Friday, May 7, 2010

ギリシャの悲劇4-バンクの流動性逼迫

昨日6日は、ギリシャ問題に端を発した市場の懸念が最高潮を迎え、その上、NY株市場では誤注文によるらしき理由でダウが一時1000ポイント近くも暴落し、パニックに油を注いだ。

NYの取引時間中に、目の前でダウがメルトダウン起こしてるのを見ながら絶叫していたMHJ筆者であるが、何にゾッとしたかと言えば、システムの誤作動でこんなことが起きるとかいう話よりも、それが株市場だろうが、債券市場だろうが、商品だろうが、為替だろうが、市場という市場が一斉に文字通りパニックを起こしてるのを見て、「現在の市場がショックを受けると簡単に総崩れになる地合いにいるのをハッキリと確認した」ことである。

いまの市場はもろくて崩れやすい。

NY市場が引けた後は、日銀が2兆円即日オペやるだの、G7財務相が電話会議を開くだのといったニュースが続き、筆者には、それもなんだか不安に感じられた。

というのも、金融当局というのは、株価が一時的に急落したぐらいでは、そう簡単には動かない。彼らが動きを速める時は資金市場に問題が生じているときとおよそ相場が決まってるからである。株価は待ってくれるが、資金繰りは待ってくれない。

前回のエントリーでは、筆者は「LIBORなどベンチマークとなる金利が上昇傾向にあり、(欧米の大手金融機関の)CDSスプレッドも一斉拡大になっているということは、グローバルの資金の流れに悪い変化が起こっていることを意味する」と書いた。

そこに、今度は、中央銀行やG7までも、なんだか慌ててガタガタ動いていると聞かされたら、不安になるなという方が無理ではないか。

欧州各国のソブリンのスプレッドが連日拡大を続け、Contagionが進行しているのは明白だったが、当局がここまで動くからには、きっとそれだけではないはず。資金市場のどこかで、何か異常事態が起こっているはず・・・。

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そう思って床に着き、翌朝7日に某ブログの朝コメントで読んだのが、これ

Contagion risks have hit European credit markets, with company bond sales slowed to a halt and the cost of protecting against European bank failures rising. One trader said yesterday he'd heard fixed-income desks in Europe shut down early because there was no liquidity, "similar to what took place pre-Lehman Brothers." (Friday, May 7, 2010 8:06 AM )

感染リスクは欧州クレジット市場を直撃、企業債セールスはほとんど取引がなくなるほどスローダウンし、欧州銀行のプロテクション・コスト(注:CDSスプレッドのこと)は上昇。聞くところ、欧州銀の債券トレードのデスクは流動性がまったくなくなり早々に店じまい、「リーマンショック前夜さながら」とはあるトレーダーの昨日の言。(5月7日、金曜日、午前8:06)


there was no liquidity・・・絶句・・・

そして、ロイターからは、こんな重要情報。

(記事引用)
・・・短期のインターバンク市場ではドルの供給が極端に細っており、ドルの資金調達コストは今後さらに上昇する見通しだ。「為替市場ではユーロに照準が当たっているが、資金市場でパニックが起きているのはドル」(前出の外国銀行)だという。「危機時は手元にドル・キャッシュを厚めに確保する動きがでる。キャッシュを確保していれば、決済困難に陥る事態を回避できる。…

☆ロイター記事(日本語)全文:『ドル不足が深刻化、欧州財政危機が金融危機に転化する兆候



これだもんなー、G7財務相が集まるはずだよ。

Contagionのリスクはスプレッド拡大という形で方々に伝染し、あらゆる経済活動の生命線ともいえる短期資金市場で猛威を振るい始めていたのであった。

わずか数日間で、リクイディティ(Liquidity=流動性)の逼迫は待ったなしの状態に追い込まれていたんである。


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7日のNY株市場も、FEAR(恐れ)が先に立ち、ナーバスで不安定な動きの末に連続下落。

欧州株市場はFTSE300が8.75%下がり、一週間の下げとしては、2008年11月以来とか。

欧州債券市場も、ギリシャへの手綱を緩めることなく、ギリシャの対独スプレッドはついに1000bpを日中一時突破した。

南半球でも、オーストラリアの銀行群が横並び一律CDSスプレッドが前日比50bps以上も拡大し、カレンシーも派手に動き、財務相が「豪州は欧州の影響には十分対処できる」と火消しにやっきになる始末。

☆ Sydney Morning Herald 『Australia in 'strongest position' to cope with Greece crisis: Swan


緊張が続くなか、7日欧州の取引時間終了間際に出てきたのが、このウワサである。


MKTS…Spec of 600bn EUR ECB loan facility to be announced over weekend, 1yr 1% loans to cover 1100 banks


ECBが週末に6000億ユーロ規模のローン・ファシリティ設置を公表する予定、利率は1年1%、1100の欧州銀をカバー、とのスペキュレーション

このウワサで市場はやや落ち着きを取り戻した。

だが、その後のウォールストリートジャーナルでは、ECB関係者はこの噂についてコメントを控えたとの報道。

☆ WSJ『ECB Declines to Comment On Bank Loan Package Rumor

筆者の長年のバンクアナリストとしての経験から、金融機関というものは、一にも二にも資金繰り。資金が命、資金が血。自己資本不足については、会計処理でごまかしたり、どこかに飛ばして先延ばししたり、となんとか時間稼ぎはできるもんなんである。

だが資金ばかりはそれができない。さっきも書いたが、資金繰りは待ってくれない。金融機関の場合は、非常にレバレッジのきいたバランスシートの構造をしているということもあり、資金繰りが逼迫すると瞬く間にあの世行きになることがある。そして、ひとつの銀行破綻が他行へのバンクランを併発させたり、銀行間の資金のやりとりが萎縮して、システム全体の流動性をさらに下げることにつながる。

ギリシャのソブリン・スプレッドの拡大を抑えることができなくなった先週以降は、ギリシャの金融機関がそうした流動性枯渇に陥らないようにと、ドイツ政府やフランス政府が、ギリシャ向けのラインは閉鎖せずに全開維持することを、自国の銀行群に確約させるという動きもあった。だがギリシャ向けだけライン確保しても、なにせ資金の流れは蜘蛛の巣のように入り組んでいるが故、Contagionが進んでしまっては効果が薄いのであろう。

それにだいたい、こういう「噂」が出てくること自体、多くの銀行で短期流動性に圧迫感を感じているという証(あかし)みたいなもんである。

ギリシャ救済ももちろん重要だが、目下最重要なのは、金融機関の短期流動性の確保だ。

この週末、バンクの流動性対策について、欧州当局からどんな話が出てくるだろうか。

2 comments:

  1. こんばんは。

    Trinityさんの銀行の流動性に関する霊感、禿同です。
    ご存知の通り、リーマン破綻直後、イングランド銀行がRBSとHBOSに616億ポンドの緊急極秘融資を行っています。
    http://jp.wsj.com/World/Europe/node_1014

    今回もこれと似たようなことが既に始まっているかもしれませんね。
    中心はECBでしょうが、BOJまで協力していますのでBOEやSNBであっても不思議ではないでしょうね。

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  2. 大変参考になりました。ありがとうございます!
    それにしても、南欧リスクは関係者には十分認識されていたはずなのに、なぜこのタイミングで株価の下落が起こったんでしょうか?
    ECBが国債買い入れも議論してない、スペインポルトガルもギリシャとは違うとか言っちゃったのがまずかったんでしょうか?

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