Monday, May 16, 2011

キャッシュポジション:「サル芸」から「意図的なレバレッジ」へ

米企業のバランスシートにキャッシュ積み上がってるぞ、という話は過去に何度か書き、MHJでは、ほとんどシリーズ物になっております(笑)。

2010年9月29日 『マクロ低迷下でミクロ企業体にはバイバックの好機到来』
2010年10月1日 『米国の事業会社はCash Hoarders』
2010年12月19日 『サルでもできる芸当、その後』

株式買戻し(Share Buyback)なんぞ、積み上がったキャッシュの使い道にクリエイティビティ発揮できない経営陣がやる常套手段、すなわち、「サルでもできる芸当」だ、ということでありますが、その「サル芸」がその後どうなったか。アップデートは、こちらのグラフをどうぞ。

Source: Clusterstock


2011年の第一四半期は、期中の買い戻し額が$100bnを超え(グラフがスティープになっていますね)、今四半期に入っても買い戻しのペースは落ちておらず、ここ数週間で再びバイバックが活発化。

ニュースをいくつか拾ってみると、大物企業のバイバック・プラン、目白押しである。

Disney quietly approves US$16-billion share buyback
(5/16/11, Financial Post)

Tyson Foods' Board Reactivates 22.5M-Share Buyback Program
(5/12/11, Wall Street Journal)

Kohl’s Strong Cash Flow Allows Accelerated Share Buybacks and Dividends
(5/12/11, Morningstar)

Disneyのように積極的な買戻しを発表しても全然株価に反映されずに無視される寂しいケースもあるわけだが、米企業は実際、事業キャッシュフローは潤沢で、Kohlのようにバイバックと並行で負債も減らしている会社はあるわけである。

このペースでバイバックすると、フロートしている株式数は年間5%以上減少するようなんだが、企業株アナリストはこの要因をモデルに反映していないのでEPSの見積もりは15%は低すぎだ、と言ってるマネージャーもいる。

しかし、上のグラフで、もうひとつ気になることは、4月の終盤に米企業債の新規発行がグーンと伸びた時と、シェアバイバックのペースが一気に早まった時が、タイミングを同じくしてる、という点。

企業債のクレジットスプレッドのタイトニング・トレンドは続いていて、ジャンク債市場は引き続きブイブイ。Kohlのように負債を減らすところもあるが、むしろ安いクレジットを利用して借り入れを増やし、それを元手に株式買戻しをやってる企業もいるらしい雰囲気である。

企業のレバレッジは上がっている、あるいは、ここから更に上がる可能性あり、ということである。

(小声で)その割には株価は今四半期からイマイチ覇気がないんだがな・・・

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キャッシュの使い道といえば、先日、マイクロソフト(MSFT)がスカイプをキャッシュ・ディールで買収して話題となった。

Microsoft Dials Up Change:CEO Ballmer Defends Hefty $8.5 Billion Price Tag for Internet-Phone Firm Skype
(5/11/11, Wall Street Journal)

こちらは$8.5bilという「お値段」が市場で嫌気されて、あまり好感されないディールになってしまったけど、マイクロソフトのキャッシュポジションについて、$8.5bilキャッシュで払った後もMSFTにはうなるほどキャッシュあるよ、というモルガンスタンレーのコメントがあったので、ついでに紹介しておく。

Morgan Stanley Comments On Microsoft Cash Growth
(5/16/11, Benzinga)

モルスタのアナリストによると、MSFTのキャッシュ残は09Q4から10Q3の期間中$20.7Bnから$50.2Bnに増加した。スカイプ買収に使った$8.5Bnを差し引いても、同社のキャッシュポジションは依然高水準で、業務キャッシュフローもきわめて潤沢。パッとしないMSFT社の株価は、長期的な戦略モデルが見えないのと、投資家はもっとアグレッシブなキャピタルリターンを欲している様子。

彼らの意見としては、MSFT社が取るべき方策のうち、低リスクの選択肢としてはレバレッジを上げ、配当率を4%に上げ、年間$60億ドル規模のバイバックにコミットすること。M&Aもむろん選択肢にはあげられるが、それはハイリスクだろうというのだ。

マイクロソフト社の長期財務戦略がどうなるかはともかく、ウォール街のメンタリティは確実にレバレッジ嗜好に向っている。

筆者としては、企業債新発が単にキャッシュ・リッチな状態で盛んに「サル芸」的にバイバックしていたフェーズから、意図的に高レバレッジへ移行している過渡期にいるようにも感じるのだ。

