Wednesday, April 15, 2009

ゴールドマン1Q09決算について雑感

あぁ・・・ゴールドマンサックス・・・。

昔も今も、ウォール街のトップスター。

月曜日(13日)の後場後半は、ゴールドマンの決算がアナリスト予想を大幅に上回ったという事前情報でショートスクイーズも招いてブイブイ、一時は一株130ドル超まで急伸。

翌火曜日(14日)の早朝、同社の決算結果が正式発表になった途端、公的資金返済原資にする目的で一株123ドルだかで50億ドルの新株発行が嫌がられ、瞬く間に115ドルまで急落。利益確定のみなさま、お疲れ様でした。

正式発表によると、ゴールドマンのトップライン(Gross Revenue=粗利益、金利費用を差し引く前)は118億ドル。先週あたりからウォール街のバイサイドを中心にあちこちで【ウワサ】になってた通りの数字であった。債券トレード部門が絶好調で、増益に貢献した。

日頃からMurray Hill Journalの熱心な読者のみなさんは、債券部門が絶好調でGSの粗利が驚愕の120億ドルになりそう、って話は、4月7日の時点で筆者が書いてましたから、すでに知っていましたね?

あのMHJ記事を読みGS株を買い、決算発表直前に売り抜けた方がいらしたら、けっこう儲かったはず。おめでとうございます。あなたの儲け、分け前として筆者に少し恵んでください。(笑) 

昨日の決算発表後の投資家向け電話テレコンファレンスで、「AIG関連の収益」についてアナリストから質問が出たが、同社CFOはこの質問に対し「AIG関連については去年のうちに終了している。今期に入ってから、AIGとの取引はない」みたいなことを言った。

なるほど。たしかにAIGとの「取引」はなかったかもしれない。だけど、AIGとの「セトルメント(CDS解消)」はあったんじゃないの?今年に入ってからもAIGはやっぱりカネ足りなくなって、3度目の公的資金注入やってたんじゃなかったっけ?

仮に、AIGのカウンターパーティになってる会社達(含GS)が、前期のうちにこれらCDS契約の最終価値に対してディスカウント(価値毀損分)を見込んで償却済み、あるいは、引当金を積んでおいた、としよう。実際のセトルメントでは100%の支払いになったわけだから、これら「見込み」に基づいて事前償却しておいた毀損分というのは、「償却しすぎた分の戻り」ということになって、後日、利益計上されることもあるんだよね。

昨日GSから出された資料だけからでは、そこらへんの詳細は見えてこないから、「仮に、そういうこともある」としか、いまの筆者には言えませんけど。

   ★   ★   ★

それにしても、同社の債券のトレード部門は好調であったな。

ここで元プロのアナリストとしてひとつアドバイスすると、決算数値を見る上での最重要ポイントは、

「収益が持続可能か(Sustainabilityがあるか)」

って点である。決算のたびに問うべきは、あとにも先にも、これである。

(だから、会計基準変更で見てくれの自己資本比率がよくなる、なんつーバカバカしい話は、正直なところ、長期投資をする上ではどうでもいい話のひとつである。んなもん、超短期用ネタにしかならん。)

やはり4月7日のMHJ記事で、今年に入ってからAIG効果のあおりで、信用スプレッドのボラティリティが急激に上がった、ということを書いたが、債券トレードってのは、ボラティリティが高まるほど儲かるチャンスが巡ってくる、そういうトレードですかんね。

株式トレードってのは、なんだかんだ言ったところで、部門収益は株式市場の動きに忠実に連動する、そういうビジネス。株式市場がドツボにはまっているときに、ドンドコ設ける株式部門なんて、聞いたことない。でも、債券サイドってのは、儲け方もスケールも、株式とは全然違う。

これは余談だが、GSに限らず、米国のどの証券会社でも、株式のセールス&トレーディング部門というのは、大所帯で態度もエラソーな割りには、ハッキリ言ってあまり儲からない貧乏部門。

会社に持ってくる株式売買手数料は薄っぺら。規制強化でインベストメントバンキング部門からの収益の一部を共有させてもらえなくなってからの株式部門ってのは、債券部門からの儲けを横流ししてもらって、なんとかメシ食わせてもらってる、というのが実態である。

