With Trading Light, 5 Stocks a Rally Makes (WSJ、8/28/09)
「薄商いの中で金融5銘柄だけトレーディングのターンオーバーが異常な激しさを増しワケわからんことになってる」というのは、22日にポストした前回のMurray Hill Journalに書いたので、MHJ読者の皆様にとっては、すでに古いニュースでありますね。(MHJを読みましょう!笑)
MHJ記事から一週間、依然、ワケわからん状態が継続してる。
なかでもAIG株は、木曜と金曜に、トレーディング前線で激しくターンオーバーしてるだけじゃなくて、株価自体もグングン上がり、50ドル超に!
木曜日には、AIGの新CEOに就任したばかりのロバート・ベンモシュ(Robert Benmosche)が、AIGを育て上げ(かつ、破壊した)旧CEOのハンク・グリーンバーグにいろいろ指南してもらいながらAIGの経営を進めてゆくつもりだと発言したことが市場で"好感”され、びょ~んと上昇。
これで、AIGは 【全米モラルハザード株ランキング】(←MHJ筆者が今作った)首位の座を手にいれたこと、間違いなし。(爆)
ウォール街ボーナス魔女狩り騒動の火付け役となり、わずか数ヶ月前には、ニューヨーク金融街のAIG本社ビルの前には大勢の一般市民が集まって「貪欲の豚 許すまじ!」と書かれたプラカード掲げて、こぶし振り上げて騒いでいたものである。(当時の反AIGヒステリアについては、3月19日のMHJ記事『議会は魔女狩りモード』参照。)
ところが、最近では、街角のスターバックスに行くと、失業して他にやることもない男たち(働き盛りの年齢層)がたむろして、ラップトップ持込んでWiFiでデイトレードしてて、5分足のチャート示しながら”テクニカル分析のおさらい会”なんかワイワイやっちゃったりしてる「にわかデイトレーダー」や、買うならこの株だぜと仲間に勧めてる「にわかアナリスト」が増えており、中でもAIG株は、彼ら「にわか組」のアイドル的存在になっている、という報告もあり。
「靴磨き少年」の現代版は、「スターバックス通いの失業者」なり。
3月ごろ、AIG本社前に座り込み「許すまじ!」と叫んでた人たちの中にも、いまになって、コーヒーすすりながらAIG株をデイトレードしてウハウハ喜んでる者が、少なからず含まれているかもしれんな。(笑) 人のうわさも75日、人の記憶は49日。
そして、誰よりもウハウハなのは、AIGの最大株主(実質80%オーナー)、米政府かも。
笑い止まらぬチーム・オバマから表彰状をもらえそうなぐらいの勢いである。
議会の連中も、「スペキュレーションは絶対に許さない!」とかワーワーわめいて、『空売り規制』のほうは積極的に動いてましたが、スペキュレーション買い(Speculative Buying)については、誰も何も言わないですな。株価が下がると政治介入、上がる分には文句なし。
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28日の金曜日、引けの前に、ニュースブログ『24/7 Wall St』が、AIG株の暴騰と、現在のマーケットの【メンタリティ】について、面白い投稿記事を載せていた。
本文はここ:Trader Crack: AIG Goes To $100 (AIG, C, BAC, HIG, MET, YHOO)
(24/7WallSt.com 8/28/09)
(以下、MHJ筆者による抄訳)
メジャーなインデックスは3月の底から5割以上上昇し、市場では問題だらけの投機的な金融銘柄はゲットーで覚せい剤が売買されるように取引され、これが「ブル・マーケット」か「ベア・マーケット・ラリー」なのか、そのどちらかはわからないが、いずれにせよ強い上昇気流の中にわれわれはいる。そして、このAIG株高騰だ。ユーフォリア(陶酔感)にひたってみな頭がおかしくなってるのか、あるいは、もはや市場は恐れるに値しないもの、説明をつける必要などないかのどちらかだろう。AIG株は8月19日のレベルから倍増し、底値からみると400%増となった。いまでは、AIGは100ドルを超える可能性があるとまで関係者の間で囁かれ始めている。(中略)
ハイテクバブルの頃のユーフォリアと比較してみよう。たとえばヤフー株。1999年の10、11月の同株は株式分割調整済み50ドルで、それでもオーバーバリューと思われていた。しかし、翌12月までにはヤフーは100ドルに上昇。2001年3月には10ドル以下に下落。だが、AIGはヤフーとは違うし、直感的にヤフーとAIGの比較はできないと誰もが思う。AIGは7月9日のレベルからすでに400%上昇している。7月9日というのはAIG株が併合比率1:20でリバース・スプリット(株式併合)を行った日から数えて6日目だったが、株式併合有効日の7月1日の数日前にはAIG株はスプリット調整後30ドル近くに上昇していた。(中略)
