Sunday, March 9, 2014

ウクライナの銀行のモスクワ子会社が突然中央銀行の管理下に

ウクライナの件で、多くの情報が飛び交っているが、先日、MHJ筆者の目を引いた記事があった。

ウクライナ最大で、銀行としての信用力も同国で最高の格付けを得ている Privatbank というのがある。それのモスクワ子会社 Moskomprivatbank が、突然、先週の木曜日、ロシアの中央銀行(Bank of Russia)の管理下に入った。正確には、同国の預金保険機構の管理下に入れられて、銀行業務のアドミニストレーションは同機構が行うことになった、ということらしい。

こちらが、Bank of Russiaが出したステートメント


管理に入らなければならない理由は、「倒産回避するため」。ステートメントには以下のようにある。(赤い太字は筆者)



In compliance with Federal Law No. 175-FZ, dated 27 October 2008, ‘On Additional Measures to Strengthen the Stability of the Banking System in the Period until 31 December 2014’, the Bank of Russia decided to implement measures aimed at preventing the bankruptcy of the Moscow-based Commercial Bank Moskomprivatbank, a closed joint-stock company, involving the Deposit Insurance Agency, a state-owned corporation (hereinafter, the Agency), and to assign the Agency with the provisional administration function with regard to Moskomprivatbank. Seeking to prevent the bankruptcy of Moskomprivatbank the Bank of Russia approved the Plan according to which the Agency will assess the financial standing of Moskomprivatbank.
 


このモスクワの銀行子会社だが、モスクワでの総資産は$1.4Billion、業務はリテール中心ということだ。

しかし、「リテール銀行の倒産」という、銀行業界隈では最悪とされている事態を視野に入れてる割りには、

① モスクワで取り付け騒ぎが起こっているという話がない
② 債務超過で資本注入が必要な状態にいるわけでもない
③ (倒産するかもしれないけど自己資本比率はバッチリだから)銀行ライセンスはそのまま
④ 業務は通常どおり(ただし、アドミは私企業からいきなりロシア政府)
⑤ ウクライナにいる親会社が「なんだとー!」と怒っている

という、極めて面妖な状況である。(冷汗ダラダラダラーー)



ふつうはですね、金融子会社がなんらかの財務的問題に直面し、それがその国(あるいは地域)の金融システムの安定性を脅かす恐れがある場合はですね、まず第一に、その子会社の親会社が資本注入するなり、保証出すなりして、その金融子会社の資本と流動性が枯渇しないよう手配するのが先決である。

その親会社もドツボにはまり子会社に対するサポート能力がなくなっていて、「ダメだこりゃ・・・・」という状況になってると判断されたら、そこでようやく、(国民のお金を預かっている)政府当局がバババーンと登場し、その金融機関にシステミック・サポートとしての策を施す(ただしシステミックリスクがある場合のみ)ってのが、【銀行セクター界隈での常識】というものでして。

それがいきなり、親会社なんてふっとばし、自分の目の前にいるってだけで海外銀行の子会社コマーシャルバンクを「政府管理下に入れちゃう」わけだから、ロシア政府、すごいっちゃーすごい。

しかも、総資産たかだか500億ルーブル(=$1.4ビリオン=1,400億円程度)のリテール銀行に対して、鼻息荒く「バンキングシステム安定化」という究極のお題目を(ドヤ顔で)持ち出してくるのも、これまた、すごい。

この面妖な出来事を、ロイターが伝えている。

Russia puts subsidiary of Ukraine's Privatbank in temporary administration 


この親会社のPrivatbankであるが、ウクライナの本社のほうは、総資産230億ドル、純利益8700万ドルで、同国最大のコマーシャル銀行。 ウィキペディアによると、米国の業界専門誌「グローバル・ファイナンス」で「ウクライナのベストバンク」に選ばれ、イギリスの専門誌「ザ・バンカー」でも同年ウクライナの「バンク・オブ・ザ・イヤー」に選ばれ、格付け機関ムーディーズは銀行財務力でウクライナでベストの判断、別の格付け機関フィッチもこれまたウクライナでベストのレーティング、だそうである。

それの子会社(繰り返しますが、子会社総資産$1.4ビリオンです) が、ある日とつぜん、モスクワで「倒産の懸念でシステミックリスク」。(1,400億円程度なら、日本のメガ銀行さんだったら、一社に貸しつけてる融資額になりそうな数字よ。笑)

上のロイターの記事にもあるが、問題は、この銀行がウクライナにあるというだけじゃなく、この銀行のオーナーが、現職大統領の息がかり、というのが、どうもプーチンには気に食わないらしいんである。この銀行の創始者で現在共同オーナーのひとり イゴール・コロモイスキー(同銀行を34%保有)は数日前、ウクライナの現職大統領であるオレクサンドル・チュルチノフによって、コロモイスキーの出身地である地域の知事に任命されたばかりという。彼はウクライナで3番目の金持ちで、推定純資産$2.4ビリオン、51歳。

いわゆる、『Oligarch』 と呼ばれるひとたちのひとりですな。プーチンは、コロモイスキーのことを、「詐欺師」と呼んで、ロシアのビジネスに悪影響を及ぼす危険人物として毛嫌いしているらしい。

ロシアをめぐる国内情勢・政治情勢は、そもそも私はこの地域にビジネスで深く関わったことが一度もないうえ、登場するひとたちの名前がぜんぜん覚えられないというのもあって、実際、よくわかっていない。

わかっていないんだが、わかっていないながらも、それでも、「ロシア、やっぱ、すげーな・・・」と言わざるを得ない。(←注:いい意味で感心してるわけではない。)

だって、こんな風にサクッと銀行を管理下に入れちゃうなんて、日本も含め西側諸国のフツーの銀行業界隈では、ちょっと考えられないやり方だもの。

以前もどこかで述べたと思うが、筆者は仕事柄、先進国・新興国とりまぜずいぶんいろんな国のバンカーらに実際にあって話を聞いてきましたが、お会いした中でロシアのコマーシャルバンカー達ぐらいツーカーで話ができないひとたちは、他にいなかった。なんていうか、異次元バンキング、とでもいいましょうか・・・。ロシアと比べたら、中国だってエジプトだって南アフリカだって、新興国のバンカーたち、みなフツーすぎてツーカーすぎて怖いぐらい。 ブラジルの銀行群になると、あれは、ポルトガル語を話す米銀、といっても過言ではない。

このロシアの預金保険機構の処置は10日続くらしい。当事者であるPrivatbankのモスクワ子会社はステートメント出して、「今回の措置は、経済的な話(←たとえば財務の問題とか)に立脚しているわけではない。向こう10日間、ロシアの中央銀行は、きちんと業務継続できるよう取り計らってくれるはず」と言っているらしい。

「経済的・財務的な問題はない」。つまり、「100%政治的な動き」だということである。 中央銀行もプーチンの指の動きひとつで、なんでもやるって意味ですね。






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