Thursday, January 22, 2009

ガイトナーの殺し文句は「モタモタしてたら日本みたいになるぞ」

20日正午、ついにオバマ新政権が誕生した。

この日は、宣誓式の後に昼食会、3時半から議事堂キャピトルからホワイトハウスまでパレード、と休みなくイベントが続き、世界中がテレビ画面の前に釘付けになっていたことと思う。

オバマ新大統領が妻と笑顔でホワイトハウスに向って行進しているまっ最中、ニューヨーク株式市場では、金融株を中心にズブズブと値を下げ、新政権誕生当日の終値は8000ドルを切ってしまった。

前回19日付のここのブログ記事(『救済かモラルか』)で、英国のRBSが国有化への杞憂から一日で70%も激しく値を下げた、という話を書いたが、その翌日20日には、米国市場も、それとまったく同様の不安に襲われ、Citi、Bank of America、Bank of New York、 JPMorganなどの大手金融株が売り込まれ、ダウ全体を沈没させた。

就任式翌日21日には、新政権がなんとかしてくれるという「期待」から値を戻していたけれど、現在の金融市場の修羅場をどう潜り抜けてゆくのかという道筋が皆目見えていない中では、下げた、上げたと一喜一憂しても疲れるだけ。

オバマ新政権は、この前例のないスケールの危機の真っ最中に幕開けとなったわけだが、先頭指揮官として米国経済の旗振り役になる財務長官のポストが、22日の早朝現在で、まだ正式に決まっていない。

去年の暮れ、オバマが、ニューヨーク連銀のトップ、若きティム・ガイトナー(Timothy Geithner、47歳)を自政権の財務長官としてノミネートしたとき、ウォール街は「これ以上の適任者はいない」と絶賛し、金融株は上昇した。

ところが、その後、ガイトナーが数年前の個人所得税3万7千ドル分を脱税した、という個人的汚点でケチがつき、脱税するようなヤツに財務長官がつとまるかということで、誰より早急に仕事に取り掛かってくれないと困る閣僚メンバーだというのに、議会の最終承認が遅れているのである。

昨日21日は、このガイトナーが議会公聴会に呼ばれ、オバマ新政権が金融システム安定に向けてどのような策を練るか、どれほど早急に対処するつもりか、などについて証言し、早ければ数週間のうちに新政権は包括的な危機対処プランを出す用意ができている、と述べた。

その中で、ガイトナーは、日本の90年代後半の金融危機に触れ、〝the importance of doing a lot soon and staying with it” という言葉で、日本政府が危機を前に早急に手を打たなかったために事態はさらに悪化したことをヒアリング委員会の前で強調した。

『モタモタしてたら、日本のようになってしまうよ、いいんかい?

ヒアリングの席で眼前にならぶ政治家陣をビビラせるのには、どんな屁理屈こねるより、「日本みたいになってもいいのか」というセリフを投げつけるほうが、たしかに、何よりも効果あるな。(苦笑)

ちなみに、このガイトナーという人物だが、彼は、いまから18年前、金融関係担当の若いスタッフとして、東京の米国大使館に籍を置いていた。

18年前というと、ちょうどバブルが破裂する前後のことで、当時まだ29歳だったガイトナーは、「皇居の庭でカナダ全土が買える」とまで言われた日本のバブル経済が轟音を立てて崩れてゆくのを、現地で目撃した米国人のひとりである。

実際のところ、他の候補者を見つけようとしても、現時点で、ガイトナー以上の適任者を見つけて来いと言うのが無理。

財務長官の前任者には、アカデミックで学者としての功績高いサマーズや、企業家出身のオニールやスノーもいるが、現在直面している問題の内容はあまりに複雑で専門的すぎて、一般企業の経営経験しかない金融素人は蚊帳の外の話だし、基本的理論は理解してても現場の取引に直接関わったことのない学者のセンセたちも、正直なところ、門外漢同然。

(だいたい、学者のセンセたちがスイスのバーゼルに集まって10年以上も時間かけた作り上げた「知の集大成」ともいえる国際自己資本規制の骨組みとクレジットリスク/マーケットリスクの計量ノウハウなんて、相場が崩れ出したら、ぜーんぜん役に立たなかったんだからさ。)

不良資産Toxic Assetsを、公的資金を駆使しながら、今後どう処理してゆけばよいのかという問題を扱うには、【ウォール街の内情】を知らない人間を財務長官に持ってきても始まらない、というのは、誰もがわかっている。

かといって、ウォール街の現場と内情をどんなに知り尽くしていたって、いざ公的資金を使おうとなると、それの使い方がわからない、というのはポールセンで実証された。公的資金はプライベートマネーとはワケ違いますからね。

クリントン政権で財務長官をつとめたルービンも元ゴールドマンサックスのエグゼクティブでウォール街インサイダーだが、彼はつい最近まで、崩壊しかけてるシティグループのボードメンバーだったんだから、方々から「戦犯」呼ばわりされても仕方ない。

結局、マクロ経済全般に明るく、ワシントンDCにも方々に人脈あって、ウォール街のインサイダーでもあり、パブリックサービスの経験あって公的資金の意味も知ってます、(しかも若い)、などという人材は、ニューヨーク連銀のガイトナーぐらいしかいない。

これを書いている現在22日米東部時間午前7時であるが、本日中にも、ガイトナーは議会承認を通過して、正式にオバマ政権の財務長官として任命されることが予想されている。

この修羅場を前にして、3万7千ドルの個人所得税うんたらにグズグズこだわってる場合じゃない、と議会も腹くくることでしょう。



さて、おもしろいチャートがあるので、紹介したい。
(情報元:chartoftheday.com )




1900年から現在までの株価データを各年ごとに検証し、縦軸には各年初の株価を100としたときの相対株価、横軸には1月から12月の時間軸にして、相対株価の平均値を取ったものだ。

これをみると、米国株の100余年は、年初100が109ぐらいまで上昇する、すなわち、年率平均9%のグロース(成長)を経験してきた、という意味だ。(チャート青の線)

しかし、この100余年のうち、【大統領選のあった翌年】だけを取り出して、平均値を取ると、年を通じて米国株は通常時をアンダーパフォームし、年率4%グロースに留まる、というのである。(チャート緑の線)

大統領就任の年に株市場が何故アンダーパフォームするのかの説明として、この情報元によると、「政権が新しくなってすぐは慎重に構えるが、後半になってから任期終了前に景気刺激策を出すのにやっきになるから」という分析があるそうだが、実際のところ、どうなのであろうか。

ガイスナーは「モタモタしてたら日本みたいになるぞ」と脅していたが、さて、オバマ政権下の2009年は、従来よりもスピーディな出だしといくだろうか。

いずれにせよ、今年の相場も過去100年のデータが示したパターンをなぞると仮定すれば、オバマ政権誕生の今年は、米国株は通常よりも動きが鈍くなりそうだ。3月ごろから株価が持ち直して5月ごろでピークアウトし、その後は冴えない展開となりそう?

結果は出てのお楽しみ。


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