Tuesday, September 14, 2010

Ph.D.女子は増えたけれど・・・

14日付けのBloombergに、米国の博士号取得者は、いまや女性の方が多い、という記事。

Women Earn More Doctorates Than Men for First Time in U.S.
(Bloomberg, 9/14/10)

全米500以上の大学院が参加する Counsil of Graduate School が調査したところ、2008年―2009年にかけての学期のPh.D.取得者のうち、女性が過半数超えたとのこと。

同比率は、2000年の調査では女性44%、2007~2008年は49%だったということで、これまでも確実に「増加の道」を辿っていたわけですね。

これの背景として、専門家の説明は、

1)The milestone became inevitable because women have received the majority of bachelor’s and master’s degrees since the 1980s, building a pipeline of doctoral candidates.

(1980年代から、学士・修士ともに学生数は女性が過半数になっており、その下敷きを作ってきていたので、当然の結果が出たまで。)

2)The efforts of the women’s movement and increasing female participation in all parts of the labor market led to gains in Ph.D. programs.

(女性運動の後押しや、あらゆる分野における女性の労働市場への進出への努力が、博士課程での女性の地位向上をもたらした。)
などなど。

このサーヴェイは、全米の博士課程修了者の90%に相当する57600人のPh.D.を対象に調査された。

数は過半数を超えたという明るいニュースではあるのだが、その内訳詳細に踏み込むと、女性と男性とで、学問の分野などに「偏り」が顕著にみられる。

調査対象となったPh.D.取得者のうち、

  • 『教育学(education)』の分野でPh.D.を取得した者の67%が女性
  • 『看護学(nursing)』などを含む『健康科学(health science)』の分野の70%が女性
  • 『エンジニアリング』の分野では78%が男性
  • 『数学』および『コンピュータサイエンス』の分野では73%が男性

博士号を取得する女性の数は増えているが、高収入を得られる分野では女性の数は少ない。

また、アカデミックな分野での職業(例:教授)においても、女性はまだ男性よりも、数が少ない。

  • フルタイムの大学ファカルティに占める女性の割合は41%
  • シニアレベルの教授職になると、女性の割合は27%
  • 大学ファカルティに支払われる給与は、女性の平均は、男性ファカルティの80%

以上がこの記事の概略だ。

★     ★     ★

わたしの明治生まれの祖母は、自身ではさほど高い教育を受けたひとではなかったが、「女の子には教育がいちばん大事」と生前いつも口癖のように言っていたひとだった。

高等教育を受ける女性の数が、こうして増加していってることは、うちの祖母の時代からは考えられなかったことだろうし、たいへん、よろこばしい。

でも、理系の分野のPh.D.に女性が極端に少ないのは、ここアメリカにおいても、科学や工学の分野に女性を率先して送り込もうという態度は、社会的にまだ低いと筆者自身は感じるし、女性自身も、伝統的な性的役割(ジェンダー・ロール)において、そういう分野に抵抗感を感じるひとは、少なからず、いるのかもしれない。

筆者自身がテク関係は完全にアンポンタンで、自分でも呆れるほどのローテクなのだが、私が女性であるがゆえに、それは「不思議ではない」「あたりまえ」という社会的風潮があるのも、たしかだ。

ただし、そういう「あたりまえ」の社会的期待(Social Expectations)も、今後まだまだ変化してゆきそうだという予感を、昨年読んだ本の一冊に、感じた。

Alpha Girls:Understanding the New American Girl and How She is Changing the World』という、社会学の先生が書いた本。

この本は、ちょうど現在30代後半から40代ぐらいの母親達のもとに生まれてきたティーンエージャーのアメリカンな女の子達の現状をレポートしたもの。

彼ら若い女子たちは、自分の母親が抱いている性的価値観、女性観、女性の社会進出への欲求、その他もろもろを「実に古臭い考え方でついてゆけない、アホみたい」と切り捨て、「このわたしが、女性だからといって、できないことなんてある?あるわけないじゃん」とアッサリと言い切り、かつて母親達が壊そうと躍起になっていたグラス・シーリングなどの社会的バリアそのものの存在すら信じていない、というのだ。