では、どこの誰が、AIG株のターゲットを100ドルと言い出しているのだろう。AIGという会社は、いまだにリスクを抱えた会社ではないのか?米政府の支援がなければ経営継続困難な会社ではないのか?オペレーションの切り売りで骨抜きにされる会社ではないのか?ダウ平均株価から追い出された哀れな子豚じゃないのか?株価を表面上吊り上げるために株式併合を行った会社ではないのか?AIGは今後も引き続き政治的圧力を受け続ける会社じゃないのか?これらの質問への答えはすべてYESである。だが、今年に入ってから起こったことを見る限り、それらはすべてどうでもいいことのようだ。
現在の市場の流れにおいては、明らかにブルマーケット・メンタリティのひとり勝ちである。後年、これがベアマーケットラリーだったということがわかったとしても、そんなことは関係ない。トレーダー達の関心は市場が動いている間に儲けることが出来るか否か、それだけだ。そしてAIG株100ドルというクレイジーなターゲットが出てくるのは、ブルマーケットメンタリティの魔法にかかった者たちが、それが実現したらどんなことになるのだろうと思いをめぐらせているからだ。
木曜日(27日)の終値は$47.84だったが、スプリットを考慮して52週レンジをみると、AIG株の過去1年の最高値は$493.60、2年前の水準なら調整後一株1000ドル。だが、3年前当時の同社の株価は70ドルだった。投資家やトレーダーの中にAIGの企業価値がいくらなのかをはじき出せるものなど今の市場にはひとりもいない。同社のマーケット・キャップはわずか64億ドル。財務諸表上はAIGの営業利益は直近の四半期で339億ドルで黒字。6月30日現在の同社の総資産は8304億ドル、負債7724億ドル、株主資本は580億ドル、うち無形資産が515億ドル。これら財務諸表上の数字が正確かつ最終数字と考えることはできないし、さらに総額1700億ドルに上る同社への政府支援を考慮すると、もはや何がなんだかわからない。
AIGを古典的な意味においてカバーしているプロのアナリストは現在いない。だから、プライスターゲットというものはないし、収益見込みがどれぐらいになりそうなのかという予測値もない。つまり、AIGの株価予想を立てようとするものは、ガイダンスやレファレンスを全く欠いた状態にあり、しかも、AIGという会社の企業価値がどうなるのかというクルーすらない状態で予想を立てているのだ。
そして、AIGにブル予想を立てるものがよりどころにしているもうひとつの点は、新たにCEOに指名されたロバート・ベンモシュは保険業界では泣く子も黙る存在で「彼ならやれる」いうストーリーだ。彼はMetLifeの英雄であり、AIGの資産をメッタやたらに切り売りしたりしないと言っている。(これが、AIGは骨抜きにはならないという意見につながっている。)また、前職のリディとは違って、(嫌がるペンモシュに頼み込んでCEOになってもらったという経緯から)彼は政治的圧力にも屈しない強い経営者だと考える者もいる。彼は政府に借りた金は必ずお返しすると言っているし、旧CEOのグリーンバーグの操作の仕方も知っている。これらは(パーセプションに)プラスに働くかもしれない。
AIGが$100になるなど、AIGが潰れかけてる会社だと考えているものにとっては、とうてい考えられないレベルだろう。だが、ブル市場ではクレイジーなことはいくらでも起こる。リアリティとパーセプションは、抱いているメンタリティ次第で、大きく差がつくものだ。AIG株はその一例なのだ。
折りしも今日、ダウジョーンズから、もしシティとAIGがダウ平均から外されていなかったら、ダウは1万ドルほぼ回復、というメモが出ていた。だが、市場では、誰もAIG株がどこまで上昇するか、正面切って意見を述べようとするものは見当たらない。100ドルになるかもしれないし、10ドルになるかもしれない。米政府の出方次第では無価値になるかもしれない。
(筆者による意訳は以上)
上の記事は「トレーダーのクラック(麻薬)」と題された投稿だが、コカインや覚せい剤にはまると、必ず後で地獄が待ってますよ。お気をつけて。(実例:のりぴー)
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そう、上の記事の言うとおり、AIG株のクレイジーな動きを「古典的な分析手法を用いて、理路整然と説明する」ことなんて実質不可能なんである。
ブルなメンタリティでいれば100ドルも夢ではないが、そうじゃなければゼロの悪夢も。ラショナルなんて、どっちにも、ない。
経営者に対する評価やパーセプションというのも、わかったようで、わからん話である。
そのとき市場がどんなメンタリティでいるか次第で、同一人物でも市場の評価や置かれる立場がぜんぜん変わってしまう。
AIGの旧CEOハンク・グリーンバーグなんて、全盛のころは「AIGの神様」と呼ばれ、AIG崩壊で「AIGを殺した男」と名を変え、引退後はAIGの新経営陣の悪口をメディア各地でしゃべりまくったために「往生際の悪い男」と呼ばれ、だが今度は彼が経営コンサルタントになってAIG立て直しに関与するという情報が出るや、AIG株急上昇。
ハンク・グリーンバーグって、本当に同一人物ですか?(笑)
