マイケル・ジャクソン50歳。ファラ・フォーセット62歳。
どちらも偉大なエンターテナーでしたね・・・。個人的に、70年代からずっとおふたりの大ファンだったので、訃報を聞き、とても残念です・・・。
ご冥福をお祈りいたします。
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ふたりの訃報が入った翌日の金曜日、カリフォルニア州の州議会では、さすが「米国エンタ界のメッカ」ハリウッドを抱える州らしく、合衆国を代表する大物スターふたりの死にリスペクトを払おうと、州議員全員が立ち上がり黙祷をささげた後、審議(3時間)を終了してその日は解散になったという。
しかし、この「州議会が黙祷をささげた」というニュースに対して、地元カリフォルニア住民の間からは、怒りの声が続出。
記事の下には「ざけんじゃねぇ!」「黙祷してるヒマあったら仕事しろ、仕事!」「こいつら役立たず議員連中の給料に支払われた地方税、返しやがれ!」「いつから議会は一日3時間勤務になったんだ!」といった読者のコメントが並ぶ。
住民の怒りも無理もない。カリフォルニア州の財政は、このままいくとパンクすること間違いなしだからだ。
今月10日、同州の財政担当コントローラーJohn Chiang氏が、シュワルツネガー州知事および議会関係者宛てに手紙を出し、
「州予算の修正をさっさと決議・通過させなければ、カリフォルニア州財政は、あと50日以内に手持ちの現金が完全に底をつく。」
という警告を出した。(6月10日付のレターはこちら。)
手紙には2009年7月から2010年6月までの会計年度における同州のキャッシュポジションが、現行の予算案通り走るとどんな悲惨なことになるかというのを示した生生しいグラフ付き。
Chiang氏によると、来月7月28日に予定されている債務支払いに必要なキャッシュが足りなくなることは必至で、7月末日までに同州のキャッシュはマイナス28億ドル(2800億円)になる見込み。キャッシュ不足は会計年度を通じて深刻さを増し、来年4月には253億ドル(2兆5千億円)までマイナス幅が広がる、という推計を出している。
同氏はこの6月10日付けの手紙の前にも、5月29日に「知事そして州議会のみなさん、はやく予算修正を出してくださいっ!そうしてくれなければ、ヤバイですーっ!マズイですーーーーっ!ギャオー!」という、ほとんど【絶叫口調】ともいえる別の陳情書を出していて、遅くとも6月15日までに議会で問題解決してくれろと懇願した。
しかし、6月15日どころか、今日27日になっても州議内は混乱するばかりで問題解決にむけての最終決着が得られず、サクラメントの州政界は、いまやメチャクチャな状態らしいんである。
Chiang氏が出した5月29日付けの手紙によると、カリフォルニア州のキャッシュ不足は今に始まったことではなく、2007年7月からずっとキャッシュ不足を患っていて、借金の返済日が来たり州政府従業員の給料払ったりするたびに、足りない部分は州の特別基金などから借金するという自転車操業でやりくりしていた。
(Chiang氏の手紙より引用)
The State’s chronic inability to resolve its structural budget deficit, the fact that the State has not had a positive cash balance since July 12, 2007, and has had to borrow internally from special funds,・・・
カリフォルニア州は構造的な会計赤字を解消する能力に慢性的に欠けており、2007年7月12日以来キャッシュバランスがポジティブになったことは一度もなく、そのため特別口座などから借金することでその差を補い続けてきたという事実があり・・・
この10年、ただの一度も黒字にならなかったカリフォルニア州財政
足りない部分は借金で。(あれ?・・・“どこか”で聞いたような・・・)
借金できるうちは、いいんですよ。できるうちは、ね。
(Chiang氏の手紙から引用、つづき)
・・・and the collapse of the global credit markets all have significantly limited the State’s ability to borrow from Wall Street. Simply-stated, the State will not be
able to borrow its way out of this crisis. Tough decisions cannot be avoided.
