それを書きながら、「小学生のためのシリーズ」を書きかけのままひと月近くもほったらかしにしていることを思い出した。
忘れてました・・・すみません・・・。
で、予告(?)どおり、今回は「スプレッド」の話をしたいと思う。
JPモルガンが発行するといってる社債の発行条件は、「期限10年、表面利率6.32%、スプレッド350bps」。
この6.32%という利率は、次の二つに分解される。
(1) 発行時に参照となる10年米国債の金利、2.82%
(2) 上乗せされる金利、350bps(=3.5%)
表面利率6.32%というのは、(1)と(2)の和、すなわち、2つの【別々の金利】で構成されているのである。
これは、「金利」が付いている金融商品には、すべてにあてはまる。
企業が発行する社債しかり、銀行が個人に貸し出す住宅ローンしかり、クレジットカードやサラ金のローンにつく金利しかり。
上の(2)の上乗せ金利こそが、信用プレミアム、とか、クレジット・スプレッドとか呼ばれるものである。単に「スプレッド」と呼ぶことも多い。
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例をあげましょう。あなた自信が「金貸し業」を営んでおり、いま2億円の現金を持っている、と仮定しよう。
いま、X社とY社のふたつ別々の会社があなたの会社の門を叩き、それぞれが、1億円を10年間貸してくれないか、と頼んだとする。
X社は創業100年の老舗でその業界では常にトップの実力者、創業以来一度も財務で問題を起こしたことがなく、会社組織もしっかりしており、会社の規模からいって1億円の借金は年商規模からいってさほどの額ではない、そういう会社であるとしよう。
Y社は将来性ある分野で急成長し注目されている会社だが、会社組織になってから日が浅く、オペレーションも小規模で、やる気マンマンのオーナーは30歳の若者、会社実績という意味ではまだ立ち上げの段階、そういう会社であるとしよう。
おそらく、あなたは、1億円づつ10年間という同じ条件でカネを貸すにも、X社とY社の両方にまったく同じ金利で貸すのは、【直感的に】躊躇しますね?
おそらく、あなたの頭の中では、X社には年率5%で貸してもいいけど、Y社には年率15%はつけないと・・・みたいな、動物的な勘が働くはず。
あなたの、その【直感】は、まったくもって、正しい。
なぜなら、一見して、X社は信用力が高く、Y社は信用力が低いからである。
信用力が高い、ということは、すなわち、信用リスクが低くデフォルトする確率が低い、という意味である。逆に信用力が低い、というのは、信用リスクが高い、つまり、デフォルトする確率が高い、という意味だ。
あなたの動物的な勘は、すでに、相手の信用力を見抜き、それぞれが持ってる「デフォルト・リスク」に従って、クレジットスプレッドの厚みを変えているのである。
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さて、あなたの手元の2億円のキャッシュの使い道であるが、あなたはそれをx社とy社に貸してあげる代わりに、「国家」に貸してやってもいい。つまり、「国債」に投資してもよい。
米国や日本や英国やドイツなどの経済大国と呼ばれる国家たちが、皆様からお借りした借金を、ある日とつぜん返済するのやーめたと言い出すとは、少なくとも当面は考えにくい。ジーと満期まで持ち続ければ、日本政府や米国政府は、きっと約束どおりの金利を、滞りなくあなたに支払ってくれることでしょう。
20世紀に入ってからの金融理論のほとんどが、米国債のデフォルトリスクは限りなくゼロに近いと考えて理論構築されており、それゆえ、米国債の金利は「リスクフリー金利」と呼ばれる。(日本国債や米国債もそのうちデフォルトするんじゃないのかと心配してるひとは結構いるけど、今回のトピックからズレるんで、パスね。)
だが、個人もそうだが、企業というものは、現在どんなに信用おける会社でも、将来なにが起こるかわからない。
戦後のアメリカのゴールデンエージのを支えた米自動車産業が、50年後に倒産するかもしれないと考えていたひとが、当時どれだけいただろうか。
だから、企業や個人にカネ貸すときは、「何が起こるかわからないというリスク」を敢えて取ることになる。その「敢えてリスクを取る」という勇敢な行為に対する対価として、プレミアムを要求するのは、金貸しとして当然の行為である。このリスクのことを「クレジット(信用)リスク」と呼び、そのリスクに対する対価を「クレジット・スプレッド」と呼ぶ。
一方、国債金利については、その企業がどうなろうが、まったく別の要因で上がったり下がったりする。国債金利の上げ下げのほうは「レート(金利)リスク」とよばれ、これは「クレジット(信用)リスク」とは異なるリスクとして区別される。
したがって、社債についている表面利率(クーポン)は、「金利リスク」と「信用リスク」の合わさったものであり、表面利率だけみても、その利率が相手の「信用力」に見合った水準なのかは、それらを分解して表示しないとわからないのである。
