Wednesday, July 29, 2009

米住宅市場について、ブツクサ雑感

今回は、まずは、お詫びから。昨日、何も書いてない白紙のエントリーを手が滑ってアップしてしまいました。RSSで購読くださっている皆様には、タイトルも本文もないMurray Hill Journalが配信されたかと思います。お詫び申し上げます・・・。

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前回は、カリフォルニア州の公的年金CalPERSが【高リスク/高リターン】投資で出た損失を、同じく【高リスク/高リターン】投資で回復しようとしているという話を書いた。

同じく公的年金について、昨日のボストン・グローブ紙は、マサチューセッツ州の公的年金も、ヘッジファンドを積極的に雇うなどして、(CalPERSのように)【高リスク資産】への相対的なアロケーションが高かったことがアダとなり、23.6%ダウンしたというニュース(Mass. Pension Fund Posts Big Losses)を伝えていた。

マサチューセッツ州は、公的年金ファンドの中ではこれまで常にベストパフォーマーに入っているような優良ファンドだったが、今年(会計年度6月末)は全米でワーストのひとつに加わった。

このニュースを紹介していた『Pension Pulse』というブログの著者は、ヘッジファンド業界が今年の第2四半期に入ってから、かなりの好成績を挙げており、流入する投資資金も増加していることに触れ、次のように書いている。

The real good news for hedge funds is that the markets keep grinding higher. Most hedge funds charge alpha fees for leveraged beta. Sure, they package it nicely, slap on some "risk management" and peddle it through a network of slick salespeople, but at the end of the day, it's "disguised beta".

(今年Q2について)ヘッジファンドにとってグッドニュースだったのは、市場がジリジリと上がり続けたことだ。多くのヘッジファンドが「アルファ・フィー」と称して、ファンドの成績が市場を上回った場合に手数料を徴収するが、それは、レバレッジをかけたベータに対するフィーだ。見た目をよくして、「リスク管理」を謳い、ぬかりのないセールスマンのネットワークを駆使して売り込むが、とどのつまりは、(ヘッジファンドというのは)「変装したベータ」であるに過ぎない。


うむ、なるほど、筆者も同感であるな。ベータが高ければ、相場が良い方向に動いている間はアウトパフォームし、逆の場合はアンダーパフォームする、それだけのことである。

この際だから、ヘッジファンド業界は、手数料を「Alpha Fee」と呼ぶのを今後止めて、「Beta Fee」に名称変更したらどうでしょうか。

ブログ『Pension Pulse』上には、連邦政府(Federal Government)職員の公的年金も昨年度は22%ダウンだった、というニュースも書いてあった。これって、大統領も、その補佐官達も、CIAやFBIの職員も、みな入ってるんですよね?CIA職員の給料は民間より安いので、年金含む福利厚生が命だという話は、以前MHJ記事で紹介したことがありますが、「命の年金」がアクティブ運用のツケでゴソッと減ったら困りますね。

(ちなみに、アルファ重視でアクティブ運用したりせず、ちまちまインデックス運用だけやってたら、20%ダウンだったそうだ。)


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さて、今日の本題、というか、雑感に入る。

一昨日の月曜日(27日)の朝、米商務省が発表した新築住宅(一戸建て)販売統計のリリースによると、09年6月には年換算で384000件が販売され、前年6月より20%以上低い数値だが、5月の346,000件と比べると11%上回ったそう。

ここだけ読むと、明るいな。

月次ベースだと、6月だけで全米で36000件の新築一戸建てが売れた!

しかし、6月のフォークロージャの告知件数は、カリフォルニア州だけ45,691件あったんですと・・・。

下のグラフは『EconomPicData』というサイトから。(左がカリフォルニア州のみのフォークロージャ告知、右が全米の新築住宅販売)



フォークロージャの嵐、とまらず・・・。


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そして、昨日はもうひとつ、住宅市場の話題。

ケースシラー指標が3年ぶりに上昇したというニュース。これで米住宅市場は底入れか!」とウキウキ騒いでるひと、ちまたに多し。




下はロイターの記事から。


5月ケース・シラー米住宅価格指数は約3年ぶりに上昇、前年比は低下が減速
2009年 07月 28日 23:33 JST 記事を印刷する | ブックマーク [-] 文字サイズ [+]
 [ニューヨーク 28日 ロイター] スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)/ケース・シラーが発表した5月の住宅価格指数は前月から上昇した。上昇は約3年ぶりで、価格安定化の可能性を示した。

 主要20都市圏の価格指数は前月比0.5%上昇した。4月は0.6%の低下だった。ロイターがまとめたエコノミスト予想は0.5%の低下となっていた。

 前年比では17.1%低下したが、低下幅は4カ月連続で縮小した。2007年10月から09年1月までの16カ月間は連続で、前年比で過去最大の落ち込みとなっていた。

 主要10都市圏の価格指数は前月比0.4%上昇、4月は0.7%低下。前年比では16.8%低下した。

 20都市圏中17地域で前年比の数字が改善した。

 S&Pの指数を算出する委員会のデビッド・ブリッツァー委員長は声明で「大局的に見れば、住宅価格が幅広く上昇したのは2年10カ月ぶりだ」と指摘。
「住宅価格の下落がようやく落ち着きつつある兆候の可能性がある」と述べた。


相場のチアリーダーCNBC局は、例によってキャスター総出で、「ほんのちょっと明るいニュース」を、「ものすごく明るいニュース」にしようと力(りき)んでいたが、先週までイケイケだったナスダック・ハイテク株の決算数値がいまひとつ冴えず、コモディティも足引っ張って、住宅関連の「明るい」ニュースは相場を持ち上げるには力不足だった。今週前半は先週のギャンギャンから全体的にモメンタムを失った雰囲気がただよう。

チアリーダーと言えば、NY連銀のトップ、ビル・ダドリーも、「景気回復は住宅価格の上昇と自動車販売の増加によってもたらされる」と講演したりして、チアリーダーやってるようだ。そりゃー、NY連銀のオフィシャルたるもの、ベージュブックのトーンに忠実に。

それにしても、みなさん、住宅市場に対し、ずいぶんと強気ですこと。

しかしですよ、以前も書いたような気がするが、住宅のような高い買い物をキャッシュで即金で買えるひとなど少ないし、ローンを組むにも、多くが職を失ったり、消費意欲が下がったり、貯蓄率が上がったりしている最中に、高額のローンを組もうというインセンティブがあるとも思えんし、空室率だって賃貸は過去最高、一軒家の空き家も一時より回復しているといってもまだまだ歴史的に高いレベルにいる

それでも、住宅購入へのデマンドだけは増えて、価格が底入れ(=ここから徐々に上がってゆく)する、なんてことが、実際ある得るんでしょうか・・・。

ここが本当に【底】だというのなら、筆者も、できることなら、NYにいい物件があれば買いたいところだが、なにせいま所有している自宅が売れなければ、そんなキャッシュ、ないですからね。

(余談だが、ニューヨークの不動産に直接関わる友人から聞いた話だが、マンハッタンでは最近、賃貸料が急速に激しく下がってきており、地域によっては10年前と同じレベルまで下がってきた物件もあるという。人気のあるエリアのドアマン付き新築ビルの上層階で1BR(600sf程度)月額レンタル2700ドル、とか。数年前なら月のレンタル2000ドル代というのは、マンハッタンでは、ワンルーム/ステューディオ以外、考えられなかった。レンタルの下げにつられる形で、コンドやCO-OPなどの販売価格も、下落のピッチをここ最近速めてきている、という。税考慮後のRent Equivalence(=税控除できる持ち家の住宅ローン金利分等を調整して賃貸と同ベースにひき直して比較した月額アウトフローのこと)のでみたときに購入する魅力は薄れますからね。)


