはこの演説で、過去10年間で、米国の製造業の従事者は33%縮小したと述べた。

時間軸をもっと長くとり、1930年代からみると、米国の非農業部門ペイロールに占める製造業従事者の割合は、みごとな下降一直線を描く。



かつては40%近くあった割合が、現在は10%を切っている。(グラフはInfectious Greedより)

き、厳しい・・・

MADE IN AMERICA の道は、いばらの道。


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【追記】 上のグラフの統計に国際比較があることを教えてもらいました。(Thanks to fukumimi

データは米国労働省が出している、International Labor Comparisons

1970年から2009年までの時系列ですが、これをみると、1970年時点では、米国と日本はほぼ同じ、26~27%といったところ。これが2009年になると、米国は10%、日本も減ってはいますが17%。

ドイツは39%(1970)から21%(2009)へと約半減。イギリスも2009年時点では米国並みの10%という数値になっています。

現時点での割合には各国でばらつきはあるものの、1970年からの約40年間で、先進国の「ものづくり」人口は総じて減少傾向。

この点について、Twitterで、「製造業従事者の減少は生産工程の自動化によるところも大きいので、必ずしもものづくりの衰退と同一でないのではないか」というご意見も頂戴した。(Thanks to Usekm

たしかにそれももっともですよね。

製造コスト(人件費)に惹かれて、先進国企業が生産拠点を新興国に移し出してから久しいわけですが、その新興国でも従業員の賃金交渉ストなどが頻発しており、グローバルの「ものつくり」のフロントは、この先、まだまだ変わっていきそうだよな・・・。

なかなか興味深いですね。いろいろ考えるポイントがありそうだ。

今後の参考のために、この労働省のデータも、ここに貼っておくことにする。(クリックすると拡大します。)

Sunday, August 22, 2010

「アメリカ経済は日本と違う」の大合唱

ここひと月ほどのあいだ、米市場では、米経済も超長期にわたりリセッションから這い出せずに「ジャパニーズ・スタイル・デフレーション(Japanese style deflation)」に陥るのではないかという懸念が強まっている。

いまや米市場では「ジャパン・スタイル」というのが一種の【流行語】みたいになっていて、TVも、雑誌も、新聞も、日本経済に詳しい(らしい)専門家が次々と登場し、「アメリカは日本とは違う」、「アメリカは日本みたいにはならない」と、口角泡飛ばして力説する光景が散見される。

あえて、(らしい)と書いたのは、TVで日本がどーしたとか言ってる連中の多くが、日経平均の NIKKEI をニッカイ、ニッカイ、と発音したりしているからだ。

NIKKEIの正しい発音を知らないなんつーのは、これまで日経平均とかかわりある仕事を大してしてこなかったという証明である。米国市場と関わりある仕事を実際にしていて、ニューヨークのダウ平均のDOWを「ドウ」と読む日本人がいますか?そんな奴が知ったかぶりするな、と筆者としては「チッ」と舌打ちのひとつもしたくなるんである。

しかし、この、「アメリカ経済は日本経済とは違う」の大合唱を聞いていると、実のところは、そのシナリオにリアル感が増してるために、そうやって自分で自分に向かって叫んでいないと夜もおちおち眠れない――そんな風にしか、こっちは取れないんだがな。

各証券会社も、その【大合唱】に当然参加していて、セルサイドアナリストやエコノミストは大忙しの様子。先日の日本版ウォール・ストリート・ジャーナルも、彼らのそうした健闘ぶり(?)を伝えていた。

米経済に「失われた10年」はあり得ない=銀行アナリスト
(Wall Street Journal日本語版、8/18/2010)

この記事によると、日米の違いを知るキーワードは「J・A・P・A・N」だそうである。

1. Job (職)
2. Accounting (会計)
3. Policy (政策)
4. Allocation of Resources (資源配分)
5. Normalization (正常化) 

以上5項目の頭文字とって、JAPAN。

語呂合わせにセルサイドらしい苦労のあとが滲む・・・(笑) 。 

ちなみに、この記事に登場するマイケル・メイヨというバンク・アナリストだが、MHJの昨年4月7日のMHJ記事(『決算間際、どうしてもウジウジしちゃう』)で、ウジウジ組の代表格として彼を紹介したことがある。(MHJ筆者自身は、マイケルは米銀アナリストとしてとても優秀な方と評価しております。)

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さて、春山昇華氏が8月21日付けのブログエントリーで、

今週は、「アメリカは日本とは違う!」、「日本のように委縮したデフレ経済にはならない」というレポートが大挙してセルサイドから届いた。資料的には良質なデータが豊富にみられる。

と書いておられる。

同エントリーで氏が紹介していた日米対比グラフが興味深かったので、MHJでも(勝手に)紹介させてもらう。(グラフの「見た目スッキリ感」から、春山氏が引用しているのはおそらくJPモルガン社のレポートではないかと推測するが、クレジットがないので出所は不明。)

