みんなが「いいな!いいな!」と思ったころには、たいがいピークは去っている、それが金融資産の宿命だ。(格言by とりんち)
— TrinityNYC (@TrinityNYC) January 21, 2014
大恐慌時代の「靴磨きの少年の伝説」を持ち出してくるまでもなく、NHKの一般視聴者向け番組「クローズアップ現代」が話題として取り上げた、というあたりで、そろそろ、そのジンクスの片鱗が見えてきていたわけであるが、では、最近のビットコインの実際のプライス(=US$換算価値)を見てみることにいたしましょうか・・・。
(チャート1) MtGox で提示されてるプライス推移 2月10日(15分足)
MtGox on 9-Feb-2014 (15min) |
ギャアアアアアアーーーーッ!
上のチャートは2月10日ごろのMtGoxで取引されていたビットコインのプライス(15分足)である。(via BitCoin Wisdom) 一時は100ドルギリギリまで下がり、まさに投売り状態。どんなプライスでもいいから手持ちのMtGoxのウォレットをUS$に換金したいひとたちによる一斉パニック売りの図。
同取引所(MtGox)で提示されるプライスの直近までの動き(日足)を追ったものが下のチャートだ。10日の急落後も下がり続けている。昨年暮れに1200ドル以上をマークしていたのと同じ投資資産の取引価格が、2月16日には250ドル前後。
(チャート2) MtGox で提示されてるプライス推移(日足) 2013年12月頃~現在
MtGox on 18-Feb-2014 (1day) |
言いましたよね、わたし、こう言いましたよね!
基軸通貨をドルにおいて、「おっ!いま850ドルだなっ!来週は1000ドルだぞっ!」とか言ってたって、肝心の1000米ドルのキャッシュに実際に換金できなければ、その価値は幻想なんだよ。
— TrinityNYC (@TrinityNYC) January 21, 2014
ただし、断っておくと、上のMtGoxで提示されてるプライスは260ドル前後まで下がっているが、その他の取引所(例えば最大のBitStamp )では同日620ドル前後で取引き成立しているそうです。(とはいえ、これらのチャートみて安心できる投資家はいないよね。笑)
(チャート3) Bitstamp で提示されてるプライス推移(日足) 2013年12月頃~現在
Bitstamp on 18-Feb-2014 (1 day) |
(チャート4) Bitstamp で提示されてるプライス推移(3日足) 2013年6月頃~現在
Bitstamp on 18-Feb-2014 (3 days) |
ご承知の方は多いだろうが、そうでない方のために少々説明すると、Bitcoinは、一般株式のようにどこか決められた一箇所で取引されているわけではなく、複数の取引所(Exchanges)があって、その取引所に参加して売買する者たちのBid とAskで、その取引所でのプライスが決まる。MtGoxは一時はフロートしているビットコインの7割~8割が取引されてたこともある、世界最大級のエクスチェンジ(取引所)で、拠点は東京渋谷である。Bitstampというのも同様の取引所だが、こちらは拠点はロンドン。取引ボリュームでは現在はBitstampが世界最大で、MtGoxは第2位。
2月10日(チャート1)にMtGoxに何が起こったか、というと、成立したトレードが記録されなかったり消失したりするシステム上のバグがみつかり、問題のありかが明確になるまでMtGoxはビットコインの引き出しを凍結する(2月7日プレスリリース)ということになったんである。ここでいう「引き出し(Withdrawal)ができない」というのは、ビットコインに投資したお金を米ドルに変換できない、という意味である。
つまり、MtGoxは開店休業、実質シャットダウン状態。米ドルに換金できないものを持っていたってお買い物もできません、んなもん、さっさと手放したいと思うのは当然だが、チャート1と2はMtGoxのトレーディング・プラットフォームにビットコインのバイヤー(買い手)が不在であることを意味している。
そして月曜日の2月10日には、MtGoxはアップデートとして長いリリースを発表し、MtGoxに起こった問題は MtGoxだけの問題ではなく、ビットコインのソフトウェアのコードそのものの問題であると発表した。ビットコインそのものの問題となると、他のエクスチェンジで取引されるビットコインも同様なのかっ!と再び不安が走り、ビットコインの価格はさらに下落した。だが、ビットコイン側はそれに反論、「こっちじゃなくて、そっちの問題だろ!」と泥試合にもつれ込んでいるらしい。
Today's #MtGox protest under way! Please join us! #mtgoxprotest pic.twitter.com/pMBaA98jQ4
— Kolin Burges (@The_K_meister) February 17, 2014
ここらへんのテクニカルな話は、超ローテクの私が語れるわけないので(笑)、前回も紹介した大石哲之さんによるブログ記事を読んでください。
麻薬取引サイトすら引っかかったビットコイン版振り込め詐欺
技術的なことは皆目わからないローテクでも、上の4つのチャートから、ビットコインの金融資産としての価値は短期間に大きく損なわれたのはよくわかる。その背景は、ひとつには流通貨幣としての信用が市場でほとんど確立されていないこと。そして、もうひとつは、買い手の不在により売買が成立しない、すなわち、「金融資産としての流動性が低すぎる」という問題だ。