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ところで、スタンダード&プアーズといえば、ケースシラーを扱ってる部署とは違う部門だけれど、同社のMBSの格付けをするグループが、サブプライムモルゲージおよびプライムのジャンボローンの【損失見込み(Loss Projection)】の数字を、つい最近引き上げていましたね。

<注:豆予備知識> MBS = Mortgage Backed Securities = 不動産担保融資の債権を裏づけとして発行された証券のことで、一般にモルゲージ債と呼ばれる証券化商品のこと。裏づけになる資産が住宅融資だった場合は、RMBS(=Residential Mortgage Backed Securities)、商業用不動産融資だった場合はCMBS(Commercial Mortgage Backed Securities)と呼ばれ、区別される。また、2005年ヴィンテージ(Vintage)と言った場合は、そのMBSが組成された年が2005年だった、という意味。

サブプライムローンが原資産の場合、2006および2007ヴィンテージ予想損失率はそれぞれ32%と40%に引き上げ、だそうである。(←2007年に組成されたサブプライムのRMBSは原資産プールの残高に対し40%の価値が回収不能になる、という意味)ちなみに、今年2月にも同社は同率を引き上げていて、あのときは、25%と31%であった。半年経たないうちに、かなり大幅な修正で、RMBS市場の悪化を見込んでいる(=もっともっと格下げ来るぞ、という意味)そうだ。

また、サブプライムのみならず、プライムのほうも、S&Pによるプライム・ジャンボ・ローンの損失見込みとしては、2006と2007のヴィンテージそれぞれ、5.08%(2月時点では3.65%の見込みだった)、6.97%(同4.5%)で悪化。

S&Pのエコノミストは、底入れまでに米住宅価格はまだ下がるという見方をしている。ケース・シラー指標担当者の「底入れかも」という強気な見方と、RMBSのアナリストやマクロ担当のエコノミストの見方とでは、担当として見ているものが違うとはいえ、同じ会社のロゴつけていながら、えらく対照的である。


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ブログ『Calculated Risk』で、こんなWSJの記事が紹介されてた。

Study Finds Underwater Borrowers Drowned Themselves With Refinancings (WSJ, 7/28/09)

カリフォルニア州立大学の研究者らが、2006年から2008年までの南カリフォルニア地域でのフォークロージャー4000件を対象に調査したところ、半分以上が一度は借り換えを実際にやっており、5件のうち4件は、持ち家を第二抵当に入れていた、という。

カリフォルニア州の2006~2008年のフォークロージャはサブプライムがらみが多いと思いこんでいた筆者だが、この調査によると、実際は必ずしもサブプライム融資を受けていたとは限らず、調査対象となったフォークロージャ物件の購入時期の平均は2002年、多くのケースが(バブル前の)1990年代に購入した家だった、というのである。

また最初にローンを借りるときは、LTV(=Loan-to-Value 鑑定価値に対する融資額の割合)は80%台であった。

だが、注目すべきポイントは、(フォークロージャに至った借り手のうち)ほぼ全員が、家を担保にエクイティを現金化するホームエクイティローンを借りており、調査分だけで、引き出したキャッシュは3億ドルに相当した、という。

その後住宅価格が下落して、LTVは150%近くまで膨れ上がった。つまり、現在起こっているフォークロージャの嵐は必ずしも価格下落とサブプライム融資が問題だったわけではなく、「借金漬け」という体質が招いた結果である、とこの調査資料は結論付ける。

ホームエクイティローンが米国で広汎に用いられ、かのオバマ大統領ですら、イリノイ州の議員時代に自宅を抵当に入れて現金を数度引き出し借金漬けであったことは、ここMurray Hill Journalの5月21日付けの記事でも紹介したことがある。(09年5月21日付けMHJ記事 『オバマ一家を救ったジャックと豆の木』参照。)

オバマ家はラッキーにも印税という予想外の収入が舞い込んで、ミシェルも大幅昇給、その後、大黒柱である夫が「大統領」という「不況下でも4年間保障付き」の【仕事】も見つけてきたのでよかったが、そうじゃなければオバマ家の台所にも火がついていたかもしれない。

仮に、住宅価格がここで底入れしたとしても、問題の本質が、単なる「価格の問題」ではなく、もっと根の深いものならば、米国の消費動向の見込みは厳しい状況が続くのではなかろうか、と感じる。上述したNY連銀のダドリーの言「住宅市場の活動と自動車販売が景気回復を牽引する」という見方は、筆者には、ものすごく楽観的で単純化された話のような気がする。



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Monday, July 27, 2009

CalPERS、いつの間にやら「べそっかき小僧」

前々から何度かMHJ記事にも書いてきた、カリフォルニア州財政問題。先週、ついに予算案が議会を通過したそうですね。下は読売新聞より。

加州の経済危機ひとまず回避、改革法案可決
7月25日21時2分配信

【ロサンゼルス支局】深刻な財政難に陥っている米カリフォルニア州の州議会は24日、巨額赤字の解消に向け、総額約240億ドル(約2兆3000億円)の財政改革法案を可決した。

法案は、教育や医療、刑務所管理の費用などを約150億ドル(1兆4000億円)削減することを柱としている。法案可決で、不況による税収悪化で財政赤字が約260億ドル(約2兆5000億円)まで拡大していた同州は、
財政破たんの危機をひとまず回避した

ただ、税収回復の見通しは立っておらず、近い将来再び財政難に陥る恐れもある。また、弱者切り捨ての歳出カットには、強い反対が上がっている。

同州のシュワルツェネッガー知事は、記者団に、「我々はまだ危機のさなかにある」と強調した。


ここで強調すべきは「ひとまず回避した」の「ひとまず」でしょうか。ひとまずI.O.U.はこれ以上発行しなくて済むようになりました。

社会的弱者にシワ寄せが行くという「削減」の部分にスポットライトをあてるニュースが多いけれど、聞くところ、それ以外にも、いろんな【苦肉の策】が盛り込まれて、ツジツマつけてるそうじゃないですか。

たとえば、歳入策のひとつとして、州の労働者保険(Worker's Comp)を手がける組織の一部を「State Compensation Insurance Fund」として売りに出し、その売り出しから$1ビリオン(10億ドル)のファンドレイジングする予定、というのがあるんだが、LAタイムズによると、方々から反対が出てるらしくて、すでにその案は頓挫しそうで、たとえうまくいっても今年中に$1ビリオンのファンドレイジングができるかは大いに怪しい、という。(予定どおり売り出しできなかったら、$1ビリオンは、どうする・・・。)

さらに、$1.7ビリオンを州内の地公体から借金させてもらうそうだが、これは来年度の歳入からお返ししなくちゃいけないし・・・。

そして、もっと悲しいのは、来年6月末日に払うことになってる公務員給料($1.2ビリオン)を翌日の7月1日に一日延ばすことで、今年度の予算から外した、ってんだから。7月1日は新会計年度の初日ですんで、$1.2ビリオンは来年度予算でよろしく、ってことで。

・・・くっ、くるしい・・・・。

来年度の税収増えなかったら、先延ばし分、どうするんだ?