・・・そこに、グローバルクレジット市場の崩壊が重なって、我が州がウォール街経由で借金する能力は極端に狭まった。要するに、我が州が現在迎えているこの危機的状況を(従来のように)借金で乗り切ることはもはや不可能、ということである。重大な決断をするときが来たのだ。
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2007年ごろからクレジット市場が全般に体調不良を訴えるようになり症状は悪化の一途、2008年に入るまでには地方債(Muni Bonds)に保証を提供する業務を行っていたアムバック(Ambac)やMBIAなどのフィナンシャル・ギャランティ各社の経営が「あの」AIGと同様のサブプライム関連CDS損失問題で大揺れとなり、その余波も手伝って米国の地方債市場は基盤自体もなんとなくグラグラしてて、借り入れ金利上昇の下地はできていた。そこにリーマンショック勃発で、企業債市場のみならず他の各市場でもクレジットスプレッドが異常拡大。
参考までに、カリフォルニア州発行の地方債が、ウォール街でどんな値で取引されているのかを見てみよう。
このグラフは、カリフォルニア州地方債のCDS(5年)の推移である。青線が同州CDS、赤線が全国地方債CDSインデックス、緑線はその差、である。
<注> AIGの一件で、「CDS」というと、なんだか「すべて悪い」みたいなトーンになっちゃってるけど、実際のクレジット取引の世界では、対象になる現物(キャッシュ)債券が存在しさえしていればCDS(←キャッシュ債券のデリバティブス)は必ず存在する。CDSというのは、スペキュレーションに用いられているだけじゃなくて、クレジットの世界では最も一般的に用いられるヘッジ手段のひとつである。CDSは債券の”プライス”に相当し、CDSのレベルを参考にして債券ってのは売買の値段が決まりますからね。カリフォルニア州の信用力が低下すれば、同州が発行する現物債券を対象にしたCDSのレベルは高くなり、逆に信用力が高くなればCDSレベルは低くなる。(信用力とはその債券の発行体がデフォルト起こすかどうかって話だから、デフォルトすると信じる人が多くなればCDSのレベルは高くなる、ってことです。)
地方債市場でもCDS水準は目だって跳ね上がり、いったん急上昇したのちやや落ち着いたが、地方債CDSは現在も全体的に高止まりしている。全国インデックス(赤線)みると、1年前なら50ベーシスポイント(0.5%)で借りれたものが、現在は、CDS買おうとすると200ベーシスポイント払え、ってんだから。つまり、借りる側からしてみると、借り入れコストは1年前の4倍になってる、ってことである。
なかでもカリフォルニア州は、財政悪化の問題が全国的に有名になるに従って、CDS水準が全国レベルを乖離して上昇を続けている。こんな金利水準になっちゃったら、それでなくても歳入が減って予算ギャップが激しくなってる同州が、これ以上借金の利払い分を増やすなんて、現実問題として無理ですよね。
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カリフォルニア州は、住宅バブル崩壊の痛手を最も受けた州のひとつで、いまだに住宅価格が大きく下がり続けている。失業率も5月は11.5%をマークして(全国同比率は9.5%)過去30年で最悪。同州の歳入構造の特徴として、ひとつは固定資産税収が少ない分、個人所得税収への依存度が他州と比べて異様に高く、さらに証券売買キャピタルゲインやストックオプションといった浮動ソースからあがる税収を多分にあてにしてバジェット組んでたところがあり、歳入が激減した。
仕方ないので、州の税率を高くしようと提案したら、州民の8割近くが大反対。税収増加案はお流れに。
歳入増えないんだから、支出減らすしかないわけだが、こちらはこちらで、議会メンバーの政治的思惑が複雑にからまって、バジェット削減の道筋がなかなか見えてこない。
知事のシュワルツネッガーは、ついにワシントンDCにみずからが飛んできて、財務省のドアを叩いて「うちの州がおカネなくて死に掛けてます。お願いです!連邦のお金を恵んでください!どうか助けてください!!」と直談判しにきた。
しかし、わざわざ大陸横断して頼みに来た知事への連邦政府の対応は極めて冷たかった。
ガイトナー財務長官は「残念ながら連邦政府が金融危機対応に用意したお金は、個々の州には使えません。自分たちで収支トントンつけられるようになるには州レベルの財政赤字を減らすしかないけど、それには、州のみなさんに多大な負担がかかりますねぇ・・・大変ですねぇ・・・ふぅぅはぁぁ・・・(A lot of the burden is going to be on them to lay out a path that gets their deficits down to the point where they're going to be able to fund themselves comfortably.)」と、なんだか他人事みたいなセリフを投げつけて、シュワちゃんを追い返したんであった。(6月15日付Washington Postの記事はこちら。)