米国債や米ドルが何故、市場でベンチマークになるかというと、それは鬼畜米帝の陰謀ではなくて(笑)、市場そのものに規模と深さがあるからだ。円やユーロのような主要通貨も同じだ。【流動性が高い】ということなんだ。ビットコインが米ドルや円のような流動性を持てるようになるかは疑問だな。
— TrinityNYC (@TrinityNYC) January 21, 2014
ビットコインの尋常ならぬプライス・ボラティリティも、以下のように、流動性の低さで説明できる。
市場で語られてる話の多くには、通貨としての【流動性】というコンセプトが、すっぽり抜けてるよね。>ビットコイン
— TrinityNYC (@TrinityNYC) January 21, 2014
流動性が低いと、通常、その金融資産は安定しないんだ。金融資産のプライスが大きく上がって大きく下がる、といった、価格の巨大なスイングを経験する場合は、流動性の低さから引き起こされることが多い。
— TrinityNYC (@TrinityNYC) January 21, 2014
サブプライム問題の中心になったエキゾチックな仕組み債なんてのは、その最たるもんで、ABXのようなインデックスは一応あったが供給量が限定的なうえに流動性が低かったから、リアルマネーを伴う実際の取引はまばらで、バーチュアル・プライスで取引してたんだ。
— TrinityNYC (@TrinityNYC) January 21, 2014
市場サイズがそこそこデカクても、流動性が逼迫してくれば、プライスは大きくスイングする。今朝読んだ中国のレポ取引の話なんぞ、まさに、それだ。ある日150bpsもぶん上がり、その翌日90bpsもぶん下がるなんつーのは、安定した市場ではちょっと考えられん幅だ。
— TrinityNYC (@TrinityNYC) January 21, 2014
この、金融資産のプライスがぶち上がってぶち下がる、「幅」のことを、ボラティリティ、って言うんだ。
— TrinityNYC (@TrinityNYC) January 21, 2014
ボラティリティが高いというのはそれだけ、投資資産としてはリスクが高いという意味なんだ。リスクが高いほど期待リターンも大きくなる。だが、非常に高いリターンを期待できる資産というのは、流動性が低いことが多いんだ。流動性が高い投資対象資産で一攫千金を狙うことはできないんだよ。
— TrinityNYC (@TrinityNYC) January 22, 2014
資産の流動性、すなわち換金性だが、これが低いと、いざ換金したくてもできない事態も出てくる。換金できずにモタモタしてるうちに価値が大きく毀損されるリスクがある。夢の通貨が夢でなくなり、換金の必要がないくらいに通貨として定着する頃には流動性が高い、つまりリターンは低くなってるんだ。
— TrinityNYC (@TrinityNYC) January 22, 2014
ビットコインの通貨としての【可能性】がどんなに大きかろうが、それを「投資対象として眺めるとき」は流動性とボラという基本を外したらダメ。夢の通貨が実際の経済活動になくてはならない存在になる頃には流動性は高くなってて安定している。でもそこに至るまでの道には死体がたくさん転がるんだ。
— TrinityNYC (@TrinityNYC) January 22, 2014
前述したMtGoxは、2月10日に出したリリースの中で、こんなことを述べている。
To put things in perspective, it's important to remember that Bitcoin is a very new technology and still very much in its early stages. What MtGox and the Bitcoin community have experienced in the past year has been an incredible and exciting challenge, and there is still much to do to further improve.
結論として整理しよう。ビットコインは非常に新しいテクノロジーであり、いまだ黎明期にあるということを忘れてはいけない。この一年、MtGox とビットコイン・コミュニティは素晴らしくエキサイティングなチャレンジに立ち向かってきたが、これからもまだまだ改善せねばならない部分は残っている。
バーチャル貨幣のビットコインが「安心して使える(=安定的な)流通貨幣」として広く世の中で認められるためには、システム面の強化やテクノロジー上の改良改善が待たれることは言うまでもないが、より根本的に致命傷となっている「流動性の低さ、信用力のなさ」という問題がクリアされなければならない。このポイントについて、JPモルガンの為替ストラテジストのJohn Normand がレポートを出している。
彼は、「ドルや円、ユーロといった伝統的な不換通貨と比較してビットコインは激しく劣っている(vastly inferior)」と評価している。
ちょっと眠くなってきたので(笑)、このJPMのレポートについては次回にまわすことにしたいが、上でチラッと述べた「流動性の低いエキゾチックな仕組み債」をゴッチャリ抱えていたウォール街の某社が、サブプライムの嵐が去ったときにどんな状態になっていたかだけ、この章の最後に、ビジュアルに記録しておくことにする。
<ビフォー> 牛が
<アフター> 豚に
(続く)
いけいけbullのメリルさんが生贄の豚さんに変わっているのが激しくウケテしまいました。今後とも深い洞察とユニークな感性を発揮されることを期待いたします。
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