筆者がかつて属していた某大手証券会社でも、大所帯の株式グループが、NYの本社ビルの別の階に引っ越すための「引越し費用」を、何故か、債券グループが支払ってやってたんだからね。

当時、筆者は自身が債券部に所属していたから、貧乏な株式部の連中のために債券部がカネ使ったら自分らがもらえるボーナスの額がその分減るじゃねーかと思い、「自腹で払えないなら引っ越すな、古い机と汚れたカーペットで我慢しろ。」とか、内心不満であった。(←かなりセコイ話)

   ★   ★   ★

ハッ・・・いけない・・・ボーナスの話がからむと、つい冷静さを失ってしまう筆者である。

話をGS決算に戻す。

金利費用を差し引いた後の部門別総収益(Net Revenue)は、09年1月~3月の3ヶ月で94億ドル。GSのオペレーションは大きく分けると3部門に分かれるが、その内訳を見ると、

   - インベストメントバンキング部門 8.2億ドル
        (収益全体の割合9%、前年2月までの1Q08比で30%減)
   - トレーディング部門 72.5億ドル 
       (同76%、同40%増)
   - アセットマネージメント部門 1.4億ドル 
       (同15%、同29%減)

ということで、トレーディング部門がガンガン稼いできたおかげでゴールドマンの1Q09はブイブイだったんである。

そのトレーディング部門も、さらに、(1)債券部、(2)株式部、(3)自己資金売買部、と大きく3つの部署に分かれるのだが、(2)株式部の1Q09は前年同期比で20%減の20億ドル、(3)のプレップ部門は今四半期は15億ドルの赤字、というさんざんな結果であった。

にも関わらず、(1)の債券部だけは65億ドルで、前年同期比で倍以上もの増益となり、トレーディング部門の業務収益72.5億ドルのうち実に92%、会社全体の94億ドルのうち70%を債券トレーディング部門が稼いできた格好であった。

たしかに債券部(金利/コモディティ/クレジット/為替)はそれぞれの分野でボラティリティが高まって、債券トレーダーには儲けのチャンスは巡ってきたかもしれないが、それでも、前年同期比で倍以上になる、というのは、普通にボヨヨ~~ンとトレードやってて儲けられるレベルじゃない、と筆者なら感じるね。

そして、同社は今回から、会計年度を変えたので、GSの去年の12月一ヶ月だけの業績は四半期に含まれず、【別紙】で宙に浮いている。

その【別紙】をみると、08年12月一ヶ月で、債券トレーディング部は3.2億ドルの赤字だった。(GS会社全体でも大赤字。)

それに先立つ08年9~11月の3ヶ月(リーマンショックが最大だった期間)で同部門は34億ドルの赤字(月平均すると毎月11億ドルの赤字)。

そして、今期、09年1~3月の3ヶ月では、66億ドルの黒字(月平均22億ドル黒字)。

いくらなんでもブレすぎだっつの。

ということで、『ウジウジ』した性格の筆者は、もう一度、ここで結論付けることにする。

GSの出してきた今期の収益力には、「安心できる持続力」は、ない。

寝ぼけたようなウェルズファーゴの、利ざや拡大による収益力回復ストーリーのほうが、材料としてはよほど安心できる、ってもんである。

他の米大手金融機関の決算も今期は予想以上によくなりそうだが、コアの部分で持続力(Sustainability)のある収益パターンかどうか見極めるまでは、頭の隅っこででもいいから、ウジウジ感を残しておくことを、お薦めする。

とはいえ、GSのスターの座は持続する。公的資金の早期返済で、アホ議会によるボーナス監視のバカ騒ぎから解放され、業界のスター・トレーダーやスター・バンカーはGSに残るから。

前々から言ってるけど、ウォール街はプロスポーツや芸能界と同じ、タレントビジネス。強いプレーヤーが集まる会社は強い。そして、強いプレーヤーには高額のカネ払う、それがこの業界のルール。そして、それができるのは、目下ウォール街にはゴールドマンぐらいしか、いない。

そういう、決算数字だけでは表示できない【強み】、それを「フランチャイズ・バリュー」と呼ぶんだよね。

フランチャイズバリューは、将来の収益力を決定する。ゴールドマンは、やっぱり強い・・・。


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