MHJ筆者は実際のレポートを読んでいないので、以下、トンチンカンなことを言うかもしれないが、その場合は指摘してくださいね。


グラフ1(左側):日米の住宅価格の推移の比較

  • 1980年を100としたときの住宅価格。日本は急激に上昇し最高4倍まで膨張。


グラフ2(右側):日米株価の12ヶ月フォワードP/Eレシオの比較

  • 日本の株価がP/Eレシオ50倍という高レベルで推移したのと比べ、米国のそれは10倍から20倍の間で比較的安定的に推移している。




グラフ3(左側):銀行危機開始以降の累計(推計総損失額に占める累積処理額の割合)

  • 銀行危機【開始】の時期と不良資産から発生する損失総額の推計根拠がわからんのでなんともいえないが、多分、米国の場合は、HSBCが巨額損失を計上して各社大型償却の幕開けとなった2007年前半を開始時期としたと推測。
  • このグラフが示唆するのは、米国のほうは開始直後から比較的処理が進み、10四半期+で推計額の8割を償却済み、日本の場合は50四半期と償却完了に長期を要した。

グラフ4(右側):不良債権比率

  • 日本の場合は40四半期まで不良債権は増加し続け、最高8%近くに及んだ。米銀の場合は6%程度。ここがピークとなるかはまだわからず。




グラフ5(左側):米国の融資残高年間増加率と貸し出しを引き締めている金融機関の対比

  • 貸し出し態度が引き締めから緩和に急展開しており、過去の相関どおりにいけば貸出し残はプラスに転じる可能性あり。

グラフ6(右側):日本の融資残高の推移

  • 日本の融資残高はデフレ開始の96~97年あたりをピークに低下継続。530兆円からいったん370兆円近くまで160兆円近くの残高減少。




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上のグラフを見ながら、日米の違いについて、思いついたことを、以下にツラツラと述べてみたい。

まず日米の住宅価格の比較のグラフを見て思ったこと。

日本の住宅バブルも確かにすごかったわけだが、邦銀の場合は、不良債権処理額というのは、かなりの部分が「住宅関連」よりも「商業不動産関連」で発生したという点である。

バブル前には住専という住宅ローンを扱う専門機関もあったりしたけど、その住専も「住宅専門」とは名ばかりで、バブル進行とともに民間銀行が住宅融資に積極的になってゆく過程で住宅以外の事業用不動産貸出しに積極的になり、商業地価下落で空中分解。

民間銀行のブックに載ってる融資から出る損失は、マジョリティが企業向け融資からであり、個人の住宅向けに関連した損失ではなかった。

住宅価格の比較(グラフ1)とあわせて銀行の損失額累計の日米比較グラフ(グラフ3)があるから、想像するに、米国の場合は日本ほど急激なバブルではなかった、また、米銀は損失計上を早めに行い日本ほど先延ばししていない、ということを言いたいのだろうが、日本の大都市圏の不動産価格の推移を住宅用地に限って米銀の受けるインパクトと比較しても、そのインプリケーションは、歪んだものになるとMHJ筆者は思う。

ちなみに、米銀の場合、住宅融資ポートフォリオの信用リスクから直接発生する処理コストが「本格化」してきたのは、リーマンショックの「後」だったのである。それまでは、プレインバニラの融資から発生するコストはコア収益の範囲で十分吸収できる程度だったのだ。

邦銀のケースは、貸出金利に含まれていた期待損失をはるかに上回って償却必要額が発生したために、償却前利益だけでは処理コストを吸収できず、営業経費を計上する前にすでに赤字という悲惨な状況がながらく続いた。

邦銀のような償却前利益を大きく上回るような損失が米銀の融資ポートから発生していない理由は、もともとの融資のプライシングのあり方に日米の違いがあったことが主因だが、それでも米銀の貸倒引き当て金への繰り入れ額はリーマンショック「後」に増加して、商業銀行部門のコア収益を圧迫している。クレジットカードなんかはその他経費も考慮するとマイナスになってますからね。

重要なポイントとして指摘しておきたいのは、「米銀の不良資産の処理コストは、危機発生直後から多額に発生している、つまり迅速な措置をしている」という声をこちらでときどき聞くことがあるのだが、これはズレているということ。

というのも、米銀で急増したのは、融資ポートからじゃなくて、それを原資産にして組んだABS(CDO含む)のエクスポージャが市場価値の急落で急速に腐り、時価会計で強制的に認識させられたからだ。事実、2008年のリーマンショック「前」に米銀が認識していた処理コストの7~8割がたは、こうした時価会計がらみの損失の認識だったんである。

グラフ3に含まれている「損失」が具体的に「何」を指しているのかグラフからだけでは判断できないので、なんとも言えないが、もしも、サブプライム“がらみ”ということでABS関連の評価損も損失に含まれていたとしたら、比較としてはアップルとオレンジだ。邦銀の償却コストというのは、ほぼ純粋に融資ポートフォリオから発生する信用コストだったのだ。