Thursday, May 12, 2011

米国の輸出、過去最高

長期でみると合衆国の米国の輸出額は過去最高、文字通り「V字回復」の格好してるぞ、というグラフ。(期間1992年~2011年3月)

Source:Clusterstock

ついでに、ここ2年ほどだけ見ると、輸出入のギャップは赤字幅拡大してるぞ、というグラフ。(期間は2009年3月~2011年3月)


もうひとつ、ついでに、ドル・インデックスの推移。(期間5年)

Source: Finviz



さらに、たった今(5月12日、8:00AM)ロイター速報で入ってきた、「米経済が必要とされるレベルまで回復するには、あと数年(several years)はかかる」というオバマの言。

Tuesday, April 26, 2011

チェルノブイリ事故25周年

25年前の今日4月26日、ソビエトのチェルノブイリで史上最悪といわれる原発事故が発生した。

福島原発の問題解決がほとんど進展していない中での、25周年記念。

今日Nature誌のサイトに25周年を記す記事があり、その中で、福島原発の事故は、a bitter irony (苦々しい皮肉)と表現された。

(Nature, 4/26/11)

皮肉というのは、福島原発の事故勃発で、長いこと人々の記憶から薄れてきていたチェルノブイリ事故に再びフォーカスがあたることになり、ほうぼうからチェルノブイリ事故の研究用にと多額の寄付が寄せられることになりそうで、福島での事故の「最大の恩恵」を受けるのが、よりにもよってチェルノブイリ、という意味だ。

この記事に『チェルノブイリの遺産』という別記事へのリンクが紹介されていたので、合わせて読んだ。

(Nature, March 2011 issue)

記事の内容については、また時間のあるときにでも書くとして、今日は、そこにあった年表だけ紹介したい。

福島原発が撒き散らした放射能は、チェルノブイリのそれよりもずっと少ない、ということはこの記事でも述べられているし、日本のケースはまだ起こったばかりで、いま、なにがどうしたと素人の私がわめいたところで、どうなるものでもない。

ただ、この年表をみながら思ったことは、事故から25年も経ったいまなお、原発施設近くの町はゴーストタウンのまま、チェルノブイリ事故のクリーンアップが「完了」するのは2065年予定という、原発事故の【傷跡の深さ】のほうだ。

これが、その年表。(横に拙訳を入れた)

まずは、事故が起こった年、1986年。


その後の流れ・・・


2065年まで、あと、50年以上―。

福島の事故の後始末にも、非常に長い年月がかかることは必至。日本国はこうした事故を2度と起こさないためにも、また、チェルノブイリで長いこと忘れられていたという放射能の人体に与える健康被害の研究や、その他高度な専門的研究も含め、今後、膨大なおカネを投入し続けてゆく必要があるのだ、ということを改めて思い知らされた。

(大変読み応えある記事で、筆者も、もう一度じっくり読むつもり。)

そしてさらに、チェルノブイリ事故が残した、別の大きなレガシー(遺産)―。

それは、この25年間で新しい原子炉の建設が世界中で目立って減った、という事実だ。

下のグラフは、横軸が原子炉の年齢、縦軸が原子炉の数、である。

これをみると、事故が起こった25年前付近をピークとして、より若いリアクターの数が目に見えて減っている。


原子力発電のクリーンエネルギーという側面を強調した「核ルネサンス」などという言葉がもてはやされ、さらには、経済成長めざましい新興国の電力需要を支えるために思わず目を見張るような数の新原子炉建設計画も出され、それらに興奮した証券市場は、思惑先行で沸きあがり・・・と、福島原発事故前までは、ここ数年、かなり調子いい話ばかり実際やっていたんである。

だが、チェルノブイリ直後からこれだけのインパクトが実際にあり、今回の事故が上塗りともなり、新原発建設が数年前の金融屋の思惑通り盛り上がるとは、考えにくいという気もする。

また、これは、老朽化した原子炉ばかりを抱える米国にとっては、政治的にも経済的にもさまざまなインプリケーションのある話である、ということだ。これについても、もう少し自分の頭を整理してみたい。

最後に、ゴーストタウンと化したプリピャチの街の、今の写真を。(Tumblrで以前紹介したもの)



写真はBBCのフォトアルバム『Chernobyl's Lost City』から。(←この写真集、重い写真ばかりです)

Tuesday, April 19, 2011

欧州ソブリン危機悪化中

日本の震災・原発関連のニュース、そして、米国で日々繰り広げられる政治茶番劇にばかり気を取られていたが、その合間にも、欧州ソブリン問題はさらに温度を上げているのであった。

