ギリシャ、ポルトガル、スペインときたら、次は、やはり、アイルランドでしょうな。
アイルランドのソブリン債CDSが、2009年3月以来のレベルまでワイドニングしてる。いまこれを書いている時点で、300bpsぐらい。ポルトガル上回って、ハンガリーに近づく勢いである。
同国のマクロ経済の状況が芳しくないことに加え、同国の銀行群の資金繰りに懸念が生じてきているらしい。
またもや、資金繰り。
PIIGSの銀行の資金繰りについては、MHJでもギリシャやスペインのケースを何度もしつこく取り上げたが、今度はアイルランドですか。(ま、特段、驚きはしないけど。)
FT Alphavilleの記事によると、金融危機時にアイルランド政府が同国民間銀行の資金繰りのために用意した流動性サポートのプログラムが来月9月で失効するそうなのだが、その9月に、アイルランドの銀行の調達ロールオーバーの時期が重なるそうなんである。(グラフはFT Alphaville)
このグラフの一番左、2010年9月のバーの赤い部分がそれである。ファンディングの必要額、総額にして200億ユーロ超。
FTの同記事によると、流動性サポートプログラムは、期間3ヶ月までに限定して今年一杯延長されたそうであるが、プログラムそのものを延長するようにロビィ活動盛んだということである。
リクイディティ(Liquidity)足りなくなりそうになると、きゃーーー!と叫んで、貸して貸してと騒ぐ。
なんとなく、毎月末に社員の給料支払う時期になると金策に走り回る中小企業の財務経理担当者の姿を想像してしまうではないか。
カネ余り、カネ余り、というけれど、ないところは、どこも、ぜんぜん余裕がないんである。
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『Bank of Ireland and AIB pass European stress test』
という華々しい(?)見出しの記事の日付をみると、7月23日。まだ1ヶ月も経っていないのだが、なんだか、すごく遠い日の出来事のようにも感じる。
その Bank of Ireland と AIB の今日の寄り付き直後の株価であるが・・・
ま、ストレステスト発表前の7月12日にはアイルランド首相が「アライド・アイリッシュ銀行には公的資金のサポートが必要になるかもしれない」なんて言ってたので、「欧州ストレステストにパスしました!」などという【雑音】にまともに耳を貸していたひとは、そんなにいなかったと思うのだけれど。
筆者もツイッターでしつこく言ってきたことだが、ストレステストというのは所詮、静的(Static)な分析で、流動性のような市場のダイナミズムはどの道把握できない。自己資本比率が十分あっても流動性不足した瞬間にあの世に逝くというのは、この数年間に死んだ、あるいは死に掛けた金融機関が身をもって示したわけですからね。
そして、いま、アイルランドが迎えているのは、この「流動性」の話なんである。
流動性支援延長を求めるロビイ活動の行方と成果を見守ることとしよう。
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アイルランドの問題は、主要銀行の自己資本不足および流動性逼迫という側面のほかに、同国がこの2年ほど実施してきた「財政緊縮」という側面についても、含蓄あるケースであろう。
少々前になってしまうが、6月28日付のニューヨークタイムズに、こんな記事が掲載された。
In Ireland, a Picture of the High Cost of Austerity
(New York Times, 6/28/10)
不動産バブルが破裂した同国の経済は、7%以上もGDPが一気に縮小、国家財政が急激に悪化して緊縮財政を迫られた。銀行群は弱体化し公的資金によるサポートが必要になった。国家の財政をなんとか軌道に乗せようと、アイルランド政府は厳しい財政規律を導入し、福祉関係などの歳出を4%も削るなど、がんばってきたわけである。
しかし、事態はそう簡単に上向いてくれはしない。厳しい緊縮はアイルランド国民の日常生活に重くのしかかり、あちこちにゴーストタウンができたという。緊縮財政は必要なのだろうが、それには重い代償もくっついてくる、という記事。
(NYT記事から引用)
“The facts are that there is no easy way to cut deficits,” Prime Minister Brian Cowen said in an interview. “Those who claim there’s an easier way or a soft option — that’s not the real world.”
「財政赤字を縮小するのに簡単な方法など無いのだ、それが事実だ。」コーウェン首相はインタビューでそう述べた。「もっと簡単な方法、もっと楽な方法があるという者がいるとしたら、それは現実世界の話ではないのだ。」
アイルランドの主要経済指標の推移 (図表はNYTより:クリックすると拡大します)
図表左から、
-財政黒字%GDP(マイナスは赤字)
-国家債務%GDP
-GDPの伸び(年率)
-10年国債イールド(赤がアイルランド、緑はドイツ)
-失業率
このうち、真ん中のGDPの動きをみて、IMFは7月半ばに、『アイルランド、「崩落の淵」から安定、来年2.3%成長へ』と言っておりましたわね。(7月14日付ブルームバーグの記事)
しかし、肝心の労働市場がGDPの成長にうまくついてきてくれない。
(上のNYT記事から引用)
Turning statistics into jobs, however, will be a herculean task. “Exports alone don’t drive a significant number of jobs,” said Paul Duffy, a vice president at Pfizer in Ireland.
統計値を職に変えることはきわめて困難だ。アイルランドのファイザー社のヴァイス・プレジデント、ポール・ダッフィはこういう。「輸出だけでは就業者の数を目だって増やすことができない。」
ドル安が進みユーロが大きく動いているが、ユーロが急落したときと現在とでは、経済をとりまく状況そのものは、たいして変化していない。
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ところで、いまとなっては実にどうでもいい話なのだが、昨年12月はじめにMHJ記事でソブリンリスクについて取り上げた記事で、ゴールドマンの著名ストラテジストのジム・オニールが、スペインのクレジットをショートして、アイルランドのクレジットをロングにしろ、という推奨を出しているのを紹介したことがある。
当時のエントリー(『ソブリンリスクについて(2)』)をいまいちど読み返してみると、オニールの「アイルランドをロングにしろ」という推奨の根拠は「財政緊縮に誰よりも積極的に取り掛かっている優等生なので、経済回復はスペインよりも早くおとずれるはずだ」というのがポイントになっている。
これを書いた昨年12月というのは、ドバイショックが起こったころである。ソブリンリスク問題が舞台中央に進み出てくる少し前。
当時のスプレッド水準は、スペインが90前後、アイルランドが160前後を推移していた。オニールはアイルランドの160bpsと言うレベルは、同国の積極的な財政緊縮とそのポジティブ効果を過小評価していると考えていたわけよ。
その後、ギリシャ問題で上へ下への大騒ぎになって、どちらのスプレッドも派手にワイドニングしちゃったんだけどね。
緊縮を徹底させることで、果たして実態経済が軌道に乗ってくれるかどうか。柔軟性が残っているか。
エコノミストやアナリスト達は、数字いじってるだけなんで、緊縮それいけドンドン!みたいなこと言って、それで満足するかもしれない。
だが、アイルランドの状況を見ていると「言うは易し、行うは難し」を見せ付けられる気がする。
そして12月から現在までの市場センチメントのスイングの仕方もすごい。短期間に激しくスイングする。方向感を決めかねているのである。
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