Friday, December 12, 2008

ビッグ3救済劇:T.A.R.P.の出番

資金繰り倒産が現実問題としてすぐ目の前まで迫ってきている、米ビッグ3。

この年末を乗り切るための「つなぎ資金」として、とりあえず、$14 Billion (140億ドル)だけでも貸してくれと米政府に泣き付き、ナンシー・ペロシ率いる下院(←民主党マジョリティ)は通過したものの、昨日(木曜日)、上院の共和党から激しい反対に会い、政府からの借り入れプランは頓挫した。

救済反対に回った共和党員の代表格は、今月12日の記事でも紹介した、テネシー州選出の上院議員Bob Corker。カネ恵んでもらう前に、Debt-Equity-Swapの手法を使ってビッグ3のバランスシートをまずは改造せよと主張した、あのCorker氏である。

Corker氏の25分に渡る「反論」は、なかなか聞き応えあり。
http://corker.senate.gov/public/index.cfm?FuseAction=NewsRoom.NewsReleases&ContentRecord_id=28057bfc-d31e-b4d4-de97-8ffea70f4aca

彼は、「貸してちょーだい」と言われて国民の税金を「ほいほい」と安易に貸すのは許されない、株主も、債券ホルダーも、ビッグ3の経営者も、そして、組合員労働者も、全員煮え湯を飲むということに同意しない限り救済案には賛成できない、と強硬姿勢を貫いた。

経営者のボーナスはもちろん無し、組合員に将来支払われる福利厚生の2分の一を株式に転換、債券ホルダーも額面の3分の2を株に転換しろ、というのだ。

Corker氏が代表するテネシー州というのは、日本の車メーカー達が米国の現地生産の拠点として工場を作った州でもある。失業対策として海外の製造業を積極的に誘致した南部の州のひとつ。そういう背景もあるのか知らないけど、Corker氏の勧める案というのは、実質的に会社更生法で処理しろ、と言っているのに近い。

たしかに負債を資本に転換することで自己資本を高めることは、ビッグ3の場合は必要だからな。

それでなくたって、ものすごくレバレッジが掛かっているバランスシート構造をしてるのに、そこにさらに政府からの負債も抱えるとなると、企業体として抜本的にヘルシーさを取り戻すのは、不可能に近い。

わたしもCorker氏の意見に賛成だな。

ただし、Corker氏は、企業というのは資金繰り(流動性)に支障を来たすと、たとえ資本金が充分にあっても突然倒産する、という事実をすっぽり忘れてる。

ビッグ3にとっては、いまはバランスシート改造よりも、目先の流動性をどうするか、ってことで手一杯のときだからね。

上院でNO!を突きつけられたものの、ワシントンDCでは、米国の労働人口の10%を占める自動車産業を倒産させることだけは絶対にできない!の大合唱。

議会がウンと言わないのなら財務省が面倒見ましょうとばかり、例の7000億ドルのT.A.R.P.資金を使って救済しよう、という話になった。
http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=20601087&sid=aTnH1AC8JU3g&refer=home


10月の時点では、ポールセンは、T.A.R.P.はあくまで金融機関向け、一般企業は議会で勝手にやってくださいねーと見てみないフリしてたくせに、急にやさしくなったのはなぜか。

ここでビッグ3がChapter11で清算モードに突入すると、1000億ドルではきかない巨大な負債がデフォルト起こし、クレジット市場がまたまた強度の心不全を起こす可能性がある、ということに、ポールセンもようやく気づいたからに違いない。(これについては12月4日付けの記事『ビッグ3救済劇:倒産と負債』で書いた。)

クレジット市場では、セカンダリー市場で企業債についてるスプレッドはいまだに遠くぶっ飛んだ水準にあって、プライマリー市場で資金調達ができない状況が今尚続いている模様。

(セカンダリー市場でのプライシングが全く正常化してない状態なのに、プライマリー市場でスルスルと資金が回り始めるなんつーシナリオは、キャピタルマーケットではありえない。)

T.A.R.P.は当初「証券化されたモルゲージ債などの問題資産を買い取る」ということで発足したのに、それがいつしか、「金融機関への資本注入」に姿を変え、「モルゲージだけじゃなくてクレジットカードも」という大義名分もくっつき、今度は「一般企業も助けちゃお!」と、どんどん姿を変えていってる。

わたしが考えるに、T.A.R.P.を用いて対象外の一般企業を救済しようとするならば、T.A.R.P.から$140億ドルに必要なリスク・キャピタルを銀行に注入してやり、政府が保証をつける形で商業銀行から融資をまわし、短期の流動性については中央銀行がシンジケート群の後ろ盾に回ってあげる、という3人4脚のやり方するっきゃないんじゃないかと思うんだけど・・・。

詳細は今週末にでも出てくると思われる。具体的に、どうやって、T.A.R.P.の仕組みで合法的にブリッジローン(つなぎ資金)をビッグ3に融通するのか。楽しみに詳細を待ってることとしよう。

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