Saturday, January 25, 2014

投資対象としてのビットコイン

先日、NHKの『クローズアップ現代』がビットコインを取り上げたそうで、わたしのツイッターのTLにやたらとビットコインの言葉が並んだ。(番組のトランスクリプトはこちらを。)

仮想通貨 VS 国家:ビットコインの衝撃


この番組に対応して、日本デジタルマネー協会フェローの大石哲之さんが、ツイッターで、ビットコインについて抑えるべきポイントをわかりやすく解説してました。大石さんのツイートをまとめたTogetterエントリーも読ませていただきました。

【Togetter】 ビットコインについて判りやすい解説


この10年ほどでのアマゾンなど仮想空間でのネットショッピングの成長ぶりをみれば、仮想空間で通用する仮想通貨の構想が生まれ成長してくることに対し、わたしは極端な違和感もなければ、また上の大石さんの解説にもあるように、多大なる成長性を秘めていることを否定するものでもありません。

ただし、このビットコイン、可能性を秘めてるというのはよくわかるけれども、「投資対象」としてみた場合どうよ、という話になると、いろいろ思うところある次第です。

それにつきまして、ウダウダと思いつくままつぶやいた私のツイートはこちらにまとめてあります。

【Togetter】金融資産としてのビットコインについて


上のまとめで、要するにわたしが何がいいたいかというと、

1) 仮想”通貨”と言ったところで、現段階においては、「グローバル通貨」と呼べるようなシロモノからは程遠く、ビットコインそのものは、株や債券といった通常の金融資産と変わらない。

2) 投資対象となる金融資産は、ビットコインだろうが株だろうが債券だろうがコモディティであろうが、その価値は基軸となる通貨(この場合ドル)を用いて価値を測り表示している。

3) ビットコインという名の金融資産の価値は大きく上下している、つまり、ビットコインのボラティリティは非常に高い。

4) 通常の通貨のように国家(あるいは共同体)の信用がくっついていないので、ファンダメンタルズの裏づけがなく、価値は純粋にその場その場のフローとテクニカルでのみで決定する。

5) 発行枚数に限りがあり、流動性は極めて低い。

6) 3+4+5から言えることは、投資対象となる金融資産としては、ビットコインの投機性は極めて高く、まぁハッキリいって、現状のステータスはチューリップの球根と大して変わらんな、ということである。


これら私のつぶやきの中からいくつか拾って、内容を補充しておきたいと思います。






通貨にして通貨にあらず。特定の取引所でドル表示されている金融資産である。(なお、3つ目のツイートの250は25の間違いです。)

「合法マリワナ取り扱い業者が通常の銀行で銀行口座をあけさせてもらえない」という話は、今年1月11日付けのNYタイムズのこの記事のことである。


Banks Say No to Marijuana Money, Legal or Not

 

米国では医療用マリワナの解禁を認める州が相次ぎ、またコロラド州のように嗜好用マリワナの販売も始まった地域もあるが、商業銀行はマネーロンダリングに巻き込まれることを恐れて、合法だろうがなかろうが、マリワナビジネス相手に口座は作ってくれない。ビジネス口座はもちろんのこと、個人口座を用いようとしても、その口座を出入りするマネーがマリワナ販売と関係していることが判明すれば、銀行側はその口座を閉鎖する。そのため、合法ではあるものの、大麻関連ビジネスオーナーらは基本的にキャッシュによるトランザクションに依存せざるを得ない状況におかれている、という内容である。

記事にあるが、合法販売で集めた税金なのに、銀行経由での決済手段を持てないから、何万ドルという$ゲンナマ$を車に積んでビクビクしながら運転して払いに行く、とか、トンデモなことをやってるらしいんである。45年前の三億円事件の時代じゃあるまいし。

しかし、銀行の立場からしてみたら、この新興業界(?)の拡大可能性はあると判断できたとしても、現状の市場サイズから見込めるリターンと、そこと関わることで潜在的にエクスポーズされるリーガル・リスク(マネロンが発覚したときの当局からの銀行への制裁含む)の大きさを天秤にかけたら、口座を作ってあげようというインセンティブなんてあるわけないんだから、当たり前の話である。

