Sunday, March 15, 2009

孤独なアトラス、苦肉の「派遣」採用

ニューヨーク市場の先週は、昨年11月以来で最高の上げ幅になった。

ウォールストリートジャーナルは土曜日(14日)朝の紙面のトップで、

『経済安定の兆候を受け株価上昇』
Signs of Stability Drive Up Stocks
http://online.wsj.com/article/SB123698782128925923.html

というタイトルの記事を掲載し、2月の米小売り統計が予想よりマシだったことを「兆候」のひとつに挙げていたけど、証券市場が『売り疲れ』気味なのと同様に、一般アメリカ市民もクリスマス以来ずーっと買い物控えてて、たとえ貯金があったとしても将来不安だからと言うんで大根の尻尾も煮て食う赤貧生活を敢えて送り(←うちだけか?)、そういう『我慢疲れ』が出てきてるんじゃないのかな。

実際わが身を振り返っても、12月と1月はグッと我慢してたけど、2月に入ったら、筆者は何故かお買い物しちゃった。新しい食器セットなんて、買っちゃった。いま無くては困るものではないにも関わらず、なぜか買いたくなった。46型のフラットスクリーンテレビも買っちゃった。「クリスマスには何も買わなかったし、1月も我慢したから、ご褒美ねー」とか、ワケわからん理由で、お買い物。

筆者の場合はまちがいなく、年末年始に消費を控え過ぎた挙句の反動、すなわち「我慢疲れ」である。

3月も引き続き小売統計に明るさが持続して見えたら、「兆候」と呼ぶことにしよう。

しかし、筆者が住むマンハッタンの街なかを歩きまわると、どの通りにも、前のテナントが店仕舞いして出て行ったきり空き家のままの店舗が目立つ。近所のバーの横を金曜日の夜に通りかかったら、客がひとりポツンとカウンターに座ってテレビ見てた。マンハッタンの街なかで、金曜の夜に、バーの客ひとりって・・・。

マンハッタンの街なかを歩く限り、少なくとも「明るさ」らしきものは、まだよく見えない。感触としてはむしろ、ますますひどくなっていってる、という印象のほうが強い。

   ★   ★   ★

現在のニューヨーク株式市場の特徴をひとことで言えば、

「インベスター市場ではなく、トレーダー市場」

だということだ。ファンダメンタルズで長期で本腰入れて買いに入ってくるインベスターは少なく、モメンタムを利用して小刻みに短期売買を繰り返すトレーダーばかり。

確かに先週ダウは上がりましたけどさ、そのパターン見たら、火曜日に上がったら水曜には息切れ、木曜にまた上がったら金曜は息切れ。

息切れ起こす日の朝は、決まって、取引開始前から買い注文がドッサリと積みあがっていた。そのおかげで寄り付き直後は前日の勢いのままゴーンと上がるけど、すぐに益出しの「売り」が集中して、ゴーンと下がる、その繰り返し。トレーディングのボリューム(出来高)は取引開始のベルが鳴った直後に集中し、午前11時ごろには、ボリュームの勢いはなくなってる。

ラリーが長続きしないんだ。

VIX指標は、今年に入ってから40~50のラインあたりをウロウロしている。先週も株価があれだけ上昇したのに、VIXは40のラインがレジスタンス(Resistance=抵抗線)になっていて、そこを突っ切ることはなかった。



つまり、世のトレーダー諸君は、まだまだ市場の様子を警戒しているらしく、今週以降は、下手すれば、ふたたびセルオフ(Sell-Off=大量の売り)が襲ってくる可能性もある、ってことだ。

あくまで「可能性」ではありますがね。

VIXについては、去年12月12日付けのブログエントリー(『合衆国の世紀は実際に終わっていたのか』)で言及したが、あれを書いた3ヶ月前はまだVIXが80だの90だのと騒いでいたんで、その頃と比べたら40まで下がってきたのは良くなってきたように見えるかもしれない。

しかし、VIXの40ラインってのは、2年ほど前にニューヨークの市場心理が目に見えて冷え込み始めたときに40ラインを突き抜けて「オーマイガッ、VIXが40行っちまったぜ、大丈夫かよ、おい!」とトレーディングフロアでたいそう話題になった、そういうラインですので注意が必要だ。

