ぺンシルバニア州ピッツバーグで開かれてたG20サミットで、最重要議題のひとつに、
「金融機関のエグゼクティブのボーナスにリミットつけるべきかどうか」
というのがあった。
はっきり言って、まーだボーナスのことウダウダ言ってるのか!と呆れた。
20カ国からわざわざトップが集まって、そんなことしか話題がないのかといいたくなるではないか。
ボーナスにリミットつけようが何しようが、「んじゃ、ボーナスやめて基本給あげまひょか」って話になるだけ。実際、ウェルズファーゴなんて、CEOの給与体系を最近変えて従来の「基本給90万ドル+ボーナス」を「基本給560万ドル(5.6ミリオン!)」に変更したし、モルガンスタンレーだってCEO以下トップ数名の基本給を250%上げたよ。これならボーナスゼロでも高額の年俸もらえるよ。
基本給(A)とボーナス(B)がパッケージになって長年払われてきた業界で、ボーナスだけに注目してあれこれ規制かけようが、抜け道なんていくらだってある、っつの。
アメリカとイギリスは、ウォール街とシティ(City=ロンドンの金融街)からの強烈なロビイがあったらしく、ボーナスに明示的な上限をつけるよりも、長期的な業績にあわせて損失の年はボーナスプールから差っ引かれるようなクローバック付き(※注)にしようと提案し、その案で概ね進みそうだった。
(※注)でも、クローバックを強制したところで、すでに大手証券では一部採用済みで、なにをいまさら、である。(今年1月4日付けMHJ記事『ウォール街の今年のボーナスは「CLAWBACK(別名:人質)」と「ドッグフード」)』参照。)
英米側の言い分がおおよそ通り、これでボーナス云々のくだらない議題も終わりかと思っていたら、ドイツのメルケル首相が「せっかくG20で集まったんだから、ここでボーナスの議題をウヤムヤにすべきじゃないわ!」と蒸し返して、フランスのサルコジ大統領もメルケルを支持している、とかいう記事を今日英ガーディアンで読んだ。
G20 leaders split over bank bonus curbs (Guardian、9/25/09)
記事を読むと、メルケルの思惑としては、ボーナスなんてのは表向きのはなしで、つまるところは「英米がG20およびグローバルの金融市場のあり方や方向を決める場でデカイ態度に出て牛耳るのが面白くない」ってことらしく、本音のところでは、【いつものポリティカル・パワー・ゲーム】やってるだけなんである。
ここで、日本の代表あたりが、経験に裏付けられたオピニオンをどーんと吐いたらいかがでしょう。
「各国トップのみなさん!時間の無駄だから、そろそろボーナスの話、やめませんか。日本の金融機関のボーナスなんてねー、あなた、頭取クラスでも欧米の投資銀行のジュニアバンカーより低いぐらいでしたけどねー、それでも、80年代は無茶苦茶なリスクテーキングしてバブリましたよ~。だから、ここでボーナスというインセンティブだけを連中から取り上げようが、リスク取るとなったら連中はメチャクチャやりますからね~。関係ないんですよ、それだけじゃないんです。どうせ規制強化の話するなら、市場のメカニズムとか、自己資本のクオリティとか、そういう重要なポイントを話し合ったほうがいいと思いますがね~。」とでも、ガツンと言ってやればいいのに。
(・・・と筆者なりの提案をここまで書いて、日本のいまの金融担当相の顔をフト思い出し、それがいかに無謀な提案かに気づく筆者であった。)
★ ★ ★
さて、フレディ・マック(FRE)が新しいCFOを迎えるというニュースを読んだ。
新CFOになるのは、ロス・カリ(Ross Kari)氏、50歳。
前職は米国中西部最大の地方銀行フィフス・サード銀行(Fifth Third)のCFOだった人物で、その前は、フレディのサンフランシスコ支部でエグゼクティブやってたひとらしい。
彼の前にフレディでCFOを務めたDavid Kellerman氏は、今年の4月に自宅で自殺(当時41歳)したのは記憶に新しいところ。
Freddy Mac chie'f 'suicide' amid enquiry (Times Online, 4/22/09)
ちょうど1年前、フレディとファニーメイが大量の公的資金注入で救済措置を受けたわけだが、そのとき公的資金注入の見返りに当時のCEOとCFOはクビ。新CEOには、USバンコープのCFOだったDavid Moffettを外部から基本給90万ドルを提示して招きいれ、新CFOには、フレディに16年間勤務していたベテランコントローラーのケラーマンが内部昇進の形で就任した。
しかし、政府のコントロール下に入ってから、92人のエグゼクティブに「いま会社を辞められたら困る」という理由で多額のリテーナーボーナス(留保奨励賞与)を『公的資金から』支払ったことが発覚。