合法でも、このザマ。

となると、違法のドラックディーラーにしてみたら、ビットコインなる無法地帯の新通貨は渡りに舟、そりゃー飛びつくでしょう。

で、いまどうなってるかというと、そういう違法取引の現場から差し押さえたビットコインをたんまり保有しているFBIが、「単独ホルダー」としては、現在最大という笑えない話になっている。まとめの最後のほうの会話に出てくるが、ビットコインの最大のホルダー(所有者)は、噂のサトシ・ナカモトさんはじめ一握りのアーリーアダプターであることはそのとおりなのだが、彼らはいくつものウォレットに分散して所有していて、それらを名寄せしてあるひとりのホルダーとして特定することができない。そのため、差し押さえのビットコインをウォレットに溜め込んでいるFBI(=米国政府)が、目下特定できる世界最大のホルダーなのである。


Who Owns the World’s Biggest Bitcoin Wallet? The FBI


また、最初にあげたNHK番組のトランスクリプトでも紹介されていたが、昨年の10月にネット上で違法ドラッグ売買サイト「シルク・ロード」が摘発されたときにFBIが差し押さえた25ミリオンダラーズ分のビットコインは、裁判所からリクイデートしてもいいよという許可おりて、FBIは近くこれらをオークションにかけるとか。下が今年1月16日付けのForbesの記事だ。(この記事以降にくだんの$25ミリオンがどうなってるかは、フォローしてないから、知らない。)

The Feds Are Ready To Sell $25 Million of Bitcoin Seized From The Silk Road



このForbesの記事の最後のほうに、SecondMarketの話が出てくる。

SecondMarketというのはご承知の方も多いだろうが、未上場株式などを扱うトレーディング・サイトで、フェースブック(Facebook)がIPOする前の未上場株も、ここで活発に売買され話題になりましたね。

このSecondMarketは昨年、ビットコインを集めて作ったインベストメント・トラストのシェアを売買できるというビークルを市場に持ち込み、そのままだとちょっと闇市の香り漂うビットコインの取引を、機関投資家でも参加できる取引の形にして、それでも話題になった。

(引用) 
I recently spoke with Barry Silbert of SecondMarket, which famously introduced a Bitcoin Trust last year allowing institutional investors to get their hands on Bitcoin through Wall Street channels rather than through street or online buys. When the fund launched in September, it had nearly 18,000 Bitcoin. Now it has 70,000. I asked him how the firm went about acquiring its bitcoin.

“We purchase it from around the world,” said Silbert. “Directly from merchants, miners and early adopters. We needed to be able to buy Bitcoin without moving the market and we have to make sure we’re not buying from any illicit sellers.”




トラストに蓄積されたビットコインは昨年9月のローンチ時は1万8千枚だったが、わずか3ヶ月かそこらで4倍近くの7万枚に増えている。前述したとおり、流動性が低くボラが高くフローでのみ価値が上下するビットコインを市場にインパクト与えずに買い集めるためには、アーリーアダプターやそれを決済手段として受け入れるマーチャント(ネットショップなど)から直接買い付け、増やしていった、という。

「夢の仮想通貨」も、ウォール街の相場関係者にしてみたら、ボラが高くて触りがいのある話題の金融資産、ということですかね。

(次回につづく)

Thursday, January 9, 2014

シリコン・シティ

わあああ、あっという間に2014年になってしまいました!!

なんと、2013年はついに、ひとつも記事をポストしなかった、という怠けぶり。


2014年は、少しこころを入れ替えてブログ書く時間もみつけようと、いま、決心しました。それで、ブログデザインのテンプレートも変えてみました。 

さて、2012年の夏に長年住んだマンハッタンのアパートを売却し、同年秋に、NY市のすぐ北に位置するウェストチェスター郡に一軒家を購入し引越してきたわけですが、勝手の違う郊外での生活に慣れるまで、実際、まる1年かかりました。

いまでも自分はニューヨーカーと思っていますが、遊びや仕事でシティに出かけると、街いっぱいに溢れる過剰なエネルギーと騒々しさに疲れてきて、静かな郊外の自宅にはやく戻りたいと感じるようになってきています。

以前はビルを出ると目の前にスーパーもレストランもドラッグストアもなんでもある生活をしていたのに、いまはどこに行くにも車です。でもそれにも完全に慣れ、いまや「車のない生活」など想像することすらできません。

犬達はもちろん広々とした庭付き郊外の生活はストレスもなく超ハッピー。シティを出てから、ただの一度も下痢したり吐いたりしません。(マンハッタン時代は、毎月のように、どこか具合悪くなって医者に連れていったりしてたのでした。)