VIXがまだこんな水準にいるのに、週末に「景気回復の兆候でてきたよーん!」なんつー新聞見出しにウキウキ踊らされるようなプロのトレーダーはいない、と思うな・・・。

   ★   ★   ★

さて、そのウォールストリートジャーナル(WSJ)であるが、先週木曜日(12日)の紙面で、同紙が行ったアンケート結果を紹介していた。

どんなアンケートかというと、アメリカの著名エコノミスト54名に「オバマ大統領、ガイトナー財務長官、バーナンキ連銀議長について、景気回復に向けて彼らはうまくやれているか、3人それぞれに成績をつけてください」というアンケート。

結果によると、今回回答を得た49名のエコノミストの42%が、オバマ政権の経済対策には不満を抱いているそうだ。そして、3人それぞれにつけられた成績点は、

   ‐大統領オバマ君 59点
   -財務長官ガイトナー君 51点
   -連銀議長バーナンキ君 71点

アメリカの大学では一般に60点以上取れないと落第点ですからね、オバマ君もガイトナー君も、

「もっとがんばりましょう。」

筆者も、先日のブログで、「PER」の「P」が何かを言い間違ったオバマ君の成績を「B-」とつけましたがね、世の中のエコノミストは、オバマ君に対し、筆者よりさらに辛い点数をつけた模様である。

特に、ガイトナー君の場合、前代のヘンリー・ポールソン君の57点(今年1月の同調査結果)をさらに下回ってしまったので、もっともっと徹夜してがんばらなくてはなりませんね・・・。

しかし、このWSJの記事中にあった次の文章には笑ったよ。


"Many of the economists, however, have repeatedly miscalculated how severe the downturn would be. Indeed, they pushed ahead yet again their forecasts for when a recovery would begin. On average, they expect the downturn to end in October. Last month, they said the bottom would arrive in August."

『しかし、これらエコノミストの多くが、今回の景気後退がどれほどシビアなものになるか、繰り返し誤算してきた。実際、彼らは景気回復のタイミングをまたもや先に延ばした。平均すると、彼らは今年の10月には景気は底を打つと見ている。だが彼らは景気の底は8月にも訪れると先月言ったばかりなのだ。』




ま、自分のことは棚にあげ、相手を批判する分には、こんな楽なものないですからネ~。(笑)

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それにしても、ガイトナー君、これ以上、徹夜なんてできるのか。

余計なお世話だが、ガイトナー財務長官、着任してから寝てないんじゃないかと筆者は心配している。

というのも、ガイトナーには着任以来、部下らしい部下がほとんど決まっていないのである。

財務省には、ガイトナー長官をトップにして、その下に「直属」として15のポストがあるそうなのだが、そのうち正式にポストが埋まったのは、今日現在で、まだひとつ。

ガイトナー氏、適任者と思う相手に、

「どうかね、財務省で重要なポストが空いてるんだけど、キミ、働く気ないかね?責任もやりがいもある仕事だよ。将来のために履歴書を磨くにも最高のポストだよ!」

と方々に誘いをかけたんだが、金融界緊急事態発生の連続と実態経済のあまりの無残さを前にして誰もが尻込みしちゃうのか、声をかけられた相手は「いまは家族と一緒にいたいから・・・」とかいうヘンテコな理由を挙げて、辞退しちゃったんである。

G-20の会議が開かれる直前になっても、ガイトナーの周囲にはほとんど側近がいない状態で、「ギリシャ神話で地球を背負わされることになったアトラス神」さながら。一人ぽっちで、崩れ続けるグローバルエコノミーを背中にしょって支えているような雰囲気である。

仕方ないんで、G-20用に、ガイトナーは6週間だけ「派遣要員」を調達したそうだ。

ワシントンDCのエコノミスト・サークルでは知らぬものなし、テッド・トルーマン氏(Ted Truman)、67歳。彼は連銀のボードメンバーを26年間も勤め、グリーンスパン前議長をして「自分はトルーマンの部下」と言わしめたほどの、経済学者界の重鎮である。米国以外のG-20の国々も米国並みに財政出動すべき、というのも氏の持論である。

しかし、トルーマン氏は6週間だけの派遣要員。フルタイムばかりでポストを埋めるのはいつになることか。

孤独なアトラス、すでに疲労困憊の色濃くなってきていて、見ていて、ちょっと気の毒である。

軽い腰痛で済めばいいが、アトラスの腰骨が複雑骨折起こす前に、はやく充分なスタッフが見つかるよう、お祈りしております。

写真:NYの五番街ロックフェラーセンターの前で地球を背負うアトラス像



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