また、バブル崩壊後の日本のケースは、融資ポートから発生する信用コストも強烈だったが、それに加えて、さらに持ち合い株から発生した評価損も、米銀の評価損同様に強烈だった。ただし、邦銀の場合、バブル崩壊直後は持ち合い株ポートに相当額の含み益を有していたため、崩壊後初期には株ポートを一部取り崩しのうえ評価益を実現させて、それを信用コストの吸収にあてるなどで「益出し」に利用していたぐらいだ。もしも、評価益を(幸か不幸か)あれだけ持っていなければ、邦銀セクターの初期段階での最終損失額はもっともっと膨らんで、公的資金注入の時期は早まっていただろうとMHJ筆者は思う。

ということで、日米それぞれの金融機関が危機発生後に計上した処理損失額を比較分析させるには、それぞれの国が処理でたどった背景と、自己資本を毀損させた損失の内訳詳細まで掘り下げないと、「米銀のほうが処理が早い、対処が早い」という結論を持ってくるには、ちと単純すぎ、とグラフをみながら感じたわけである。

当時の邦銀セクターのバランスシートというのは、大手も含めて、融資ポートフォリオに占める不動産・建設業・ノンバンクの問題三業種へのエクスポージャが非常に高く、さらにはそれ以外のセクターの借り手でも、土地バブルに便乗して銀行からカネかりて不動産投機してた、という【複合汚染】状態であった。

当時の邦銀はメガ銀行ですら、現在の米銀でいえば地銀・小規模金融機関のバランスシートに近い形態をしてたわけである。現在、米国の小規模金融機関で起こっているようなことが、日本では資産規模最大の都市銀行から最小の信用組合まで、上から下まで全部で起こっていたようなもんである。

米銀の小規模金融機関が「住宅のみならず商業用不動産の悪化が理由で自己資本不足に陥り」いまだに破綻が続いているという事実を思い出そう。

そして、つい数日前にも、米国の商業不動産の指数が下落しているというニュースがあったばかり。一般住宅の価格の下げ止まらないのに、さらに商業不動産の下落が加速したら、米銀セクターは、かつて邦銀が経験した処理地獄の後半戦と似たような状況に陥る「可能性」はいまだに残ってると筆者は思う。

つまり、グラフ4の米銀セクターの不良債権比率が、邦銀のパターンをなぞる可能性は、いまだ捨てきれない、ということである。

前述したように、融資の金利設定(プライシング)の時点で織り込まれた信用リスクが日米とでは異なるので、たとえ不良債権比率が同じになっても、期中の損失が当期利益に与えるインパクトが同じになるとは限らないわけではあるが、融資残高が伸びない、さらには、低金利で利ざやも膨らまず収益機会があまりない、の二重苦で、将来の不動産下落に対処するための引当金を捻出できる余裕は、米銀には実際少なくなってきている。

邦銀が長いこと苦しんだ背景には、これとまったく同じ「二重苦」の状況が生じて、財務の柔軟性が著しく低下したこともあげられる。

MHJ筆者としては、米銀セクターの財務力もいまだにこころもとない状況で、とてもじゃないが、「処理はおおかた終わりました、日本とは違います」と胸張れる状態にはいない、と思うんだよな。

ただし、ここまで不良資産から損失が出続けても、米銀の自己資本基盤(特に大手)は、当時の邦銀よりもずっと強い状態を維持できているという印象を、MHJ筆者は抱いている。日本と米国の違いを銀行セクターという切り口から分析して強調するなら、そこの部分は日本と比べやや明るい部分なのかも・・・と個人的には感じている。

と、とりとめのないことを述べてしまったが、それにしても、グラフ6の日本の融資残高の推移をみて、150兆円以上の残高が減少したという事実にあらためて驚いた。

日銀データを確認していないが、バブル期中に増加した融資額がたしか200兆円前後だったように、筆者はぼんやり記憶しているのだ。

日本は30年近くを経て、融資残高がもとに戻っていってたのだ。

Monday, August 16, 2010

アイルランドがなにやら不穏

欧州銀行ストレステストも【無事】終了したばかりの欧州で、またもや不穏な動き・・・。

ギリシャ、ポルトガル、スペインときたら、次は、やはり、アイルランドでしょうな。

アイルランドのソブリン債CDSが、2009年3月以来のレベルまでワイドニングしてる。いまこれを書いている時点で、300bpsぐらい。ポルトガル上回って、ハンガリーに近づく勢いである。



同国のマクロ経済の状況が芳しくないことに加え、同国の銀行群の資金繰りに懸念が生じてきているらしい。

またもや、資金繰り。

PIIGSの銀行の資金繰りについては、MHJでもギリシャスペインのケースを何度もしつこく取り上げたが、今度はアイルランドですか。(ま、特段、驚きはしないけど。)

FT Alphavilleの記事によると、金融危機時にアイルランド政府が同国民間銀行の資金繰りのために用意した流動性サポートのプログラムが来月9月で失効するそうなのだが、その9月に、アイルランドの銀行の調達ロールオーバーの時期が重なるそうなんである。(グラフはFT Alphaville)


このグラフの一番左、2010年9月のバーの赤い部分がそれである。ファンディングの必要額、総額にして200億ユーロ超。

FTの同記事によると、流動性サポートプログラムは、期間3ヶ月までに限定して今年一杯延長されたそうであるが、プログラムそのものを延長するようにロビィ活動盛んだということである。