前回のブログで、S&Pの米国債格付けについて述べたが、その肝心の米国債市場も、この日注目していたのは、そっちじゃなくて、欧州問題のほうであった。(S&Pの見通し変更は、マーケット的には大きな意味がない故。)

欧州についても、いろいろ目に付く記事があるので、それについて書きたいことはあるんだが、なにせ眠いので(笑)、17日のソブリン債CDSの拡大具合の表だけでも、ここに貼り付けておく。



ギリシャのCDS、キテますなぁ・・・レベルが1278とかいって、先日1000超えたとかいうニュース聞いたばかりなのに、べらぼう4桁で落ち着いちゃってるし。

こうなると、トレーダー達はもう「デフォる」というのにベットして取引してるようなもんですが、IMFやドイツが「2012年までに、さっさとリストラ体制に入らんかい」と促しているのに、当のギリシャ政府は「債務リストラ?んなもん、やる気は一切ありません。今年中には、通常の市場調達に戻れると思いますし」と、あっち向いてるようである。

(Wall Street Journal, 4/16/11)


悪夢の銀行危機をかいくぐるアイルランドは、同国の大銀行の預金についてる格付けがジャンクに堕ちた。ムーディーズが、アライド・アイリッシュ(Ba2)など5行格下げ。サクッとジャンクとかいいますが、これ、劣後債とかシニア債とかじゃなくて、「預金」ですから。

「先進国の一角の大銀行」が「劣後債でジャンク」はともかく、「預金」のレベルでジャンクになるって、これはやはり、ゲーッと思う話でありまして。


(BBC News, 4/18/11)


そして、もうひとつ、スペインでは期間12ヵ月の国債オークションで、『不吉な』結果に終わった、というニュース。

実行利率が一月前だと2.13%で発行できたものが、今回2.77%まで上昇し、中央銀行の出口政策による上昇幅では説明できませんね、という話。

(Seeking Alpha, 4/18/11)

ウォールストリートジャーナルなどは、「スペインはドミノになるか、ダムになるか」という意地の悪い見出し。

(Wall Street Journal、4/18/11)


欧州がドミノ式に崩れてダム決壊となりませんように・・・

そう祈りながら、今日はこれで寝る。

Monday, April 18, 2011

合衆国が取れないリスク

S&P、米国債の格付け見通しをネガティブに変更。

(Standard & Poors, 4/18/11)

週明けの今日は、このニュースが、何と言っても目立つニュースでありました。

CNBC局では一日中、「アウトルックをダウングレード」、「アウトルックをダウングレード」と叫びまくってて、筆者はそのたびにイライラした。

というのも、見通し(Outlook)というのは変更(Revise)されることはあっても、格下げ(Downgrade)されることはないんである。「格下げ」とか「格上げ」という用語は、格付けとしてつけられている【記号】(AAAとか)が実際に変更になるときに用いる言葉。

だから、格付けアクションの3段階それぞれで使われる動詞の用法は、

1) 見通し(Outlook)が変更になるとき
S&P revised (あるいは changed) the outlook to negative.

2) 格付けの見直し(Review/Watch)に入るとき
S&P placed the AAA rating on negative watch.

3) 格付けが変わる(格下げ、格上げ、あるいはそのまま)とき
S&P downgraded the rating from AAA to AA.

と、こうなるわけである。

筆者の知る限り、主要メディアの多くはいつまでもこの違いが理解できない。今日のCNBCなどはその筆頭だが、まぁ、CNBCの場合は、そもそもが株式しか念頭にないような局なので債券オタクの用語など理解する気すらないのは仕方ないとしても、金融関係の記事では筆者もひごろ信頼を置いているロイターまでもが、いつまで経っても同じ間違いを繰り返すというのに、ジャーナリストの学習能力の限界を感じてしまう筆者である・・・

・・・と、いきなり重箱の隅ツツク的オタクな話題で失礼しました。

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しかし、最上級のAAA格のクレジットの「見通しが悲観的」になっただけで、米国債がすわデフォルトなどという話に発展するわけが、そもそものところであるわけないんであって、マーケット的に見れば、今回のS&Pのアクションの背景に、いまさらびっくりする材料があるとも思えず。

だいたい、S&Pが米国債の格付けにプレッシャーかかってるぞとウダウダ言い出したのは、2008年の9月17日、リーマン崩壊直後のことである。

米国マクロ経済はその前年からリセッションに入っており、金融市場の下支えのために連銀は2007年から流動性供給で上へ下への大活躍中、それでも不安定さを抑えられずにグラグラしてるところにリーマンショックで、米経済はグシャッと潰れた。