連邦政府としては、カリフォルニアだけ救済してあげると、全米の州政府が「うちも助けて!うちも助けて!」と次々に救済を求めてホワイトハウスに押し寄せてくるのはわかってるので、ここはポーカーフェイスを保つしかない、というところか。
その代わり、連邦政府は「ビルドアメリカ債」だの「デベロップメント債」だの、わけわからん地方政府支援策を出して、お茶をにごした。
手ぶらでDCからカリフォルニアに戻ったシュワちゃんは、共和・民主の対立激しい同州議会にふたたび予算削減案の最終調整に至急とりかかるようハッパをかけた。「このままじゃ、公立学校の教師は5万1千人がクビ、服役してる犯罪者も4万人釈放するしかなくなるぞ!」と。
4万人の犯罪者が財源不足で牢屋から出てくると脅されたにもかかわらず、議会はポリティクスが先行しちゃって何も決まらず。
バジェットの収支を合わせる作業の締め切りは今月いっぱい。あと数日しかない。なのに、議会は木曜日(25日)に民主党側から提出された予算修正案をめぐって対立・粉砕。
そうこうしてるうちにも、毎分毎秒目の前からキャッシュがどんどん減ってゆくのを見つめている州財政担当Chiang氏は、「もう間に合わない~~、来週早々、I.O.U.を発行するしかない~~~~~!!!!」と天に向かって絶叫した・・・。
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I.O.U. とは、 ”I Owe You"(借りてます)、を意味する借用証書。つまり、現金を渡す代わりに「現金はもうすこし待っててネ、ちゃんと後でお支払いしますからネ!」と宣言する文書のことである。
地元新聞Los Angeles Timesの昨日26日付の記事を読むと、金曜日(26日)、議会はついに折衝しあい、ひとまず7月に必要な50億ドル分の削減を盛り込んだ民主側の修正案を可決して、その日は閉会。そう、マイケル・ジャクソンに黙祷捧げた、あの日である。
しかし、シュワルツネガー知事はじめ共和党側は、「240億ドルの予算ギャップを迎えることがわかりきっているのに、この修正案では7月分として当座必要な50億ドルのキャッシュしか手当てできない。根本的な解決にはほど遠い。この案は阻止する!」とやり返し、筆者が今このMHJ記事を書いている時点では、シュワちゃんも「貧困層や子供達向けの公共サービスは削ってるのに、服役中の囚人の健康管理予算は削減しない、そんな案にはサインできない!」といって、知事としてこの案は否認する意向だという。
カリフォルニア州、ついに、来週、I.O.U.発行か!?!?!
Chiang氏率いるコントローラーのオフィスのサイトには、最悪の場合、どの支払いが7月にI.O.U.発行の対象になるかという一覧表まで用意されている。(一覧表はこちら。)
しかし、I.O.U.を受け取っても、それを店に持ってってその日の晩御飯は買えませんからね。カリフォルニア、この後いったい、どうなるのであろうか・・・。
筆者は、実は、シュワルツネッガー主演のアクションヒーロー映画の大ファンで、なかでも『プレデター』は最高傑作だと思っている。映画『プレデター』といえば、シュワちゃんの永遠の名セリフ、Get to the chopper!(ヘリコプターまで行け!)がある。殺人鬼宇宙人プレデターが眼前に現われ、ヒロインの女性を救おうとして負傷したシュワちゃんが、女性に向かってヘリコプターに乗って逃げろ!と叫ぶ有名なシーンである。(画像クオリティ悪い↓ですが、お許しを。)
カリフォルニアン、いよいよ晩御飯買えなくなったら、知事の指示に従って、ヘリコプターまで走って脱出か。(でも、ヘリコプターが待ってなかったら、どうする。)
長年東海岸の住人のMHJ筆者としては、連日連夜高ストレスにまみれているであろう哀れな財政担当Chiang氏の心臓がマイケルみたいに機能障害を起こさないことを祈るばかり、カリフォルニア州のみなさんの州政界への怒りが静まり心の平和が訪れる日が来るのを祈るばかり、である・・・。
・・・と、筆者もガイトナーの真似して【他人事口調】で締めてみた。
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しかし、カリフォルニア州の問題は、単なる「ひとつの州のローカルな問題」で片付くのであろうか。本当に他人事なのか。
カリフォルニア州は米国最大の製造業人口を抱え、シリコンバレーというハイテク産業の中心地を抱え、住宅ローンのクオリティ悪化の震源地である。州人口も3800万人で全米最大である。
同州のGDPは1.8兆ドルで全米最大、このGDPのサイズは、カナダやブラジルやロシアやインドの一国のそれよりもデカイ、ってんである。