リクイディティ(Liquidity)足りなくなりそうになると、きゃーーー!と叫んで、貸して貸してと騒ぐ。

なんとなく、毎月末に社員の給料支払う時期になると金策に走り回る中小企業の財務経理担当者の姿を想像してしまうではないか。

カネ余り、カネ余り、というけれど、ないところは、どこも、ぜんぜん余裕がないんである。

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『Bank of Ireland and AIB pass European stress test』

という華々しい(?)見出しの記事の日付をみると、7月23日。まだ1ヶ月も経っていないのだが、なんだか、すごく遠い日の出来事のようにも感じる。

その Bank of Ireland と AIB の今日の寄り付き直後の株価であるが・・・





(*注:Bank of Ireland というのは大手民間商業銀行で、同国の中央銀行はCentral Bank of Ireland です。よく間違えるひとがいるので、いちおう断っておきます。)

ま、ストレステスト発表前の7月12日にはアイルランド首相が「アライド・アイリッシュ銀行には公的資金のサポートが必要になるかもしれない」なんて言ってたので、「欧州ストレステストにパスしました!」などという【雑音】にまともに耳を貸していたひとは、そんなにいなかったと思うのだけれど。

筆者もツイッターでしつこく言ってきたことだが、ストレステストというのは所詮、静的(Static)な分析で、流動性のような市場のダイナミズムはどの道把握できない。自己資本比率が十分あっても流動性不足した瞬間にあの世に逝くというのは、この数年間に死んだ、あるいは死に掛けた金融機関が身をもって示したわけですからね。

そして、いま、アイルランドが迎えているのは、この「流動性」の話なんである。

流動性支援延長を求めるロビイ活動の行方と成果を見守ることとしよう。

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アイルランドの問題は、主要銀行の自己資本不足および流動性逼迫という側面のほかに、同国がこの2年ほど実施してきた「財政緊縮」という側面についても、含蓄あるケースであろう。

少々前になってしまうが、6月28日付のニューヨークタイムズに、こんな記事が掲載された。

In Ireland, a Picture of the High Cost of Austerity
(New York Times, 6/28/10)

不動産バブルが破裂した同国の経済は、7%以上もGDPが一気に縮小、国家財政が急激に悪化して緊縮財政を迫られた。銀行群は弱体化し公的資金によるサポートが必要になった。国家の財政をなんとか軌道に乗せようと、アイルランド政府は厳しい財政規律を導入し、福祉関係などの歳出を4%も削るなど、がんばってきたわけである。

しかし、事態はそう簡単に上向いてくれはしない。厳しい緊縮はアイルランド国民の日常生活に重くのしかかり、あちこちにゴーストタウンができたという。緊縮財政は必要なのだろうが、それには重い代償もくっついてくる、という記事。

(NYT記事から引用)
“The facts are that there is no easy way to cut deficits,” Prime Minister Brian Cowen said in an interview. “Those who claim there’s an easier way or a soft option — that’s not the real world.”

「財政赤字を縮小するのに簡単な方法など無いのだ、それが事実だ。」コーウェン首相はインタビューでそう述べた。「もっと簡単な方法、もっと楽な方法があるという者がいるとしたら、それは現実世界の話ではないのだ。」

アイルランドの主要経済指標の推移 (図表はNYTより:クリックすると拡大します)


図表左から、
-財政黒字%GDP(マイナスは赤字)
-国家債務%GDP
-GDPの伸び(年率)
-10年国債イールド(赤がアイルランド、緑はドイツ)
-失業率

このうち、真ん中のGDPの動きをみて、IMFは7月半ばに、『アイルランド、「崩落の淵」から安定、来年2.3%成長へ』と言っておりましたわね。(7月14日付ブルームバーグの記事

しかし、肝心の労働市場がGDPの成長にうまくついてきてくれない。

(上のNYT記事から引用)
Turning statistics into jobs, however, will be a herculean task. “Exports alone don’t drive a significant number of jobs,” said Paul Duffy, a vice president at Pfizer in Ireland.

統計値を職に変えることはきわめて困難だ。アイルランドのファイザー社のヴァイス・プレジデント、ポール・ダッフィはこういう。「輸出だけでは就業者の数を目だって増やすことができない。」

ドル安が進みユーロが大きく動いているが、ユーロが急落したときと現在とでは、経済をとりまく状況そのものは、たいして変化していない。

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ところで、いまとなっては実にどうでもいい話なのだが、昨年12月はじめにMHJ記事でソブリンリスクについて取り上げた記事で、ゴールドマンの著名ストラテジストのジム・オニールが、スペインのクレジットをショートして、アイルランドのクレジットをロングにしろ、という推奨を出しているのを紹介したことがある。

当時のエントリー(『ソブリンリスクについて(2)』)をいまいちど読み返してみると、オニールの「アイルランドをロングにしろ」という推奨の根拠は「財政緊縮に誰よりも積極的に取り掛かっている優等生なので、経済回復はスペインよりも早くおとずれるはずだ」というのがポイントになっている。