カリフォルニア州在住のみなさん、荒波は続きそうですが、がんばってください。(←例によって、空しいエール。)

しかし、カリフォルニア州の行方に全世界が注目してるうちにも、他の州や市レベルの財政難は全米で拡大しつづけている様子。

これも聞くところ、ペンシルバニア州フィラデルフィアがどうやらヤバイらしい。カリフォルニア州政府とまったく同じ、予算案をめぐり市議会が対立・凍結、キャッシュフローがまわらなくなって業者向け支払いがストップされている、という。

また、米自動車産業のお膝元ミシガン州デトロイトでは、5月に売れた一軒家のセールス価格のメディアンが6000ドルだった、と聞いた。6万ドル、じゃないですよ。6千ドル、だよ。キッチンなど家の改装費にかけるお金の全米平均が6万ドルだってのに、家そのものが、6千ドル。

デトロイト市では住宅不動産のセールスの相当部分がフォークロージャ物件だそうで、いまだにフォークロージャが止まらず、たとえ買い手が現れても価格はどんどん下がっているという。デトロイト市の予算で「固定資産税」というくくりの収入、どれくらい見込まれてるんであろうか・・・。

全米の地方政府、大丈夫か・・・。


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さて、本日のタイトル、CalPERS である。

CalPERS = California Public Employees Retirement System (カリフォルニア州職員退職年金基金)

そう、公的年金としては全米最大、投資資産1800億ドル(09年6月末現在)。【物言う株主】【アクティビスト】のお手本とされ、つい最近も、バンカメのCEOケン・ルイスを引きずり下ろせとアピールして話題になった、あの泣く子も黙る、CalPERSである。

24日付けのニューヨークタイムズに、CalPERSの新CIOと今後の投資戦略についての記事が掲載された。

California Pension Fund Hopes Riskier Bets Will Restore Its Health (7/24/09, NYT)

この記事によると、CalPERSは昨年だけで600億ドル目減り、投資リターンも、09年に入ってから、-23.4%にダウン。(下のグラフはNYタイムズより)




このグラフを見ると、最近まで、長期にわたりかなりの好成績を挙げ続けていたことに驚かされるが、CalPERSが公的年金でありながら【高リスク/高リターン】のヘッジファンド的投資スタイルだったことを考えれば納得もいく。

このNYタイムズの記事によると、同社の不動産ポートフォリオは35%の下落、プライベート・エクイティのポートフォリオも31%の下落、しかも昨年は、CalPERSとパートナーシップを組んでいたプライベート・エクイティや不動産投資会社にキャッシュを捻出する目的で株価下落の最中に株式を売却し、損失確定しちゃったという。

今年に入ってからCalPERSはJohn Dear氏を新しいCIOとして迎えたのだが、この新CIOの戦略としては、やはり、プライベートエクイティや不動産などの高リスク投資に資産を多めにアロケートし続ける、そういうスタンスなんだそうである。

グラフでも示されているように、同社の過去20年のリターンは7.75%、過去10年は最近の株市場暴落と高リスク投資の失敗がたたり2.41%。新CIOは、同ファンドの投資リターン目標を7.75%に据え、引き続き【高リスク/高リターン】のスタンスを崩さずに、大幅に失われた価値の回復を目指すそうです。

実際、今日のフィナンシャル・タイムズにも、CalPERSが4年前に売却したショッピングセンター86物件を買い戻すという記事が出てましたね。(前回のMHJ記事で触れたように、UPSが先週「小売業に明るさは全然見えない」と言ってたんだけどね・・・)

Calpers agrees to buy back 86 US shopping centres (FT、7/27/09)

(FT記事から引用)

・・・Mr Dear said in spite of the market downturn and the impact on asset values, he remained convinced that assets such as real estate, private equity and infrastructure assets would deliver higher returns to pension funds than public equities over the long term.

市場下落と資産価値へのインパクトは大きかったが、不動産、プライベート・エクイティ、インフラ資産などの投資資産は長期的に公開株式への投資よりも高いリターンをもたらすと、ディア氏は引き続き確信している。


勇敢だな、CalPERS。

現段階で、これら高リスクの分野に長期投資で入るというのは、並みのリスクテーキングじゃありませんよ。いちかばちかの大勝負だな。しかも、この組織、ファンドの規模がハンパじゃないんだもん。

でも、彼ら、仮にも公的年金でしょ。

CalPERSのパフォーマンスを米国債と比較すると、10年米国債の過去10年のリターンが4.25%、その前の10年が6.5%だそうなので、米国債を20年ひたすらジーと持ってたら、リターンはCalPERSの7.75%と良い勝負だったかもしれない、という見方もある。

州職員の給料を会計年度の末日から新会計年度の初日に一日ずらしてもらうという姑息な方法で、なんとか今年度予算としての「見てくれ」を「ひとまず」整えたというのに、その州職員の皆様(含シュワちゃん)が給料から長年コツコツ貯めてる年金の運用を、プライベートエクイティだの、不動産ファンドだので回して高リターン狙うって、それってどうよ。

(わたしには、ちょっぴり、ギャンブルなかおりがするんですけれど・・・)


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投資のプロなんだから、【高リスク/高リターン】で勝負したいなら、するがよい。

でも、前々回のMHJ記事でも書きましたが、高リスク投資には、高リターンを得られる可能性と同じだけ、高損失が出る可能性もある、ってことを片時もお忘れなく。投資は自己責任で。

今月のなかば、CalPERSは、多額の「仕組み債(Structured Bond)」投資から発生した損失の責任取れといって、格付け会社3社を相手取り訴訟を起こした。

Calpers sues rating agencies over losses (Reuters, 7/15/09)

CalPERSの訴えによると、同社は【SIV】という種類の仕組み債に投資したが、そこから10億ドル以上の投資損失が発生した。これだけの損失が発生した直接の原因は、格付け会社によるレーティングが「極端に不正確だった(wildly inaccurate)」せいだと怒りをぶちまけ、法廷で戦う覚悟だそうである。


(注)【SIV】という言葉を聴きなれない方のために少々説明すると、SIV=Structured Investment Vehicles というのは、資金のほとんどを短期・超短期のコマーシャルペーパー(CP)市場で調達して極端なレバレッジをかけ、それを、CDOやCLOその他債券のトリプルA部分に投資し鞘を抜く投資手法。米国のCP市場が正常に回っている間は極めて安価で資金調達することが可能だったが、CP市場が2007年あたりから異常な動きを見せるようになり、調達側(バランスシートの負債側)が不安定になる一方で、投資側(B/Sの資産側)のバリューは信用不安で急落するという格好になり、CP市場の閉塞と並行する形で、SIV市場は瞬く間に瓦解した。SIV市場で最も活発だったのはシティグループで、シティの仕組み債関連の損失は、このSIVから多額発生した。


CalPERSがカリフォルニア地裁に提出した訴状の実物は、こちら

このドキュメントの4ページ目に、「IV.事実背景」という部分があって、そこに、こう書いてある。

Other than the Rating Agencies' evaluation and subsequent credit rating of a SIV, an investor had no access to any information on which to base a judgement of a SIV's creditworthiness.

格付け会社によるSIVの評価と格付け以外には、投資家はSIVの信用度を判断するに必要な情報には
まったくアクセスできなかった


ほぉ、なるほど、「自分達が何に投資してるのか全然わかってなかったんだけど、格付け信じて買っちゃった」ってことですね。

でも、「それでも買う」って決めたのは、自分たちなんでしょ?