ここでふたたび、X社とY社の具体例にもどるとしよう。
いま10年国債の金利が2.5%だと仮定すると、あなたがx社から取ろうとしている利率5%は、国債2.5%+クレジットスプレッド2.5%、に分解される。
同様にY社に対する利子15%は、国債2.5%+クレジットスプレッド12.5%である。
クレジット市場では、表面利率の5%と15%を比較するのじゃなくて、クレジットスプレッドの2.5%(250 bps)と12.5%(1250 bps)を比較して、それがグッドディールかバッドディールかの判断をするのである。
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ということで、「クレジットスプレッド」とはどんなもんかぐらいは、何となく、わかってもらえたと思う。
このシリーズの2回目で、お天気次第で遠足が延期になるかもしれない・・・というボンヤリした不安が、ある情報を得ることで強い不安になったり、安心感に変わったりするという話を出したが、信用リスクに対する評価や判断は、まさにそれと同じ。
X社には250bpsという信用プレミアム(スプレッド)をリスクフリーの国債金利に上乗せして貸してあげたけれど、その後、新たな情報が入ってきて、当初考えてたよりヤバい会社なんじゃないのかと思うようになってきたら、あなたはどうするでしょう。10年後X社が耳をそろえて返してくれるか不安になってきますね。一対一の個人的な契約書の場合、やべぇと感じても、貸してしまったら最後、一方的に破棄するわけにいかないですね。
でも、社債の場合、これもカネの貸し借りにまつわる「契約書」でありながら、自分はもう持ちたくないなと思ったら、株券みたいに、社債市場に出て行って他の誰かに売りさばくことができるんであるよ。
ただし、あなたが手放したくなったのと同じ理由で、買おうとしてる相手は、あなたが当初x社に払わせることにしたプレミアム(2.5%)では、x社の信用リスクに対して割りにあわない、と考えている。つまり、もっと高いプレミアムを払ってもらわない限り買いたくない、と思っている。
でも、社債の発行条件というのは売買のたびに変えることができない。その社債を手にしても、クーポン5%という最初に取り決めた条件どおりにしか金利の支払いは行われない。
だから、新たな社債の買い手は「この値段なら買ってもよい」という額まで社債の金銭価値を割り引いて(ディスカウントして)購入しようとするのである。
その「ディスカウント分」というのは、売り手であるあなたの「損」になる。
逆に、新興会社で信用力がないと思っていたY社が、逆にメキメキと市場シェアを拡大して、あっという間に業界一、二を争う会社に成長したとしよう。そうすると、Y社が発行した社債を買いたいと思うひとが出てくる。あなたは売ってもよいと考えているが、こんな優良企業が1250bpsものプレミアムを10年間払うと約束した債券を、みすみす手放すのは惜しいとも思う。相手はプレミアムが750bpsでもいいから買いたい、と言うとしよう。
すると、当初の1250bpsというクレジットスプレッドは、750bpsという低いスプレッドで取引され、その差500bps(=1250-750)のスプレッドの縮小分に見合う金銭価値は、あなたの「儲け」になるのである。
まとめると、x社の場合、(1)x社の信用力が下がる、(2)x社の信用リスクは上昇する、(3)x社に求められる信用スプレッドは拡大(ワイドニング)する、(4)x社が発行していた社債の金銭価値(【現在価値】という)はよりディスカウントがかかり低下する、(5)売り手のあなたは損をする。
逆にy社の場合は、(1)y社の信用力が上がる、(2)y社の信用リスクが低下する、(3)y社が借金するときに求められるクレジットスプレッドは縮小(タイトニング)する、(4)y社が発行していた社債の現在価値は上がる、(5)あなたは儲かる。
以前も申し上げたが、債券というのは、金利が高くなるとその証券の価値は低くなり、金利が下がるとその証券の価値は高くなる。
そして、クレジット投資というのは、信用リスクを反映したクレジットスプレッドが拡大、あるいは、縮小するのに従って上下する債券の【現在価値(Present Value)】を追い求める投資形態なのである。
ディスカウントがかかる、というのは、そういうこと。だから、「クレジットスプレッド」のことを「ディスカウント」と呼ぶこともある。
★ ★ ★
小口の個人投資家を相手にするときは、信用スプレッドだの何だの言ってもよくわかんないだろうし、個人は自分が一年間でいくらの金利をもらえるかだけわかれば十分ハッピーだから、大概の場合、個人向けに発行される債券は表面利率しか提示されない。
しかし、相手がプロの債券機関投資家の場合は、彼らは、「いくら利子もらえるのかな~~」と楽しみにしてるわけじゃなくて、スプレッドの動きを注視しながら、きわめて短時間に巨額のトレードを繰り返し、ボラティリティを利用して現在価値の上がり下がりでキャピタルゲインを狙う投資家群であるために、彼らには、キッチリと、クレジットスプレッドを提示してやらないと、取引できない。
