Thursday, June 12, 2014

ホワイトカラー・エグゼンプションについて

6月11日付けの日経新聞に、日本政府が日本にも導入しようとしている「ホワイトカラー・エグゼンプション」についての記事が載っていた。

年収少なくとも1000万円以上 労働時間の規制緩和  (日経新聞)

(以下記事から引用)

政府は11日、働いた時間ではなく成果に応じて給与を払う「ホワイトカラー・エグゼンプション」について、対象者の年収基準を「少なくとも1000万円以上」とすることを決めた。月末にまとめる成長戦略に明記する。職種は金融のディーラーなど「職務の範囲が明確で、高い能力を持つ労働者」と記す。改革が進まなかった労働規制に風穴が開く。

菅義偉官房長官と甘利明経済財政・再生相、田村憲久厚生労働相、稲田朋美行政改革相の4閣僚が協議して合意した。労働政策審議会(厚生労働相の諮問機関)で、具体的な金額など仕組みを詰める。2015年の通常国会に労働基準法の改正案を出し、16年春の施行を目指す。

政府が新たに導入するのは、1日8時間、週40時間という労働時間の規制を外す仕組み。長く働いても残業代や深夜・休日手当が出ないため、仕事を効率的にすませる効果が期待できる。日本では課長以上の管理職はもともと労働時間規制を外しているが、それ以外の社員を対象から外すのは初めてとなる。
(引用終わり)


この「ホワイトカラー・エグゼンプション」だが、日本の記事やブログを読むと、どうも議論が迷走しているような気がしてならない。

「最初は年収1000万円以上なんて言ってるが、その対象年収をそれよりもずっと低いレベルまでなし崩し的に下げてゆくつもりなのではないのか」という懸念、もっと直接的に言うと、「どんなに長時間働いても残業代を出さないつもりだなバッキャロー」という類の反応が目に付き、日本ではこれの導入に関して、かなり感情的に反応してるひとが多いな、という印象である。

しかし、そもそものところで、この「ホワイトカラー・エグゼンプション」というカタカナ語を、どれほど多くの日本人が理解しているのだろうか。

上述の日経新聞の記事中の用語解説では、次のように説明されている。

「ホワイトカラー労働者(主に事務などに従事する労働者)に対して、労働時間規制の適用を免除する措置。現行法では労働時間の長さで給与や報酬を決めること が原則になっている。一方で、管理職や専門職、企画立案などでは働く時間の長さと成果が比例しない職種も多い。自己管理型労働制によって、こうした労働者 が仕事の進ちょくや生活に応じた柔軟な働き方を行うことを可能にする方式として提唱された。経済界を中心に導入を求める声が高まったが、多くの労働組合か ら残業代ゼロをめざすものと反発を受けた。」

言うまでもなく、「ホワイトカラー・エグゼンプション」とは英語の『White Color Exemption』で、これは米国の労働法に関わる制度の一部だ。だが、日本の労働者の多くが、実は、この『White Color Exemption』という英語フレーズの意味をよく咀嚼しないまま、 「残業代を出さずに搾取する制度を作りやがる気だなバッキャロー」というイメージばかりを膨らませているのではなかろうか。

先日、この記事を読んだときに、筆者はツイッターでこんなことをつぶやいた。





これに対し、@aoyaman1 さんから以下のような反応を頂いた。





「欧米と日本の労働形態の違いは、労働法制ではなく、慣行にすぎない」――前々から感じていた、ホワイトカラー・エグゼンプションに関わる議論が日本で迷走する背景は、まさにこれだろうと思った。


前置きが長くなったが、今回のMHJでは、米国で言うところの、White Color Exemption とは何かを紹介しようと思う。

 ★    ★    ★    ★   ★

White Color Exemption―。

まずは、Exemption という英単語の意味からみてみたい。

exemption 【名】免除、免税、免除(品)、(課税)控除、適用除外

「He is exempt from △△△・・・」 と言うと、「彼は△△△の適用を免れる」という意味である。

White Color Exemption のExemption とは、【何か】の適用から除外されているために、exemptionというのである。それは具体的に何なのか。

これについて語るには、まずは、FLSA という法律について語らねばならない。

FLSAとは『Fair Labor Standard Act』の頭文字を取ったもので、要するに、米国版労働基準法である。

この法律の概要は以下の通り。

① 最低賃金について: 現在、1時間あたり$7.25 (ただし、米国の場合は最終的には州が自州内における最低賃金の決定権を持ち、連邦レベルで決められた最低基準を満たす限りこれを超えることが認められている。州ごとの最低賃金一覧はこちら。)

②  残業について: フルタイム従業員の場合は週40時間を基準とし、40時間を越える労働時間に対しては基本時給の1.5倍あるいはそれ以上のレートで残業代を支払わねばならない。

③  就業時間について: 通常業務とみなされる時間の定義としては、「Workplace(職場)」における就業時間を指す。

④ 記録管理について: 雇用主は従業員が仕事に従事した時間および給与を記録・管理しなければならない。

⑤ 児童の就業について: 児童が就業する場合(例えば、こどもの演奏家や芸能人など) に関する規定


米国企業で働く従業員はすべからく、この法律の下に守られており、例えばある企業が労働条件を自社ルールと称して勝手に決めて、「他所さんは知らんけど、うちは週50時間でみんなにやってもらってるんで、給料もうちのやり方で払うから、そこんとこ、文句言わんといてな!」なーんてことは勝手に言ってはいけないんである。

この米国の公正労働基準法で決められた条件のうち、とくに重要になってくるのが①と②で、Exemption と言っているのは、これらの法規定の適用から除外されている(exempt from the FLSA rules)という意味なんである。

要するにですね、FLSAというのは時間給で給料もらっている従業員に関わること細かい規定なわけだが、これらのルールが適用されない従業員、すなわち、「時給ベースではなくて、サラリーがあらかじめ決まった年俸契約で雇用され、何時間働いても残業代はつかないから就業した時間をタイムカード押して記録・管理する必要のない従業員」 のことを、アメリカでは、Exempt Employees と呼ぶのである。

一方、上記のFLSAの規定がいちいちがっつり適用される従業員、すなわち、しっかり毎日タイムカード押して就業時間が記録・管理され、就業時間が週40時間を越えるとベース時給の1.5倍のレートで残業代をもらえる人達は、「FLSA適用免除にならない」ということで、Non-Exempt Employees と呼ばれる。

(次回に続く)

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