Friday, February 6, 2009

米国最大の銀行が国有化?(でも自己資本比率10%超もあるんですけど)

ここ数日の米株式市場はバンカメに始まり、バンカメに終わる、といった雰囲気であった。

Bank of America(BAC)、略してバンカメ。昨年末の連結総資産1兆9500億ドル、米国最大規模の銀行だ。

このバンカメ株、この一年間の株価パフォーマンスで言えば、米国株の中でもおそらく最悪のひとつじゃなかろうか。

一年ほど前につけた最高42.60(08年02月18日)から、昨日は4ドル台まで落ち、1年間で実に90%以上も値を下げた。

断っておきますが、これ、小型株やハイテク株じゃなくて、資産規模およそ2兆ドルという米国最大の金融ブルーチップ、だからね。

バンク・オブ・アメリカの過去一年間の株価推移

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その大銀行が、昨日(5日)は国有化されるのではというウワサが飛び交い、今週は株価がグワングワン動いた。

いや~、昨日と今日のバンカメ株のイントラデイの動きを見てるだけで、こっちは疲れたな。

バンク・オブ・アメリカの今週のイントラデイ株価推移


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バンカメのCEOケン・ルイス(Ken Lewis)が「国有化なんて話は一度も出ていない」と繰り返し訴えたり、バンカメのトップマネージメントの面々がみんなで手を繋ぎ「せーの!」の掛け声で30万株も自社株を市場で買い向かい、国有化の可能性はないことをアピールしたが、パニック売りと空売りに押されて、焼け石に水。

結局、昨日の午後になって、Toxic Assetsの時価会計凍結の可能性の話に加え、米議会のバンキング・コミッティー委員長であるクリス・ドッド(Christopher Dodd、コネチカット州選出、民主)が、国有化シナリオは現在テーブルに乗ってないと発言したことで買いが戻り、パニックモードからやや落ち着きを取り戻した。

そして今日、新財務長官ガイトナーが金融機関の救済策を来週月曜日にも具体的に発表するとのニュースに、金融株全般に期待買いが入り、今日は金融株は軒並み上げた。

昨日は一時3ドル台をつけて20年来の安値になったバンカメ株、今日の引け値は$6.13で前日比27%も上昇。

はぁ・・・疲れた・・・。

   ★   ★   ★   ★

バンカメといえば、つい最近までは、リテール商業銀行としては米国内最大規模を誇る銀行だったが、ラテンアメリカ以外の国際営業基盤はシティグループとは比べ物にならず、事業内容も、投資銀行業務や証券業務ではJPモルガンに完全に引けを取り、米国内ではあまりパッとしない(と言ったら失礼か)、でも、「伝統的な商業銀行業務に強くて実直安全」という評判を持つ、そういう銀行だった。

ところが、去年7月にサブプライム融資の米国最大手カントリーワイドを買収、さらには、CDOで亀のようにこけてひっくり返ったメリルリンチの買収、と立て続けに拡大して、ヤバイ雰囲気が充満。

今年1月中旬に出された昨年度の決算結果は、メリルが正式に連結対象になっていないにもかかわらず、通期当期利益が150億ドルから40億ドルに7割減というメタメタの結果であった。

メリルの4Qの当期損失は150億ドル超えてたというのだから、これ、メリルの分も入ったらバンカメの当期利益は・・・ぐえッ。

Bank of Americaの4Q決算リリースはここ:
http://investor.bankofamerica.com/phoenix.zhtml?c=71595&p=irol-newsArticle&ID=1245457&highlight=


一株当たりの価値がこんなに毀損されちゃうような買収しやがって!と、バンカメの株主は、CEOケン・ルイスの決断にカンカンだけど、いまさら、メリル買うの止めましたとはバンカメも言えないからね。

メリルの底なし沼のようなCDO関連損失にビビッてしまって、バンカメ国有化の憶測が流れ、アナリスト達もみんなでヤバイヤバイと騒ぎ立てるものだから、バンカメ株急落。

でもですよ、アナリストで注目してるひとが誰もいないみたいなんだが、バンカメの4Qリリース読むと、この銀行の【自己資本比率】って、やたら高いんだよね。

昨年度末時点で、バンカメのTier 1自己資本比率は9.14%。これにさらに、メリル買収用として政府向けに発行した普通株・優先株なども入れると、プロフォーマ・ベースで10.70%、だそうである。

金融機関というのは、規制によって自己資本比率を達成することが義務付けられていて、最低でもTier 1比率は4%以上、Tier 1とTier 2合計したトータル比率で8%以上ないと業務停止になっちまうんである。

Tier 1比率が10%を超えた銀行は「Well-Capitalized」(充分な自己資本を有した)と、規制当局からお墨を付けてもらえるんであるな。

世間では、国有化国有化と騒いでいるけど、国有化の定義を知らないから、そうやって騒いでいるのではなかろうか?