だがそれは、日本も金融危機時に経験した。金融危機時に旧三井住友頭取をつとめ、後日、日本郵政社長に就いて政治的に叩かれまくった西川善文氏なども、その一例ではないのか。
2003年5月のりそな銀行救済後、日本の金融株は(モラルハザードで)急上昇するわけであるが、あの前後は、どの銀行が潰れそうだの、生き残りそうだの、連日連夜スペキュレーションの嵐であった。だいたい、邦銀不良債権がどれくらいあるのか、清算価値がいくらになるのか、純資産がいくらなのか、有形資産があるのかないのか、正直、誰にもわからない状態で、邦銀の企業価値をはじき出そうにも確固たる拠り所はなかった。
日本の金融危機が悪化の一途をたどっていた2001年、2002年当時、筆者は某米系大手のセルサイドにいてニューヨークやロンドンのヘッジファンドなどをよく訪問していたが、海外の投資家からは必ず「モデルや分析はどうでもええ、お前の【感触】としての意見が聞きたい。日本の銀行の不良債権は実際どれくらいあると思う?」と質問された。政府関係者とも強力なつながりを持つような有力ヘッジファンドですら、当時の邦銀の企業価値をどう把握すべきか、まったくのクルーレスだったんである。現在のグローバル市場がAIGの企業価値に対しクルーレスなのと、まったく同じ。
だが、当時の日本市場では、銀行によって、株価水準に差はついていた。その当時、三井住友銀行の頭取だった西川氏の経営者としての信頼度が高く、三井住友の株価は他のメガ銀行と比べて相対的に株価が高かった。ガイジン投資家はそれを指して「ニシカワ・プレミアム」と呼んでいた。
今のAIG株には、「ベンモシュ・プレミアム」がついている。
誤解ないよう付け加えるが、筆者は個人的には、西川氏は、その強烈な個性と決断力で三井住友という大組織を引っ張った類まれなる経営者だったと考えているし、いまも尊敬している。
ここで筆者が言いたいことは、市場のそのときそのときの経営者に対する評価というのは実にイイカゲン極まりないもので、日米問わずマスコミのトーンに流されやすく、それが「リアリティ」なのか「パーセプション」なのか区別をつけられないまま雰囲気に流されてゆき、その流れがいつしか「株価」という「バリュー」にトランスレートされていくと筆者は折々強く感じる、ということだ。ファンダメンタルズが揺らいでいるときほど、その傾向は増すような気がする。
市場がどのメンタリティにいるのか、そのメンタリティのもとでパーセプションがどう作用するか---それ次第で株価が決まることが、実際、多々ある。
だが、パーセプションは浮動なものという性格をぬぐえないゆえに、パーセプションで持ち上げられた証券価値の部分には背骨がない。
だからこそ、前回でも書いたように、「証券価格はファンダメンタルズで説明できるプライスレンジに、必ず回帰する」。
どこをどういじってもファンダメンタルズで説明できないのに株価だけが100ドルになるような相場は、スペキュレーション相場以外のなにものでもない。スターバックスの靴磨き少年が推奨するような株は、なおさら気味悪い。
スターバックスの様子が目に浮かびます。
ReplyDelete汗を流して働く気のなさそうな人たちが、「僕を見て。誰か誘って。」と言わんばかりに脚を組んで、カチャカチャしている様子が。。。
Trinity@NYC様
ReplyDeleteこんばんは。
AIGの記事、興味深いです。
AIGを古典的な意味においてカバーしているプロのアナリストは現在いない。だから、プライスターゲットというものはないし、収益見込みがどれぐらいになりそうなのかという予測値もない。
“誰も中身わかんね~”状態なのですね。
東京でアリコを横目で見ているだけですが、
売る売るとずっと相手を探していたようなのに、上場するかもと言った挙句に切り売りしないと変わってきていて、出口大変そうですよね。
個人年金保険は長い契約ですし、資産と負債がクロスボーダーですし、FRBはどのように決着させるのかしら。
『ファンダメンタル回帰』説、賛同です。
でも、UBS株をスイス政府が売り抜けるというわたし的にはショーゲキ的なこともありましたし、政府銘柄は推測し難いロジックがあるようでブキミです。
>Cheeさん
ReplyDeleteま、好きで失業したひとばかりでもなし、それに、「汗を流す」ばかりが「仕事」でもありませんし・・・。(笑)
>vespaさん
今週に入ってから、例の5銘柄、ボリュームが風船しぼんだようになってますね。AIGのCEOも、今週になったら、マスコミのトーンがぜんぜん変わっちゃって、「これ以上しゃべるな」とか「やることやってからメディアに出てこい」とか、ったく、毎週ころころ人物評が変わるんだから・・・。(笑)
今朝(9/4)は失業率9・7%に上昇というニュースが入りましたね。アメリカは今週いっぱいで学校の夏休みが終わりですが、クリスマスの次に重要な新学期セールは、どこも散々だったようです。政府の次の一手は何になるのか。市場のフリーフォールをオバマ政権が黙って見てるとは思えないので、また別のカンフル剤が出てくるのではと注目しています。
8月の市場はクラックで完全にラリっていたので、9月はデトックスの月になるのか。