先月23日に首相が白旗を挙げ、IMF/EU融資を仰ぐことになったギリシャ。その代償として、厳しい財政緊縮に着手せざるを得くなった彼の国では、連日公務員のストライキと暴動の嵐である。
昨日は火炎瓶が投げつけられた銀行で3名焼死するという惨事に。民衆は暴徒と化し、尋常ならぬ事態に発展している。
アテネの古代遺跡「アクロポリス」も反政府デモに参加する労働者達に占拠された。
アクロポリスに掲げられた垂れ幕には、
PEOPLES OF EUROPE RISE UP
(ヨーロッパの国々よ、立ち上がれ!)
しかし、ギリシャのために立ち上がるもなにも、この垂れ幕を見た他国の欧州人は「この騒ぎが、いったい誰のせいで起こったと思ってるんだ!」と思わず眉間に皺が寄ったに違いない。
2週間前にアップした前回のエントリーでは、ギリシャのソブリンスプレッド拡大の動きはすでにギリシャからスピルオーバーし、ポルトガルも2年5年スプレッドはネガティブ圏に突入、ベルギーやフランスなどPIIGSに含まれないユーロ圏の国々にもスプレッド拡大傾向が見られるようになっている、ということを書いた。
あの後もユーロ圏を中心にソブリンスプレッド拡大の動きは継続的に見られるようになり、ギリシャ問題の伝播(Contagion)の進行は火を見るよりも明らかとなった。
5日にはドイツ連銀総裁が、「ユーロ圏内でギリシャ財政危機の重大な感染効果が広がる恐れがある」と述べたという報道があったが、往々にして、金融当局のオエライさんが「~~の恐れがある」と口にする頃には、それは「すでに相当進行している」という意味であるのは、言うまでもない。
EU側の融資の鍵を握るドイツは「俺達が働いた金で、何故、怠け者のギリシャの尻拭いしてやらなくちゃいかんのだ!」という(もっとも至極な)国民感情に政治筋が翻弄され、いまだにドイツ国内でグダグダやってるようであるが、独連銀総裁は「Contagionを考慮すれば、ドイツが総額1100億ユーロ(約13兆5000億円)のギリシャ支援に貢献するのは正当だ」と主張して、今以上の事態の深刻化を防ごうとやっきである。
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この1100億ユーロのギリシャ支援パッケージについて、グダグダ言ってるのは、何もドイツだけではない。
このパッケージの3分の1はIMFの拠出金からの融資という条件なのだが、IMFへの拠出クオータは米国が17%でダントツで多い。パッケージの3分の1、即ちUS$40Bil相当の17%というと、US$6.8Bil(約6000億円)。
今朝(6日)のNYで伝えられたニュースによると、米国の政治家連中が「自分の国のことで手一杯なのに他国の救済までやってられるか!」と文句つけて、米国のIMF融資参加を阻止しようとがんばっている、というのである。
今朝のCNBCに出演していた政治家のオバサン(名前忘れた)は、「ギリシャで終わるという保証はないのよ!まだまだ後が控えているのよ!ここで前例を作ったら、その度に米国がカネ出す羽目になるのよ!キキーーーーッ!!!」と吼えていた。
ちなみに、日本のクオータは6.1%。金額にすると2000億円程度の日本国民のカネが、IMFを経由して間接的にギリシャ救済に渡ることになる。
IMFへの拠出金のクオータの詳細は、こちら。
ギリシャ国内は暴動の嵐、EU側はいまだにウダウダ、IMF分も欧州圏外の国からぎゃーぎゃー。
たとえすべてクリアして、ギリシャがIMF/EU融資を受ける運びになったとしても、債権者側から求められる厳格な赤字削減と財政緊縮は、景気後退の最中にいるギリシャにとっては容易なことではない。
財政緊縮がさらなる景気後退を招き、GDP縮小の速度が債務削減の速度を上回ると、GDP対比の債務比率は現在の100%+から向こう数年一層悪化するシナリオもありえる。
そうなると、また、格付け機関とかがヌォーーーと妖怪のように登場してきて、「Debt-to-GDPレシオが悪化してるから格下げね~♪」なんてことを言い出したら、市場調達がまた困難になり・・・という悪循環に陥る可能性も目の前にぶら下がってるんである。
前途多難、滅茶苦茶・・・。
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「何で、オレが!」というドイツや米国の言い分はもっともなのであるが、この問題は、ギリシャを放っておいて解決する問題ではない。
資金市場というのは、世界中に資金の流れのルートが蜘蛛の巣のように張り巡らされているのだが、どこか一箇所で何か変なことが起こると、その悪影響が絡み合った蜘蛛の巣を伝って短時間で広範囲に伝播してゆくというContagionの側面を持っている。