しかも、カリフォルニア州の不動産の上がり方、ちょっと異常なんじゃないのかと、誰もが口に出していた2006年に、集中的にサブプライム関連のSIVに投資してた、というじゃありませんか。

SIVってのは、すごっくレバレッジ効かせて、流動性の低い長期資産を、超短期の資金で回す、そういうビークルですよ。

筆者から言わせてもらうと、詳細な情報へのアクセスがどうした以前に、長短のミスマッチがここまで極端な投資方法って、そのストラクチャーを聞いただけで、プロならすぐにリスク感じるでしょ?いちおう警戒しませんか?格付け高いから大丈夫だと思って何千億円も投資した、その責任取れ、ってさぁ・・・。

別に格付け会社をかばう気はありませんが、そんな言い分、うちのお母さんが証券会社のセールスマンに薦められるまま投資して、失敗して泣きべそかいてるのと大差ないじゃん。

投資界の雄CalPERS、いつの間にか「べそっかき小僧」か。


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米議会は、AIGやウォール街関係者やバーナンキを血祭りに挙げたように、次は格付け会社各社を呼び出して同じように公聴会で責めまくる準備を着々と進めている。

このCalPERSの訴訟の件は、きっと、公聴会でも議員から質問が出されて話題になるな。

議会のことだから、CDSのときのように、信用格付けに関しても、またまたミョウチクリンでズレた質問が次から次へと飛び出すこと、間違いなし。

AIGの一件では「CDS」に関して議員連中によるヘンテコな質問の嵐だったけど、次回は「CDO」「CLO」「SIV」の番かもな・・・。さ~、またまたアルファベット3文字の登場ですよ~、みなさん!(笑)

ところで、以下はどうでも良い話だが、おもしろいから書いておく。

上にくっつけたCalPERSがカリフォルニア地裁に提出した実際の訴状の14ページ目、項目番号74番で、格付けスタッフをちゃんと訓練してなかったのも悪い、と言うくだりがある。その「証拠」として、当時の格付け会社のスタッフによるEメールが紹介されてて、

“WARR - don't ask [絵文字ニコちゃんマーク]”(Weighted Average Recovery Rate=加重平均リカバリー率が何のことかなんて、聞かないでネ!)

と書いてあった、というんである。

格付会社の担当スタッフが、こういう(不真面目な)やり取りをしているのは、格付けにあたるスタッフがSIVの仕組みをちゃんと理解しておらず、対象債券をモニターするのに必要なスタッフを確保していなかった格付け会社の怠慢であるとわめいてるんである。(しかも、さすが法的文書なだけあって、「このコンピューターによるスマイルの顔はオリジナル文書にあるとおりです。」とわざわざ但し書きあり。爆)

実際のページはここ(↓)。拡大して笑ってください。



もし近く公聴会で、この【ニコちゃんマーク】付きのEメールについて議員から真面目に質問が出てきたら、筆者はきっとその場に倒れてそのまま動けなくなるであろう。

そして、【ニコちゃんマーク】がどうしたよりも、CalPERSに預けてる公的年金のほうを心配しろ、と言いたくなるであろう。

引退後の年金まで、I.O.U.でもらっても、みんな困るんだからな。




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Thursday, July 23, 2009

ギャンギャンな盛り上がりの陰で、UPSの顔は真っ暗

決算シーズン。パターンとしては、

「(引き続き悪いけど)予想してたほどひどくないみたいだと株価高騰。

一方で予想トントンなら、株価暴落。

今日のアマゾン・ドット・コム(AMZN)はすごかったな。

前の日にeBay(EBAY)が「EPSは29%下がったけど、予想よりマシだった」ってことでギャンギャン上がり、それならアマゾンも、ってことで一緒になってギャンギャン上がった。AMZN、今日一日でで$5.08(5.72%)上昇して$93.87に!

ところが、市場がひけてから実際のQ2決算数字が出てきて、それが「市場の予想とトントン」だったため、「期待裏切りやがって」ってことで、今度はゴーンと$7近く下がって、今日一日のギャンギャン分は帳消しに・・・。

しかし、何に「期待」してたのか。

ったく、この連日の「ギャンギャン」の雰囲気についてゆくだけで、筆者はヘトヘトである。

マイクロソフト(MSFT)も、日中は「期待してギャンギャン」したけど、その後に「実際の数字見たらガッカリ」の失望売りで、後場が引けてから叩き落ちてるようだ。

MSFT、ここ一、二週間のナスダックのギャンギャンに【冷や水ぶっかけた】格好である。明日もギャンギャンは続くだろうか・・・。


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今日のアマゾン株のギャンギャン振りをモニターで見ていたら、フェデラル・エクスプレス(Fedex)の配達トラックが玄関前に止まり、一昨日アマゾンで買った商品が届いた。

筆者はNYのマンハッタンに自宅があるが、北東部メイン州のド僻地に小さいセカンドハウスを持っていて、夏場は避暑もかねて田舎で過ごす。(いま、この記事も僻地で書いてます。)

ここの田舎がどれほど僻地かというと、まず徒歩では、いちばん近くの隣家に行くにも10分以上は歩かなくちゃいけない。一番近いゼネラルストアで車で片道20分、いちばん近い映画館(上映は日に一回、一本限り)は車で片道1時間、いわゆるアメリカの「モール」という大規模お買い物センターに行くには、いちばん近いモールまで車で片道2時間半ハイウェイでぶっ飛ばす必要有り、というぐらいの僻地である。アメリカは広いですからね。日本の知床級の僻地なら、履いて捨てるほどあるんである。

こんな僻地にいながら、買い物に関しては、正直あまり不都合は感じない。

というのも、必要なものはたいがいネットショッピングで間に合ってしまうからだ。

今すぐ必要なものは別としても、何か欲しいものがあれば、洋服だろうが、エレクトロニクスだろうが、洗剤だろうが、冷蔵庫だろうが、書籍やDVDであろうが、ドッグフードであろうが、インターネットで9割以上ことが済む。

ネットショッピングの便利さに気づいてしまうと、お店にわざわざ出かけていく気など起きない。若かったころとちがって、最近は買い物に出かけると疲れるだけ。毎回、愛想の悪い店員に腹立てて帰ってくる。

生鮮食料品だって、マンハッタンでは、Fresh Direct というネットの食料品同日宅配サービスがあり、小額の配達料で、玉ねぎ・ニンジンから肉、魚、アイスクリームまで、一般スーパーで買うようなものなら何でも自宅アパートまで運んでくれる。品揃えも結構豊富なので、これが多忙なニューヨーカーに大人気となった。マンハッタンの街中では、Fresh Directと書かれたトラックが至るところに停まってるし、ダンボール箱に詰められた食料品をアパートビルに運んでいる配達のオニイチャンたちもあちこちで見かける。マンハッタンなんて、5ブロックも歩けばどこにだってスーパーがあるんですぜ。それでも、ネットで食糧買い。我が家も、ビルの玄関出ると目の前がスーパーだが、このサービスを利用するようになってから、自分でスーパーに出かける頻度が減った。

いまや、ネットで買えないものはない。

マンハッタンの大都会にいようが、超僻地にいようが、同じものを、同じ値段で、好きな時間に買えて、配達日も同じ。配達の信頼度も高い。

わたしのようにお店に出かけるのが億劫な人間には、ネットショッピング時代の到来はPCや携帯電話の出現ぐらい画期的な出来事であったな。ありがたい。

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で、アマゾン、である。

筆者は、いまや、アマゾン無しでは生活できなくなっている。書籍だけじゃなくて、なんでもかんでも、アマゾンで買う。

つい先日は、小型のチェーンソーを買った。その前は飼い犬のオヤツを買い、その前は小型のノートブックPCを、その前は大型の液晶テレビをアマゾンで買った。食器もアマゾンで買ったし、マットレスも毛布もシーツも、インスタントラーメンも、庭に置くベンチまで、みーんなアマゾンで買った。

なぜアマゾンかというと、送料込みで比較して、値段が他所より安いことが多いからである。小売店の店頭で買うより確実に安い。うちは、何か買うときは、必ず、アマゾンに同じ商品が出ていないか確認して価格を比較してから買う。

さらにアマゾンのいいところは、売られている商品の多くが【送料無料】になっていて、手元に届くまで数日我慢すればいい。もっと迅速に配達してもらいたかったら、筆者のように年間70ドル程払ってプレミアム会員になると、2日目配達でも送料無料、翌日配達の速達便にしても、重量に関わらず送料5ドル程度である。