銀行の国有化というのは、金融機関の自己資本が不十分あるいはマイナスになり、自力で事業継続が困難になった場合に行われるんであるよ。

株式市場や、クルッグマンや、訳知り顔のメディアのコメンテーターらが「国有化したほうがいい」と言うから国有化する、なんて、そういう風には、ならんのである。

国有化を決定するのは政府と規制当局だけど、自分達が銀行に規制の形で押し付けているルールでは「Well-Capitalized」のカテゴリーにしっかり入っている(つまり充分すぎるほどの自己資本を持っている)銀行をつかまえて、ある日突然国有化する?

それやるには、まず、【つじつま合わせ】が必要である。

12月31日に10%の自己資本があった米国最大の銀行が、その6週間後には自己資本ゼロになっちゃったのはどうしてか、それをきちんと説明できなければ、国有化なんて、おいそれとできるはずがないではないか。「資本主義の国で国家が民間企業のオーナーになる」、それって、大変な話なんだから。

カントリーワイドとメリルの損失でゼロになっちゃったと言えばいいじゃないか、というひともいるでしょう。

でもですね、金融危機が深まってゆくさなかに、腐りきった金融機関を2つも立て続けに買ったのは、CEOルイスが勝手にバカな決定をしたからだ、などと考えるひとは、よほどの「世間知らず」だけでしょう?

バンカメによる2社買収の背後に、政府当局が絡んでないわけ、ないではないか。

リーマン潰れたとたんにシステミックリスクが顕現化し、この上メリルも潰れたなんてことになったら、金融市場は取り返しのつかないことになるのは自明の理。それを回避するためには、米政府当局は何がなんでもメリルを誰かに引き取ってもらわなくてはならなかったわけで、バンカメはその「受け皿」であった。

昨日付けのウォール・ストリート・ジャーナルに、In Merrill Deal, U.S. Played Hardballという記事が掲載され、当時の財務長官ポールセンと連銀のバーナンキが、「やっぱしメリル買うの、やめよっかなぁ・・・」と及び腰のバンカメに、「ケンちゃん、そんなこと言わないでッ、おねがいッ!」と泣いてすがり、あげくには政府側が圧力かけて受け皿にさせた話が紹介されている。
http://online.wsj.com/article/SB123379687205650255.html

バンカメによるメリル買収には、まず政府がバンカメ発行の優先株を引き受ける形で200億ドルの資本注入、さらには、メリル関連の損失が発生した場合は最初の100億ドルまではバンカメが自己のコストとして償却するが、100億ドルを超えた場合は追加損失額の90%を政府が引き受ける、という「ロスシェアリング」の条件付きでバンカメに渡された。

最初のディール締結後もメリルの損失が膨らんで、バンカメはさらに政府のT.A.R.P.から100億ドルの支援を仰ぐことになった。

こうした経緯がありながら、さらに、規制自己資本比率が規制上の最低水準をクリアしている状態でありながら、国が「事業継続が不可能」と決めつけることが、果たして可能かを考えずして、国有化と騒ぎ立てても意味はない。

BIS規制に代表される規制上の自己資本比率が形骸化している事実は、いまに始まったことじゃない。

とはいえ、規制する側(政府当局)が、規制自己資本が示す銀行の健全度をまるごと否定することは、自己否定以外のなにものでもない

バンカメのメリル買収にドップリ裏で当事者として関わってた政府当局が、さて、どうやって「つじつま」合わせるか。

クリス・ドッド委員長が「国有化シナリオはない」と言うのも当たり前といえば当たり前かも。

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とりあえず、当面注目したいのは、ガイトナーが、来週早々どんな具体策を持ち出してくるか、であるな。

そして、来週は、水曜日に大手金融機関のCEO達が委員会に呼び出されている。

羽振りの良いときはどこに行くにもプライベートジェット使ってた、これらCEO達。

でも、GMらビッグ3のCEO達が公的資金オネダリするのに各自プライベートジェットで来て大ヒンシュクを買ったことを踏まえ、金融機関のCEO達、今回ワシントン入りするのに、なんと、アムトラック(AMTRAK)使って電車に揺られて出かけるらしいよ
http://www.marketwatch.com/news/story/bank-ceos-taking-commercial-flights/story.aspx?guid=%7B0E4293DD%2DBD91%2D4B28%2D85EF%2DED3C63101CF6%7D

だから、極端なんですってば、この人たち・・・。

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