例えば、この、3月18日付のFTの記事。地震後直後の月曜から早々と製造を一時中断せざるを得なくなったGMはじめ, ソニー・エリクソン、フォルクスワーゲン、ノキア、アップルなどなど、世界の有名どころが次々に部品サプライの流れが滞ることに懸念を示した。
(Financial Times, 3/18/11)
製造中止していたGMのルイジアナ工場はその後1週間で製造再開にこぎつけたようだが、福島原発事故の解決がなかなか進展せず、産業用電力の不足が長期化するとの懸念も浮上し、自動車メーカーやハイテク産業など日本製品に頼っている海外製造業各社の不安を払拭するにはまだ先のよう。
そんな中、一見直接関係のないように見えるところで、サプライ不足を懸念するあまりパニック買いに走ってる業界があるという、(ちょっと意外に思える)記事を見た。
(New York Times, 3/22/11)
(New York Times, 3/27/11)
記事によると、まだサプライ不足が実際起こっているわけでもないし、この先本当に不足が起こるのかどうかもわからないのに、ハリウッド映画やTV番組の制作業界は、プロダクション仕様のビデオテープの買占めに一斉に走っているらしい。一部では製品の最終価格が25%も跳ね上がり、eBayのようなオークションサイトで再販すると、元の価格の10倍の値がつくこともあるらしい。
筆者も初めて知ったのだが、ハリウッドが使用するSONYのビデオテープは同社の仙台工場で生産されているそうで、米国の商業用グレードのビデオテープ市場におけるSONYのシェアはなんといってもダントツでデカく、仙台工場がやられたというニュースが入ったとたん、米エンタ制作業界は「な、なんだとーっ!」と総立ちになり、「テープ確保できるか大至急確認しろーー!」とドタバタ動きだしたというのである。
業界でよく使われているHDCAM-SRというビデオフォーマットはSONYでしか製造されておらず、他の日本メーカーが作っているビデオ・フォーマットを使おうとすると機材を新たに揃えなくてはならない。
うちのダンナはまさにこの映像業界のひとなので、「なぜ今時ビデオテープなのか、デジタルにすりゃーいいじゃん」と早速ヒアリングをしてみたところ、デジタル機材と映像のデジタル化は着々と進行中だが、現場ではビデオテープはまだまだ広く使用されているとのこと。キツイ制作予算でやりくりしている映像業界下請けは貧乏所帯が多くて、デジタル最新機器が出てきたからといって、皆そんなに頻繁に最新式に次々取り替えられるお金の余裕があるわけではないらしい。彼にNYTの記事を読ませたところ、状況はすっごくよくわかる、と言っていた。
(以下NYTの記事から引用)
“It’s akin to one of those situations where people go to the grocery store and buy up all the water,” said Bill Missett, an executive with the LaserPacific Media Corporation, which uses tape in its post-production services. (略) Many TV shows rely on tape that is manufactured in Japan. Studios use a similar product to shoot movies and store master copies of films. (Digital storage methods are increasing, but, counterintuitively, it costs more to store a digital master of a movie – about $12,500 a year – than it does to keep a conventional master, which costs about $1,050 a year.)
プロダクション後のサービスでビデオテープを使う、LaserPacific Media Corpのエグゼクティブ、ビル・ミセット氏は「飲み水の買い占めのためにスーパーにあせって買いにゆく、あれと似た状況だ」と言う。(略) 米テレビのリアリティショー番組の多くが日本製のテープに依存している。映画スタジオでも映画の撮影やマスター・コピーの保存のために同様のプロダクトを使っている。(デジタルによる保存方法は年々増加傾向にあるものの、我々の直感とは裏腹に、映画のデジタル・マスター保存にはよりコストがかかる。テープ方式によるマスター保存だと映画一本で年間保存コストは$1,050しか掛からないのに対し、デジタルマスター方式だと年間$12,500もコストがかかるのだ。)
$1050 対 $12500 とは!!!
そりゃー、テープに頼るはずだわ・・・。
デジタル・マスター方式の保存コストがこの先どんどん下がってくれば、また話は大きく変わってくるんだろうけれど、それと関連して周辺機器もデジタル新鋭機器に変えてゆくコストがかかる、ということですしね。なにせ先立つものはカネだからなぁ。
筆者もローテクながら、書籍・音楽・映画と、デジタル化されたコンテンツに日々お世話になっており、その利便さと手軽さ、そして、コストの比較から言ってもデジタル化されたもののほうがずっと経済的ということもあって「モノを持たないミニマリストなライフ・スタイル」に徐々に切り替えてきているところ。でも、ストレージに10倍も差が出るとしたら、そのコストが下がってくるまでは、ジッとモノを抱えているだろうなと思う。
記事では「直感とは裏腹に(counterintuitively)」という表現を用いていたが、わたしもデジタルのほうが安く済むと直感的に思っていた。
でも、映像のプロの現場が、利便性とかよりも純粋にコスト比較での大差が理由で、いまなお一部ではテープ依存が続いていたというのを知り、ローテク筆者としては、やや意外に感じたわけである。
日本でも深刻な問題となっています。テープは取り合いになっています。
ReplyDelete通常敬遠されていた、マクセルが急浮上しています。