もちろん、送料は、あらかじめ商品の価格にうまくプライシングされているのであろうが、消費者の心理としては【送料無料】と聞くと、なんだか得した気にもなる。(笑)

たとえば、先日買った小型のノートブックPCだが、午後4時までに買ったので、送料数ドル払っただけで、翌日の昼までに届いた。車で片道3時間走らないとPC売ってる店が周囲にないというこのド田舎の片隅でですよ、買ってから24時間以内に、新品のPCが手元に届いたんである。価格もNYの小売店より10%近くも安かった。

筆者は、もう2度と、小売の電気店にわざわざ行ってPCを買うことはないであろう。

筆者のビヘイビアが特別なわけではなく、米国の消費者はどんどんネットショップへと流れていっている。

その証拠に、同社の09Q2の業績は、当期利益は今季限りの調整項目がいろいろ入って前年同期比で$158(Million)から$142(Million)に10%下がったが、トップラインの収益は14%増の$4.65(Billion)で、そこそこの業績だった。個人消費が落ち込む中でトップラインの利益は確保。Q2の特徴としては、ゲームソフトとゲーム関連機器のセールスが北米で弱まり、Q2の足を引っ張った模様。(ゲームソフトと機器、今年はダメみたいですね。関係ないが、SONYのブルーレイも、ウォルマートの後押し空しく、米国ではすでに死に掛けておるぞ・・・。)

(ちなみに、MHJ筆者は、断じて、アマゾンの回し者ではありません。)


   ★   ★   ★


アマゾンなどのネットショップの普及を支えているのが、Fedex(FDX) や UPS(UPS)などの「配達屋」である。

ショッパーが自分でお店に足を運ばなくなった分、彼らがこちらにモノを運んでくれる。

今日(23日)はテク関連の株が一日中ギャンギャンの騒ぎだったので無視されていたが、今朝は、その「配達屋」の大御所UPSの業績発表もあった。

このUPSの業績発表とCEOのコメントについて、今日のウォールストリートジャーナルが手短だけど重要なことを書いてたので、忘れないように自分のブログに記録しておく。

Meanwhile, in the Real Economy... (WSJ、7/23/09)

UPSの決算発表については、この記事

UPSのQ2当期利益は前年同期比で49%ダウン。トップラインの売り上げも17%ダウンした。米国内・国際部門ともにリテールセールスの落ち込みが目立ち、需要は引き続き脆弱。

Q3業績についても、市場コンセンサスEPSが59セントに対し、会社予想EPSは45~55セントと弱気。電話会議の席で、パッケージのボリューム(数量)がQ2に続いて5%近くの落ち込みを見込む、と同社のCFOは述べた。

(WSJ記事より)
"We don't see any convincing signs of firming," Kuehn said in an interview. But "it appears that things are flattening out."

「(経済が)底堅くなって来ているという兆候はまだ出ていない」が「悪化の度合いが勢いを失ってきたように見える。」とクーンCFOはインタビューで述べた。



UPSの業績を左右する2大ファクターは、(1)小売の売り上げと(2)工業生産なのだが、UPSが見る限りでは、どちらも極めてネガティブな状態にまだいると言う。

また、全米の学校は9月から新学年が始まるが、普段なら今頃から、新学期用(Back-to-School)需要がチラホラ出始めてもいい時期なのだが、今年は、その新学期シーズンに向けた配達が動き出している様子がみられない、という。

“Our trends so far in July show no material uptick in growth, We don’t have any confidence that either demand or activity is going to pick up substantially.”

「今のところ、わが社の7月中のトレンドは、成長を示唆するような上方への動きはまったく見えていない。我々は、需要についても経済活動についても、目に見えて改善するといったコンフィデンスは全く持ち合わせていない。」(CFOの発言)



UPSの今日の株価は、市場全体の「ギャンギャン」モードにつられて2.3%の上昇であったが、当の会社自体は、朝一からすこぶるネガティブなトーンで業績発表を行ったのだ。

   ★   ★   ★

上で紹介したWSJ記事中に、The Pragmatic Capitalist というブログが紹介されていて、ダウ9000突破で盛り上がってる市場をよそ目に、「今日注目すべき唯一のニュース」として、このブログが、こんなことを書いている。

“UPS and FedEx are, in my opinion, the two best barometers of economic growth in the world. While the market rips higher on “better than expected” earnings and the strong housing numbers they are completely overlooking the fact that UPS sees no signs of recovery. As a middle man in almost every transaction it is nearly impossible to see a sharp recovery that UPS is not involved in.”

「UPS と Fedex こそが世界の経済成長を測る最良のバロメーターであるとわたしは考える。市場は”予想よりもよかった”企業利益と、強含みの住宅統計で盛り上がっているが、UPSが経済回復の兆候がまったく見えていないと述べた事実を市場は完全に見過ごしている。(これら配達サービスの会社は)あらゆるトランスアクションのミドルマンであり、UPSが参加しない状態で力強い回復が起こるなどというのは、ほとんど不可能だ。」


いつもウジウジと暗い話ばっか書いてるMurray Hill Journalであるが、今回もやはり筆者は、この『The Pragmatic Capitalist』というブログの意見に賛同するね。

アマゾンのトップラインの売り上げは伸びてるんであるよ。筆者もどんどん配達してもらってます。でも、UPSの業績は落ちている。小売は全体的に回復からは程遠い。

そんな暗い話ばっか注目してたら、儲からないぞって?

ご心配なく。今年3月に仕込んだFedex株、持ってますんで。(先週売らないで、よかったー!笑)

ゴールドマンが、S&P500の目標レベルを上方修正し、このラリーは継続すると言っているが、ゴールドマンとここ数ヶ月敵対関係になってる人気ブログ『Zero Hedge』は、GSが上方修正するときは、彼らがポジションを吐き出すときだ、これ以上ポジション取れなくなって身軽にならなくちゃいけなくなったから、ラリーは続くなんて言って、自分達はここで売りに転じ、高値で売り抜けようとしてるんだ、と書いていた。

Q3のGSのポジショントークに注意せよ!?(笑)

やっぱ、Fedex株、売ろうかな。(爆))



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Friday, July 17, 2009

【続】ゴールドマン強し!(商業銀行ステータス、さっさと返上しろよな)

ゴールドマンサックスの話の続きを書く。

投資の世界の常として、ハイ・リターン得るにはハイ・リスクは付き物。

GSが「クレジットで儲かった」ということは、それなりに「クレジットリスクを取っていた」から儲かったんである。

リスクを取らずして儲けようなどと考えるなかれ。(だが、過度のリスクテーキングは多額損失に至る【可能性】を孕んでいるという常識を片時も忘れるなかれ。)

GSの2Q09決算リリースを見ると、【債券・為替・コモディティ(FICC)部門】の業務粗利(Net Revenue)の推移は以下のとおりであった。

    2Q08   2379 ($M)
    1Q09   6557
    2Q09   6795


1Q09も、GSのFICC部門が稼いだ収益は2Q09並みにすごかったわけであるが、GSがどんだけクレジットリスクを取っているかを知りたいではないか。

メレディスみたいなコロコロ意見変える株アナリストのレポートを読んだところで、どうせ、急変させた適正株価についての説明(別名「イイワケ」)と分析(別名「コジツケ」)みたいな無意味な話しか書いていないんだから、こういうことは「餅は餅屋」で、クレジットエクスポージャならクレジット分析に詳しいアナリストが書いたレポートを読みたいなぁ、誰か持ってないかなぁ・・・

・・・と思っていたら、The Big Picture というブログ上で、まさに筆者が知りたいと思っていた内容のレポートが紹介されていた!いや~、ネットというのは、ほんとありがたいですね~。

