Monday, August 8, 2011

本命は欧州フロント(ではなかろうか・・・?)

S&Pによる米国ソブリン格下げのニュースが出てから、この週末は、米国のテレビは(予想通り)このトピックで持ちきり。

ウンザリ。

前回のエントリーの最後に「この格下げは政治的に影響をおよぼすだろう」と書いたが、(やはり予想通り)こんなことになってしまったのはお前のせいだ、いやお前が悪い、と民主と共和とで指の指し合い、米政界はフィンガーポインティングの嵐である。

民主党のケリー代議士などは、日曜朝の報道番組Meet The Pressに出演して、「This is a Tea-Party downgrade!」と、これはお茶会がもたらした格下げだと言い放った。一方の共和は共和で、(これでますますオバマを苛めるネタができたとばかりのドヤ顔で)「オバマのリーダーシップのなさが格下げの直接原因」と言い返す、というありさまである。

Finger-Pointing in Washington Follows Debt Downgrade
(WSJ, 8/7/11)

そして、直接の窓口となって格付け機関と丁々発止とやりあった財務省関係者は、トリプルA攻防戦で疲労困憊、それでも「AAA」の3文字を守りきれなかった悔しさで恨みタラタラ。S&Pのアナリストが用いた計量モデルに2兆ドルの間違いがあったとか言って彼らの分析には蓋然性がないと、そればっか繰り返し、金曜日の夜から文句言い出して今日になってもまーだ同じ文句を言っていて、これもウンザリ。

Treasury Spells Out S&P's "$2 Trillion Mistake"
(Business Insider, 8/6/11)

たしかに、世界中が注目している格付けアクションだというのに、その正念場で、相手から2兆ドルの間違いを指摘されるなんていうのは、アナリストとして最もこっぱずかしい話である。まぁ別にS&Pの肩持つわけじゃないけれどさ、それにしたって、政府関係者が、2兆ドル間違った、間違った、と喚き続ける姿も、実にガキじみていて見苦しい。

その間違いが2兆ドルだろうが3兆ドルだろうが、議論の最も本質的な部分、すなわち、「米国の財政は悪化している」という【事実】そのものは変えようがないんだからな。

これについて、元大統領候補マケインがやはり今朝のMeet The Pressで、「メッセンジャーを撃っても始まらない。(米国の財政への評価として)S&Pの見方が間違っていると本気で信じてる者がいるとでもいうのか。」とたしなめた。(撃つ相手ならオバマだ、と共和の彼は言いたいわけだが。)

“Don’t shoot the messenger,” Mr. McCain said, adding of the credit-rating firm’s assessment of the U.S. fiscal situation: “Is there anybody who believes that S&P is wrong?”

同番組に出演したグリーンスパンは、この格下げは米国の一番触れてほしくない部分に触れ("hit a nerve")、米国の自尊心を傷つけた("hit the self esteem")と言っていた。その通り。

Alan Greenspan On The Downgrade: "It Hit A Nerve"
(eWallstreeter, 8/7/11)

いわば、「これまでずっとオール5の成績表をもらい続けた子供が、ある日理科で4をもらい、逆上している」― それによく似た図が、この土曜も日曜も、延々とテレビ画面で繰り広げられたのであった。

そこに持ってきて、中国は中国で、米国の傷に塩をすり込むような態度で、「さっさと予算をバランスさせろ」だの「軍事費減らせ」だの、「米国のせいで世界経済はまっさかさま」だのと批判しまくり、あげくに中国の格付け機関まで登場して「米ドルは基軸通貨としては不適切」だのと言い放って、喧嘩売ってるわけである。

China State Paper Says US Failings Threaten Global Recovery
(CNBC, 8/7/11)

Dollar to Be 'Discarded' by World: China Rating Agency
(CNBC, 8/7/11)

China media say U.S. debt woes show military overreach
(Reuters, 8/8/11)

しかし、米国債とエージェンシー債の世界最大保有者である中国が、こういう風に米国に政治的圧力かけてくること自体はサプライズではないとしても、米国に向って軍事費減らせ、って、あんた・・・。お前が言うなでしょーが、やれやれ・・・。

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こうして世界経済がもろく混乱に陥りそうな時に出されてきた、米国債の格下げ。ガイトナーが「そんなことはあり得ないし、絶対にさせないし、米国はそんなリスクは取れない」と言ってた事態が起きてしまった。

これを受けて、G-7が今夜、急きょ電話会議を開き、金融市場の混乱を招かないように万全の協調体制で臨むという声明を出したりしてたわけであるが、それにしても、なんとなく不穏なのが、欧州フロントの動き。

Zerohedgeが、以下のようなグラフを掲載して、ECBがイタリアとスペインの国債を買ったって、ワークしないよ、と言っている。

Why The ECB's Monetization Is Doomed In One Simple Chart
(Zerohedge、8/7/11)



昨年の5月から、PIIGSの弱小国(ギリシャ、アイルランド、ポルトガル)の国債をECBが買ってきたものの、10年債のイールド平均は倍近くになっている。基本的に、欧州当局は、昨年の年初から続いている欧州のソブリン危機のContagion(伝播)を収束させることができないまま、今日に至っている。

そして、先週出されてきた、こんどはイタリアとスペインの国債買いますよ~、というトリシェの発表。先週はそれを受けてマーケットのセンチメントが一気に悪化、欧州の金融株は暴落した。米銀が欧州銀行との取引を控えてカウンターパーティのリスクを極力落としているようだといったウワサまでNY取引時間中に流れていた。

しかし、ユーロ圏弱小国の信用力をこれまで支えてきてたのはドイツとフランスという、AAAの国たち。裏を返せば、独と仏の信用力が弱まればユーロ圏全体の信用力は崩壊する。

この一年半を振り返れば、独仏による他国への信用補完の形態は、時を追うごとにより明示的な方向に進んでいっていて、ギリシャのみならず伊やスペインまでふくめPIIGS丸抱えで保証という格好でリスクトランスファーが起こったら、当然心配されるのは、独と仏の信用力だ。

ドイツ政府内では、たとえ救済基金を3倍に増やしてもイタリアの救済措置を実行するのは困難という味方が強まっており、€1.8Tにおよぶイタリア国債の保証に動けば、市場は今度はドイツの信用力に疑問符をつけるのではないかという懸念が出てきている、という内容の記事を、独誌Die Spiegelが伝えた、という報道が今朝あった。(筆者は元記事は読んでいない。)

そのような懸念が浮上するのも当たり前である。欧州版Brady Bondというフレーズをいろんなところで耳にするが、Brady Bondが出された当時の米国の鋼鉄のような信用力と、現在の欧州の“グループとしての”信用力を比べた場合、それこそ文字通り「格」が違う話をしてるわけであって、欧州の場合は、独と仏の信用力が揺らいだ瞬間に救済スキーム全体の基盤が崩れるわけだし。

上のZerohedgeのグラフと合わせて、フランスのCDSの過去1年の動きも見てほしい。


ここ1~2週間で145bpsあたりまで急激に上昇している。リーマンショック後の最悪期でも100bpsを越えなかったフランスのCDSが、いま、ソブリン危機勃発する直前頃のギリシャCDSのレベル近くに迫っている。非常にセンシティブなものを感じる。

クライシスが再び起こるとしたら、その引き金になる本命は、政治の混乱で揺れる米国よりも、むしろ欧州フロントなのではなかろうか・・・という気がしてくるのも無理はない。

欧州市場は数時間後に開く。

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