Tuesday, February 3, 2009

保有株買取りのデジャヴ

今朝、日経ネットで、日銀が銀行から保有株式買取りを正式に決定、という記事を読んだ。

去年の秋頃だったか、政治サイドが日銀に対して「銀行から保有株を買い取れ」と圧力かけてるというのをどこかで読んだ記憶があるから、内容自体は別に新しい話でもないけれど。 

4年ぶりの買取りプログラム再開だそうであるが、前回日銀が銀行から株を買い始めたのは、2002年11月。日本の金融危機が深みにはまり金融株はメタメタ、株式市場全体のコンフィデンスが完全欠落してたころである。

株価インデックスをみてみたら、2002年11月のTOPIX(月初)は865ポイントだった。で、去年の暮れが870ポイント。おぉ、日本の株価は前回の金融危機のレベルまで落ちているのね。

そして、ここにきて、再び日銀の株買取りが始まるなんて、まさに「デジャヴ」でありますね。

この日経ネットの記事によると、日経平均が8000円を割り込み、大手8行だけで1兆8千億円超の保有株式含み損が発生している、とのこと。

2年ぐらい前に大手銀行に話を聞いたとき、たしか、どこの銀行も「保有株の売却を積極的に進めた結果、日経平均が8000円ぐらいまで落ちても、なんとかなる」みたいなことを胸張って言ってたような気がするんだけど、実際には、こんなに含み損が出ちゃってるのね。

日本の銀行というのは、今も昔も、預金はタンマリあるんだが、それを貸し出す先がなかなか見つからず、慢性的に預金超過の状態にある。

余ってる預金の行き先として、株式だの債券だのと有価証券を買うしかない、というのが現状。

さらには大昔からずーっと引きずってきてる「メインバンクと企業の株式持合い」という構図もなかなか解消できなくて、2000年初頭の金融危機で日経平均がズルズル落ち込んだときも、そうやって持ち合ってる株式の価値が下がり、大騒ぎだった。

当時の日本の株式市場において、金融機関と企業が持ち合い目的で保有していた株式の総額はハンパじゃなく大きかったから、「マーケット(市場)リスク高すぎるんで、持ち合い解消進めて、株どんどん売りましょか~」なんてことになったら、市場全体の売り圧力が加速して、日経平均をもっと下げかねないという懸念も生じてた。

しかも、当時の日本の銀行群は、不良債権が膨張しすぎて自己資本を毀損、すでに実質的には債務超過に近い状態にいたのに、そこにさらに株安の追い討ちがかかったもんだから、【酸欠の金魚】みたいに水面に口だけ出してパクパクしていた。

このまま放置してたら、明日にも、日本の金融界という“水槽”にはひっくり返ってお腹を浮かせた金魚だらけになる!と危機感が募り、2002年の初頭から銀行等保有株式取得機構、預金保険機構、そして日銀、と3つの政府系機関が手をつなぎ、銀行のバランスシートから株式を買取った。

で、聞くところ、2009年の今回もやっぱり、日銀だけじゃなくて、政府機関も一緒になって株式を銀行から買い上げる方向で動いているというではないか。

やっぱり「デジャヴ」!

当時、買取られた株式の価値は全体で5兆円を超えたと記憶しているが、ともかく、それくらいやらないと、金融機関の自己資本が名目でも枯渇しちゃいかねないくらいヤバイ状態であった。

銀行も含め、企業の自己資本ってのは、(実質はどうであれ)名目でゼロになったら、事業継続はできませんので。

4年ぶりに保有株買取り再開する件につき、日銀のサイトには、2月3日付でプレスリリースが出ており、そこにこんなことが書かれていた。

「・・・とくに株価の影響についてみると、わが国金融機関の株式保有額は2000年代初頭に比べ減少をみましたが、現在発表されつつある今年度第3四半期決算では多額の減損や評価損が計上されるなど、わが国金融機関にとって、株式保有リスクへの対応が引き続き極めて重要な経営課題となっています。・・・」