そんな巨大で重要な経済圏がですよ、カネがまわらなくなって、「借用証書(IOU)」発行して実際の支払いを待ってもらうかもしれないってさ・・・。
そして、6月17日付けのウォールストリートジャーナルに掲載された、何気に気味悪い記事。
State Income-Tax Revenues Sink (各州の所得税歳入が急減)
(Wall Street Journal, 6/17/09)
この記事によると、全米の州レベルでの地方所得税収入が、2009年の最初の4ヶ月で26%も低下した、という。
州政府は歳入・歳出のバランスつけることが法律で義務付けられているため、全米のどの州も、公共サービスを削減するなどして支出カットするしかない。
カリフォルニアは何かの予兆か・・・。
こちらのメディア、とくにTV局は、ここ数日というもの朝から晩までマイケル・ジャクソン死亡の報道でびっしりで、そこらへん歩いてるひととか捕まえて「あなたにとってマイケル・ジャクソンとは?」みたいな、はっきり言って「それ知ったから、どうよ」みたいな取材で盛り上がりTVメディアのレベルの低さとアホさ加減丸出し(特にCNN)だが、カリフォルニア州の財政危機については、何故か、メディアは、あまり真剣に詳しく取り上げないんである。
オバマもガイトナーも、見てみないフリしてるしな。
わたしが州税を納めているニューヨーク州・・・うちの州、どうなっているのだろう・・・実はわたしはよくわかってない。
自分のことなのに、情報集めるのが、なんだか怖い・・・。
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なんか、世界中がIOUだらけになっちゃいそうじゃないですか?
ReplyDeleteしゅわちゃんの映画、僕はトゥルーライズというフロリダのセブンマイルブリッジで戦闘機に乗る映画が好きでした!いかにもアメリカンでど派手な映画にシュワちゃんは合ってましたよね。あんまりシュワちゃんに「カリフォルニアの財政が苦しくて。。」とか現実的な話はして欲しくなかったです・・・。IOUが発行されるとどうなっちゃうんですかね。根本的に支出を抑えないといつまでもIOUを発行し続ける事になるだろうし。。他の市場とかに影響はあるんですかねー?
ReplyDelete>Cheeさん
ReplyDeleteカリフォルニアがIOUを発行したのは、今回が初めてじゃないのですが、それでも、やはり信用力にとってはプラスになる話ではないですよね。
>akirano13さん
akirano13だんはたしかNYにお住まいですよね。シュワちゃんファンに耳寄り情報です。今週土曜日6時からAMC局で「シュワちゃん映画祭り」で、4本ぶっつづけでTV放送するみたいです。akirano13さんの好きなTrue Liesも放送されるみたいです。
今朝(30日)のLAタイムズみても、まだ共和・民主と分かれてグチャグチャやっているみたいですね。IOUをもらう側は現在社会福祉を受けているひととかで、そういうひとに最初に皺寄せが行くというのは、やはり政治としてなっていないと思いますね。
シュワちゃん州知事になったとき
ReplyDeleteリアルで「審判の日」が来るとは
夢にも思ってなかったでしょうね。
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冬、キリギリスがアリさんに言いました。
キリギリス:アリさん食べ物を恵んで下さい。
アリ:夏の間何をしていた。
キリギリス:歌を歌って暮していました。
アリ:ならば冬も歌を歌って暮せ。
※イソップ物語より
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>雅雄さん
ReplyDeleteブッシュ政権のころは、ハリウッド時代を彷彿とさせる人気ぶりで、ワシントンDCに出かけていってホワイトハウスをたずねても、レッドカーペットでお出迎え、みたいな雰囲気でしたからね。今日(7月1日)はいよいよ新会計年度。Judgement Dayは近い・・・。
このれで、カリフォルニアのバジェットの均衡案を練ると面白いですよ。
ReplyDeletehttp://bit.ly/sQczf
州税不足の問題はカリフォルニアだけの問題でなく、ニューヨークも2009年と2010年はかなり苦労するとおもいます。州税や連邦税のからみについて、いくつか書き込みしましたので、読んでみてください。
アメリカの州税に関する考察-その①
http://bit.ly/V7itB
アメリカの州税に関する考察-その②
http://bit.ly/ul6DK
ビジネスしやすい州のランキング
http://bit.ly/ck0Ij
>Genさん
ReplyDeleteコメントありがとうございます。Genさんはカリフォルニアにお住まいなのですね。添付してくださった資料を拝見しましたが、ニューヨーク州もヤバそうですね!(笑)NY州民もヘリコプターで脱出かっ!