すべての女の子達がそうだというわけではない。

だが、そういう中・高生の女の子達の数は目だって増えてきていて、そういう女子たちは、勉強もできるし運動もできる、なにやらせても自信にあふれてて、クラスの中でもリーダー格、男女ともにクラスメートから尊敬を集めたりして、本人も、自分がそういう立場にいることに何の違和感もない。

彼女達は、群れの中で【アルファ】になる。

すなわち「アルファ・ガールズ」というわけだ。

世代間の考え方の違いというのは、いつの世でもジェネレーション・ギャップとして存在していて、筆者が少女だったころも、「女の子として社会的に求められているもの」に窮屈さを感じていたものだ。

私の世代というのは、「男女平等はスローガンとしては当たり前だったけれど、統計的実態はそれを見事に裏切る時代」にいて、それを何とか壊したいという気持ちが一杯で、女性の社会進出をリキんで声高に叫ぶ世代であった。

でも、いまどきの女子達の中には、そういう母親達の世代を「うるさいオバサン達」、「古臭い」、「うっとおしい」と感じ、「何故、そんなことにこだわるのかしら。肩にチカラ入れ過ぎよ。バカみたい」と思っているわけだ。

「うるさいオバサン」のひとりとしては、そういうAlpha Girlsがたくさん出現してきているという報告を前にして、実は、なんだか非常に嬉しく頼もしく感じたわけであるよ。

女性は、男性は、と区別して叫ばなくちゃならないというのは、それぞれにくっついている性差の「社会的定義」が歴然と存在していて、それが窮屈だと感じるからに他ならない。

別に叫ばなくても、やりたいことあるなら、やりゃーいいじゃん、とさらりとフツーに言えることができる、それが「うるさいオバサン達」が、ン十年前に、理想としていた世界である。

★     ★     ★

ということで、最初に紹介した記事を読んで、「あー・・・Ph.D.の世界でも、まだ課題は結構あるんだなぁ・・・」という感想を持たずにはいられなかったわけではあるが、今後のアルファ・ガールズ達の活躍に大いに期待したい筆者である。

以前、元同僚が香港からNYに出張で来てて、彼にはローティーンぐらいの一人娘がいるのだが、彼にこの本のことをチラッと言及したら、「おぉ!それは、まさに、うちの娘のことだよ!」と叫んでいた。

アルファ・ガールの父親、ここにひとり発見。

彼は、そういう娘を持っていることを、すごく誇りにしているようであった。

おそらく、このブログエントリーを読んだ方の中で、そういうティーンな女子を持つ誇れる親御さんがいらしたら、手を上げてください。(笑)

さらに将来に期待を持ってしまうエピソードを最後に。

毎年、幼い女の子たちがあこがれる職業を選んで新作バービーちゃんを発表するマッテル社であるが、今年の2月に選ばれたのは、「コンピューターエンジニア」なバービーちゃんであった!

Barbie Becomes A Computer Engineer, Looks Nothing Like It
(URLESQUE, 2/12/10)

ギークな眼鏡なんかかけちゃってるわけなんだが(笑)、将来、コンピューターやエンジニアリングの分野でPh.D.取得する人たちの過半数がこういう【GEEK CHIC】な女子になるかは、いまのところ、まだ、定かではない。

6 comments:

  1. 私、一応、30代の工学系女子なので、この話はちょっと興味深いです。正直嬉しいようなじれったいような、複雑な心境です。

    日本じゃダメだとアメリカに行った私ですが、現実は厳しかったです。

    やはり男性化が求められるんですよね。実際の仕事の現場では。コンピューター関連ならまだいいだろうけれど。
    建設(とくに設計ではなくて建てる方)の仕事では、どうしても女性が孤立化し、孤独感を感じるというのが、業界雑誌にもかかれていました。

    若いうちはそれでもついていけるけれど、子供を産んで育てていくには相当大変。

    このアルファガールたちが、男性ばかりの分野に進出してくれれば、ちょっと変わるのかもしれないけれど。。。もし自分に娘がいたら、あまり男の世界みたいなところで頑張って欲しくないです。