これを書いた昨年12月というのは、ドバイショックが起こったころである。ソブリンリスク問題が舞台中央に進み出てくる少し前。

当時のスプレッド水準は、スペインが90前後、アイルランドが160前後を推移していた。オニールはアイルランドの160bpsと言うレベルは、同国の積極的な財政緊縮とそのポジティブ効果を過小評価していると考えていたわけよ。

その後、ギリシャ問題で上へ下への大騒ぎになって、どちらのスプレッドも派手にワイドニングしちゃったんだけどね。

緊縮を徹底させることで、果たして実態経済が軌道に乗ってくれるかどうか。柔軟性が残っているか。

エコノミストやアナリスト達は、数字いじってるだけなんで、緊縮それいけドンドン!みたいなこと言って、それで満足するかもしれない。

だが、アイルランドの状況を見ていると「言うは易し、行うは難し」を見せ付けられる気がする。

そして12月から現在までの市場センチメントのスイングの仕方もすごい。短期間に激しくスイングする。方向感を決めかねているのである。

Wednesday, August 11, 2010

FOMC発表後の米国債の動きを記録しておく(ついでに株も)

8月10日に発表されたFOMCのステートメントは、米国経済の失速に連銀がお墨をつけた格好となり、ステートメント発表直後のベンチマーク10年米国債イールドは直滑降。

一方、株価の方は、ステートメントの内容をどう解釈したらいいのか判断つかなかったのかどうか、とりあえず、ウキウキ上昇。(ワケわからん。爆)

これが、昨日発表【直後】の10年米国債イールド(赤)と、S&P500(白)の動きである。

Graph: thanks to credittrader


今回のFOMCステートメントでは、前回6月に開かれた時のステートメントと比べると、米国経済成長に対する見解は全体的に弱腰になっていた。

例えば、言葉遣いが、以下のように変わったとか。

[前回] the labor market is improving gradually (労働市場は徐々に回復している)
[今回] employment has slowed in recent months (雇用状況はここ数ヶ月で鈍化した)

[前回] the pace of economic recovery is likely to be moderate for a time (経済回復のペースは当分穏やかなものとなろう)
[今回] the pace of economic recovery is likely to be more modest in the near term than had been anticipated (経済回復のペースは当面これまで期待されてたものに比べより穏やかなものになろう)

市場関係者にとっては、この、わずかに、なんとなく、ほんのちょっと、うっすらと、悪化方向が感じられる言葉遣いは、連銀ウォッチャーじゃなくても悲観的になるに十分であった。

FFレートのターゲットレンジは従来どおり0%から0.25%で、変更なし。

しかし、今回のステートメントでなんといっても目玉だったのは、連銀が投資証券として保有しているMBS証券の償還分が毎月$15-$20ビリオン程度発生するが、それを2年から10年の米国債に再投資する、と発表したことであった。

この情報を受けて、米国債イールドは大幅低下。以下、上から期間5年、7年、10年債、30年債のイールドの昨日(10日)の動きである。(買取対象に入らない30年債に注目。)(グラフはFT Alphavilleから)






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さて、一夜明けた今日(11日)、米国債はブイブイ。


米国債10年債は昨日からさらに買い込まれ、利回りは1年4ヶ月ぶりの低水準を記録、7bps低下して2.69%に。2年債は1bps下げて0.51%に。

これを受けて、2年から10年までの期間のイールドカーブが寝て、2年/10年の利回り差は5連続営業日で縮小。一方、上のグラフで30年債は動いていないのが確認できるが、10年/30年の利回り差はイールドカーブが立って拡大した。

債券ストラテジスト達は、米国債の利回りにはまだ低下余地があると考えてるようであるな。


そして(昨日は発表後とりあえず上がってみた)株のほうは、今日はどっぷり売り一色。

一番最初に紹介したグラフを見ても、FOMC発表までの数日間、10年債のほうはじっと辛抱強く成り行きを待ち、株式のほうは実はこれといって上がる理由もなかったが、チマチマとショートポジションの手仕舞いをしながら様子見してましたといった雰囲気。実際、米株市場のここ数日の出来高は極めて薄かった。

今日は、FOMCステートメントの咀嚼も終わり、「ちまちまショートカバー」が一斉に「本格売り」に転じて崩れました、の図だな、これは。(グラフは、過去5日のNYダウの推移)



VIX指数は上がり、ウルトラショートの各種ETFも大幅上昇。

ということで、今日一日終えて、NY市場の雰囲気がどんなだったかというと、こんなところでしょうかね・・・。



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最後に、ちょっと興味引かれるグラフを見かけたので、それも、ここに記録しておきたい。

TIPS (Treasury Inflation Proteced Securities) である。(グラフはCrossing Wall Streetから)




このTIPSのイールドが低下傾向にあるのだけれど、5年債の利回りがゼロに抵触している。TIPSの買い手は、向こう5年リターンがなくてもいいと思って買っちゃってるらしい。

TIPSはご承知のとおり、金利は固定、元本がインフレに合わせて調整されるため、インフレーションによる価値下落からプロテクトされている、極めて低リスクの債券である。

質への逃避通り越して、怖がってる人もいる、ってことかいな?

