ギリシャ国債が主要グローバル指数から相次ぎ除外、資金流出に懸念
2010年 06月 15日 20:01 JST (全文はこちら)
[東京 15日 ロイター] ギリシャ国債が再びジャンク級に格下げされたことで、市場ではユーロ圏から一段の資本流出が起こる可能性を指摘する声が上がっている。
今回の格下げで、世界の投資家が債券運用の基準とする主要なグローバル指数からギリシャ国債が除外される見通しとなったためだ。資本流出はすでに進行しており今後あらためて加速することはないとの見通しもあるが、実態の不透明さが市場の不安心理を助長している。
(中略)
複数の大手格付け会社がギリシャをジャンク等級へ格下げすれば、グローバルインデックスから除外される可能性があるとの話は、S&Pが格下げを行った4月頃から市場に出回り、多くの関係者が、指数を利用するファンドの運用総額などから、流出する可能性がある資産規模を割りだそうと試みた。一説には数兆円規模との試算もあるが、世界に広がる巨額マネーの実態は極めて不明確。「あるファンドは先を見越して早々と外したが、急速な価格下落に追いつけず、まだ投げ切れていない向きもある。パッシブ運用者には主要指数とのかい離を嫌い、あえて保有し続けている参加者もいる」(大手銀の顧客取引担当)と、対応もばらばらだ。
(後略)
(ロイターニュース 基太村真司記者、大林優香記者)
格下げのニュースが出た14日の自分のツイッターのつぶやき記録ログを読み返すと、格下げ直後に株市場はネガティブに反応したが、当の債券市場の反応は、どっちかといえば、シラケた反応だった。(以下、筆者のツイッターから)
- ギリシャ格下げ後の、同国債イールド カーブの動きは、カーブ全体で上昇: 2yr 7.83% (+19bp); 5yr 8.77 (+11); 10yr 8.34(+16)
- 格下げ後に上昇してはいるけれど、昨今 のギリシャソブリンのレベルから言えば、20bps以下のワイドニングは、格下げニュースに「ショックを受けた」と言えるほどの動きとはいえない。クレジット市場では、M社の格下げは、大方は織り込み済みだったということ。
- パッシブ運用のファンドから外されるにしても、買い手不在の状態。CDS規制のせいで、スペキュレーターも不在。
- ギリシャ債は【触らぬ神に祟りなし】カテゴリーに。市場での流動性は消滅する。いくらECBがギリシャ債を買い続けてくれても、そのうちギリシャの民間銀行にも、果ては民間企業にも、カネは回らなくなってくる。
格下げ直後は比較的シラケムードだったが、翌日からギリシャ債とその周辺国の国債の対独スプレッドがジワジワとワイドニング始めたことがブルームバーグ等で報道された。
冒頭のロイターの記事の内容どおり、パッシブ運用のファンドからの資金流出が加速。
この動きはその後も継続、ギリシャ債の対独スプレッドは月末に向けてさらに拡大が続き、同国債CDSは、いまや1000bpsを超えるようになってしまった。
このギリシャ債スプレッド拡大について、厭債害債氏がブログでその旨を書かれておられる。一読を薦めたい。
ただし、スプレッド拡大の背景はそうなのだけれども、わずか1~2週間で、国債の対ベンチマークスプレッドが200bps以上もワイドニングする、などという事態は、取引のボリュームがほとんどないことを示唆する。Bid と Ask が開きすぎてまともな値がつかないんである。
売ろうにも、いまさら市場に「買い手」はどこにもいない。
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市場に買い手のいなくなったギリシャ国債を買い取ったり、それを担保に資金を銀行に貸してくれるのは、いまやECBしかいなくなった。
だが、ECBが流動性の後ろ盾をしてくれるからと言ったって、それも所詮は短期的な対処。