とても優れた内容の分析レポートだと思ったので、ちょっと専門的だけど、Murray Hill Journalの読者の方々とシェアしたい。

『What Is Goldman Sachs』というタイトルがつけられたこのレポートは、債券・為替・コモディティ・クレジット市場にフォーカスを置くシカゴの独立系リサーチ会社Bianco Researchが発行したレポート。Biancoのコメンタリーは米国ではヘッジファンドなどプロの債券投資家層に定評がある。

以下に、Biancoのレポートに出てきたグラフを使わせてもらい、筆者の注釈も少々交えながら、ゴールドマンのクレジット投資の状況をみてみよう。

   ★   ★   ★

まずは、全体像から。

米国の預金取り扱い金融機関(いわゆる商業銀行)規制当局のひとつ、OCC(Office of the Comptroller of the Currency)は、銀行からコールレポートで報告されるデリバティブの売買活動とトレーディング収益の状況を四半期ごとにまとめて公表している。

OCCレポートによると、米国金融市場のデリバティブス取引は一握りの大手金融機関が占めており、上位5行の商業銀行が業界全体の取引額に占める割合は想定元本(Notional Amount)の96%、ネットのクレジットエクスポージャで83%である。

昨年暮れ、リーマンショックで市場流動性が極端に低下した頃、ゴールドマンやモルガンスタンレーなど大手証券会社やCITやGMACなどのノンバンクなどが(銀行窓口で一般預金を取り扱うような金融機関ではないにも関わらず、連銀が提供する流動性資金にタップする目的で)商業銀行持ち株会社に転身したのを覚えてますね。

あのステータス変更により、ゴールドマンは突如ワコビアを押しのけて「(デリバティブス保有額による)米国の商業銀行トップ5」の一角になった。

ステータスが「投資銀行」や「ノンバンク」から「商業銀行」になったのだから、銀行規制当局への報告義務が生まれ、その結果、これら“新”商業銀行たちも、JPモルガンやバンカメのような本格的(?)商業銀行と肩をならべて昨年度4QからOCC発表の四半期報告書に名を連ねることになったのである。

    ★   ★   ★

クレジットエクスポージャとは、金融機関がCDSのようなクレジットデリバティブスを用いて取り込んでいるクレジットリスクの総額である。(CDSを用いたリスクテーキングについては、前回のMHJ記事『小学生のための「CDSとは何か」(4)』を参照。)

以下のグラフ群はBianco Research のリサーチレポートから。(グラフをクリックすると拡大します。)

【グラフ1】 リスクキャピタルに対するクレジットエクスポージャの割合(%) 



クレジット・エクスポージャをリスクキャピタルで割ったこのグラフは、1ドル当たりのキャピタル(自己資本)に対してどれだけ多くのクレジットデリバティブスを保有しているかを示したグラフで、この比率が高くなればなるほど、その金融機関はエクスポージャが高い、すなわち、高レベルのリスクを取っているという意味になる。

09Q1 の数字に注目されたい。

   GS     1048%
   JPM    323%
   BAC    169%


GSの場合、キャピタルに対するクレジットエクスポージャは1000%強、つまり、$1の自己資本に対してその10倍のクレジットデリバティブスに投資してるんである。この比率は、JPモルガンの3.2倍、バンカメの6.2倍。

(これは、バリバリの「投資銀行」としてやってきたGSと、一般個人や企業から預金を受け入れて貸し出しをするという「商業銀行」としてやってきたJPMやBACとでは、「根本的にビジネスモデルが異なる」ということの表れである。)

   ★   ★   ★

【グラフ2】 クレジットエクスポージャの内訳



このグラフによると、OCCが管理する金融機関全体のクレジットデリバティブス使用の実態としては、98%以上がCDSで、圧倒的に多い。また、期限別にみると6割以上が1年から5年の長期、信用力別にみると6割以上が投資適格、となっている。(CDSの場合、いろいろカスタマイズは効くが、最も一般的なのは期間5年で、一般にCDSのプライスクォートでは特段断りがなければ「5年長期シニア」のCDSを指していることが多い。)

   ★   ★   ★

【グラフ3】米国商業銀行トップ5の粗利益に占めるトレーディング収益の割合(キャッシュによるトレーディングとデリバティブストレーディングの合計)



09Q1の比較では、GSは粗利の7割がトレーディング収入。(JPモルガンの同比率は13%。割合でみたら、債券トレーディングの世界では全米で最も存在感の高いJPモルガンですらGSの足元にも及ばないですね。)

 ★   ★   ★

【グラフ4】クレジットエクスポージャの詳細、総資産とデリバティブス保有額総額一覧



デリバティブスというのは、バランスシートに載らない(オフ・バランスシート)簿外資産である。

だから、バランスシートに載ってる資産の大きさが、必ずしもその金融機関のリスクテーキングの大きさを示すとは限らない。

グラフ4のJPMとGSとBACを比べてほしい。

2009年3月末時点でのバランスシート上の「総資産」(A)は

1. JPM  1688 (単位ビリオン$)
2. GS   161
3. BAC  1434

ゴールドマンのバランスシートは、JPMの10分の1のサイズしかない。

ところが、簿外資産である「デリバティブス保有額」(B)になると、

1. JPM  81161
2. GS   39927
3. BAC  38864

ちなみに、(B)を(A)で割って、簿外資産がバランスシートの何倍かを計算してみた。

1. JPM   48 x
2. GS   248 x
3. BAC   27 x


GS、総資産の250倍の簿外資産を持つ!

ただし、この表の注意書きによると、デリバティブスの種類によって詳細が分けられていないため、「デリバティブス」には株式・金利・コモディティなども含まれ、クレジットデリバティブスのみの数字ではない。

だが、【グラフ1】で示されたように、自己資本に対するクレジット・エクスポージャがダントツで高いことから、GSのクレジット・デリバティブスの保有額は極めて高いと推測される。

   ★   ★   ★

【グラフ5】銀行セクターのトレーディング益の部門別ブレークダウン:08Q4と09Q1の比較 



左側は09Q1のセクター全体の数字、右側が08Q4。表のバーは左から、金利、為替、エクイティ、コモディティ、そしてクレジット、それぞれの部門が稼いできたトレーディング益で、一番右のバーがその合計、である。

左側のグラフをみると、銀行セクターは全体として、09Q1はクレジット・トレーディングを除く他のトレーディング活動でそれぞれが収益をあげたことが奏して全体としてトレーディング利益は大きく改善した。

しかし、09Q1(左グラフ)および08Q4(右グラフ)というリーマンショック後の2四半期は、クレジット市場が機能麻痺を起こしてスプレッドが急激に拡大し、CDSがキャッシュのスプレッドから大幅に乖離してヘッジができなかったこともあり、業界全体としてはクレジットトレーディングは不調だった。だが、ゴールドマンだけはそうじゃなかったとBiancoは指摘する。

   ★   ★   ★

以上から、デリバティブスを駆使したリスクテーキングの度合いは、GSの場合、他の大手金融機関とは比べ物にならないレベルにあることが推測される。取り込んだクレジットリスクを利益に変える「トレーディング技術」に関しても、GSはずば抜けて秀でている、と言えますね。

Biancoのリサーチペーパーは、ゴールドマンサックスという会社は、会社そのものが巨大なクレジットポートフォリオであり、金融危機が起こってからは、GSの株価はクレジット・スプレッドの動きと強い相関を示すいう。つまり、GSに株投資するということは、クレジット市場に投資しているのに等しい、と。

下のグラフ6は、2005年から最近までのGSの株価の動き(青線)を、同期間のクレジットスプレッド※の動き(赤線)に対比させたものである。

(※ ここで対比用に使用されているクレジットスプレッドは、インベストメントグレード(投資適格)の債券インデックスのOAS(Option Adjusted Spread)。OASは何かとか言い始めるとキリがなくなるんで、このOASは要するに、CDSで投資適格のクレジットリスクを取る際にどれくらいのスプレッドが投資リターンとして得られるかの、一種のプロキシーだと思ってください。)

ちょっと複雑なグラフなので少々説明を要する。

まず、このグラフでは、赤線のスプレッド推移は上下さかさま逆転して(Inversed)プロットされていることに注意。CDSも含め債券というのはスプレッドが下がると証券の価値は上がるという関係にあるため、スプレッドの推移を上下逆さまにグラフにプロットすることで、スプレッドから示唆されるプライスの上下と株価価値の上下との相関が、あたかも正の相関になっているように見え、ビジュアル的にわかりやすくなるのです。(実際には両者は負の相関である。)

【グラフ6】IG社債のOASレベルとGSの株価との関係




同じように、GSだけを排除した銀行株インデックスを、OASレベルに対比させたのが、グラフ7.