しかし、MHJ筆者はもうひとつ、このグラフ見てて、気づいたことがある。

2008年初頭、ベア・スターンズが逝っちゃったころ、5年TIPSのイールドは、やっぱりゼロだったんだな・・・。

ついったー上では、何度もしつこく、ことあれば、今の金融市場の雰囲気が08年の初めに似ていると書いている筆者であるが(こことかここ)、今日もうひとつ似てるものを見つけてしまったのであった。

Tuesday, August 3, 2010

米国でも「お財布ケータイ」

2日のBloombergに、こんな記事が。

AT&T, Verizon to Target Visa, MasterCard With Smartphones
(Bloomberg 8/2/10)

記事によると、米国二大携帯キャリアのAT&TとVerizonの2社がベンチャーを組んでスマートフォンを用いた決済事業に参入予定、クレジットカード最大手のVISA(以下V)とMASTERCARD(以下MA)にとっては新たな脅威になるかも、とのこと。内情に詳しい関係者3人が明かした。

以下は筆者による記事の要約。

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AT&T(以下T)とVerizon(以下VZ)が組もうとしているパートナーシップには、ドイチェテレコム(Deutsche Telekom)のユニットであるT-Mobileも参加する予定で、ディスカバーカードと英バークレイズが共同でアトランタほか米国の3つの都市にある店舗でシステムの試験を行うことになっている。顧客ユーザーはスマートフォンの「コンタクトを必要としない周波(contactless wave)」を用いて支払いを行う。TとVZは現在そのベンチャーのCEOに就く人物を探している最中。

この試みは、米国内のモバイルによる決済を促す最大のもので、米国人の財布に入っている10億枚のプラスチック・カードに取って代わる決済手段になるかもしれない。

「市場優位性」

業界に詳しいコンサルタント、リチャード・クローンは「モバイルのキャリア達は支払いプロセシングのエキスパート。これは確実にカード業界の流れを変える動きだ」と指摘する。氏が営むクローン・コンサルタントはカードネットワーク、カード発行会社、電話会社などにアドバイスを行っている。

ニルセン社のニューズレターによると、VとMAの2社は昨年2兆4500万ドルの支払いを手がけ、これは米消費者による一般使用目的のカードによる支払いの82%を占めた。この支配優位性が功を奏し、両社の収益増加をもたらした。Vの年間営業収益は2005年会計年度から6倍の$3.54bilに増え、MAも同様に$2.27bilと5倍以上に増えている。

コンタクトを必要としないテクノロジーで店舗での買い物を携帯で済ます決済サービスはすでに、日本、トルコ、イギリスなどで実用化されている。このJVでは、V、MA、AMEXについで全米4位のディスカバーカードの支払いネットワークを経由してプロセスされる。バークレイズは口座マネージを担当することになろうと、関係者は述べた。

「必然的な次なるステップ」

ベンチャーの参加比率は、TとVZは同率、T-Mobileが小さなシェアで参画するという。

バークレイズ社とディスカバー社の関係者はともにコメントを控えた。

「消費者にとって、モバイルによる支払いが次のステップになるのは当然の流れ。」Tのスポークスマン、マーク・シーゲルはそう述べた。VとT-Mobileの広報担当者は「現時点で話すことはない」としている。

ディスカバー社の広報レスリー・サットンは、「わが社は、より早く、より安全で、より利便性の高いテクノロジー・ソリューションを常に評価判断している」と述べ、バークレイズの広報ケヴィン・サリバンは「モバイルによる支払いの促進は、バークレイズのグローバル戦略において非常に重要な位置付け」と述べた。

金融機関を専門に投資するヘッジファンドHill-Townsent Capital社のCEO、ギャリー・タウンゼントは、米国のクレジットやデビットカードの最大の発行者であるJPモルガンやウェルズファーゴを電話会社が取って代わることはおそらくないであろう、という見方を示した。

「カード手数料」

「消費者が自分達の生活スタイルに合わせて好きなように利用できるメカニズムだという以外に、携帯電話が何だというのだ?」タウンゼントは電話インタビューで述べた。「AT&Tの口座が携帯を使って効果的にできるサービスがあったとして、JPモルガンやウェルズファーゴではそれができないという理由などない。実際、それをやるにも、独禁法がきっと立ちはだかってくる。」

長年VとMAがトランスアクションごとにチャージする手数料をめぐって戦い続けてきたリテール側は他のネットワークが参入してくることに賛成の意を示すかもしれない。リテール会社達は先月、デビットカードに課せられるインターチェンジ手数料(interchange fees)に上限をつけるというルールをついに議会に承認させ、2005年にファイルされた連邦独占禁止法違反の疑いはいまだ審理中になっている。Vによると、商店の側がクレジットカードを使用する顧客に追加手数料を課すことを禁止したVに対し、米法務省は民事法に基づく訴訟を持ち込むか考慮している最中、という。