いくら利回りが魅力的に見えたとしても、正常化に目処が立たず、セカンダリー市場で自由に売買できない流動性のまったくない証券を、今、敢えて持ちたいと考える民間投資家が多く存在するとは、筆者には思えない。
ギリシャの金融機関は、キャピタルマーケットから完全に閉め出されている。
ECBの緊急融資を受けながら流動性はなんとか保っている様子だが、それだけで資金繰りが安定するものだろうか。
ギリシャの銀行群のバランスシートがどうなっているのか知りたいと思っていたら、FT Alphavilleの過去記事に、それに関連した記事を見つけた。(10日以上前の記事で少々古いが、事態が好転しているとは思えないので、書き留めておく。)
Götterdämmerung for Greek banks
FT Alphaville、6/14/10
同記事から、以下要約。
- 負債サイド:ギリシャの銀行システムの預金総残高は09年4月から210億ユーロの減少、率にして7.5%減。
- 資産サイド:民間セクターへの貸出の伸びは無し。だが、ギリシャ国債(GGB=Greek Gov't Bond)の買い入れは大幅増。今年4月時点のGGB残高は440億ユーロ、半年間で120億ユーロ増。
預金が減っているのに、GGBを買い増すことができるのは、ギリシャ国の中央銀行(BOG=Bank of Greece) からの借り入れを急増させているからである。
グラフ:ギリシャの銀行のギリシャ中央銀行からの借り入れ:資本項目を除く負債総額の割合
以下、ふたたびFT記事より。
- ギリシャ銀行群のBoGからの借り入れは900億ユーロ、拠出された担保の額は1230億ユーロ。
- しかし、4月末時点でギリシャの銀行は1020億ユーロしか有価証券残を持たず、うちソブリン債は480億ユーロ、残りの多くが証券化後に自己B/Sに保持した分。
- 仮に、ブック上の有価証券全額がレポ用担保として受け入れられたと楽観的に仮定しても、有価証券残高だけでは中央銀行からの借り入れ担保としては不足しており、ギリシャの銀行群はすでに融資ブックを裏づけに資金調達している可能性が高い。
インターバンク市場から完全に閉め出され、キャピタルマーケットでもリーズナブルなイールドで中・長期資金を民間から調達できなくなったギリシャの金融機関の資金繰りのポジションは、もはや、「厳しい」とか「きつい」とかいった中途半端な形容詞では表現できないレベルまで来てしまっているようだ。
- 預金が減少。
- レポ担保になる有価証券、使い果たし。
- さらなる担保になる新発国債の購入資金を、中央銀行からの借り入れに依存。
- その借り入れの裏づけに、融資ブックを提供。
- B/S構造で貸出と預金がともに減少し調達コストが上昇しているために、ネットインタレストマージン(NIM)が低下。さらに、不良資産増加で償却負担も増加しているため、純利益を下ブレさせる。
つまり、流動性のみならず、経済資本にも圧力がかかり、リスク許容量が狭まってきている。
銀行のバランスシートがこんな有様で、景気回復を後押しするための与信積極拡大などできるはずもなく。
こうした状態を、民間の金融機関が、この先果たしてどれだけ長く続けられるのであろうか。
ギリシャ国債に話を戻すと、取引が極端に薄い中で、パッシブ運用ファンドの売り圧力が乗っかり、それが対独スプレッドを悪化させているのは間違いない。
だが、同国の銀行システムのファンダメンタルズに目を向けると、ここで同国のマクロ経済を取り巻く状況が近々安定するとも考えにくい。
銀行システムが不安定なままで、マクロ経済が着々と回復に向かった国の例など、聞いたことがない。
となると不透明なのは、「下手すると、対独スプレッドがこのまま高止まりしてしまったらどうしよう・・・」という話である。
カナダで行われているG8/G20サミットでは、合同声明を出し財政再建に世界的に取り組むとかいう話だが、それが、どれほど安心材料になるものだろうか。
欧州の債務危機は、筆者の目にはまだまだ出口から遠いように映って仕方がない。