Monday, December 5, 2011

米国の郵便局、来年末までに2万8千人解雇

債務負担が重すぎて、このままでは債務不履行も免れないと心配されてきた米国の郵便局サービス(U.S. Postal Service、略してUSPS)が、月曜日、独自に大胆なコストカット策を発表した。

Post Office Aims to Save Billions With Reductions in Workforce, Delivery Time
(Fox News, 12/5/2011)

USPSはすでに議会に対し、①配達日数を現在の週6日から5日に切り下げる、②USPS従業員のヘルスケア向け支払い義務の軽減、などを議会に承認してくれるよう強く求めてきたが、なにせ政界のほうはオバマの政策を巡って共和側が徹底反抗し続けて硬直状態が続いており、1年も前から米会計検査院から「ヤバさ充満してるからモタモタしてないでUSPSの再建案を議会承認しろ」とせっつかれていたのに、進展らしい進展をみせなかった。

議会が内向きのポリティクスで頭一杯になってる間にも、USPSのキャッシュフローは高速で悪化していっており、今月末には退職者向けヘルスケア基金への支払い$5.5Billion もあって、もはや待ったなしの状態。上で「独自に」と言ったのは、議会の承認を待たずして以下の削減に着手するらしいからだ。

プランの詳細は、すでに発表されていた3300箇所の郵便局閉鎖に加え、
  • 郵便物仕分けなどのプロセッシング作業センターの稼働時間を現在の6~6.5時間から16~20時間に延ばし、プロセッシング機器の数そのものを削減。
  • これに伴い、全米に散らばるプロセッシング・センターの数を現在の461箇所から252箇所に削減。
  • センターの削減にともない、2012年までに2万8000人の従業員を削減。
  • ファーストクラスメールの配達日を、これまでの1~3日以内から2~3日以内とし、ファーストクラスメールの翌日配達サービスを止める。


1.配達サービスの劣化に踏み切る

米国の郵便配達のファーストクラスメールの配達日数内訳は現在、42%が翌日配達、27%が2日かかる、31%が3日かかる、4~5日かかるのは1%以下だそう。これを今後は、「2日かかる」が51%、残りを3日かそれ以降にするという変更。

Snail Mail (カタツムリのようにノロい配達)といまでも揶揄されてる郵便局のサービスが、さらに遅くなる。



(USPSの言い分としては、そもそも第一種郵便物=First Class Mailは翌日配達は「保証」はしてないし、もしどうしても、翌日配達希望ならそれが保証されてる高料金の速達=Express Mailを使え、ということらしい。)

ファーストクラスメールの切手代は、来年1月22日から、現行の44セントから45セントに値上げされることが決まっているが、配達量が減っているのに、この程度の値上げだけでは悪化する財務の建て直しは不可能で、大幅なコスト削減に加えサービスそのものの劣化(配達遅延)に踏み切る格好。配達日数を遅らせるのは、政府直轄だったPost OfficeからUS Postal Service と名称を変え米政府から独立した1971年以降、40年間で初めてのことらしい。

ファーストクラスメールはUSPSにとって最も収益性の高いプロダクトではあるが、近年の収益の減少度合いとしては最大の部分でもあり、この部分に大きくメスを入れねばならないほど収支はガタガタになっている。

2.重要!最大の問題点は退職者のヘルスケアコスト

この問題を語る上で重要ポイントとなるのは、USPSが財務危機に陥った最大の問題点は、退職者向けベネフィットの負担が重過ぎる、という点だ。

USPSというのは、政府から独立したエージェンシーというステータスではあるのだが、業務内容の変更等は議会の承認を得なければならないことになっている。かつて90万人という従業員を抱えた大組織だったが、現在はそこから25万人以上も従業員総数が減り、なのに、いまだに90万人の時代のベースで計算されたヘルスケアコストを75年前倒しで粛々と基金に積み立てる「義務」がある。その額が2010年度分で$5.5Billion

この$5.5Billionはもともと今年9月半ばが支払い予定日だったが手元キャッシュが足りず、議会に泣きついて11月18日に延期してもらった。しかし11月にもまた払えそうもなくなって、12月まで支払い期限を延ばしてもらっていた。USPS側は、ホリデーシーズンにキャッシュはなんとか作れると言っていたが、綱渡り状態でこの3ヶ月を凌いできたことは確かなのだ。

非効率なオペレーションのせいで、本業の儲けの段階ですでに赤字になっているのに、そこに退職者向けベネフィットがドーンとのしかかり、赤字幅をどんどん広げてゆくという悪循環に陥っているのである。


3.配達個数は減少の一途

退職者ヘルスケアコストの基金への前倒し積み立て「義務化」は2006年に議会で決定されたが、皮肉なことに、同じ2006年にUSPSは配達郵便物数過去最高の2130億個を記録して、その後は配達数は減少の一途をたどり、2010年には2割減の1710億個まで減少した。

配達個数減少の理由は言わずもがな、景気後退。そして、電子メールやオンラインでの請求書支払いなどが普及して、クリスマスカードや母の日カードなどの特需は残っているとはいえ、一般郵便物の利用が激減したこと。さらに小包み配達の分野ではUPSやFEDEXなど民間に完全に水をあけられ、オンラインショッピングの新規需要をキャプチャーできなかった。別の例ではNetflixのようなDVD配達サービスもネットによる動画ストリーミングへと軸足を向けているなど、「時代の流れ」の一貫で、郵便物離れに歯止めをかけられない。


4.人件費8割、財務状況は去年既に崖っぷち

一年前の資料だが、昨年12月2日に米国会計検査院(GAO)がUSPSの財務建て直しについて議会証言した証言のトランスクリプトがネットで入手できる。

U.S. POSTAL SERVICE:Legislation Needed to Address Key Challenges

証言の出だしの文章から、いきなり真っ暗闇なのが、すごい。
USPS’s financial condition continued to decline in fiscal year 2010 and its financial outlook is poor for fiscal year 2011 and the foreseeable future. 

