Thursday, June 10, 2010

欧州バンクの流動性は「痙攣の発作」を起こしている

約ひと月前のエントリー『バンクの流動性逼迫』のその後である。

EUとIMFによる【怒涛の7500億ユーロ救済パッケージ】が市場を落ち着かせるのに失敗し、信用不安はジワジワと、かつ、アチコチに、飛び火拡大してきているわけだが、(参考:『欧州一般企業の流動性への波及』)、スペイン10年国債のイールドは、あの怒涛パッケージ投入の寸前のレベルまで戻ってしまった。

質への逃避でドイツ国債のイールドの低下傾向が見てとれるため、スペイン国債の対独スプレッドとして見た場合は、スプレッドが上昇しているという意味になる。つまり、スペインに対するリスクプレミアムはEU/IMFパッケージ投入前よりも悪化しているわけである。

9日のロイターの記事によると、欧州のレポ市場では「スペイン外し」が進行中。

Spain small lenders struggling for funding: Interbank market freeze for Spanish banks
(Reuters, 6/9/10)

以下、記事よりコメント抜粋―

"The smaller Spanish banks cannot finance their positions in (Spanish) government bonds through the repo market outside Spain. This shows just how little appetite their is for Spanish government risk outside Spain,"

「スペインの小規模貯蓄銀行は、担保として提供できるのがスペイン国債しかないために、国外では資金繰りができない事態になっている。スペインの外に出ると、同国国債へのアペタイトはほとんどない。」

"Only the biggest Spanish banks are managing to get funding, but backed by bonds from other countries such as Germany. With our national bonds they are not managing to get anything," 

「(サンタンデール、BBVAのような)大手銀行の場合は資金調達は引き続き可能ではあるものの、それもドイツのような他国の国債で担保できる場合のみだ。大手といえども、スペイン国債では、レポ市場で資金は出てこない。」

"The markets are almost shut for Spain,"

「スペインの銀行群に対し、資金市場は閉鎖に近い状態。」



以前から、ナントカの一つ覚えのようにしつこく書いているが、今日も書いておこう。

金融機関というものは、一にも二にも資金繰り。
資金が命、資金が血。
流動性が止まったら、銀行は瞬く間にあの世行き。


★     ★     ★   


ということで、その流動性を市場で確保できなくなったら、飛び込む先は【最後の貸し手(Lender of Last Resort) 】、中央銀行と決まっておる。

しかし、流動性がアウトになりそうな欧州銀行が、次から次へとECBの窓口に飛び込んできてるのかというと、どうやらそうじゃないらしい。

銀行間の資金の貸し借りは、上記スペインの例にも示されているように、個別行レベルでは、一部で実際にフン詰まりを起こしている。

だが、欧州全体でみたときは、物理的に資金が不足する事態(←例えば、バンクランで資金が流出するケースとか)に直面する銀行が多発しているわけではない。

9日付のWSJに、一時的な資金不足をオーバーナイトで銀行が中央銀行から借りるためのファシリティ(=Marginal Lending Facility)はほとんど使用されていないが、余剰な預金を中央銀行にオーバーナイトで預けておくためのファシリティ(=Deposit Facility)の使用額は過去最高、という記事が。

(以下全文)

Banks Use Of ECB Deposit Facility Rises To Fresh Record
(Wall Street Journal, 6/9/10)

FRANKFURT (Dow Jones)--The amount of cash parked by banks at the European Central Bank's deposit facility increased further to a new record high, while the amount they borrowed from the ECB's marginal lending facility remained subdued, ECB data showed Wednesday.

The heavy use of the 0.25% overnight deposit facility together with the lacklustre use of the 1.75% marginal lending facility signals mistrust among banks rather than a lack of liquidity. Banks, in fear of counterparty failure, prefer to place their excess liquidity in a safe haven like the ECB, rather than to lend to each other.

Banks parked EUR364.587 billion at the ECB's deposit facility Tuesday, ECB data showed Wednesday, compared with EUR361.69 billion the previous day. Banks, meanwhile, borrowed only EUR29 million compared with EUR9 million the previous day.


  • ECBの預金ファシリティに預けられるキャッシュの額が過去最高になった。(注:下グラフ参照)
  • 金利1.75%の貸出ファシリティ使用がほとんど使われていないのに、金利0.25%の預金ファシリティが活発に使われる。この組み合わせが何を表しているかというと、欧州銀行システムは、流動性が不足というよりも、銀行間の信頼が低下している、という意味。
  • カウンターパーティの破綻を懸念する銀行達が、自分達の間で資金を貸し合うよりも、ECBという安全な場所に余剰資金を置いておこうとしているからだ。
  • 預金ファシリティの火曜日(8日)の使用高はEUR364.587Bil、水曜日(9日)EUR361.69Bil。
  • 貸出ファシリティの火曜日の使用高はEUR29Mil、水曜日9Mil。



(グラフはZerohedgeより)


要は、「おカネは余ってるけど、他の銀行に貸して信用リスク取るくらいなら、金利つかなくても中央銀行にしまっておいたほうが、よっぽどマシだ」と、銀行が言ってるんである。

欧州インターバンク市場では、カウンターパーティ・リスクを強く警戒する銀行同士が、疑心暗鬼に陥っている。

ECBのファシリティに預けられる資金が増えている一因には、貸出が減って(=信用収縮が起こって)いるから、というのもあろう。

野村アジアのストラテジストPaul Schulteが、この状態をさして、「Liquidity Seizure」と呼んでいる。

流動性が痙攣の発作を起こしている、というのだ。

‘Liquidity Seizure’ May Renew Recession, Nomura Says
(Bloomberg, 6/10/10)

この記事でSchulteは、よほど慎重に取り掛からないと、我々は再びリセッションに突入する恐れがあると警告。前日IMFが、欧州の債務危機は拡大はしていない、今年の世界経済の成長率は4.2%を見込むという“明るめ”な発表をしていたが、それとは対照的な意見だ。

MHJ筆者の個人的意見は、Schulteの見解により近く、資金市場に流動性の懸念が残るうちは引き続き要注意だと考える。

資金の流れが停滞する・・・これが一番恐ろしいから。

どれほど強気の経済予測が出されようが、市場全体でみてカネがどんなに余っていようが、ひとたび資金がスムーズに流れなくなると、個別の金融機関のレベルで流動性枯渇のサインが点滅しはじめ、資金市場は崩壊へと向けて内部プレッシャーを高めてゆく。

それこそが、2007年から2008年にかけて、米国の資金市場で起こったことだったと、いまふたたび思い出す。

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