昇進という形でCFOになったケラーマンも、その92人のひとりとして85万ドルを受け取っていたことが公になり、年が明けてから、当局や議会から執拗な追求を受けていた。
今年の3月というのは、株価急落でパニックモードが最高潮に達してたときで、そのパニックが向いた矛先のひとつが、ウォール街エグゼクティブの高額な給与/賞与だったのは周知のとおり。
外部の執拗な介入と連日の感情的な非難に嫌気がさしたCEOモフェットは、「こんな状態で仕事できるか!」と政府に三行半叩きつけて3月初めに突然辞任(後日アドバイザーとして復帰)。そして続く4月には、CFOのケラーマンが自殺。救済後わずか半年で、フレディは、ふたたびCEOとCFOを失った。
そういう激動の経緯が今年の前半にフレディにはあったわけですね。
そのフレディに、「正式に」新しいCFOが決まったというのだ。
カリ氏がいたオハイオ州に本拠地を置くフィフス・サード銀行も、クレジットバブル崩壊前夜の2007年に住宅バブルでイケイケだったフロリダ州にM&Aで派手に業務拡大し、案の定バブル崩壊とともにずっこけて、30億ドル規模の公的資金支援を仰いだ銀行である。
ずっこけた後に同銀行のCFOになり、経営立ち直しに関与してたのが、今回フレディのCFOとして迎え入れられるカリ氏である。
★ ★ ★
だが、話題になってるのは、彼がCFOとしてどうよ、って話じゃなくて、またまた、この新しいCFOに支払われる給料とボーナスがどうよ、って話。
フレディがカリ氏に支払う給料とボーナスの詳細を示した9月24日付けの雇用契約書が公開されている。
その雇用契約書によりますと、彼がもらえるお金やベネフィットはこんな内容だそうで。
(1) 年俸$3.5ミリオン = 内訳は基本給67万5千ドル、追加年俸(?)160万ドル、目標ボーナス110万ドル。
(2) 契約時のボーナス$1.95ミリオン(契約した年俸とは別に、社員になりますと契約書にサインした段階で払われるボーナスのこと)
(3) カリ氏の自宅の(フレディによる)速やかな買い上げ
(4) カリ氏がオハイオ州、ワシントン州、オレゴン州に保有する住居からワシントンDCへの引越しにかかる費用の全額払い戻し
350万ドルの保証付き年俸、プラス、195万ドルの「いらっしゃいませボーナス」ですかい!
この条件を読んで、ちょっと気前良すぎじゃない?と感じないひとがいるのだろうか。
どこでどうやったら、【政府がマジョリティオーナーの実質公的機関】が、こんな給料パッケージを提示できるんだ?
しかも、わずか半年前には、85万ドルのリテイナー・ボーナス受け取ったかどで責められまくって自殺した前のCFO(←勤続16年)がいたってのに、だよ。
カリ氏がどんな凄腕の経営者なのかは知りませんけど、彼がフィフス・サードからもらってた給料は、58万ドルの基本給+10万ドルの契約時ボーナスだったそうですから、70万ドルから一気に5ミリオン超って、これって【夢の転職】どころじゃないよね。
しかも払うと言ってるのが、ほかのだれでもない、「フレディ」だよ、「フレディ」なんだよ。公的資金という生命維持装置で延命してもらってる、あのフレディマックですよ!
でも株主総会もない会社のCFOって、何するの?
基本給やボーナスの額にも驚くが、「今住んでる自宅の始末にお困りでしょうから会社が買い上げてあげましょう」って、それもすっごく気前よくね?さすが、住宅融資専門のフレディマックですこと、新CFO個人の住居の売買まで会社経費におまかせですのね。
財務長官のガイトナーですら、住宅市場軟化のあおりを受けて、財務長官となってワシントンDCに引っ越す際、NY連銀時代に住んでいたニューヨーク郊外の自宅に買い手がつかなくて(笑)、とはいえモルゲージローンの支払いもあるんで空き家にしとくわけにもいかず、仕方ないから賃貸物件にして貸してる、という哀しい話がロイターにすっぱ抜かれてたのに。ガイトナーも財務長官より準政府機関のCFOの仕事をやったほうが、よっぽど待遇よかったわね。
しかし、政府系金融機関の、こういう「破格の雇用条件」って、いったい、誰が決めてるのだろう。政府系のくせに、政府にはチェック機能は、ない?
民間の金融機関には50万ドルでも給料高すぎる、公的資金を受け取った銀行には従業員にボーナス払う資格無し、とさんざん難癖つけてたオバマ政権が、500億ドル超の公的資金を受け取って政府の直接傘下に入った準公的機関のエグゼクティブには、5ミリオン・ダラーズのお約束(しかもクローバック条項無し)ですか、へぇぇぇ・・・。
もしかして、今回のG20で英米サイドがボーナス規制でやたらトーンダウンしたのは、これ以上ボーナスの話を突っ込むと、政府系より低いぞと逆に突っ込まれて墓穴掘りそうになってきたからかな。(笑)
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