(USPSの財務状況は2010年度も引き続き悪化した。2011年度も脆弱のまま推移の予想、近い将来に財務が再建される目処が立っていない。)

この証言に出てくる前年度(2010年度)の具体的な財務数値を見てみよう。
  • 2010年度のUSPSの総収入$67.1Billionに対し、総支出$75.6Billionで、過去最大の$8.5Billionの赤字。前年度の赤字$4.7Billionから大幅増。
  • 財務省への借金総額$1.8Billion 増加で借入金総額$12Billion (最大借り入れ枠は$15Billion)。
  • 会計年度末時点の現金残高は$1.2Billion。
そして、1年前の段階で2011年度の予算として出されているのが以下の数字。
  • 最終赤字$6.4Billionにやや縮小の見込み
  • 財務省への借金総額は$3Billion増加で、法的借り入れ上限の$15Billionに到達予定
  • 年度末時点の手持ち現金残高は$2.7Billionの見込み

USPSの支出の実に80%が福利厚生も含めた人件費で占められ、従業員の削減や人的コストの見直しが議会承認などのステップを踏まない限り基本的に独自ではできないため、現実的なオペレーションに即した柔軟な対応が不可能になっている。本業からの収益が減少トレンドをたどるなか、コストの側は硬直的で非常に負担が重くなっている。

GAOは、この最悪の状況からUSPSが再建するためには議会は法的な変更に着手して、退職者へのベネフィットの見直しなどを早急に図るべきと進言していた。


5.収入減続き今年度の財務はさらなる悪化

そして、この証言から、丸一年が経過した・・・。

USPSの2011年度の実績がどうなったかと思って検索してみたら、次の記事を見つけた。

Postal Service will resume FERS retirement contributions next month
(Government Executive, 11/15/2011)

この記事によると、最終赤字$6.5Billionの予想に対し、実績は$5.1Billionの赤字であった。

予想よりもよかったのかと一瞬思うが、これは前述した「退職者向けヘルスケア基金への積立金」$5.5Billionの支払い期日が会計年度末日を超えて先延ばしされたおかげで、もし、この$5.5Billionが期日どおり支払われていたら、USPSの赤字額は$10.6Billionとなり、予想$6.5Billionを大幅に上回り悪化していた。

コストカットの采配がUSPSに与えられていないために人件費が硬直的で事業スリム化の妨げになっている一方で、収入の方は、配達郵便物数が前年比1.7%減少。特にファーストクラスメールの減少分が大きく、この商品だけで$2Billion失った。その他の商品の売り上げ増加分で幾分オフセットされたものの、トップライン全体の減少は抑えられず、最終赤字幅の拡大に至った。

手持ちのキャッシュ残高が$1~2Billion程度しかない会社が、毎年毎年$7~10Billionの赤字を垂れ流す、の図。



6.民営化の期待もあるが、政治・組合絡んで複雑

議会の方は、危機的な財政状態に置かれているUSPSに柔軟性を持たせるための法案『21 Century Postal Service Act』の通過に取り掛かっているが、これが、例の退職者向けヘルスケアも含めた高コスト体質の抜本解決を導くかは疑問視されている。

政府からの借り入れ枠の法的上限に達してしまっていることもあり、このままの状態が続くと、手元のキャッシュが完全に底を尽くのは来年中、2015年までに$20Billionのコスト削減を実行しなければ利益を出せる体質に戻るのは不可能、とUSPS自身は考えている。

USPSのトップPatrick Donahue は、政府から無尽蔵に支援を受けて延命するより、組織改革・財務改革を徹底させて一部民営化を進めたいようだ。ヘルスケア関連債務の大幅リストラと50万人以上いる配達人の数を20万人以上削減して経営改善を図るのが好ましい、と9月の議会証言でも主張している。

だが、そこは連邦レベルだけではなく地方レベルでのポリティクスも絡んでくる上、一部民営化となれば即クビ切り対象となる郵便局員組合も抗戦の構えでいるのは想像に難くなく、なかなか簡単には進みそうもないらしい。

The Politics of a USPS Default
(Politico, 9/11/2011)

退職者ベネフィットという重荷に耐えられず沈みかけている、USPSという巨艦。しかし、退職者の年金債務や福利厚生債務で破裂しそうになっている組織は、米国の自治体しかり、民間企業しかり、USPSだけではないのだ。

1 comment:

  1. とても魅力的な記事でした!!
    また遊びに来ます!!
    ありがとうございます。。

    ReplyDelete