ふ~ん・・・株式保有額は減ったのか・・・。

で、実際どれくらい減ったんだろうと気になり、日銀統計で銀行が保有する株式の簿価を調べてみた。

2000年9月(2000年度上半期)、2002年11月(日銀が実際に買取りを始めた月)、そして、2008年12月(データ採取できる最も直近データ)の3つのデータポイントを、大手銀行、地方銀行、第2地方銀行と種類別で分けてみてみた。

日銀データによると、日本の銀行がバランスシートに抱えてる株式は以下のとおり。(単位:十億円)

(a)00年9月/ (b)02年11月/ (c)08年12月/(a)ベースの減少率/同(b)ベース
*銀行業界全体=(a)45,996 / (b)32,002 / (c)20,210/-56%/-37%
*大手銀行だけ=(a)28,019 / (b)22,043 / (c)11,915 /-57%/-46%
*地方銀行だけ=(a)6,748 / (b)4,079 / (c)4,215 /-38%/+3%
*第2地銀だけ=(a)1,229 / (b)1,003 / (c)945 /-23%/-6%

たしかに2000年度上期からみたら、日銀が言うとおり、全体的に額は減ってはいますけどさ・・・。

日銀が実際に買取りを始めた2002年11月をベースに減少率を計算したら、目だって減ったのは大手銀行だけ、というトホホな点は、注目したいな。

都銀が2002年11月の水準からさらに4割近くも株式エクスポージャを減らした一方で、地方銀行になると、保有株の簿価は逆に3%以上増えてるし、第2地銀も6%しか減ってない。

株価インデックスでみると株価水準は、前回日銀が買取りしたときと、さほど違いはない。つまり保有株の内訳がマーケットポートフォリオに近ければ、ベータのインパクトはかなりニュートラルってことだ。

でも、中小企業株を多く持つ小規模金融機関の場合、ベータは一般に高めだと想定されないのであろうか。

保有額を実際に大幅減少させた大手行ですら、現在含み損がそこまで大きく出ているとなると、中小株比率が大きい(と想像される)ポートの場合、内在リスク量(ボラティリティ)が如何ほどか、考えるのも怖いが。

小さい銀行さんになると、日銀が買ってあげましょうと言ってる「投資適格以上(優良企業)」の株式が株式ポート全体の割合として少ないし、ここまで株相場が崩れてしまったら、日銀に市場リスクを移転しようにも、現実問題として難しいのでは・・・?という気もする。

2002年から03年にかけて日本を覆っていた金融危機。あのとき、当事者だった銀行も、規制当局も、政府関係者も、株式保有のリスクが銀行にとってどれほど大きな市場リスクになるか、よーく学習したと筆者は思っていた。

だが、実際には、関係者一同、全然学んでいなかったってことかな。

今回の措置で、日銀は、Tier 1キャピタルの50%以上の株式を保有している銀行を対象とするそうだけど、Tier 1の50%も株を保有していること自体、2002年から今まで、邦銀の経営者も監督当局も、いったい何をやってたのであろうか。

昨日付け日銀のリリースの「わが国金融機関にとって、株式保有リスクへの対応が引き続き極めて重要な経営課題となっています。」という文章、確か、2002年にも、これとまったく同じ文章を日銀の書類で読んだような気がするんだが・・・。

そういえば、2005年ごろ、某地方銀行の役員さんと東京で飲み会があったんだが、その役員さんが「市場も戻ってきてることだし、銀行の収益性を高めるために高リターンの株投資をもっと積極的にしてもいいのでは、と金融庁の検査官に勧められた」と言ってたことを、いま急に思い出した。

裏を取れるわけでもないから真偽のほどはわからないが、もしその話が本当だとしたら、その金融庁の担当官も、実に呆れたもんである。

これは日本に限ったことじゃないけど、今回のグローバルの金融危機は、ウォール街のGREED(強欲)が火種になったことは確かだが、世界中の金融機関規制監督当局(特にバーゼル)が【ポンポコリン】だったのが危機勃発に寄与した事実は、忘れちゃならない。

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