伝播する前にうまく問題を一箇所に閉じ込めて抹殺するのに成功すればいいが、失敗すると、資金取引のカウンターパーティ達に次々問題が広がってゆき、その拡大スピードが尋常じゃないことから封じ込めるのが困難になる。
ギリシャのケースは、早いうちからContagionの問題が懸念されていたにもかかわらず、関係者がDenial(自己否定)のステージに何ヶ月も留まって、CDS市場のスペキュレーターのせいだと問題を摩り替えたり、リップサービスを繰り返して救済の実効性に疑問符をつけられるなど、早期の問題封じ込めに失敗した。
その結果、Contagionの問題が表面化、他国のスプレッドもワイドニングがとまらず、ポルトガルなどは、10日たたぬうちに400bp超という、ひと月前のギリシャの水準にまで拡大。
前回のエントリーでコメントしたとおり、スプレッドはボラティリティを高めながらワイドニングを続けている。
この「蜘蛛の巣のように絡み合った」資金の流れであるが、5月1日付けのニューヨークタイムズに、Europe's Web of Debt という、よくできた図が掲載されている。(クリックすると拡大します)
この図は、PIIGSの5カ国間の『貸し借り』の蜘蛛の巣だ。相手の国に貸したり、借りたり、5カ国だけでもこの複雑さ。この5カ国以外とも、同様の貸し借りの蜘蛛の巣があるわけだ。みーんな資金市場で複雑につながってるんである。
この図をみると、今問題になっているギリシャや、次に控えるポルトガルの債務の額が、いかに小さいかがよくわかる。
5月6日のPIIGSソブリンCDSのレベルを見てみよう。
ギリシャ 907bps
ポルトガル 443bps
このスプレッドが示唆するCPD(Cumulative Probability of Default)は、ギリシャ、ポルトガルそれぞれ52%と32%。ギリシャが向こう5年でデフォる確率は50/50という市場判断が織り込まれている、という意味だ。
PIIGSの他の3国はどうであろうか。
イタリア 217bps (前日比+30bps)
スペイン 267bps (同+38bps)
アイルランド 270bps (同+30bps)
どこも200bps台に乗っている。前日比でどこも30bps以上のワイドニングとなっている。
以前も書いたかもしれないが、クレジット投資の世界では、スプレッドの動きというのは、平常時は数ベーシスポイント程度しか動かないのが普通だ。とりわけソブリンCDSなんてのは、企業債CDSと異なりジャンク格付けがついてる国なんてそんなにたくさんないわけで、ハイイールドばかり集めたソブリンファンドなんて聞いたことないんである。そういう世界で、伊・西・愛といった先進国のスプレッドがわずか一日に30bpsも動くなんてのは、クレジット投資に関わる者なら誰でも、げーっ!となる数字であるよ。
Contagionは着実に進行しているのだ。
だが、前回も書いたとおり、85億ユーロの国債償還期日は再来週5月19日。
なんだかんだ言っても、償還スケジュールは待ってくれない。もし、そのときまでに償還資金(キャッシュ)を手当てできなければ、ギリシャ国債は【デフォルト】起こすのである。
米国もぎゃーぎゃー言ってるが、資金の流れはグローバル、米国だって蜘蛛の巣にすっぽり入っており、米国は無関係だなどと開き直ることなどできないのが現実だ。
実際、資金市場で実際に資金を動かしている金融機関たちのクレジットスプレッドがそれを示している。欧州の銀行群のCDSスプレッドが拡大しているのは当然としても、国際プレゼンスの高い大手米銀のCDSスプレッドも、一律拡大基調になっているのだ。
上の『貸し借りの蜘蛛の巣』で繋がり合ってる金融機関同士で、どの国のどの金融機関がどの国に対してどれだけのエクスポージャをもっているのか、互いに疑心暗鬼になって、みんなでリスク回避の方向に動いている。だから、金融機関のCDSが一斉に拡大するのだ。
LIBORなどベンチマークとなる金利が上昇傾向にあり、CDSスプレッドも一斉拡大になっているということは、グローバルの資金の流れに悪い変化が起こっていることを意味する。
Contagionがさらに進行すると、債務規模のはるかに大きなイタリアやスペインに火の手が移り、そうなると、Too Big To Bail(救済するには大きすぎる)で、救済策に頼ることができなくなり、ユーロ圏の複数国で実際のデフォルトが起こるというシナリオにも現実味が出てきてしまう。
Xデーは5月19日。今週末の欧州は、待ったなしの正念場。
筆者個人としては、混乱は続くものの、結局はギリシャがIMF/EU融資にタップして、少なくとも5月19日に予定されている85億ユーロの償還は予定通り行われデフォルトは回避される、せざるを得ない、と考えている。
5月19日以降どうなるかについては、正直、見当はつかないけれども・・・。
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