「重要な悪影響」

「このルールが変更されると、我々のビジネスにとっては重要な悪影響になる」とVは当局に提出した書類上で述べている。

クレジットカードとデビットカードのトランスアクションごとに、カード会社から商人に1%から2%課されるインターチェンジ手数料は、年間$40bilを越す。

TとVZのベンチャーに通じた関係者は、この企画でトランスアクションごとにどれだけチャージが発生するか、またいつ試験がスタートするかの時期については、明確には言わなかった。

ウォルマート、Home Depot、ターゲットなどの大手リテール会社が作る業界団体 Retail Industry Leaders Associationのスポークスマン、ブライアン・ドッジは次のように述べた。「我々が長年主張してきたことは、今日(こんにち)の支払い市場では真の意味で競争が働いていない、ということだ。安全で信頼性の高いネットワークが競争に参加して、モバイルによる支払いオプションへの消費者の需要を満たし、リテール会社にとってのコストが低減されるのであれば、それは願ってもないニュースだ。」

「転換点」

米消費者は現金やチェックでの支払いをカードや電子支払いに切り替えてきており、現在、全体の半分以上がカードや電子支払いになっている。ニルセンによると、2003年には同比率は36%だった。

コンサル会社マーカタス社の調査によると、銀行業務や支払い業務におけるモバイル・テクノロジーは、若い消費者が先陣を切る格好で「転換点」を迎えている、という。18歳から34歳までの米消費者は、消費者全体の半分以上を構成するが、その80%近くが5年以内にモバイルによる金融サービスを使うだろうとのこと。

同社パートナーで元フリート銀行のリテール・バンキング部長だったボブ・ヘッジズは、「人々は日々の生活のあらゆる側面で携帯電話に依存しており、モバイルによる金融サービスを人々が素早く広範囲に受け入れる日は、すぐそこに迫っている。消費者がそれを望んでいるのだ。」と述べた。

MAとVも、独自のモバイルプロジェクトにすでに投資を始めている。Vはテキサスに本拠を置くDevice Fidelityという会社と組んで、iPhoneを含む各種携帯電話を支払いデバイスに変えるテクノロジーを開発済みで、これを使えば複数のカード口座を携帯内に取り込むことができると、Vのモバイル事業担当トップ、ビル・ガジャは述べている。

「Zong、Bling、Boku」

7月28日のインタビューでガジャは、「我が社は世界各地の多くのモバイルオペレーターと(この件について)協議を進めている最中だ。安全、かつ、大きなスケールを持つモバイル支払いサービスを構築するための最良の機会は、(どこかが単独でやるのではなく)他業種他企業と共同で本企画を進め、モバイルと金融のそれぞれのネットワークを収束させ、電子支払いの価値をモバイルチャネルに拡充させることで得られると信じている。」と述べた。

今年6月には、全米23万箇所に散らばるMAを扱う店舗で携帯支払いができるようにするため、シティグループが携帯電話の裏に貼り付ける「MasterCard PayPass」のスティッカーを導入したことを、MAのスポークスウーマン、ジョアン・トラウトはEメールで明らかにしている。

一方、カリフォルニア州シリコンバレーでは、Zong、Bling Nation、Boku Inc. といったスタートアップ企業達が、支払手段の代替ソリューションを提供しだしている。Zongのユーザーは、インターネットでの買い物に際し、モバイル電話番号を打ち込むことで支払いが出来る。Bling Nationは、顧客が彼らのデバイスにかざすだけで買い物ができるというサービスをコミュニティバンクとローカルビジネスに提供している。Bokuは、オンラインのゲーマー達にターゲットを絞り、ディジタル商品やソーシャル体験を購入するための支払いサービスを手がけている。

「カードは時代遅れ」

これから新しい支払いシステムが出来てくるにせよ、そのテクノロジーが米国内で定着するにはさまざまなバリアに直面するだろうとするボストン連銀のような見方もある。

「消費者は多くの店舗がモバイル払いを受け付けるとわかるまではそのサービスを求めようとしないだろうし、商店は商店で、そのテクノロジーを導入するのに必要なコストを払って余りあるクリティカルマスができるまでは積極的にならないだろう」とボストン連銀の論文は指摘する。

各商店がモバイル払いのリーダー(デバイス)を設置するのに$200かかり、携帯電話に内臓されるマイクロチップをそのサービス用にアップデートするには製造側にハンドセット一台につき$10から$15のコストが発生する、と同連銀は試算している。プロモーションとして、モバイル払いをする顧客に、チェックアウトの際に顧客の携帯に、お店が何らかのご褒美(ポイントやクーポンなど)を与えたり情報を流したりするのは、試す価値はあるかもしれない。

コンタクトレス(Contactless)テクノロジー(NFC=Near-Field Communications=近距離コミュニケーション、ともいう)は、今使用されているプラスチック・カードとくらべ、セキュリティ上は別に劣っているわけではないと同連銀は言う。消費者は携帯電話をコンピューターとシンクロさせて、モバイルのシグナルが届かない場所だったりバテリーが切れてしまっても買い物ができるようになるのも可能だろう。