【グラフ7】 IG社債のOASレベルと銀行株価インデックス(除GS)との関係




このグラフは、3つの期間に区切られ、それぞれの期間で、株価とクレジットスプレッドの「相関係数」がいかほどであったかも示されている。

期間1: 2005年初めから2007年2月8日(←HSBCがサブプライム関連損失の増幅で2006年収益の大幅修正を行った日で金融危機の幕開け)まで。
期間2: 2007年2月8日以降、現在まで。
期間3: 2008年9月5日(←フレディとファニーメイが政府の庇護下に入りリーマン破綻の一週間前)以降、現在まで。


上記3つの期間それぞれにみられたクレジットスプレッド(OAS)との「相関係数」を比較してまとめると、

          GS株       銀行株インデックス(除GS)
期間1       -61.38%     -58.73%
期間2       -95.53%     -90.83%
期間3       -87.17%     -41.58%


これによると、金融危機が始まる前(期間1)は両者とも相関は弱いが、始まってから現在まで(期間2)、クレジットスプレッドがワイドニングする局面では株価が低下し、タイトニングする局面では株価が上昇するという強い相関がGS株にも株インデックスにも双方にみられる。しかし、リーマンショック以降の期間に限定(期間3)すると、GS株とスプレッドの相関は引き続き強いが、銀行株インデックスは相関がみられなくなる。

Biancoリサーチは、この相関係数から読めることとして、以下を指摘する。ひとつには、エクイティトレーダー達はGS株投資はクレジット投資しているに等しいというのを理解しているらしいということ。

そして、もう一点は、(クレジット市場の市況悪化はGS株の収益性にモロに響いてくるという関係にあることから)AIGの巨大なCDSポートフォリオの救済は「商業銀行」の中で誰よりもGSにとって意味ある救済であった、ということ。

   ★   ★   ★

「ゴールドマンは、それ自体が巨大なクレジット市場である。」なかなか面白いではないか。

自身がクレジット市場なんだから、クレジットスプレッドがタイトニングしてきたら、ゴールドマンの収益は、そりゃー上がるはずであるな。

しかしね、筆者は、Biancoのレポートのグラフで、デリバティブスによるクレジットエクスポージャがリスクキャピタルの1000%以上、という数字を見たとき、開いた口がふさがりませんでしたよ。

だって、GSの好成績は、政府の救済措置の恩恵が最大限に凝縮されてるんだもん。

ポールソンもバーナンキもガイトナーも、GSはToo Big To Failの金融機関の一角だと繰り返し述べて、その安心感から、GSが発行体になっている債券のスプレッドもタイトニングした。(←GSの市中調達コストが下がった、という意味。)さらに、「商業銀行」にステータス変更したおかげで、連銀から超低コストの資金も使わせてもらって、資金流動性が枯渇せずに済んだ。調達コストの上昇を抑えることができたのは、ひとえに、政府が用意した救済策のおかげである。

だけど、GSが公的資金を正式に返済したのは今年の6月、それまでは、TARPによる公的資金が自己資本に混ざってたんであるよ。その自己資本一ドル当たりに10倍のクレジット・エクスポージャかけてトレーディングしてた、って、公的資金の目的じゃねーだろ、それ。

公的資金入れてもらった金融機関が、納税者のカネにレバレッジかけて、ここまで突出したクレジットリスクテーキングしてるってことを、当局がわかっていないはずがないのに、規制当局(この場合は連銀)は、この9ヶ月間、一体何やってたのさ。寝てたのか?

(注:日本でも、政府当局がボケてたから、公的資金が混ざってる自己資本をGMACなんぞにエクイティ投資して納税者のカネを高リスクにエクスポーズするのを当局が許し、結局あのカネはパーになった、そういう銀行がありましたけどさ・・・。2008年12月25日付MHJ記事『GMAC、悲願の銀行持ち株会社に(それでも日本政府はいいツラの皮)』参照)

これ、普通の一般商業銀行だったら、リスクキャピタルの10倍もクレジットエクスポージャ取ってるなんてことが当局の検査官に見つかったら、リスク量減らせ!と怒鳴られて、ガンガンいじめられて、大変ですよ。

どうしてGSだけ特別扱いなのさ?米国の政府当局はGSの手下か?(あ、旧従業員だった人はやたら多いですね、そういえば。笑)

クレジットコストだって、政府の裁量のおかげでAIG損失は一切取らずに済んだ。

そういう状態で、「史上最高益!」だとか、「今年はボーナスでかいぞ!」とか言われてもな。あんたの実力だけで最高益出せたわけじゃないでしょ。

預金も受け入れず、住宅融資も行わず、リスクキャピタルの1000%もデリバティブスでクレジットエクスポージャ取って、粗利の7割をトレーディングで儲ける会社が、果たして「商業銀行」と呼べるの?

そんな会社が、何ゆえに、中央銀行が金融危機対策として用意した市場性資金にタップできるのさ?

都合いいときだけ「商業銀行」づらをするのはやめてほしいね。GSが政府のバックアップを受けて安く資金調達できて収益確保した、その裏を返せば、その分、納税者に負担かけてる、という意味なんだから。

わたしの税金利用して、あんたの会社のトレーダーのボーナス増やすの、やめて欲しい。ボーナス計算するときは、公的支援が一切なかった状態を仮定して調達コストを計算しなおし、クレジットエクスポージャも、他の「商業銀行」並みだったと仮定して投資益を計算しなおし、それらをベースに、ボーナス決めろ。

それができないなら、GSよ、さっさと「商業銀行」ステータスを返上しろよな。



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小学生のための「CDSとは何か」(4)

ゴールドマンサックスのクレジットエクスポージャの本題に入る前に、予備知識として、銀行財務やクレジット投資に詳しくない人のために、筆者より、CDSなどのクレジットデリバティブスについて若干説明しておきたい。(わかってるひとはすっ飛ばしてください。)

書きかけのまま、4月からホッタラカシになってた『小学生のための「CDSとはなにか」』シリーズの結論である。(ほったらかしててごめんなさい。)

   ★   ★   ★

金融機関というのは、その事業の性格上、小額のキャピタルで多額の資産を保有するという、極めて高いレバレッジがかかったバランスシート構造をしている。

資産に対する自己資本の割合はたいてい3~10%ぐらいしかなく、負債資本比率が10倍とか20倍とかいうのは珍しくもない。

そのため、不測の当期損失が多額発生すると瞬く間に債務超過に陥る可能性が高いことから、金融機関には、特別に、厳しい自己資本規制がかけられている。

【自己資本規制】では、収益で吸収しきれない損失が保有するリスク資産から発生した場合に備え、その損失を吸収できるキャピタル(自己資本)を常時十分保有していることが義務付けられており、自己資本が規制上の最低限ラインを下回ると、その金融機関は担当規制当局から「お咎め」を受ける。