その後回復に向っているとはいえ、米失業率は依然として高水準で、財政赤字は膨張の一途、住宅価格はまた下降中・・・と、現在の米経済のファンダメンタルズ言うなら、まさに『なにをいまさら―WHAT’S NEW?』の世界である。

ちょうど一年前ほど前にもS&Pは、米政府がすぐすぐ財政緊縮に取り掛かることなどできるはずないのを承知しながら、財政赤字削減策にマジメに取り組まないと米国債トリプルAは維持できんかもしれんからね~、と確信犯的に脅していたんである。(去年3月12日のFT記事)

さらに言えば、1週間ほど前の4月11日、米債券ファンド最大手のPIMCOが米国債ショートという報道があった。格付け機関が米政府にコンタクトを取ってるらしいみたいな話は、どこからともなく漏れてくるのは常なので、PIMCOのニュースで「何か」が動いてるんだなと直感した市場関係者だって皆無じゃない。(もうトレーディングフロアの傍にいない私ですら、何か来そう・・・と思ったぐらいなんだから。)

だから、いま、S&Pが出てきて、ネガティブだと言ったぐらいで、エッとおどろいてるような市場関係者がいたら、「あなた、いったい、これまで、どこ見てたんですか?(棒読み)」というような話なわけ。

それでもメディアが「(見通し)ダウングレードだ」とほうぼうで騒ぎ立てるもんだから、たかだかアウトルックがネガティブに変更された程度で心理的にゴーンとやられた米株市場は、前場で一時250ポイントも一気に下げ、【心理的】なオーバーリアクション全開。これで銘柄によっては絶好の買い場ともなり、午後には少し落ち着いてインデックスは140ポイントダウンまで戻した。(心理的にゴーンとやられるのは、株相場ではいつものことw。そういうところ、意外とヤワw)

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S&Pが確信犯でウジウジやってた一年前と比べて、何か決定的に変わったことがあるかといえば、去年の11月に中間選挙でティーパーティの力を借りた共和が下院でマジョリティを奪い、オバマと彼をとりまく民主側と共和側の政局での対立がいっそう深まり、米国債近辺の政治上の不協和音がリスク要因として以前に増して認識されはじめたこと、である。

つい先日も、大統領の予算案で民主と共和が歩み寄りを見せることができず、米国政府がシャットダウンに追い込まれるのではないかという騒ぎにまでエスカレートしたことを見れば、共和側のオバマ政権弱体化に向けた執念と締め付けのすさまじさは、傍目にも感じられるところであろう。

そして、今回のこのS&Pの米国債格付け見通し変更であるが、これはまさに、そこの部分(=政局)に影響を与える話であるわけ。


昨日(17日)のNBC報道番組『Meet The Press』にガイトナー財務長官が出演、米国債発行上限について言及した部分のビデオがここにある。
リンクはこちら:http://www.msnbc.msn.com/id/3032608/



このビデオの冒頭で、ガイトナーはこんなことを述べている。

Congress is going to have to raise the debt limit. They understand that. That's absolutely essential to preserve the creditworthiness of the United States of America. You know, we're a country that meets its obligations, and we have to meet our obligations, and they recognize that. 
議会は発行額上限を引き上げるだろう。彼らもそれは承知している。アメリカ合衆国の信用力(creditworthiness)を維持するためには、それが絶対必要不可欠なのです。支払い期限が来たら約定どおり支払う、必ず支払い義務を果たさなければならない、合衆国とはそういう国家である、彼らはそれを理解しています。

「しかし、議員の中には、上限引き上げ問題を政治的な駆け引きの材料に利用しようとしている者もいるのではないか」というキャスターの質問に対し、

...the leadership understand that you can't play around with this, you can't take it too long.  And those people up there who are telling people that you can take this to the brink because it gives them some leverage, they're going to own the responsibility for the risk that creates for the American economy.
国家の中枢部は、上限問題に遊び半分な気持ちで取り組むことはできないし、ダラダラと時間をかけることもできないというのを理解している。自分の立場をより有利に進めるのを目的にこの問題をギリギリまで先延ばししてやろうとふれ回るような末端の政治家がいるなら、それが米国経済にもたらすリスクについては、彼らが全面的に責任を負うことになるでしょう。

ガイトナーはさらに、こう続けた。

...if you allow people to start to doubt whether the United States of America will meet its obligations, that would be catastrophic, and we can't take that risk.
アメリカ合衆国の債務返済能力に人々が少しでも疑いを抱き始めるようになるのを放置すれば、それは破滅的な状態を導くことになるでしょう。私達はそんなリスクは決して取れないのです。