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  2. 私は自分の娘(10歳と5歳)に、是非アメリカの軍関係の大学に行って欲しいと思っておりますが、10歳の方は、いろいろ家事の手伝いが出来る様になって、料理とか手芸に興味がいっております。分数の計算にも苦労しているし、アフファガールの父親願望の強い私は、打開策を考えております。アドバイス宜しくお願い致します。(ミシガン在住で永住です)

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  3. >Cheeさん、ysJournalさん

    コメントありがとうございます。その時代時代で、「男の子らしい」「女の子らしい」という定義が変わる。親の時代に【いわゆる】「男の世界」といわれる職業につかないようにと(あるいは逆に、つくようにと)親の側が子に望んだところで、その子にはそんな「くくり」はどうでもいいことかもしれない。

    親が自分の子供にはこうあってほしいと願うというのは、わかりますけれど(←自分が子供として親から感じていたものがありますから)、親の願望は親の願望、子は子ですしね。

    その子がやっていて「自分で一番楽しい、自分に合っている」と思うことができれば、それでいいのではないのですかね。

    私自身はおそらく親の時代で言われていた「女の子らしい」女子ではなかったし、就いた職業も「(ちまたで言われる)女性らしさ」が何の付加価値も生まないものでしたけれど、それによって、私の親が不幸な気持ちになったというわけでもない気がします。いつも応援してくれましたから。

    わたしはちまたで言われているような「男性らしさ」「女性らしさ」というものの大半は、否定はしないけれど、信じてもいないのです。

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  4. こんにちは。いつも楽しく拝読しています。

    アルファガールの台頭、頼もしいですね。20代後半でジェネレーションXの自分は、鼻息荒く道を開拓してゆく先輩たちの背中を見つつ、だいぶ平たくなったでしょと周りから言われる道を、やっぱまだ女子には歩きにくいよなぁと思いつつ社会人生活を送ってきました。

    総合職女子(特に金融)はまだまだマイノリティで、先輩には結婚してる人はいても、子どもを持ってる人は皆無。
    外資は外資で、フロント女性子持ちは日本ではかなり稀有。すごい家族のサポートないと無理。
    でも、周りにあふれるメディアにはワーキングマザーも普通に取り上げられていて、という世代です。アルファガール的教育(求めれば男も女も関係なく与えられる)を受けながらも、実感としては、まぁ、そこまで大変そうなら、いいや・・・と割とカンタンに手に入れた総合職ポジションを早めに手放し、高学歴高収入の男性と結婚、自分はマスター取りに院受験とか、NGOに勤務とか、そんなパスが多いような気がします。

    アルファと信じてやってきたけど、就職・結婚・妊娠と同時に、やっぱまだアルファには届かなかったと思うアルファまであとちょい!の世代なのかも。もちろん、思想としては男でも好きならバレエすればいいし、女でもアメフトすればいいんじゃない?と素で思うし、能力があれば性差関係なく機会は与えられると思うし、身をもって知ってるんですが、実際自分がやってみると、きーてねーよ!ってほど不平等を感じる。

    アルファがガールで終わらず、ウーマンにつく日が遠くないことを願います!

    かなりオフトピックですが、夫がアフリカンアメリカンで子どもはミックスの自分は、アルファブラックはいつになったら登場すんのかな~~と思っています。
    オバマ家でさえ、バラックとミシェルは絶対アルファじゃないでしょ・・・サーシャとマリアでアルファになれなかったらまだまだ暗いな。。。

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  5. ys journalさん、
    私は子供の頃から、手芸大好きなんです。
    手芸や料理も、工学や科学に近いじゃないですか。
    例えば、編み物なんかでも、パターンによって伸縮性や強度が変わりますでしょう?
    糸の選び方も重要です。
    この辺をお父さんも一緒に楽しめるようになれば、アルファガール間違いなしです!

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  6. はじめまして。イギリスでも女性の成績が男性の成績を上回る状況が続いているようですよーー。(高校レベルの話ですけれども)

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