ベーシスポイントなんつー、1%の100分の1の単位が上がった下がったと何を騒いでるのかしら、と思うだろうが、彼ら機関投資家は、一度の取引で動かす額が大きいために、スプレッドが数ベーシスポイント動いただけでも、損益は大きくなる。
金融機関の場合、バランスシートの資産側も債務側も、ともに「金利」に影響される構造をしているため、クレジットスプレッドの拡大は投資資産価値の下落と償却費用の急増のみならず、日常業務に必要な資金調達にも支障をもたらす。
実際の数値の一例として、みずほコーポレート銀行がサイトで公表している「国内普通社債発行実績」の一覧表をみてみてほしい。
この表の左から6番目に、「発行時国債スプレッド」という項目がある。これが、今回のMHJ記事で述べてきた、「クレジットスプレッド」である。みずほコーポレート銀行が何度かに渡り期間5年の社債を発行して市場で資金調達を行った(←みずほがお金を貸してもらう側にいた、という意味)わけだが、その度の発行条件として、日本国債の金利を基準として、それに何ベーシスポイントの【上乗せ金利】を支払うことに同意したかが明記されている。
第13回はリーマンショック前の2008年7月発行、第14回はその後の同年12月発行だが、リーマンショックの前後で、みずほコーポレート銀行が支払わされるプレミアムが、日本国内でもワイドニングして跳ね上がったことが見て取れる。
これは、みずほコーポレート銀行にとっては、資金調達のために支払う金利、すなわち調達コストが高くなり、その分金利収支が圧迫された、という意味になる。
みずほの例が特殊なわけではなく、リーマンショック直後は、世界中の銀行という銀行がクレジットスプレッドの急拡大に見舞われて、調達コストの急激な上昇で通常の資金調達が事実上困難になり、資金の流れがグローバルで停滞した。
金融機関同士の資金の流れが止まると、実体経済にも資金が流れなくなり、大量の企業倒産を誘発する。
世界中の政府や当局が、現在も、あの手この手でクレジット市場を安定化させクレジットスプレッドを縮小させて調達金利を下げようとやっきになるのは、そのせいなのである。
おそるべし、クレジットスプレッド・・・。
(次回に続く)
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つまり金融工学Fuckeryですね?
ReplyDelete金融工学Fuckery??よく意味がわかりません。債券投資の現場を「Fuckery」と呼ぶというのなら、そこで20年近くも働いていたわたしは「Whore」だという意味かしら・・・(笑)。
ReplyDeleteチーさんはじめ多くのひとが「いつか家を買いたい」という夢を見て、それを実現することができるのは、証券化手法などの金融工学が発達したおかげといっても過言じゃないです。住宅ローンを貸してくれる銀行が借り手と一対一の相対(あいたい)取引のみを行って、借り手のクレジットリスクをそのままバランスシートに丸抱えするという“原始的”な取引だけにいそしんでいたならば、おそらく、30年固定の住宅ローン金利は過去平均の7~8%ではとうてい済まず、頭金も融資額の10%ではすまないことでしょう。真面目に普通に生きている人にでも、住宅ローン金利が固定で15%になったり、LTVの割合が大きく下がって家の価格の半分以上をキャッシュでためなければ家が買えないような状態なら、どれだけのひとが持ち家を手に入れることができるでしょうか。
AIG問題がちまたで注目されたために、CDSやCDOなど金融工学を駆使した金融商品が、あたかもグリードのなれの果てであるような「汚らしい下賎なイメージ」を世間に振りまいたのは確かですが、それは何もわかっていない無知なメディアが作り上げた「イメージ」でしかない。
たしかにグリードが行き過ぎて無謀なリスクテーキングに走った市場参加者は少なくなかった。しかし、金融取引の実態としては、CDSやMBS,CDOなど金融工学に支えられた金融商品の出現がクレジットリスクの分散や移転を容易にし、より幅広い投資家層に高低さまざまなレベルでのリスクテーキングを促して、結果として市場効率(Market Efficiency)を高めた、という事実は否定しようがない。
そして、市場効率が高まったことによる【恩恵】を誰が受けてきたかといえば、世の一般のひとたちなのです。
それでも私はFuckeryだと思っています。
ReplyDeleteどうしてかというと、生き物(人間)や自然の営みに全く沿わないからです。
金融工学(テトリス)をやっている人々のそういう上から目線が嫌いなのです。一般の人はどうせわからないみたいな。
家をローンで買って幸せを手に入れるという発想自体が、アメリカのプロパガンダです。
金融工学の人たちは、どうしてすぐ「一般の人」っていうんですか?
