Sunday, December 21, 2008

パームビーチに響く質屋の高笑い









金融史上最大規模の「ねずみ講」事件が発覚してからはや1週間。

中心人物バーナード・メードフ(右写真)。元ナスダック会長。

クライアントの数4000件、被害総額500億ドル(約4.5兆円)。

リーマン破綻後の暴落で、預け入れた資金の現金化(70億ドル)を顧客が要求し始めたのが、事件発覚のはじまり。償還用の資金繰りに詰まり、メードフはついに降参した。

19日付けニューヨークタイムズにメードフ事件の背景が掲載された。

Madoff Scheme Kept Rippling Outward, Across Borders http://www.nytimes.com/2008/12/20/business/20madoff.html?_r=1&em=&pagewanted=all




この記事によると、メードフは長いことNYはじめ全米のジューイッシュ(ユダヤ系)コミュニティの英雄的存在で、今回の詐欺にあった被害者の多くも、ジューイッシュ・コネクションを通じてメードフに紹介され、彼のレピュテーションを信じて巨額の財産を預けていたそうである。

「口利き」と「紹介」のみで作られたリレーションシップの網の目をつたわって流れてゆく巨額の投資資金―。あの、お堅いカルチャーで知られるスペインのサンタンデール銀行の関係会社や、アラブの巨大ソブリンのアブダビのファンドまでが、この網の目にスッポリはいっていたんだから。

しかし、常識で考えたって、マーケットが良くても悪くても恒常的に10%のリターンを挙げ続けるなどという芸当は無理。でも、メードフならできる、と思わせる「何か」がメードフにはあったんである。

それは『Aura of Exclusivity』=排他のオーラ。

彼のサークルには誰でも彼でも入れるわけではなかった。彼のファンドは基本的に「クローズド(Closed)」であったが、メードフとなんらかの個人的なつながりがあれば、「特別な計らい」で仲間に入れてもらえる、そういうやり方で、メードフは顧客を集めた。

そして、いつしか、顧客サイドに「自分はメードフに資産を預けている」という、その事実そのものが「自分は特別な人間なんだ」という気持ちが産まれ、「特別な自分」というトランス状態が心地よすぎて、メードフの非現実的な運用成績に疑いすら抱かなくなる。

メードフと何のつながりもなかった者達の目には、「エリート主義の成れの果て」と写るだけかもしれないが、「自分は他とはちがう、特別なんだ」という気持ちでいたいというのは、エリートだろうがなかろうが、人間共通の性(さが)なんではなかろうか。

実際、90年代に、アメリカン・エキスプレスが「ゴールド・カード」だの「プラチナ・カード」だのを発行して、中産階級の会員確保で成功を収めた事実もある。あれこそ、まさに、「(プラチナアメックスを持てるほど)特別なステータスの自分」という【心理】をくすぐるマーケティングの勝利だったんだから。

嗚呼・・・人間というのは、どうして、こうなんでしょうねぇ・・・。

上のNYタイムズの記事に「メードフはミステリアスな存在で、オズの魔法使いのようだった」という表現があるけれど、まさに的を得た表現だな。

しかし、メードフの魔法が解けたら、フロリダ州パームビーチの超高級住宅地のジューイッシュ・コミュニティには「被害者」が溢れてるらしい。

そんな中、ひとり高笑いしてるのが、パームビーチの質屋だそうで。ランボルギーニまで質草になってるという・・・(涙)。

http://www.npr.org/templates/story/story.php?storyId=98293155


さて。「ねずみ講」ですが、英語では 【PONZI SCHEME】 と呼ばれます。




この言葉の元になったのは、1920年代に、同様の金融詐欺を働いて逮捕されたCharles Ponzi(写真右)。

イタリア移民だった彼は、第一次世界大戦後のインフレにより、イタリア通貨での資産価値が米ドルに対して大幅に下落していることに目をつけ、IRC(International Reply Coupon)と呼ばれる国際郵便システムを利用して儲けることを思いついた。

ポンジーが考え付いた方法というのは、(1)米国で投資家から資金を集め、(2)その資金をイタリアに送金し、(3)イタリアでIRCを安く買い、(4)米国にIRCの現物を送付させ、(5)米国の郵便切手に変換し、(6)その切手を売って現金化する、というものだった。

IRCとは一種の「返信用国際郵便切手」に相当し、イタリアで買い求めたIRCはイタリアの郵便料金に従って価値が決まるが、それを使って米国からイタリアに返信する場合は、米国の郵便料金相当の切手と交換できた。つまり、イタリアから米国への送料と、米国からイタリアへの送料には、当時相当の差異が出ており、その差額を現金化すればリターンが生まれる、そういう仕組みであった。

今風に言えば、いわゆる「アービトラージ」であるが、IRCを利用したアービトラージを禁じるルールは当時存在しておらず、チャールズ・ポンジーの考えたスキームは充分「合法」だったのである。

ポンジーに「手数料」を支払った投資家達は、当初約束どおりのリターンを受け取り、そのリターンが破格なレベル(45日間で50%!)だったことから、ウワサがウワサを呼んでポンジーに金を預けてIRCアービトラージで儲けようとする者の数は増え続けた。

しかし、ポンジーは「手数料」はすべて自分のフトコロに仕舞ったものの、実際にIRCを買う手間は省き、新規の顧客が払い込んだ金を既存の顧客に約束したリターンにあてて、いかにも儲けが続いているように見せかけていたのだった。

ボストンで繰り広げられていたこの夢のような成功話に、やがてボストンの新聞記者が疑問を抱き、当局の捜査も入ってポンジー・スキームは破綻する。

亡くなる前に行った最後のインタビューで、ポンジーはこんなことを言っている。


"Even if they never got anything for it, it was cheap at that price. Without
malice aforethought I had given them the best show that was ever staged in their
territory since the landing of the Pilgrims! It was easily worth fifteen million
bucks to watch me put the thing over."

「(わたしに金を預けた者は)結局何も手にすることはなかったが、それでも、安いもんじゃないか。別に殺意を持ってたわけじゃなし、ボストンの連中にとっては、ピルグリムの到着以来最高のショーを見せてやったんだから。わたしが繰り広げたステージの観劇代に1500万ドル(15億円)の価値は充分あったんだよ。」


投資家からポンジーに渡った金は、どこをどう流れていったのか、結局わからずじまいだった。

メードフの500億ドルも、どこに消えてしまったのか、その詳細はわからないまま終わるような気がする。



忘れるなかれ。ポンジー自身がフトコロに仕舞ったのは「手数料」だったということを。

そして、スキームがクルクルとうまく回っているあいだは、流れ込んだカネは参加していた投資家達に「儲け(リターン)」として実際に分配されていた、ということを。今は質屋に走ってる投資家達も、高リターンを受け取って喜んでいた時期があったということを。

ねずみ講の被害者達は、被害者でありながら、同時に、加害者でもあったのだ。



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