「人々が財布を持ち歩く替わりとして、モバイル払いのテクノロジーを信頼してもよいと考えるようになったら、いくつかの重要なイシューが持ち上がるだろう」と連銀ペーパーは言う。

前出の業界コンサルタント、クローンは、モバイル番号と銀行口座番号の両方の情報にアクセスができるワイヤレス・キャリア達のほうがVやMAよりも競争優位に立てると見ている。

「モバイルはオンライン、リアルタイムで顧客と相互に交信するデバイスで、顧客とのリレーションシップそのものを変えるものだ。」とクローンは言う。「カードは時代遅れなんだよ。」


(以上、翻訳に間違いがあれば筆者の責任です。あれば、指摘ください。)


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実は、この記事を読みながら、MHJ筆者は、『お財布ケータイ』ではどこよりも進んでいた(はず)の日本が、たとえ本件のJVに直接参加しないにしても、着目すべきプレーヤーとしてどこにも登場しない、つーか、完全無視されているのに、イラッとした。

本記事を書いたブルームバーグ記者が日本を無視したということに対してイラッとしたのではない。

もう何年も前からお財布ケータイで先駆者的なポジションにいたにもかかわらず、その技術がついに日本から一歩も出てくることはなかったということにイラッとしたんである。

昨夜、ついったーでも、ブツクサ述べたことなのであるが、もう3年以上前のこと、ダボス会議に出席した知り合いが戻ってきたので、どんな様子だったのかを聞かせてもらう会合があった。その席で、中国の企業家達がケータイによる金融決済のインフラに尋常ならぬ興味を抱いていて、「これからはケータイだ!」と言ってディナーのテーブルで会話が弾んだという話を聞かされた。

新興国も、これからどんどん進めてゆくインフラ整備の一環として、電子決済の拡充は当然視野に入ってるわけである。

その土産話を聞きながら、筆者は「へー、いまごろ?日本なんてとっくにケータイひとつあれば何でもできるよ。自販でジュースも買えちゃうしね~♪」とか言って、日本が他国よりも進んでいることに、何故か、ちょっと得意げな気持ちになったのを思い出す。(遠い目)

で、あれから3年、その技術は日本から一歩も出てこねーじゃねーか!

今思えば、あのときの得意げだった筆者の姿こそが、まさに日本の姿そのもの・・・。

たった3年のうちにトルコでも実用化され、いまや【腕力】では最強のアメリカが既存のグローバルネットワーク引っさげて登場してきた。

スマートフォン市場で遅れ取った日本が出る幕なんて、もうねーよ。

そこに、イラッと来たわけである。

上の記事の、VISAカードのモバイル事業担当者の言葉を、再度ここにコピペしよう。

“Visa is in discussions with a number of mobile operators around the world. We continue to believe that the best opportunity to create a secure, scalable, mobile-payment service is by working together, converging mobile and financial networks, and extending the value of electronic payments to the mobile channel.”

「我が社は世界各地の多くのモバイルオペレーターと協議を進めている最中だ。安全、かつ、大きなスケールを持つモバイル支払いサービスを構築するための最良の機会は、(どこかが単独でやるのではなく)他業種他企業と共同で本企画を進め、モバイルと金融のそれぞれのネットワークを収束させ、電子支払いの価値をモバイルチャネルに拡充させることで得られると信じている。」

日本企業に足りてないのは、技術じゃない。技術が遅れとってるわけじゃない。

足りてないのは、このビザのモバイル担当者の視点を実行に移し、技術を企業収益に変えるマネージメントの力だと筆者は強く思う。

国内ニーズに気をとられ、プレーヤー過多で飽和状態になっている国内での競争にうつつを抜かし、日本国内でどこが主導権とるかみたいな内輪の話でいつまでも足踏みしている。

そうこうしてるうちに、海外勢に技術で追いつかれ、グローバルでの事業拡大の機会は狭まる、あるいは、消滅する。

ところで、携帯分野でこの失態を招いたのとまったく同じ議論を、最近、違う分野で目にした。電子書籍だ。

アマゾンの書籍販売において、ハードカバーのみならずペーパーバックでも電子書籍の販売数が上回るぞとかなんとか言ってる時代に、日本では、縦書きだの、横書きだの、ルビふるだの、出版文化を守るだの、いったいいつまでウダウダとくだらない議論してるのだろうかと、筆者のようなただの外野素人は思わざるを得ない。

日本語の電子書籍化について書き出すと、またイラついて、感情的に書き殴ってしまい、エントリーが終わらなくなりそうなので、これについては、また別の機会を設けて書きたいと思う。

ここらへんのイラつく話は、ブログで文句たれてても仕方ない。筆者が日ごろ思っている無責任なつぶやきを、他の方々から頂戴した反応と一緒にディスカッション形式にまとめた【ブータレついったーコメント集】があるので、筆者のブーたれ読みたい方は、こちらへ。

当ブログでは、電子決済に関連して、もっと重要で意味ある情報を書き留めておきたい。