「私達はそんなリスクは取れない」――そう、アメリカ合衆国がトリプルAじゃなくなるなんて、そんなことは有り得ないし、何が何でも阻止してみせる、ガイトナーはそう言ってるわけですな。

この番組に出演したとき、ガイトナーは、S&Pが見通しをネガティブにするつもりであるというのを、既に知っていた。

ロイターによると、ホワイトハウスがS&Pからその旨を聞かされたのは金曜日だったそう。

格付け会社が、格付けされる側(この場合は米政府)とどんな折衝をして、どんなコミュニケーションとって・・・といったことは、そのプロセスを実際に当事者として体験したことがなければ、なかなか理解されずらいが、こうして公に発表される何週間も何ヶ月も前から、当事者の間では、あーでもねーこーでもねーと、延々と問答がウジウジ繰り返されるわけで、今回のアクションだって、米政府にとっては、寝耳に水でもなんでもない。

これは筆者のスペキュレーションだが、政治的足踏み状態がこれ以上長引き、上限引き上げに手間取ることになれば、アウトルック変更程度では済まないかも・・・と、S&Pの方からヤンワリと示唆されたのではあるまいか。ここで引き上げないとウォッチに載っちゃうかも・・・ドキドキ・・・

しかし、ここで上限上げたからとて、それがすなわち上限を青天井にするという意味にはならない。なぜなら、青天井にして現在のペースで米国債を発行し続けたら、むしろ、米国の信用力はさらに悪化し、本当に見直しのプロセスに突入してしまう恐れがあるわけだから。

「クレジットウォッチに載る」(このエントリーの最初にあげた2番目のアクションね)は、見通しネガティブどころじゃすまないインパクトを生みますからね。ウォッチに入ったら、実際にDOWNGRADEになるかもしれないんだから。

上限引き上げをいかに早急にやらんといけないかというと、実はもう、上限の$14.2trillion超えちゃって、$14.3trillionになってるという話が、今日のZerohedgeに出ていた。秒読み状態。

上限いっぱいになってしまい、必要なときにも発行できない状態が長く続くと、財務の柔軟性が失われて、それはそれで米国の信用力にはネガティブになる。

ということで、ハエのようにうるさい格付け機関を黙らせてアウトルック変更程度で留めておくためにはひとまず上限を引き上げるけれど、共和に対しては、それとの「交換条件」として、オバマ現政権は、財政支出カットの額を共和寄りの条件で飲む方向で議会で圧力かけられること覚悟、そういう話に進んでいってるわけである。

共和リーダーのベーナー下院議長の耳にも当然この話は入っているわけで、ベーナーとて、「米国の信用力が下がって米経済を揺るがすリスクが発生したら、その責任は取ってもらう」など言われてすごまれても、すぐメソメソしちゃって、そこまで責任とれるような器じゃないんで(笑)、引き上げについては、最終的にはうなづいてGOサインを出すだろうというシナリオが市場では走ってる。

ここから共和側に政治的な意味でさらに有利な展開に進むかどうかはまだわからないが、とりあえずは、S&Pの今回のアクションが持つ短期的なインプリケーションは、市場には大してなくとも、政治フロントにはある、と読めるのではないでしょうか。

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最後に、格付け機関について。

見通しネガティブになったのに今日のイールドに影響出てないとか、格付け機関は地に堕ちてもはや影響力ない、とかいう意見も散見されるが、そもそものところでデフォ確率にも、マーケット的にも大して意味のない動き(あったとしても既に読まれていた話)なんだから、そういうどうでもいい話に落としどころを見つけようとしないほうが、いいよ。

格付け機関に対する世間の評価がどうであれ、債券市場における格付けの「存在」そのものは、過小評価しないほうがいい。なんだかんだいって、そこに「ある」。

格付け機関の言ってることなど、しょせん権威もなにもない一介の民間会社の意見、そんなものはどうでもよし、というのは、本質的には、事実その通りであります。

けれどね、そうは言っても、もしも、米国債が本当にAAAから堕ちるなんてことになってごらんなさい、そのときは、「フン、しょせん格付け機関だろ・・・」なんて皮肉な笑い浮かべてなんていられない事態に、きっとなるんだから。

その「しょせん格付け機関、などといってられない事態」こそが、上のビデオでガイトナーが言った「米国の返済能力に対し僅かなりとも人々が疑いの目を向ける」事態であり、それは、アメリカ合衆国が取ることのできないリスク、取るつもりもないリスク、なのである。