Tuesday, June 1, 2010

【備忘録6】中国の不動産市場

中国の不動産市場がバブっているという話が巷で語られるようになって、久しい。

中国当局は過熱気味の不動産マーケットを冷まさせるために、あれこれ施策を施してきてはいるものの、今年の2月末から再び住宅価格は上昇に転じ、過熱感はなかなか去ってはくれないようだ。

(チャートは中国70市町村の住宅価格インデックス、過去1年の動き。Source: Bloomberg




市場のほうでは今年あたまから警戒感が膨らんでおり、アジアのクレジット市場では、中国不動産デベロッパー会社が発行する社債のスプレッドがワイドニングしており、これらの会社群は今年に入ってからのアジアのドル建て社債市場で最悪のパフォーマンスだという話。

31日のブルームバーグで興味深い記事を読みついーとしたが、中国の不動産は今後ますます市場の注目を集めそうな気がするので、ブログのほうにも「備忘録」として貼り付けておく。

China Property Bubble Bursts in Bond Market as Kaisa Drops: Credit Markets
(Bloomberg, 5/31/10)

記事によると、

  • 日本を除くアジア社債市場で、2010年にドル建て発行された社債の45%が中国の不動産デベロッパー会社9社によるもの。
  • 中でも、珠江エリアに本拠地を置く Kaisa Group Holdings が発行した5年債$350milは発行時のイールド13.5%が16.52%まで上昇、債券価値にして15.5%の下落。他の不動産関連社債も同様に信用スプレッドがワイドニング傾向。
  • GSやクレディ・スイスの中国不動産株アナリストらも、当局による抑制政策を理由に収益見通しを大幅下方修正。
  • スプレッドがワイドニング傾向にあるため、新規のドル建て社債発行にはプレミアムが要求されており、同じ不動産デベロッパーでも、他のアジア国では平均9.2%、米国の平均6.2%のクーポンに対し、中国の会社の場合、平均10.875%のクーポン(14%になった会社あり)。
  • 2年前の流動性危機のときのような状況には市場は現在いないし、ミクロでみたときの各会社のキャッシュ・ポジションも改善しているため、流動性の手当てができずにデフォルトする見通しは実際には低い。
  • しかし、それでも、当局の今後の動きに不透明さが残り、それがリスク要因となっていて、機関投資家は警戒感を解いていない。
  • 一部のハイイールド銘柄には、市場は50%近いデフォルト確率を織り込んでプライシングしている。中国不動産関連社債のパフォーマンスが近い将来上向く可能性は低いとの市場関係者の見方。

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一方、金融当局の今後の動きだが、31日付けのFinancial Timesネット版に、「中国の不動産リスクは米国より深刻」と題する、当局関係者とのインタビュー記事が出ていた。

China property risk is worse than in US
(Financial Times, 5/31/10)

中国中央銀行金融政策委員Li Daokui氏のインタビューだが、非常に流暢で聞きやすい「模範的な英語」なので、ビデオもおススメです。インタビュービデオ(英語、5分程度)

インタビューの冒頭で、中国は過熱している住宅市場とスペキュレーターをコントロールできるかという問いに対し、彼は「コントロールは十分可能だ(It's very very likely)。」と最初に述べた上で、こう続けた。

It's very very likely, ok, in fact, it's necessary, it's inevitable that Chinese government has to further push for adjustments in the housing market. Why? Because the housing market problem in China is actually much much more fundamental, much much bigger than the housing market problem in the US and in the UK before, before your financial crisis.

コントロールすることは十分可能だ。実際、そうする必要があるし、中国政府が住宅市場の調整策を今以上に持ち込むことは避けては通れない。何故かというと、中国の住宅市場の問題は、あなた達米国や英国が金融危機に至る前の段階での問題と比べると、はるかに根は深く、はるかに大きな問題だからだ。

Li氏は、以下のような話を続けた。

  • 欧米と異なり、中国では住宅価格が上がったからといって国民がハッピーになるわけではない。中国の問題はバブルだけではない、もっと経済基盤そのものに関わる問題なのだ。
  • 中国国民は持ち家をまだ十分に持っていない。中国の住宅価格がこれ以上暴騰すると、社会問題と化して、とりわけ若い層には経済的負担になり、都市化による経済成長に影を落とす。
  • 住宅市場をコントロールするため中国政府がとる施策として、まず最初のステージは、スペキュレーターによる「需要」を押さえつけること。そして、第2のステージは、低中所得層向けの住宅の「供給」を後押しすること。
  • 現在、地方やローカル政府が低所得者向け住宅供給を行うための資金を調達しようとすれば、土地のオークションを通じて資金を作らねばならない。この方式では土地スペキュレーションを助長するだけ。そうではなくて、低所得者向けに開発する住宅を担保に地方ごとに公債を発行できるようにしてやる必要がある。
  • 不動産課税の導入については、相当慎重にやらねばならない。導入する初期段階は、非常に低い税率で始めなければならない。
  • 現在CPIは2.8%、対して、銀行預金の1年金利は2.25%。市場に安定をもたらすためには、預金金利を上方に調整する必要あり。
  • 個人消費はまだ伸びる。

(以下FTから)
He added that there were still signs that the economy was overheating and recommended modest increases in interest rates and the level of the currency.

氏は経済はいまだ過熱した状態で、金利と為替の水準をゆるやかに上昇させたほうがよいと考える、とも付け加えた。

彼は、銀行融資という形で不動産投資に資金が流れ込むのは止めるべきと考えている様子。

別の機会に、銀行側からみた不動産投資関連のデータも、少々あさってみたいMHJ筆者である。

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最後に、ぜんぜん関係ない話だが、このLi氏といい、今年のダボス会議で中国中央銀行副理事として出席し世界中の注目を集めたZhu Min氏(後日IMFのスペシャルアドバイザーに就任)といい、中国当局のエリート達の【英語の達者さ】には、心底感服する。

彼らがどういう教育を受け、どんなバックグラウンドなのかは存じ上げないが、要人が集まる国際会議の場で他国代表と互角にやりあうには、あれくらいの英語力は必要ではないかと筆者は思う。

参考: 英主要メディアをして「a man worth listening to」と言わしめた、Zhu Min氏のダボス会議での発言ビデオは、こちら

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