Monday, February 9, 2009

タイミング悪い米国債のイールドトレンド

今夜、米国東部時間夜8時より、オバマ大統領による初の記者会見が行われた。

先週から予定されていたガイトナー財務長官の金融市場救済策会見は明日火曜まで延期。

共和・民主と分かれて政治ゲームやってるときじゃない、8190億ドルの経済政策案を議会はさっさと通して実行に移そう、とアピールしたオバマ。

答えに詰まると記者相手にジョーク飛ばして笑いを誘ってごまかしてた前大統領と比べると、オバマ大統領のよどみない会見は、なかなかのできばえだったのではないでしょうか。ハナマル。

オバマ曰く「現在の米国経済は尋常ならぬ状況なのだから、尋常なやり方じゃダメ、カネを大量に使って対抗しないとダメ!」

オバマ政権の経済政策は、オバマが言うとおり、かなりの出費を要する案。

景気失速で国家の税収が減るが、国家の出費は増える。

となると、あたりまえのことだが、国の借金は増える。

2009年だけで米国債は2兆ドル発行される予定らしい。今週だけで670億ドルの新規発行額で、この額も、一週間の発行額としては過去最高という。

これから米国政府がガンガンに債券発行しようとしている(というか、せざるを得ない)局面で、なんとなーく〝微妙に不快で不安〝なトレンドが始まっている。

ここにきて、米国債のイールドのトレンドが逆方向に動き始めており、リーマン破綻前のレベルに戻りそうな勢い、なんだよな。


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ここのブログの去年12月12日付けの記事『合衆国の世紀は実際に終わっていたのか』で、株式市場の暴落とクレジット市場の実質的な閉鎖で行き場を失った投資資金が、「質への逃避」「流動性への逃避」の追い風受けて、どんどん米国債市場に流れ込みイールドを押し下げていることを書いた。

これからサプライが増えること間違いなしだというのに、それでもイールド下がってるぞ、と。

そう、長期米国債は、去年の冬は、ひとりでバブりまくっていたんである。(PIMCOのビル・グロスまでが地団駄踏んで悔しがるぐらいのバブリ様。)

あの記事を書いた12月12日から数日後の15日、米国債は最高値更新、10年トレジャリーのイールドは2.03%というレベルまで低下したのであった。

しかし。

その後、このトレンドが、急激に、逆向きに動き出している。


米国長期債(30年債)イールドインデックス(TYX)の動向












米国長期債(10年債)イールドインデックス(TNX)の動向










オバマ案が具体的になるにつれ、米国債市場で「サプライ懸念」に拍車がかかってきたんだ。


デマンド(需要)の方も不安定。中国・日本などの米国債の最大の買い手には、もはや購入意欲もないしな。

これが、(A)行き過ぎたトレジャリーの一時的な修正局面と捉えるか、(B)需給バランスの乱れが原因で当面継続する中長期トレンドになりそうなのか。

筆者自身はトレジャリーのトレーダーではないんで、(A)か(B)か、ようわからん。このトレンドが、インフレ懸念を反映してるのかも、いまの段階では、ようわからん。

でも、もしも後者(B)なら、米国の財政にとっては悪いニュース。

ガイトナーが先日の公聴会で、【日本が通った道】を引き合いに出し「モタモタしてたら日本みたいになるぞ」と米議員にクギ刺したことは先日のここの記事でも紹介したが、今夜のオバマの記者会見でも、オバマ自身が「日本の失われた10年」を引き合いに出し、(日本のようにならないためにも)米政府はどんなにカネがかかろうとも即座に経済刺激策を実行してこの場を乗り切るっきゃない、と力説した。

米国債大量発行をすみやかに消化できるだけ、果たして需要があるのか。

筆者は、なんとなくイヤーな予感がしてるんだが・・・。


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そして、(ガイトナーもオバマもまだ気づいてないようだけど)日本が通ったもうひとつの道がある。

それは、銀行による日本国債大量買入れと、それに伴う高レベルの金利リスクのバランスシートへの取り込み、であった。金融危機のさなか、邦銀のバランスシートの保有国債残高はうなぎのぼりに上昇したんだ。

クレジットリスクと市場リスクが増大しているさなかに、金利リスクも膨れてゆくとなると、どんなに公的支援で資本を強化してやっても、金融機関の体力は、短期で回復するのが難しいよ。

そして、現在みたいに、トレジャリーのイールドが上昇続けたらVaR(ヴァリュー・アト・リスク)で計算される自己資本の必要額も増えてしまうから、トレーダーはキャピタル不足で動けなくなるし、それでなくてもリスクテイキングに臆病になってる金融機関達はますます、クレジット市場への積極的な参加を控えようとする。

オバマ自身が認めているように、彼の経済刺激策の大半は、金融市場の正常化なしには効果を発揮しない。

そして、「金融市場の正常化」とは、マネーフローのポンプの役目を果たす金融機関の自己資本レベルが「リスク見合いで正常値に復帰する」という意味にほぼ等しい。

金融機関の自己資本にかかるプレッシャーを和らげて正常化を促してやるためには、リスク移転(Risk Transfer)によって、資産サイドのリスク量を全体に低減させてやることが必要だ。

明日のガイトナーの金融市場救済案が、どれほど効果的に、どれほど大量に、民間から政府へとリスク移転を行うことができるか、そこがポイントだ。

それ次第では、オバマの経済政策全体の実効性も影響を受けるのではないかと思う。

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