リスクというのは、ご承知のように、益を生むこともあるが損失に至ることもある。高リスク資産というのはその「損益のブレ幅」が大きいものを指す。

銀行が保有する資産には様々なリスク(マーケットリスク、クレジットリスクなど)が内在しているが、資産の「種類」によって内在するリスク量も異なり、そのリスク量は市場の環境・財務状況の変化などさまざまな理由から、常時変化する。

そうしたリスク量の変化に対応させて必要自己資本額を調節しながら、リスクとリターンの関係がオプティマルになるように目を光らせるのが、いわゆる【リスク管理】ってやつですね。
   
   ★   ★   ★

銀行が、ある会社に融資したとしよう。そうすると、その銀行は、貸出先のクレジットリスク(信用リスク)にエクスポーズされる。信用リスク、すなわち、踏み倒されるかもしれないリスクを取るのである。

内在リスク量が高い資産には表面上の金額が同じでも、より高額のキャピタルが必要になる。

信用力が高くトリプルAの会社(低クレジットリスク)に1億円の融資をすると、見込まれる損失が低リスクで少ないのだから、その融資資産には小額のキャピタルを積んでおけばいい。

だが、信用力が低くジャンク格付けの会社(高クレジットリスク)に融資すると、融資額自体が同じ1億円でも、必要キャピタル額は多くなる。額面が同じでも、その資産に内在しているクレジットリスク量が異なるからである。

高リスクのクレジットリスクテーキングを行うと、高収益を見込めると同時に、自己資本が毀損する可能性も高まるのである。

   ★   ★   ★

【CDS】というデリバティブス・インストルメンツを使うと、実際に融資として現金を相手に貸さなくても、クレジットリスクのリスクテーキングが可能になる。

例として、私がCITという会社に一億円の融資をして、CITのクレジットリスクを取り、そのリスクテーキングの見返りとしてCITから金利を受け取るとしよう。

わたしが融資を決定したころのCITはまだ優良企業だったんで、わたしは金利も低めで貸してあげてた。

でも、なんだか雲行き怪しくなってきて、CITの信用力が落ち始めた。

このままCITの融資をバランスシートに抱えていたら、下手すると、踏み倒されるかもしれない・・・そんな不安がよぎってきた。

この場合、わたしには対処法として以下の選択肢がある。

(1) そのままにしておいて、天の裁量を仰ぐ。
(2) CITと直接交渉して、ローンのリストラして月々の支払いが軽くなるように組み替えてあげる。
(3) ローンのセカンダリー市場に出て行って、ディスカウントかけて売っ払い、CITと関係を絶つ。
(4) そのままにしておくが、万一のために保険かけとく。

この(4)が、CDS売買である。

不安がってるわたしのところに、あなたが寄ってきて「わたしがCDSを書いて、CITの融資がデフォルトしたときにはあなたの代わりに損を取ってあげましょうか。」と言い、私が「はい、お願いします。」と言うと、そこに【CDS取引】が成立する。

つまり、わたしは【CDS】のバイヤーとなり、あなたは【CDS】のセラー(Seller=Writer)になるわけだ。

CDSは【プロテクション(Protection)】とも呼ばれ、文字通り、元々の融資がデフォルトしたときにプロテクトしてくれる、そういう契約である。

ここで何が起こるかというと、わたしがもともと融資を介して取っていたクレジットリスクは、あなたがCDSをわたしに売った途端に、わたしの手元を離れ、逆にあなたがそのクレジットリスクを取ることになるのである。

だって、もしCITがつぶれて融資が約定どおりに返済できなくなったら、あなたが、その損をカバーしてくれるわけでしょ。

あなたは、わたしの代わりにリスクテーキングするわけだから、その見返りとして、わたしにリスク見合いの金利(プレミアム)を要求する。

これがCDSのプライスになるわけだが、ただしこの場合は、CITが月々支払う金利そのものではなくて、クレジットスプレッドに相当する部分だけがCDSのプレミアムとなる。(現物債券のクーポン金利や融資の月決め金利は、(1)ベースになる市場金利と(2)クレジットスプレッドという上乗せ金利の2つに分けられるという説明は、小学生のためのCDSシリーズ(3)を参照。)

融資元本はそのまま私が持ってるわけだから、CITから支払われることになってる実際の金利のキャッシュフローは引き続きわたしが受け取るわけであるが、わたしはあなたから買ったCDSに対して金利を払わなくちゃいけない。

つまり、(CITからの)受け取り金利と(あなたへの)支払い金利が相殺されるから、わたしのネットの金利収入は減少する。(下手すると、CDSの売り手に払う金利のほうが高くなって、ネットのキャッシュフローはネガティブになるかもしれない。)

でも、わたしはその代わり、クレジットリスクをあなたに渡してしまったから、わたしが取っているリスク量は減少する。

これを【リスクヘッジ】と呼ぶのである。

わたしは、保険を買うように「CDSを買う」ことでリスクヘッジしたんである。逆にあなたは「CDSを売る」ことでリスクテーキングしたんである。

クレジットデリバティブスというのは、こうやって、もともとの金融資産(【レファレンス資産】という)はそのままの状態にしておいて、そこに内在しているクレジットリスク「のみ」を取り出して、リスクそのものを売ったり買ったりすることができる、そういうインストルメンツなわけ。

対象になる金融資産は、「融資」に限らず、「社債」でもいいし、「地方債」でもいいし、「仕組み債(Structured Bond)」でもいい。

ようするに、そこにクレジットリスクが内在している資産がありさえすれば、そのリスクをCDSを用いて売買し、オリジナルのキャッシュフローはそのままの状態でクレジットリスクだけを他者に移転する【リスク・トランスファー】が可能になるのである。

   ★   ★   ★

CDSのもともとの使用目的は上記のように、信用リスクのリスクヘッジであったが、今日のクレジット投資の前線では、現物を保有していなくても、デリバティブスだけを活発にトレードしているのが実態である。

機関投資家や証券会社はCDSだけを独立した証券として売買し、他の債券投資と同じ理屈で、金利のタイトニングやワイドニングに沿って、投資利益が生まれたり損失が発生したりする。

CDSにはCDSとしてのプライスがつけられるため、レファレンスになっている現物債券(キャッシュボンド)とCDSとの間に金利差が生まれることはしょっちゅうで(っつーか、金利差がないことのほうがめずらしい)、アービトラージ取引を活発に行うことができる。

また、投資家がある会社のクレジットリスクを取りたいと考えていても、その会社の現物債券の流動性が低くて市場に出回っていなかったらどうだろう。これが現物(キャッシュ)しか存在していない世界なら、投資を諦めるしかないが、デリバティブス(CDS)を売ることによって、その会社のクレジットリスクを自分のポートフォリオに取り込むこともできる。

AIG問題ですっかりお茶の間用語になってしまったCDSだが、CDSと聞いただけで「邪悪なもの」と考えてる素人は多いけれど、CDSというインストルメントが登場してくれたおかげでリスクの売買が可能になったというのは非常に画期的なことで、リスクの拡散と投資機会創出という意味で、ポジティブな側面のほうが実際には強い。

また、銀行がCDSでヘッジした融資にふりむけられていた自己資本は、リスク量が減るんだから必要自己資本も減り、フリーアップされた自己資本をもっと割りのいい投資に振り向けることもできるわけだから、効率の高いポートフォリオを組むのに役に立つという解釈もできて、CDSの使用がいちがいに悪いとは言えない。

CDSの問題は、CDSというインストルメンツ自体にあったのではなく、その「使い方」にあったのである。

   ★   ★   ★

やたら前置きが長くなってしまったが、ゴールドマンのクレジットエクスポージャの話に戻ろう。



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