ReplyDeleteそんなに自分たちはすごいんですか?
一般のひとは、貧乏でばかで、だまされていて、住宅ローンで恩恵を受けていると本当に思っているんですか?
そんで、私らがほどこしてやっていると。笑
そんなだから、今回のような問題が起きたのです。
チーさん、わたしは金融工学が専門でもなんでもありません。自己紹介でも書いているとおり、わたしが専門分野としてやってきたのは、金融機関の財務分析と投資判断、です。チーさんが感じられたような「上から目線」で話しているつもりもありません。わたしがチーさんへのレスに書いた内容は、バンキングセオリーや証券化理論のイロハの一部を書いたまでです。(ご近所の書店で「証券化」をテーマにして書かれた本をひろげてみてくだされば、わたしがレスに書いたような内容は、すべての証券化入門書にかかれてある、ごく初歩的で教科書的な記述であることがおわかりになると思います。)「一般のひと」という語感が気に障るというのであれば、「その分野で専門知識や特殊技能をもたないひとたち」と言い換えてもかまいません。金融工学については、わたし自身も素人のひとりです。あれは、数学や物理学のPhDのみなさんがやってる分野なので、私とは畑違いです。
ReplyDeleteプロだから、専門家だから、何もかもわかっているわけではない。もちろんその通りです。でも、その道のプロじゃなきゃわからない部分もある。だからこそ、得意分野の違うもの同士、興味の違うもの同士がお互いにいろんな意見や情報を持ち合って、互いに足りない部分を補い合うのが一番、と思うのですが、いかがですか?自分がこれまで直接関わったことがなくても興味がある分野があれば、わたしなら、それに明るいひとの意見は、同意するかはべつとして、聞いてみたいと思います。
ひとつお願いがあるとすれば、チーさんがどう考えるかはチーさんご自身のことですから構いませんが、わたしが10年も20年も一生懸命がんばって自分なりに努力して蓄積した知識や、長年プライドを持って取り組んできた仕事内容を、わざわざわたしのブログにやってきて、「Fuckery(淫売屋)」などという下劣な言葉で侮辱するのは、やめていただけないでしょうか。そういうことを書かれると、前回のMHJ記事に書いたJPモルガンのダイモンCEOが「緋文字のようだ」と言い捨てた気持ちと同じになります。
せっかくお知り合いになれたのですから、仲良くやりましょう。
大変申し訳ございませんでした。
ReplyDeleteこのブログおもしろいですね。参考になります。
ReplyDelete「小学生のための」とありましたので、前から疑問におもっていたことにお答えねがえればありがたいです。
「リスクが高ければ貸し出し金利をあげる」、常識としては分かるんですが、金利を上げることで返済不能リスクがあがることは勘定にいれないんですか。
「百姓は生かさず殺さず」の言葉のとおり、ある点があると思うんですけど、どうも聞いたことがないんです。
普通の人は幸せになりたいと、様々な努力
ReplyDeleteをします。
その為に家や車、お金が欲しいとなります
特にお金は重要です。
但し、お金はあくまでも幸せになる為の
「手段」であって「目的」ではない。
金融に係わっている人々、特にウォール街
などでしのぎを削る人達は「手段」にすぎ
ないお金を「目的」としている、と一般の
人々に感じ取られている。
その為に自分達のささやかな幸せを踏み台
にして...
そんな感覚があるのかもしれませんね。
ただ、設立したばかりの小さいファンドが
「自分の命の次に大事なお金を俺達に預け
てくれた、これに何としてでも答えなけれ
ばならない」との意識もあったと思いま
す。
※最近はその様な意識があるのかわかりませんが
旗手のハッキリしないコメントですが
老子の「其の鋭きを挫きて其の紛を解く」
と思っています。
※悪玉を仕立てて物事をスッパっと両断す
るのは、すっきりしと解決し気分の良い
物だ。
しかし、それは本当に物事を解決した事
にはならない。
実際の社会は複雑で絡んだ糸解きほぐす
しんどい根気のいる作業だと言う意味。
最後に、かなり大雑把な表現ですが
CDSって要は「未来のリスクを現在のお金
に変換している」って事なのかな?
変換の関数式が間違ってたんでしょうね
長期金利、住宅価格の動向とか。