ということで、新生活に慣れるのにかまけているうち、ブログを全く更新しなかったわけですが、いまこうしてこころを入れ替えましたので(笑)、引き続きよろしくお願いいたします。


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先週は、郊外のご近所さん主催の新年パーティにお呼ばれして出かけ、そこでマンハッタンにオフィス構える大手金融機関で現在セルサイドで証券アナリストとして勤めてる方と知り合い、かつて自分も同業だったことから、初対面なのに話が弾んだ。

彼曰く、ニューヨークシティはたしかに景気盛り上がって調子よくなってきてるけど、ウォール街の大手ハウスにはかつての活気は戻っていないし、トレーディングフロアでも、株価こそ好調なれど基本的に取引ボリュームそのものが足りてないんで、They are not so happy campers. とも言ってました。

米国で業務展開する欧州系の金融機関も、金融危機の負の遺産処理継続と新自己資本規制の重みから、どこも台所事情はかなり苦しいらしい。米国の金融機関は、「まあ、最悪期去って、金利もじゅんぐり上がるだろうし、ボチボチなんとかなるでしょう」というざっくりしたイメージでわたしらは同意しあったけど、ヒャッホーーー!と盛り上がる局面じゃないよねぇ・・・と。

われらアナリスト業界も、危機時にコスト削減し過ぎて中堅・シニアのクビを切りまくったのが祟り、経験も知識も浅い(つまり雇う側からすると安いw)アナリストが割合として増え、また、アナリストひとりあたりの受け持ちがやたら多くて馬車馬のように働かされてる割りには分析は表層的になっているし、仕事は増えても給料増えず、といった暗い話も聞きましたよ。orz



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ということで、米金融業界の内情を聞いてみると、各社CEO達が決算発表のたびにバラ色ストーリーを振りまいてるほどにはバラ色でもない様子なのだが、ニューヨークシティ全体でみると、シティの経済状況は西のサンフランシスコなどとならび極めて良好で、米国の他の地域から頭ひとつ抜きん出て回復が顕著になっている。

NY市の不動産価格もけっこう好調である。マンハッタンのみならず、川を越えたブルックリンやクイーンズでも、エリアによってレンタル・セールスともに絶好調。New York Daily Newsに、今日付けで、こんな記事。
 

Brooklyn real estate keeps soaring as both sales and rental markets end 2013 on a high note 


1990年代から2000年代中盤までは、ニューヨークシティの経済のけん引役といえば金融セクターだったわけだが、 それがここ数年で相当様変わりしている。その様変わりについて、1月6日のNew York Timesに関連記事があったので、以下に紹介する。

2013年、ニューヨーク経済のけん引役はテクノロジー業界が完全に取って替わったのである。

New York, the Silicon City


以下、拙訳。

『先週、ビル・デブラジオが新市長となりニューヨークシティの地域経済の舵取りを任されることとなったが、金融危機崩壊後、ニューヨーク経済は米国の他地域を大きく引き離し景気拡大が進んでいる。それもマンハッタンの一角でと言う話ではなく、シティ全体で回復が見てとれる。テクノロジー・情報セクターの拡大により、今日のニューヨークは、2007年~2008年にかけての金融セクター主導のブーム時よりもさらに多くのプライベートセクター雇用数を誇っている。

 ここ10年余りをかけて、ニューヨークは、サンフランシスコ、ボストン、シアトルに対抗するテクノロジー・シティに成長した。そして、それは金融・法曹セクターとそれらに便乗するホテル業のようなサービス・接客業への依存からの脱却によって成し遂げられた。デブラジオ新市長に与えられた課題は、このトレンドを引き継ぎすべてのニューヨーカーがそこから利益を得られるようにすることだ。

デブラジオ氏の前任者であるマイケル・ブルームバーグには、ニューヨークが「デジタル・シティ」として勃興するのを可能にした人物として自らを誇るに足る理由がある。彼の指揮下で、テクノロジー・情報セクターは、金融セクターに次ぐ市の第二の最強経済エンジンとしての地位を固めた。「インターネット・パブリッシングおよびウェブサーチ・ポータル」産業に従事する人口は、2007年には6%をやや越える程度だったが、現在では市の10%を占めている。

驚くべきことに、このテク・ブームの恩恵に授かっているグループの中心はマイノリティだ。2010年以来、同市でコンピューターおよび数学関連の職種(国勢調査ではテクノロジー関連業務と呼ばれる仕事)に着く黒人の数は、ここ数年で19.7%増加している。(最新国勢調査データからの予備分析ベース。)

同様に、ヒスパニックの数も25.4%の伸びである。 これと対照的に、同種の職業におけるヒスパニックではない白人人口では2010年以来わずか6.4%の増加にとどまっている。

ニューヨークのテクノロジー関連産業で働くマイノリティの数が急激に増加している背景には、テクノロジー分野で学位を取得するマイノリティ学生が近年大幅に増えていることが理由のひとつにあげられるであろう。例えば、全米教育統計センターによれば、コンピューター・情報科学で学士号を取得したヒスパニックの学生は過去3年で40%増加している。これらの人材サプライがニューヨークの雇用市場に吸い上げられた背景には、同市のテクノロジー・情報産業の雇用市場が逼迫しており、企業側が従来のソースを越えて人材確保に走った事情があげられる。

テク・ブームの恩恵は同市の5つの地区*すべてに行き渡っている。2008年中盤から2013年中盤までの期間中、プライベート・セクターの雇用数の伸びは、マンハッタン区でわずか3%だったのに対し、他の4区では9%だった。これは、金融ブーム下でマンハッタン区の雇用数が他の地区をはるかに凌ぐペースで伸びたのとは逆である。(注*:NY市はマンハッタン、ブルックリン、クイーンズ、ブロンクス、スタテンアイランドの5つのborough=地区から構成されている。

さらに、グーグル社やマイクロソフト社のような企業がNY市からはまだ産まれていないという懸念をよそに、デジタル・シティとしてのニューヨークは成長を続けている。 コンファレンス・ボードのデータを用いたプログレッシブ・ポリシー・インスティチュートの分析では、2013年の最初の11ヶ月間で、コンピューター・数学関連業務の求人広告数は全米で前年比4.0%増だったのに対し、ニューヨーク市では6.8%増を示した。

その代わり、40万人を雇用する娯楽・サービス産業がNY市の弱みだ。総雇用者数は伸びてはいるが、実質給与が下がっている。これはおそらくホテルやレストランの需要を生み出す金融・法曹セクターが引き続き弱いことに起因しているのだろう。この実質賃金の減少は、他の分野で伸びているNY市の地域経済の足を引っ張っている。

これから新市長は何を学ぶことができるだろうか。ニューヨークの経済拡大は、テクノロジー・情報セクター の成長を目指してブルームバーグ政権が積極的に施した刺激策が功を奏した点には疑問の余地はない。これらの施策には、テク・インキュベーターのための資金提供、小規模テク企業支援を目的とした「Made in NY」のマーケティング・キャンペーン、市全体を網羅するブロードバンド・アクセスの急激な拡大、広範囲に渡り市が着手したオープン・データ戦略(公共およびソフトウェア・デベロッパーに対し市のデータを使用可能にする)、コーネル大とイスラエル工科大学テクニオンを選抜しルーズベルト島に広大な新キャンパスを建設、などが含まれる。

デブラジオ氏は新市長就任式のスピーチで立派な公約、特に収入ギャップの縮小をめざすと述べたが、その目標達成のためにも、新市長は上記政策を継続すべきである。テクノロジー・情報産業ブームをこの先も促進し続けねばならない。なぜなら同産業はNY市の隅々まで新規雇用を創出し、金融と不動産に過剰に依存していたかつての状態を是正するのに役立っているからだ。そしてこの状態が続くことで、将来NY市の経済、ひいては税収が、より安定的なものになると考えられるからだ。

就任スピーチでデブラジオ氏はニューヨークのすべての子ども達がよりよい教育を受ける必要があると力説したが、それは正しい。そしてそれについても、テクノロジーを中心に据えた市のアジェンダ継続の一部として実行すべきだろう。学校を改良しテクノロジー分野で優位に立ち続けるために、新市長は市の学校教育でテクノロジーおよび関連分野の強化を図らねばならない。

不均衡の是正と市の繁栄拡大を実現させる主策とは、ニューヨーカーが未来の職に向けて準備を進めるためのより良い教育とトレーニングに他ならない。その実行に成功すれば、デブラジオ氏は偉大な市長としてのレガシーを遺すことができるだろう。』

(投稿者のマイケル・マンデル氏はProgressive Policy Instituteの経済ストラテジストで、South Mountain Economicsという経済分析会社社長。)

(おわり)